●リプレイ本文
―― カマ兄からの依頼 ――
今回はオカマ傭兵・鵺(gz0250)の双子の兄からの依頼。恐らく鵺を知る能力者達ならば兄弟がいた事、しかも実家がそれなりに裕福だという事は驚く事実だっただろう。
「‥‥鵺ちゃん‥‥どうかしたん、ですか?」
ルカ・ブルーリバー(
gb4180)がいつもと違う雰囲気を纏う鵺に気づいたのか服の袖をくいっと引っ張りながら首を傾げて問いかける。
「何でもないわ〜、心配してくれてありがと♪ それにしても‥‥竜二の奴ったら、相変わらず憎たらしいったらないわぁぁぁっ!」
きぃぃ、とハンカチを噛み締めて破りそうなほどに引っ張りながら鵺が男性特有の低い声で叫ぶ。
「まさか、兄妹いたとは、驚きましたが、いつにも増して疲れそうです」
榊 紫苑(
ga8258)が駄々っ子のように地団駄を踏む鵺を見ながら苦笑、そして大きくため息を吐きつつ呟く。
「何で僕はまた、鵺さんの仕事に来てるんだ‥‥」
効果音としては『ひゅるるるー』と木枯らし吹く音を背景に背負い、遠い目をしながらビッグ・ロシウェル(
ga9207)が呟く。傭兵業をしているとはいえ12歳の少年が全てを諦めるような瞳をしているのはどうなんだろう。
そして少年にそんな目をさせる鵺は人として、大人として存在価値があるのか不思議でならない。
「こうなったら今回こそアタシは結婚相手を見つけるわっ! それで竜二の奴をぎゃふんと言わせてやるんだからっ!」
鵺は拳を『ぐ』と強く握り締めながら大きな声で叫ぶ。確かに鵺が結婚相手(旦那)を見つけてきたら双子の兄も「ぎゃふん」と驚く事だろう。
「‥‥‥‥危険だ」
そんな鵺の様子を見ながらウルク・ルプセリオン(
gb4271)が少し離れた場所から小さく呟く。
どうやら本能が『鵺は危険』と彼に訴えかけているようでウルクは鵺に対して警戒を強める。
「あら、あらあら? カオルちゃんじゃないの。お久しぶりねぇ〜♪」
今給黎 伽織(
gb5215)に向かって鵺が手をぶんぶんと大きく振りながら話しかけるのだが‥‥「えーっと、どちら様でしたっけ?」と極上の笑みと共に言葉を返される。
「えええ、アタシの事を忘れちゃったのぉ!? ひ、酷いじゃないの!」
鬱陶しい程のオーバーアクションとさめざめと泣き真似をしながら鵺は言葉を返すと「あぁ‥‥思い出したよ」と今給黎は言葉を返す。
「確か野生に還って、オランウータンとお見合いしたんじゃなかったっけ? 破談になったの?」
「ひ、酷いっ!」
確かに少し酷い言い方だけど相手が鵺なので問題は無いだろう。それにしてもオランウータンにまで破談にされたとあってはもう生きていてはいけない気がするのは気のせいだろうか。
「ぐふふふふ‥‥今回も竜三の魔の手からメアリーのスィート・ダーリンなビッグちゃんを初めとした素敵な殿方達を見守らなくっちゃ!」
障子にメアリー(
gb5879)が物陰から男性陣を見つめながら「ぐふふ」と不気味な笑い声を上げている。彼女の言う『素敵な殿方』の中に依頼人は入っていない。鵺と同じ顔をしている事から彼女の趣味に入らないらしい。
「‥‥真の敵は誰なんやら‥‥」
流 星刃(
gb7704)が鵺を見ながら苦笑する。
「そこの可愛いきみ! 傷心のアタシを癒して頂戴っ」
鵺がよろよろとしながら流の所へとやってくるが「あー、うん。まぁ、頑張れ」と適当に流す。
(「‥‥我慢や、ツッコミ入れたいけど我慢や」)
ツッコミ所満載の鵺を前にして流はある意味自分との戦いを行っている最中だった。
「鵺さん‥‥私、鵺さんが自由にご実家に帰れるよう取り計らってもらえるよう、お兄様に頼んでみようと思っているんです」
石動 小夜子(
ga0121)が鵺に話しかけると「えぇ〜、別にいいわよ。あんな家になんて帰りたくないもの」と鵺からは言葉が返ってくる。
「とりあえず、遅くなると竜二の奴が煩いからさっさと適当にキメラ倒しちゃいましょ」
鵺が高速艇の方へ向かって歩き出すが、能力者達は心の中で同じ事を思っていた。
お前は毎回戦わないだろう――と。
―― 工事現場に現れた虎キメラを退治せよ ――
「そういえば仕事の報酬を『里中家帰宅許可』ではなく『スパ使い放題の権利』に変更してみては如何でしょう、もちろん予算全てお兄さん持ちで」
高速艇で移動中、ビッグが鵺に報酬変更を提案すると「それいいわね!」と鵺は携帯電話を取り出して竜二に電話をかけ始める。
「竜二? アタシ、別に家に帰らなくてもいいからスパ使い放題にしてよ。は? 予算全てお前負担に決まってんだろ。あ? 寝言は寝てから言え? きぃぃ、あんたって本当に嫌な性格ねっ!」
鵺は「ふんっ」と鼻息荒く電話を切る、会話内容を聞く限り報酬変更は出来なかったようだ。
今回の戦闘場所は平地だと言う事もあり、高速艇は限りなく現地へ近い場所へと停める事が出来た。
「見晴らしは良さそうだけど、念の為にな」
今給黎は呟きながら『探査の眼』を使用する。
「今回も僕はこんな立ち位置か」
ビッグは生ける屍となりながら小さく呟く。今回も彼と榊は鵺とメアリーを守る(狙われる)側となり、別な意味で危険に曝される羽目になった。
「キミ達の犠牲は無駄にしないよ‥‥」
無駄に悲しげな微笑をしたまま今給黎が呟き「しっかり捕まえて、離さないでいてくれると助かるな」と悲しげな微笑からイイ笑顔へと表情を変えて二人に言葉を投げかける。
「俺は‥‥戦闘に集中するから、あんた達は鵺に集中しててくれ‥‥」
ウルクが何処か哀れみを込めた視線で呟くと「あら☆ アタシに夢中なのねっ」と良いように勘違いした鵺がビッグと榊に抱きつき、メアリーが「竜三!!」とそれを戒めている。
(「‥‥うん。俺の一言で悪化したかもしれないが、俺じゃないからいいと思おう」)
ウルクは「ぎゃああああ」と叫ぶビッグの悲鳴を背中にキメラ退治に集中しようと再決意する。
それを面白そうに見ているのは流だった。彼は現在も自分との戦い真っ最中で、笑いたくても笑えない状況が続いている。笑ってしまったら最後、鵺に絡まれてしまうかもしれないと考えたからだ。
(「笑うな、笑うな俺、笑ったら終わりだ」)
拳をぷるぷると震わせながら流は耐えている。
そんな時だった、ぐるる、と獣の唸るような声が聞こえたのは。
「そっちだな、とりあえず生贄を除いた6人で対処しよう」
今給黎が榊とビッグに視線を向けながら呟く。だが彼は忘れている。メアリーも『戦闘要員としてカウントしてはいけない』と言うことに。
だから実質5人で戦闘を行わねばならないのだ。
「ぐふ、ぐふふふふ‥‥愛するビッグちゃんと紫苑ちゃんに守られながら、みんなの活躍を見守るわ――でも何で竜三まで傍にいるの?」
メアリーはじろりと鵺を見ながら不服そうな声を漏らす。
「アタシだって、あんたみたいなガキんちょはお邪魔だと思ってるわ。むしろキメラに特攻して死して英雄になってきなさいよ」
鵺の言葉に「やだわ‥‥紫苑ちゃんとビッグちゃんをメアリーが竜三から守ってあげなくっちゃ」とメアリーは鵺の言葉を見事にスルーして自分の役割を決めた。
「ダッシュ力はありそうなタイプですね‥‥逃がさないように退路を断ちつつ包囲していきましょう」
石動は『蝉時雨』を構えてキメラを逃がさぬように退路を断つ。他の能力者達に視線を向ければ彼女同様、キメラの退路を断つように包囲するように動いているのが分かる。
「‥‥皆さん、頑張ってください‥‥です」
ルカは呟くと『練成弱体』を使用してキメラの防御力を低下させて『練成強化』を使用して能力者達の武器を強化する。
たとえ負傷しても重体にならない限り、サイエンティストのルカがいれば命の保証はされるだろう。
「相変わらず、あの子って萌えるわぁ‥‥」
支援するルカの姿を見ながら鵺がポツリと呟く。戦闘に入る前「ルカは今日も頑張り、ます‥‥見てて、下さい」とぬいぐるみをギュッと抱きしめて意気込む姿を鵺に見せていた。
「敵を殲滅する‥‥」
ウルクは低く、短く呟きながら『【OR】ルゥズ・シルフィン・ガーツ』を構えて攻撃を仕掛ける。武器のリーチを生かして攻撃を行い、ウルクの攻撃が終わったら石動がすかさず斬り付ける――と連携重視で能力者達は戦闘を行っていた。
「まぁ、カウントに入れない能力者達がいるとはしても、倒せない相手じゃないよね」
今給黎は苦笑気味に呟くとキメラとの距離を取って『真デヴァステイター』で『影撃ち』を使用しながら攻撃を仕掛ける。
今給黎の攻撃でよろめいたキメラに「よっしゃぁ! 張り切って行くでぇ!」と流が何処か嬉しささえ感じさせる表情で『クルメタルP−38』を構える。背後から「きゃあ、カッコイイ!」と叫ぶ鵺の声が集中を乱れさせようとするが、考えていても気が滅入るばかりなので流は気にしない事にした。
「まぁ、生き物やったら足奪われたら動けなくなるやろ」
流は『影撃ち』を使用しながらキメラの足を狙って攻撃を仕掛ける。先ほどまでは鵺の言葉に集中を乱されていたが、戦闘中となっては命の危険もある為に集中せざるを得ない。
「早く退いてください、耐えかねるものがあります」
榊はため息混じりに呟き、自分達の所へ向かってくるキメラを『天照』を構え『二段撃』と『両断剣』を使用しながら攻撃を仕掛ける。
「またか‥‥またこのパターンかっ!!」
ビッグはキメラの攻撃から鵺とメアリーを守りながら大きな声で叫ぶ。
「きゃあんっ、ビッグちゃんたら頼りになるわぁ」
ぎゅむっと抱きつきながら鵺が叫ぶと「っていうかそんな立派な体格なのに、なんでそんなに弱いんですかっ!」とビッグは鵺を見ながら叫ぶ。確かにビッグよりも身長も体格も良い鵺が弱い事に納得できないのは分かる。
「それはね、アタシに戦う気がないからよ♪」
「ぎゃああああ、早く退治してくれええええ!」
コレ幸いとばかりに抱きつく鵺にビッグはこの世の終わりのような悲鳴を上げる。
「‥‥危ない事は、めっ! ‥‥です、よ?」
ルカの可愛らしい『めっ』に癒された鵺は「わかったわ、大人しくしてるぅ」と口を尖らせながらも渋々とビッグから手を離して「じゃあ、紫苑ちゃん――「めっ」――分かったわよぅ」と正座して戦いが終わるのを待つことにしたのだった。
「これだけの能力者を前にして、貴方が生き残るすべはありませんよ、早く退治されてしまいなさい」
石動は少しだけ強い口調で呟き『瞬天速』を使用してキメラとの距離を詰めると『蝉時雨』を振るって攻撃を仕掛ける。
そして石動の攻撃で体勢を崩した所へウルクが『迅雷』を使用してキメラに急接近をし『円閃』を発動して攻撃を繰り出した。
「やれやれ、まだ生きてるのか。しつこいねぇ」
今給黎が呟くと武器を『刹那』に持ち変えて『瞬即撃』を使用して攻撃を仕掛ける。
「これでトドメやっ!」
流は『強弾撃』を使用してキメラの頭を狙って攻撃を仕掛け、彼の攻撃は見事キメラの頭を撃ちぬき、トドメを刺したのだった。
―― 本当の恐怖はこれから始まる ――
能力者達はキメラを退治した後、報告の為に本部へと帰還したのだが‥‥。
「鵺さんも頑張りましたね、ご褒美はいかがです?」
榊は黒い笑顔を見せながら鵺を着替えさせ、戦闘していた男性陣へと向けて背中を押す。
「きゃあんっ、アタシと結婚しましょー!」
鵺の標的となったのはウルクと流だったらしく、彼らは逃げ回りながら何とかこの状況を回避しようとするのだが‥‥カンカンカンとピンヒールの音を響かせながらまるで鬼のような形相で二人を追いかける。
「‥‥僕、少しくらいカッコイイ所が来るかなって攻撃の準備してたんだけどな‥‥」
遠い目をしながら呟くビッグの手にはいまだ持たれた『イアリス』が寂しげに鈍い輝きを見せている。
「全く、アイツは相変わらずだな」
竜二がため息混じりに呟くと「あの、部外者がこのような事を訊くのは失礼だと思うのですが‥‥」と訊きづらそうに石動が竜二に話しかける。
「アイツは俺よりも頭がいいし、真面目にやれば会社も今以上に出来るのに――あの状況だしな、だから余計に腹立たしいんだよ。兄さんや父さんは『恥』とか言って俺の顔を見るたびに機嫌悪くなるし‥‥」
はぁ、と竜二が盛大なため息を吐く。彼もそれなりに苦労はしているようだ。
「せめて立ち寄った時に普通に受け入れてくださりませんか? 家族の仲が悪いのは悲しいことですし‥‥」
「アイツがあの格好、あの性格を止めたら、の話だな‥‥」
どうやらまだまだ彼ら家族の間に出来た溝は埋まりそうにないようだ。
「鵺ちゃん‥‥ルカにも、血が繋がらないけど‥‥お兄ちゃんがいるんです‥‥お兄ちゃんは‥‥家族はルカの宝物なん、です」
ルカの言葉に「アタシの家族もそう思ってくれる人だったら良かったのにねぇ」とルカを抱きしめながら鵺が小さく呟いた。
「‥‥とにかく帰る‥‥」
ウルクは鵺がルカと話している隙に逃げ帰ろうとしたのだが、鵺の瞳がギラリと獲物を狙う獣並に光り輝き「ちょっとお待ち!」と再びカンカンカンとピンヒールの音を響かせながら全力疾走してくる。
「ごめん」
流は小さく呟きながら逃げ回るウルクの姿を見る。彼は現在『隠密潜行』を使用して気配を断っている為に鵺の標的になることはなかった。
「本名を呼ばれるとキレるのって‥‥『竜三』って男らしい名前が嫌なんだろうと思ってたけど‥‥」
今回の事を終えて今給黎がポツリと呟き始める。
「実際は生家に対する反抗心だったんだね。でもそうやってムキになって怒るのは、まだ過去から解放されてない証拠なんじゃないかな」
何気に酷い事を言いながら今給黎は呟く。
「ぐふ、ぐふふふ‥‥愛するビッグちゃんを何処までも見守りながら一緒に帰るの‥‥」
メアリーは物陰からみんなを見守りながら呟く。
後日、竜二から能力者達宛にスパ一日無料権が届いたのだが、男性陣が行く日を必死に調べるメアリーの姿が見かけられたのだとか‥‥。
END