●リプレイ本文
―― 奴の名はもやし ――
「しまった‥‥オペレーター、この依頼キャンセルしてくれ!」
クロスフィールド(
ga7029)が身を乗り出しながらオペレーターに向けて叫ぶが‥‥時既に遅し、彼の背後には魔王‥‥もといキリーが邪悪な笑みを浮かべて「何で断るのよ」と彼の脛を蹴りつけながら話しかけて来る。
彼とキリーに面識こそないが、悪名は彼にも届いていたようで彼は顔色を青くしながらキリーを見る。
(「簡単な依頼だと思って受けたのが運の尽きか‥‥まさかあのキルメリアがいるとは思っていなかった」)
クロスフィールドは心の中で呟き、キメラの排除とキリーから自分の身を守るという極秘任務を追加したのだった。
(「可愛えぇぇぇぇっ‥‥!?」)
クロスフィールドとキリーのやり取りを遠くから見ていたのは沢良宜 命(
ga0673)が目をキュピーンと輝かせながら心の中で叫んでいた。どうやら彼女はキリーを見て隠していた萌え気質が爆発したらしく、どうやってキリーを愛で倒そうかという事ばかりを考えていた。
「あら、いきなり韮臭いと思ったらあんたがいたのね。韮がいるんじゃ臭くもなるわね」
へっ、と如月・菫(
gb1886)を見ながらキリーは如月に話しかける。
(「ぐぬぬぬぬ、この前はよくもふざけた真似をしてくれたのです。いつか絶対復讐しちゃる――というか今回の内にどちらが上かを思い知らせてやるのです! 先輩舐めんなよ」)
ぐ、と拳を握り締めながら如月は心の中で強い決意を見せるのだが‥‥確かに如月の方が傭兵経験としては先輩である――僅か数日という先輩なのだが。
「【しっと団総帥】として全力で戦いを挑む‥‥キリーに! 萌え魔王は二人もいらぬのだー!」
白虎(
ga9191)が叫ぶと「はいはい、頑張れば?」とキリーは嘲るような言葉を返してきた。ちなみに白虎のテーマとしては『カオスや悪役路線でも越えてはいけない一線がある』らしい。
「それを超える奴は‥‥悪役ではにゃいっ‥‥ただの悪だ!!」
白虎がきっと良い事を言っているのだが‥‥キリーはそれを聞く事なく他の能力者達と話をしている。
「ひ、人の話は聴くにゃーっ!!」
「ほぉ、これはまた可愛いお嬢様だな。キリーと言ったか、宜しくな」
フローネ・バルクホルン(
gb4744)が話しかけると「ふん、別に宜しくしてもらいたくないわよ」とツンと横を向きながら言葉を返した。
「うちの娘もこれくらいなら可愛げがあると言うのに‥‥それにしても可愛いのぉ」
しかしフローネはキリーの言葉をものともせずに抱きしめながらキリーの頭を撫でまわす。
「気安く触るんじゃないわよ!」
ぺし、とフローネの手を叩きながらキッと厳しい視線で彼女を見上げるが‥‥フローネとしてはそれも『可愛さ』の内に入るのかニッコリと笑顔でキリーを見ている。
「ファイターの仮染です。どうぞ宜しく」
仮染 勇輝(
gb1239)がペコリと丁寧に頭を下げながらキリーを含む能力者達に挨拶をする。もちろんキリーは背が小さいので屈みながら挨拶をした‥‥のだが。
「背が高い事を嫌味ったらしく強調してんじゃないわよ、ムカつくわね」
本日一回目の『暗闇万歳』が炸裂した――が仮染は『先手必勝』を使って、キリーの手をパシッと受け止める。
(「まったく、噂以上に最低な人ですね」)
口にこそ出さないが、仮染は心の中で呟き「危ないですよ」と注意を促すと「‥‥スキル使うのは反則だわ」と仮染の腕を爪で引っかく。
「そういえば、キリーのお母さんがどれだけ偉いかを聞きたいですね」
熊谷真帆(
ga3826)がキリーに話しかけると「はぁ?」とキリーは意味が分からないかのように言葉を返した。熊谷としては母親の前でだけ良い子になるという事を聞いて、それなりの地位にいる人物なのだろうと考えていたのだ。
「他人は眼に見える部分でしか評価してくれないです、私も私の母も勲章貰ってUPC軍部に名前を張り出されてるです」
熊谷の言葉に「別に有名じゃないわよ、うちのお母さんは」とキリーは言葉を返した。
「‥‥って言うか、私はあんたの母親の事なんて聞いてないし、勲章の事も聞いてないわよ? それとも何? 私は勲章貰ったのよって自慢したいわけ?」
あー、ヤダヤダとキリーは「別に他人からどう見られようとも私は構わないし」と言葉を付け足した。
「ちょっ‥‥」
熊谷が否定の言葉を言おうとしたが、キリーは聞く耳持たずで「韮めっ」と八つ当たりまでし始める始末。
「せや、うちはちゃんと挨拶してなかったね。スナイパーの沢良宜、宜しゅう頼みますえ♪」
「な、何顔をニヤニヤさせてんのよ‥‥気持ち悪いわね」
よほどキリーの事を気に入ったのか沢良宜の顔は緩みっぱなしで、キリーも一歩引いてしまうほどだった。
「とりあえず、こっちは然程脅威や無い言うけど、せやかて今回はこれの討伐が目的やものね、頑張りましょ」
沢良宜が呟き、能力者達はキメラが潜む町へと出発したのだった。
―― 地雷抱えながらキメラとの戦闘 ――
「あー、疲れたぁ‥‥何でこんな所にキメラなんているのよ‥‥」
高速艇から降りて100mも歩いていないうちからキリーがぶつぶつと不満を漏らす。
「ちょっとぉ、何とかしなさいよー! 何で降りた場所と町がこんなに遠いわけ!」
クロスフィールドに向かって愚痴をキリーは口にするが「触らぬ魔王に祟りなし‥‥と」と呟きながら彼女の言葉を見事にスルーする。
「‥‥何シカトぶっこいてんのよ!」
キリーは落ちていた石をクロスフィールドに向けて投げつける。
(「俺は大人、相手は子供‥‥落ち着け、俺」)
心の中で呟きながらクロスフィールドは『双眼鏡』で索敵を行いながら「お前はどうするんだ? というか、何が出来るんだ?」と問いかけた。
「私? スキルは全部取得済みだし支援なら何でも出来るわよ――私の気が変わらなければね」
きゃはは、と笑いながら言葉を返してくるキリーに「ちゃんと仕事する子なら偉そうな口調も許されるですけどね」と熊谷が呟いた。
「どういう意味?」
「傭兵はお金を貰って生活してるから豪語しないと仕事も来ないです‥‥まぁ、本当の実力者なら黙ってても評判が立ちますが」
「私は別に他の能力者に良く思われようなんて考えてないし、お母さんにだけは心配かけたくないから良い子を演じてるけどね」
キリーの言葉に「‥‥都合の良い時だけ良い子でいようとか‥‥覚悟が甘いよね‥‥」と白虎がボソリと呟いた。
「母上にバレて! お仕置きをされて! でも僕はテロ行為を貫いてきた! それが冥府魔道のカオス界を生きる者の覚悟なのにゃー!」
背景に津波でも背負ってそうな力説しながら説明していたのだが‥‥「頑張りなさいよ、韮」と如月の肩にポンと手を置きながら呟き、そのままスタスタと歩き出す。
「韮って言ってんじゃねぇですよ! てめぇも、もやしとか菜類でしょうがっ!」
如月が言い返すが「臭い韮と一緒にしないで」とキリーは高笑いをしながら言葉を返す。
そして、その声で――という訳ではないだろうが、偶然にもキメラを発見する。
「‥‥戦闘開始、だな」
仮染が覚醒を行いながら呟くと「頑張りなさいよ」とキリーが偉そうに呟いてくる。
「お前もな」
仮染はチラリと視線をキリーに落としながら呟き『雲隠』を手にして男性型キメラへと向かって走り出す。
「うちも援護しますえ」
沢良宜は長弓『百花繚乱』を構えながらキメラを狙って攻撃を行う。
「あらあら、皆結構やる気なのねぇ――弱いって聞いてる相手なのに」
キリーが呟くと「油断するな、あまり強さは感じないがキメラはキメラだ」とフローネから注意を受け「はいはい、分かってるわよー」と肩を竦めて見せた。
「いくら弱いと言っても油断するなんて――傭兵にあるまじき行為ね」
熊谷はキリーを見ながらため息混じりに呟き、路地裏を通ってキメラの背後を取り『スコーピオン』で攻撃を仕掛ける。彼女の攻撃の後にキメラが持っていた剣で攻撃を仕掛けてきたが『アンバーシールド』で剣を弾きつつ至近距離で『スコーピオン』で『急所突き』を使用しながらキメラに攻撃を仕掛ける。
「前も後ろも気に掛けなくてはいけないとは‥‥精神的に疲れるな」
クロスフィールドが前のキメラ、後ろのキリーを視線で追いながらため息混じりに『【OR】Play The Fox』で『強弾撃』を使用しながら攻撃する。彼は中衛の位置におり、前衛が攻撃する為にもキメラの気を引こうと心がけながら攻撃を行っていた。
「おーい、こっち見るにゃー!」
白虎が大きな声で叫ぶとキメラも馬鹿正直に白虎の方を見る――そして全弾を『ペイント弾』に装填しなおしていた小銃『S−01』でキメラに目潰し攻撃を行う。
「何か普通に終わるのは面白くないなぁ‥‥よぉし」
キリーが不敵に笑むと『練成弱体』を味方に向けて使用しようとする。
「キリー、それでは味方を弱体化させてしまう、やり直せ」
キリーの真横に陣取って能力者達を支援していたフローネが彼女に向けて呟く。
(「‥‥ちっ、見つかった。目ざといな」)
「この程度の雑魚、無傷で倒さねば話にならん」
「あいつら、気に食わないのよねっ」
キリーの言葉に大きなため息を吐きながら「気に喰わないという理由で弱体化させるのは良くない」とフローネが言葉を返す。
「やるのならラストホープの宿舎内でじっくりやるが良い、怪我をさせない程度にな」
呟きながらフローネは『練成強化』で能力者達の武器を強化し『練成弱体』でキメラの防御力を低下させる。
(「そんなこと関係ないわよ。私がしたいんだからね」)
ニヤと邪悪な笑みを浮かべながらキリーが再び『練成弱体』を使用しかけた時‥‥。
「うひゃあっ!」
「キリーちゃん、おいたはあきまへんで」
ふ、とキリーの耳に息を吹きかけながら沢良宜が呟く。ちなみにキリーに気づかれなかったのは『隠密潜行』を使用しながら近寄った為だろう。
「悪戯はキメラを倒してからですえ」
沢良宜は長弓『百花繚乱』を構え『鋭覚狙撃』を使用しながら視線だけをキリーに向けた。
「私も前で戦えるクラスが良かったな‥‥後衛なんて暇でしょうがないわよっ」
キリーはクロスフィールド目掛けて石を投げつける。
「あらぁ、当たっちゃった。ごめんなさいねー、ノロマ」
「こんのっガキが!! 遊びじゃねぇんだぞ!」
流石に戦闘中にまで邪魔をしてくるキリーに彼は怒ったのだが――「カリカリしてるとハゲるわよ? お・ぢ・さ・ん♪」とキリーは楽しそうに言葉を返してくる。
(「‥‥本当に、弱いキメラじゃなかったら俺達の命も危ないな‥‥」)
仮染はクロスフィールドとキリーのやり取りを見ながら心の中で呟き『雲隠』で攻撃を仕掛け、キメラをどんどん追い詰めていく。
「あのガキンチョにお仕置きする為に、さっさと倒れてくれです」
如月は『竜の翼』を使用してキメラとの距離を一気に詰めると『竜の鱗』を使用して守りを強める。
そして『【OR】香槍 グングニラ』を振り回しながらキメラに攻撃を行った。
「ほら、やっぱり韮じゃないの」
攻撃している如月の姿を見ながらキリーがぼそっと呟くと「今のうちにやるですよ! もやし!」と命令をした――のだが、それが彼女の逆鱗に触れた。
「何で私が前に出ないといけないわけ? あんたが私の分まで頑張れば済む事でしょ? さっさと倒しなさいよ。役立たず韮」
「ぐぬぉ〜、このガキンチョめ‥‥!」
如月はキメラからの攻撃を受けながらも必死にグングニラで攻撃を行い、背後からやってきた白虎の『100tハンマー』でトドメを刺したのだった。
―― うちの娘がご迷惑をおかけして真に申し訳ございません ――
「良かったな‥‥『誰も命を落とさなくて』‥‥」
キメラを退治した後、仮染がキリーに向けて呟くと「ホントにね、まぁ――私の頑張りが成功した理由でしょうね」と胸を張りながら言葉を返してきた。
「‥‥傭兵の仕事を舐めてると、後悔するぞ」
仮染が笑顔ナシで呟くと「馬鹿じゃん」とため息混じりにキリーが答える。
「別に傭兵の仕事なんて舐めてないわよ。私が舐めてるのは‥‥あんたらに決まってるでしょう?」
余計にタチが悪い。
「あぁぁぁぁ、もう! 我慢できへん!」
沢良宜が大きな声で叫ぶとキリーにハグをして、それから頭を撫でまわしたり決して昼間から口にする事が出来ないような事をしてくる。
「ちょ‥‥っ! 何すんのよ! このヘンタイっ! チカンっ!」
覚醒している事によってバストのサイズがOにまでなった胸で窒息死しそうな程にキリーを抱きしめ続け、やがて抵抗が無くなった事を不思議に思い、キリーを解放すると。
「何してくれるのよ! 殺されるかと思ったわ! 大体その破廉恥な胸は何なのよ! 私に対する嫌味!? でも私だってあと5年すればそのくらいの乳になるわっ!」
息継ぎしながらキリーが反論を勢いよく並べると「そんな所も可愛ぇわぁ」と沢良宜は言葉を返してきた。
「そういえば、お風呂に電気製品は死亡事例があるので止めましょうです。万一の事があったらどうするですか? 科学者なら勉強して下さいです」
「煩い、小姑ババア」
注意をしてきた熊谷にキリーは「私は科学者なんかじゃないわよ、サイエンティストだからって科学者にするのやめてくれる?」と言葉を付け足しながら答える。
(「また今度一緒に仕事する事‥‥ないことを祈るか」)
クロスフィールドはぎゃあぎゃあと騒ぐキリーを見つめながらため息混じりに心の中で呟いた。戦闘中、役に立つ所か足を引っ張りまくるキリーと今度会いたくないというのは普通の人間として当然の考えだろう。
「お姉ちゃん、かっこよかったにゃ――この勇姿をお姉ちゃんの母上殿にも送ってあげるのにゃ」
チャキン、と白虎が取り出したるは携帯電話。ちなみにこの携帯電話にはキリーの般若顔や凄まじいまでの魔王っぷりが刻み込まれている。
「この馬鹿ああああ!」
キリーが慌ててそれを止めようとするが『瞬速縮地』を使用して逃げ回り、数秒後には『送信完了』という無情な文字が映し出されていたのだった。
その後、本部に帰ると土下座でキリーの母親が能力者達を出迎えていた。
「キリー‥‥あんたって子は‥‥」
今にも泣きそうな母親だったが「こんな奴らに頭下げる事ないわよ」とまるで他人事のように母親に話しかけている。
「誰のせいだと思ってるの!」
その様子を見てフローネが「‥‥いつまでも一緒に居られる訳ではない、その日まで愛情を注いで育てる事だ」と話しかけるのだが‥‥。
「いいえ、これからはこの子の捻りきった根性を元に戻してみせるわ」
母親は強い決意を固めながら呟くが「無理無理」と肝心のキリーが手を左右に振りながら言葉を返し、本部の中で追いかけっこをする二人の姿が見受けられていたのだった。
END