タイトル:Saga―einherjarマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/07 03:44

●オープニング本文


戦死した勇者の魂は、戦乙女によって導かれてヴァルハラへと行くのだとか‥‥。

勇者達は『エインヘリャル』と呼ばれ、ヴァルハラの館に集められる。

そして、神の剣となって来たるべき戦いの時の為に自らの腕を高めているのだと言う。

※※※

小さな町で起きた大きな事件。

北欧風の服装をした人型キメラが町の住人を数名殺したことが始まりだった。

「被害者は4名、逃げ遅れた一家が犠牲になったみたいね――子供もいるわ」

女性能力者はため息混じりに資料を見ながら呟く。

「キメラも3体か――‥‥」

現地の住人が逃げる間際に写真に収めていたらしく、3体のキメラが確認されていた。

「暗くて分かりづらいけど、一人は確実に弓での攻撃をしてくるみたいね」

女性能力者が写真を指しながら呟き、男性能力者が写真に視線を移すと確かに分かりづらいが弓のようなものを構えている姿が写っていた。

「まるでエインヘリャルね」

「え?」

「自らの腕を鍛える為に、お互いが殺しあう――北欧神話にあるヴァルキリーによって導かれた勇者の魂」

呟きながら女性能力者は一枚の写真を男性能力者に見せる。

そこに映されていたものは――お互いが傷つくのも構わずに破壊を繰り返すキメラの姿。

「なんだこれ‥‥」

「知識も何もない、目の前にあるモノを破壊しろって奴かしら――例え同じ場所に放たれたキメラでさえも」

女性能力者の言葉に男性能力者は「獣だな、いや――獣の方がまだ仲間意識があるか」と呟き、ため息を吐いたのだった。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
柊 沙雪(gb4452
18歳・♀・PN
結城悠璃(gb6689
20歳・♂・PN
結城 有珠(gb7842
17歳・♀・ST

●リプレイ本文

―― 勇者を討つ者達 ――

「互いが傷つくのも構わないって、ある意味都合ヨイ気もするケド‥‥行動が予測し難いって点では厄介なのカナ」
 ラウル・カミーユ(ga7242)は写真資料を見ながらため息混じりに呟く。
「ま、とにかく‥‥破壊、殺戮をこれ以上させないように、しっかり倒さないとダネ」
 ぱたん、と資料を閉じる。
「確か、エインヘリャルは設定だけで最後はあまり明らかにされてなかったな――つまり、一山幾らのモブキャラという訳か」
 九条・命(ga0148)も資料を見ながら呟く。
「味方も平気で巻き添えにして、あまつさえ子供まで殺める、とんだ勇者もいたものです。カミーユさんの言う通り、これ以上の被害を出さないように倒してしまわねば」
 旭(ga6764)が呟くと「‥‥英雄ではないんじゃないかしら‥‥」と紅 アリカ(ga8708)が小さく言葉を返す。
「‥‥どちらかと言えば、英雄になり損ねたって感じかしら。ま、誰であろうとキメラは倒すのみ、ね‥‥」
 紅の言葉に「そうですね、これではただの蛮勇です」と柊 沙雪(gb4452)がポツリと言葉を返した。
「でも、写真を見る限りでは随分とまた‥‥派手にやってくれてますね。まぁ、その分見つけやすくて助かりますけど‥‥」
 結城悠璃(gb6689)が苦笑気味に呟く。確かに写真の惨状を見る限り、現場は酷い有様、しかも数日前の写真なので現在はもっと酷い事態になっている事だろう。
(「後片付けが片付けですね、これは」)
 悠璃はため息混じりに呟くと顔を真っ赤にしている少女に気がつく。少女、とは言っても悠璃より2つか3つほど年下なだけだろうが。
「もしかして、初めての任務?」
 悠璃が結城 有珠(gb7842)に話しかけると「は、はい‥‥は、初めてです」と有珠はおどおどとした口調で言葉を返してくる。
「な、何か私にも出来ればいいんですけど‥‥」
 有珠は『超機械 ミルトス』を持って緊張の為か顔を真っ赤にして、もじもじとしながら小さな声で悠璃に呟き、現地へ向かう高速艇へと乗り込んで出発したのだった。


―― 堕ちた勇者 ――

 今回はキメラが三体という事から能力者達は戦闘時に班を三つに分けて行動する事にした。
「は、班分けで対処‥‥いいと思います‥‥周りに気を配って‥‥奇襲に気をつければ‥‥あ、す、すみませんっ」
 有珠は言いかけて慌てて謝る。自分より経験のある傭兵に意見をする事が失礼と思ったからだろう。
「謝る事じゃないですよ、意見を言い合うというのは良い事だと思いますから」
 柊が言葉を返すと「あ、ありがとうございます」と有珠は照れたように俯いて言葉を返してくる。
「しかし、至る所がボロボロだな。キメラの悲惨さを物語る、か」
 九条は瓦礫となった壁を見ながらため息混じりに呟く。道路は割れて、建物は倒壊しているものも少なくはなく、犠牲となった一家以外にも怪我人が出たのか真新しい血痕がこびりついている場所もある。
「破壊の跡を辿ってけば、見つけられるカナ?」
 ラウルは破壊された壁にそっと触れながら点々と続く破壊の道を見る。様々な方向に破壊は続いているが、まるで破壊の一本道のように向こう側へと続いている。
「‥‥剣の傷、それに弓矢、どうやらキメラは団体で行動しているみたいね」
 紅が木に付けられた傷と地面に落ちている弓矢を見ながら能力者達に話しかける。
「一緒に行動しているなら、発見するのは早いかも―――」
 悠璃が呟いた時だった、少し先の方からドンと何かが壊れるような音が響き、木にとまっていた鳥達が一斉に飛び去っていく。
「ど、どうやら‥‥向こう側にいるみたい、ですね‥‥」
 有珠が遠慮がちに呟き、能力者達は走って音がした場所、鳥たちが飛び去った場所へと向かう――‥‥。
 そこにいたのは、3体の人型キメラで剣を持ったものが2体、弓を構えているものが1体存在した。
「やれやれ、本当に敵味方の識別も出来ないようですね」
 旭はため息混じりに呟く。今のキメラの姿、それはお互いがお互いを傷つけあったのか既に傷を負って、血が滴るキメラもいた。
「それじゃ、分かれて退治ダネ」
 ラウルが呟き、能力者達は作戦上で決めていた班へと分かれて自分達が担当するキメラの所へと向かったのだった。

※A班・九条、旭、有珠※
 剣を携えたキメラの一体を三人が担当する事になり、有珠は後ろに下がって九条と旭の支援に徹する事になっていた。
「え、えと、強化‥‥かけます」
 有珠は呟きながら『練成強化』で九条と旭の武器を強化する。
「英霊を模したキメラと言えど、手加減はしない」
 九条は短く呟くと『瞬天速』で間合いを詰めて『二連撃』を使用しながら攻撃を仕掛ける。一撃目は剣を持った腕を狙ってショートアッパーで打ち上げ、続いて二撃目はそのまま踏み込んで裏拳を顔面に食らわせる。
「敵味方区別なく攻撃して、子供まで殺す――そんな勇者は要りませんよ」
 旭は小銃『S−01』で射撃攻撃を仕掛けながら、九条が攻撃をしやすいようにキメラの隙を作っていく。
 そして九条の攻撃が終わった後は、追撃するように武器を『月詠』に持ち変えて『流し斬り』で攻撃を仕掛ける。攻撃が終わり、後退する際にキメラからの一撃を受けるが浅い傷で戦闘に支障が出るようなものではなかった。
「あ、だ、大丈夫ですか? すぐ治療しますからね」
 有珠は焦ったように『練成治療』で旭、そして九条の受けた傷を癒していく。
「此方は行き止まりだ、お引取り願おうか」
 後方にいる有珠を狙ってキメラが攻撃を仕掛けようとしたけれど、九条、そして旭がそれぞれ攻撃を行い、有珠から引き離す。
「あ、ありがとうございます」
 有珠が礼を言うと九条は「構わん」と短く言葉を残して吹き飛んだキメラを追う。
「相手が剣を振るうより先に拳を叩き込む事は難しくはない、天に還れ!」
 九条は叫びながら『キアルクロー』を装備した手でキメラに一撃を叩き込む。そして旭は『流し斬り』を使用してキメラの背後へと周り、死角から攻撃を仕掛ける。既に限界ギリギリだったキメラは血を大量に吐いて地面へと倒れこんだのだった。

※B班・ラウル、紅※
「本当に知恵はないんだネー」
 ラウルは小さく呟く。彼は今、キメラに気づかれぬように『隠密潜行』を使用しながら瓦礫の影などを移動しているのだが、ふらふらと歩くキメラは誰もいない場所を狙ったりなどキメラとしてさえもマトモに機能していない状況を見た。
「さて、そろそろ行くヨ」
 ラウルはキメラの背後辺りで立ち止まり『アサルトライフル』でキメラの肩口を一発『急所突き』を使用して狙い撃つ。
 突然の攻撃にキメラは驚いて慌てて後ろを振り返るのだが――これも彼の予想範囲だ。
「はーい、こっちだヨ‥‥っと!」
 予め『アサルトライフル』の二発目は『ペイント弾』を装填しており、ラウルの放ったペイント弾はキメラの顔面へと命中してキメラから視界を奪う。
「‥‥懐に入られた弓使いの貴方はどう対処するのかしらね?」
 キメラがラウルの方向を向いたおかげで今度は紅がキメラの背後を取る形になり、紅が至近距離になるまで距離を詰めた後に小さく呟く。
 そして、紅は武器を狙って攻撃を行い武器の無効化を狙う。例えどんなに強いキメラであろうと武器を無効化してしまえば取るに足らないものだろうから。
「くっ‥‥」
 至近距離で矢を放とうとするキメラを無理矢理に『ガラティーン』で攻撃する。その際に紅の頬を矢が掠めて、腕に刺さったけれど微々たる傷と判断して彼女は攻撃を続ける。
「アリカ、下がって!」
 ラウルが大きな声で叫んだ後に紅がキメラから離れる。それと同時にラウルの洋弓『アルファル』の矢がキメラへと突き刺さる。彼は『影撃ち』を使用しながら攻撃を行った為にキメラは攻撃を避ける事は出来なかった。
「弓の扱いなら、負けないモンねっ」
 どこか自慢げにラウルが弓を構えたままキメラへと言葉を投げかけ、続けて肩や腰などを狙って攻撃をする。
「人型ってコトは、力を出す構造は変わらないかもしれないしネ」
 ラウルが攻撃を行った後に紅がキメラに攻撃する暇を与えずに剣での攻撃を行う。既に弓を使う事も出来ない状況になっているキメラは為すすべもなく二人の攻撃を受け続け、地面に倒れて動かなくなったのだった。
「北欧の英雄とは程遠い、獣にも劣る存在だネ。そう作られたのは哀れだけどサ」
 動かなくなったキメラを見ながらラウルは小さくため息混じりに呟いたのだった。

※C班・柊、悠璃※
「その程度の力で、知恵も恐怖も無く勝てると思わないことですね」
 柊はキメラの剣を二刀小太刀『疾風迅雷』で受け止めながらキメラへと言葉を投げかける。言葉など通じないと分かっていても彼女は言いたかったのだろう。
 キメラは大きく剣を振り上げ、その反動で自分自身をも傷つける様を見て、柊は眉を顰めた。
「自分が傷つくのも厭わず攻撃なんて、獣以下ですね‥‥」
 どこか哀れみと侮蔑の感情が混じる言葉を投げかける。その時、キメラは自分の武器を柊に投げつけて攻撃を仕掛けようとしたのだが‥‥。
「させませんっ!」
 悠璃が『【OR】陽炎』でキメラに攻撃を仕掛けて、キメラが剣を投げつけるのを阻止する。
 そしてそのまま攻撃を仕掛ける。その際に僅かに攻撃方法を変えてキメラのバランスが崩れるのをひたすら待つ。
「人型ならば、急所も同じ所にありますよね」
 柊は短く呟きながら肋骨の隙間を狙って小太刀を突き刺す、そして悠璃の攻撃のおかげもあってかキメラはグラリとバランスを崩して倒れそうになる。
(「‥‥崩れた!?」)
 バランスが崩れたのを見逃さなかった悠璃は「奔れ、瞬影!」と叫びながら『瞬天速』で間合いを詰めて『二連撃』を至近距離から叩き込む。
 これは悠璃の『瞬影』と言う我流技で悠璃の小柄な身体と瞬発力が合わさってこそ生かされる技だ。
 そして悠璃とほぼ同時に柊も『二連撃』と『急所突き』を使用してキメラを攻撃し、二人の技をマトモに受けたキメラは呻きながらドサリと地面に倒れ、二度と起き上がってくる事はなかったのだった。


―― キメラ退治を終えて ――

「誰が作ったのかは知らんが、悪趣味なのは先日逝った奴だけで十分だ」
 九条は拳を強く握り締めながら呟く。彼の脳裏を掠めるのは先日彼を含む能力者達が退治したヨリシロの事。
「あ、あの‥‥だ、大丈夫でしたか?」
 有珠が旭に問いかける。彼は戦闘中、有珠に向かってくる攻撃から彼女を護ったために多少傷が目立っている。
「これくらいなら大丈夫だよ」
 旭が苦笑しながら言葉を返すと「あ、ありがとうございました」と有珠は丁寧に頭を下げて攻撃から護ってくれた事のお礼を言った。
「いいって――そういえば‥‥」
 ポツリと旭は思い出したように呟く。
「ど、どうかしましたか?」
 有珠が首を傾げながら問いかけると「あれ」と旭はキメラ達の死体を指差す。
「そういえば、エインヘリャルって、夕方になると生き返るって話ありませんでした?」
 旭の言葉に「えぇ、生き返っちゃうのかナ‥‥」とラウルがキメラを見ながら言葉を返してくる。
「いえ、流石に伝説だけでの話だと思いますけど。そんなキメラの話は聞いたことがありませんし‥‥」
 旭も苦笑しながら言葉を返す。
「‥‥でも北欧系のキメラも多く存在するわよね、そろそろこの手のは大物が出てきても良さそうだけど‥‥ゼウスとか」
 苦戦は免れないでしょうけど、紅は言葉を付け足しながら呟く。
(「‥‥‥‥見張ってなくて大丈夫なのかな」)
 自分で大丈夫だろうと言いながらやはり心配なのか、旭は紅の言葉を聞きながら心の中で呟く。
「さてと、軽く後片付けをして、帰りますか」
 悠璃が大きく伸びをしながら呟くと「わ、私も町の人の手当てを、し、したいです」と有珠が軽く手を挙げて呟く。
 その後、能力者達は町の崩れた場所などの片付けを行い、有珠は怪我をした住人の傷の手当を行い、報告の為に本部へと帰還していったのだった。
 町から帰る間際、悠璃は『【OR】フラウト・トラヴェルソ』で犠牲となった者達が安らかに眠れるように鎮魂歌を奏でていた。


END