タイトル:幸せな君達に不幸あれマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/13 01:57

●オープニング本文


それはまるで‥‥幸せな男女を見て羨む――嫉妬に塗れたキメラだった。

※※※

住み着いた場所――カップルの待ち合わせとしてよく使われる噴水公園。

現れたキメラ――カップルにばかり攻撃を仕掛ける意味の分からない男性型キメラ。

「‥‥まるで彼女が出来ない男みたいなキメラね‥‥」

資料を見ながら女性能力者はため息混じりに呟く。

「でも楽観視できる状態でもないんだろ? 重傷者1名、軽傷者が多数――って事はそれなりに気をつけなくちゃいけない状況だろ」

男性能力者の言葉に「そうなんだけどね‥‥」と資料に挟まれている現場に居合わせた一般人が撮った写真を男性能力者に渡す。

少し小太りの男性型キメラで斧のような武器を泣きながら振り回している姿が写真に納められていた。

「重傷者って言っても腕を深く切られた程度で命に関わるものじゃないらしいわ、少し大げさに言ってるみたいね――まぁ、だからってキメラの行動が許されるものじゃないでしょうけど」

女性能力者はため息混じりに呟き、資料に写る哀れなキメラに視線を落としたのだった。

●参加者一覧

ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
シルヴァ・E・ルイス(gb4503
22歳・♀・PN
神咲 刹那(gb5472
17歳・♂・GD
武御門 火姫(gb5963
16歳・♀・GP
アンナ・グリム(gb6136
15歳・♀・DF

●リプレイ本文

―― 現れたるは珍妙な嫉妬キメラ ――

 ここはのどかな噴水公園――普段ならば桃色オーラを大量に放出している幸せなカップルが大勢見られるのだが‥‥今日はいつもの半分以下のカップルしかいない。
 それと言うのも『幸せそうなカップル限定』で襲うキメラがいるからなのだけど。
 そして今回は能力者にキメラ退治が要請されたのだけど‥‥。

「キメラがカップルばかり襲うんだって。怖いねぇ、アンナちゃん」
 此処にも桃色オーラを放出している男性――神咲 刹那(gb5472)がベンチに座って最愛の彼女であるアンナ・グリム(gb6136)に話しかけていた。
 普通にデートしているようにしか見えない彼らだが、これもちゃんとした作戦である。
(「ふふ、囮とは言えデートだもの。楽しまないとね――勿論討伐に影響しない程度で」)
 アンナは神咲に寄り添いながら彼の手に持たれている資料に目を通す。
「そうだ、刹那さん。お弁当作ってきたのよ。口に合えばいいけど‥‥」
 アンナが恥ずかしそうに作ってきたサンドイッチを差し出す。まさに桃色オーラ全開である。
「手作りのお弁当‥‥とても嬉しい。心して味わうとしよう」
「刹那さん、辛いの苦手だったわよね。辛子マヨネーズは入ってないから安心して」
「一度話しただけなのに‥‥好みまで覚えていてくれたのか‥‥ありがとう‥‥」
 とりあえず、彼らがキメラに狙われるほど桃色な事は分かったので他の能力者達を探してみよう。
 神咲とアンナから少しだけ離れた所にいるのは‥‥同じく桃色カップルの麻宮 光(ga9696)と武御門 火姫(gb5963)だった。
「さて話は聞いてるけど‥‥どんなのが出て来るかねぇ‥‥」
 麻宮がため息混じりに呟くと「嫉妬キメラなんぞ言語道断なのじゃ」と武御門も拳をきゅっと握り締めながら言葉を返す。
「白昼堂々と夫婦を襲おうとは不埒千万。この武御門火姫が一刀の下に成敗してくれよう」
 幸せな男女を引き裂くキメラが許せないのか、武御門は俄然やる気を見せている。
「‥‥む? なぜ光はそんなに目が輝いておるのじゃ‥‥?」
 武御門が首をかくりと傾げながら問いかけると「いや、可愛いなって」と麻宮はさらりと答えた。
「わ、妾をからかうでないっ!」
 武御門は照れながら言葉を返し、麻宮の胸をぽかぽかと叩く。武御門は怒っているような行動をしているけれど、照れ隠しなだけであって本気で怒っているわけではなかった。

「‥‥シーヴ、この依頼が終わったら存分にイチャつくです」
 囮役の二組から少し離れた物陰でシーヴ・フェルセン(ga5638)がポツリと呟いた。囮組を見て彼女も彼氏とイチャつきたくなったのだろうか。
「‥‥‥‥」
 シーヴの隣ではシルヴァ・E・ルイス(gb4503)が無言で立っている。彼女は風変わりなキメラが出現、そして討伐要請が出たとの知らせを聞いてやってきたらしい。
(「にゅふふ‥‥キメラにもしっと団がいたのにゃ! これは総帥のボク自らが動かねばなるまい!」)
 白虎(ga9191)は噴水の中にスクール水着とシュノーケルというキメラの存在に負けないほどの珍妙な格好で身を潜めていた。恐らく誰も白虎が噴水に身を潜めているなんて夢にも思っていないことだろう。
 そして‥‥ここにも『般若の面』を被って物陰に身を潜めている者が1人いた。
(「嫉妬キメラか‥‥あー、なんと言うか気持ちは思いっきり分かるキメラだな」)
 俺もこの前まで独り身だったしなぁ、としみじみザン・エフティング(ga5141)が心の中で呟きながら遠くを見ている。
「ママー、変な人がいるー」
「しっ、だめよ。ああいう人は気づかない振りをするのが一番良いのよ」
 ザンから少し離れた所でされている会話なのだが、勿論彼本人は気づくわけもない。
「しかし‥‥キメラにも嫉妬なんてあるのか? いや、ないだろうな‥‥そういうキメラなんだと思っておこう」
 ザンが呟いた次の瞬間だった。女性の甲高い悲鳴が響き、能力者達はそれぞれ行動を開始し始めたのだった。


―― キメラ退治‥‥? ――

「しっと団総帥・白虎参上ーッ!!」
 噴水からザバーンと現れたのは、キメラ――ではなくしっと団総帥の白虎だった。噴水に身を潜めていた彼だが周りのイチャイチャぶりに『しっと団』としての本能が我慢しきれなくなったのだろう。
「モテない人達の怒りと悲しみを知れー♪」
「きゃあっ! な、何なのよ、この子は!」
 キメラからの被害ではなくしっと団からの被害が出ている。
「おや、そこにいるのはキリーお姉ちゃん絡みでお馴染みの神咲さんにゃー!」
 いきなり現れた白虎に流石の神咲も驚きで目を丸く見開いている。
「ん? 彼女いたのかにゃー‥‥いつも『護る』って言ってるからキリーお姉ちゃんを狙っていたのかと‥‥」
「えっ!?」
「刹那さん、キリーお姉ちゃんって‥‥?」
 流石は総帥、幸せな二人の間に波風を立てるのが目的なようだ。むしろキメラより実害が酷いかもしれない。
「きゃああああっ!」
 麻宮達が座っている場所の方から女性の悲鳴が聞こえる。新たなしっと団かと思いきや‥‥此方は本物のキメラ出現のようで、待機班もそれぞれ動き出したのだった。


―― キメラ出現・幸せな二人を邪魔するキメラを討ち取れ! ――

「汝が夫婦を引き裂かんとするキメラじゃな、妾が成敗してくれる」
 武御門は『蛍火』を構えながらキメラに向かって叫ぶ。
「姫さま、まずはキメラをみんなの所に誘導しなくては‥‥ちょっと失礼」
 麻宮は呟きながら武御門を抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「うひゃぅっ! ひ、光! 何をする! これ! 無礼者!」
 ぎゃあぎゃあと武御門は喚きながら抗議するが、麻宮はそれを気にする事なく待機班がいる場所へと向かって走り出す。
 ちなみにキメラは今の二人の事をこういう目で見ていた。
『もう、ちょっとやめてよね!』
『はっはっは、こいつめぇ、照れ屋さんだなぁ』
「うおおおおおおおおっ!」
 キメラ突然激しく泣き始め、麻宮と武御門を鬼のような形相で追いかける。

「来やがったでありますね。常套句ではありますが‥‥人の恋路を邪魔するヤツは‥‥でありやがるですよ」
 シーヴは呟きながら物陰から出て、キメラの前に姿を現す。ちょうど囮班二組がキメラの背後を、そしてシーヴとやや遅れて出てきたシルヴァがキメラの前に立ちはだかりキメラは退路を失いつつあった。
「ひとーつ、人の幸せ妬み」
「ふたーつ、不埒な喪男三昧」
「みっつ、醜い嫉妬の鬼を退治してくれよう」
 颯爽と登場したのは般若仮面ことザンだった。ちなみに彼は正体を隠してはいるもものの、誰が見てもザンだと言う事は一目瞭然である。
「般若仮面! For Justice!」
 ちなみに彼の言葉をそのまま取ってしまうと白虎でさえも退治対象になるのは気のせいだ。
「そして、真打登場にゃ! しっと団総帥・白虎にゃ!」
 先ほどまで桃色カップルに地味ながら嫌がらせをしていた白虎が当然のように仲間に入ってくる。
「‥‥さっき、邪魔してなかったかしら‥‥?」
 アンナが小さく呟くと「キメラに味方と思わせる為の演技にゃ。仕方なかった、ホントダヨー☆」と悪びれた様子もなく言葉を返した。きっと最後の言葉が不自然なカタコトに聞こえるのは気のせいだろう。
「とりあえず、哀れだが、同情はするが、さっさと倒れてあの世で彼女を見つけてくれ」
 ザンは『天照』を構えて『ファング・バックル』を使用しながらキメラに攻撃を仕掛ける。能力者達は全員で円を作るようにキメラを包囲し、絶対に逃げられないように陣形を組んでいた。
「馬じゃねぇですが、蹴られるが良し」
 ザンの攻撃の後、間髪入れずにシーヴが脚甲『ペルシュロン』を装備した靴でキメラの背中に向かって飛び蹴りを行う。その蹴りのおかげでキメラは体勢を崩し、斧を地面へと落としてしまう。慌ててキメラは拾おうとしたのだが‥‥シーヴはその手を片方の足で踏みつけ、冷たく蔑む女王様が降臨した。
「嫉妬行為を行って良いのは、我がしっと団に選ばれたエリート戦士のみだ! お前のような無断嫉妬活動は万死に値するぅー♪」
 白虎は『100tハンマー』で攻撃を行いながら叫ぶ。シーヴに踏みつけられている事もあってキメラは身動きとれず、むしろどこか喜んでいるようにも見える。
「さて、たまにはいい所見せられるかなっと‥‥でもあんなキメラじゃなぁ‥‥」
 麻宮は小さく呟き、HENTAIなキメラに少し嫌悪する。だがキメラも踏みつけられている事に飽きたのか起き上がり、乱暴に斧を手に持つと桃色カップルめがけて走り出す。
 最初の標的になったのは麻宮だったらしく、彼は斧の攻撃を『氷雨』で受け止め、もう片方の手に持っていた『月詠』で攻撃を行う。
「うおおおおおんっ!」
(「色々な意味で、哀れなような‥‥はたまた、さっさと黙らせたいような‥‥」)
 シルヴァはため息混じりに叫ぶキメラを見ながら心の中で呟き、小銃『S−01』で牽制攻撃を行う。作戦開始前に麻宮が銃器を使う者は気をつけてくれ、とも言っていたのでいつも以上に気をつけながら彼女は牽制、そして前衛が動きやすいように援護射撃を行っていた。
「‥‥哀れだけど‥‥恋人同士の邪魔をするとは‥‥万死に値する‥‥無粋なキメラよ、汝の運命は決まった‥‥」
 神咲は『【OR】氷柱折』を構え、アンナは『【OR】隠刀』を構え、それぞれ連携の隙を窺っている。
「分かってた事だけど、いい気分の時に邪魔しないで」
 アンナが呟くと同時に神咲が動き『ファング・バックル』と『急所突き』を使用しながら攻撃を行い、再びキメラの手から斧が離れた。
「武器は押さえた、頼む、アンナ」
 分かりました、アンナは呟きながら『両断剣』と『流し斬り』を使用してキメラが斧を持っていた手を切り裂いた。
「汝のような脆弱な攻撃が妾に効くものか、甘いぞ」
 武御門はキメラへの攻撃に『蛍火』を構えるが、麻宮が『疾風脚』を使用して先にキメラに攻撃を仕掛ける。
「光! 妾が攻撃しようとしていたのだぞ!」
 やや不満気な武御門だったが、大事な彼女をあまり攻撃にまわしたくないという麻宮の愛情なのだろう。
「何つーか、泣き喚きながらっつーのが鬱陶しいでありやがるですよ」
 シーヴは『コンユンクシオ』に武器を換えて『紅蓮衝撃』『豪破斬撃』『急所突き』を使用して強烈な一撃をキメラへとお見舞いする。
 そして、みっともなく涙を流しながら逃げようとするキメラの足をシルヴァが正確に撃ち抜き、キメラは逃げる為の足すらマトモに動かすことは出来なくなった。
「残念だが逃げることは叶わないようだな、それも嫉妬に塗れた男の末路か‥‥」
 ザンはため息混じりに呟き『天照』を振り上げる。その時、白虎が『巨大注射器』を持ってキメラの尻目掛けて突撃する。それはもう自然の摂理の如く刺さるのだが‥‥その後に彼は『100tハンマー』を振り上げて注射器が刺さっている場所目掛けて叩きつける。
「光になれぇぇぇぇぇぇっ!」
 その一撃はキメラにとって強烈な一撃となり、みっともない声をあげながらキメラは地面へと倒れる。その隙を狙って、他の能力者全員で攻撃を行い、嫉妬に塗れたキメラを無事に退治する事が出来たのだった‥‥。


―― 嫉妬キメラ去り、公園に桃色咲く ――

「シーヴだって片思い歴は長かったでありやがるですが、他のモンの邪魔しようと思った事はねぇですよ‥‥ってキメラに言っても理解不可能ですか」
 もう聞こえてねぇだろうですしね、シーヴは呟きながら倒れているキメラに視線を落としたのだった。
「それでは嫉妬の鬼を退治した所で般若仮面は去ることにしよう」
 どう見ても般若仮面ではなくザンなのだが、彼はそのままどこかへと去っていく。
「これもキメラという事は‥‥製作者がいる、んだよな? 何故にどうして、こんなのを作ったんだろう‥‥」
 シルヴァが小さく呟くが、彼女の疑問に答えるものはいなかった。なぜなら、誰も答えを知らないからである。
「さぁて、まだ時間はある。もう少し楽しんでいくとしようか」
 神咲はアンナの手を取りながら公園の散歩道へと歩き出す。
「ねぇ、刹那さん‥‥ずっと一緒にいてね」
 アンナは神咲の手を握る力を少し強めながら呟き、他の能力者達の所から離れて行ったのだった‥‥。
「そういえば‥‥光! よくも妾を抱き上げたり攻撃の邪魔をしてくれたりしたの」
 思い出したように武御門が麻宮に文句をぶちぶちと言うが、麻宮は苦笑するだけで何も言葉を返さない。彼女自身も決して嫌だったわけではなく、むしろ嬉しかったけれど意地っ張りな彼女の性格が素直に喜ぶことを許さなかったのだ。
「シーヴはこれからイチャつきに行きます。邪魔するモンは誰であろうと許さねぇです」
 ぐ、とシーヴは拳を強く握り締め、すたすたと帰路に着く。
「ふむ、みんな若いなぁ‥‥」
 シルヴァはそれぞれ桃色になるものなどを見てポツリと呟き、本部へと帰還していったのだった。


END