●リプレイ本文
●準備
今回はクイーンズ記者、土浦 真里(gz0004)が能力者達にハロウィンパーティーのお知らせを出した事から始まった。
マリの企みなど気がつかぬ能力者達は誘われるままにクイーンズ編集室へとやってきていた。
「おはようございます、準備の手伝いに来ましたよ」
最初にクイーンズ編集室を尋ねてきたのはマリの夫である玖堂 鷹秀(
ga5346)だった。
「あ、ありがとー♪ 一応料理はほとんど出来上がってるからテーブルに並べてくれる?」
騒ぐのが大好きなマリは朝早くに起きてパーティー料理の準備などをしていた。
「ごめんなさい〜、ドアを開けてもらえますか〜?」
玖堂が編集室に足を踏み入れた後、数分が経過した頃にドアの向こうから室生 舞(gz0140)が大きな荷物を抱えて帰って来た。
「あ、すみません」
舞はドアを開けてくれた玖堂に礼を言いながら荷物を玄関先に置く。大きな荷物の中には飲み物などがぎっしりと入っており、少女の細腕で持つには多少辛かった事だろう。
「おはようございますー、料理持って来たよー」
矢神小雪(
gb3650)が大きな荷物を抱えながら編集室へと入ってきた。彼女もマリ同様に早起きをして料理を作り、保存ボックスに入れて持ち込んでくれたのだ。
「ありがとー! 助かるよー、とりあえず疲れたでしょ? 舞が買ってきたジュースでも飲んでゆっくりしてて〜」
マリが調理室から顔だけを覗かせて矢神に話しかける。
「まだパーティーの時間には早いし、此処に置かせてもらうね‥‥ってうわっ!」
台所のボールに入れられている『それ』を見て矢神は驚いて後ずさる。彼女が驚くのも無理はない、人の手の形をした赤いゼリー、目玉のように作られた白玉団子、ぱっと見ただけで食欲が失せそうなものばかりが並んでいるからだ。
「ふっふっふー、ど〜お? 結構自信作なんだけどっ」
得意気に問いかけてくるマリに矢神と玖堂は苦笑するしかなかった。
「またしょうもないものを‥‥」
「確かにハロウィンって言ったらそういうモンなんだろうけどさ‥‥」
櫻杜・眞耶(
ga8467)と朔月(
gb1440)が呆れたような表情で編集室へと入ってきた。彼女達も料理の手伝いをする為に予定より早く来てくれていたのだ。
「しょうもないって言わないでくれるー?! 結構気合入れて作ったんだからー!」
両手を腰の所に当てながらマリが二人を見ながら言葉を返す。
「トリック・オア・トリート! マリさんお誘いありがとー!」
元気よく編集室に入ってきたのは黒い衣装に身を包んだ魔女‥‥ではなく椎野 のぞみ(
ga8736)だった。彼女は朔月が作ろうとしているミニどんぶりの手伝いをする為に早めにやってくると予め連絡があった。
「まだ皆は来てないんですね、それじゃあ早く作っちゃいましょうか」
魔女の衣装を脱ぎながら椎野が呟き、朔月や櫻杜と一緒に調理場へと入って準備へと取り掛かる。
「おはようございます、何かお手伝いする事があるかと思いまして‥‥」
そう言ってやってきたのは夜坂桜(
ga7674)だ。彼は現在編集室にいる記者や能力者達に丁寧に挨拶をしながら自分に出来る事を問いかけ、手伝い始めたのだった。
●ハロウィンパーティー開催
「間に合ったぁー!」
リビングのソファに飛び込みながらマリが疲れたような声で叫んだ。結局準備時間をフルに使って漸く準備を終わらせる事が出来た。
時間を見れば既に開始30分前、そろそろ能力者達も編集室へとやってくる事だろう、そんな事を考えていた矢先にインターホンが鳴り響く。
「マリさん、招待有り難うね。また楽しませてもらうわ」
小鳥遊神楽(
ga3319)が手に紙袋を下げながら編集室へとやってきた。
「その荷物は何? 預かろうか?」
マリが首を傾げながら問いかけると「仮装衣装だから自分で持っておくわ」と小鳥遊が言葉を返す。
「たまにはこういう格好もいいかと思ってね、折角のハロウィンなんだもの」
小鳥遊の言葉に「小鳥ちゃん、スタイルいいからきっと何着ても似合うよ」とマリは笑って言葉を返した。
「まだ皆が揃ってないから料理は食べちゃ駄目だけど、飲み物は用意してあるから好きに飲んじゃっていいよ♪ ただしお酒は皆で乾杯する時に飲むからジュース限定だけどね」
「分かったわ、それじゃ先にあがらせてもらうわね」
小鳥遊は言葉を残してリビングへと向かっていった。
「よう、邪魔させてもらうぜ」
続いてやってきたのはゲシュペンスト(
ga5579)だった。
「いらっしゃい、ペンちゃん♪」
「誰がペンちゃんかっ!」
カッコイイ名前がいきなり可愛らしく呼ばれてゲシュペンストが条件反射でつっこみを入れる。ちなみに少し前の旅行の時にも呼ばれていたがその時はつっこみを忘れていたらしい。
「え〜、だってゲシュペンストって名前でしょ? だからペンちゃん」
何故に『ペン』の部分を抜粋するのかゲシュペンストは意味が分からず、しかしこのまま言い争っていてもマリが呼び方を改める気もしないので、まだパーティーも始まっていないというのに彼は少し疲れた表情でリビングへと向かっていった。
「こ、こんにちは。今回はお誘いありがとうございます」
ベレー帽が特徴的なレア・デュラン(
ga6212)が編集部のインターホンを鳴らすと「おう、いらっしゃい」とクイーンズ記者の中で唯一男性の翔太が顔を覗かせた。
「こ、こんにちは。今回はお、お邪魔します」
何故か翔太を見ながら顔を赤くするレアに「何こんな可愛い子を泣かしてんの!」とマリから拳骨が翔太へとお見舞いされる。
「いてぇ! よく見てくれよ! 泣いてねぇじゃん! むしろ俺が泣くよ!」
しかし翔太の言葉などマリはスルーして「よしよし、怖いおっさんは向こうに追いやったからね。今日はゆっくり楽しんでいって」とレアに言葉を投げかけ、翔太にリビングへ案内するようにスリッパを投げながら怒鳴りつけたのだった。
「相変わらず騒がしいなぁ‥‥ま、招待感謝だな、マリ」
ぎゃあぎゃあと喚きたてるマリを見ながら苦笑して威龍(
ga3859)が編集室へと入ってくる。マリに話しかけている筈なのに、視線は誰かを探すように泳いでいる。勿論『誰か』などマリには分かりきっているのだけれど。
「静流はまだ降りてきてないわよ」
マリがにやりと笑いながら言葉を投げかけるが「な、べ、べつに俺は」と威龍は少し慌てたように言葉を返す。
「あれ? 違った? もうちょいしたら降りてくると思うから先に入ってて」
威龍の背中をぐいぐいと押しながらリビングへと押しやり「静流ー! あんたの彼氏が来たからさっさと降りてきなさい!」と編集室内に響き渡るような大きな声で叫んだ。
「へぇ、こういう場所なのね」
きょろきょろと周りを見渡しながらやってきたのは百地・悠季(
ga8270)だった。彼女は今までクイーンズの記事は見た事はあるらしいが、編集室に来たのは今日が初めてだったりする。
「‥‥くっ‥‥!」
ゴシック系の服を着てやってきた彼女を見たマリだが、何故か視線は胸。そして自分の胸と比べてがくりと崩れ落ちる。
「ちょ、ちょっと‥‥何であたし‥‥っていうか胸を見て崩れ落ちるのよ」
百地が少し慌てたようにマリに話しかけると「あ、その人はその辺に置いといていいです。妬み、嫉みの固まりな人ですから」と舞が何気に酷い言葉を並べながら百地をリビングへと案内したのだった。
余談だが、これから十数分ほどマリは崩れ落ちたままだったらしい。
「‥‥こんにちは‥‥って何かこの玄関だけ空気がよどんでますね」
レイン・シュトラウド(
ga9279)が玄関から顔だけを覗かせながら編集室の中を見る。すると誰が見ても分かるほどの空気の悪さとどんよりとしたマリを見て少しだけ吃驚した。
「あ、レインさん。いらっしゃいなのです‥‥中に入らないんですか?」
舞は自分の彼氏であるレインを見てぱぁっと表情を明るくさせ、蹲っているマリを蹴飛ばしてレインを出迎える。
「‥‥どうも、舞さん、真里さん‥‥」
「もしかして帰っちゃうですか?」
「いや‥‥そういうわけじゃ‥‥見ても、笑わないですか?」
レインの言葉に「笑わないですよ?」と舞がかくりと首を傾げながら答えると、レインはおずおずと姿を見せた。
「‥‥!」
現れたレインの姿を見て舞は目を丸くする。普段のような私服ではなく、ゴスロリメイド服で現れたからだ。
「いや、その‥‥最初は普通のドラキュラの仮装にしようと思っていたんですが、母と妹がそれじゃつまらないと言ってこんな格好に‥‥」
何も言わない舞に言い訳をしながらレインがしどろもどろで呟く。
「可愛いです、凄く可愛いですよ、レインさん!」
舞は握り拳を作りながら言葉を返すが、聞いているレインとしては何処か複雑な気持ちを隠せないでいた。彼氏という立場上、やはり『かっこいい』と思って欲しいからだろう。
「えーと、あとは〜「ハッピーハロウィン」」
マリが後は誰が来ていないかを考えている時にUNKNOWN(
ga4276)がキャンディが詰まった箱とシャンパンと子供でも飲める子供用シャンパン、そして自分用のアップルジャックを荷物にやってきた。
「いらっしゃーいっ、皆もう集まってるから好きに入って座っちゃって♪」
マリがUNKNOWNをリビングへと案内し、今回参加をしてくれた能力者達が全員集まった所で「はいはーい、皆集まったからパーティー始めるよー!」と大きな声で能力者達や記者達に聞こえるように告げ、クイーンズ企画・ハロウィンパーティーは開始したのだった。
「皆さん〜、秋にちなんで秋の味覚で色々料理を作ってきましたよ〜。小雪のフライパン使ってますから料理は熱々で美味しいですよ〜」
加熱機能搭載のフライパンで冷めてしまった料理を温めながら矢神が能力者達に振舞う。彼女が持ち込んでくれた料理は小さな南瓜にキノコスープが入ったもの、キノコと南瓜のクリームスパゲティー、秋の味覚、南瓜や栗のグラタン、そして和食を好む人の為に大根おろしのついた焼き秋刀魚、キノコの炊き込みご飯など数々の料理を振舞っていた。
「こっちにも丼モノがあるから食いたい奴は言ってくれな」
朔月が椎野と一緒に作った丼を見せながら少し大きめの声で叫ぶ。
「あれ、そういえばのぞみちゃんって髪の毛、そんなに長かったっけ?」
いつもはショートの椎野の髪が今日は腰くらいまでの長さになっている事に気づき、マリが問いかける。
「これはウイッグだけど、昔はボクもこのぐらいまで髪の毛があったんだよ〜」
椎野の言葉に「何か雰囲気変わりますね」と舞もニッコリと笑って言葉を返す。
「う〜ん、美味しい。料理の出来る参加者が多いから、毎回クイーンズのパーティーは楽しみね」
小鳥遊がテーブルに並べられた色々な料理をつまみながら呟く。そこへ今まで姿を見せなかったチホや静流も現れ、威龍の隣に静流、チホはマリの隣に腰を下ろした。
「久しぶりね、お互い仕事があるから中々会えないけど」
苦笑しながら静流が威龍に話しかけると「マリの行動力に感謝だな、こうやってシズに会えるんだからな」と威龍は言葉を返した。
「馬鹿ね、会いたければいつでも編集室に来ればいいじゃない。見知らぬ他人じゃないんだから」
静流の言葉に「確かに、そうだな」と威龍も言葉を返す。
「あ、ちょっと飲み物が足りなくなりそうだから取りにいくわね。ゆっくりしてて」
「編集部は主催者側だから、色々とやる事もあると思うが、俺に手伝えるなら言ってくれよ。少しは良い所見せたいしな」
威龍の言葉に「そう、ありがとう、じゃあ何かあったらお願いするわね」と静流はクールに言葉を返したけれど、どこか嬉しそうな表情で冷蔵庫の方へと歩いていった。
「あれー? あんのんさんはこっちで騒がないのー?」
窓際で酒を飲み、煙草の紫煙をくゆらせながら皆の騒ぎを見ているUNKNOWNにマリが問いかけると「なに、気にせず騒ぎを続けてくれたまえ」とUNKNOWNは言葉を返し、酒の入ったグラスをあおった。
「あれ、鷹秀も仮装したの?」
先ほどまではいつもの白衣姿だったのにいつの間にか吸血鬼の仮装をしている自分の夫を見てマリが驚く。
「えぇ、そういえば主催者側は皆仮装しているんですね」
玖堂は記者たちを見ながら呟く。マリは魔女、チホは女吸血鬼、静流は悪魔、翔太は包帯男(マリに無理矢理巻かれた)、舞は猫耳などをつけた獣人の衣装を身に纏っていた。
「そうだ、真里さん。Trick or treat?」
玖堂が思い出したようにマリへと問いかけた。
「え、お、お菓子なんてあげな「じゃあ遠慮なく『イタズラ』しちゃいますよ?」‥‥さぁ、お食べ! どんどんお食べ!」
何処から取り出したのかキャンディーの山を玖堂へと差し出す。しかし玖堂も此処で引き下がるような男ではない。
「そうですね、どうせなら『あーん』で食べさせてくれませんか?」
にっこりと、だけど拒否権を許さないような強い口調で玖堂が呟く。
「え、嫌「それじゃあ、イタズラ」あーーーーーーんっ!」
長い棒飴を無理矢理突っ込むようにマリが拳を震わせながら玖堂の要求に応えた。しかし何処からどう見ても『バカップル』にしか見えないというのは黙っておこう。
「みんな若いのな‥‥」
マリや能力者達の笑い声などを聞きながらゲシュペンストは遠巻きにそれを眺めて呟く。彼が土産として持ってきてくれた酒類は主催者や参加者の中の僅かな大人たちに飲まれている。
(「ジュースを持って来た方が良かったか?」)
心の中でゲシュペンストは呟くけれど、しかし彼が持って来た酒は次々に開けられて飲まれている事から皆が喜んでいることが伺えた。
「おー、可愛いじゃん♪」
包帯塗れの翔太がレアに話しかける。彼女が仮装したのはソルシエールで、マントにとんがり帽子以外はいつもと同じ格好。
「あ、あう‥‥やっぱり変ですか?」
レアが顔を真っ赤にしながら俯き呟くと「そんな事ないって、可愛いよ」とにかっと笑って翔太が言葉を返す。
「俺なんて狼男でもしようかと思ってたらマリさんに包帯で巻きつけられてさ‥‥この辺とか血ぃ止まりそうなくらいに締め付けられてるんだよな」
へへへ、と遠くを見ながら呟く翔太に「そ、それは大変です」と言葉を返した。
(「みんな楽しそうだな」)
夜坂が騒ぐ能力者達を見ながら呟く。彼は壁に寄りかかり、慣れた手つきで煙草を咥えるが火をつける事はしなかった。
そしてパーティーが終わった後にこの風景を絵にして残そうとパーティーの様子を目に焼き付ける為にじっと見ていた。
「ふぅ、お腹一杯ね。そうだ、紅茶セットを持ってきてるんだけど飲む人はいる? 準備してくるわよ」
百地の言葉に「あ、私がやるわ」とチホが立ち上がり、立ち上がろうとした百地を再び座らせた。
「ありがと、調理室のテーブルに紅茶セットが置いてあるから」
百地の言葉に「分かったわ、少し待っててね」とチホは言葉を残して調理室へと向かう。
「そうそう、思い出した。以前伯爵が用意した島で結婚式の用意を幾つか手伝った訳なのだけど、その内の一つがマリのやつの事前準備だったはずよね」
思い出したように百地が呟くと「あ! あの時はお世話になりましたー!」とマリが頭を下げてお礼を言う。
「結構頑張ったつもりだけど、当日は喜んでくれたのかしら?」
百地が問いかけると「もっちろーんっ! 凄く心に残る結婚式が出来たよっ」とマリは勢いよく答えた。
「そういう言葉を聞くと、あたしとしては腕を振るった甲斐があるわね」
微笑みながら百地が言葉を返し、チホが持って来た紅茶を飲む。
「やっぱり人数が多いと料理が減るのも早いね、そろそろデザートもテーブルに置くから好きに食べちゃってねー♪」
マリがそう言って取り出したのは食べる気すら起きない不気味なゼリーや白玉団子。
「マリ姐はん、そういうモンばかりだとみんなの食欲を奪いますよ」
櫻杜は苦笑しながら持参してきたパンプキンケーキ、乾し葡萄入りのハニージンジャーのパウンドケーキもテーブルに並べる。
「あ、あのボクもお菓子を持ってきました」
レアがおずおずと取り出したのはガレット・オルディネール、ミルリトンだった。
「うわぁ、どれも美味しそう♪ どれから食べようかなー♪」
椎野が並べられたデザートを見比べながらどれを食べようか迷っている。
「まずはガレット・オルディネールから食べようかな♪」
椎野がぱくりと食べた時「そういえば、僕もアップルパイを作ってきました」とレインがまだほんのり温かさを保つアップルパイを皆に振舞う。
「温かいうちにどうぞ」
レインの言葉に舞がぱくりと一口食べ「美味しいです」と笑って言葉を返す。
「はいはーい、そろそろ飲み物が切れる頃じゃないか? 持ってくるんで酒、ジュース飲みたい奴の名前を言ってくれ」
着ぐるみを着ながらぱたぱたと忙しく走り回るのは朔月。
「まだ食い足りないって奴がいたら丼はまだ残ってるからセルフで取りにいってくれな」
ジュースやお酒を取りに向かう時、朔月は言葉を残してリビングから出て行く。
「わ、全部食べてくれてる♪ 作り甲斐があるね〜」
器となっているフライパンを矢神が覗き込むと彼女が用意した料理は全てなくなっており、好評のうちに終わったようだ。
「凄く美味しかったです」
フライパンを片付けている矢神に舞が話しかけると「舞さんお久しぶりです〜」と矢神も言葉も返した。
「ペンちゃーんっ、そっちの部屋にアンケート用紙があるから持ってきてー♪」
結構な赤い顔をしながらマリがゲシュペンストに飴を投げつけつつ話しかける。ちなみにゲシュペンストは『客』という立場なのにパシリに使われているような気がするのはきっと気のせいだろう。
「真里さん、飲みすぎですよ‥‥それくらいにしておいた方が‥‥」
玖堂が次々にチューハイの缶を空けていくマリを心配して話しかけるのだが‥‥中身の入ったまだ空けていない缶で玖堂の頭をがすがすと殴りながら「別にいいでしょ〜! けち!」と言葉を続ける。
そしてその頃、隣の部屋でマリから頼まれたものを見てゲシュペンストは「なんだこりゃ‥‥」と苦笑しながら呟いていた。
●書くまで逃がさない、ハロウィンサプライズ
「はいは〜い、ちゅうも〜く! これを皆に書いてもらいま〜す、ちなみに書くまで帰しません」
にっこりと悪魔の微笑み(酔っ払い要素がある為タチ悪し)でマリが能力者達に言葉を続ける。
「ちなみに、他のクイーンズ記者に助けを求めても駄目で〜す。もし、記者たちが助けた場合‥‥ふふ、冬のボーナスが半分カットされま〜す」
マリの言葉に「‥‥本当か、シズ」と威龍が引きつった笑いで言葉を投げかける。
「残念だけど、本当なのよね。だから‥‥助けられないわ、ごめんね」
苦笑しながら静流が言葉を返す。恐らく静流が助けてくれないという事は他の記者たちが助けてくれる可能性も低いだろう。
「せっかくの楽しい気分を台無しにするなんてホステス失格だと思うわよ、マリさん」
小鳥遊が用紙を見ながらため息混じりに呟く。
「人に言えない出来事ねぇ‥‥」
用紙とペンを渡されて威龍は「うーん」と悩みながら何を書こうかと心の中で呟く。
「あんのんさんも書いてね」
マリがUNKNOWNに話しかけるとちょいちょいと手招きされ、マリは少しふらつく足でUNKNOWNの所へと歩いていく。
「若い者や青少年には言えない事、だがね。私も色々と遊んでいた、のだよ‥‥‥‥まぁ、色事とかも」
「いろごとぉっ!?」
UNKNOWNの囁きにマリは一歩後ずさりながら顔を真っ赤にさせる。結婚したというのに相変わらずマリはそっち方面の話は苦手らしい。
「聞きたいなら書かずとも話すが、真里は何処まで赤裸々な告白に耐えられるだろうかね」
「ぎゃあああ! と、特例としてあんのんさんは書かなくてもいい! 話さなくてもいい!」
マリの突然の特例に能力者達は首を傾げながら見ていた。
「ひ、人には言えないことですか‥‥」
レアはちらりと翔太を見ながらペンを用紙に滑らせて何かを書き始めた。
(「らしいな‥‥さてはて、どうしたもんか」)
夜坂は用紙を見ながら苦笑してさらさらと何かを書き、それを丁寧に折り始めた。
「呪うって‥‥本当に破天荒な人ね、さて、何を書こうかしら」
百地は少し悩むような表情を見せながらペンのキャップを取ると、自分でもよく分からなかった夢の話を書こうと決めた。
「まったく、人に言えない出来事とは‥‥人に言えないって事は言いたくない事でもあるというのに」
櫻杜はため息混じりに呟き、そして何か良い事を思いついたかのように楽しそうな表情をしながらペンを滑らせ始めた。
(「よしっ、マリさんや他の記者さん達が他の人に気を向けている間にこっそりと帰っちゃおう」)
椎野は『ぐ』と拳を握り締めながらそろりと玄関へと向かう。
「‥‥何処に行くんですか? まだ終わってないですよ?」
にっこりと現れたのは最近腹黒属性を見せつつある舞だった。表情は笑顔なのだが、その後ろには黒いオーラを背負っているような威圧感を感じて、椎野は「え、えっと」と口ごもる。
「ほら、こんな面白そうな企画で逃げちゃ駄目です‥‥じゃなくて、クイーンズ記者のボーナスが半分カットされてもいいんですか?」
既に記者ではなくオペレーターとして仕事をしている舞にとっては誰かがいなくなってボーナス半分カット、という状況も面白そうだと考える辺りが腹黒なのだろう。
「いやあー! 人に言えない話なんてしたくなーいっ」
椎野は涙声で叫ぶのだが、それを許す舞でもなかった。
「ほら、リビングに戻りましょう。大丈夫ですよ、逃げようとしたなんて誰にも言いませんから。でも逃げ続行するならクイーンズ記者を招集しなくちゃいけなくなります」
半分以上脅しとも取れる言葉を投げかけながら舞は椎野の腕をぐいぐいと引っ張ってリビングへと連れ戻したのだった。
(「舞さんの姿が見えなかったから探しに来たら‥‥見てはいけない部分を見たような気がします」)
レインがこっそりと物陰から舞と椎野のやり取りを見ていたのだが、彼は密かに見なかった事にしたのだった。
「あ、俺はそのうちバラすから」
朔月はそう言いながら用紙をマリへと返す。
「え〜〜〜、駄目だよ、何かノリ悪いよ」
「あー、本人以外に喋る気はない。それに喋ったら内緒じゃないじゃん」
朔月はけらけらと笑いながら言葉を返し、食器などの片付けをし始めたのだった。
「う〜ん、小雪の場合はなんだろ‥‥やっぱりフライパンの事かな」
首を傾げながら矢神は呟き、自分の『人に言えないこと』を用紙に記入し始めたのだった。
「鷹秀は書いた?」
マリが覗きこむとまだ白紙のままの玖堂に「旦那でも容赦しないんだからねー」と背中をバシバシと叩きながら話しかける。
「強いて言うならファーストキスが兄上とだった、くらいでしょうか‥‥って引かずに最後まで話を聞いてくださいね」
既に一歩下がったマリに苦笑しながら玖堂は言葉を続ける。
「あ、言うのは駄目っ。紙に書いて! 紙!」
マリは耳を塞ぎながら「あと少しで締め切っちゃうからねー! 書いてなくちゃマリちゃんフルスイングラリアットお見舞いだよ」と意味不明な言葉を紡ぎながらけらけらと笑っている。既に酔っ払いだ。
そして能力者達は用紙に自分の人に言えないことを書いて、記者たちがそれを集めたのだった。
※能力者達の人に言えない事
『そうね。能力者になると分かって、せっかく軌道に乗りかけた自分達のバンドを解散しなくてはならなくなった時の事だけど‥‥我ながら荒れたわね。
周りの人にも当たって、つまらない事で口論して喧嘩して‥‥お酒にも走ったわね。
後になって仲直りは出来たけれど、今思い出してもその時の自分の大人気なさには赤面するわ。
それと、夢は諦めたらそこで終わり。どんな状況だって諦めさえしなければ、道は切り開ける。それだけは忘れてはいけないわね』
『戦闘用調理器具(フライパン)の数が増えてきたけど‥‥最新版のフライパンあんまり使ってないや‥‥』
『本来受けるはずだった依頼を間違えて別の依頼を間違えて受けてしまった。
しかも俺の場合、その依頼にはある特殊な装備が必須だった。
当然キャンセルなど出来るはずもなく、受けた以上は全力を尽くすべく急遽装備を整えるも、そんな付け焼刃でどうにかなる筈もなく、しかも前の依頼で錬力が殆ど底を尽いた状態で出撃してしまい、依頼は見事に失敗してしまった。
一緒に任務に向かった仲間達には本当に申し訳なく思っている』
『翔太さんって優しくてかっこいい方ですよね』
『‥‥そうだな、マリの方が俺より知っているかもしれないが、シズってクールそうに見えて、結構可愛い所があるんだぜ。
俺と二人きりの時だけかもしれないが』
『舞さんの写真を肌身離さず持ち歩いています。
自分でもちょっとだけ女装が似合っているかもと思った事があります』
『私が小学生中学年の時でしょうか、家で梅酒を造っていたのですがそれを両親が外出中に二人でこっそりと飲み、当然の如く酔ってテレビか映画で見かけたキスシーンを真似してしまったわけで。まぁ、そう大した話でもありませんでしたね』
『去年の夏の末頃、漸く落ち込んでいた気持ちが浮かび上がってカンパネラに編入するという直前に静養してた伊賀でね、毎晩出てきたのよ。
あたしより低い金髪美人で感じとして召使いぽいイメージの人。
どこか見覚えあるようで懐かしい顔にて、励ましてくれたのかな。
夢の中でしか遭えなくなって寂しがっていたわね』
『マヨネーズが大の苦手です。一口入れただけで鳥肌立って寒気がしちゃうほどです!
ああ〜、想像しただけで‥‥あ、これ絶対皆に言っちゃ駄目ですからね!』
『気がつくと最近の新作料理はセロリ料理と韓国料理にばかりなっている』
『まあ、私も身を滅ぼす『遊び』好きだからね。
それに私の性質は、彼女らを受け入れられなかった。
ただ、救いは、今は彼女達が結婚し、幸せに今も生きていて今はいい友人である、という事だな』
全員の『内緒ごと』を集め終わったマリが首を傾げて一つの物体を見る。
それは今にも飛び上がりそうな躍動感ある鳥だった。
「サプライズの答えです。頑張って読み取ってくださいね」
夜坂はにっこりと笑顔で無茶なことをマリに言ってのけた。流石にそれにはマリも苦笑せざるを得なく『これは、きっと無理だ』と心の中で呟いたのだった。
「マリ、これは貰っていくわよ」
内緒ごとの中から自分の事が書いてある用紙を取って自室へと戻っていく。その様子は明らかに不機嫌だと察知して威龍が静流の後を追って静流の自室へと向かっていく。
「静流さん、怒ってんなぁ。静かに怒るから怖いんだよな、あの人」
苦笑しながら翔太が二人の背中を見送りながら呟く。
「しょ、翔太さん‥‥こ、こ、この後お時間大丈夫で‥‥す?」
レアが真っ赤になって俯きながら翔太へと言葉を投げかける。
「へ? あ、うん。別に編集作業とかも入ってないし俺は大丈夫だよ」
「そ、そのパーティーが終わったら‥‥や、夜景を見に行きたいです‥‥」
レアの言葉に「いいよ、結構綺麗な穴場知ってるからこれからいく? 俺、ちょっと着替えてくるから待っててな」と翔太は言葉を残して着替える為に部屋へと向かっていった。
リビングを見れば、能力者達も好きに行動を始めていて恐らくパーティーを抜け出した所で誰にも気がつかれないだろう。
「レインさん、疲れませんでしたか? マリさんってば体力だけは人並み以上、獣並ですから」
毒舌が見え隠れしながら舞はレインへと言葉を投げかける。
「いろいろありましたけど、今日は楽しかったです。そうだ、こういう賑やかなのも良いですけど、今度、二人きりでデートしませんか?」
デート、その言葉に舞は少し顔を赤くしながら「はい」と言葉を返したのだった。
「あ、舞みっけ。ちょっと渡したいモンあるから来てもらえるかな? ちょっと舞を借りるぜ」
朔月が顔だけを覗かせながら舞を部屋の外へと呼び出す。
「なんでしょう?」
「これを渡そうと思ってな、本部は安全だが、移動中はそうじゃねぇからな?」
朔月が言葉と一緒に渡してきたのは『防犯ブザー』だった。
「でも、どうして?」
「ちょっとこの前の依頼でな、ま、警戒用だとでも思っててくれ」
「ありがとうございます」
舞はぺこりと頭を下げながら言葉を返して防犯ブザーを握り締めたのだった。
そして此処は静流の自室。
「信じらんないわ、まさかこんな紙にノロケを書くなんて予想もしなかったわよ」
ため息混じりに威龍から顔を逸らしてぶつぶつと静流が文句を呟く。
「‥‥シズって雰囲気で損してると思ってな、こんなに可愛い事を皆に知ってもらいたいというのはまずいのか?」
真面目な表情で威龍が呟き、静流はきょとんと目を丸くした後に「馬鹿ね」と二度目のため息を吐く。
「他の人に愛想を振りまこうなんて考えたこともない。あなたの前だけ、これでは駄目なの?」
静流の言葉に今度は威龍がきょとんとして、そして静かに笑う。
「あれ? 此処は何処」
「真里さんの部屋ですね」
「何で此処にいるの」
「真里さんが酔っ払ってリビングで寝こけてしまったからですね」
「何で隣で寝てるの」
「別に構わないでしょう」
淡々と繰り返される質問と答え。真里はあれから寝てしまい、夫である玖堂がマリの部屋へと連れてきたのだ。
「別にもっと酔っ払っても構いませんよ。介抱と称して‥‥「わぁ! すっかり酔いが覚めちゃったぁ!」‥‥それは残念」
わざとらしく起き上がりながらマリが大きな声で叫ぶ。
「けど冗談は抜きにして2人だけの『人には言えないコト』もっと増やしたいと思ってますけどね」
玖堂は男性にも関わらず、妖艶ともいえる笑みでマリを見つめる。
「と、とりあえず明日も仕事だし、今日は寝る! おやすみなさいっ!」
がばっと布団を被りながらマリはそのまま無理矢理眠りに落ちていったのだった。
「あ、あの‥‥こ、これをどうぞ」
あれから編集室を抜け出して翔太の知る夜景が綺麗に見れる穴場へとやってきたレアはバッグからミルリトンと手作りのチョコレートを翔太へと渡す。
「へ? 俺に?」
「は、はい。えっと、ボクちょっと実家に戻ってて‥‥ば、バレンタインにお渡しできなかったので‥‥」
翔太はまじまじと渡されたチョコレートを見て「うまそう、ありがとな」と言葉を返した。
「あ、あの‥‥しょ、翔太さんは‥‥お付き合いしてる方とか‥‥い、いらっしゃるんですか?」
顔を真っ赤にしながら呟くレアの問いかけに翔太は苦笑して「いないよ、俺ってモテないからさ〜」と冗談めいた口調で言葉を返した。
「でも何で? どうかした?」
問いかけてくる翔太に「い、いえ‥‥なんでもないんです」とレアは言葉を返して夜景を楽しんだ。彼が穴場と言うだけあって綺麗に見れる場所でレアは何処か心が落ち着くのを感じていた。
そんなこんなで途中のサプライズ(という名前の脅し)があったけれどクイーンズ主催のハロウィンパーティーは無事に終わっていったのだった。
後日、クイーンズ編集室には夜坂が描いた水彩画が送られてきた。パーティーの風景が描かれた水彩画だったけれど、その時の楽しさが伝わるような優しい色使いなのだった。
END