●リプレイ本文
―― クイーンズ主催・花のない花見 ――
「馬鹿翔太っ! さっさと準備しなさいよねっ!」
夜桜花見の会場にて、同じ記者である翔太を馬車馬の如く働かせるのは一部の間で『暴走記者』として有名(?)な土浦 真里(gz0004)だった。
他の記者達も止めようと思えば止められるのにわが身可愛さが優先して、誰も翔太を助ける事をしなかった。
「わぁ♪ マリちゃんさすがね〜! ピンクでライトアップなんて!」
可愛いぃ〜♪ とナレイン・フェルド(
ga0506)が葉桜になってしまった桜を見上げながら呟く。少しでも夜桜の雰囲気を出そうとマリの提案でピンクのライトを桜に取り付けてライトアップされている。
「あ、お姉さま♪ いらっしゃ〜い♪」
もはや二人の間には恒例行事となっているハグで挨拶を行う。
「おお、それなりに夜桜っぽくなってるじゃないか、意外とライトでも綺麗なモンだな」
マクシミリアン(
ga2943)が桜を見上げながら呟く。
「ホントだ、花はないけど楽しい花見になるといいね」
鳥飼夕貴(
ga4123)も桜を見上げながら呟く、ちなみに鳥飼の格好は日本髪に白塗り厚化粧、そしてさらしに褌と彼にとってはいつもの格好だった。
「‥‥く‥‥何でこんなに体力ないのかしら‥‥高々お酒を担ぐくらいで‥‥」
シュブニグラス(
ga9903)が大量のお酒を担ぎながら少し苦しそうに会場までやってくる。
「シュブちゃんっ! 馬鹿翔太〜! さっさと代わりに持ってやりなさいよ」
ばし、とマリが翔太の背中を叩きながらシュブニグラスの持ってきたお酒を持ってやるように指示する。
(「能力者の彼女が『重い』って言うほどなのに、一般人の俺が持てるのかなぁ‥‥まぁ、ちびちび運ぶか」)
翔太は心の中で呟き「俺が移動させますんで、置いといてください」とシュブニグラスに声をかける。
ちなみにマクシミリアン、鳥飼、シュブニグラスの三人は小隊長であるナレインに誘われて、今回の夜桜花見に参加したらしい。
「花を愛でるには多少遅くなったけど、こうやって楽しむ機会が増えるのは良い事よね、存分に楽しませて貰うわ」
小鳥遊神楽(
ga3319)がマリに話しかけると、横から乾 幸香(
ga8460)も顔を覗かせて「こんばんは」と穏やかな笑顔で挨拶をしてくる。
「マリさん、今日はお花見への招待有り難うございますね。存分に楽しんじゃいます」
乾が言葉を付け足すと「うん☆ 楽しんでくれなくちゃ私が困っちゃうよっ!」とマリもにぱっと笑って言葉を返す。
今回、小鳥遊と乾の二人は『Twilight』としてミニライブをしてくれるのだと言う。去年のクイーンズ主催のお花見での二人の活動が本格的な活動再開の切欠となった。だから乾にとってはクイーンズの皆の前で歌うのはある意味で特別なものなのだとか。
「よぉ、マリ。少々時期はずれだが、こうやって皆が楽しむ機会を作ってくれた事には感謝するぜ」
威龍(
ga3859)がマリに挨拶しながら、クイーンズ記者である静流をマリに気づかれないように探す。すると彼女は木にもたれて何かを書いていおり、顔を上げた所で威龍と目が合い、軽く手を挙げて挨拶をする。
「っと、それじゃまた後でな」
威龍はマリに言葉を投げかけ、静流の所へと足早に向かう。
「‥‥花が散ってなければもっと楽しい花見になったんだろうなぁ」
マリがため息混じりに桜を見上げて呟くと「こんばんは」とハンナ・ルーベンス(
ga5138)がにっこりと安らぐような笑顔で話しかけてきた。
「こんばんわっ、ハンナちゃん♪」
「‥‥私は真里さんらしいと思いますよ? 花は散ってしまっても、皆がこうして集まれば楽しく過ごす事が出来る‥‥真里さんらしいです」
先ほど少し落ち込んでいたマリを見て慰めてくれたのだろう、その言葉に気づいたマリはにぱっと笑って「うん、皆で楽しければいいよね!」と言葉を返して「飲むぞー!」と妙な方向に話が進んでしまった。
(「‥‥悪乗りが過ぎると――お説教ですよ、真里さん」)
ハンナは笑顔のまま心の中で呟き、皆の輪の中へと入っていったのだった。
「こんばんは、真里さん」
玖堂 鷹秀(
ga5346)が軽くマリの背中を叩きながら話しかけると「花見と銘打ってるけど全く花のない夜葉桜にようこそ」と長ったらしい名前で挨拶をする。
「まあまあ、葉桜は葉桜で『新緑』の春としても良いじゃないですか? ね?」
まだ桜が散ってしまった事に怒りを覚えているマリを宥めるように玖堂が苦笑しながら言葉を返す。
(「それに‥‥貴女の場合、結局騒げれば万事オッケーじゃないかな‥‥?」)
流石にそれを口にするとマリが猛反論してきそうなので、玖堂は心の中で呟いた。
「あっちが会場だから、鷹秀は先に行ってて〜♪ 私はまだ皆に挨拶してないし!」
マリがそう言って離れようとすると「あ‥‥」と玖堂が呟き「ん? 何?」とマリが振り向き、首を傾げながら問いかけてくる。
「いえ、後でいいです。先にあちらに行ってますね」
玖堂は呟くと、そのまま皆が集まる輪の中に向かって歩き始めた。
「んん〜? なんだったんだろ。ま、いっか」
マリは自己完結した所に和服美人を二人発見して「和服美人はっけーん! 初対面よね? マリちゃんです、宜しくぅ!」と早口で挨拶をする。
そして挨拶された二人‥‥シーヴ・フェルセン(
ga5638)とルノア・アラバスター(
gb5133)は少しだけ驚いたように瞳を瞬かせながらマリを見ている。
「ルノアに誘われて来たシーヴでありやがります」
ぺこりと頭を下げながら「じゃあシーちゃんね、私の事は美人さんでもマリちゃんでも好きに呼んでおくれー!」と高笑いをしながら言葉を返す。
(「‥‥まだ始まったばかりでありやがるのに、もう出来上がってやがるです‥‥」)
薄紅地に枝垂れ桜柄の着物を着たシーヴは冷めた目でマリを見たまま心の中で呟く。
「えと‥‥お花見、初めてなので、楽しみです‥‥でも、お花見って、お昼じゃなくて、夜にもやるんですね‥‥」
藤紫地に枝垂れ桜柄の着物を着たルノアが盛り上がりを見せている会場を見て呟く。
「ふふふふ、夜のお花見はオトナの世界なのよ! あだるてぃー! あ、翔太! 何サボってんの! 働かないとボーナス減らすからね!」
色んな雑用をして疲れ果てている翔太に次の指示を出して更に働かせる。
「ふむ‥‥翔太さん、大変そう、ですねー‥‥」
「あ、翔太だからいいんだよ、アレで! それにしても二人とも可愛いねー。着物かぁ♪」
着物姿の二人を見て「私も着てくればよかったなぁ」とマリも残念そうに呟く。
「あの‥‥似合ってます、か? お花見も、初めてですが‥‥着物を着るのも、初めてなので」
ルノアが困ったような表情を見せながら呟くと「良く似合ってやがるですよ」とシーヴが微笑みながら言葉を返す。
「うん、ルーちゃんもシーちゃんも凄く可愛いよ〜!」
マリも言葉を返すと「あ、あの‥‥」とルノアが話しかけてくる。
「野点を、したいんですけど、いいですか?」
「シーヴが準備を手伝いやがりますから、手間はかけねぇです」
「野点かぁ、私も興味あるからぜひして欲しいよ! もし手伝いがいるならアレ使って良いからね」
アレ、とマリは翔太を指しながら「んじゃ! 後でね」と言葉を残して去っていく。
(「‥‥流石に、あれ以上、働かせたら‥‥死んじゃいそう‥‥」)
(「既に限界を超えてやがりますね、むしろ手伝いにならねぇでやがります」)
二人はそれぞれ心の中で呟き、野点会場の設立に取り掛かったのだった。
「こんばんは」
二人と別れた後、櫻杜・眞耶(
ga8467)がマリに話しかけてくる。
「ちわっす、まやちゃん♪ セロリなんて持ち込んで私に何をする気なのさ」
荷物の中からチラリとマリの天敵が見えて後ずさりながら呟くと「羽目を外しすぎた人用(主に真里用)の物ですよ、羽目を外しすぎなければ関係ないので心配しないでくださいね?」
櫻杜が呟くと「‥‥絶対食べないからね」と小さく呟く。どうやらマリは羽目を外しすぎるつもりでいるようだ。
「あ、ああ、あの‥‥これは、ど、何処に置けばいいでしょうか‥‥」
櫻杜と話しているとワイン樽のような荷物を抱えたキド・レンカ(
ga8863)が話しかけてきた。
「わわわ、しょう〜たぁ〜〜! 可愛いレンカちゃんにこんな大荷物持たせて何してんのー! 早く運んであげなさいよねーっ!」
大きな声でマリが叫ぶと「は、は〜い‥‥」と既に生ける屍になりつつある翔太が現れて「荷物運びま〜す‥‥」とキドから荷物を取ろうとする。
「あ、あ、あの‥‥自分で運べますから、大丈夫、です」
「いや、運ばせてください。これで運ばなかったら俺、何て言われるか‥‥」
へへへ、と白い顔した翔太が言葉を返し「‥‥翔太はん、既にヤバイ所まで行かれてるんじゃ‥‥」と櫻杜は翔太を哀れに思ったらしい。
「わ、私も持ちますから一緒に向こうへ行きましょうか、それで少し休んだ方がいいですよ」
櫻杜がふらつく翔太を支えながら、皆が騒いでいる輪の中へキドと共に向かい始めた。
「マリ〜、この子が挨拶したいってさ」
チホが手を挙げながらマリを呼び、その隣にいるレイン・シュトラウド(
ga9279)がぺこりと頭を下げてくる。
彼は前々からクイーンズの記事を読んでおり、記者達に興味があったので花見に参加したのだとか‥‥。
「クイーンズの皆さん達って、もっと破天荒な人達だと思っていたけど、案外普通なんですね」
レインがチホに話しかけると、彼女は苦笑しながら「マリ以外が普通なのよ」と言葉を返してきた。
その時、レインは背後から頬をむにっと左右に引っ張られ「さぁ、此処で質問。キミにとってマリちゃんは破天荒かしらん? 『うん』なら右手『いいえ』なら左手をあげよ」と質問を投げかけてくる。
「い、いひゃい‥‥」
レインは右手を挙げたかったけれど、身の安全の為に左手を挙げる。その行動にマリは満足したのか「宜しい」と呟きながら手を離す。
(「‥‥やっぱり、この人『だけ』が破天荒なんだ」)
ひりひりとする頬を擦りながらレインは納得したようにマリを見る。
「とりあえず、皆あっちで飲み食いしてるから♪ 全員に挨拶が終わったら私も行くからそれまでマリちゃんがいなくて寂しいだろうけど――我慢するんだよーーーっ」
マリは叫びながら何処かへと去っていき「‥‥初対面からあのノリなんだ、凄いな」とレインは呟き、皆が集まる輪の中へと歩き出した。
「葉桜はまた別の趣があっていいですね」
神無月 るな(
ga9580)がライトアップされた桜を見ながら呟く。
「こういうお花見もたまには良いものですよ――っとナレ姉さま達はもう来ているんですね」
輪の中のナレイン達を見かけて神無月が呟くと「うん、るなちゃんも輪の中に入るといいよ」とマリが言葉を返す。
「えぇ、それじゃまた後でお話しましょう」
神無月は軽く頭を下げると、自分を呼ぶナレイン達の所へと向かっていく。そこでイスル・イェーガー(
gb0925)の姿が見えて「おーい、こっちだよ、こっちー!」とマリが大きく手を振りながらイスルを呼ぶ。
「‥‥こんばんは‥‥花見ってあんまりした事ないけど‥‥ちょっとわくわく‥‥」
イスルがライトアップされた桜の木の下で騒ぐ能力者達を見ながら呟き「存分に楽しんで頂戴ね、そうじゃなくちゃ企画した意味がないじゃん♪」とマリもばしんとイスルの背中を強く叩きながら言葉を返す。
「だけど未成年は飲酒禁止っ! それを守らなかったらマリちゃんが『めっ』ってラリアットくらわせるからね」
何故かハリセンじゃなくてラリアットに技が昇格している気がするが、そこは置いておいて「‥‥気をつける‥‥」とイスルは自分がラリアットされる場面を想像したのか首を何度も縦に振って答えてきた。
「花のない花見に惹かれてやってきましたが、本当に桜の花は散ってしまったようですね」
美環 響(
gb2863)が散ってしまった桜を残念そうに見上げながら呟き「それならば、違う花を見て楽しむ事にしましょうか」と言葉を付け足した。
「違う花?」
マリが首を傾げながら問いかけると「着飾った女性は、一輪の花のように麗しい‥‥こういうのを眼福と言うんでしたっけ」と『レインボーローズ』を片手に持ち、優雅な笑みを浮かべながら言葉を返してきた。
「それでは、また後で。今回は花にちなんだ奇術ショーを行いたいと思ってますので、お楽しみに」
美環は言葉を残し、皆の輪の中へと行く。
そこで――――マリはもふもふ、もとい幻堂 響太(
gb3712)を発見して「もふもふーーーっ!」と素早く走り出す。
「あ、マリさん‥‥見つからないように――えええ、こっちに来てるーっ!?」
お菓子やご飯などを食べようと気分が浮上していた幻堂だったけれど、自分めがけてやってくるマリを見て気分メーターが急下降していくのが分かる。
「もふーっ‥‥あれ、もふじゃない‥‥」
覚醒を行っていないから『もふ状態』になっていない幻堂を見て、マリはがくりと肩を落としながら落ち込む。
「え、えーと‥‥あっちにご飯がたくさんあるなぁ。食べてこよー‥‥」
落ち込むマリを見ながら幻堂は逃げるチャンスだと思い、その場から離れる。しかし彼は忘れている。輪の中にはマリと同じく彼を『もふ』と見る人物・シュブニグラスがいるという事を。
「あら、もう始めてます?」
水無月 春奈(
gb4000)が騒いでいる皆を見ながら呟くと「やほー、はるなちゃん」とマリが大きく手を振りながら話しかける。
「もしかして‥‥時間間違えちゃいましたか?」
「あ、大丈夫だよ♪ 先に来た人から始めてもらってるだけだから〜」
マリが言葉を返すと「とりあえず、お土産を持ってきました」と水無月が呟き「あれ?」ときょろきょろと周りを見渡しながら言葉を付け足した。
「えっと、舞さんの姿が見えませんけど‥‥?」
「あ、取材だから今回の花見は来てないんだ〜」
マリの言葉に「取材‥‥ですか、それは残念です‥‥」と水無月はしょんぼりとした表情で言葉を返して「それじゃ私もあっちに行きますね」と輪の中へと向かっていった。
―― お花見開始・食べて飲んで騒いで ――
「は〜い、皆が持ち込んできてくれた食べ物&飲み物のおかげでかーなーりー豪華は花見になりましたー!」
円を囲むような形で能力者、そして記者達が座り、円の内側には多くの飲み物や食べ物がずらりと並べられている。
「夕貴ちゃんのおにぎり〜眞耶ちゃんのサラダ‥‥こんなに種類あるの〜? 全部美味しそう‥‥」
ナレインは並べられた食べ物をジっと見つめると「‥‥全種類食べきるわ!」と拳を強く握り、取り皿に盛り始めたのだった。
「‥‥相変わらずみんな料理が上手いわね。食べる楽しみが増えて良いんだけど‥‥あたしももう少しレパートリー増やした方がいいのかしらね」
小鳥遊が食べながら呟くと、その隣で「う〜ん、美味しい!」と乾が食べながら幸せそうな表情で呟いている。
「やっぱりお花見の楽しみの半分はみんなでわいわいと食事を囲む事だよね、神楽」
「え? そうね、皆で食べる食事は楽しいのもだけれど、余計に美味しく感じるものね」
小鳥遊は言葉を返し、再び料理を口に運び始める。
「春先とは言え、まだまだ冷え込むから、去年同様俺特製の中華スープをご馳走するな。まぁ、味の方もあれから研究を加えたので期待してもらって良いと思う」
威龍が持参してきていたカセットコンロで温めておいた中華スープを配り始める。その他にも彼は唐揚、エビチリ、酢豚など様々な中華料理を持ってきていた。
「今回は皆も持ち込むだろうと思ってたから、一口サイズのおにぎりにしてみたよ。おにぎりでお腹いっぱいになったら困るだろうし」
鳥飼が持ってきたおにぎりを差し出しながら苦笑気味に呟く。おにぎりの具はしゃけにおかか、明太子にツナマヨ、そして昆布と王道的なものばかりで誰もが手を伸ばしている。
「私は‥‥デザートになりますけど、チーズケーキを持ってきました。皆さんの分、ありますからご飯が終わってから食べましょうね」
ハンナが持ってきたチーズケーキを見せながら呟き、自分も食べ物に手を伸ばした。
「あぁ、そういえば私も兄上に料理を頼んでおいたので出しておきましょうか」
玖堂が持ってきた料理、筍の佃煮、ほうれん草のお浸し、自家製チャーシュー、油淋鶏、鶏皮せんべいなどおつまみになる物を多く持参してきていた。
「‥‥シーヴもこんくれぇ上手く料理出来るように、なりてぇですね‥‥」
野点の設営を終え、シーヴが料理を口に運びながら遠い目をして呟く。
「料理なんてモンは戦うより簡単よ、私が料理出来るくらいなんだから!」
えへん、と威張るようにマリが言葉を返す。
「あの‥‥軽食のお弁当を持ってきたのですけど‥‥」
ルノアがおずおずと差し出してきたのはトマト、タマゴ、ハムなどのサンドイッチだった。
「ん、ルノアのサンドイッチもうめぇですよ」
一つ食べながらシーヴが呟くと「本当? 良かった」とルノアも安心したように言葉を返した。
「花がないとの事でしたので、花見弁当を持ってきました」
櫻杜は重箱に詰められた数々のオカズを見せながら呟く、その中でも煮物の上に乗せられている桜の塩漬けがとても綺麗だった。
「わ、わたし‥‥いくつか‥‥デザートをつ、作ってきたのですが‥‥い、いかがですか?」
キドが杏仁豆腐やマンゴープリン、胡麻団子にチマキなどを見せながら問いかける。
「あ、杏仁豆腐食べたい」
鳥飼が軽く手を挙げながら呟くと「ど、どうぞ」と杏仁豆腐をよそって渡す。
「大人達はお酒飲んで楽しそうですね、飲んでみたいなとは思うけど‥‥」
レインは用意されたジュースを飲みながら呟くと「まぁまぁ、これでもいかがですか?」と水無月が桃包を差し出しながら話しかけてくる。
レインは渡された桃包を食べて「‥‥美味しい」と目を丸くしながら「作り方、聞いていいですか?」と水無月に問いかける。
「えぇ、今回のは桃饅頭の色がなかなか上手くいかなかったんですよね、私もまだまだ‥‥っと作り方はですね‥‥」
水無月はレインに桃包の作り方を丁寧に教えていく。
「ありがとうございます、今度誰かに作ってみよう‥‥」
「この杏仁豆腐、美味しいですね」
神無月がキドの作った杏仁豆腐を食べながら呟く。ちなみに彼女はおにぎりを用意してきているのだが、中には『すっぱい梅干入りオニギリ』が潜んでいる。
(「誰も何も言わない所を見ると、まだ誰も食べてないみたいね」)
神無月は黙々と杏仁豆腐を食べながら自分が持ってきた『アタリ』を食べる瞬間を待っているのだった。
「とりあえずお酒はそれなりに持ってきたから飲んじゃいましょう。本当はもっと持ってくるつもりだったんだけど‥‥体力的に駄目だったわ」
シュブニグラスはガクリとうな垂れながら、イスルの持ってきた団子を口へと運んでいく。
「それでは、此処で僕の奇術を披露させていただきますね」
美環はシルクハットを取り出して、その中から無数の花びらを舞わせる。そして風に舞ったそれらは木々に張り付き、まるで花が咲いているかのような演出を見せた。
そんな中で「おや、進んでないねぇ〜!」とマクシミリアンが翔太のグラスに並々とお酒を注ぐ。
「今日はしっぽり飲もうぜ! あ、コラ! 目を逸らしたな、酔っ払いの心意気、見せてやるぜ」
がはは、と豪快に笑いながらマクシミリアンはほろ酔い気分で歌い始める。声量はかなりのモノなのだが‥‥音程が狂っている。
「あの‥‥これから野点をしたいなと、思うので‥‥良かったらどうぞ」
ルノアが呟き、視線を移す。そして能力者達も彼女の視線を追うように移すと、本格的なものではなかったけれど夜の桜と雰囲気の合う野点の設営がされていた。
最初にシーヴが座り、作法が分からない彼女はルノアに教えてもらいながらお茶を頂く。
「三回まわして‥‥と。えと、結構なお手前、でありやがったですかね。大兄様も点てやがるんで、作法無しに飲むだけは慣れてやがるんですが」
シーヴが呟き「私もいーい?」とマリが後ろから声をかけ「もちろんでやがるです」とシーヴは座っていた場所から退いて、席をマリに譲った。
「それじゃ、シーヴは音の花でも咲かせとく、ですよ」
呟いてシーヴは持参してきたキーボードをピアノ音源にして夜桜に相応しいさくらの曲を奏でる。
「次はあたし達のライブにしようか? 去年のあのライブがなかったら、今のあたし達はなかったんだよね、神楽」
乾が小鳥遊に話しかけると「そうね」と彼女も短く言葉を返す。
「そう考えるとなんか感慨深いものがあるね」
乾はミニライブの準備をしながら言葉を返し、シーヴの演奏が終わった後に「Twilightのミニライブを始めます」と能力者達に声をかける。
「さて、それではお楽しみの変身ショーを始めましょうか♪」
ナレインがにこやかに呟き、イスルとレインを連れて離れ、変身の手伝いをする人もその場を離れていく。
そして威龍は静流を誘い、離れた場所での葉桜観賞を楽しむ事にした。
「‥‥なかなか会える時間がなくて、正直心苦しいと思っている。こんなゆっくりとした時間を過ごしたいとは思っているんだが、なかなかな‥‥」
威龍の言葉に「仕方ないわ、こっちだって都合合わせられないんだからお互い様よ」と酒を片手に言葉を返す。
「‥‥それに、待つのって結構嫌いじゃないから。会えた時に何倍も楽しくなるじゃない、だからあたしは‥‥待つことは苦じゃないわ」
静流が呟いた瞬間、威龍は軽く触れるだけのキスをした。
「‥‥意外と手が早いのね」
静流は悪態をつきながらも、表情は決して嫌がっているようなものではなかった。
そしてその頃、変身が完了したと叫ぶ声が聞こえ、其方へと視線を移したのだった。
「うふふ、かなりの逸材ばかりで楽しかったですね」
神無月が楽しそうに呟き、変身させたイスルとレインを能力者達に披露したのだった。
イスルの変身はマスカラをつけて目をぱっちりにして、桃色グロスで艶のある唇、ほんのりチークで柔らかい印象を出し、服装はメイドさんだった。
「‥‥ぁー‥‥ぇ、とぉ‥‥おひとついかがですか‥‥? ご主人様‥‥」
メイドになりきりながらイスルが呟くのだが、元々が可愛い顔をしているせいで女の子にしか見えない。
そしてレインはチア服とブルマ、ポンポンを持たせて、橙のリボンでツインテールにして、ワンポイントとしてチョーカーをつけており、元気さを出す為にナチュラルメイク、唇はリボンと同じ橙で――何処から如何見ても『女の子』にしか見えなかった。レインは高くジャンプしたりなど、軽いチアダンスを勉強してきたらしく、楽しそうに披露していた。
「どうでした、ボクのチアは? チアの映像を見て、動きを研究してきたんですが‥‥」
「うん、可愛かったよ、男の子なんて思えないくらい可愛かったなー」
マクシミリアンはレインの頭を撫でながら褒める――のだが、レインは男の子だ。
「今宵は麗しき花に囲まれ、夢の一夜が過ごせそうです」
くす、と笑みながらナレインが燕尾服をびしっと着こなして登場してくる。いつもはおろされている髪も青いリボンで一つに括られ、低めの声、そして流し目で普段のナレインとは別人のように思えた。
「‥‥っと、皆の目標でも宣言しちゃわない? ちなみに私は恋人欲しい〜ってのは皆知ってるから‥‥ローズアイテムを誰よりも手にしたい♪」
薔薇好きのナレインらしい宣言に能力者達は微笑ましいのか軽く笑みを浮かべる。
「俺は‥‥宴会系の依頼を減らしてマジメな仕事に取り組みます」
マクシミリアンがきりっとマジメな表情で話すのだが、現在いる場が宴会なので全く説得力がなかったりする。
「あたしはもう少し音楽活動に力を入れて、能力者ではない本当の自分を皆に認めてもらう」
小鳥遊が呟くと「あたしも! 音楽でみんなにもっと認めてもらえるようになりたいです」と乾も手を挙げて目標宣言をしたのだった。
「俺は‥‥仲間を悲しませるような無謀な事はせず、1人でも多くの者を助ける」
威龍は拳を強く握り締めながら呟く。
「え、えと‥‥その‥‥のお嫁さんになる、ですっ‥‥だから‥‥料理とか、頑張りやがるですよ」
シーヴが彼氏のお嫁さんになる事、顔を真っ赤にしながら宣言した。
「私は、もう間違わないように『目』を養いたい」
櫻杜は俯きながら呟く。彼女は判断ミスで1人の一般人を死なせてしまった経験があり、1人でも多く救う為に冷静な判断が出来るようになりたいと呟いた。
「こ、ことしも‥‥き、厳しい戦いに出ても‥‥生き残りたい、です」
キドは呟く。彼女達『能力者』と言う存在は戦いでいつ死んでしまうか分からない、だからこそ『生き残る』と言う決意を彼女は立てたのだろう。
「皆を守るために戦う」
レインは短く呟く。短い言葉だけれど実行する事は難しい事もある。だからこそ自分を戒める為に決意を立てたのだろう。そしてレインは『【OR】白銀のハーモニカ』で曲を演奏し始める。
「私は1km先のコインにワンホールショット出来るようになりたいですね♪」
くす、と笑みながら神無月も目標を宣言した。
「‥‥神無月姉さんとか、ナー姉ぇとか‥‥皆を守れるように‥‥強くなりたい、かな」
イスルは恥ずかしそうにメイド服で目標を宣言する。そして「うぅ‥‥恥ずかしい‥‥もう絶対やらない‥‥」と言葉を付け足したのだった。
(「今回は真里さんをたきつけて、男性陣全てに女装をして欲しかったんですが‥‥流石に今からはいえませんねぇ」)
6段に重ねたアイスを食べながら美環が心の中で呟いた。
「目標‥‥やっぱり可愛いお嫁さんになる事でしょうか‥‥随分先の話ですけどね」
水無月は苦笑しながら呟く。
「翔太くん、何かキミとは今後ゆっくり飲み交わしたいね。俺はジュースだけど。何か同情しちゃうんだよね‥‥」
幻堂が翔太に向けて言葉を掛けると「‥‥うぅ、俺ってそんなに哀れかなぁ」とずどんと沈んでいた気持ちが更に沈んだのだとか。
「きゃははっ! みんなのめのめーぃっ! まりちゃんはまだしらふだぞーぅ!」
ビール瓶を振り回しながら叫ぶマリに「少し涼しい所にいって落ち着きましょう」と呆れたような玖堂に連れられていく。
その間、能力者と記者達は片付けを始める。
「真里さんといると退屈しないな――というより退屈出来なさそうですね」
苦笑しながら玖堂が呟くと「しらふだってばー」とマリが半分怒ったように言葉を返す。
そして玖堂は後ろからマリを抱きしめて左手を絡めるように持ち上げ『【OR】連理の誓い』を見せながら「これを同じようにつけて貰う事は出来ませんか?」と問いかけてくる。
「‥‥‥‥え?」
一気に酔いのさめたマリは出された指輪と玖堂を交互に見る。
「心の底、いえ、私の全てが貴女を愛おしく思っています」
指輪を嵌めた後、向かい合ってキスをしたのだが――マリがぼろぼろと涙を流し始めて「ぅー」とか「ぁー」とか言葉にならない言葉を呟き始める。
「不束な私ですが、宜しくお願いしますっ」
マリはがばっと頭を下げて「か、片付けいってきますっ!」と片付けをしている能力者たちの元へと走っていった。
その薬指に玖堂から貰った婚約指輪を輝かせながら――。
その後、片付けをしている能力者達の元に戻ってきたマリは不気味なほどにニヤけており、別な意味で記者達を脅かせていたのだった‥‥。
END