●リプレイ本文
―― 断崖のスメラ修道院 ――
「ヤズルカヤ‥‥か。ビスタの言葉を額面通りに受け取るなら今回の場所が奴のご自慢の要塞と言う可能性は十分に在る‥‥か」
九条・命(
ga0148)はため息混じりに呟く。
「‥‥胸糞悪いな、嫌な匂いがする――『あの時』と同じだ」
伊佐美 希明(
ga0214)が拳を強く握り締めながら呟く。能力者達は今回の調査の為にスメラ修道院へとやってきていた。恐らく全ての能力者達が修道院に潜む邪悪な気配に気がついているだろう。
「失踪した人間か‥‥」
ヴァイオン(
ga4174)が資料を見ながらため息混じりに話す。助けを求めにやってきた人間達は皆発狂したかのように『助けて』と言う言葉しか言う事が出来なかった。
つまり――彼らがそれほどまでに恐怖した『何か』があるという事だ。様々な考えがヴァイオンの頭の中に浮かぶが、あくまでそれは予想の域を出る事はない。
「‥‥考えだけならどんな可能性でも考えられるか」
はぁ、とヴァイオンはため息を吐く。
「場所が場所だけに奴らも無関係と思えないですね。奴らの仕業だとしたら‥‥今回が『お城』でしょうかね」
天狼 スザク(
ga9707)もスメラ修道院を見上げながら呟く。修道院と言うには少しばかり大きいが――建っている場所が悪い。下手をしたら取り残されるという可能性もあるのだから。
「とにかくキメラがいたら倒すだけ、人がいたら助けるだけだね」
翡焔・東雲(
gb2615)が呟く。
「キメラがいたら――それを作った奴がいる。今度は連中、何を考えているんだか‥‥ま、碌でもねぇことってのは、決まりですかねぇ‥‥」
御守 剣清(
gb6210)もため息混じりに呟いた。
「だけど‥‥なんだか嫌な予感がします‥‥ただの気のせいならいいんですけど‥‥」
結城悠璃(
gb6689)が胸の辺りを押さえながら俯き呟く。
「とりあえず私が先に偵察をしに行ってくるよ」
伊佐美が『隠密潜行』を使用しながらスメラ修道院の中へと入っていく。大勢で中を捜索するより、一人で行った方が万が一敵と遭遇した場合でも対処しやすい。
※偵察※
「中は結構崩れている所もあるんだな‥‥」
周りへの警戒を強めたまま、何も見逃さないように捜索を行う。
「大勢の人がいた形跡がある――‥‥此処で何かをしてたのは間違いないのか――!!」
伊佐美が確認するように独り言を呟いた瞬間――背後から射抜かれるような視線が彼女を襲い、勢いよく伊佐美は振り返る。
「‥‥白い、スーツ?」
カツカツ、と音を立てながら遠ざかっていく人物は離れた部屋へと入っていったようでバタンと扉の閉める音が伊佐美の耳に響く。
「‥‥‥‥罠、とも考えられるが」
拳を強く握り締め、彼女は『誰か』が行った場所へと向かい、大きな扉を開く。
「ぐ――――!」
開くと同時に彼女の鼻を掠める異臭。そして幾つもの古びたテーブルを挟んだ向こうに先ほどの『誰か』が立っている。
「一人ですか。一人で偵察なんて結構勇気があるんですね。それとも無謀な馬鹿と言うべきでしょうか?」
やんわりとした口調で呟く彼――ハリー・ジョルジオ(gz0170)が伊佐美に話しかける。
「‥‥挑発が下手だな、享楽者。それとも単なる遊びのつもりか?」
伊佐美が臆する様子もなく言葉を返すと「あなた程度にはこのくらいの挑発で十分かと思っただけですよ」と癪に障るような言い方で言葉を返してくる。
「どちらにせよ、仲間がいるなら呼んだ方がいいですよ――あなた一人ではどうしようもないでしょうから」
ハリーが呟くと同時に奥の部屋から3体の人間が現れる。いや、人間『だった』と言った方が正しいかもしれない。なぜなら、彼らの身体は既に異形のものへと変えられていたのだから‥‥。
伊佐美は流石にハリーに加えて3体のキメラを一人で相手する事など考えたくも無く、仲間が待っている入り口へと向かって走り出したのだった。
「やはり奴がいたか」
あれから伊佐美は入り口へと戻り、中で見た事、そして出会った人物について仲間達に全て話した。仲間の中には驚くもの、ある程度予想していたものと様々だったが――此処で引くわけには行かない。
「一つ言っておく。‥‥こういうのに慣れてない奴はゲロ袋持参で来な」
伊佐美が少し冷たく呟く。
「キメラか‥‥あんまり的中していて欲しくなかったけどね」
ヴァイオンはため息混じりに呟く。しかし一般人がキメラ化していても彼の思考は変わらない。救助すべき存在から倒すべき存在になった、それだけの事なのだ。
「とりあえず此処が本当に『お城』ならば『要塞』の可能性もある。諸々の見落としのないように落ち着いて対処していこう」
九条が呟くと、他の能力者達も首を縦に振る。
「それじゃ、中に――行こうか」
天狼は覚醒を行いながらスメラ修道院へと足を踏み入れる。
「‥‥負けないよ、今度こそ」
ハリーがいる事を聞いて翡焔がこぶしを強く握り締めながらキツく修道院を睨みつける。
(「‥‥? 何か、聞こえる?」)
結城が僅かに耳に入ってくる音のようなものに気づくがすぐにそれは止み、その後は聞こえることはなかった。
「伊佐美さんが言った場所で必ず待っていてくれるとも限りませんからね。常に奇襲には注意していきましょう」
御守も呟き『刀』を握り締め、スメラ修道院へと足を踏み入れたのだった。
―― かつては祈りの捧げられた場所、しかし今では ――
能力者達は奇襲に気をつけながら伊佐美がハリーとキメラを見たという部屋に向かう。古びた修道院のせいか、所々の壁も破損しており、その中途半端な破損が余計に不気味さをかもし出していた。
「‥‥何かが仕掛けられている、ような感じではないな――むしろ自然な状態でそのまま残っているようにしか見えん」
九条が周りを見渡しながら呟く。確かに彼の言う通り『何か』が仕掛けられているようには思えない。
「〜〜♪ 〜〜♪」
その時、フルートの音色が修道院内に響き渡り、それと同時に壁を割ってキメラ3体が飛び出してきた。しかも同じ場所からではなく、それぞれ別の場所からだ。
「その玩具を壊したら――――俺が相手してやるよ」
まるでゲームの中のボスのような言葉を吐き捨て、椅子に腰掛けながらフルートを奏でる。
現れたキメラは大きく三つに分けられ、それぞれ能力者達は別れて相手をする事にした。
攻撃特化型・天狼、御守。
防御特化型・伊佐美、結城、翡焔。
素早さ特化型・ヴァイオン、九条。
「だけど――俺のフルートの事も忘れてもらっちゃ困るんだけどな」
ハリーは呟きながら再びフルートを奏で始めたのだった。
※攻撃特化型との戦い
「一般人の成れの果てか‥‥後で弔ってやる。お前らにあまり時間は割けねぇからな」
天狼は呟くと同時に『蛍火』を構える。先に御守が攻撃を仕掛け、天狼が攻撃しやすいようにキメラの注意を引き付ける。
「が――っ‥‥」
御守は腹部にキメラからの攻撃を受け、表情を歪める。その隙を突いて天狼がキメラに攻撃を仕掛ける。攻撃を受けて苦しがっている時、御守が『円閃』を使用して足を砕く。力を入れるとき、踏ん張る為の足をなくしてしまえば攻撃特化型と言えど全開の威力を出す事は出来ないだろう。
「隙あり、だ」
御守が追撃し、天狼も『蛍火』で攻撃を仕掛け「逝って来い」と低く呟いて『紅蓮衝撃』を使用し、まずは1体目を撃破したのだった。
※防御特化型との戦い
「‥‥矢衾ッ!」
最初に攻撃を仕掛けたのは伊佐美。彼女は『即射』と『強弾撃』を使用しながら強化した弾頭矢で攻撃を続ける。例え目の前の敵が『誰』であっても彼女は手心を加える事はしない。元人間であってもそれは変わることはない。
「‥‥今私達に出来る最善手は、苦しませずに逝かせるだけだ」
生命を冒涜した者への怒りと、目の前の彼らに対するせめてもの情け――それが彼女を突き動かしていた。
「‥‥このキメラ‥‥やっぱり癖がある」
結城が『蛇剋』で攻撃を行いながら小さく呟く。目の前の敵、それが防御に転じる時は必ず同じ行動をする。それを結城は見逃さなかったのだ。
「哀れだね――でもゴメン。こうするしかないんだよ‥‥」
翡焔は二刀小太刀『疾風迅雷』を構え『流し斬り』を使用しながら攻撃を仕掛ける。防御型という事もあってキメラから3人とも攻撃は受けたが、動けなくなる程の攻撃ではない、だから3人は攻撃を続ける。
「この間合いと武器では当たりませんよ」
キメラの攻撃をぎりぎりで避けて結城が呟く。
「大人しく寝てな。恨みも無念も私達が晴らしてやるから」
伊佐美が呟き『長弓』を構え、キメラの首を射る。そしてその隙を突いて翡焔と結城がキメラにトドメを刺したのだった。
※素早さ特化型との戦闘
「成程、確かに素早いな――‥‥だが」
九条は動き回るキメラを見て『瞬天速』を使用してキメラに追いつく。追いつく、とは言っても総合的には九条の方が素早さは上のようだ。
「動く為の足を断たれれば素早さも無意味ですね」
ヴァイオンは『疾風脚』と『瞬天速』を使用してキメラに接近すると『ゲイルナイフ』でキメラの両足を攻撃する。
「突っ立ってる暇はないだろう」
痛みに苦しがるキメラを見て、九条が次の手を仕掛けながら話しかける。足の痛みに気を取られているのかキメラは九条の攻撃を避ける事が出来ない。ヴァイオンは九条の攻撃の後、持参してきていた『アーミーナイフ』を数本投げつけ、キメラはそれをパシッと受け止める。
しかし‥‥受け止める事は彼の想定内だった。
「そんなに手を前に出していていいんですか? まるで斬ってくれと言わんばかりですね」
ヴァイオンは『【OR】特殊剣 ブレイド』でキメラの両腕を攻撃して斬り落とす。そして背後から九条が攻撃を仕掛け、キメラを撃破したのだった。
3体のキメラが倒されたのは、ほぼ同時で残るは――椅子に座って此方を見るハリーのみだった。
―― 能力者 VS 翠の旋律者 ――
「‥‥何度出くわしても、お前らの胸糞悪さにゃ慣れねぇ。まったく、左顔がビシビシと疼きやがる‥‥あぁ、抑えきれねぇなぁ!!」
伊佐美は足元に転がる大勢の死体を見ながら大きな声で叫ぶ。
「‥‥やはりまた貴方か。ますますフランケンシュタインぽくなってきてるね」
ヴァイオンが皮肉交じりに話しかけると「お褒めの言葉ありがとう」とハリーは言葉を返してくる。
「いつもより締まった顔してるな、強そうだ」
天狼の言葉にハリーは少しだけ驚いたような表情を見せた。彼としては完璧に『優しそうな顔』をしていたつもりなのだろう。しかし天狼はその優しさの裏に潜む顔を見つけたのだ。
「‥‥いい加減、優しい自分って言うのも面倒になってきたんだよ。意外と疲れるんだよ、笑うのって」
ハリーは自嘲気味に呟き、足元の死体を一つ蹴飛ばす。
「一つ聞く‥‥コレをやったのはテメェだけじゃねぇんだろ?」
御守が問いかけると「聞いてどうするんだ?」と言う言葉が返ってくる。
「決まってる。やった奴は全員、叩っ斬るだけだ」
「その前にお前が生きてたらな」
ひゅ、と風切り音がしたかと思うと目の前のハリーの姿がない。
「これで、一度死に――だな。仲間に感謝することだ」
御守の背後で彼に攻撃しようとしていた腕が他の能力者によって遮られている。
「随分と悪趣味なことをするんですね」
結城は足元の物言わぬ死体を見た後、ハリーに視線を向け挑発するように呟く。
「これは俺がやったわけじゃない。ビスタですよ。俺だったら――もっと芸術的に捌く」
こんな風にね、ハリーは持っていた剣を投げつけ九条の左腹部にそれが貫通する。
「‥‥喧嘩を売るほど子供じゃねぇが、売られた喧嘩を無視できるほど‥‥育ちは良くないんでね」
伊佐美は呟きながらハリーに攻撃を仕掛ける。
「ハリー! 負けないからな」
翡焔が武器を構えてハリーに攻撃を仕掛ける。
「‥‥この人達にも、それぞれの人生があったのに――それを簡単に奪うんだな」
御守は呟きながらハリーを睨むと「虫けらの命がどれだけ減っても何も変わりないだろう」と嘲笑いながら言葉を返してくる。
「ハリー!!」
九条は大きく叫び、ハリー目掛けて走り出す。無謀とも呼べる行為だがこれは彼の作戦でもあった。ダメージを食らう覚悟はあり、その代償としてハリーの両手を使えなくすれば勝ち目は在るのだから。
「80点」
ハリーは短く呟くと椅子を軽々と持ち上げて九条に投げつけ、彼の軌道を邪魔する。
「69点ですね」
ヴァイオンは呟き『アーミーナイフ』をハリーに投げつける。ハリーはそれを簡単に受け止めるのだが――‥‥追撃していたヴァイオンに斬り付けられる。致命傷は避けたものの、腕を掠り、白いスーツに血が滲み出ている。
「これって特注なんだよな‥‥もう予備も少なくなってきてるって言うのに‥‥苛々しますね」
ヴァイオンが後ろに後退する間際、ハリーは彼に近づいて持っている剣で斬りつける。
「避けて!」
結城が叫び、ハリーに近寄っていた能力者達が全て避けた後に結城は『M−121ガトリング砲』で攻撃を行う。ハリーも咄嗟に壁に隠れたが、全てを避けきる事は出来なかった。
「お前が殺した人間への餞だ、その腕貰うぞ!」
九条が叫び『瞬天速』を使用してハリーとの距離を詰め『瞬即撃』を使用して攻撃を仕掛ける。
「ぐ―――っ」
ハリーの呻き声と同時に広がる血飛沫と舞う――白い袖を纏った腕。ぼとんと嫌な音がしたがそれは「貴様らあああああっ!」と叫ぶハリーの声にかき消された。
「く‥‥くくくく‥‥もう完成してるんだ。俺の城は。腕を落とした褒美だ。近々招待してやるよ――お前らにすぐ分かる方法でな」
ハリーは呟くと落ちた腕を拾い、能力者達に背を向ける。能力者達は攻撃を仕掛けようとしたが、それを思いとどまった。今のハリーがまるで弾ける前の風船のように見えたから。
「腕の礼は必ずするよ――――それでは、ごきげんよう」
怒りに満ちた顔から最初の優しげな顔に戻し、ハリーはうやうやしく頭を下げて能力者達の前から消えたのだった。
ハリー自身を滅する事こそ出来なかったが、腕を落とした今回の能力者達の働きは大きいだろう。
戦闘後、結城は転がる死体達に祈りを捧げた。
「せめて‥‥その眠りだけでも、安らかに‥‥」
結城が祈りを捧げている姿を見て「墓とかは‥‥どうなるんでしょうね」と御守が呟く。
「麓の人間に弔ってくれるように言いたいね‥‥」
翡焔が言葉を返す。
(「いったい何が目的なんだ‥‥? ビスタとハリー、目的が一致してるとは思えないが」)
天狼は心の中で呟くが、本人がいない以上、考えても仕方のないことだ。
その後、能力者達は住人の弔いを地元の人間に頼み、今回の報告をする為に本部へと帰還していったのだった。
END