●リプレイ本文
―― 週刊記者、漂流記 ――
今回の事件はお騒がせ記者として有名(?)な土浦 真里(gz0004)が海に出かけて戻って来ないというもの。彼女の性格から考えてもいろいろな最悪の状況が予想され、能力者達は疲れた表情をしたままマリ捜索へと出かける事となった。
「結婚したら少しは大人しくなるかと思ったら、やはりマリさんはマリさんだったのね」
はぁ、と大きなため息を吐いて額に手を当てながら小鳥遊神楽(
ga3319)が呟く。
「本当だね‥‥相変わらずイノシシだなぁ、マリさんは」
椎野 のぞみ(
ga8736)が苦笑しながら小鳥遊の言葉に頷き。
「結婚されて少しは落ち着くかと思ってましたが‥‥無理だったようですね」
芝樋ノ爪 水夏(
gb2060)もため息混じりに呟く。
「迷子‥‥漂流〜‥‥なんか、前に遭難してましたよね〜?」
八界・一騎(
ga4970)はマリの相変わらずのトラブル体質に苦笑するしかなかった。
「まったく‥‥アホやないかとは思いましたが、正真正銘のアホですね」
櫻杜・眞耶(
ga8467)は冷たく凍らせたスポーツ飲料とスプレー瓶に入れた化粧水、その他麦わら帽子などをバッグに詰め込みながらため息混じりに呟いた。
「まぁ、でもそれが真里さんらしいですけどね‥‥」
レイン・シュトラウド(
ga9279)は呟き、他の能力者同様にため息を吐いた。
「珍事‥‥週刊記者がボートで遭難!? ‥‥雑誌の表紙に使えそうね、これ」
シュブニグラス(
ga9903)はメモにペンを走らせながら呟く。ちなみに彼女はチホと静流の二人を旅行に誘おうと編集室にやってきて、真っ青な顔で胃を抑えるチホと彼女が握り締める携帯電話に表示されていた写メで全てを悟って、今回のマリ捜索に加わったのだとか。
能力者達が呆れる中、一人だけ冷静な人物がいた。その人物は玖堂 鷹秀(
ga5346)でマリの旦那であり、今後もこのような事に一生巻き込まれるであろう人物だった。
「『ボートに乗る』と言うメール内容から当然海に出たのでしょう。ですから気づかぬうちに沖に出る潮に乗ってしまい、電波の届かない所まで流された‥‥あるいは最悪の場合、波に飲まれて転覆、はたまたキメラに襲われたという可能性もありますね」
玖堂は冷静にマリの性格から考えて行動しそうなこと、あるいは巻き込まれそうなことを淡々と呟く。
「ここは動力付きの船と潮の流れが欲しい所、大事にしたくはありませんが近隣の方々にご助力を願いましょう」
「やけに、冷静ね――冷静すぎるくらいかしら?」
玖堂の言葉を聞きながらシュブニグラスが問いかけると、玖堂は眼鏡をキラリと輝かせながら「はっはっは」と笑い始める。
「この程度の事で動揺していたら身が保ちませんからね、感情を無視する術を覚えましたよ」
遠くを見つめながら呟く玖堂に「そ、そうなの」とシュブニグラスは言葉を返す事しか出来なかった。
自分の旦那に感情を無視させる術を覚えさせるマリは人として、嫁としてどうなんだろうと思う。
「そろそろマリさんが向かった場所に到着するみたいですね〜」
八界はのんびりとした口調で高速艇の窓から外を見る。そこには綺麗な海が広がっており、海水浴の時期になれば大勢の人間で賑わう事だろう。
「全く、玖堂さんに心配かけるなんて無事に連れ帰ったらお仕置きしないとね」
小鳥遊は呟きながら高速艇を降りていく。
「あ、この周辺の地図と今日、そして昨日の海流の流れを観測したデータを本部を通して借りてきていますよ」
櫻杜が借りてきたデータをプリントしたものを能力者達に渡し、それぞれ行動を開始し始めたのだった。
―― 消えた週刊記者 ――
太陽はじりじりと地上を照り付けている。こんな状況の中でもし海で漂流しているならば、命の危険も出てくる。
だから能力者達は迅速にマリを探せるよう、班を三つに分けて行動をする事にきめていた。
1班・椎野、レインの二人。
2班・八界、シュブニグラス、玖堂の三人。
3班・櫻杜、芝樋ノ爪、小鳥遊の三人。
「何か分かったことがあったら、互いに連絡取り合うことにしましょう」
小鳥遊は言葉を残し、同じ班の能力者達と共にマリ捜索を開始したのだった。
※1班※
「さて、とりあえずボートと言う事は‥‥海に出ちゃってる可能性大‥‥とりあえず漂流している可能性を考えて地元の漁港で情報を仕入れて来ようか〜」
椎野が話しかけると「そうですね、ボクもマリさんの事を聞こうと思ってましたから」とレインが言葉を返し、漁港へと向かっていった。
「すみません。この写真に写っている人を見ませんでしたか? 多分、派手に騒いでいたと思うんですけど‥‥」
レインは呟きながらマリの写真を見せながら漁港の人達に問いかけると――中年の男性は「あぁ、この子か!」と思いっきり心当たりがあるように手を叩きながら少し大きな声で言葉を返してきた。
「‥‥意外と、すぐに情報が集まりそうですね」
レインは苦笑しながら椎野に言葉を投げかけると「そうだね、さすがマリさんだね」と彼女も苦笑を漏らすしか出来なかったのだった。
「あと、もしお願い出来れば、今ボートで漂流している可能性があるので、漁協に捜索を手伝っていただきたいのですが‥‥その際の‥‥」
にっこりと椎野は言葉を投げかけると「うーん、まぁ、今なら手ぇ空いてるし、こんな所で人死にが出てもアレだからなぁ」と中年男性は快く、とはいかなかったが捜索の手伝いをしてくれる事になったのだった。
「それじゃ、あんたらは俺の船に乗るといい」
快く、とは行かなかったけれど中年男性は二人を船に乗せてくれる事となった。
※2班※
「すいません〜。やたらと行動が派手で元気すぎて片っ端から取材交渉を吹っかける女の人がボートを借りたのはここですか〜?」
海の家の近くにあるボート貸し出し所に赴き、八界が店番をしている老女に話しかける。
「はて、あの子の事かね? カキ氷全種類を平らげてもろこし3本持って来た子の事かね」
老女の言葉を聞いてその時の状況を容易に想像する事が出来て「マリちゃんたら‥‥」とシュブニグラスは頭を抱えながら小さく呟いた。
「そういえば、船に乗せてくれるような方はいらっしゃいませんでしょうか?」
玖堂が老女に問いかけると「どうだろうねぇ、見ず知らずの人を乗せるような人はいねえんじゃないかねぇ」と困った表情をしながら言葉を返してきた。
「先日結婚したばかりの妻なんです、お願いします‥‥一刻も早く助けてあげたいんです‥‥」
玖堂はどこか憔悴したような様子で頼み込むと「あんたの奥さんなのかい、そりゃ心配だねぇ」と老女は少し考え込んだ後に「分かった」と短く呟いた。
「あたしン所でボートでもと思ったけど、一刻を争うみたいだからね。知り合いに船を出してくれるように頼んであげるよ」
老女の申し出に三人はお礼を言って、船に乗せてくれる人がいる港まで向かったのだった。
※3班※
「見える範囲に、ボートなんてないですし、流されたみたいですね」
双眼鏡で海を捜索しながら芝樋ノ爪がポツリと呟く。浜辺が広いならAU−KVをバイクにして捜索しようと彼女は考えていたのだが、狭くはないけれど、そこまで広くもなくバイクにして捜索せずとも双眼鏡で間に合う広さだった。
(「それにしても真里さん何処に行ったんでしょう‥‥」)
芝樋ノ爪は海難事故の生存率を考えて、本気で心配になってくる。
「2班が漁船に乗せてもらえるみたいよ、あたし達も別の人に乗せてもらえないか聞いてみましょう。状況が状況だし、なるべくこの辺に詳しい人と一緒に探したいしね」
小鳥遊の言葉に「そうですね」と櫻杜も言葉を返した。
「とりあえず簡単にですけど、潮の流れなどから流された可能性がある方向を計算したのですけど‥‥」
櫻杜が呟いた時だった、トランシーバーに他の班の能力者達が船に乗り込んだという連絡が入り、3班の能力者達も港へ赴き、マリ捜索を手伝ってくれる漁師を探し始めたのだった。
―― 大海原の真里 ――
能力者達はそれぞれ船に乗り込み、手分けをして捜索を開始した。最初はトランシーバーで連絡を取り合う作戦を立てていたが、船に搭載されている無線を使えば船同士で通信も出来るために連絡手段も確保できている。
「マリィ〜〜、こらぁ〜!! いたら返事しやがれァ〜!」
八界はまるで海の男のように覚醒状態で船の先端部分で仁王立ちをして大きな声で叫ぶ。そしてその後に船首に片足を乗せて双眼鏡でマリを捜索する。ちなみに海に相応しいアロハシャツ着用だった。
「マリちゃ〜〜ん、焼きとうもろこし、焼きイカ、フランクフルトがあるわよ〜」
シュブニグラスはマリの為に自腹で食料を海の家で買って持ってきていた。
「‥‥なぁ、何で俺をもふりながら叫んでいるんだ」
八界がじろりとシュブニグラスの手を見るともふもふともふりながら叫んでいるのが分かる。
「‥‥そこに貴方がいるからよ」
きりっとシュブニグラスが答え「ほら、それより早くマリちゃん探さないと」と話題をすりかえられてしまい、八界は少しだけ納得がいかなかったのだとか。
そして別の船では玖堂が呼笛を大きく鳴らし、その後はメガホンを使って大きくマリの名前を呼んだりと一生懸命捜索をしていた。冷静さを装っていてもやはり心配なのだろう。
「もう、あんなに陸が遠く‥‥こんな所まで流されるんでしょうか‥‥」
レインが遠く離れた陸を見ながら小さく呟くと「この辺は流れが速いからなぁ」と船を操縦している男性が短く言葉を返してきた。
その時だった。レインと椎野が乗っている船の近くにぷかぷかと浮いているボートを発見したのは。
「やっほ、イノシシ記者さん。そこで何してるのかなぁ?」
ボートの横に船を停めてもらい、椎野がにっこりと、だけど目が笑っていない笑顔を向けながらマリへと話しかける。
「‥‥まったく、こんな所で何してるんですか」
レインも呆れたように話しかけると「散歩」と短い言葉が返ってくる。そして船の無線で他の班にもマリを見つけたという連絡をしてもらい、マリを漁船へと乗せてそのまま陸へと戻っていったのだった。
―― 週刊記者を囲んでお説教タイム ――
「もう、海をなめたらだめなんだからね‥‥あと、帰ったらチホさんに謝ってね♪ チホさん、胃潰瘍になっちゃうよ」
椎野がマリに話しかけると「うい」と明らかに反省の色がない言葉が返ってきた。
「真里さん!」
突然名前を呼ばれ、マリが振り返ると芝樋ノ爪がマリに抱きつきながら泣き出した。
「良かった、本当に無事でよかった‥‥」
「あー、えーと、ゴメン」
流石に泣かれるとは思ってなかったのでマリも少し焦ったように「私は大丈夫だから」と背中をポンポンと叩きながら芝樋ノ爪をあやした――のだが。
「さて、マリさん? 何か弁明はあるのかしら? 納得のいく説明をしてくれないと、流石のあたしでも怒るんだけど」
小鳥遊が『ゴゴゴゴ』と黒いオーラのようなものを背負いながらマリへと問いかける。
「え、えーとね。りょ、旅行の下見に来て、ボート見つけて『わぁ、ボート乗りたいなあ♪』ってなって、乗ったら寝ちゃって、起きたら陸から離れてて「もういいわ」――あ、あはは」
マリの言い訳を聞きながら頭痛がしてくるのを感じた小鳥遊は途中で言葉を遮り「暫くマリさんは取材禁止よ」と短い言葉を付け足した。
「えええええ!」
「暫くの間、記者は休んで、玖堂さんのお嫁さんをしっかり勤めること、いいわね、マリさん」
うぅ、と唸りながら玖堂に助けを求めるが、彼はにっこりと笑って「御礼を言いましょうね」とまるで子供を宥めるかのような口調でマリに話しかけてくる。
「お詫びをするにしろ、御礼を言うにしろ、その時は必ず頭を下げましょうね? これは大人、いえ人としての礼儀だと私は思います。ついでにこの言葉も覚えててください。親しき仲にも礼儀あり」
玖堂の言葉に「アリガトウゴザイマシタ」とマリは頭を下げながら漁協の人達、そして助けに来てくれた能力者達に礼を言うのだった。
「はい、まずはこれを飲んでください。あと日焼け後の肌対策です」
櫻杜はスポーツ飲料をマリに渡し、化粧水を入れてきたスプレーをマリに吹きかける。
「この後、病院に行ってもらいますからね」
「え、私は元気だから別に「問答無用です」えええ‥‥」
「そうだ、真里はんの家にフルーツゼリーを用意してますから帰ったらみんなで食べましょうね♪」
櫻杜はニッコリと笑いながら能力者達に話しかける。
「マリさん、無事に助かったから良かったものの、助からなかった時の事を考えなかったんですか?」
レインが問いかけると「うん、全く」と悪びれた様子もなく言葉を返してくるので、レインの疲れが倍増したのは言うまでもない。
「はい、マリちゃん。お腹空いてるでしょ、これ食べていいわよ」
シュブニグラスは購入した食料をマリに渡すと「わぁい、ありがとうっ」とマリは喜んで食べ始める。
「フフフ‥‥この夏で何キロ増えるのかしらね」
そんな邪笑を彼女が浮かべていることにも気づかずに。
「マリさん、海は危ないんですから、常に注意を怠ってはいけません」
芝樋ノ爪が腰に手を当てながら話しかけると「わかりましたぁ‥‥」とマリはしゅんとしながら言葉を返してきた。
「おお、マリ! 無事でよかったな――「もっふーーーーーんっ」っていきなりもふるのかよ!」
タヌキ姿の八界を見てマリが元気に飛びつく。
(「‥‥‥‥‥‥面白くないですね」)
その様子を見て玖堂は何か面白くないものを感じて「真里さん」と短く自分の妻の名前を呼ぶ。
「う? どしたの?」
「漂流した割りには元気そうですね、炎天下で激辛鍋焼きうどんなんて食べられてはいかがですか?」
にっこりと言う玖堂の申し出に「はぁ!?」とマリは口を大きく開けてぽかんとした表情で彼を見る。
「いやいや、何で疲れてるのに炎天下で鍋焼きうどん、しかも激辛を食べなくちゃいけないかが分からないから!」
マリが叫んだ瞬間、少しだけふらりとしてよろめく。流石に疲れたのだろう、と能力者達は近くの病院までマリを運んだ。
そして少し休んだ後、玖堂と手を繋いで他の能力者達と共に帰還した。
後日――‥‥。
「きゃあああああああっ!!!」
漁協から届いた捜索時の請求書がマリの名前で届けられ、彼女は悲鳴を上げていた。
ちなみに何でこんなものが届いたかと言うと‥‥。
『あと、もしお願いできれば、いまボートで漂流している可能性があるので、漁協に捜索を手伝っていただきたいのですが‥‥。その際の請求費は『土浦 真里』まで送ってください』
椎野が漁協の人間に言ったこの言葉が原因だった。
「‥‥鷹秀の名前にしちゃおう」
マリはペンを取って、自分の名前の所を旦那の名前にして、彼宛に郵送したのだった‥‥。
END