タイトル:滅び―失われた栄光マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/26 23:24

●オープニング本文


たった一度の失敗だと人は言う‥‥けれど俺達に失敗は許されないんだ‥‥

※※※

あの時の事は今でも夢に見る。

何回目の仕事だったか‥‥それはよく覚えていない。

請ける仕事はいつも成功で終わらせていたし、負傷者や死者など出した事もなかった。

けれど、あの日だけは違った‥‥。

今まで成功させていた事が、俺に油断を許していたのか――戦っていたキメラから少女を守りきれなかった。

その少女は致命傷は負っていたものの、即死ではなかった。

そして、病院に着くまでに俺の服を握り締めながら一言泣きながら呟いた。

――死にたくないよ――

それを言い残すと、俺の服を握り締めていた少女の手がだらりと落ちた。

俺の油断が招いたこと、そのせいで死ななくても良かった少女が命を落とした。

少女の両親は俺を責めなかった。

その事が俺を余計に苦しませた、酷い言葉で怒鳴ってくれた方がどんなに楽だったか‥‥。

そして気落ちしていた俺に仲間が仕事を持って来た。

キメラ退治の仕事だったが、俺にはもう自信がない。

また誰か死なせたりしたら‥‥そう思うと手が震えるのだ。

●参加者一覧

聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
橘・朔耶(ga1980
13歳・♀・SN
黄 鈴月(ga2402
12歳・♀・GP
海音・ユグドラシル(ga2788
16歳・♀・ST
シュヴァルト・フランツ(ga3833
20歳・♂・FT
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
ヴァイオン(ga4174
13歳・♂・PN
イレーネ・V・ノイエ(ga4317
23歳・♀・JG

●リプレイ本文

「何で一度の失敗で自信喪失しちゃったのかな」
 カズイを待っている間、ヴァイオン(ga4174)が首を傾げながら呟く。
 彼は『仕事に失敗はつき物』という考えの持ち主であり、一度の失敗でそんなに心を痛めるカズイの気持ちが分からなかった。
「‥‥きっと少女が目の前で死んでいく事に絶えられなかったんでしょう。しかも幼い子供だったらしいですし‥‥」
 シュヴァルト・フランツ(ga3833)がヴァイオンの言葉に答える。
「そんなに戦うという事に自信がないのなら、何時までも傭兵にしがみ付いていないで、別の生き方を探せばいいものを‥‥別に傭兵だけが全てではないんだから」
 威龍(ga3859)がため息混じりに呟く。
「でも‥‥早く立ち直ってくれるといいのにね」
 聖・真琴(ga1622)が少し寂しそうに呟く。
「そうやな‥‥わしはカズイを見たときに『死』を感じた‥‥そして間違いに気づかせる為にわしは今回、この任務に参加した‥‥」
 黄 鈴月(ga2402)がポツリと呟く。
「心の傷というものは本人にしか治癒できんものだと思うのでな。自分はよほど厄介なことが起きない限り、自分から忠告する事はないな」
 イレーネ・V・ノイエ(ga4317)が此方へ歩いてくるカズイを見ながら話す。
「‥‥どうも、今回は宜しく」
 少しやつれたような表情で挨拶をするのは、今回一緒にキメラ討伐に向かう事になったカズイだった。
「初めまして、私は海音・ユグドラシル(ga2788)です」
 海音がぺこりと頭を下げながらカズイに対して挨拶をする。
「俺は橘・朔耶(ga1980)だ」
 橘も海音の隣で簡単に名前だけを名乗る。
「今回は工場、しかも爆発物があるらしいから気をつけなあかんな」
 黄が今回の事件について纏められた紙を見ながら小さく呟く。
「俺は――‥‥」
 カズイが何か言いたそうにしているが、言葉を止め、俯いた。
「まだ失敗を気にしている様子やから言わせてもらうで。失敗はあかん事やけど、失敗から学ばんのは、もっとあかんことや」
 黄は真剣な顔つきで俯いたままのカズイに話しかける。
「俺も同じ意見だな。失敗は同じ過ちを繰り返さない為に、次にどう生かせるか工夫する‥‥これが重要じゃねぇか?」
 橘も黄の言葉の後にカズイを叱咤するように話す。
「‥‥お前に何が分かるんだよ。あの子の事が夢にまで出てきて‥‥」
 髪をぐしゃりと掻きあげながらカズイが苦しそうな表情で呟く。
「‥‥俺にしてみれば『それがどうした』ってところだな」
 橘は呟くと、カズイに背を向けて歩いていく。
「貴方は何処を見ているの? まだ‥‥貴方は何も失っていないでしょう?」
 海音の言葉にカズイは無言のまま、目的の廃工場へと歩き出した。


●目的地到着――カズイの意思は?

 今回、集まった能力者達は念のために班を二つに分けた。
 A班:威龍、ヴァイオン、橘、海音。
 B班:シュヴァルト、聖、黄、イレーネ。
「カズイに聞きたいのだけど、貴方はキメラとの戦闘に加わるのかしら?」
 海音がカズイに問いかけると「‥‥あぁ」と剣を握り締めながら呟き、答える。
「じゃあ、僕たちと同じA班ですね」
 にっこりと笑ってヴァイオンがカズイの隣に立つ。
「そういえば、何でカズイさんはこの仕事を請けたんですか?」
 ヴァイオンが問いかけると「友人が持って来た仕事だ」と素っ気無い言葉を返す。
「とりあえず、俺からの要望としては、戦場に立ったら自分が出来る最善の方法を取ってくれ、俺からはそれだけだな」
 威龍がカズイに話しかけ「‥‥あぁ‥‥」と重い言葉を返した。
「この工場だね」
 話しながら歩いていると、目的の工場跡地が見えてきた。
 しかし――‥‥荒廃した工場跡地から感じるキメラの気配は1体だけではなく、複数いるように見受けられる。
「1体以上か、厄介やけど1班で1体を倒せば問題ない事や」
 黄の言葉に「2体だけだったら、の話だけどな」とイレーネがアサルトライフルを手に持ちながら呟く。
「カズイさんには二人の護衛を頼みたいんですけど、宜しいですかね? 僕らは前衛につきますので」
 威龍に視線を向けながら、ヴァイオンがカズイににっこりと笑みを浮かべながら問いかける。
「あ、あぁ‥‥」
 自信喪失のためか、剣を持つ手が小刻みに震えるカズイに「宜しくお願いします」と呟き、キメラが潜む工場跡地へと歩き出した。


●キメラ殲滅作戦開始!

「左右に1体ずつ、ですね」
 工場跡地に入ってすぐ、シュヴァルトは視線だけを動かして、キメラの位置を把握した。左右から今にも自分達に襲い掛かってきそうな犬型キメラが此方を見て唸っている。
「左右からと言うことは両方に一気に飛び出せば、1体ずつ片付けられるという事だな」
 イレーネの言葉にA・B両方の班の前衛組が首を縦に振り、それぞれが相手するキメラの前へと飛び出していく。

 まず、A班はヴァイオンと威龍の二人がキメラAに向かって攻撃を開始する。橘は後衛から、コンポジットボウで援護射撃をして、海音はいざと言うときの為に待機と言う形を取っている。
 そして、もし後衛にキメラが来たら、二人を助けるのはカズイの役目――‥‥。
 橘は前衛の邪魔にならぬよう、そして援護となるように的確に矢を放っていく。
 しかし―――‥‥キメラの標的がいきなり変わり、カズイのいる後衛へと向かって走り出してくる。
「チィッ‥‥」
 威龍が忌々しげに舌打ちをしながらキメラを追いかける。今回のキメラは鋭い牙を持つ、恐らくそれに傷つけられれば軽い傷では済まされないだろう。
 だから、威龍もヴァイオンも牙に気をつけて戦っていた。だが、その気をつけた時に出来た一瞬の隙を突いてキメラは後衛の方へと走り出したのだ。
「流石に矢だけでは射殺せねぇか‥‥」
 橘はコンポジットボウで攻撃をするが、対象物が左右に動きながら此方へ向かってきているので、狙い通りに矢を当てることが出来ない。
「カズイ! 此処を切り抜けられるのはファイターである貴方だけなのですよ? それに――‥‥貴方はこの場所でも自分の心に傷をつけてしまうのですか?」
 海音の言葉にハッとカズイが顔をあげ、そして剣を強く握り締める。
 カズイは「此処で逃げたら――俺は一生駄目になる」と呟き、剣を振り上げる。
 そして、カズイが斬りつけるのと、前衛組が追いついて攻撃するのが同時だったため、キメラは血を噴出しながらその場に倒れたのだった‥‥。
「‥‥このキメラは限りある生の中、何を見たのかしら」
 海音が倒れるキメラを見て、小さく呟いた。
「残るキメラは1体――‥‥か」
 威龍は息を整えながら、キメラと交戦中のB班を見ていた。

「此処からなら状況がよく見えるな」
 工場の中、少し高い場所からイレーネがアサルトライフルを構えながら呟く。
「ふぅ‥‥戦闘は初めてやけど、こんなん野放しにしとったらえらいことやん」
 黄は独り言のように呟きながらファングを装備し、キメラを見る。今回は爆発物があるかもしれないという事前情報があったため、無理な戦いは出来ない。
 B班の作戦は聖と黄が前線に立ち、イレーネが後衛から援護射撃をする。そしてシュヴァルトはイレーネにキメラが向かってこないように護衛の役割をしていた。
 もちろん、シュヴァルトも副兵装として持っているハンドガンで援護射撃を行い、前衛組を助けていた。
「どうか‥‥皆さんにご武運を――」
 シュヴァルトは首から下げた黒い十字架を額にあて、祈りながら呟き、ハンドガンで応戦する。
 暫く交戦を繰り返していると、イレーネのアサルトライフルがキメラの目を撃ちぬく。
 それを見たシュヴァルトはその場を離れ、武器をソードに持ち替えて、前衛組に加勢に向かう。
 キメラは向かってくるシュヴァルトに鋭い爪で引き裂こうとするが、片方の目を失っているため、遠近感がつかめないのか、空気を切り裂く。
「甘いっ!!」
 シュヴァルトが叫び、その攻撃にあわせるように聖は足技で、黄はファングでの攻撃を繰り出す。
「グオオオオオォォ‥‥」
 キメラは三人からの攻撃にA班が倒したキメラ同様に血を噴出し、地面に突っ伏したのだった。


●作戦終了、今後のカズイは――?

「俺は‥‥まだ傭兵を続けて、いいのかな‥‥」
 震える手を握り締め、カズイが小さく呟く。
「ぬしが守れなかった子――ぬしは守ろうとして守れなかったんやろ? 最初っから目をつむって見殺しにするんと、どっちがええんや?」
 未だ不安の残るカズイに向けて、黄が真剣な顔で問いかける。
「ぬしが死なせてしもうた子もおれば、ぬしのおかげで助かった子もいるはずや、そしてこれからも、ぬしが傭兵を続ければ助けられる子もな」
 黄の言葉にカズイは涙を流し、俯いている。
「一度も失敗しない者はいない‥‥だけど、どん底を見ない人間は何も知らない。失敗から何を学び取り、繰り返さない為に気をつけることが重要なのよ?」
 海音がカズイを諭すように優しく問いかける。
「最後まで生きてみな‥‥それが亡き者に対しての供養になるんじゃねぇのか?」
 橘の言葉に「そうですよ!」と聖も首を大きく振って答える。
「失敗は終わりじゃないですよ! そこで終わりにしちゃ駄目なんです。明るくいきましょ?」
 ね? とカズイに話しかける聖は本当に心から笑っているのだろう、迷いを微塵も感じさせぬ笑顔だった。
「悔やみ続けるのは貴方の自由です。ですが、何時までもそれでは助けられるものも助けられなくなります」
 ヴァイオンがカズイに向けた言葉を呟いた後「‥‥ずるい言い方ですね、これは」と自らの言葉に苦笑する。
「心の傷は誰かに癒してもらうのではない、自らが立ちなおらない限り、次へと進むことなど出来ぬのだよ」
 イレーネもカズイを励まそうと言葉を紡ぐ。
「今回、自分はカズイさんがいて助かりました――‥‥経験者の方がいるだけでも、心強いものですから」
 シュヴァルトの言葉に、カズイは「‥‥ありがとう」と言葉を返す。
「これから、俺はあの子の墓へ行ってくる‥‥守れなかった『ごめんなさい』と次に同じことを繰り返さぬよう『頑張る』という事を伝えたいから‥‥」

 そう言って、困ったように笑うカズイを見て、能力者の誰もがこれからのカズイは大丈夫だろうと思ったのだった‥‥。


END