タイトル:朱の更紗・邂逅マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/28 22:28

●オープニング本文


その出来事は考えて見れば不思議な事でも何でもなかった。

こんな時代なのだから、いつかは遭遇する事‥‥。

だけど、ボクの頭の中では『絶対にない』と根拠のない自信があった。

そんな事‥‥絶対にないのに。

※※※

「――――――え」

その日は本部に依頼を探しに来ていた、その中で一つの依頼が目に留まった。

それはキメラ退治の依頼で、能力者であればもう慣れた依頼なのかも知れない。

だけど‥‥ボクは自分の目を疑った。

能力者要請をしてきた街、そこはボクの生まれ故郷――犠牲者となったのは幼馴染だった。

「な、んで‥‥」

能力者である以上、他の能力者ほどじゃないけど人の生死に関わってきた。

助けられなかった子供もいた、自分が危なくなって助けられる事もあった。

だけど、身近な人間が死ぬことは今までなかった。

「どうしたの? 何かあった?」

ボクと同じ時期に能力者になった女性が話しかけてくる、きっと今のボクは誰が見ても表情を青くしていたからだろう。

「この、依頼‥‥被害者がボクの幼馴染なんだ‥‥ボク――‥‥の」

がたがたと震える身体を押さえながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

そしてその依頼を受けようとした時、女性能力者が「止めた方がいいわ」と話しかけてくる。

「‥‥どうして? ボクの幼馴染が殺されて、何で止めないといけないんですか」

「それよ」

女性能力者はボクを指差しながら「知り合いが殺されて冷静な判断も出来ないでしょ」と言葉が返ってくる。

「私も――前に似たようなことがあったから‥‥分かるのよ、私はその結果‥‥自分中心に動いて仲間に迷惑をかけた。死んだ仲間もいたわ、あなたも同じ事をしたいの?」

女性能力者の言う事はもっともだった、今のボクには冷静な判断なんて出来ない――だけど。

「ボクは行く。仲間に迷惑はかけないようにする、もし迷惑をかけそうになったら仲間から引っ叩いてもらうから‥‥ボクは行きたい」

ボクは言葉を返し、そのままオペレーターに依頼を受ける事をつげ、一緒に行ってくれる仲間を待つのだった。

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
高村・綺羅(ga2052
18歳・♀・GP
レィアンス(ga2662
17歳・♂・FT
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
九条・護(gb2093
15歳・♀・HD
深墨(gb4129
25歳・♂・SN

●リプレイ本文

―― 復讐の更紗 ――

 今回はスナイパーの荻城・更紗が同行する任務――だけど能力者達にとって問題点が幾つも存在した。
(「更紗嬢には久しぶりに会ったが、少し危うい感じだな。事情は分からんでもないが‥‥俺らでフォローするべきか」)
 九十九 嵐導(ga0051)が少しだけ表情の暗い更紗を見て心の中で呟いた。
「お久しぶりですね‥‥仕事は慣れてきましたか? ‥‥今回は宜しくお願いしますね」
 神無月 紫翠(ga0243)が更紗に挨拶をすると「少しだけ。でも皆さんの邪魔にならないようにボクも頑張りますね」と少しだけ疲れたような笑みを見せて言葉を返した。
(「‥‥彼女にとっては‥‥敵討ちとなりますが、復讐したいでしょうから、冷静を保つのは、難しい可能性もありますね‥‥」)
 神無月は更紗に向かって挨拶をしている間、心の中で呟く。最悪の場合は冷静さを欠いた更紗に対して手を挙げる事も彼は考えている。
「ん‥‥会うたびに久しぶり、だな。しかし‥‥」
 レィアンス(ga2662)は続く言葉を口から出せずにいた。幼馴染を亡くしたという事は今回の能力者、誰もが知っている。だからこそ彼は更紗に言葉をかけられないのだろう。
(「ゆっくり挨拶してるより、早く向かいたいだろうからな」)
 更紗は落ち着いているようにも見えながら、拳は震え、今すぐにでも駆け出したい――そんな感じの表情をしている事にレィアンスは少しだけ苦笑して心の中で呟く。
「更紗さん、熱くなるなとは言いません。キメラへの憎しみも捨てろとは言いません」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)が更紗の前に立って金の髪を靡かせながら言葉を続ける。
「ただ、スナイパーならスナイパーらしく、きちんと相手を見据えるだけの冷静さだけは残して置いてください。さもなくば、ただ無駄死にするだけです」
 クラリッサの言葉に「‥‥うん、分かってます」と更紗は俯きながら言葉を返す。
「そして、貴女一人が暴走して、自分だけではなく仲間まで危険に晒す事は決して許しませんからね」
 クラリッサの言葉は少し厳しいものだったけれど、それは任務を行う『能力者』ならば心得ていなければならないこと、それが分かっていたから更紗も黙って首を縦に振った。
「そういえば、更紗さんは敵がいそうな町外れに心当たりとかある?」
 高村・綺羅(ga2052)が更紗に問いかけると「え、あぁ‥‥うん、地図でも見れば分かると思う」と更紗は言葉を返してきた。
「地図なら此処にありますよ、更紗嬢の出身地とは言え勝手が変わっているかもしれないと思い、用意しておいたんです」
 九十九がバサリと地図を広げながら呟く。町そのものの規模は小さく『町外れ』に該当する場所が何ヶ所かあるくらいだった。
「キメラが何処にいるかは分からないけれど、住人が『町外れ』と言ったのならば――多分、此処だと思います」
 更紗が指差したのは町の北側に位置する場所だった。昔は民家などがあったらしいが現在は既に廃屋となっており、誰も近づかない場所なのだと更紗は言葉を続けた。
「‥‥ボクは‥‥キメラを‥‥」
 更紗は拳を強く握り締めた後に小さく呟く。
「怒りとか憎悪とか、そういう感情を持つのは人間として間違っちゃいない。何かあった時にそういうのを抱くのは健康的且つヘルシーな精神だからね」
 九条・護(gb2093)が更紗に向けて呟く。
「でも、他人の命を預かる場合はその感情に身を任せちゃ駄目。制御しなくちゃいけない」
 皆が言った事の繰り返しになるかもだけど念のためにね、と九条は言葉を付け足して「さ、今日も頑張ろう」と更紗の背中を軽く叩いた。
「俺個人の意見ですけど、任務を優先するか、感情を優先するか、そんな選択に正しいも間違いもないと思います」
 深墨(gb4129)が呟くと更紗は目を丸くして「‥‥ありがとう」と言葉を返した。彼女にしてみれば一人でもそういう言葉を投げかけてくれる事が嬉しかったのだろう。
「あくまで頭は冷静に、なんて思ってても、実際はそうそう出来るものじゃないわよねぇ」
 アズメリア・カンス(ga8233)もため息と共に言葉を吐き出す。心を持たなければきっと任務だけに集中できるのだろう。
 だけどそれは『人間』として何かを失った者のような気がしてアズメリアは任務に徹する事だけを求める――これに賛成しかねるような表情を見せていた。
 その後、能力者達は高速艇に乗り込み、更紗の出身地――そしてキメラが潜む町へと出発したのだった。


―― 無人の町、悲しき心の行き場 ――

 今回は更紗が暴走する事も考慮して、能力者全員で固まって動くという作戦を取る事にしていた。
「‥‥‥‥」
 高速艇を降りて更紗は少し目を細めながら町の様子を見ていた。普段ならば町の住人の誰かが「お帰り」と言ってくれる筈なのに、住人は避難しており更紗に声をかける者はいない。
「すぐ、見つかるといいんだけど」
 深墨が呟くと「町は無人ですからね、それに町は小さいですし」と更紗が苦笑気味に言葉を返す。
「一応念のために持ってきた」
 高村は持参してきた『ラジカセ』の一つを入り口に置く。更紗が『町外れ』に見当を付けてくれたがキメラが移動する事も考えて『町外れ』になりそうな場所などにラジカセを置くつもりでいたのだ。大きな音を鳴らしておき、その音が切れればキメラしかいないのだから、すぐに現場へ向かう――。
「確か――犠牲者が出たのも『町外れ』だったな‥‥道案内を頼めるか」
 九十九が更紗に向けて話しかけると彼女は言葉を返さずに首を縦に振る。
(「更紗さんはの気持ちも分かるけど、自分勝手に憤慨しているんじゃないかな? ‥‥多分、これは更紗さんも分かってるんじゃ‥‥」)
 行き場のない怒りを抑えるような更紗を見ながら高村が心の中で呟く。
「アレか‥‥!」
 更紗が予想していた通りの町外れ、その場所に佇むのは資料にあった鎧武者の格好をしたキメラだ。能力者達はそれぞれ敵が視界に入ると戦闘準備を始めたのだった。
 能力者の姿を確認したキメラが一歩、また一歩と近づいてくる。そこへ前衛が攻撃しやすいようにと九十九は『ライフル』でキメラの足元に狙撃を行う。足元を狙う事によって動きを止め、前衛で動く能力者達の援護を行っているのだ。
 そして神無月も『魔創の弓』で攻撃を仕掛けようとした時、小型ナイフを持って今にもキメラに向かって走り出しそうな更紗の姿を見かけた。
「何を、考えているんですか? ‥‥貴女は‥‥前衛の邪魔になります‥‥」
 神無月の言葉に「落ち着こうと思った、だけど許せない、許せないんです」と更紗は静かに、だけどどこか怒りに満ちた声で言葉を返した。
「許せないのは‥‥分かりますが、ここで混乱して‥‥仲間を危険に曝して‥‥どうするんです?」
 神無月の言葉に背後から「きちんと言いましたわよね」とクラリッサが話をかけてくる。
「無意味な暴走が仲間を危険に陥れると。それが理解出来ないなら、戦場から直ちに立ち去りなさい!」
 ぴしゃり、と乾いた音が響き渡る。その音はクラリッサが更紗を引っ叩いた音だった。
「ボクは‥‥ボクは‥‥」
 更紗はがたがたと震えながら持っていたナイフを落とし、弓へと持ち替え、そのままキメラを狙う。だけど――はっきり言ってキメラには前衛組みが密着しており、狙いが定まる状況ではない。
「撃つな! スナイパーが味方を撃ったら、誰からも信用されなくなる!」
 九十九が大きく叫ぶ。
「闇雲になるな。腹を立てるな。手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に」
 前衛から戻ってきた九条が更紗に向けて話しかける。
「闇雲になれば目的を忘れる、腹を立てれば判断が鈍る。手が乱れれば狙いが逸れる、平常心を保ち、手を乱す事無く、意志を研ぎ澄まし、衝動ではなく理性でもって対象を狩る」
 それがスナイパーだよ、九条はそれだけ言葉を残し、再びキメラへと向かう。
「‥‥キメラを退治しに行って下さい‥‥ボクは少し気持ちを落ち着けてから動きますから、もう大丈夫ですから」
 更紗は俯きながら能力者達に向かって呟き、援護役の能力者達はそれを信じたのかそのままキメラへと向かって攻撃、前衛能力者達の援護を始めたのだった。
「貴方がこの町に現れなければ、誰も犠牲者は出なかった――己を暴走させる程までに更紗さんも心を痛めずに済んだんです」
 クラリッサは呟くと能力者達に『練成強化』で武器を強化して『練成弱体』でキメラの防御力を低下させる。
 キメラが前衛の高村に攻撃を仕掛けようとした時――九十九が『鋭覚狙撃』と『急所突き』を使用してキメラを攻撃する。
「悪い、待たせた、援護する」
 神無月は呟き『魔創の弓』で『強弾撃』と『影撃ち』を使用して攻撃を行う。
「綺羅たちは負けないよ」
 高村は小さく呟き、振ってくるキメラの刀を『アーミーナイフ』で受け止め『疾風脚』と『瞬即撃』を使用して『機械剣α』で攻撃を行い、キメラの持つ刀を破壊し、尚且つキメラ自身にもダメージを与えた。
「退路、塞がせてもらうぞ」
 武器をなくし、少し慌てたようなキメラを逃がさぬようにレィアンスは退路を断つ。そして『先手必勝』を使用して『蛍火』と『【OR】柄無』で『流し斬り』を使用して攻撃を行う。
「お前が殺した相手に与えた恐怖、それをお前が感じる番だ」
 再び『先手必勝』を使用して攻撃を行いながらレィアンスは忌々しげに言葉を呟く。
 更にキメラの背後からアズメリアが『月詠』で攻撃を行う。突然のことでキメラは防御する事も叶わず、彼女の攻撃をまともに受けてしまい、ガクリと膝を折る。
「フルボッコって汚いと思う? だけどキミだって罪のない一般人を殺したんだから、そんな事は言わせないけどね」
 九条は『竜の爪』を使用した後『エクリュの爪』で攻撃を行い、防御の出来ないキメラに攻撃を行う。
「もう‥‥好き勝手動けると思うなよ」
 深墨は呟き『スナイパーライフル』を構え『鋭覚狙撃』を使用して射撃を行う。万が一にも逃げられぬよう、深墨はキメラの足、手などを狙って射撃を行った。
 そこへ気持ちを落ち着かせ、先ほどとは別人のような表情をした更紗が戦線に戻ってきた。
「もうかなり弱ってる、だから最後は更紗さんがするんだよ」
 アズメリアの言葉に「私が‥‥?」と目を丸くしながら更紗は言葉を返した。
「止めを刺すのは、最もそれをやりたいであろう人に譲らないと、ね」
 アズメリアの言葉に、更紗は震える手を押さえながら弓を構え、そして弱っているキメラに狙い打つ。それは研ぎ澄まされたもので、キメラの喉を貫通して、キメラは血を吐きながら地面へと倒れ、そして二度と起き上がってくる事はなかった。


―― 敵討ち、晴れぬ心 ――

「そういえば‥‥深墨さんが覚醒を行う時、長く息を吐いてましたけど‥‥」
 更紗が深墨に話しかけると「ああやって、何が起きても平気でいられるように覚悟を決めているんだ」と言葉を返してきた。
「そうだったんですか」
 覚悟が足りずに迷惑をかけてしまった事実に更紗は目を背けたい気持ちに駆られた。
「身近な人の死は‥‥辛いですよ‥‥でも復讐は‥‥虚しいものです‥‥」
 神無月は遠くを見ながらポツリと呟く。彼は両親を亡くした後、復讐も考えていたがそれを止めた――という経験がある。きっと彼に近しい者しか知らない事実であろうが。
「此処が‥‥お墓みたいです」
 町からさほど離れていない墓地の一ヶ所で更紗は立ち止まり、持っていた花を供える。
「ボク一人じゃきっと倒せなかったけど、あんたを殺したキメラは退治できたよ‥‥」
 更紗は泣きながら墓地で眠る幼馴染に報告するようにポツリポツリと小さな声で報告をしていた。
「‥‥‥‥少しは気が済んだか?」
 レィアンスが話しかけると「ふふ、全然」と更紗は苦笑しながら言葉を返した。
「正直な所、復讐目的の戦いは、あまりして欲しくないが‥‥」
 呟くレィアンスの言葉に「ありがとう、でもこれが最後だから」と更紗は空を見上げながら呟く。
「忘れることは無理だろうけど、あまり気にしてたら――きっと幼馴染の彼も浮かばれないと思う。だから思い出すのは良い事だけにして、嫌な事は極力思い出さないようにしてあげるといいかもね」
 アズメリアの言葉に「うん」と更紗は空を仰いだまま言葉を返す。
「仇を討ったからって幼馴染は戻ってこないけど。でもこれは、けじめなんだと思います。荻城さんが幼馴染の分まで生きていけるように」
 だから、今度会う時は笑顔を見せてください――深墨が穏やかな笑みで更紗に話しかける。
「綺羅達が戦っているだけでも死んでいく人達がいる。その人達も多くの知り合いがいて悲しむ人がいる。その罪を背負っている事を忘れないで欲しい」
 高村の言葉に「能力者ってたくさん重い物を背負ってるんだね」と更紗は俯きながら言葉を返す。
「俺達に出来る事は敵を退治する事だけじゃないと思う。だから――せめて笑顔でいてやるといい。その方が友達も安心できるだろ」
 レィアンスの言葉に「分かりました」と更紗は涙混じりの笑顔を見せる。
「そうだ、折角だから更紗さんに町を案内してもらおうよ。色々辛かったり、嫌だったりするかもしれないけど、何を守るのか確認するって結構重要だと思うんだよね」
 九条の言葉に「何もない田舎町だけど、案内するよ」と更紗は立ち上がる。

 その後、能力者達は更紗の故郷を案内してもらった後に高速艇で本部へと戻っていき、報告を行ったのだった。
 別れ際、更紗は追い詰められたような表情などしておらず、きっと今回のことが傷になる事はないだろうと思う能力者達だった。


END