●リプレイ本文
―― キメラ退治に赴く者達 ――
「野犬狩りか‥‥オーソドックスな仕事だな。故に気を抜かずに進めねば」
九条・命(
ga0148)が今回の任務の資料を見ながら小さく呟く。今回のような仕事は至る所で見受けられる。事件が起きる事に慣れたと言う訳ではないだろうが、それでも心の何処かで冷静に物事を考える自分が彼の中に存在する。
「ふむ、突然起きた事件だから逃げ遅れた一般人もいるかもしれないんだな」
須佐 武流(
ga1461)も資料を覗き込みながら呟く、逃げ遅れた一般人がいるのならば迅速に救助をしなければならない。
「そうでありやがるですね、キメラ殲滅と要救助者の避難誘導も急がねぇと、ですね」
シーヴ・フェルセン(
ga5638)が呟くと「まだ急げば手遅れになる事はありませんよね」と金城 エンタ(
ga4154)が言葉を返す。
「状況がはっきりしないからな。これ以上被害が増える前に急いでケリをつけよう」
麻宮 光(
ga9696)が呟き、本部のオペレーターから借り受けてきた事件が発生している周辺の地図をバサリと広げた。
「此処が今回の町、そしてキメラが現れたとされる商店街はここ、だな」
麻宮は地図の上で指を滑らせながら確認をするよう呟く。恐らく現場に到着すれば地図など確認する暇もなくなるだろうと言う事から、麻宮は出発前に全員で確認する事にしていたのだ。
「商店街は大きくはないんですね、キメラが商店街から動いていなければ見つけ出すのはすぐにできるかも‥‥」
雪待月(
gb5235)が地図を覗き込みながら呟き、そして恋人である須佐に視線を向ける。
「身体は‥‥大丈夫ですか?」
雪待月が心配そうな視線を須佐に向ける、彼女は彼に前の戦いでのダメージが残っているのでは‥‥と心配しているのだろう。
「あぁ、大丈夫だ。雪が心配するような事は何もないよ」
須佐が軽く言葉を返すと「あまり無理はしないで下さいね」と雪待月が呟く。
(「‥‥生き延びた私は何の為にこの銃を使うのだろう‥‥?」)
クレア・アディ(
gb6122)は『ドローム製SMG』を見ながら心の中で呟く。彼女は情緒不安定になりやすいのだが、今回が初任務と言う事で冷静さを保とうとしていた。
そして、彼女と同じく今回が初任務の能力者がもう一人存在した。
「よ、よし‥‥やりますよ、俺は! しり込みしてちゃ前に進めないですからね」
ぐ、と拳を強く握りながら九浪 吉影(
gb6516)が少し大きな声で叫ぶ。彼は初任務の為に緊張しているのだろう、テンションがやや高い。
「あ、足引っ張らないように頑張りますんで、宜しくお願いします!」
九浪はやや大げさにも見える動作で頭を下げて、今回一緒に任務を行う能力者達に挨拶をした。
「それじゃ、急ぎましょうか。ゆっくりしていると助けられる人も助けられなくなってしまいますし‥‥」
金城が呟き、能力者達は高速艇に乗ってキメラが現れたとされる場所へと出発していったのだった。
―― 崩された平和・迫る危険 ――
現地に到着した後、能力者達は作戦を決める上で分けていた班での行動に移る。救助者が居るかもしれない状態なので団体で行動するよりは班で行動した方が効率良いと考えたのだろう。
A班・須佐、雪待月、九浪の三人。
B班・麻宮、九条、クレアの三人。
C班・シーヴと金城の二人。
「『トランシーバー』での連絡を密に行いましょう、それでは――無事に任務を終わらせましょう」
雪待月が呟き、それぞれ班での行動を開始したのだった。
※A班※
「ん〜、逃げ遅れた人は‥‥」
九浪は呟きながら周りを見渡すが、まだ商店街から離れているせいか人の気配はまるで感じられない。
「今んとこ分かんないっすね」
なら、と九浪はAU−KVを着用する。今回はキメラが何匹いるという情報も無かった為に複数存在する事を前提として動かねばならない。だから商店街に入る前に彼はAU−KVを着用したのだろう。
「あ――あそこに人が倒れてます」
商店街が近くなるにつれて地面などに足跡がついていたり、物が落ちていたりなどしている。その中で建物の壁に寄りかかるように女性が苦しそうな表情をしているのを雪待月が見つけた。
「大丈夫ですか?」
九浪が話しかけると「え、えぇ‥‥背中が痛むけど、何とか大丈夫よ」と女性は弱々しく言葉を返してくる。
「確かに傷は大した事はなさそうだな、向こうに高速艇があるから、ひとまずはそっちまで運ぼう。他に救助者がこの辺にはいなかったか?」
須佐が女性を抱きかかえながら問いかけると「いえ、見かけませんでしたが‥‥」と申し訳なさそうに言葉を返した。
「足を怪我してますね、高速艇までついたら『救急セット』で治療しましょう」
雪待月が呟き、A班は来た道を戻って高速艇まで歩き出したのだった。
※B班※
「A班が足を怪我した女性を救助したそうだ、他にも救助者がいるかもしれないから見逃さないように注意しなくては‥‥」
麻宮が歩きながらもキメラへの警戒、救助者の姿を見逃さないように見ながら呟く。
「だが、平和な場所にいきなりキメラが出るとは‥‥住人もさぞ驚いた事だろうな」
九条が町の様子を見ながら小さく呟く。楽しく買い物をする人間ばかりだっただろう、そんな中に現れたキメラは住人にどれほどの恐怖を与えたのだろうか。
「‥‥こちらクレア。チェックポイントクリア。次のポイントを捜索する」
クレアは『トランシーバー』で他の班にチェックポイントが終了した事を告げ、次の場所へと足を踏み入れていく。
「此処からが商店街‥‥多少は荒れているが、思っていたよりは被害が少ないな」
九条が道路に転がっているゴミ箱を立てながら小さく呟く。
「救助者は‥‥!」
麻宮が呟いた瞬間、狭い路地に続く道の所で男性が倒れている姿を発見する。
「大丈夫か!」
麻宮が慌てて男性に駆け寄ると、出血が多いものの、すぐに治療をすれば命に関わるような傷ではない事が伺えた。
「‥‥ぅ‥‥」
男性の呻く声に「‥‥大丈夫か? 生きたいなら助けるが‥‥どうする?」とクレアが男性に向けて話しかける。
「‥‥ボクなんてこんな身体で生き残っても‥‥」
男性は動かない足を見ながら呟く。彼が倒れていた近くには車椅子も倒れており、彼の足はキメラに襲われる以前から患っている事が予想できた。
「とにかく、生きているのを見た以上見殺しにするわけにもいかない。生きたくなかろうが生きてもらうぞ」
九条は男性を抱え、麻宮が車椅子を、そしてクレアが泥で汚れたひざ掛けを拾って一度高速艇へと戻る事にした。
男性を一人救助した、と言う事を他の班に知らせて。
※C班※
「此処に来るまでに救助者はいなかったでありやがりますね、他の班も二人救助したみたいでありやがりますし」
シーヴは商店街の中でキメラを捜索しながら金城に話しかける。
「そうですね、でもキメラが発見されてないですから――油断はできませんね」
金城が周りを警戒しながら言葉を返す、彼らは商店街にやってくるまで救助者ともキメラとも遭遇しなかった。他の班がキメラを発見したという連絡も来ていない。
「考えられるのは‥‥僕達に気づいて何処かに潜んでいるか、それとも暴れ疲れて休んでいるのか――どちらでしょうね」
「‥‥前者のようでありやがりますね」
シーヴが短く呟き『コンユンクシオ』を構えて少し先を強い瞳で見つめる。彼女の瞳の先、そこには口から涎を垂らした犬型キメラが金城とシーヴを睨むような目で見つめている。
「シーヴさん、正面――任せます」
金城は小銃『S−01』を両手に持ち、構えながらシーヴに向けて話しかける。
「任された‥‥でありやがります」
シーヴは言葉を返し、犬キメラに向かって走り出す。そして途中で止まり『ソニックブーム』を叩き込み、そのまま正面攻撃を仕掛ける。
勿論、攻撃によって周囲に被害が及ばないように注意しながら攻撃を仕掛けている。続いて金城は犬キメラが向かってきた所へ近くの瓦礫などに向けて発砲し、犬型キメラの動きを止める。
そして、AとBの両班が合流して、本格的に犬型キメラとの戦闘が開始したのだった。
―― 敵は一匹、戦闘開始 ――
「こいつ以外にキメラの姿はなかった、被害状況から見ても一匹だけと考えて間違いないだろう」
九条が『キアルクロー』を構えて『瞬天速』を使用してキメラとの距離を詰めて、そのまま爪で撃ちぬくように攻撃を仕掛ける。キメラも反撃として爪で攻撃を仕掛けてくるが、彼にとっては掠り傷程度にしか感じないものだった。
「あんまり動き回るなよ、当たり所が悪くて余計に苦しむだけだぜ?」
須佐が不敵な笑みを浮かべながら犬型キメラが立ち止まった瞬間を狙って足で壁に押し付け、その際に靴に装着された『刹那の爪』がキメラの身体へと攻撃を行い、キメラは痛みを堪えるようなうめき声をあげていた。
しかし僅かな隙を見てキメラは壁と須佐の足から抜け、そのまま彼に攻撃を行う。それを見ていた雪待月が「もう置いていかれるのは、嫌!」と大きく叫びながら覚醒を行う。
「雪、下がってろって言っただろう」
須佐が咎めるように呟くと「守られるだけでは嫌なのです‥‥私だって、大切な者は守りたい」と雪待月は言葉を返した。
「だから、強くなろうと決めました」
呟きながら彼女は『蛍火』を構えてキメラへと攻撃を仕掛ける。
「やれやれ、守りたいのは俺の方だって言うのに」
須佐はため息混じりに小さく呟くと『ジャック』を装備した手でキメラへと殴りかかる。
「一撃の重では、私の方が弱い‥‥なら、ペアを信じて舞台を作る事が今できる最良ですね」
金城は小さく呟くとキメラの足止めを行うようにキメラを掠めたり、足の手前を撃ったりなどして前衛が動きやすい『舞台』を作っていく。
「そっちばかり気にしてていいのか?」
麻宮が呟きながらキメラの背後へと回り拳銃『ラグエル』と小銃『S−01』でキメラを射撃する。金城、そして麻宮の二人からの射撃に対処出来ていないのかキメラの身体にはどんどん傷が増えていく。
「キメラか‥‥少し前の私ならやられている所だが‥‥今はどうかな‥‥」
クレアは呟きながら『ドローム製SMG』で攻撃を行う、元軍人の彼女だがFFを軽火器で破れるのは能力者のみなのだから。
「人の買い物の邪魔をしちゃいけないよ、人まで傷つけて‥‥許すことはできないね」
九浪は小さく呟くと『インサージェント』を振り上げてキメラへと攻撃を行う、反撃として多少のダメージを受けてはいたがAU−KV、そしてキメラを倒さねばと言う彼の気持ちが足を止める事はなく『インサージェント』はキメラの身体へと食い込む。
そして金城と麻宮の射撃が再びキメラを襲い、足を止めた所に「その隙、もらいやがったです」とシーヴが『豪破斬撃』と『急所突き』を使用しながら斬りこんだ。
「此処か! いきますよ!」
そして九浪も『竜の瞳』と『竜の咆哮』を使用して、キメラを攻撃待機していた須佐へと九条の方へ目掛けて弾き飛ばす。
最初に攻撃をしたのは九条だった。彼は『砂錐の爪』を装着した靴でキメラを蹴りつけて、その後すぐに須佐が攻撃を行ってキメラを地面へと叩きつける。
大した強さもなかったキメラが8人の能力者を相手にするには強さがかなり足りなかったのだろう、既に限界を超えていた。
「ぐぅ‥‥ぅ‥‥」
キメラは一度うなり声をあげると、そのまま地面へと倒れ、絶命したのだった。
―― 伝えたい想い、伝えられなかった心 ――
キメラを退治した後、高速艇へ向かうと能力者達は持っていた『救急セット』で怪我人二人の治療を行った。
「‥‥きっと、彼女もキミ達みたいに命をかけて戦っているんだろうね‥‥」
寂しそうに男性・アキはポツリと呟いた。その様子を少し変に思った能力者達は何が男性にあったのかを聞く。
「‥‥能力者の恋人がいた、だけど――ボクは見ての通り、こんな身体だし、彼女の負担にしかならなかったから――別れたんだ‥‥」
アキの辛そうな表情を見ると彼女の事を嫌いになって別れたというわけではないらしい。
「後悔するなら、その決断をするべきじゃない」
九条がポツリとアキに向けて言葉を放つ。
「だけど、ボクは彼女を守りたかった――守られる側ではなく、守りたかったんだ。それが叶わないのなら‥‥せめてお荷物なボクから解放すべきだと考えたんだ」
「守るという事、やり方は自由だ。だが、分かってほしい」
須佐が腰を下ろしながらアキに向けて言葉を続ける。
「‥‥誰も何かが欲しくてするんじゃない、そしてそれを失くした時の事を考えて欲しい、大事な者をなくす、それが一番つらいんだ」
須佐の言葉はアキは嫌というほど分かっていた。彼女と別れてから心にぽっかりと穴が開いたような喪失感、それを一ヶ月ずっと抱えてきたのだから。
「能力者になった時から『体』は桁違いに強靭になりますよ? でも‥‥」
金城は自分の胸を指しながら「心もそうだと思いますか? 能力者になったら生き物を殺める事に平気になれる? そんなはず‥‥ないですよね」と寂しそうに呟いた。
「彼女がどんなに疲れていても、貴方に会いに来たのは‥‥殺し合いなんて知らない頃の‥‥帰りたい日常がそこにあったから‥‥ではないでしょうか」
金城の言葉に「シーヴもそう思うですよ」と右手薬指の指輪を見つめながら呟く。
「シーヴの恋人も一般人でありやがるです‥‥昔は戦えねぇコトが辛くて荒れてたらしいですが、今はシーヴの心を守る事が、戦えねぇ自分の戦いだって言ってくれる、です」
だから、とシーヴは言葉を続ける。
「彼女は‥‥心を支えられてたんじゃねぇのかと、シーヴは思うですよ。目には見えねぇでも、アキはちゃんと彼女のコト、守ってたと思うです」
帰る場所は大切、とシーヴは指輪をはにかみながら見つめた。
「彼女は貴方を一度でも負担だと仰いましたか? 忙しくとも貴方の所に来て下さったのは、決して無理などではなく、貴方と一緒にいたいから、では?」
雪待月は「守り方は、一つではありませんから」と言葉を付け足しながら呟く。
「君はもう少し相手に意志を伝えるべき。良好な関係は、お互いの相互理解だよ」
九浪が呟くと「‥‥素直になるのは難しい」とクレアがポツリと呟く。
「私は苦手だ‥‥。だがそれが必要だと言われた事がある。素直な気持ち、ぶつけてみたら?」
クレアは亡き恋人に言われた言葉を思い出し、薄く笑みを浮かべながらアキに話しかける。
そしてアキは「‥‥帰ったら、一度彼女に会ってみる」と言葉を返した。その後、報告の為に本部へと帰還していったら――入り口の所で一人の女性能力者が泣きながらアキに抱きついてきた。
その姿を見て、能力者達は二人の未来から暗い影は消えたのだと確信にも似たものを感じていたのだった。
END