●リプレイ本文
「もやし‥‥とはまた不思議な言葉を生み出すものですね」
感心しながらキーラン・ジェラルディ(
ga0477)が呟く。
「でも‥‥私でしたら『もやし』なんて呼ばれたらショックで泣いてしまいそうですね‥‥。悪い意味ではないとは分かっていても‥‥割り切れるものではないですから」
ファティマ・クリストフ(
ga1276)が手を頬に置きながら小さく呟く。
「でもお母さんの為に剣を届けようと一生懸命なんだろうね、その気持ちは大切にしてあげたいなっ♪」
琴乃音 いちか(
ga1911)がにっこりと笑みながら、今回一緒に『もやし』を探す能力者達に話しかける。
「確かにな、しかし母親も傭兵を生業にしているとはいえ、武器を届けるべき人間が迷ってどうするんだ‥‥」
南雲 莞爾(
ga4272)がため息を吐きつつ、呆れ気味に呟く。
しかし今回は広いラスト・ホープ内でたった一人の少女を見つける――人探しの任務とはいえ、苦労することに間違いないだろう。
「一応、本部から通信機は借り受けておいたよ、あと‥‥俺は本部の外を探す為にバイクも借りることにした」
本部の外を指差しながら呟くのは五代 雄介(
ga2514)だった。
「でも‥‥天使のような姿で悪魔の性格と言うのが気になりますね」
五代が苦笑しながら呟くと「大丈夫だって」と金城 エンタ(
ga4154)が笑いながら言葉を返す。
「いくら『中身が悪魔』でも、子供でしょ? じゃ、彼女を届けるのは僕達大人の責任ですよ」
あはは、と笑いながら言う金城の言葉に「確かに‥‥」と五代は納得するような返事をする。
「そういえば‥‥依頼人が分かりませんが、キリーを見つけ出して安全を図れれば良いのでしょうか? よもやストーカーの類では無い‥‥ですよね?」
キーランが大真面目な表情で、他の能力者に問いかける。
「ほぇっ? ストーカーさんが依頼人なの? それって仕事していいのかな、自分達‥‥」
ストーカーの依頼であったら、任務遂行と同時にもやし‥‥もといキリーの安全が危ないかもしれない。
橙識(
ga1068)が心配そうにキーランの方を見る――が、ファティマが「彼女のお母様の‥‥ご友人からみたいですよ」と答える。
どうやら、仕事で娘の面倒を見れないため、友人にキリーを預けたのだが、見事にキリーは何処かへと行ってしまった‥‥というのが真相らしい。
「そろそろ捜索開始しましょうか、イタズラっ子らしいですが、出来る限り、彼女が『自分が仕掛けた罠・その他の事故』などで心・体が苦しまないように細心の注意を払わなければなりませんし‥‥」
金城の言葉に、能力者達は首を縦に振って捜索を開始し始めたのだった‥‥。
●最初の犠牲者は五代 雄介!?
五代は借りたバイクに跨り、本部周辺を探していた。
彼女の目的は本部だと思われたからだ、母親の剣を持って本部にやってくる――その途中でキリーを見つけて保護しようというのが、彼の作戦だった。
「あ、すみません」
道行く人にキリーの写真を見せ、見かけていないかを聞いていく。先ほどから捜索範囲を広めて探しているのだが、見かけたという人はいなかった。
「ここら辺じゃないのかな‥‥」
そう言って別な場所に向かおうとした時‥‥キリーの姿を発見した。
「此方、五代。キリーを発見したので今から接触を試みる」
借りた通信機で仲間に連絡し、五代はバイクを邪魔にならないような場所に停めて、キリーに近づく。
「きみがキルメリアちゃんだね?」
五代がキリーを警戒させないように笑顔で話しかけながら近づいていくと‥‥。
「人の名前を聞くときは自分から名乗るものよ」
体には不釣合いな大きな剣を持ってキリーが五代を睨むように下から見上げてくる。
「おっと、確かにそうだね。俺は五代 雄介って言うんだ。宜しく」
「別にアンタとお知り合いになりたいわけじゃないから宜しくしたくないわよ」
(「うん、凄く素敵な性格だ、まさに悪魔だね――人の揚げ足ばっかとって‥‥」)
五代は目の前のキリーに暴言を吐かれながらも『自分は大人』と心に言い聞かせて、笑顔を崩さない。
「あ」
キリーが五代の後ろを見つめたまま呟く。それに釣られるように「え?」と五代も後ろを向いた所―――ゴキャ‥‥と鈍い音がするのを遠のきかけた意識で聞いていた。
ちなみに持っていた剣で後ろを向いた隙にキリーが殴りつけたのだ。もちろん鞘がある状態で。
「アタシを攫おうなんて百万年早いわ、じゃあね」
キリーの言葉に周りの人たちが五代を見ながらひそひそと呟き始める。
「うぇっ!? 違います! 俺そんな奴じゃありませんよ!」
必死に弁解するが、周りの人間には『言い訳』にしか聞こえないようだ。
「‥‥色んな意味で将来が凄そうな子だな‥‥」
呟いた後、五代は通信機でキリー保護失敗の連絡をしたのだった‥‥。
●彼女の悪魔行為は続く――‥‥
五代が失敗したとの連絡を受けたころ、金城は市街地を歩いていた。金城の外見は小柄で女の子のような顔立ちであり、同年代だという事で接触すればキリーの警戒心も薄れるのではないだろうかと考えたのだ。
今回の仕事のため、金城を始め、今回集まった能力者達は武装解除をして仕事をしている。
「普段着で仕事するなんて‥‥」
金城は緩めのトレーナーとジーンズという自分の服装を見ながら苦笑する。
その時、同じくキリーを探す南雲と合流する。
「見つかったか?」
南雲の問いかけに金城は首を横に振る。
「そういえば‥‥さっきは少し大変な目にあったな」
南雲がため息混じりに呟き「何があったんですか?」と金城が問いかける。
彼、南雲が単独行動でキリーを探しているとき、通行人などに話を聞きながら探していたらしい。
しかし、その行動を怪しく見る人間が多数存在したとの事‥‥。
「それは大変でしたね‥‥その後はどうしたんですか?」
「此方に後ろめたいことはないからな、面倒だったが事情を説明して納得してもらった」
はぁ、と南雲がため息を吐いた時、キリーの姿を発見する。
「幼子への交渉はどうも苦手だな‥‥せめてもう少し上の年齢だったら何とかなったのだが‥‥」
「交渉は僕がしますよ、見た目もこんな感じですから警戒される可能性は低いと思いますし」
金城の言葉に「頼む」と言って南雲は金城のあとをついていき、キリーとの接触を図った。
「今日は色んな人が前に立ちはだかる日ね、アンタも変態ロリコン誘拐犯の一人なの?」
何故かキリーの中では話が大きく肥大している。
「ち、違うよ。そんな大きな剣を持ってるから傭兵さんかなと思ったんだ」
「剣? これはママのよ。ママはとっても強いファイターなんだから! でもママってばちょっとドジだから剣を忘れて行っちゃったの」
同じ年代という事で安心しているのか、キリーはにっこりと笑いながら剣の持ち主の事を話しだした。
金城とキリーが話している間、南雲が通信機で仲間に連絡をする。
「あら、何をしてるの?」
キリーが南雲を指差しながらじろりと呟く。
「あ、これ? お兄ちゃんが友達と連絡を取っているんだよ、ね?」
同意を求める金城に「そ、そうだ」と南雲が少し焦りながら言葉を返す。
「何か怪しいわ」
じーっと見てくるキリーに金城は焦りながら「何が?」と問いかける。
「‥‥まあいいわ、本部って何処? 早くもって行かなくちゃいけないの」
キリーの言葉に「本部はあっちだよ」と指差す。此処からなら本部まで一本道だから迷うことはないだろう。
「そ、ありがと。これは――お礼よ!」
ガスッ、とキリーは金城を蹴り上げる。そして二撃目で五代にくらわせた剣攻撃を南雲にくらわす。
咄嗟の事で避ける事ができなかった二人は攻撃をモロにくらってしまい、その場に蹲る。
「怪しい人には近づくなってママから言われてるの、さよなら」
そう言ってキリーは走って本部まで向かっていった。
●天使の笑顔には天使の笑顔も適わない?
「あれ?」
琴乃音は目の前を歩く少女を見て首を傾げる。さきほど苦しげな南雲と金城によりキリーが本部に向かい始めたという連絡を受けた。
なのに、何故目の前には本部から逆方向に歩くキリーの姿があるのだろう?
「キリーちゃん?」
琴乃音が話しかけると、重たい剣を持ったキリーが振り返る。
「本部はそっちじゃないよ?」
「え?」
え? という事はきっとキリーは真面目に本部に向かって途中で逆走を始めたのだろう。
ある意味、天才かもしれない。
「お姉ちゃんと一緒に本部まで行こっか♪」
琴乃音はキリーを怯えさせないように、彼女と同じ目線まで屈みながら話しかける。
「‥‥‥‥」
琴乃音の言葉に何も返事をせず、キリーは黙ったまま琴乃音を見つめている。
「あのね、お母さんのお友達やあたしの仲間たちもキリーちゃんを凄く心配してるの、だから一緒に行こう?」
琴乃音が手を差し出すが、キリーは手を動かそうとしない。
「信じて、キリーちゃん!」
「本当に本部まで連れて行ってくれる? ママの剣とどけなくちゃ‥‥」
キリーが琴乃音の手をぎゅっと握り締めながら小さく呟く。
「もちろん、お母さん思いのキリーちゃんのそういう気持ち、あたしは好きだな♪」
それから琴乃音に連れられて本部まで来た――ところまでは良かったのだが‥‥。
「ママを探してくる!」
そう言って本部に着くと同時に何処かへと走って行ってしまったのだ。
「あちゃー‥‥」
琴乃音が呟くと「大丈夫ですよ」とキーランが話しかけてくる。
「キリーの母親が別の武器を持って仕事に行っている事も確認が取れました。母親の名はシルフィア、母親の名前を使って本部受付で迷子の呼び出しをしてもらいます」
そう言ってキーランは受付まで行き「迷子の呼び出しをお願いします」と話しかける。
「迷子の呼び出し‥‥でいいんですか?」
受付係が聞き返すようにキーランに問いかけてくる。
「ええ、迷子の呼び出し、でお願いします」
キーランの言葉に「分かりました」と受付係は迷子の呼び出しでキリーを受付まで呼び寄せる。
●終わりよければ全てよし―――‥‥?
「んにゃ? そろそろ出番みたい」
橙識が自分と同じく待合室で待機していたファティマに話しかける。
「そうですか」
ファティマは本部周辺の地理に詳しくないからという理由で橙識と同じ待機班になった。彼女は決して方向音痴ではないと言い張るが‥‥実際はどうなのだろう?
「来たみたいですね」
待合室から出て、キーランがいる場所に向かおう途中で「ママあっ!」と少女の声が本部内に響き渡る。
もちろん、キーランは呼び出し&囮の役目で、実際にキリーを保護するのはファティマと橙識の二人になる。
「こんにちは‥‥初めまして――かな?」
キーランがキリーに話しかけると「きゃあああっ!」とキリーが騒ぎ出す。
「ママがパパになったあああっ!」
「ほぇっ? ぱ、ぱぱ‥‥?」
流石の橙識もキリーの叫びを聞いて驚く。
「そういえば‥‥名前もキーランとキリー‥‥十分親子として通じますわ」
どんな理論だ、キーランは突っ込みをいれたかったが、今はそれどころではない。
「いや、だから、俺はママでもパパでもなくて‥‥」
「パパっ! 早くママに戻って! 戻ってくるように説得してよ!」
(「パパとママが同じ体に存在、一体俺はどんな生物に見られているんでしょうね‥‥」)
キーランは心の中で呟くが、周りからの見た目では『奥さんに逃げられたダメ亭主』にしか聞こえない。
「隙ありいいいっ!」
叫ぶと同時にキリーの持っていた剣がキーランの鳩尾を攻撃する。
「ぐほっ――‥‥」
何の防御もしていなかった鳩尾への攻撃は見事にヒットし、キーランは本部受付前に倒れる。
「しょ、少女のやる事ですからそこまで凶悪なものではないと思っていましたが‥‥俺は甘かった‥‥」
がく、と倒れるキーランに青ざめて橙識とファティマが駆け寄ってくる。
「退いて! ママに剣を届けるの!」
「あのね、よく聞いてね? 武器は本部の保管庫に入れておいてくれってキミのママから伝言が入ったみたい‥‥」
「ほかんこ? 何で?」
「なんでも『今回は他の武器を試してみたいから』だそうだよ」
橙識の言葉に「なぁんだ‥‥」とキリーは口を尖らせてつまらなさそうに呟く。
「えぇと‥‥キリーちゃん? 名前を教えていただいていいですか?」
「アタシはキルメリア・シュプール、お姉さんは?」
「私はファティマ・クリストフと申します」
「じゃあ、クリスちゃんだ、暇になっちゃったから一緒に遊ぼうよ、そこのお兄ちゃんと倒れているおじさんも」
倒れているおじさんこと、キーランは本日最大の攻撃をくらう。
「‥‥お、おじさん‥‥俺、まだ26歳‥‥あれ? それとももう26歳なのかな‥‥」
一人ぶつぶつと呟くキーランに「早く!」と置いていた剣を投げつける。
カコーン、と気持ちの良い音が響き、キーランは本気でキリーの将来が心配になったのだった‥‥‥‥。
そして、騒動から数日後―‥‥キリーを連れて今回の能力者に頭を下げる母親の姿が至る所で見受けられたらしい‥‥。
END