●リプレイ本文
―― 捕まった褌男 ――
今回の事件、それは能力者が退治した筈のキメラが再び動き出した事。
そして‥‥褌一丁で「俺は能力者だ!」と主張したが警察に信じてもらえず、拘置所で現在しくしくと泣いている大石・圭吾(gz0158)の保護だった。
「あは、大石さんも今まで捕まらなかったのがある意味で不思議な人ではあるけどね」
香坂・光(
ga8414)が苦笑しながら呟く。
「市街地でキメラの撃破を確認せずに味方を置き去りにして戻ってくるとは。その原因が‥‥大石さんですか」
辰巳 空(
ga4698)は盛大なため息を吐きながら怒ったような、呆れているような、そんな表情でポツリと呟いた。
「光さんと同じく、いつかはこんな時が来るような気がしてたけど‥‥圭吾さんはうちの従妹に似てる所があるし、以前酷い事をしたから何とかして助けてあげないと‥‥」
ティム・ウェンライト(
gb4274)が拳をぐっと握り締めながら覚醒を行う。此処だけの話だが大石はきっとティムの覚醒した姿――‥‥つまり女性時の姿しか頭にないような気がするのは気のせいだろうか。
「大石様‥‥捕まっても不思議と思われないとは、一体どのような方なのでしょう」
皇 織歌(
gb7184)が首をかくりと傾げながら呟く。
「でもキメラは弱ってるけれど、まだ生きてるのよね? 傭兵の信用に関わる問題だわ。依頼者にしっかりと誠意を見せて、信用を回復しないといけないわね」
シャイア・バレット(
gb7664)が腰に手を当てながらため息混じりに呟く。確かに彼女の言う通り、傭兵の信用がガタ落ちになってしまってはならない。
しかもそれが能天気な褌BAKAの為だけに落とされたとなっては絶対にならない。
「‥‥‥‥」
能力者達の様子を見たまま黙っているのは相澤 真夜(
gb8203)だった。彼女は今回が初めての任務らしく、勿論キメラとの戦闘経験もない。
(「みんな良い人達みたいだし、危なくなったら助けてくれそうだからちょっと安心。色々言われてるけど、大石さんとも仲良く出来るといいな」)
相澤は心の中で呟く。しかし彼女はまだ予想もしていないだろう。その『大石』が褌BAKAの無駄爽やかな熱血漢を通り越したウザ男だと言うことを。
「とりあえずキメラ退治後に大石を迎えに行けばいいんだな? いい加減なキメラ退治のせいで怪我人でも出したらマズいしな、そんな事になったら警官や住人達からの印象は最悪になる」
大石の保護の為にもまずはトラブル解決、天道・大河(
ga9197)が真面目な表情で作戦内容を確認する‥‥褌姿で。気がつけば香坂やシャイアなどもサラシに褌という格好をしており、シャイアに至っては『もうちょっと隠しなさい!』と言いたいほどだ。えろな男たちは「ひゃっほぅ」と喜ぶかもしれないが、果たしてこのメンバーで大石を無事に拘置所から脱出する事が出来るのだろうか?
「駄目だ、コイツら‥‥早く何とかしないと‥‥」
堺・清四郎(
gb3564)が頭を抱えながら心からの言葉を漏らす。
「まさか軽犯罪法違反で捕まる能力者がいるとはな‥‥前代未聞だな」
堺は呟き、能力者達と一緒にキメラ退治(ついでに大石保護)の任務へと出発したのだった。
―― 大石はとりあえず置いといて、まずはキメラ退治 ――
「とりあえず本部を通して大石さんの身柄引き換えに必要な書類や指令書を出してもらいました」
辰巳が書類の入った茶封筒を見せながらため息を吐く。本部からの書類があれば大石も能力者であると分かり、警官達も大石を釈放してくれる事だろう。
それから高速艇で目的地へと向かい、能力者達は大石が捕まっている町へと到着した。
「あぁ、あなた達がキメラを退治してくれる人ですか。今度はちゃんと退治してくださいよ」
住人の一人が嫌味を含ませながら能力者達をキメラがいる場所まで案内したのだった。嫌味を言われて能力者達は少しばかり嫌な気分になったけれど、新人とは言え自分達と同業者がした事なのだから仕方ないと思う事にした。一般人にとって能力者は同じようにしか見えないだろうから。
「この奥の公園みたいだね、大石さんは拘置所の中とは言え、危険はないだろうから緊急性の高いこっちから片付けていかないと‥‥」
ティムが歩きながら呟くと、荒く息をする音のような声が能力者達の耳に入ってきた。
「あらあら、かなり弱った鳥さんですわね」
皇がくすくすと笑いながらガトリング砲を構えて呟く。
「とりあえず、邪魔なキメラには早々にご退場願いましょう」
辰巳は呟きながら『瞬速縮地』を使用してキメラとの距離を一気に縮め『朱鳳』で攻撃を仕掛ける。
そして辰巳がキメラから離れるとすぐに、皇が『M−121ガトリング砲』で後衛からキメラが動けぬように間髪いれずに攻撃を仕掛けた。今は地上に収まっているけれど、万が一飛んだ時が厄介なので皇は羽の付け根部分を集中的に狙い攻撃する。
「大石さんを保護する為にも、さっさとやられてもらうよっ」
香坂は『機械剣 莫邪宝剣』を構えて、一気にキメラへと近寄る。キメラも弱っていなければ空に逃げる事が出来たかもしれないが、既に弱っており、恐らくは立っているのもやっとな状態。そんな状態で香坂から逃げる事など出来るはずもない。
「これでトドメになると嬉しいんだけどなっ」
香坂は『両断剣』を使用しながら『流し斬り』で攻撃を仕掛け、シャイアの『ガトリングシールド』での援護攻撃の後に『スマッシュ』で追撃する。
しかし元々の生命力が強いのか、キメラは弱っているけれどまだ倒れる事はしなかった。
「んぅ‥‥もう、胸がキツいんだから早く倒れて欲しいわね」
シャイアはため息混じりに呟き、自分の胸を締め付けるAU−KVを少しだけ忌々しく思った。
「よし、私も頑張ろう」
相澤は『瞬天速』を使用しながらキメラとの距離を詰めて『ファング』で攻撃を仕掛ける。彼女も羽を重点的に攻撃を仕掛けており、キメラの翼は既にぼろぼろになって空を飛べる状態ではない。
「踏み込みすぎは恐怖の表れだ、一呼吸して周りをよく見ていけ」
前へ出すぎている相澤を見て堺が声をかける。
「は、はい」
相澤は半歩下がり、それと同時に堺が前へと出る。そして『蛍火』で攻撃を仕掛けた。もし相澤があのまま先ほどの場所にいれば、キメラからの攻撃を受けていたかもしれない。
なぜなら、堺が攻撃を仕掛けたと同時にキメラの腕が堺の頬を掠めたからだ。
「俺も行くぜ!」
天道が『棍棒』を振り回しながらキメラへと攻撃を仕掛ける。ちなみに彼は最近『棍棒』を使っての棒術に凝り始めたらしい。仲間達を自らが盾となって庇い、勇敢に棍棒を振りかざしながら攻撃していく‥‥褌一丁の能力者。普通の格好をしてれば『きゃ☆ 天道さんたらかっこいいわ!』となる場面かもしれないのだが褌が全てをぶち壊している事に彼はまだ気づいていない。
「さて、そろそろ退治出来るかしら?」
ティムは呟くと『イアリス』を構えて『迅雷』でキメラの懐へともぐりこみ『円閃』と『刹那』を使用しながら攻撃を仕掛ける。
その攻撃で既に限界を超えていたキメラは悲鳴をあげながら地面へと倒れこんだのだった。
そして相澤は大石を引き取りに行く前にちゃんとキメラが退治されているかを確認したうえで警察署へと向かったのだった。
―― 僕たちの、私たちの、大石君を返して! ――
能力者達はキメラ退治を終えた後、一番問題の大石を引き取るために警察署へと足を運んでいた。
「ULTの天道・大河だ! 此方で捕まっている大石・圭吾を保護しに来た!」
ちなみに俺は怪しい者ではない、言葉を付け足しながら警察署の中をずんずんと突き進んでいく天道だったのだが――誰が見ても怪しい人物と言うのは言うまでもない。
「またコレ系の不審者か、勘弁して欲しいよな」
警官の一人が盛大なため息を吐きながら天道を「はいはい」と言いながら入り口で止める――が、続いてやってきた能力者達を見て警官はギョッとした。
香坂のさらしに褌姿は健康的で百歩譲って許せるのだけれど、シャイアのきわどい褌姿は警官も鼻血を出血大サービスで噴出しながら「ちょ、ちょっと待て」と止める。
「あら、ここにフンドシ男がいるって聞いたのだけど‥‥私もフンドシ男と同じ傭兵だけど、駄目かしら?」
シャイアは無駄にお色気ポーズで警官へと迫る。警官といえど一人の立派な男である。綺麗な女性、お色気な女性に心揺り動かされるのも当たり前というわけで‥‥。
「真に信じがたいかもしれませんが、あれでも、あれでも立派な一人の傭兵なのです。書類をお渡ししたいので彼を捕まえた人と会わせてもらえませんか?」
他の能力者達に説明を任せるといつまで経っても入り口から進めなさそうなので辰巳が前に出て説明をすると、警官は訝しげに「‥‥はぁ」と曖昧な言葉を返してきた。
それから能力者達は会議室の一つに通され、大石を捕まえた警官がやってきた。
「捕まるまでの事になるなんて、一体どんな状況だったんですか?」
辰巳が問いかけると「褌一丁で何か褌の歌を歌って、住人に褌を勧めていたんです」とさらりと言葉を返してくる。
つまり、大石‥‥もといBAKAは自業自得なのである。ただでさえ褌一丁と言う格好は不審な目で見られるというのに、BAKAは褌を勧めて住人から通報されたとの事。
「あは、本当のところ反省する為にももうちょっと捕まっててもいいような気がするけど‥‥でも大石さんだし、反省しないだろうねー」
香坂が苦笑気味に呟き、能力者達は「あぁ、確かに」と納得するように首を縦に振った。
「それではご案内しますので‥‥」
警官に案内されて拘置所の中を歩く能力者達だったが近づくにつれて「おうおうおうおうおう」と耳を塞ぎたくなるような泣き声が聞こえてくるのは何故だろうか。拘置所の一番奥、そこにいたのは膝を抱えて泣き喚く見苦しいBAKA、ただ一人だった。
「‥‥こんな格好してたヤツが今まで捕まらなかったのは奇跡というべきか‥‥」
堺は大石を見て首を横に振りながら「やれやれ」と言葉を付け足す。
「やっほー、大石さん♪ 意外とその中似合ってるんじゃない?」
けらけらと笑いながら香坂が牢の中の大石を見て話しかける。
「貴方を此処から連れ出しに来たのですが――コレを着ないと連れ出す事は出来ません」
辰巳がすちゃっと取り出したのは書類と一緒に用意してきたスーツ。
「その後でこれを着るんだ」
真面目な顔で天道が話に入ってきて差し出したのはキメラっぽい鳥の着ぐるみ。スーツを着た上にこんなものを着れば軽く死ねるのは間違いないだろう。
「えぇ、いやだぁ」
ぶー、と大石は口を尖らせながら反論する。
「大石、羞恥心という言葉を思い出す為に病院行くぞ」
堺が真面目な顔で話しかけるのだが「俺はこれ以上ないくらいマトモなんだぜ!」ときらんと言葉を返してくる。これ以上ないくらいのBAKAの間違いだろう。
「いつも褌一丁なんかでいたら結婚なんぞ出来んぞ。警察にモテるだけだ」
「えぇ! 美人婦警にモテるのか、褌は! 流石だな、褌!」
一人で勝手に良い方向へ勘違いする大石を見て堺は格子の隙間から無言で一撃入れる。
「ぐっふぅ!」
オーバーアクションで派手に吹っ飛ぶフリをしてみせる大石に余計に苛立ちが堺の中で渦巻くのが分かる。
「でも俺にはキミがいるからいいんだっ」
きらきらと目を輝かせる大石の視線の先にいるのは、覚醒したままのティム。不本意ながら勝手に大石の初恋の人認定されてしまった哀れな彼だ。
「え、私‥‥!?」
こくん、と可愛らしく首を縦に振る大石だったが、これは可愛い子がするから萌える仕草であって、こんなBAKAがしても殺意が芽生えるだけである。
「あら、今回は赤い褌なのですね」
皇がにっこりと白い絵の具と筆をすちゃっと取り出しながら微笑む。そして看守に言って鍵を開けてもらい、赤い褌に彼女が何をしたのかといえば――‥‥。
「ふぅ」
いい仕事したぜ、と満足気にきらきらを背負いながら彼女は天井を見上げる。彼女がしたこと、それは赤い褌に『漢』と白い文字で書いたことだった。
「な、なななななな、何をするんだ!」
「何って‥‥文字を書いてあげたのです。理由は書いてみたかったから、ですわね」
にっこりと日本人形のような綺麗な微笑を浮かべながら皇は言葉を返したのだった。
後日、大石と大石を置いていった能力者達を集めて社会奉仕の罰を与えることにした。
大石はもちろんスーツを着た上に着ぐるみを着用、炎天下の中で草むしりをさせられている。
「うん、大石さんは褌だけどイイ人なんですよ、きっと‥‥仲間にも褌の人がいるんです、意外と普通なんですよ、多分‥‥」
相澤は大石を見ながら、まるで自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟く。
「えっと、ごみ捨ててきます」
袋いっぱいに詰められた雑草を持って相澤は焼却炉へと歩いていく。
今回、大石を置いていった能力者達には香坂が用意した褌を着用させられている。
「大丈夫、使用済みではなく新品だよ?」
何処か視線を逸らしながら言われる香坂の言葉に「本当に新品なんだろうか」という疑惑が残るが、それは彼女しかしらない。
「お、大石‥‥俺は不思議なことがある‥‥何故俺もトランクスはいて社会奉仕しているんだろう」
そう、何故か監視役としているはずの天道もトランクス着用して草むしりに勤しんでいるのだ。
「俺に、聞く、な‥‥喋るのも、暑い‥‥くそぅ、親父の遺言が、俺の誓いが」
ぶつぶつと暑さに頭をやられたようで大石が呟いている。ぜはー、ぜはー、と息を荒く乱してイイ感じに危ない人になりかけているのはきっと気のせいだろう。
「‥‥別な意味でトラウマにならなければいいが‥‥」
サボらないように監視、そして差し入れなどを行っている堺が新人能力者達を見ながら呟いている。新人能力者達、彼らは「大石怖い、大石怖い」とぶつぶつと呟きながら此方もイイ感じに壊れかけている。
「圭吾さん、ほらもう少しだから頑張ってね」
ティムが監視役と言いつつも手伝いながら今にも倒れそうな大石を励ます、そして大石は「もしや、俺の事が好きなんだろうか」と派手に勘違いを起こすのだ。
「それに何でシャイアさんも?」
ティムが首を傾げながら問いかけると「同じ傭兵として私も責任を感じちゃうんだもの、だから私も奉仕させていただくわ」とシャイアは言葉を返した。
そしてほぼ社会奉仕が終わりかけた頃「あ、風が気持ちいいな」と髪を揺らす風の心地良さに相澤は浸るのだった。
END