タイトル:大石君は褌に塗れたいマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/09 22:47

●オープニング本文


俺の箪笥にはびっしりと綺麗に畳まれた褌。

ほとんどが白い褌であり、色付きの褌は何かのお祝い事や法事でしか着た事がない。

褌――それは俺の人生のすべてと言っても過言じゃないだろうな。

※※※

LHの中でも有名なのかそうでないのか分からないが、強烈な印象を与える男――大石・圭吾。

褌を愛し、褌の為に生き、きっと褌の為に死ぬのだろう――と彼は自分で語っているのだが、あまり彼に関わりたくないのか聞き流す能力者がほとんどである。

「なぁ‥‥もしかして俺の褌命という性格は人に迷惑をかけているんじゃないだろうか」

ポツリと彼に捕まってしまった能力者は『早く逃げてぇ』と心の中で呟きながら「そ、そうか? 俺にはよく分からないけど」と曖昧な言葉を返した。

「何か知らないが、俺は他の能力者に避けられているような気がするんだ」

今頃気づいたのかよ、男性能力者は口から出そうになる言葉を飲み込んで心の中で呟いた。

「はっ、も、もしかして――俺の褌が欲しいんだろうか! その場合俺はあげるべきなんだろうか!」

何処までもマイペースな大石に「俺、任務あるから」と手を挙げて足早に逃げていく。

(「そうか、俺の褌が欲しいから照れ隠しで他の能力者達も俺になかなか話しかけられないんだな!」)

ぐ、と大石は拳を強く握り締め、ある事を決意する。

「今度一緒に任務をする能力者には手放すのは惜しいが俺の褌をプレゼントしてやろう」

大石は呟き、今回一緒に任務を行う能力者達との集合場所へと向かったのだった。

●参加者一覧

佐嶋 真樹(ga0351
22歳・♀・AA
香坂・光(ga8414
14歳・♀・DF
天道 桃華(gb0097
14歳・♀・FT
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
ティム・ウェンライト(gb4274
18歳・♂・GD
フィー(gb6429
12歳・♀・JG
望月 藍那(gb6612
16歳・♀・ST

●リプレイ本文

―― 褌男登場 ――

「やあ! 今回一緒に任務に行く事になった大石だ! 宜しくな!」
 ばちこんとウィンクをしながら大石・圭吾(gz0158)は挨拶をしてくる。はっきり言ってどこか遠い彼方に消えてくれても構わないと思う。
「‥‥‥‥これも‥‥おしごと‥‥がんばる‥‥!」
 フィー(gb6429)は小さな声で呟く。こんな子供にまで何かを我慢させるとはどれだけ迷惑な男なのだろうか。
「‥‥すげー不安‥‥。キメラじゃなくて、どっちかって言うと同行者に‥‥」
 大きくため息を吐きながら望月 藍那(gb6612)が大石を見る。ちなみに彼女は集合場所に来る前にタロット占いをしてきたらくし、引いたカードは『女帝』だったのだとか。
「戦闘能力は大体把握している。人の話は聞かない傾向にあるが、人間性的に致命的な欠如は見られない」
 佐嶋 真樹(ga0351)が大石を見ながら冷静に分析していく。まず普通ならば外見を見て既に致命的と感じるのだろうが偏見を持たない彼女は人としてとても大きな人物である。
「外見については、戦場にメイド服を着てくるよりは随分マシだろう。防御の面から見れば最善とは言い難いが、軽装は戦闘に適している」
 佐嶋は冷静に大石を分析していくが、所詮は褌男である。褌一丁なのも軽装とかそういうつもりで着ているのではない。
「大石さん、久しぶり〜♪ 今日も元気に褌姿だね☆」
 あたしも負けないのだ♪ と香坂・光(ga8414)が大石に元気よく挨拶をしてくる。
「おお! 香坂も元気に褌だな!」
 どんな会話だ。元気に褌って何だ。しかも年頃の若い娘が褌一丁になるんじゃないなど様々なツッコミ所があるが、その辺はあえて割愛しておこう。
「何この空間」
 ぼそりと天道 桃華(gb0097)が呟く。
「大石君以外全員が女の子じゃない‥‥一体褌業界に何が起きてるの」
 天道がため息混じりに呟くが、一人だけ納得できない人物がいた。
「ねぇ、俺も男なんだけど‥‥」
 ティム・ウェンライト(gb4274)が苦笑気味に天道に言葉を返すのだが‥‥顔立ちが整って髪も長いせいかあまり男性には見えないのが事実である。
「そういえばいつも父がお世話になっています」
 天道がにっこりと大石に話しかける。言われた大石は「父?」と暫く考えていたが、自分がよく知る男性と苗字が一緒だと言うことに気づく。
「お、俺は‥‥娘どころか嫁もいないのに! ‥‥ま、負けた」
 がくりと地面に膝をつきながら大石は燃え尽きたように呟く。ちなみに天道は勝負を仕掛けたわけではない。
(「世の中には個性的過ぎる人もいるんですね‥‥」)
 ロゼア・ヴァラナウト(gb1055)は一人騒ぐ大石を見ながら心の中で呟く。
(「とりあえず任務達成さえ出来れば、外見など気にならない」)
 佐嶋は心の中で呟き、大石を見て一つ小さなため息を漏らしたのだった。


―― キメラ退治・ある意味大石を退治してしまえばいい ――

(「和の心を知りたいと思ってたけど‥‥何か俺の考えていたのと違うような気がするような‥‥」)
 今回の任務地に向かう高速艇の中でティムは苦笑しながら心の中で呟く。彼は日本の勉強をしているうちに褌を見かけて、褌に詳しい従姉妹に聞いたところ『男らしくなる』と言葉を返された。
(「最近どんどん女っぽくなってきたからなぁ‥‥」)
 今回の任務を経て男らしくなるんだ、ティムは心の中で強く決意したのだが‥‥大石を見習ってしまえば、後戻りできない何かになってしまうかもしれないという事を知らない。
「おや? 何か顔色が悪いが大丈夫かね!」
 何も喋らない望月に大石が話しかけるのだが‥‥彼女は果てしなく迷惑そうな顔で大石を見る。
「‥‥あ、ども‥‥何でもないんで‥‥」
 望月は当たり障りのない言葉を返したのだが‥‥。
(「‥‥噂には聞いてたけどホントに濃いし褌だし‥‥っつーか警察仕事しろよ!」)
 彼女は心の中で声を大にして叫んでいる。しかしその叫びは尤もである。なぜ今だに大石は捕まらないのか。恐らくLH七不思議と言うものが存在するなら確実にランクインする疑問だろう。
「そうか? あまり無理はするなよ? 具合が悪かったら俺がおぶってやるから遠慮するな」
(「無理はしてない、むしろ現在進行形で胸焼け中だ、気づけよ!」)
 望月は心の中で突っ込みを入れる。
「あ、到着したみたいだよー♪」
 高速艇が動きを止め、香坂が大きく伸びをしながら呟いて外へと出て行く。
「確かキメラは街の教会跡地にいるという話だったな」
 佐嶋が呟くと「そうみたいだね、でもこの人数なら問題ないんじゃないかな」と天道が言葉を返す。
 町の住人は避難をしており、能力者達はキメラ退治のみに専念すれば良いという状況だった。
「住人の皆さんの為にもキメラを退治して安心させてあげたいですね」
 ロゼアが呟くと「はっはっは、褌をプレゼントすればもっと安心するぞぅ」と意味の分からないことを言っている。
(「ど、どうしよう‥‥どういう意図で褌が出てくるのか分からないです」)
 ロゼアは困ったように心の中で呟くが分からなくて当たり前である。分かってしまったら目の前で褌一丁で騒ぐBAKAと同じになってしまうのだから。
「さて、キメラは何処にいるのかな」
 ティムが腰に手を当てて、小さなため息を漏らしながら呟く。
「‥‥あ‥‥たーげっと‥‥見っけ‥‥♪」
 フィーが小さく呟いて拳銃『ジャッジメント』を構える。フィーの言葉に能力者達も戦闘準備を行う。
 彼女達の前には少し寂れた教会跡、錆びついた鐘や割れた窓ガラスが誰も使わなくなってから長いのだと言うことを能力者達に知らせる。
 キメラは怖いくらいに綺麗でその背中の翼がゆらりと動く。
「さっさと倒しちゃおうか〜♪」
 香坂は『デヴァステイター』を持って、前衛の位置に立つ。
「ふふ、あなたには新兵器『まじかる☆はんまー』を食らわせてあげる」
 天道は不敵に笑うと教会の中へと入っていく。これは別に天道が戦闘から逃げたわけではなく、彼女なりに作戦があっての行動だった。
「何も残らないようにしてあげる‥‥」
 ロゼアは覚醒を行いながら呟き『ライフル』を構える。髪と目が黒くなり、先ほどまでの優しさなどは感じられない。敵を倒す――それだけを目的にした少女へと変化していた。
「あなたの相手は私よ!」
 ティムは覚醒を行った後に『エンジェルシールド』を構えて真正面から踏み込む。盾を持って踏み込んでいるから攻撃を受けても重傷を負うことはないと考えたのだろう。それに自分の方に引き付けておけば他の能力者が攻撃を受けることがないと考えたのだ。
「キメラに翼はいらないでしょ」
 望月は小さく呟き『練成弱体』を使用してキメラの防御力を低下させる。
「エセ天使様は地を這うのがお似合いですよ」
 望月は不敵に笑み、続いてロゼアが『強弾撃』を使用して『ライフル』で攻撃を仕掛ける。
「この一撃で‥‥」
 ロゼアの放った弾丸はキメラの左翼に命中して、キメラは悲痛な声をあげてよろめく。
「‥‥我が身に宿る紅蓮の炎、消す方法はただ一つ」
 佐嶋はキメラに深く踏み込みながら低く呟き『蛍火』を振り上げる。そして『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用して攻撃を行う。
「‥‥‥‥灰燼に帰れ」
 呟くと同時に佐嶋は『紅蓮衝撃』を繰り出してキメラへと攻撃を仕掛けた。
「ふっふっふ、この隙に飛べないようにさせてもらうよ」
 香坂は『菖蒲』を構え『両断剣』と『流し斬り』で翼に攻撃を仕掛ける。そして続いて『スマッシュ』で追撃する。
「避けてください」
 ロゼアが呟き、香坂は横に飛ぶ。それと同時にロゼアの『ライフル』がキメラを攻撃する。
 そしてロゼアの攻撃を受けてキメラがよろめいている間にティムが接近して『円閃』を使用して攻撃を行う。
「あなたに恨みはないけど、みんなの安心の為に倒させてもらうわ」
 ティムは『イアリス』でキメラに攻撃を仕掛け、ティムの少し後ろからフィーが拳銃『マジャッジメント』で攻撃を行い、足を撃ちぬく。
「そして最後にあたしによる攻撃!」
 教会の屋根から太陽をバックに天道が大きな声で叫ぶ。
 そして――‥‥。
「新兵器『まじかる☆はんまー』を食らいなさい!」
 天道は叫ぶと同時に教会の屋根からキメラへと向かって飛び降りる。その手に持たれた武器は『100tハンマー』だった。
「たあああっ!」
 落下の勢いも手伝ってか、天道の『100tハンマー』は想像以上にキメラにダメージを与え、既に弱っていたキメラにトドメを刺す結果になったのだった。
 そしてここで誰も思ってはいけない。
 ファイターの、前衛で戦えるファイターのはずの大石が何もしなかったという事に。何もしていないのにみんなと一緒に満足気な顔をしている事にツッコミを入れてはいけない。


―― キメラ退治が終わり、大石が褌を広める ――

「今回はみんなで頑張った甲斐もあって無事にキメラを退治できたな!」
 無傷で爽やかに微笑む大石が怪我をして『本当に頑張った』能力者達に向かって話しかける。
「‥‥大石さん、今回何かしたっけ?」
 香坂がジト目で見ながら言うと「心からの応援をした!」ときっぱりはっきりすっきり言う。こうもはっきり言われてしまうと軽く殺意すら湧いてしまう。
「そうだ! 今回はみんなにプレゼントがあるんだよ」
 そう言って大石は懐から『みんなへのプレゼント』を取り出す。そこで決して疑問に思ってはいけない。大石の懐が何処なのかという事を。
「これは‥‥?」
 佐嶋が袋を受け取りながら大石と袋とを交互に見比べる。
「俺からの褌、俺が普段愛用している白褌だ!!!」
 くわっと拳を強く握り締めながら大石は叫ぶように言葉を返す。
「‥‥すまないな。私は赤か黒い服しか着ない主義だ。下着も赤か黒と決めている」
「む、そうなのか‥‥これは赤褌でも黒褌でもないな‥‥でも白も似合うと思うんだがどうだろう?」
 ワンピースやスカートなどと違って褌が似合うと言われて誰が喜ぶというのだろうか。
「私は貴様の褌命を迷惑などとは思わん。懸けるに値する思いがそこにあるのなら、馬鹿に出来る事ではない」
「そうだろう!」
 大石はよく分からないが褒められているように感じてどこか嬉しそうにキランと歯を見せて喜んでいる。
「だが、他人に自分の趣味を押し付けるのは関心出来ない。スーツを着ろと言って、お前は素直に着るか?」
 佐嶋の問いかけに「いやだ!」と素早く否定の言葉を言う。
「そうだろう。皆、大なり小なり好みがあるものだ。全ての人が褌を愛しているわけではない‥‥それを努々忘れぬよう」
 佐嶋の言葉に「それも嫌だ! 皆が褌を愛してくれなければ俺が困る!」と意味の分からない否定をするが、そこはBAKAだからと言うことで納得してもらおう。
「これ‥‥どうしたらいいでしょうか‥‥」
 ロゼアは褌を渡され、顔を赤くしながら処理に困っている。きっとこれが普通の少女の反応なのだろう。
「‥‥‥‥褌‥‥‥‥もらった‥‥♪」
 何故かフィーは嬉しそうに貰った褌を見ている。
「さぁ、キミにもプレゼントフォーユーッ!」
 くるくると回りながら大石が望月に褌を渡すと「あ、ども」と素っ気無く袋を手に取る。
「‥‥あとで売っ払うか‥‥」
 迷惑きわまりないのだが、下手にこれを断ってしまえば褌演説が入りそうで望月はあとで褌を売り払うことに決めた。
「わ〜♪ ありがとう‥‥そういえばこの褌、ちゃんと洗ってあるんだよね?」
 ぴたりと動きを止めながら香坂が大石に問いかけるのだが‥‥。
「‥‥‥‥あ、あぁ、もちろんだとも。洗ってあるぞ――――いくつかは」
 大石の小さな呟きにそれぞれ悲鳴をあげるもの、袋を全力で投げるもの、様々な能力者が存在した。
「れ、レクチャーを受ける話だったけど流石に大石さんのお下がりは嫌過ぎるわ! 自分で買ってきたものを使うわよ!」
 天道が荷物から取り出したるは真っ白な褌。
「そういえば、私って褌の着け方が分からないのよね‥‥何か作法があるかもしれないし圭吾さんに聞いてみようかしら」
 ティムは覚醒をあえて解かないまま、貰った褌を着用してみることにした。
「おお、俺に褌に着け方を聞きたいとな! 俺はスパルタで教えるぞう!」
 既にその格好がスパルタであるとか決して言ってはいけない。
「じゃあ、よろしくね、圭吾さん」
「しかし、俺は男でキミは女だから口で説明しよう。それからは自分で着てくれ」
 大石は少し照れながら呟く。ちなみにティムは覚醒を解いていないから大石の理想のボンキュボンなスタイルである。

 そして、その後能力者達は何故か褌に着替え始める。しかし一部はサラシがいらないほどにつるぺたな胸らしく「こうなったら誰の心が最初に折れるか勝負よ!」と勝負が始まってしまった。
「あたしにかかれば‥‥こんな事も出来るのだ!」
 香坂はバッとさらしを取りながらつるぺたを強調する。
「さぁ、桃華ちゃんも!」
 まさか実際にするまいと思って天道は『先にお手本を見せて』といったのだが、彼女は香坂を甘く見ていたらしい。
 彼女は大石がいるにも関わらずサラシを取ってしまった。こうなっては天道もするしか道は残されていない。
 しかし、つるぺた勝負が始まってから少し経過した頃‥‥。
「何であたし達はティムさんに負けているんだろう‥‥」
 男性のティム、彼は覚醒をすれば女性のような体つきになるらしく、覚醒続行中の現在、天道と香坂よりもはるかに女性らしく見える。
「‥‥あれ? どうかしたんですか?」
 褌に着替え終わったティムが何故か背中にどんより雲を背負いながら小さく呟く。この勝負は天道・香坂の負けは決定らしい。
「はー、あれも青春ってやつですかねぇ‥‥」
 生温い目で望月はきゃあきゃあと騒ぐ能力者を見る。
「うん、俺は女性ならボンキュボンがいいと思うんだ」
 ここで大石はつるぺた女性を敵に回すことになる。
「圭吾さん、こんな感じになったけど、どうかしら? 似合う?」
 胸をタオルで隠しながらティムが自分の褌姿を大石に見せる。だけどティムは男らしさを求めているはずなのに明らかにグラビア風のポーズを取っている。
「ぶはっ‥‥」
 突然大石が倒れ、佐嶋に渡すはずだった褌を赤く染める。
「は、はなぢ!?」
 流石のティムもそれには驚き、駆け寄るのだが「‥‥俺は、やっぱりボンキュボンがいい」ときらきらした目でティムを見ている。
 しかしティムは『男』なのである。
「はっ‥‥佐嶋、これで赤い褌になったけどいらないだろうか!」
 自分の鼻血で赤く染まった褌を佐嶋に渡そうとしたのだが「いらん」と短く一蹴される。

 今回の任務を経てわかったこと。

『大石はやっぱりBAKAである』と言う事。

 その後、能力者達は怒りに満ちた目で帰還するもの、疲れたような表情で帰還するものと様々だったのだとか‥‥。


END