タイトル:【11月】妖しの歌マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/04 03:08

●オープニング本文


その歌声は響く。

人々を惑わす魔性の歌声が‥‥。

※※※

山の方から女の歌う声が聞こえると最初に言ったのは誰だったか。

誰かが迷っているのかもしれない、そう言って山へ出かけたのは私のお父さんだった。

それから父は三日間山から戻って来ず、四日目の朝、山の麓に食い散らかされたような無残な姿でボロ雑巾のように捨てられていた。

「‥‥私に払えるお金はこれだけ‥‥これでお父さんの仇を取ってきてください」

少女がそう言って渡してきたのは、お世辞にも大金とは言いがたい金額だった。

命を懸けて戦う能力者達にとっては「こんなはした金」と罵る輩もいるだろう。

だけど、そのお金は恐らく彼女の持つ全財産だ。見たところまだ小学高学年。普通の家庭に生まれていれば大金を持っている方が不思議である。

「明日は私の誕生日なのに‥‥プレゼント用意してお祝いしてくれるって言ってたのに‥‥」

ぼろぼろと涙を流しながら少女はその場に座りこんで泣き出してしまう。

「どうしたものかね」

少女に縋られた能力者達は頭を掻いて任務を受けるかどうか悩んだのだった。


●参加者一覧

香倶夜(ga5126
18歳・♀・EL
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
ジェーン・ドゥ(gb8754
24歳・♀・SN
陽山 神樹(gb8858
22歳・♂・PN
夜刀(gb9204
17歳・♂・AA
ウツロ(gb9633
16歳・♀・FT
アリシア(gb9893
17歳・♀・SF

●リプレイ本文

―― 少女の望み、僅かなお金に込められた願い ――

「あの年齢で家族を失うのはつらいでしょうね‥‥」
 セレスタ・レネンティア(gb1731)が依頼人の少女を見ながら小さく呟く。依頼人の少女は能力者が出発するという事で本部まで来ていた。
(「目が赤い、ずっと泣いているんだろうな‥‥」)
 香倶夜(ga5126)は少女の泣きはらした目を見ながら心の中で呟く。
「あの‥‥お願いします‥‥」
 少女は憔悴したような表情で能力者達に頭を下げる。少女の兎のように真っ赤になった瞳に、寝ていないのかげっそりとした表情を見て、能力者達は居た堪れなくなる。
「大丈夫だからな、俺達がキメラを退治してくるから」
 陽山 神樹(gb8858)が少女の頭を軽く撫でながら話しかけると「本当に‥‥お父さんの仇を取ってくれる?」と少女は瞳に涙を浮かべながら問いかけてくる。
「あなたは私達に仕事を依頼した。私はあなたから報酬を貰う‥‥だから、必ず依頼を果たす。これが約束よ」
 ジェーン・ドゥ(gb8754)が長い髪の毛をさらりとかき上げながら少女に言葉を返した。
「此処に残るあなたは心配かもしれないけど、叶えるものだから約束って言うのよ。私達は、それを確実にするため、報酬を媒介にして、その望みを叶えるの」
 じゃなければ、傭兵はタダの命を奪うだけの存在に成り下がるわ――最後にジェーンは独り言のようにポツリと呟きながら言葉を付け足すが、それが他の者の耳に入る程の大きさの声ではなかった。
「こレ‥‥」
「え?」
 クラリア・レスタント(gb4258)はいつも持ち歩いているメモ帳で作った鶴を渡しつつ「まっテて、すぐ、もどる」と言葉を付け足した。
「‥‥‥‥はい」
 鶴を大事そうに持ちながら首を縦に振る少女を見て、夜刀(gb9204)は複雑な表情を見せていた。
(「やっぱ、こういう事件てのは収まんないのかな‥‥戦争から見れば小さな、損害ですらない犠牲かもしれないけど‥‥」)
 確かに戦争の犠牲者、しかも一般人の男性が一人殺されただけ、ただそれだけだと言われれば返す言葉はないけれど、夜刀は『それでも親を亡くした子供を救うのに何も理由はいらない』と考えていた。
(「昔、俺がしてもらったように――今度はあの子を助けたたい」)
 何処か自分と重なる部分があり、夜刀は少女を助けたいと人一倍思っていた。
(「私は別に戦えればいいけど」)
 ウツロ(gb9633)は自らの武器である『アサルトライフル』を弄りながら少女をちらりと見る。少女を見て特に何かを思うわけではない。
 感情の起伏に乏しい彼女は、戦闘狂という一面を持っているが、無口な為それを口にすることはなかった。
「ねぇ、アリシア(gb9893)たちに〜、ば〜〜〜〜んと〜任せて〜。悪いキメラなんか〜やっつけちゃうんだから〜」
 アリシアが自分の胸を叩きながら少女に話しかける。そして少女が少しでも安心できるようににっこりと笑いかける。
「それじゃ、早速出発しようか‥‥待っててね」
 香倶夜は少女に軽く手を振り、能力者たちと共に高速艇へと乗り込み、少女の父親を殺したキメラが待つ場所へと出発していった。


―― 山が歌うは悲しみ ――

「静か、ですね」
 セレスタがポツリと呟く。あれから高速艇で目的の山へとやってきた能力者達は山を見上げていた。
「本当だ‥‥何か不自然なくらいに静かだね、鳥の声とかもしないし‥‥」
 香倶夜がきょろきょろと見渡しながら呟く。確かに山なのに鳥も飛んでおらず、シンとして不気味なほど静寂に包まれていた。
「とりあえず向かおうか、木の上や岩を飛び移って行動した方がいいよね」
 夜刀が呟く。キメラの根に感知されないようにと考えた作戦であり、他の能力者達も首を縦に振る。
 能力者達は気づいていたのだろうか、山全体がキメラの領域であるという事に。山の頂上から妖しげな歌が聞こえる、そう資料には書いてあった。
 それなのに少女の父親の遺体は麓まで運ばれて、いや、麓に投げ捨てられていた。だから何処から襲い掛かってくるかも分からないという事でなるべくキメラに感知されないようにと能力者達は行動を行う事にした。
「とと、歩きにくいな‥‥」
 陽山は岩の上を飛び移って歩いていたが、流石に足場が悪くバランスを崩しかけてしまう。
 今回の能力者達は班を分けて別々の場所を捜索するという事はしなかったけれど、すぐに戦闘に入れるように前衛、中衛、後衛で既に分かれていた。

 前衛・クラリア、夜刀、陽山。
 中衛・香倶夜、ウツロ、セレスタ。
 後衛・ジェーン、アリシア。

「そういえば、あたしは今回の報酬は辞退しようと思ってるんだけど‥‥あんな小さな子がお小遣いをかき集めて頼んできた依頼だもの。傭兵として間違った態度だと分かってるけど、今回は受け取れないよ」
 香倶夜は俯きながら小さな声で呟く。
「そうですね、私も思っていました」
 セレスタの言葉に「え?」と香倶夜が呟き、ウツロは視線だけをセレスタに向ける。
「作戦は慈善事業ではないのですが、あの子の今後を考えたら報酬は受け取れません」
「私は、そういうの考えてないけど‥‥」
 セレスタの言葉の後、ウツロが呟く。
「あ、勿論強制じゃないし、私達がそうしたいってだけだから」
 香倶夜の言葉に「ん」とウツロは呟き、再び歩く足を進める。

「何か、後ろも報酬の事を言ってたみたいだね」
 夜刀がちらりと後ろから来る中衛の能力者達を見て呟く。
「でも――俺も受け取れない、いや‥‥受け取らないかな」
 夜刀が呟くと「私‥‥も‥‥」とクラリアが言葉を返す。陽山はバランスを崩さずに歩く事に懸命なようで報酬に関して何も言う事はしなかった。
「俺はさ、バグア軍に親を殺されて傭兵になったんだよね、新しい家族は皆優しかったけど、復讐の意思は拭えなかった‥‥傭兵って、結構そういう奴が多いんじゃないかな?」
 夜刀の言葉にクラリア、陽山も言葉を噤む。クラリアに関しては目の前で両親を食い殺された過去があるので、夜刀の気持ちが分からないでもなかった。
「ぅ‥‥気持ち悪い‥‥」
 ポツリとクラリアが呟き「え? 大丈夫?」と陽山が足を止めてクラリアに話しかける。
「いえ、大丈夫‥‥です」
 自分を落ち着かせるように深呼吸を繰り返しながらクラリアは言葉を返す。
(「――違う、違う、これは血じゃなくて‥‥変調‥‥大丈夫」)
 クラリアは先に覚醒を行ったのだが、彼女の覚醒による変化は瞳が紅に染まること。彼女から見える視界も全てが紅に染まるのだ。まだ今の変調に慣れていない彼女は足を止めてしまったのだろう。
「それじゃ、急ごうか。俺たちが遅くなって他の能力者達の足を止める事になっちゃいけないし」
 夜刀は呟き、彼を含む3人の前衛班は再び足早に動き始める。

「う〜ん、何かないかな〜?」
 アリシアは足元を見ながら何か痕跡になるようなものがないかを探して歩いていた。
「何か見つかった?」
 ジェーンがアリシアに話しかけると「ううん、ぜんぜ〜ん‥‥」としょんぼりしながら言葉を返す。
「特にコレと言っておかしいものはないんだよね〜」
 はぁ、とアリシアが呟くと「‥‥そうでもないんじゃない?」とジェーンが言葉を返す。
「え? それってどういう意味?」
 ジェーンが足を止め、地面を指差しながら呟いた。アリシアがつられるように指されたほうを見ると、穴がいくつも開いているだけで他には何も変わった所はなかった。
「あな?」
「多分、キメラによる攻撃か何かじゃないかしら。麓から結構こういう穴って見かけたのよね。同じような大きさの穴がいくつも‥‥不自然に、ね」
 ジェーンの言葉に「本当だ、穴は向こうにも、あっちにも、あ、あそこにもある〜」と少し驚いたように穴を見つけては声に出していた。
「まぁ、どのみちもうすぐ山頂だし行きましょう。キメラを倒せば今回のお仕事は終わり、それだけだしね」


―― 魔性の歌・心惑わす妖しの声 ――

 山頂が近づいた時「あれ?」とアリシアが耳を澄ませながら呟いた。
「どうかした?」
 ジェーンが問いかけると「歌が聞こえる‥‥これがキメラの声?」とアリシアは呟く。アリシアの耳に届いているということは他の能力者にも聞こえているということ。
(「なんだろう‥‥何か、凄く不安な気持ちになる‥‥」)
 香倶夜は胸の辺りで拳を作りながら湧き上がる不安感に少しだけ怖くなった。
「恐らく、キメラによる何らかの作用でしょう。戦闘に支障があるとは思いたくないですが‥‥近づくにつれて、という感じですね」
 セレスタが呟く。
(「何コレ‥‥胸の奥がムカムカする‥‥これじゃ森の声が聞こえない」)
 クラリアが深く深呼吸をしながら心の中で呟いた。他の能力者達の表情を見ると、個人差はあるけれど多少なりとも不快感を覚えている者ばかりだった。
 能力者達は不快感に耐えながらも山頂を目指す、そしてセレスタが気配を感じて近くの木に登って確認した所、能力者達の前に現れたキメラは‥‥大きな木に同化した女性型キメラだった。
「歌声はこのキメラから‥‥?」
 アリシアは痛む頭を押さえながら小さく呟く。
 その時、ウツロが仲間の足元に向けて射撃する。
「わっ! な、何だ!」
 陽山が呟いた瞬間、今まで彼が立っていた所から木の根が突き出してくる。
「あぶね‥‥」
「ん、射線上に入らないでね。誤射しても知らない」
 ウツロは呟き、再び武器を構える。
「あのキメラが‥‥あの子から父親を奪ったんだね‥‥」
 香倶夜は呟きながら『アサルトライフル』を構え、キメラをしっかりと狙う。
「あんたの存在はそれだけで罪悪! おとなしくくたばれ!」
 スキルを使用しながら香倶夜は激昂したように射撃する。クラリアも『オルカ』を構えて本体へと向かうが、地面から湧き上がる触手のような枝に阻まれる。
「邪魔ァァ!!」
 枝を切り落としながら足を進めスキルを使用してキメラへと接近し、再びスキルを使用して攻撃を仕掛ける。
「耳栓すらも越える歌声か、ご近所迷惑なんじゃない?」
 ジェーンは『スナイパーライフル』を構えて射撃を開始する。
「しつこい女は――嫌われるんだ、ぜっ!」
 襲い来る枝を斬り落としながら陽山が叫び、本体に攻撃を仕掛ける。どうやら木の部分と女性部分は神経も繋がっているようで木を切りつければ女性が狂ったように叫んだ。
「斬られれば狂うほどに痛い、でも――あの子は失ったんだよ。大切な父親を」
 夜刀はスキルを使用しながら攻撃をしかけ、侮蔑の目でキメラを見る。
「みんな〜、がんばって〜〜」
 アリシアがスキルを使用しながら能力者達の武器を強化する。
 そして前衛のクラリア、夜刀、陽山が駆け出して本体へと向かう。その間にも地面から枝が伸びてきて3人を襲おうとするが、ウツロ、セレスタが射撃によりそれらを撃破する。
「燃えろォォッ!」
 香倶夜が『スブロフ』とボロ布で作った即席火炎瓶をキメラへと投げつける。周りに木があったならば燃え移る可能性があったけれど、周りに木の気配はない。
 能力者が来る前にキメラ自身がなぎ倒したのだろう。
「歌っていても悲鳴をあげていても、耳障り‥‥」
 ウツロは呟きながら攻撃を仕掛け、キメラに大きな隙が出来た時、セレスタが『貫通弾』を使用して、大きな一撃をキメラに与える。
「この山に、お前、要らない! 消えろ!」
 クラリアが叫びながら攻撃を仕掛け、陽山、夜刀も追撃するように攻撃を仕掛ける。
「あばよ‥‥地獄で好きなだけ歌ってな!」
 夜刀が叫び、香倶夜も射撃を行い、少女の父親を亡き者にしたキメラを撃破したのだった。


―― 仇は消えども、憎しみや悲しみは薄れず ――

 キメラを退治した能力者達は本部で待つ少女に伝えるために急いで帰還してきた。
「そういえば、あの子‥‥父親の前に母親も亡くしているみたいですね、資料の備考欄に書いてありました」
 本部へ向かう途中、セレスタがポツリと呟く。母親を亡くし、父親までも失った彼女はどうするのだろう――夜刀は本部へ向かいながら心の中で呟いていた。
「あの、ありがとうございました‥‥」
 仇を討った、そう伝えても少女の表情は憂いたまま。それもそうだろう、キメラを退治したからと言って父親が帰ってくるわけでもないのだから。
「あ、報酬はオペレーターさんから‥‥「報酬はいらないよ」‥‥え?」
 少女の言葉を遮り、香倶夜が呟く。
「最初から報酬を貰うつもりはなかったよ、他にも何人か報酬はいらないって言ってる人がいる。そのお金でお父さんの好きなものでも買ってあげて?」
 香倶夜の言葉の後に「そうしてあげるのが良いと思いますよ」とセレスタも言葉を付け足す。
『私はあなたのお願いを聞いただけ』
 クラリアはメモ帳に自分の言葉をつづり、少女に見せる。その後、報酬を貰う能力者達はオペレーターの元へと向かい、再び少女の所へと戻ってくる。
「あ〜ちょっと服装変かな〜? こうして‥‥こう、うん、これでおっけ〜」
 アリシアは曲がっていた少女のリボンを治してやりながら、その隙にそっと報酬をポケットの中へと入れて返す。
「それじゃ、元気で〜、また来るね〜」
 ひらひらと手を振ってアリシアは本部から去っていった。
「あ、そうだ。つまらないものだけど。あなたにぴったりだと思うから、あげるわ」
 ジェーンは帰ろうとした時、思い出したように呟きシルバーリングを少女に渡す。ムーンストーンが飾られているそのリングは何処か神秘的なものを感じさせた。
(「この子みたいな子供を一人でも少なくする為にもあたしはもっともっと頑張らないといけないね」)
 香倶夜は心の中で呟き「それじゃあね」と言葉を残して去っていく、一人、また一人と去っていき、最後に残ったのは夜刀と少女のみだった。
「行くアテはあるの?」
 夜刀が問いかけると「今日から施設に‥‥」と俯きながら少女は言葉を返した。あまり施設に行くのを快く感じていないのか少女の表情が晴れる事はない。
「此処を離れることになるけど‥‥良かったら、一緒に来ない?」
 夜刀は手を差し出し、自分が所属する旅団に少女を誘っていた。少女の姿が過去の自分と重なったのだろう、少女は戸惑いながら夜刀の顔と手を交互に見ている。
「俺もね、キミとは少し境遇が違うけど似たような感じだし、良かったらおいでよ」
 夜刀が優しく微笑み、少女は少しだけ笑ってその手を取っていた。


END