●リプレイ本文
―― 救出に向かう能力者達 ――
今回は少年の救助とキメラ退治で現地へ向かう能力者達だったけれど、緊急に発生した事件により本部から資料を渡してもらう事が出来なかった。
だから、高速艇に乗る前に能力者達は現地の人間に地図と学校の見取り図を用意しておくように告げ、その上で現地へと向かう事にした。
「肝試しに行ったら本物に遭遇か、映画で見る分には面白いが現実に体験するとトラウマだな」
九条・運(
ga4694)はため息混じりに呟く。今回は時間の勝負になる、既に少年はキメラに襲われているのだから余分に時間を取られてしまえば少年が助かる確率も下がっていく。
「絶対に助け出す! 尚吾の命も! 卓也の心も!」
魔宗・琢磨(
ga8475)がなかなか目的地に到着しない高速艇の中で焦りを露にしながら少し大きめの声で叫ぶ。
(「俺達傭兵は、何時も必ず後手になる‥‥! 耐えてくれ、俺達が到着するまで!」)
魔宗は心の中で強く叫ぶ。
「確か、今回の場所って前にも事件があったとか聞いたけど‥‥。何でそんな場所に行くかね」
鮫島 流(
gb1867)が今回の状況が簡単に纏められたメモを見ながら呟く。状況が纏められているとは言っても、能力者達が欲しい情報は一つもなく余り役に立たないのだけれど。
「報酬を貰う為にも少年に死んでもらうわけには行かないです。キメラの抹殺と少年の保護、それが成功条件でしょうから」
織那 夢(
gb4073)が呟く。
「そうだね、まずは現地に到着した後に助けを求めた尚吾君に会ってみないと‥‥キメラに遭遇した者しか分からない情報があるかもしれないしね」
ティム・ウェンライト(
gb4274)が呟くと「そうですね、ですが‥‥」と織那が少し表情を沈ませながら言葉を返す。
「救助ヘリの要請は出来ないと言われました‥‥」
そう、尚吾を救助した後すぐに治療に取り掛かれるように救助ヘリを要請したのだが、それは断られてしまう。相手側も勿論尚吾の命を軽んじているわけではない。救助ヘリを出せるのならば出したいという気持ちも本当だろう。
だが、悪い言い方をしてしまえば『キメラに襲われたというだけでは出せない』と言うのが現実なのである。
「つまり、わたしく達が頑張って救助、そして病院に搬送と言う事ですね」
御手洗真里夜(
gb4627)がため息混じりに呟く。
「子供を助ける為に、最善を尽くしましょう‥‥それに子供達の学び舎で子供を傷つけるなんて‥‥許せないですね」
浅川 聖次(
gb4658)が呟く。彼は最近『1人でも多くの人間を助けたい』と意識し始めていた。そんな矢先に今回の事件を知り、しかも子供が被害にあっているという事で内心は穏やかではいられないのだろう。
「はぁ、しかしキメラが出た森に夜に行くとか‥‥死にたいのかね?」
長谷川京一(
gb5804)が呟く。子供は無謀と勇気を間違える者が多い、恐らく尚吾と卓也もそんなクチなのだろうと長谷川は心の中で呟き、大きくため息を吐いたのだった。
それぞれが今回の事件について考えている中、高速艇はゆっくりと降下を始め、能力者達は町へと降り立ったのだった。
―― 尚吾を助ける為 ――
「あの‥‥言われていた地図と学校の見取り図です」
能力者達が町に到着すると男性が地図と見取り図を4枚ずつ渡してきた。
今回の能力者達は迅速に事を進める為に4つの班に分かれて行動するという作戦を立てていた。
1班・織那&九条‥‥キメラの対処班。
2班・鮫島&浅川‥‥キメラの対処班。
3班・ティム&魔宗‥‥少年救助優先班。
4班・御手洗&長谷川‥‥キメラ対処班。
「あ、道が二つあるんだな。車が通れる道と‥‥こっちの細い道は‥‥」
長谷川が地図を見ながら呟くと「子供達が交通事故に遭わないように作られた小道です」と住人の女性が話しかけてくる。
「でも廃校側に行く近道になるのでバイクなどでの事故が起きていたりしましたけど‥‥」
女性の言葉に「バイクは通れるんですか?」と御手洗が問いかけると「えぇ、車は無理ですけどバイクなら通れますよ」と女性は言葉を返してくる。
「という事は先行して廃校の方に行けるという事ですね」
浅川が呟くと「廃校‥‥何か出そうでちょっと怖‥‥いやなんでもない」と鮫島は曇らせた表情をキリッと元に戻しながら言葉を返した。
「お願い‥‥尚吾を、尚吾を助けてっ!」
能力者達が出発の準備をしているとがたがたと体を震わせながら1人の少年が駆け寄ってきた。恐らくその少年が助けを求めた卓也なのだろうと能力者達は瞬時に理解する。
「卓也、君がキメラと会ったのは校舎の何処になるか、覚えているか?」
魔宗が卓也と視線を合わせながら問いかけると、尚吾は恐怖からか友人を思う気持ちからか「お願いだから‥‥」と魔宗の言葉が耳に入っていないかのように言葉を返してくる。
「君が怖い思いをしたのも分かるつもりだよ。でも、尚吾君を助けたくて助けを求めたんだろう? 尚吾君を助ける為にも力を貸して欲しいんだ」
ティムが卓也を落ち着かせるような口調で話しかけると「正門から入って左から三番目の窓から‥‥」と俯きながら卓也は答える。
「ありがとな。絶対に尚吾は助けて見せる‥‥絶対にだ!」
魔宗の言葉に「絶対だよ‥‥」と卓也は瞳に涙を溜めながら言葉を返したのだった。
その後、浅川と鮫島はAU−KVで、御手洗と長谷川は魔宗から借りたシザーリオで、他の能力者達は魔宗が運転するランドクラウンで廃校へと向かう事になった。
※2班※
AU―KVで小道を通りながら浅川と鮫島は他の班より先に廃校へと到着していた。
「とりあえず校外から探索を行いましょうか」
浅川が呟くと「卓也が言ってた場所、あそこだけど‥‥気配はなさそうだよな」と鮫島もAU−KVから降りて卓也が言っていた場所を見る。
しかし不気味なほどにシンと静まり返っており、その静けさが二人に最悪の展開を予想させていた。
「外には何もなさそうだが‥‥問題は中、だな」
鮫島が呟き、浅川と共に校舎の中へと入っていく。校舎の中は壁に穴が開いていたり、廊下部分が割れて上の階が丸見えになっていたりと荒れ果てていた。
そんな中で二人は足元や頭上などに注意しながら教室を一つ一つ確認していく。そんな時に校舎の外から車の音が聞こえ、他の班が到着した事を二人に知らせたのだった。
※1班※
「とりあえず、さっさと尚吾を見つけないとな‥‥子供の体力だ、そろそろヤバイ頃だろ」
九条は校舎の中へと入りながら呟くと「そうですね‥‥無事でいてくれるといいのですけど」と織那も言葉を返しながら校舎の中へと入る。
既に先行班も入っているけれど、小さいとは言っても学校、二人で、しかも短時間で調べられる程狭い場所でもない。
「‥‥静か、ですね」
校舎の中に入ると、織那が小さく呟く。既に彼女は覚醒を行っているのだが覚醒状態時に現れる翼は出来るだけ閉じた状態で捜索を続ける。
「まだ他の班も見つけてないみたいだな‥‥急いで探さないと」
九条は連絡の入ってこない『トランシーバー』を見ながらため息混じりに呟く。
「すぐ見つかる場所にいてくれればいいのですけど‥‥」
織那が教室の中を確認しながら呟き、尚吾捜索を続けるのだった。
※3班※
「まだ尚吾の発見はないみたいだね、2班と1班がこっちを捜索してるから‥‥俺達はこっちにいこう」
ティムが見取り図上に指を滑らせながら呟くと「そうだな、急ごう」と魔宗は暗い校舎内をランタンで照らしながら進んでいく。
早く見つけなければ尚吾の命がどんどん危険に近づく、そして尚吾を失えば卓也の心まで壊れてしまう。魔宗はそんな事を考えながら焦る気持ちを抑えて軋む廊下を少しずつ進んでいく。
そんな時だった。4班から「キメラを見つけたぞ!」という連絡が入ったのは‥‥。
※4班※
「とりあえず中は他の班が捜索してるだろうから、俺達は校外から捜索していくかね」
長谷川が呟くと「そうですね、外から気づく事もあるでしょうし」と御手洗が呟き、4班は校外から捜索を始める。
校舎の周りは整えられていたであろう花壇があったけれど、咲いているはずの花は枯れ果てており、無残な姿のまま残されている。
「‥‥キメラが現れなければ、此処も子供達の通う学校だった筈でしょうに‥‥」
御手洗が荒れた学校を見ながら呟く――その時だった。
「居たぞ! 一階の校舎、一番奥の教室だ!」
長谷川が『トランシーバー』に向かって大きな声で叫ぶ。その言葉に御手洗も彼が言う教室を見やると確かにちらちらと教室の中に何かの『影』が見える。そしてその姿は明らかに人の形をしていない。
「わたくし達も向かいましょう」
御手洗が呟き、長谷川と一緒に怪しい影が蠢く教室へと向かったのだった。
―― 戦闘・救助開始! 尚吾を救え ――
「あれは‥‥っ」
長谷川が指示した教室に入った瞬間、能力者達が見たのは腹部から大量に出血している少年の姿だった。どうやら壁に打ちつけられた事と出血のせいで意識を失っているらしい。
「気張れ坊主! 目ぇ閉じたら二度と開けられんぞ!」
長谷川が尚吾に向けて叫ぶと、尚吾はうっすらと瞳を開けて呻く。
「とりあえず救助の為にはキメラから引き離す必要があるな」
九条が『蛍火』を構えながら呟き、魔宗とティムは尚吾を町まで連れて帰れるように準備をする。
「行きます‥‥」
最初に織那が呟き『月詠』を両手に携えながら獣型キメラへと向かって走り出す。
「援護します!」
御手洗は小銃『シエルクライン』で援護射撃を行いながら大きな声で叫ぶ。
だけどキメラは倒れている尚吾の方へと方向を進め、浅川が『呼笛』を鳴らしてキメラの気を一瞬だけひきつけ、その間に織那が攻撃を行う。
「大丈夫か、もうすぐ帰れるからな。気張って目ぇ開けとけよ!」
長谷川がその間に尚吾へと近づき『救急セット』で応急処置を施し、止血を行い「頼む」と魔宗とティムにぐったりとした尚吾を渡す。
「急ごう、このままじゃ‥‥」
魔宗が呟き、壁際を背中にしながら戦闘の場から離れ、外に止めてある車まで急いで向かう。
だがその時、一発の銃声が響き、魔宗の足を鉛玉が掠める。
「俺達はULTのの傭兵だ、あんたそこで何をしてる!」
長谷川の問いに現れた男性は言葉を返す事もなく手に持った銃で再び鉛玉を放つ。撃たれた事から急所は避けて長谷川も攻撃を仕掛けたのだが‥‥「FF!? キメラかよ!」と現れたFFに驚きを隠しきれない表情で長谷川が叫ぶ。
そしてキメラが2体いたという事に能力者達が多少驚いていると、獣型が魔宗やティム、そして尚吾の所へと向かおうとしている事に気づく。
「コレなら如何ですか!」
御手洗は『竜の瞳』を使用しながら小銃『シエルクライン』に『貫通弾』を装填し攻撃を行う。流石にこの攻撃はキメラに効果があったようで獣型がぐらりと倒れる。
「今のうちにいけ!」
九条が人型に『瞬速縮地』で距離をつめ『流し斬り』と『獣突』を併用した攻撃を使用して救助班から人型を引き離す。その間に魔宗とティムは尚吾を連れて戦闘の場から離脱した。
「一気にキメたるっ‥‥!!」
鮫島は低く呟き『竜の翼』で獣型に接近して『グラファイトソード』を大きく振りかぶった後に振り下ろす。勢いのついたその剣は獣型の体にざっくりと食い込み、獣型は耳障りな雄たけびを上げた。
「距離が‥‥それなら此方もコレで」
御手洗は狭められた距離で銃が使えない事を悟ると『機械剣α』に武器を持ち変えて『竜の翼』を使用しながら接近して攻撃を行う。
その間に人型は出て行った魔宗達を追う為か教室から出ようとしたのだが‥‥「やらせは‥‥しませんよ」と浅川が『竜の翼』で接近して『竜の鱗』を発動して攻撃を行う。
「鳴け、夜雀」
長谷川は短く呟き『強弾撃』を使用しながら人型キメラに攻撃を行う。
「終わりです‥‥恨まないでくださいね」
織那も攻撃を行い、九条も同時に攻撃を仕掛け、能力者達は連携を崩さないようにヒット&アウェイで攻撃を行い、獣型を退治したのだが‥‥人型が窓を突き破って外へと出て行く。
「しまっ‥‥」
鮫島が呟き、キメラが出て行った窓から慌てて追いかけたのだった。
「やっぱり追いかけてきたか‥‥二人には指一本たりとも触れさせないわよ!」
ティムは『エンジェルシールド』を構え、防御に徹したのだが‥‥尚吾を車に寝かせた後、魔宗が『真デヴァステイター』と『デヴァステイター』で人型を狙いながら、なるべくキメラに接近して攻撃を行う。既に能力者達との戦闘の後で弱っていたキメラは魔宗の攻撃でトドメとなり、二人はそのまま尚吾を連れて町まで急いだのだった。
その様子を見ていた鮫島は「あとは、無事に助かる事を祈るだけ、か」と小さく言葉を漏らしたのだった。
―― 任務成功・救われた命・救った命 ――
魔宗は予め、尚吾の為に病院の手配や医者の手配などを町の住人に頼んでいた。そのおかげもあってか町に到着すると数名の医師が待ち構えており、尚吾はすぐに治療を受ける事が出来たのだった。
「なぁ、尚吾は‥‥」
病院に向かう医師の1人に魔宗が問いかけると「多少、出血が酷いがまだ救助が早かったおかげで何とか命は取り留めるだろう」と言葉が返ってきて、そのまま医師は病院へと向かっていった。
それから暫く経過した頃に廃校に残っていた能力者達も町へと戻ってきた。
「ありがとう、お兄ちゃん達‥‥」
卓也が泣きながら能力者達に礼を言うと「確り面倒見てやれよ」と九条が言葉を返す。
「尚吾も‥‥卓也も、臆病者なんかじゃない!」
魔宗の言葉に「俺も?」と卓也が言葉を返してくる。
「たとえ震えていても、泣いても、誰かを救うために一生懸命になれるじゃないか」
「まぁ、好奇心もええけど大人が危ないって言ってる場所には近づくなよ? ‥‥まぁ俺も人の事は言えないんだけどさ」
魔宗の言葉の後に鮫島がため息混じりに卓也に話しかける。
「キミも傷の手当をしなさい、そしてその後に尚吾の所にお見舞いにいってあげて」
浅川が卓也に話しかけると卓也は勢いよく首を縦に振って無言で言葉を返した。
「いいか、坊主。俺達は傭兵だ。キメラだろうがバグアだろうが守ってやる自信はある。でもな自分から死にたがってる馬鹿はどんなにしたって守りようがないんだよ」
長谷川の言葉に「ゴメンナサイ」と卓也は泣きながら謝って言葉を返す。そんな様子を見て「もう無茶はするなよ、ほら、ダチの見舞いにいってやれ」と頭を撫でてなった後に卓也の背中を軽く押す。
その後、能力者達は報告の為に本部へと帰還して行く。尚吾が助かったのは能力者達の迅速な行動のおかげ――もう少し遅かったら、今頃尚吾はこの世には居なかっただろうから。
END