●リプレイ本文
―― キメラ退治に向かう能力者達 ――
「む、むぅー‥‥トラウマ‥‥が‥‥」
リュス・リクス・リニク(
ga6209)は資料にある『犬型キメラ』と言う文字を見て、少しだけ複雑そうな表情をして呟いた。
どうやら、彼女には『犬型』に対してトラウマになる程のことがあったのか、拳をきゅっと強く握り締めながら「でも、この程度で‥‥負けない」と言葉を付け足した。
「犬型キメラね、OK、了解、保健所より先に地獄に送ってやるよ」
九条・縁(
ga8248)が軽く資料を指で弾きながら楽しそうに呟く。
「キメラの市街地進入‥‥被害を最小限にする為に迅速な行動が必要だな」
水無月 湧輝(
gb4056)がため息混じりに呟く。既に市街地に侵入しているとなると、怪我人、もしくは最悪の形になっている者がいてもおかしくはない。
「‥‥ち、間に合えばいいがな‥‥」
自分達の行動一つで人の生き死にが関わってくるのだから、水無月も少しだけ焦りと苛立ちを露にした。
「‥‥犠牲者を出すわけにはいかない‥‥」
ウルク・ルプセリオン(
gb4271)がポツリと独り言のように呟く。彼は何よりも襲われている人達のことが心配らしい。
もちろん建物なども心配ではあるだろうが、もし倒壊しても人さえいれば建てなおす事は出来るが、人の命となると建てなおす事など出来るはずもない。
「それに――‥‥」
ウルクはもう一つ心配している事があった。犬等の群れで行動する動物特有の習性とでも言うべきなのだろうか、それらの集団一点攻撃性を危惧しているのだ。
「キメラの数については何も書かれてないですからねぇ」
ミリー(
gb4427)も資料を見ながらため息を吐く。数が書かれていない以上、数匹存在する事を前提で作戦を立てないと万が一の時に命取りになる。
「とにかく街の平和を守る為に全力を尽くさせてもらいます」
ミリーは「市民の為に全開で行きます」と言葉を付け足して二刀小太刀『永劫回帰』を手に持ったのだった。
「小さな町とは言え、敵の数が分からない以上、状況は緊迫していると考えてもよろしいわ――犬型という事で当てづらそうですけど‥‥」
メシア・ローザリア(
gb6467)は大鎌『ハーメルン』を持ち「命中率には自信がありますわよ」と不敵に笑んで見せた。
「ワイはワイに出来る事をするまでやな」
沙花月 司(
gb7321)が『【OR】仕込み傘 閃花』を抱え、呟く。
そして自分の武器を見ながら、キメラと戦う場面を思い浮かべ――「ややなぁ」とため息混じりに呟いた。
「敵さんと戦うんも疲れるわ」
「でも、戦う事で誰かを守れるなら――‥‥私は戦いますよ」
ドッグ・ラブラード(
gb2486)が言葉を返し、能力者達はキメラに襲撃されている街へと出発したのだった‥‥。
―― 彼が捧げる愛の歌は ――
今回の能力者達は任務を迅速に行う為に班を二つに分けて行動する事に決めていた。
A班・リニク、ドッグ、ミリー、ウルクの四人。
B班・九条、水無月、メシア、沙花月の四人。
「何かあったら直ぐに『トランシーバー』で連絡しあう、でOKだったよね」
ドッグが呟き、それぞれの班で行動を開始し始めたのだった。
※A班※
「死に行く者に幸いを。我々に未来を」
ドッグは覚醒を行い『GoodLuck』を使用して祈るように呟く。
「人の流れは此方に向かって来てる‥‥原因となってるのは向こうにあるって事か」
ウルクが人の流れから、自分達の進行方向に騒ぎの原因となっているキメラがいると予測する。
「急ぎましょう、こうしている間にも被害は増え続けていきます」
ミリーがやや急ぎ足、だけどキメラの姿を見逃さないように警戒を強めながら歩き続ける。
「‥‥むむ? なに‥‥かな‥‥」
リニクが立ち止まり、少し細い路地裏を覗き込む。通り過ぎようとした時に何かが動くような影が見えたのだ。
「どうかしましたか?」
ミリーも立ち止まったリニクにつられるように立ち止まって問いかける。
「そこ‥‥何か、動いた‥‥ような‥‥」
リニクが路地裏を指差しながら呟くと――そこには、血まみれの男性が壁に叩きつけられるようにして倒れていた。先ほどの影は男性が少し動いたせいだろう。
「これは‥‥」
ウルクが男性の怪我を見て、少しだけ表情を険しくする。男性の怪我はお世辞にも軽いものとは言えず――どちらかと言えば油断も許されない、そんな感じだったから。
「あ――んた、たちは‥‥」
男性が「ひゅう」と嫌な音と共に言葉を紡ぎ、ドッグが男性の傍に駆け寄る。
「ラスト・ホープより参りました。どうか、ご安心下さい」
ドッグは男性を安心させるように言葉を投げかけたのだけど‥‥。
(「‥‥とは言ったが、不味い。早急に処置を施さねば‥‥」)
どくどくと流れ続ける男性の血を見て、ドッグは心の中で呟く。
「こちらA班、負傷者を発見しました。他には――いなさそうですね、えぇ、1名だけです」
ミリーが『トランシーバー』を使ってB班と連絡を取る。
「‥‥これ‥‥」
男性が倒れていた所に何か小さなものが落ちている事に気づき、それを拾い上げるとくしゃくしゃになっている小さな箱だった。元は綺麗に包装されていたのだろうが男性の血などで汚くなっている。
「それ、渡さな‥‥くちゃ‥‥あいつ、に‥‥」
男性がリニクの持っている箱に手を伸ばしながら呟いた所で意識を失った。
「あ――‥‥」
ウルクが少し驚いたように男性を見るが「大丈夫、意識を失っただけです」とミリーが言葉を返す。
「すいません、彼をこのまま避難させて応急処置をしてきます」
ドッグが他の三人に向けて言葉を投げかける。このまま男性を連れてキメラ捜索に赴いても男性を守りきれると言う保証はない。
それならば先に避難させ、応急処置をした方がまだ彼が助かる可能性が高くなる。
「‥‥わかり、ました‥‥じゃあ、リニク達は‥‥キメラ捜索を続ける‥‥」
リニクが言葉を返し、ドッグはA班の仲間達から一時離れて負傷している男性を安全な場所まで連れて行く事にしたのだった。
※B班※
「キメラ捜索って言ってもなぁ‥‥地道に探していくしかないよな」
九条が隠れられそうな路地裏や物陰、店の中や家の中を覗き込みながらキメラ捜索を行い、ため息混じりに呟く。
「わたくしの『探査の眼』と『Good Luck』を使えば違うでしょう」
メシアが二つのスキルを使用しながら言葉を返す。
その時にA班からの連絡が入って「怪我人は安全な所へ、か――賢明やな」と沙花月が小さく言葉を漏らした。
「‥‥しかし、酷い有様だな」
水無月が街の様子を見ながらため息混じりに呟く。その表情からは怒りの色が見えていた。彼が怒りたくなるのも無理はない。キメラが現れる前まではこの街は普通の街だったのだから。平凡で退屈かもしれないけれど毎日を平和に生きていられる、そんな街だったのに――キメラの出現によってそれは一変した。
人々は恐怖に表情をゆがめ、笑顔など何処にも見られない。
「‥‥今からでも遅くはない。これ以上の被害を出さないように、迅速な行動が必要だな」
水無月は呟きながら視界を少しでも広げようと色々な場所を探す――が混乱の起きた市街地ほど視界の悪い場所はなかった。
「屋根の上に乗った所でタカが知れているか‥‥」
水無月は舌打ちをしながら呟き、キメラ捜索へ行動を戻した時「あ」とメシアが小さく呟く。
「どうかしたん?」
沙花月が問いかけると「そこのカドを曲がったすぐにキメラが二匹いますわ」とメシアは指を指しながら言葉を返し、その言葉を聞いた能力者達はそれぞれ武器を手に取り、戦闘態勢へとはいる。
B班がキメラと交戦する直前でA班のドッグ以外の三人が合流して――犬型キメラと能力者達の戦闘が開始されたのだった。
―― 戦闘開始・犬型キメラ VS 能力者達 ――
「目標確認、殲滅する‥‥」
ウルクは『【OR】ルゥズ・シルフィン・ガーツ』を構えながら犬型キメラを視界に捕らえ、周りに逃げ遅れている一般人達が居ないかを確認する。
「市民の平和の為、退治させていただきます」
ミリーも二刀小太刀『永劫回帰』を構え、犬型キメラを強く睨みつける。前衛メインで戦う能力者達が先に行動しない理由、それは後衛の援護を待っているからだった。破壊力の強い能力者であればあるほど、攻撃に失敗した時は周りの建物や地面に被害が行く。人の命優先と言う事は分かっているが、やはりこれからも住人達が住む街なのだから少しでも被害を抑えたいのが本音なのだ。
「閃光の如く貫き通せ、閃花!」
沙花月が『【OR】仕込み傘 閃花』で攻撃を仕掛ける。一度に20発使用できる彼の武器は犬型キメラに全弾被弾――というわけにはいかなかったがある程度のダメージを与え、尚且つ一匹の足を奪うことに成功した。
「‥‥さぁ、悪い子にはお仕置きです」
リニクは小さく呟くと『ペイント弾』を装填して犬型キメラの視界を奪うために攻撃を行う。攻撃時には『弾頭矢』を使おうかとも彼女は考えていたが、周りへの被害を考慮して控えることにした。
「いっ‥‥テェな!」
九条は腕に噛み付いてきた犬型キメラをそのまま腕ごと壁へと叩きつけ『クロムブレイド』で斬りつけて攻撃を行う。噛み付いていて身動きの取れなかった犬型キメラは「ぎゃうん」と苦しそうな声をあげたあとに地面へと倒れこむ。
「さっさと倒れろ、目障りだ」
水無月は和弓『月ノ宮』で攻撃を仕掛け、犬型キメラの目を射抜いた。リニクの『ペイント弾』によって視界が遮られていたために水無月の攻撃を避ける事が出来なかったのだろう。
「もう、満足だろ――消えなよ」
ウルクは『【OR】ルゥズ・シルフィン・ガーツ』で少し距離を取りながら攻撃を行う、2mほどの柄の為に犬型キメラから距離を取って攻撃が出来る上、犬型キメラは反撃をしようにも出来ずにいた。
「回天円閃!」
くるりと舞うようにミリーが『円閃』で攻撃を行う。犬型キメラは視界を奪われていることが最大の難点だったのか、能力者達の攻撃をマトモに避ける事さえ出来ずにいる。
「平伏なさい、至高の薔薇、メシア・ローザリアの前に!」
大鎌・ハーメルンでメシアが攻撃を行いながら高らかに笑う。
「逃がしはしませんわ‥‥邪魔なものは殲滅して歩いていく、無数の亡骸が築きあげられてもね」
攻撃を仕掛けながらメシアが犬型キメラに話すのだが、キメラには彼女の言葉は理解できない。
「――理解できなくても構いませんわ――理解してもらおうなんて思ってもいませんもの、わたくしは」
メシアの攻撃によって体が二つに割られ、一匹の犬型キメラはし止めることが出来た。
しかし、一匹が倒されたことでもう一匹の犬型キメラは逃げ出そうとする――けれど合流したドッグの『カレンデュラ』によって攻撃を受け、能力者達の元へと戻される。
「これだけの騒ぎを起こしておいて、自分だけは逃げようっていうの? 騒ぎの幕開けをしたんだから、幕引きまで責任持たなくちゃね」
ドッグは『ひゅん』と武器の血払いをしながら犬型キメラに向けて言葉を投げかける。
「そうそう、死んで俺の経験地になれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
九条は叫びながらスキルを使用して犬型キメラに攻撃を仕掛ける。
「今度は逃げるなんて、出来ないようにしてあげます」
リニクも『真デヴァステイター』を構えながらスキルを使用し、犬型キメラの足を狙って撃つ。
後衛の援護に合わせてウルクも犬型キメラの攻撃を避けて、カウンターのようにして武器を振るい、スキルを使用して攻撃をする。
「乱れ狂いて咲き誇れ! 乱れ桜!」
沙花月は武器を長刀『乱れ桜』に持ち変えてスキルを使いながら犬型キメラに攻撃を行う。
ほとんど、全員による攻撃を一気に受けて犬型キメラが耐えられるはずもなく――遠吠えのような悲鳴をあげながら犬型キメラはそのまま地面に倒れ、二度と起き上がってくることはなかったのだった。
―― 四葉が語る愛の歌 ――
キメラを退治した後、ドッグが避難所まで連れて行った男性の所へと向かっていた。彼の様子を見るのも目的の一つだったけれど、避難所にいる住人にキメラを無事に退治したと伝えるためでもあった。
そして、何であんな所にいたのかを意識の戻った男性に聞いて――‥‥。
「あんた馬鹿やろ」
沙花月がばっさりと斬り捨てるように言葉を投げかける。
「指輪を取りに戻ってキメラに襲われたとか‥‥自業自得やないか」
沙花月の言葉に男性は傷の痛みを堪えながら「ごめん」と短く言葉を返してくる。
「指輪は代わりがあるんにあんたは一人しかいないんやで‥‥最悪の事態にはならんかったから良かったと言ってもなぁ、ワイらが少しでも遅れとったらあんたは生きとらんのやで!」
そう、確かに能力者達がもう少し遅れていたら、リニクが彼を見つけていなかったら、目の前の男性は今ここでこうして生きている保証はなかった。
「‥‥これから‥‥気をつけて、きっと‥‥あの人が、悲しむよ‥‥」
リニクの視線の先には涙をボロボロと流しながら男性の心配をする女性――恐らくその女性こそが彼が指輪を渡したいと願った相手なのだろう。
「まぁ、出血は酷いらしいけど大事には至らなくて良かったよ」
九条が呟き、避難所から出ようとするのを見て「何処に行くんだ?」と水無月が問いかける。
「他にもキメラがいないか、負傷者がいないかを見てくる」
背中越しに手をひらひらと振りながら彼は避難所を出て行った。
「俺も他に負傷者がいないかを見てくる」
九条が出て行った後、ウルクも彼を追いかけるように避難所から出て行ったのだった。
「こんな事がありましたけど‥‥貴方たちの未来が、明るいものでありますように!」
ドッグは男性と女性を心から祝福するかのように言葉を投げかける。彼自身、色恋は分からないらしいがお互いを思いあう目の前の二人には幸せになってほしいと思った。
「これからは、少し自分の行動を考える事だな」
水無月が女性にちらりと視線を向けると「はい」と男性は申し訳なさそうに俯いたまま言葉を返したのだった。
「お前が命がけで受け取りに行った指輪、そこで待ってる彼女に渡したらどうだ」
水無月が呟くと「え、あ‥‥」と男性は顔を少し赤くしながら「あとで渡します」と言葉を付け足した。
(「ほんま、無事でよかったわ‥‥無茶するやっちゃなぁ、あんたも」)
沙花月は心の中で男性に向けて言葉を投げる。先ほどまでは怒って乱暴な口調だった彼だが男性が無事だと言う事を知り、一番喜んでいるのも彼かもしれない。意地っ張りで恥ずかしがりやという彼の性格が素直に人前で心配させなくしていた。
「‥‥そろそろ、本部戻る‥‥?」
リニクの言葉に能力者達は首を縦に振り、今回の事件の報告を行う為に本部へと帰還していったのだった。
END