タイトル:【JB】送曲マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/25 02:37

●オープニング本文


 太平洋上の無人島は、多くの手により急ピッチで調査が進んでいた。仲間達が幸せな結婚式を行う、そのための準備だと思えばやる気も増そうと言う物だ。
「ふむ。思ったよりも快適な場所のようだ。これならば、心に残る祝典が行えるだろうな」
 報告を聞いたカプロイア伯爵は、満足げに頷く。北側に見つかった入り江は遠浅で、泳ぎにも向いていた。海岸で迎えてくれる南国風の植生は明るく、当日の気分を盛り上げてくれるだろう。島中央の静かな湖畔は、ムードのある式を行いたいカップルにうってつけ、だ。
「島内の安全はまだ確認中です。崖などの危険な場所も調査中ですが‥‥」
 手付かずの森や海が見える草原といった安全そうな地点でも、キメラが見つかっている。とはいえ、花の咲き乱れる一角などは、安全さえ確保できればロマンチックな一日に文字通り華を添えそうだ。
「崖には、洞窟のような場所もあるそうだね」
「はい。危険があるかどうか、そちらも報告待ちとなっています」
 執事は、そう淡々と続ける。
「安全確認が終わったら、次の段階へ進もうか。そろそろ、人や物を動かさないとね」
 まだ空白の目立つ地図を、伯爵は楽しげに見た。

※※※

奏でられる音は、新たな旅立ちの彼らを祝福する。

彼らがいつまでも幸せであるように、それぞれの楽器は音を奏でる。

※※※

「何か賑わってきてるわねぇ、浮き足立ってるって言うか‥‥どっちにしろ私にはジューンブライドなんて関係ないんだけどさ」

女性能力者は着々と出来始めている島の事を考えながらため息混じりに呟いた。

「まずお前は結婚の前に相手を見つける事をしな――「死んで見る?」――ゴメンナサイ」

男性能力者が冗談交じりに話しかけるのだが、その言葉が女性能力者の逆鱗に触れたのか強く握った拳を男性能力者の顔にめり込ませた。

「そういえばイベントの為に呼ばれる楽団がまだ到着してないらしいな」

楽団? と女性能力者は首を傾げながら聞き返した。

「あぁ、三日前に到着予定のはずだったらしいんだけど‥‥まだ連絡もないって話だぜ」

「そういえば‥‥」

思い出したように女性能力者が依頼リストを見ると――そこには楽団救助の任務が存在した。

「LHからそう離れてない場所にキメラが現れたみたいね。その楽団もその所為で足止めをくらってるみたいよ」

女性能力者は資料を見ながら呟く。

彼女の表情があまり険しくないという事はそれほど脅威となるキメラではないのだろう。

「能力者達も出発するみたいだし、問題ないんじゃないかしら?」

「ふぅん、結婚する能力者の為にも楽団は欲しいよなぁ。音楽のない結婚式なんて寂しいだろうしさ」

そう呟くと男性能力者は大きく伸びをしたのだった。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
辻村 仁(ga9676
20歳・♂・AA
加賀 円(gb5429
21歳・♀・DG

●リプレイ本文

―― 楽団救助の為に集まった能力者達 ――

「結婚式の為に呼ばれた楽団ですか‥‥私もいつか拓那さんと―――‥‥」
 石動 小夜子(ga0121)は薄く頬を染めながら隣に立つ男性、新条 拓那(ga1294)をちらりと見た。彼女達は恋人同士のようで、石動も年頃の女性なのだから『結婚』と言う言葉に何かしら思う所があるようだ。
「ん? どうかした? 何か顔が赤いみたいだけど‥‥具合でも悪い?」
 新条が石動に問いかけると「いえ、何でもないんですっ」と慌てたように彼女は言葉を返した。
(「え、えと‥‥恥ずかしい事を考えてしまいました」)
 少し火照った顔を両手で押さえ、石動は心の中で呟く。
「結婚式かぁ‥‥」
 皇 千糸(ga0843)もポツリと小さく呟いた。
(「私自身のはだいぶ先だろうけど、やっぱり憧れちゃうわね。それに感動的な結婚式には音楽による演出が必須よね」)
 新たな門出を迎える誰かの為にも頑張りましょう、皇は言葉を付け足して大きく伸びをしたのだった。
「先を越されてばかりだが‥‥頑張るとしよう」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)も少し遠くを見ながら呟いた。恐らく今の彼の心の中は帰りを待っている女性の事で占められているのだろう。
(「ジューンブライドと聞いて、寂しくないといえば嘘になるが‥‥他の誰かが幸せになる事は悪い話ではない」)
 煙草の煙を吐きながらホアキンは心の中で呟き、資料に目を通し始めたのだった。
「楽団の救助か‥‥結婚式を挙げる能力者の為にも楽団には来て欲しいところだし、キメラ倒して連れてくるとするかね」
 ザン・エフティング(ga5141)はカウボーイハットを被りなおしながら呟く。
「楽団の方達が何処にいるか、ですね」
 辻村 仁(ga9676)が資料を見ながら呟く。
 今回、能力者達は楽団の人間達を探す前にキメラを退治しようという作戦を立てていた。もし楽団の人間達を見つけても、その後でキメラとの戦闘を行えば彼らの安全は保証できない――そう能力者達は考えてキメラ退治を優先する事にしたのだ。
「ですが、もし楽団がキメラに見つかっていて襲われていた場合はすぐに安全な場所に避難させないといけませんね」
 辻村の言葉に「確かにそうですね」と加賀 円(gb5429)が言葉を返した。
「楽団の方に限らず、住人の人が襲われていても避難させないといけませんし――‥‥私は、男性の方が少々苦手ですから結婚できるかも分かりませんが、それでも女性として結婚される方達の為にも頑張らないといけませんね」
 加賀は穏やかに微笑み、能力者達は楽団員たちを救助する為にLHを出発していったのだった‥‥。


―― 薔薇襲う町 ――

「これが目的地の地図だ。戦いで建物を壊すわけにも行かないからな」
 ホアキンは地図を見ながら呟き、戦闘に適した広い場所を探し始める。もしキメラを倒したとしても町が半壊してしまったら意味がない。被害を抑えてキメラを退治する――キメラが現れた街の事を能力者は考えて行動しているのだ。
「この広場とかどうでしょうか? 公園と違って遊具などもありませんし、被害は最小限で抑えられるのでは?」
 石動が指した場所、そこは噴水公園のような場所でそれなりに広い場所だった。彼女の言う通り、この広場にキメラを誘導出来れば被害は最小限に抑える事が出来るだろう。
「そうね、ここなら問題ないと思うわ。ただ、キメラが何処にいるかが問題ね。広場の近くにいてくれたら楽なんでしょうけど、遠くにいたら誘導が大変ね」
 皇がため息混じりに呟く。此方においで、今いきます、と素直に聞いてくれるような相手ならば楽なのだが――相手はキメラ、そう簡単に行ってくれる筈がない。
「そうだね、それに位置が遠ければ遠いほど被害が出る可能性も高くなりそうだしね」
 新条も考え込むように言葉を返し「とにかく、まずは現地に行ってみないとこればっかりは分からないね」と言葉を付け足したのだった。
「‥‥っと、もう着いたのか。本当に近くだったんだな」
 着陸を始める高速艇に気づき、ザンが外を覗き見ながら呟く。高速艇から見下ろす街は何処か綺麗な雰囲気を感じさせた。
「‥‥どうやら既に被害があるようですね」
 辻村が指した方向を他の能力者達も見ると、土煙のようなものがもくもくと上がっているのが分かる。
「あらあら‥‥急いだ方が良さそうですね」
 加賀が呟き、高速艇は着陸して能力者達はキメラが暴れている町へと急いだのだった。

「この道を左に行けば広場まで直ぐなんですね」
 石動がポツリと呟くと「キメラもそう遠くなさそうでしたし、誘導する事に苦労はなさそうですね」と加賀が言葉を返した。
「っと」
 新条は逃げてくる一般人とぶつかりそうになり、慌てて横に避ける。キメラが現れた事で逃げ遅れていた人間もいたのだと分かり、能力者達は余計に不安がよぎる。
「あ、危ない!」
 皇が叫んだかと思うと小銃『S−01』を構えて前方に向けて射撃する。彼女たちから少し離れた前方、そこにはまさにキメラから攻撃を受けようとしていた一般人がいたのだ。既に傷ついているところを見れば、何度かは攻撃を受けてしまっているのだろう。
「今のうちに逃げなさい!」
 皇は襲われていた一般人に向けて叫ぶと、一般人はよろよろとしながら、だけどしっかり走って逃げていった。
「他に一般人は――いない、な」
 ザンが確認をするように呟くと「それでは向こうの広場まで誘導しましょう」と辻村が言葉を返す。
「ふふ、早く此方に来てもらえますか? ただでさえ見るに耐えない外見だと言うのに、あまり私達を苛々させるのはやめていただけます?」
 加賀は洋弓『アルファル』でキメラに攻撃を仕掛け、自分たちの後を追ってくるように仕向ける。
「‥‥そっちではないだろう、道を違えるな」
 狭い路地に入ろうとしたキメラをホアキンが『イアリス』で斬りつけ、再び標的を自分達に向ける。
 そうして能力者達は最初に話していた広場にキメラを誘導して、戦闘を開始した。


―― 美しい? 薔薇には棘がある ――

「折角の晴れの式ってーのにこんなキメラ。相変わらず明後日の読み方するよね、敵さんも!」
 新条が薔薇の形をしたキメラを見ながら盛大にため息を吐き『ツーハンドソード』を構える。
「まったくだな、こんな時に薔薇の形をしたキメラとは‥‥バグアの奴らも少しは空気を読んで欲しいところだ」
 ザンがため息混じりに呟いた時、薔薇キメラの触手のような蔓が攻撃を仕掛けてきて、彼の頬をかすめ、血が一筋流れる。
「おぉ、蔓がウネウネと‥‥」
 辻村は感心するように気持ち悪くうねうねとする蔓を『壱式』で斬り落とす。斬り落とした蔓は地面に落ちた後、痙攣するような動きを見せた後、暫く経ってから動かなくなった。
「確かに薔薇のようなキメラですわね」
 加賀は洋弓『アルファル』で攻撃を仕掛けながらポツリと呟き、そのまま言葉を続ける。
「でもアナタは薔薇ではない。アナタの花言葉は一体なんでしょうね? まぁ、キメラなのですから、さぞ酷い言葉だと思いますけどね?」
 嘲笑うような表情を浮かべながら攻撃を続ける。
「これから結婚と言う新たな道を選ぶものが出てくる中――あなたのようなキメラは迷惑極まりないです」
 石動が呟きながら囮になるかのようにキメラの前に出る。キメラの手足を落としてしまえば触手によって被害が拡大する可能性を考え、彼女はキメラから手足を奪うことは出来なかった。
「あ!」
 数本の触手がバラバラに攻撃を仕掛けてきて、4本のうち3本までは斬り落とす事が出来たのだが、残りの一本がどうしても間に合わない。
「危ない!」
 触手が石動に触れる間際、新条が『ツーハンドソード』で斬り落とし、彼女を守る。
 皇は『狙撃眼』を使用して小銃『S−01』で攻撃を仕掛ける。動き自体は緩慢で能力者の攻撃を避けきるほどの素早さは持ち合わせてはいなかった。
「そんなトゲばっかの蔓があるから見栄えが悪いんだよ。蔓さえ落とせばもう少しやりやすくなりそうだね。ちゃっちゃと剪定して見栄えよく整えちゃおう」
 新条は呟きながら『先手必勝』と『瞬天速』を使用して襲い来る蔓を次々に斬り落としていく。皇や加賀の援護のおかげでキメラ自身も狙いを定めることが出来ないのか、キメラの攻撃を能力者達は苦労なく避けることが出来た。
「‥‥悪いな。今日の俺は虫の居所が悪いらしい」
 ホアキンが呟きながら『エネルギーガン』で攻撃を行い、動きを止めた後に『イアリス』で斬りつける。
 そして『紅蓮衝撃』を使用した後、全身全霊を込めた斬撃をキメラに向けて放つ。そして同時にザンが『ファング・バックル』と『影撃ち』を使用しながら拳銃『アイリーン』で攻撃を行う。
「くっ、やはり触手のように動きを変えてきましたか‥‥!」
 辻村は『壱式』でキメラの触手のように伸びてくる蔓を受け止めながら低く呟く。今までは真っ直ぐに伸びてきていた蔓が突然動きを変えてきたのだ。
「醜いことはおやめなさい。仮にも花の形をしているのですから潔く散りなさい」
 加賀は「くっ」と嘲笑いながらキメラに言葉を投げかけ、同時に矢も放つ。
「同感ね、美しく散りなさい」
 皇は呟き、花部分を狙って攻撃を行い、胴体などを狙って攻撃していたホアキンにも力が入る。
 その後、蔓を斬り落とされ、周りも能力者に囲まれたキメラはなすすべも無く退治されていったのだった‥‥。


―― 音奏でる役者達 ――

「そういえば楽団の方達は何処にいらっしゃるのでしょう」
 キメラとの戦闘が終わった後、石動が首を傾げながら呟く。確かに他の住人の姿などもほとんど見られることはなく、どこかに避難している事だけは分かるのだが‥‥。
「ねぇ、もしかしたら此処じゃないかしら? 緊急避難センターってのがあるけど」
 地図を見ながら皇が呟く。確かに彼女の言う通り緊急避難センターというものがあり、他に避難できそうな場所は存在しない。
「とりあえず向かいましょうか。ついでというわけでもないですけどキメラが複数居る事も考えて警戒しておきましょう」
 新条の言葉に「そうだな、残存がいたら元も子もないからな」とザンが言葉を返す。

 その後、能力者達は緊急避難センターへと向かう。この街にキメラが現れた際に逃げ込む場所として作られた施設らしく、食料なども揃っている。
「えぇと、楽団の人達は‥‥」
 加賀は大勢居る中から楽団の人間を探すためにきょろきょろと見渡す。
「あの人達じゃないですか?」
 辻村が指した方向、そこには大きな荷物を横に置いた人間達が数名浮かない顔で座っているのが見えた。その中にはヴァイオリンケースなどを持っている人間もいたので音楽に関わる何かをしているという事だけは遠目でも確認することができた。
「もしかして、LHに呼ばれてる楽団ってあんた達の事か?」
 ザンが問いかけると「そうだけど、キミたち?」と青年が言葉を返してくる。
「私達はキメラ退治でここにやってきた能力者です。あなた達の護衛も任務内容に入っています」
 石動が呟くと「そうだったのか、それは助かった」と青年はほっと安心したように安堵のため息を漏らしたのだった。
「そういえば生演奏なのかしら? 豪華ね」
 皇が気になっていた事を問いかけると「えぇ、プロとしてはやってるけど――音楽家として生きていけるほど上手でもないんだけどね」とメンバーの一人が苦笑気味に答えた。
「怪我とかはないですか? 皆、あなた方の生演奏を心待ちにしていますよ。華やかな盛り上げ、期待していますね」
 新条の言葉に「ありがとう。精一杯やらせてもらうわ」と女性が穏やかな笑みを浮かべて言葉を返してきた。

 その後、能力者達と楽団の人間達は高速艇に乗り込んでLHへと向かう。
 その高速艇の中で皇は持ち歩いていたハーモニカで演奏をする。戦いやキメラに見舞われた恐怖で乱れた心を落ち着かせる意味で――‥‥。
「プロの楽団の人にしてみれば、聞き苦しかったかしら?」
 苦笑しながら皇が呟くと「そんな事はないよ」と男性が答える。
「どんなに上手な演奏でも心が篭っていなければ相手に感動は与えない。逆にお世辞にも上手とは言えない演奏でも心が篭っていれば相手に感動を与えられる――僕達はそう思ってやってるから」
「そうね、結婚となればまた特別だからいつも以上に心を込めて演奏しないとね」
(「結婚‥‥」)
 結婚と言う言葉を聞いて石動がちらりと新条を見る。胸がドキドキして、石動は少しだけ顔を赤くしながら新条に寄り添う。
「どうかした?」
「いいえ、何でも無いですけど――少しだけこのままで」

 そして十数分が経過したころにLHへと到着して楽団の人間達は能力者達に礼を言うと、慌てて何処かへと行ってしまった。
「結婚式では良い演奏期待してるぜ!」
 ザンが別れ際に言葉を投げかけると「精一杯がんばります」と言葉が返ってくる。
 その後、能力者達は任務成功の報告をする為に本部へと向かい始めたのだった。


END