タイトル:女郎蜘蛛マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/01 02:36

●オープニング本文


それは艶やかに髪を靡かせて、洞窟の奥から獲物を狙う――女郎蜘蛛だった。

洞窟の中にて獲物を狙う瞳を輝かせながら――迷い人を待つ。

※※※


山奥のひっそりとした小さな町。

その町から少し歩いた所に小さな洞窟がある。

元々は閉鎖的な町で余所者を受け入れないという場所で、洞窟は大昔の人間が神を祭っていた場所なのだとか。

皮肉にも神を崇めるその場所にキメラが住み着き、住人は能力者にキメラ退治を依頼する事になった‥‥のだけど。

※※※

「町には近づくな――ですって」

女性能力者はため息混じりに呟いた。

「え、何だそれ‥‥」

「昔の古臭い習慣が残っているんでしょうね、こういう小さな町では珍しくないけど」

そうかぁ? と眉間に皺を寄せながら呟く男性能力者に「都会でしか育った事のない人にはわからない事よ」と女性能力者は言葉を返してきた。

「外部の人間を信用するな、外部の人間は災いを運んでくる――大昔はそんな事が本気で信じられてきた時代もあったのよ‥‥」

そしてそういう事に関しては根強く残っているものよ、と女性能力者は言葉を返した。

「今回の依頼、町の住人達には関わらない方がいいかもしれないわね」

女性能力者は呟き、今回のキメラの資料を見始めたのだった。


●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
ソフィリア・エクセル(gb4220
19歳・♀・SF
アルジェ(gb4812
12歳・♀・FC
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

―― 人との関わりを断つ町に現れたキメラ ――

「町には近づくな――か。興味ないね」
 須佐 武流(ga1461)が高速艇の中で軽く資料を眺めながらため息混じりに呟いた。
「向こうから関わってくるなって言ってるものを‥‥何で関わってやる必要がある」
 須佐の言葉を聞き「ふむ、時代遅れ的な考えを誇示する奴らもあるのか‥‥」と独り言のように漸 王零(ga2930)が呟く。
「まぁ、例えどんな風に見られていようとバグアからは守るべき――だと私は考えていますね」
 アルヴァイム(ga5051)も資料を見ながら呟く。その資料の中には最低限の情報は載っていたけれど、やや不足している部分があるのも確かだ。
「しかし、何故『近づくな』と言う程までに余所者を嫌うのだろうな」
 レティ・クリムゾン(ga8679)が手を口元に当てながら呟く。
(「まさか‥‥私達を生贄にする為に町に近づけさせないとか‥‥? それとも今回のキメラと何か関係が‥‥?」)
 資料には何も『町に近づくな』と言う理由が書かれていない、その為かレティは段々と悪い方へと考えが向いてしまっているようだ。
 しかし首を緩く振って「今は任務を優先させよう、住人に被害が出ては事だ」と小さく呟いて、気分を変える為に外の様子を見る。もうすぐ到着する筈なのだけど、いまだ問題の町は見えてこない。
「確か今回のキメラが潜んでいる場所は洞窟ですわよね?」
 ソフィリア・エクセル(gb4220)がレティに問いかけ「そうみたいだね」と彼女は言葉を返した。
「洞窟‥‥滑りますわよね。それに、大きい蜘蛛まで‥‥いっそ焼き払った方が手っ取り早いと思うのは、多分気のせいですわよね」
 うん、とソフィリアは可愛らしい顔で恐ろしい事を呟く。もしその方法が提案されていたとしても、キメラが現れたのは昔から神を祭っていた場所――町の住人達がそんな事を許すはずもないだろう。
「まぁ、何にしても今回は生身での初戦闘ですし、皆様の足を引っ張らないように頑張りますわ」
 ソフィリアは自分の武器である槍斧『ゲリュオン』を持ち、現場に到着するのをジッと待つ。
「古くからの、習慣、分からなくはないですが‥‥でも、今だけでも、信じて欲しいです、分かり合えない、筈はないと、思いますから」
 これを機に少しでも交流できればいいのですが――ルノア・アラバスター(gb5133)は少し寂しそうに言葉を付け足しながら呟く。町の住人しか信じていないという町の現状に彼女は憂いているのだろう。
「マスター、大丈夫? マスターはアルが守るから心配ない」
 アルジェ(gb4812)が寂しそうな表情をしているルノアに話しかける。
「はい、私は、大丈夫、ですよ」
 ルノアはアルジェを心配させないように少しぎこちない笑顔で言葉を返す。その隣では皇 流叶(gb6275)がため息を吐いている姿が見えた。
(「然し蜘蛛‥‥ですか」)
 皇はため息と共に心の中で呟く。彼女自身、蜘蛛に対して多少の苦手意識があるのか資料を見てはため息を吐く――という事を繰り返していた。
 その直後、町付近へ到着したというアナウンスが流れ、能力者達は降りる準備、そして戦闘に対する準備を始めたのだった。


―― 静かな町、祭壇にて潜むキメラ ――

 今回は『狭い洞窟』での戦闘を強いられる為に、能力者達は一塊になって行動を行う事に決めていた。一塊とは言ってもきちんと陣形を組むことでキメラからの不意打ちなどを避ける作戦を立てているのだけれど。
 隊列の一番前を漸が歩き、その後ろをアルヴァイム、彼ら二人が真ん中を歩き、その後ろ左右には右にソフィリア、左にレティ、そしてソフィリアの後ろをアルジェ、レティの後ろをルノアが歩く。最後尾は皇と須佐が歩き、それぞれがきちんとキメラに対して気を回していれば死角はなく、不意打ちなどを受ける事はないだろう。
「そうですわ、今回の作戦で『閃光手榴弾』を使おうと思っているのですけど、その時は『きらっ☆といきます♪』と言いますわね」
 ソフィリアが合図の言葉を能力者達に教える、予め言っておかないと戦闘中にいきなり言っても対処出来ない能力者が居るかもしれないと考えて最初に言っておく事にした。
 能力者達は確認などを済ませると――蜘蛛キメラが潜む洞窟の中へと足を踏み入れていった。

「狭いとは言っても、それなりに動ける洞窟のようだ――奥行きがないだけで広さは情報のような狭さは感じないな」
 漸が洞窟内部に入ってすぐに呟く。確かに細い一本道ではなく、それなりにゆとりのある広さだ。きっと情報に載っていた『狭い』とは洞窟の規模が小さいという意味の『狭い』だったのだろう。
「しかし暗いな‥‥」
 須佐は『暗視スコープ』で暗闇の中でも敵を見逃さないようにしながら呟く。洞窟の至る所に燭台のような物が幾つも置かれており、普段は燭台の上に置かれた溶けかけの蝋燭に火を灯して光源を確保しているのだろう。
「糸は、仕掛けられて、いなさそうですね」
 ルノアは持参してきた水の入った霧吹きを使い『ランタン』の光で糸が仕掛けられていないかを調べる。もし糸が仕掛けられていたならば霧吹きによって濡れたせいでランタンの光でも見つける事がたやすい。
「マスター、でもずっと調べていたら水が切れる」
 アルジェの尤もな突っ込みに「よ、予備の水が‥‥ないです」と荷物の中を漁った後に少しがっくりとした表情で言葉を返した。
 その時だった。前方からカサカサと何かが洞窟内を這い回るような音が能力者達の耳に響いてくる。
「この洞窟内には我達の他に『何か』が存在する――つまり、キメラでしょうね。人間だったらこんな音のする歩き方は出来ません」
 アルヴァイムが落ち着いた口調で呟き警戒を強める。音はどんどん近づいてくる。
 そして。
「暗いほうが楽といえば、楽、なんですけど‥‥!」
 皇が呟き、間近に聞こえた音の方向に懐中電灯を向け、その動作と同じく小銃『S−01』を抜きながら呟く。
 そこで皇や他の能力者達の視界に入ったモノ――それは顔だけは女性のもので、身体は巨大な蜘蛛の形をしたキメラだった。
「デケェ蜘蛛だなぁ‥‥? いいねいいねぇ‥‥こういうの待ってたぜ‥‥?」
 クセになるなよ、須佐は呟きながら『瞬天速』を使用して洞窟の壁を走り、蜘蛛キメラの上を取る。
「テメェに出来る芸が‥‥俺に出来ねぇ道理はねぇ!」
 須佐は『刹那の爪』を用いた蹴り技をキメラの顔に叩き込む。
「そのツラが気にくわねぇ」
 須佐がキメラの顔面に攻撃を叩き込むと同時に、キメラは地面にいる能力者達に向けて巨大な手足で攻撃を仕掛けていた。繰り出された攻撃を漸は『月詠』でいなして、キメラとの距離を詰めていき『ショットガン20』で零距離射撃を行う。流石に零距離からの攻撃は堪えたのかキメラは洞窟内に響き渡る大きな叫び声をあげた。
「序幕は終わりだ、さぁ‥‥今から貴様の幕引きをしてやろう‥‥感謝しろ」
 漸が冷たい口調で呟く。反射的にキメラは暴れるように手足を振り上げるが、アルヴァイムは『真デヴァステイター』で正確にキメラの手足を狙い撃ち、能力者達への攻撃を逸らさせる。
「5mの大蜘蛛か、大物だな」
 あまりいらない大物だが、とレティは言葉を付け足して『エネルギーガン』で蜘蛛キメラに攻撃を仕掛けた。
「ふふ、さて――無駄に多い脚を一本ずつジワリジワリと切り落として差し上げますわよ」
 ソフィリアは少し黒い笑みを浮かべながら槍斧『ゲリュオン』を構えて、蜘蛛キメラに向けて攻撃を仕掛ける。その攻撃によって射撃組も集中的に狙っていた脚の一本がぶつりと嫌な音をたてて切り落とされる。それと同時に響き渡るキメラの絶叫にも似た悲鳴。
「あらあら、美しくない声ですわね。貴女のその姿にお似合いな声ですわ」
 ソフィリアの呟きにキメラは数本の手足を振り上げて彼女目掛けて攻撃を仕掛ける――が。たんたん、と軽やかな動きでアルジェが『ソード』を両手に持つ。
「マスター‥‥下がって‥‥はっ!」
 アルジェは呟くと同時に『ソード』をキメラに向けて投擲を行う。しかしキメラはそれを避けて天井を伝うように逃げるのだが‥‥ルノアが『クルメタルP−38』で移動先を狙って攻撃を行い、キメラは天井に上りかけて、無様に地面へと落ちてくる。
「‥‥外さない、逃がさない」
 深紅に染まったルノアの瞳が確りとキメラを見据え『強弾撃』と『影撃ち』を使用しながらキメラの頭部を狙って攻撃を行う。彼女の放った弾丸はキメラの左頭部を捕らえ、ずしんと大きな音をたてて倒れる。
「早ければ止めてしまえばいい、止まらなくても――当てられない事はない――くくっ、少し痺れてみるか?」
 皇は呟きながら小銃『S−01』でキメラを狙い撃った後に雷属性のついた『蛍火』で吐き出した糸に伝わせ、感電したのかキメラは大きく体を震わせる。
 そして、キメラは血をぼたぼたと流した体で洞窟の奥へと逃げていく。
「皆様――『きらっ☆といきます』わよ」
 ソフィリアが呟くと同時に『閃光手榴弾』を奥へと逃げていったキメラ目掛けて投げる。その前に『暗視スコープ』をしている能力者達はそれを外す、つけていれば目が駄目になってしまうからだ。
 そして能力者達は目を伏せていても分かるほどに光る洞窟内で耐え、光が収まるのを待ち、洞窟の奥へと進む。すると『閃光手榴弾』の効果で視界を奪われ、壁でだらりとするキメラを見つける。
「これでトドメだ」
 須佐が呟き『限界突破』で自身の速度をあげて『急所突き』で攻撃を行う。そして同じ頃に漸もトドメを行うために構えていた。
「これで終いだ‥‥汝の業、全て我が貰い受ける‥‥奥義‥‥断光死衝!」
 漸は『月詠』で『流し斬り』を側面に回りこんで斬り付け、返しで名刀『国士無双』で胸を突き、そのまま『紅蓮衝撃』を付加して断ち切るように振り上げ、そのままキメラにトドメを刺したのだった。


―― 怯える住人、その理由 ――

 キメラとの戦闘が終わった後、アルヴァイムは『隠密潜行』を使用して町の方へと向かった。此処までに余所者を拒否する理由、そして能力者や軍への好意度、最後に指導的立場にある人物の人間性を調査する為だ。
「能力者達が洞窟に向かって行ったらしいね、上手く退治してくれるといいんだけど」
「本当にね、まさか神聖な洞窟にキメラが現れるなんて‥‥不吉だわぁ」
「でも余所者に頼まなくてはならないなんてねぇ‥‥」
「仕方ないですよ、あんな化物と戦えるのは化物にしか出来ないんですから」
(「‥‥酷い言われようですね‥‥」)
 能力者さえも化物と呼ぶ住人にアルヴァイムは少しだけ穏やかな気持ちではいられなくなった。
「余所者は災いを呼ぶ、だから早く出て行ってくれないかしら」
「余所者が来ても相手にしちゃ駄目よ、じゃないと町長さんに厳しい罰を受けるわよ」
「分かってるわ」
 会話を終えると女性達はそれぞれの家へと帰っていく。
(「あまり良い印象が無い事だけは分かりましたね」)
 アルヴァイムは心の中で呟くと、仲間達が待つ場所へと戻っていったのだった。

「町に入れないから‥‥テント張った、マスター中で休むといい、水筒にお茶も入ってる」
 こぽこぽとルノアに冷たいお茶を渡しながらアルジェが話しかけると「ありがとう」とルノアは礼を言い、テントの中へと入っていく。
 その時に町の方へ行っていたアルヴァイムが帰ってきて見聞きした事を能力者達に話した。
「よほどの余所者嫌いなんだな、少し――いや、かなり居心地が悪い町だ」
 レティがため息混じりに呟く。こんな町ならば本当に生贄でも出しているのではないか、とさえ思えてくるのが不気味だ。
「町の住人の対応よりも早急にシャワーを浴びて髪のお手入れをしたいですわ、洞窟の中は凄くじめじめしてましたし、放っておくと髪が痛んでしまいそうですもの」
 ソフィリアが心配そうに髪を弄りながら呟く。
「‥‥あの、キメラは倒したんですか」
 少し離れた所から男性が能力者達に話しかけてくる。
「町長さんがまだいるのかって‥‥退治したなら早く帰って欲しいんですけど」
 その言葉を聞いて漸がため息混じりに口を開く。
「外部の人間を信用しないなら頼りもするな‥‥問題は汝ら自身で解決しろ‥‥困った時だけ利用するなど虫が良すぎるぞ‥‥それが出来んのなら古い慣習など捨ててしまえ‥‥信用する気のない奴の為に命をかけたくはない」
 漸の言葉に「しょうがないじゃないですか‥‥」と男性が言葉を返してくる。
「僕たちは普通の人間、貴方達は化物を退治する為の――限りなく化物に近い人達じゃないですか‥‥どうやって信用しろって言うんですか」
 男性の言葉に能力者達は言葉を失う。中にはそんな事を言う人間もいるとは思っていたが面と向かって言われると気分の良いものではない。
「終わったなら‥‥早く帰ってくださいね」
 男性はそれだけ言葉を残すと、まるで何かから逃げるように怯えた目で町の方へと向かって駆け出していったのだった。
「ああいう輩には言っても駄目なんだよ、思いたい奴には思わせておけばいいんだ」
 須佐が面倒そうに欠伸を噛み殺しながら呟くと高速艇の方へと向かう。
「‥‥‥‥」
 アルヴァイムも無言で高速艇へと向かう。だけど彼はどんな人間であれキメラに襲われて困っている人は見過ごせないのだろう。襲われた時の為の指南書のようなものを公民館の書類がある棚に残していた。
「あまり、気分の良い仕事ではなかったな」
 レティはため息混じりに呟くと「そうですわね」とソフィリアも呟き、一緒に高速艇へと向かう。

 その後、能力者達は報告を行う為に本部へと帰還していったのだった。


END