●リプレイ本文
―― 降臨する魔王 ――
「‥‥おい、オペレーター、話が違うぞ‥‥」
クロスフィールド(
ga7029)は怒りに震える拳を握り締めながら目の前のオペレーターに話しかけている。
「まぁ、こういう事もありますので――頑張って下さい」
「‥‥目を逸らしながら言うな!」
彼がこんなにも怒っている理由、それは任務にもやしが来る事になっていたから。彼としてはあまりもやしに関わりたくないと言うのが本音、だからオペレーターに詰め寄っていたのだろう。
「みっともないわね、男なら諦めたらどうなの?」
突然現れたもやしは彼の脛を蹴りながら小馬鹿にするような表情で話しかけてくる。
「‥‥相変わらず元気そうだな」
脛の痛みに耐えながら彼は大人の対応で言葉を返すが「煩いわね、どうでもいいでしょ」と更に蹴られる羽目になる。
「それにしても懲りない小娘ね。キルメリア・シュプールの辞書に反省の文字はない、とでも言いたいのかしら」
アーシュ・シュタース(
ga8745)がもやしを見下ろしながら呟くと、もやしは横目でアーシュを見るだけで何も言葉を返す事はない。
(「ふふ、今回は無視されても、スルーしてやるわ。前のように取り乱すと思わない事ね」
「そういえば、今回は欠員が出たんだって。あそこの人なんだけど今回は仲間はずれにしようと決めたから」
もやしはアーシュを指差しながらポツリと呟く。他の能力者達はその言葉にギョッとして「もし口をきいたら‥‥」と天使の微笑みで言葉を付け足す。
(「‥‥ほ、他の能力者がそんな子供みたいな事をするわけないわ――ないわよね‥‥」)
心の中でアーシュは少しだけ不安気味に呟くが、もやしに悟られてはなるまいと表情に出す事はしなかった。
「お姉ちゃんも懲りないねぇ♪」
白虎(
ga9191)はもやしの母親に挨拶をした後に合流してため息混じりに呟く。
「また練成弱体するかにゃ? 子供だにゃー‥‥ボクが本物のカオス道を教えてあげるにゃ☆」
ぐ、と拳を強く握り締めながら白虎が呟くが「別に私はカオスに興味ないし」とツンとしながら言葉を返す。
「こんにちは、僕は‥‥「あんたの名前に興味ないわよ、あんたなんて少年Aで十分よ」」
秋月 九蔵(
gb1711)が自己紹介をしようとした時にもやしが言葉を遮り、あまつさえ『少年A』と言うあだ名までつけてくる。
「それじゃまるで犯罪者じゃないか、どちらかといえば君の方が『犯罪者』と名乗るに巣沢しいと思うけどね」
秋月は鼻で笑うような仕草をしながら言葉を返し「私、あんた嫌いよ」ともやしは思い切り脛を蹴りながら逃げていく。
「‥‥やれやれ、獅子身中の虫なんて事にならんようにして貰いたいが」
ディッツァー・ライ(
gb2224)がため息混じりに呟くと「ねぇ、ちょっと」ともやしが手招きしながら彼を呼ぶ。何だろうと思いながらディッツァーはしゃがみ込むと同時に『ライダーゴーグル』でもやしの『暗闇万歳』を防ぐ。
「甘い! 剣士に二度同じ攻撃が通用すると思うな!」
彼の言葉に「ごめんなさい、お詫びをするから目を閉じてくれる?」ともやしが上目遣いで言葉を返してくる。
「‥‥? 何をする気だ?」
「‥‥そういう事を女の子の口から言わせないで」
もじもじしながら呟くもやしにディッツァーは言われた通りに目を閉じる――と同時に。
「死ねやあああああっ!!!」
両手でバチコンと頬を叩かれ、ディッツァーは転げまわる。ただ叩かれただけではなく、拳を握り締めた状態からの挟み撃ち攻撃、これは痛い。
「は、この私に勝とうなんて百万年早いのよ」
勝者の笑みを浮かべながらもやしは満足気に呟き、その姿を見て「こんにちは」とゲオルグ(
gb4165)が話しかけてくる。
彼は勇敢にも皆が苦手としているもやしに会ってみたかったという青年だ。
「ふわふわの髪ですね、服と合ってて可愛いですよ」
ゲオルグは呟くと同時にもやしの頭を撫でてやる――が「何すンのよ、このロリコンセクハラ」と言葉を返してくる。
「そいつに何を言っても無駄だぞ」
こそっと忠告をしてきたディッツァーに「元気があっていいじゃないですか」と言葉を返し、その言葉が聞こえたのかもやしがディッツァーを追い掛け回す。
「‥‥さて、今回も宜しく頼むぞ、キリー。前回同様、確り守るからな」
「ふん、守らせてあげてもいいけど高いんだからね」
守られる上に金まで取るのか、他の能力者達はツッコミを入れたかったが矛先が自分に向いても困るので口にして言う事はなかった。
「遅れてすまない、私はホープマスク(
gb6488)。プロレスラーだ、今回が初めての任務なんだ、宜しく頼むよ!」
マスクを被った男性が話しかけてきて「宜しくしてあげてもいいけど、手土産もナシ? マジありえないんですけど」ともやしが下からホープマスクを睨みながら話しかける。
「とりあえず出発しない? 此処でこうしてても何も始まらないし‥‥」
神咲 刹那(
gb5472)の言葉に能力者達は今回キメラが現れたとされる場所へ出発し始めたのだった。
―― キメラよりも恐怖のもやし ――
「プロレスって楽しいの?」
「プロレスとはまさに、鍛え抜かれた肉体が織り成すアート! 芸術なんだよ!」
ホープマスクの言葉に「あんたの頭の中がむしろ芸術だわよ」とため息混じりにもやしは呟く。
「しかし、だからと言ってプロレスが弱いわけじゃない! それを証明する為に此処にいるんだ!」
ホープマスクがまさにこれからの抱負ともなろう事を言っているのに「呼んでないわよ」ともやしは一蹴する。
「それより、ちゃんと仕事しなさいよね」
もやしの言葉に「ふふ」とアーシュが呟き、言葉を続ける。
「仕事しろって言うなら、キルメリア・シュプール。貴女こそちゃんとしたらどうなの?」
「あれ? 今誰か喋った? おかしいなぁ、今日は私を合わせて8人の筈なんだけど」
どうやらアーシュ仲間はずれが決行されているようだ。
(「こ、この小娘が!」)
アーシュはぶるぶると拳を震わせながら心の中で呟き「‥‥耐えるんだ、頑張れよ」とクロスフィールドが話しかける。
「あ、喋ったね? みんなー! 同行者が7人に減ったからねー」
どうやらもやしが仲間はずれと決めた人物と喋るとその人自身も仲間はずれにされてしまうらしい。
「キリーお姉ちゃん、子供にゃねー」
白虎が勝ち誇ったような表情で呟き、そんな楽しい(?)過程を経てキメラが潜んでいる川原へと到着する。
前衛・白虎、秋月、ゲオルグ、ホープマスク、ディッツァーの五人。
後衛・神咲、クロスフィールド、アーシュ、もやしの四人。
「‥‥後ろから離れるな。キリーへの攻撃は私が受け切ってみせる」
神咲が髪を靡かせながら呟くと「煩いわね!」ともやしが蹴りつけてくる。彼は『もやしへの攻撃を受けきる覚悟』をしているのだが、実際は『もやしからの攻撃も受けきっている』状態になっている。
「何度も言うが邪魔するなよ、あと石を投げるな。あれは地味に痛いんだからな」
クロスフィールドの言葉に「見えない人の言葉はきこえませーん」と耳を塞ぎながら言葉を返した。
「‥‥前門のキメラ、後門のもやしだな」
クロスフィールドはポツリと呟くと『【OR】Play The Fox』を構えて攻撃態勢を取る。
「キルメリア・シュプール、貴女が手を出すまでもないなら私が手を下す必要もないわ」
アーシュが呟くと「ふ、怖いわけね、そこの見えない人」ともやしがニヤリと笑みを浮かべながら言葉を返してくる。
(「‥‥これは挑発、この挑発に乗っては魔王の名が廃る」)
アーシュは心の中で呟きながら自分の中でせめぎあう怒りと戦っていた。
「何か嫌な予感がするんで、水の中には入らないようにしよう」
秋月は独り言のように呟き『テンペランス』と『フォルトゥナ・マヨールー』でキメラに向かって攻撃を行う。女性型キメラも弓を使って攻撃を仕掛けてくるが、彼はそれを避ける。
「動きも鈍いですね」
秋月は呟きながら槍でキメラの腹部を刺し、近距離から銃で攻撃――これは流石に堪えたのかキメラは水の中に倒れこんでしまう。
しかしキメラは痛みを堪えながらも起き上がって攻撃を仕掛ける――その中、ディッツァーは攻撃を受けながらも「力比べなら負けん! さっさと舞台へあがってもらうぞ!」と力ずくでキメラを水の中から川原へと引っ張り出す。キメラは地面に体を打たれながらも弓を構えて攻撃態勢を取る。
「悪いが後ろへの攻撃は通さん!」
ディッツァーが格好良く呟いた所でもやしから石投げの攻撃が来て「‥‥後ろからは駄々漏れだかな」と石が当たって痛む頭を押さえながら引きつった笑みで呟く。
「キリー、それは流石に危ないよ」
アーミーナイフを投げようとしていたもやしに気づき、ゲオルグがさりげなく没収する。
「煩いわね!」
ひゅん、と風を切る音がしたかと思うと『暗闇万歳』が炸裂した――かに見えたのだがゲオルグはそれを間一髪で避ける。
「どうせならこれを読んで悪戯に磨きをかけたらどうかな?」
ゲオルグは『悪戯の極意』と書かれた本をもやしに差し出し、どうやらもやしはそれに興味を示したらしくそれ以降悪戯をしようとする気配はなかった。
しかし彼は気づいていないことだろう、もやしに悪戯の本をあげる=火に油を注ぐ行為だと言う事が‥‥。
「ちょ、キリー! そんな所で本を読んでたら危ないって‥‥!」
神咲が何気なく後ろを見ると本に熱中しているもやしの姿が視界に入り、しかもキメラの矢がもやしを狙っている。
「ふん、この程度‥‥切り払ってみせよう」
矢を切り落としながら神咲はちらりともやしに視線を向ける。そしてその時にキメラに隙が生じて神咲は「‥‥勝機、畳み掛けるぞ」と呟き『ファング・バックル』と『ソニックブーム』を使用してキメラに攻撃を行う。
能力者達がキメラを退治する為に攻撃を行う中、ホープマスクはまだ動けずにいた。それは決して臆病風に吹かれたわけではなく‥‥。
(「キメラにプロレスが通じるのか? いや、通じるに決まっている」)
ホープマスクは心の中で呟き、キメラへと向かって走り出し足元へ低空タックルを行なう。
「受けてみろ! キメラ! これが、プロレスだ!」
ホープマスクは『豪力発現』を使用しながらジャイアントスイングを行い、川の中へと放り込む。
「今こそ封印されし必殺技を使う時にゃー!」
封印された技、つまり電気流し攻撃を行えという事なのだろう。キリーは読んでいた本をパタンと閉じると『スパークマシン』を持ってキメラのいる川へと向ける。
(「くくく、白虎の馬鹿め、自分も水の中にいるじゃないの――」)
魔王の笑みを浮かべながらもやしは心の中で呟く。そう、白虎は攻撃の合図を出したのだが自分も水の中にいる。しかしそんな事を注意するもやしであるはずもなく「ふはははは」とラスボス並の笑い声と共に攻撃を行う。
しかし――白虎は『100tハンマー』でキメラを打ち返し、電撃に巻き込まれたのはキメラともやしの二人となった。
「はっ‥‥とりあえず攻撃だ」
もやしの攻撃のせいかキメラはいまだ動けずに居る、それを見た秋月は勝機だと言わんばかりに『強弾撃』と『影撃ち』を使用しながら攻撃を仕掛ける。
「隙あり! 抜き胴一閃!」
ディッツァーも『紅蓮衝撃』『流し斬り』を使いながら攻撃を仕掛ける。途中でキメラが動き出そうとしたけれどクロスフィールドの援護射撃のおかげでキメラは立ち上がる事が出来ず、そのまま地面に倒れこむ。
そして本気を出した能力者達の手によってキメラは無事に退治されたのだった‥‥。
―― もやしの過去、そしてこれからのもやし ――
「お前‥‥キメラ退治した後に密かに石を投げたろう」
クロスフィールドは引きつりながらもやしに話しかけるが「だって誰もいなかったもん」とさらりとした言葉が返ってくる。
「今回はそこまで酷い妨害はなかったわね、キルメリア・シュプールも少しは成長してるのかしら?」
アーシュの言葉に「あんたは成長止まってそうだもんね」と胸を指差しながらもやしが言葉を返す。
「そういえば、お母さんはよく見るけど、お父さんはどんな人なのにゃ」
白虎が気になっていた質問をする。
「お父さん? いるけど若い女作って家から出てったわよ」
いきなり昼ドラのような展開に『うわぁ‥‥』と能力者達は誰しも思ったのだとか‥‥。
「ちなみにウチは傭兵一家なのにゃ。父上は大石とか言う傭兵さんと一緒に褌一丁でよく出撃してるのにゃ」
「‥‥別に聞いてないし」
「そういえば、お姉ちゃんは変な友達だけはいっぱいいるね」
大石や鵺の事を言っているのだろう、するともやしは「利用できるモンは利用しなくちゃでしょうよ」と黒い笑顔と共に言葉を返してくる。
「次は何をしようかしら、私さえ楽しければ別に何でもいいんだけど」
本を抱きしめながらもやしは凄く楽しそうに呟く。
(「ハン、彼女がチャッキーの花嫁だった、なんて言われても驚かないよ、もうね」)
秋月は心の中で呟きながら冷めた視線でもやしを見る。
「何見てんのよ、ロリコン」
「別に? 見られたくないなら家から出なければいい、そうしたら誰にも迷惑かからないしな」
ふ、と秋月が13歳の子供相手に大人気なく皮肉と嫌味をたっぷりと乗せて言葉を返す。
(「大丈夫、僕はまだ大人じゃないから『大人気ない』は適用されない」)
心の中で納得しているといきなり霧吹きで『何か』をかけられる。
「うわ、甘ッ」
「蜂蜜と砂糖を混ぜたものよ、アリに集られてしまえ」
もやしの言葉とべとべとする顔や服に苛立ちが募り『このクソガキ』と秋月は引きつった笑みで呟いたのだとか。
「‥‥いつになく緊張感のある任務だったな。主にキメラ以外への」
ディッツァーが呟いた言葉、それをもやしが聞き逃すはずもなく‥‥。
「赤男、これをあげるわ」
もやしはディッツァーの口の中に緑色の飴玉を放り込む。
「メロン味―――ぐぎゃああああ、わさびいいいい」
わさびで固められた飴玉は見事に彼の涙腺を壊し、ディッツァーは瞳からぼろぼろと涙を零しながらのた打ち回る。
「キリー、なるべく戦闘中に悪戯は駄目ですよ」
「嫌よ」
ゲオルグの優しい注意すらももやしは即答で拒否する。
「‥‥ほどほどにしておいてくれよ‥‥悪戯は。キメラ退治の後でやればいい」
神咲の言葉に「戦闘中にするのが楽しいんじゃない」とさも当たり前の事のように言う。
(「そういえば私は被害がなかったな、これは喜んでいいのか‥‥」)
ホープマスクが心の中で呟いた時だった、彼が覚醒の時に脱いだオーバーマスクをもやしは手に取り――――鋏を取り出して魔王の微笑みをホープマスクに向ける。
その後、何とかマスクを取り戻し、能力者達はいつもより疲れた任務の報告の為に本部へと帰還していったのだった。
END