●リプレイ本文
「ど、どうぞ今回は宜しくお願いします‥‥」
俯きながら口ごもるように呟くユウキだったが‥‥その態度にプチッと何かが切れた能力者がいた。
「声が小さいっ!」
竹刀で地面をバシンと強く叩きながら叫ぶのは伊佐美 希明(
ga0214)だった。
「え、え?」
「背筋を伸ばせ! お前の腐った根性叩き直してやる!」
竹刀でユウキの背中をバシンと叩くと、ユウキの悲鳴が響く。
「まあまあ、落ち着けって、怖がってるじゃねえか」
クックッと笑いながら伊佐美を止めるのはシズマ・オルフール(
ga0305)だった。
「何か、コイツを見てると、こう‥‥絞め殺してやりたくなるんだよ!」
バシバシと竹刀で何度も地面を叩きながら伊佐美が叫ぶ。
「大丈夫だって、邪魔になりそうなら――ほら、俺様いいモン持って来たからよ」
ニッと不敵に笑ってシズマが能力者達に見せたのは『簀巻きセット』だった。
「なるほど、それで簀巻きれば邪魔はされませんね」
手を叩き、納得したように呟くのはアウグスト・フューラー(
ga2839)だった。何気に『簀巻きる』という新語が出ているのは気のせいだろうか。
「綺羅は、ネガティブが悪い事だとは思わない」
ポツリと呟いたのは高村・綺羅(
ga2052)だった。
「明るくてポジティブな人間ほど、戦場では死にやすい‥‥むしろ否定的な人間の方が生き延びやすいと思う」
「ま、確かにそれも一理あるな。ポジティブな人間は戦いの場において前に進みすぎる。逆にネガティブな人間ほど自分の身を案じるからな」
高村の言葉に納得したように言葉を返すのは漸 王零(
ga2930)だった。
「OH! デハ、ワタシは真っ先に死ヌデスカー!」
大げさな泣きまねをして叫ぶのはロナルド・ファンマルス(
ga3268)だった。
「例えだろ‥‥ユウキ、だよな? 一つだけお前に言っておく事がある」
レィアンス(
ga2662)がユウキの方を見て、話し始める。
「俺はあんたの性格について、とやかく言うつもりはない。だが、自分に出来る最善を行え。結果を考える必要はない。自分が最善だと思える行動をしろ」
いいな、とレィアンスはユウキに告げると、彼の傍から離れた。
「さて、じゃあ‥‥子供たちが安全に遊べるようにキメラを倒しちゃいましょう」
王 憐華(
ga4039)が能力者たちに向けて、話すと問題の公園へと向かっていったのだった‥‥。
●公園到着
「‥‥避難しているから無人、みたいですね」
アウグストが無人の公園を見渡しながら呟く。
「キメラの気配はします‥‥恐らく此方の出方を伺っているのでしょう」
王が長弓を握り締め、周りを警戒しながら呟く。
「今回はワーウルフだろ? 一度戦ってみたかったんだ! 燃えてきたぜぇ!」
シズマは色々なキメラと戦いたいという考えを持っていて、ワーウルフと戦えるという事でかなり上機嫌だ。
「気をつけて、敵の数は1体じゃない――‥‥恐らく、複数いる」
高村がアーミーナイフを手に持ちながら呟く。
「ほう、複数か――さて、時にシズマ、ここは一つどちらが多く倒すか勝負といかぬか?」
漸がシズマにどちらが多くキメラを倒すか、競争を持ちかける。
「俺様と勝負? まぁ見えたモンだけど勝負してやる――よっ!」
言うと同時に、シズマは姿を見せたワーウルフに攻撃を仕掛けるため、走り出した。
「お、俺も――‥‥」
次々に能力者達がキメラ退治に向かうのを見て、ユウキも走り出そうとする。
「ちょっと待って」
それを高村が止め、ユウキは「え?」と呟きながら高村の方を見た。
「二つだけ言わせて‥‥戦う気があるなら最初から負ける気でいたら駄目。勝てる気がしないと貴方は言うけれど‥‥それは綺羅たちを信用していない証拠。勝つ為に綺羅たちがいる事を忘れないで――それと、人間は一人では何も出来ない‥‥だからこそ仲間がいるのだと‥‥これだけ」
言い残して高村はキメラの方へと走り出したのだった。
援護射撃をメインに行動する伊佐美、アウグスト、王はキメラから少し離れた場所でそれぞれ援護をしていた。
現れたキメラは合計で3体、しかも全てがワーウルフという状況だ。
伊佐美がシズマを、アウグストがロナルドとレィアンスを、そして王が漸と高村を援護しての3体のキメラをそれぞれ相手にする。
「あ‥‥さ、3体も現れたんじゃ俺達が勝つのは無理だよ‥‥此処は一旦退いて――」
3体ものキメラを目の前にしてユウキがガタガタと震え、その場に蹲っていた。
「無理とか言うな! あんたの名前は飾りかい? 勇気ってのは困難や危険を恐れない心だろ? 自分から逃げて、自分を否定して、そんなんでいいの!?」
援護を行いながら伊佐美がユウキを怒鳴りつける。
「アンタの言動は――戦っている者全てに対しての侮辱だよ――シズマだって誰かのために戦って――」
伊佐美が呟き、視線をキメラと接近戦で戦うシズマに移す。
「狼対狼! どっちが早い? どっちが強い? さぁ、毛皮寄越しやがれぇっ!」
そんなシズマの言葉を聞いて「‥‥誰かの為にじゃなく自分のためだね、うん」と伊佐美は言葉を言いなおす。
「で、でも君たちはともかく俺は別に死んだって――」
「死んだって構わない? そんな言葉を軽々しく口にするな! お前‥‥どれくらいの人がこの戦争で死んだと思ってるんだ!」
伊佐美は一時援護をやめ、ユウキの胸倉を掴み平手打ちをする。
「どんなに辛くても、生きなくちゃいけない義務があるんだよ、私達は‥‥」
呟きながら、伊佐美の顔が少し沈む。それは今まで気丈に振舞っていた彼女が見せた一瞬の弱さだった。
「戦うつもりがないなら――此処にいるな、邪魔だ!」
伊佐美はユウキを突き飛ばし、再びシズマの援護を始めたのだった。
「このような場にまで姿を現す――許せませんね」
アウグストは呟きながら接近戦で戦うロナルドとレィアンスに当てぬように矢を放つ。そんな時、沈んだ顔でうろうろとするユウキを見つけた。
「あまりうろうろしていると危ないですよ」
アウグストはユウキを近くに呼び寄せる。
「まぁ‥‥あまり落ち込まないでください! 太陽だってあんなに眩しいのですから、笑顔笑顔」
ね? とユウキに空を見せながら明るく振舞うアウグストだったが、今日の天気は生憎と曇りだった。
「右手に剣を、左手に盾を――まぁ、俺の場合、盾も剣だけどなあーっ」
叫びながらレィアンスがキメラに攻撃を仕掛ける。今まで避ける事ばかりだったレィアンスとロナルドだったが、それは相手の速さに慣れるため。
そして、速さに慣れてきた今、反撃に出たのだ。
「ドッコイショー!」
ロナルドはバトルアクスを縦に振り回しながらキメラを攻撃する、何故『縦』なのかと言うと、公園の遊具を壊さないようにするためだ。
「シカシ‥‥ユウキサンのノート、超ナウイデスネ」
思い出したように呟くロナルド、ユウキのキメラデータを纏めたというノートを最初に見たのだが‥‥『キメラ・狼っぽいの。こうがおーっと言う感じ』しか書いていなく、はっきり言って何の役にもたたない。
「もうちょい数が多ければ、俺もシズマと漸の競争に便乗したかったんだがな‥‥3体じゃ一人1体だから競争になりゃしねぇ」
レィアンスは残念そうに呟きながら、キメラを攻撃する。しかし中々素早いため、此方の攻撃がまともに当たらない。
いや‥‥当たることには当たるのだが、避けられるために致命傷に至らないのだ。
「レィアンスさん、ロナルドさん! 武器を強化します――っ!」
後ろでユウキが叫ぶと同時に武器強化の能力を彼らに発動する。
「助かる!」
「アリガトデスヨー」
二人はユウキに礼を言うと、キメラに向けて攻撃し、見事撃破したのだった。
「もう向こうは決着ついてるみたいですね」
アウグストたちの班を見ながら、王が呟く。
「さて、ここらで我たちも片付けるとしようか――我は聖闇倒神流継承者、零――参る!」
「綺羅も行くよ」
アーミーナイフを手に持ち、高村も漸とタイミングを合わせるようにして飛び出し、キメラを攻撃する。
しかし、その時、キメラの爪が高村を襲い、足を少し切りつけられる。
「気をつけろ――このキメラは鋭い爪を持つ」
漸が蛍火で切りつけ、キメラは少し後退し、能力者との距離を取る。
「子供達が安全に遊ぶ為にも、あいつには死んでもらわないと‥‥、私の弓の一撃――とくと味わうといいわ」
王は呟くと、長弓で援護射撃を行い、漸と高村が攻撃しやすいように道を作る。
「綺羅が隙を作るよ、その時に倒して」
高村が漸より先に向かい、キメラに攻撃をする。少し跳んで上空からの攻撃――キメラは両手で高村の攻撃を受けとめ、その時に出来た隙を見逃すことなく漸が攻撃を仕掛けた。
「汝には我の過去の贄となる以外の道はない。清浄なる闇の中で永劫に眠るがいい」
蛍火を振り、キメラの血を落としながら漸は低く呟いたのだった。
●キメラ殲滅! これにて一件落着‥‥?
「狼の毛皮はあったかいなー、とな」
キメラを殲滅した後、シズマはずるずると倒したワーウルフを引きずりながら上機嫌で鼻歌を歌っている。
「ふむ、我も剥製にする為に持って帰ろうかな」
シズマを見て、自分もワーウルフを持って帰ろうと引きずり始め、それを見たユウキは顔を真っ青にして怯えている。
「爪ニヨル被害ハ一人ダケデスネー」
ロナルドが高村を見ながら叫ぶ。
「被害と言っても足を少し怪我したくらいだから大丈夫だよ、救急セットで十分治療できる」
高村は呟くと持っていた救急セットで治療を始める。
「ユウキさん、貴方は十分に立ち向かえる強さを持っているじゃないですか」
アウグストがユウキに話しかける。
「そうそう、さっきの支援、マジで助かったんだぜ。誰だってやればそれなりに出来るんだ。いちいち暗くなるな」
レィアンスがユウキに向けて呟いた時――「後ろ!」と王が指差しながら叫ぶ。
すると、其処には隠れていたのかもう1体のワーウルフが襲い掛かってきた。
「くっ――奴の爪には気をつけろ!」
漸が叫ぶ。しかしキメラはシズマと伊佐美の方へと向かって手を大きく振り被った。
「伊佐美―――っ」
びり、という服の破れる音と何かが切られたような音が響き、能力者達が閉じていた目を開いてみると――‥‥。
「いや〜〜ん‥‥って狙いは俺様かああああっ! 変態か! お前は!!!」
着ていたシャツを見事に裂かれて、肌を露出する――シズマの姿があった。
「汚れるからと思ってダウンジャケット脱いでて良かったぜ‥‥こんなんで俺様のダウンジャケットが着れなくなったら、涙も出ねえよ――覚悟しろやああっ」
ノリに乗ってしまったシズマは己のノリ安さ、そして自分を狙ったキメラに鬱憤を晴らすようにファングでボコ殴りにしたのだった‥‥。
「‥‥多少覚悟してたのに、何で私じゃなくてシズマ?」
シズマよりキメラに近い位置にいた伊佐美だったが、自分を通り過ぎてシズマの方に行ったキメラに対して軽い怒りとショックを隠しきれなかったのだとか‥‥。
●そして――
「今回はありがとうございました」
UPC本部に戻ってきた後、ユウキがぺこりと頭を丁寧に下げる。
「皆さんのおかげで分かりました、戦う事は命をかけるという事‥‥決して遊びじゃないという事が」
ユウキが少しぎこちなくだが、笑いながら能力者を見る。
「ネガティブも程ほどにして置いてくださいね」
アウグストが呟いた言葉に、ユウキは苦笑しながら首を縦に振る。
「ユウキサン、コレカラモガンバッテクダサーイ」
「また何処かで会えるといいですね」
能力者たちはそれぞれユウキに呟くと、そのまま本部を後にしたのだった。
END