タイトル:夜に蠢く獣マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/30 04:34

●オープニング本文


このお仕事はボクのオペレーターとして初めてのお仕事。

これから頑張ろう。

そして‥‥いつか、いつかハルの仇を能力者のみんなが取ってくれると信じよう。

※※※

「えっと、こんにちは。先日新しくオペレーターとなった室生 舞(gz0140)です」

宜しくお願いします、と丁寧に頭を下げながらいまだ緊張が解けないのか少しだけ上ずった声で能力者達に挨拶をした。

「今日のお仕事は、虎? みたいなキメラの退治をお願いされています」

舞は説明用に書いたメモを見ながら一生懸命に説明を続ける。

「虎みたいな形はしてますが、牙が鋭く伸びて斬撃に特化してるそうです。恐らくは虎を元に作り変えられたキメラなんだと思います」

そして地図を渡しながら「キメラが現われる周辺地図です、町の住人が3名犠牲になってます」と言葉を付け足した。

「犠牲者は全て夜に出歩いた人達ばかりです、畑や田んぼが荒らされるのも決まって夜なんだと住人の人達が言っているそうです」

何があるか分からないので気をつけて下さい、舞は言葉を付け足しながら能力者達を見送ったのだった。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
ゲシュペンスト(ga5579
27歳・♂・PN
レイン・シュトラウド(ga9279
15歳・♂・SN
朔月(gb1440
13歳・♀・BM
芝樋ノ爪 水夏(gb2060
21歳・♀・HD
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
赤い霧(gb5521
21歳・♂・AA
巳乃木 沙耶(gb6323
20歳・♀・DF

●リプレイ本文

―― キメラ退治の為に ――

「これが今回の依頼の資料です、頑張ってくださいね」
 オペレーターの制服に身を包んだ室生・舞(gz0140)が能力者達に資料を渡しながら話しかける。
「既に犠牲者の方も居るのですわね‥‥町の方の安全の為には早急に倒す必要がありそうですわ」
 ロジー・ビィ(ga1031)が資料を見ながら憂いめいた表情で呟く。本部に依頼が来たのが犠牲者が出た後なのでどうしようもない事なのだが、彼女はそれでも考えずにはいられなかったのだろう。
「虎に酷似したキメラねぇ、そんじゃ今回は虎刈りだな」
 ゲシュペンスト(ga5579)が大きく伸びをしながら呟く。犠牲者達は全て別々の場所で被害に遭っており、今回は戦闘場所の予測が難しいものだった。
「現地に到着したら家畜の中に臨月のものがいないかを聞かないとな」
 朔月(gb1440)が資料を見ながら呟く。万が一の時の考えだが、彼女は出産時の臍帯血にキメラが寄ってくるかもしれないと考えていた。既に犠牲者が出ている為、これ以上の犠牲を出さない為にも『万が一』の時の事を考えて行動しなければならないのだ。
「そういえば舞さんの初めてのお仕事なんですね。それなら、いつもより頑張らないといけませんね」
 芝樋ノ爪 水夏(gb2060)がにこりと穏やかな笑みを浮かべて舞に話しかける。
「まだまだボクなんてほかの先輩達に比べたら未熟で役に立たないですけど‥‥」
 舞は言葉を返しながら「でもボクも頑張りますから」と言葉を付け足した。
「しかし、このキメラ。何が目的で出てくるのか分からん。襲われた場所も人も時間もバラバラだし‥‥」
 翡焔・東雲(gb2615)が資料を見ながら呟く。彼女の呟きに他の能力者達も資料へと視線を落とす。確かに資料に書かれた情報に共通点は見当たらない。何かあるのか、それとも何も考えていないのか――まだ何も言えないけれど気をつけるに越した事はないだろう。
「キメラとは言え‥‥獣は無益な戦いはしない‥‥それを忘れた獣は危険だ‥‥全力で排除する‥‥」
 赤い霧(gb5521)が拳を強く握り締めながら呟く。そしてちらりと視線を他の能力者へと移す。
(「レインさんと巳乃木さんには戦い狂い咆哮する俺の姿は見られたくなかったな‥‥」)
 赤い霧は心の中で呟き、小さなため息を漏らした。彼は覚醒を行えば化物と言われてもおかしくないような咆哮をあげる。
 それを見られたくない気持ちがあったが、キメラ退治の為に仕方ない、と思う自分も居る事に赤い霧は気づいた。
「そろそろ出発しましょうか、昼間のうちに住人に注意、そして情報を集めなくてはね」
 巳乃木 沙耶(gb6323)が呟き、他の能力者達も首を縦に振る。
 そして出発する為に本部を出て行こうとした所を「レインさん」と舞がレイン・シュトラウド(ga9279)を呼び止めた。
「あ、気をつけて下さいね‥‥」
 舞は少し心配そうな表情でレインに言葉を投げかける。
「舞さん、依頼から帰ってきたら大事な話があるので、待っていてくれませんか?」
 レインの言葉に「え? あ、はい」と舞はきょとんとした顔をして首を縦に振ってレインと任務に向かう能力者達を見送ったのだった。


―― 下準備 ――

「休耕田の場所、住民への情報収集、夜間外出の規制、家屋や畜舎の戸締り‥‥するべき事が沢山ありますわね」
 ふぅ、とロジーは一つ小さなため息を漏らしながら呟く。
「キメラの現われそうな場所を絞れるといいんだが‥‥」
「被害者の襲われた場所を調べるのはどうでしょう? 痕跡を調べれば、キメラの行動パターンが掴めるんじゃないかと思ったんですが‥‥」
 ゲシュペンストの言葉にレインが言葉を返す。確かにレインの言う事も一理あるだろう。ぱっと見た限りでは見つけられない共通点も見つけられるかもしれないのだから。
「出来ればだが、強力なライトと発電機を借りてきて休耕田を照らせるようにしたいんだが‥‥住民の協力が得られれば、だな。これは」
 今回の戦闘は夜間の為に視界が悪いのは分かりきっている。だからゲシュペンストは住民の協力を得てライトを照らして戦えるようにしておきたい、と考えていた。
「ま、その為にはまずキメラが確実に現われる場所を特定しないとな?」
 朔月が呟き、能力者達は住人に話を聞くため、そして夜間外出を控えるように注意をしに行動を開始し始めたのだった。

「あんた達がキメラ退治に来てくれた人達かい? 早く退治しておくれよ、3人も死人が出たんじゃゆっくり寝る事も出来ないよ」
 中年女性はまくし立てるように能力者達に話しかけてくる。
「もう暫く我慢して下さいませね? すぐ元の町に戻してみせますわ」
 ロジーの言葉に「頼んだよ、こんな小さな町、事件とは無縁だと思ってたのに」と女性はため息混じりに呟いた。
「退治するボクらはともかく、夜は鍵をかけて外に出ないようにして下さい。それから、畜舎の戸締りもなるべく厳重にお願いします」
 レインの言葉に「分かった」と女性は言葉を返してくる。
「あぁ、それと臨月の家畜っていないか? もしかしたら出産時にキメラが狙ってくる可能性もあるからな」
 朔月の言葉に「臨月のはいないから安心しとくれよ」と言葉を返し、他の住民に伝えようと踵を返した所で芝樋ノ爪が女性を呼び止める。
「町役場で町内放送や電話連絡などを誰かにお願いできませんか? 私達が個別に回るには時間が足りないので、戸締りと注意喚起だけでもお願いできませんでしょうか?」
 芝樋ノ爪の言葉に「役場から電話連絡をしておくよ」と女性は言葉を返してきた。彼女が電話した者から別な者へ、小さな町だから連絡はすぐに行渡る事だろう。
「家屋と畜舎の戸締りも確りな」
 翡焔の言葉に「それはキメラが現れてからきちんとしてるから心配いらないよ」と言葉を返してくる。近くにキメラがいる、この事実が住民達に危険を知らせて戸締りなど厳重にさせているのだろう。
 住民への連絡を任せた後、能力者達は被害者が襲われた場所へと行ってみたが、特に変わった事は見つける事が出来ず、またキメラの現れる場所を予測する事も出来ずゲシュペンストの案は諦める事にして夜を待つ事にしたのだった。


―― 捜索・戦闘 ――

 今回の能力者達はキメラ退治を迅速に行う為に班を二つに分けて行動する事に決めていた。
 A班・芝樋ノ爪、翡焔、巳乃木、朔月の四人。
 B班・ゲシュペンスト、ロジー、赤い霧、レインの四人。
「何か異変、もしくはキメラを発見したら『トランシーバー』で連絡を取り合えばいいんだな」
 赤い霧がトランシーバーを見せながら呟き、能力者達はそれぞれ行動に移ったのだった。

※A班※
「皆さん、確りと戸締りはしてくれているみたいですね」
 キメラ捜索時、町の中を歩いていると雨戸まで確りと閉められている家が目立つ。そのせいか家から光が漏れる事もなく、暗い夜道が余計に暗く感じた。
「街灯はあるが‥‥気休めにしかならないな」
 翡焔はちかちかと明滅を繰り返す街灯を見ながら呟く、電球が切れる前なのかやけに明滅している。
「中々現れないものですね、結構歩いているはずなのに」
 巳乃木は『エマージェンシーキット』から懐中電灯を取り出して暗闇の中キメラ捜索をしていた。彼女だけではなく他の能力者達も何らかの光源は確保して捜索をしている。
「畜舎もちゃんと戸締りされてあるし、問題なくキメラ退治できれば良いんだけどな」
 朔月は畜舎を見ながら呟く。戸締りはきちんとされている所、簡易小屋のようなもので確りと出来ていない場所もあったけれど、この辺にキメラの気配は感じられない為、問題ないだろう。
「さて、次はどっちに――」
 行く、そう続くはずの翡焔の言葉は最後まで紡がれる事はなかった。なぜならトランシーバーから「キメラを発見しました!」という連絡が入ってきたのだから。
 A班はB班の現在位置を詳しく聞きだし、急いでキメラと交戦している場所へと向かったのだった。

※B班※
「何か共通点でも見つかれば、おびき出したり此方から仕掛ける事も可能だったかもしれないのにな」
 ゲシュペンストはため息混じりに呟く。何も見つからなかった以上、地道に歩いてキメラを見つける他に方法はない。
「不意打ちを受けるかもしれませんものね、十分に気をつけなければなりませんわ」
 ロジーは腰から『ランタン』を下げながら周りを警戒しながら呟く。夜にしか行動しないというのは『夜』が相手にとって有利な状況であるからと考えられる。
「軍用双眼鏡で一応遠くも警戒してますが‥‥ランタンの光だけでは全てを見渡す事は出来ませんね」
 ランタンの光を頼りにレインも双眼鏡でキメラを警戒するのだが、暗い夜では思うように見渡せないのは当然の事。
「‥‥?」
 赤い霧が何かを感じたように立ち止まって耳を澄ませる。その行動を能力者達は不思議に思い「どうかしたんですか?」とレインが話しかけた時だった。能力者達4人の足元に影が現れる。
「っ! 上ですわ!」
 いち早く行動したのはロジー。彼女は屋根から街灯の上に飛び移って能力者達へと降下してくるキメラの攻撃を『二刀小太刀 花鳥風月』で受け止める。その隙に赤い霧がA班へと連絡を入れて、合流するまで牽制攻撃で凌ぐ事となったのだった。

 A班とB班が合流したのは数分も経過しない頃、意外とお互い近くを捜索していたようで合流するのに時間を割く事はなかった。
「さぁって、そんじゃ虎狩りと行こうか!」
 ゲシュペンストは『激熱』を構える。幸いにも休耕田の近く。暗いのは能力者達にとって不利となる状況だが、文句を言っている暇はない。
「3人も殺したんだろ、次はお前が死ぬ番だよ」
 朔月は『【OR】天狼』で援護攻撃をしながら冷たく射抜くような瞳でキメラを見る。
「これ以上、犠牲者を出すわけにはいきません」
 芝樋ノ爪が『機械剣α』で攻撃をしながら呟く。その際に反撃を受けたけれど大きな傷ではなく、芝樋ノ爪が後退する事はなかった。
「血が好きなんだろ、あたしの血をやるよ――‥‥代償は高くつくけどな!」
 翡焔は覚醒を行った事によって流血を始めて左腕をキメラへと差し出しながら呟く。そして予想通り自分に向かってきたキメラを『二刀小太刀 疾風迅雷』で攻撃をして、そのまま次の能力者へと攻撃を繋げる。
「俺は騎士にはなれない‥‥だけど‥‥敵は全て排除する獣になら‥‥」
 赤い霧の言葉は最後までキメラに届く事はなかった。なぜなら言葉が最後まで発せられる前に赤い霧の攻撃がキメラへと与えられていたからだ。
「ただ守る為に‥‥壊れろォォオオオ!!」
 能力者とキメラが戦う中、巳乃木は冷静にキメラを分析していた。
「サーベルタイガー、とでも言えばいいのかしら? でも絶滅した種だろうが仕事ですし、仕留めますが」
 巳乃木は淡々と言葉を呟き『M−121ガトリング砲』で攻撃を仕掛ける。貫通弾を装填していた為にキメラは少しだけ次の行動が遅くなる。
「ちょっとそこでじっとしていてもらいますよ」
 レインが呟くと『先手必勝』を使用した後『照明銃』をキメラへと仕掛ける。照明銃によってキメラは一時的に視界を奪われた。時間にしてみれば短い時間だけれど能力者達がキメラを仕留めるには十分な時間だった。
「このまま一気にカタをつけます」
 レインは呟きながらスキルを使用して射撃を行い、ゲシュペンストがキメラへと近寄り攻撃を仕掛ける。
「少しくらいは効いてくれよ‥‥」
 ゲシュペンストは小さく呟くが、視界を奪われ、しかもその前に受けた傷でキメラは負傷している。彼の攻撃は十分すぎるほどキメラに効果が見られていた。
「貴方が命を奪った人達に謝ってください――許される罪ではないですけど」
 芝樋ノ爪は攻撃を仕掛けながら発した言葉は彼女にしては珍しく冷たい怒気を含んだ声色だった。
「残念、逃がすわけありません」
 逃げようとしたキメラの退路を断ち、巳乃木が近距離からガトリング砲を放つ。
「危ない!」
 赤い霧は巳乃木を突き飛ばし、キメラの攻撃から守る。そして攻撃を受けた彼はそのまま武器を振るいカウンター攻撃を仕掛けた。
「グゥオオォォォオオオオ!」
 攻撃と同時に赤い霧は大きく咆哮する。
「これで‥‥終わりですわッ!」
 ロジーが叫びスキルを使用して渾身の一撃をキメラに食らわして、キメラを無事に退治する事が出来たのだった。


―― キメラ退治を終えて ――

 無傷、とは言えなかったけれど能力者達は比較的軽傷でキメラ退治を終える事が出来た。戦闘を終えた能力者達はキメラの死骸を休耕田から出す。
「このまま土に還れ‥‥ってワケにも行かないだろうからな」
 ゲシュペンストは苦笑しながら呟く。
「町の人達にも退治の報告をして安心させてあげたいですわね」
 ロジーが呟くと「そうですね、退治の報告を待ち望んでいるでしょうから」と巳乃木が言葉を返してきた。

 その後、能力者達は町役場まで足を運び、キメラ退治を終えた事を住民に伝える。住民の中には安心のせいかその場に座り込む者、泣き出す者様々だったけれど、彼らを脅かすキメラは既に存在しない。今夜からは住民も安心して休める事だろう。
「舞さんにもご報告に行かなくちゃですね」
 芝樋ノ爪が呟き、能力者たちは高速艇まで歩く。本部へ向かう高速艇の中、赤い霧はうとうとと眠っている姿が他の能力者達に見受けられていた。

「お疲れ様でした。今日はゆっくり休んでくださいね」
 舞が報告を受けて依頼終了の手続きを行い、能力者達はそれぞれ解散していく。
「あの、ちょっといいですか?」
 レインが舞を人気のない場所に呼び出す。恐らく彼が出発前に言っていた『大事な話』なのだろうが、舞には見当もつかずに不思議な表情のままレインについていった。
「あの‥‥?」
「‥‥ボク、ずっと前から舞さんの事が好きだったんです。舞さんの素敵な笑顔をもっと近くで見ていたいんです」
 だから、その‥‥ボクと付き合ってくれませんか? 照れるような表情でレインが舞に告白を行う。ソレを聞いて舞は暫く状況が飲み込めなかったのか目をぱちぱちと瞬かせるだけだった。
「あの、舞さん?」
「あ、はいっ。あの、その、ボクもレインさんの事が好きだったから‥‥嬉しいです。そのお付き合い、したいです」
 舞は真っ赤な顔で告白を受け入れる。そして二人は赤い顔のまま最初に居た場所へと戻っていく。
「ほら、お疲れさん」
 朔月が舞に紅茶を差し出す。疲れている舞に差し入れなのだろう。
「なぁ、舞。どうか何時でも幸せでいて‥‥それが、俺の想いの全てだよ♪」
 朔月の言葉に舞はまだほんのり赤い顔のまま「はい」と頷いたのだった。


END