●リプレイ本文
―― 小さなマリ、参上 ――
「初めまして、私は玖堂 鷹秀(
ga5346)と言います。今日は宜しくお願いしますね」
玖堂は土浦 真里(gz0004)と目線を合わせるように屈みながら挨拶を行い、マリと握手をする為に手を伸ばそうとするのだが――‥‥。
「忘れ物だよ」
手が触れる寸前で草太がマリを呼んで玖堂から引き離す。
「貴方達が怪我をするのはかなり勝手ですが、くれぐれもマリに怪我をさせないで下さいね」
にっこりと黒い笑みを浮かべて草太が能力者達に挨拶をして、マリを渡した。
(「子供と言うのは大概無茶を言うものですが‥‥これは止めて欲しかったですねぇ」)
玖堂ははしゃいで兄と話しているマリの姿を見て苦笑気味に心の中で呟いた――が、ヘタを打つと後々の面倒事に繋がりそうなので気を引き締めていこうと大きなため息を吐いたのだった。
「キメラ退治がしたいか‥‥子供は本当に怖いもの知らずね。まぁ、依頼だからきちんとやるべき事は果たすけれど」
小鳥遊神楽(
ga3319)が髪をかきあげながらため息混じりに呟く。
(「手頃な任務――の筈だったんですけどね‥‥」)
神代千早(
gb5872)がマリと草太を見ながら大きなため息を吐く。彼女自身、小さな子供は嫌いではなかったのだけれど、草太に会って事に至る経緯と異常なはしゃぎようを見て呆れたような笑みを浮かべた。草太のぼやきたくなる程の妹溺愛ぶり、そしてマリの見るからにお転婆そうな雰囲気に、この任務が無事に終わる事を願うだけだった。
「あ。マリちゃん」
このまま出発しよう、と言う話になってクレイフェル(
ga0435)はマリを呼び止める。
「なーに?」
「長袖、長ズボンで行こな? 藪で引っ掻いて怪我したらおいちゃん、困るさけなー?」
う? と首を傾げながらマリは自分の格好を見る。淡いピンクの可愛いスカートに七分袖のフリル付きシャツを着た格好だったけれど、少しの怪我も許さないという草太の言葉にクレイフェルは『‥‥転んだり引っ掻いたりして怪我されるのがいっとー怖いわ。いちゃもんつけられそうで』と草太を見ながら苦笑気味に心の中で呟いた。
――べきっ。
「‥‥‥‥僕がマリの可愛さを最大限にアピール出来る服を選んであげたのに‥‥長袖、長ズボンなんてマリの可愛さが損なわれてしまう‥‥」
草太は鉛筆を無残な姿に折りながら壁に向かってぶつぶつと呟いている。
「このお洋服は、お兄ちゃんが可愛いってえらんでくれたんだよ?」
マリも首を傾げながら呟くと「ええ子にしとったら、後で飴ちゃんあげよ」
クレイフェルが草太を無視しながら話を進めていくと「あめ? まり、お着替えする!」とぴょんぴょんと跳ねながら喜びを表現している――のだが「‥‥餌付けか‥‥」と少し離れた場所から草太がジト目で見ながら呟いている。
「ま、まぁまぁ‥‥マリちゃんが怪我したら大変ですから」
芝樋ノ爪 水夏(
gb2060)が草太を宥め、マリを着替えさせる事に成功したのだが「へんしつしゃ!」とマリはバッグの中からフライパンを取り出して紅月・焔(
gb1386)に攻撃を仕掛ける。
「ま、マリちゃん! その人は一緒に行く能力者さんですよ」
芝樋ノ爪が慌ててマリを止めるが、時既に遅しでフライパンは紅月の腹部にヒットしていた。
「‥‥まり、わるくないよ。へんなかっこうしてる人がいけないんだよ」
ぷいっとマリは明後日の方向を向いて呟き、紅月は「‥‥キメラより土浦嬢が怖い‥‥」と幾度か繰り返して呟いていたのだった。
「ま、まぁ――マリちゃんも楽しみにしてる(?)みたいですし、そろそろ出発しましょう」
雪待月(
gb5235)が苦笑しながら能力者、そしてマリに話しかけて、マリは見送る草太に手を振りながら本部を出発したのだった。
―― 小さくてもマリなんです ――
今回のキメラが潜んでいる場所は森の中、そして戦えない一般人の上に子供であるマリを連れての任務と言う事で、能力者達は班を二つに分けて行動する事にしていた。
戦闘班・クレイフェル、紅月、芝樋ノ爪、佐渡川 歩(
gb4026)、神代の五人。
護衛班・小鳥遊、玖堂、雪待月の三人。
「ねぇ、あなたのお名前はなに?」
マリが少し前を歩いている紅月に話しかけると、彼は大げさに肩を震わせて「俺‥‥? 俺は‥‥通りすがりのガスマスクの化身‥‥がすっちょだ」と言葉を返す。
「へんななまえー!」
マリは笑いながらリュックに入れていた石(近くの河川で拾ったもの)を紅月にめがけて投げつける。
「だ、駄目よ。人に石を投げちゃ危ないでしょ? ちゃぁんと、私達の言う事を聞いて良い子にしてると、お兄さんも褒めてくれるんじゃないかな?」
マリのお転婆を押さえる為に、マリと手を繋いでいた雪待月が話しかけるのだが‥‥「お兄ちゃんは、まりだったら何してもほめてくれるよ?」と予想外の言葉が返ってきたのだった。
「‥‥‥‥少々過保護が過ぎると思うけど、まあ妹を持った兄心という事かしらね」
小鳥遊が苦笑気味に呟いた所でマリが木の根っこに躓いてコケてしまいそうになるが玖堂がそれを抱きとめて地面に直撃するのを避けた。
「キメラを見つけるまでに疲れてしまっては大変です。良ければ肩車をさせて頂きますよ?」
玖堂の言葉に「かたぐるまー♪」とマリははしゃぎながらベシベシと玖堂の頭を叩いていた。
「‥‥‥‥十年後にはマリちゃん18歳、僕が27歳ですから法律的にも問題ありません。年頃の女性に縁がない僕でも、今のうちにマリちゃんと仲良くなっておけば将来は‥‥ぶふぅっ!」
佐渡川は『その時』の事を想像したのか派手に鼻血を散らしてマリを怖がらせ、そして他の能力者からは『ロリコン?』と言う訝しげな視線を投げられる。
「ぼ、僕はロリコンじゃないですよ!?」
焦りながら佐渡川は否定するのだが、誰も『貴方ロリコン?』と聞いては居ない。
「まりも、きめらとたたかうれんしゅー!」
リュックの中から紐を取り出してくるくると回しながら「えいやー!」と叫びながら前方に向けて投げつけ、クレイフェルの首を絞める。
「ぐぇっ! な、な、何するんや‥‥」
「マリちゃん、そんな事をしたらお兄ちゃんが死んじゃうわよ? 早く紐を離して頂戴、ね?」
小鳥遊が紐を離させようとマリに話しかけるのだが「しんじゃえー」と恐ろしい言葉を言いながら強く引っ張る。やむ無く小鳥遊は『エマージェンシーキット』の中に入っていた鋏を使用して紐を切ってクレイフェルの命を救う。
「もー! なんでじゃまするのー!」
マリは不服だったらしくリュックの中に入れていた石を投げつけ、紅月にヒットさせる。
「ま、真里さん。お兄さんについて聞いてもいいですか? どんな所が好きなのかとか」
玖堂が肩の上で暴れるマリに話しかけると「お兄ちゃんはまりのおねがいをきいてくれる魔法使いなの」とにっこりと言葉を返した。
(「やはり兄の溺愛ぶりがあの子にあまり良い影響を与えてはいないみたいですね‥‥」)
神代は心の中で呟き、ぼやきたい気持ちを抑えてキメラ捜索を続ける。
「‥‥っと、あれやないか? キメラ」
護衛班より先にキメラを見つけられるように、少し前を歩いていた戦闘班の一人であるクレイフェルがポツリと呟く。
「きゃー! わんこー!」
マリは犬キメラを見てはしゃぎながら、玖堂の肩の上で暴れ始める。
「出来る限り、グロかったりエグかったりする光景は、見せたくないので‥‥出来るだけ早めに仕留めたいですね」
覚醒を行いながらクレイフェルが呟き『瞬天速』を使用してキメラとの距離を一気に詰めると『ルベウス』を使用して攻撃を行い、反撃が来る前に再び下がる――所謂ヒット&アウェイ方式で戦闘を行う事にしていた。
(「他の方々が戦いやすいように誘導出来ればいいのですけど‥‥」)
「お前なんぞより、後ろにいる土浦嬢の方が怖いわ!!」
くわっと真剣な表情で叫びながら紅月が『グラファイトソード』で犬キメラに攻撃を仕掛ける。
「マリちゃん、このお菓子でも食べて待っててね」
芝樋ノ爪がマリにお菓子を渡しながら大人しく待っているように言うのだが「やぁ〜! まりもたたかう〜〜!」と我侭を言い始めたのだ。
「マリちゃん、駄目ですよ。そんな事をして、怪我したらどうするんですか」
むしろ怪我されたら何を書かれるんですか、と言う言葉も脳裏に走った芝樋ノ爪だったが流石にそれはマリに言う事は出来なかった。
「大丈夫よ、私達が見てるから」
小鳥遊が苦笑して喚きたてるマリを宥めながら芝樋ノ爪へと言葉をかけ、芝樋ノ爪は「お願いします」と軽く頭を下げて戦闘へと参加し始めたのだった。
「えーと、サポートしますね!」
佐渡川は呟きながら前衛で戦う能力者達に『練成強化』を使用して能力者達の武器の強化を行う。強化を受けた能力者達は速やかに戦闘を終える為にそれぞれ攻撃を行う。
「うふ、うふふふふ‥‥あはははは‥‥」
神代は『薙刀』を振るいながら犬キメラに攻撃を仕掛け、不気味に微笑みを浮かべていた。これは彼女の覚醒状態の特徴なのだが、幼いマリにとっては少し怖くなったのだろう。
「きゃーーーーっ」
マリは叫びながら玖堂にしがみつき『戦いたい』と言う事は言わなくなった。
「っと、危ないわね」
小鳥遊はマリの位置の近くにある枝に気づいて『アーミーナイフ』で枝を切る。
「今回はあたし達が付いているから、まだ危険が少ないけど、キメラは男でも女でも、お年寄りでも、マリちゃんみたいな子供でも何の区別無く襲ってくるわ。だから決して一人で戦おうとはしないでね」
小鳥遊が真剣な表情でマリに話しかけると「だいじょうぶ、まりはおにいちゃんとざっしきしゃするんだから」と満面の笑みで言葉を返した――が、小鳥遊の言葉の答えにはなっていないので、彼女は頭を押さえたのだった。
「そういえば、くどーさんはお兄ちゃんのことを聞いてどうするの?」
マリが能力者が戦っている姿を見ながら問いかけると「ふふふ、いえ、何でもないですよ」と眼鏡を怪しく輝かせながら言葉を返した。ちなみにあらぬ事を書かれた時の対応策として玖堂はマリから草太の事を聞きだして『少年記者の異常な愛情』と言う記事を書く事にしていたのだ。
「むぅ、まりもいきたいなー‥‥」
戦う能力者達を見て『ヒーロー』に憧れるのか、羨ましそうに呟いた。
「私達は脇役ですよ? 主役はカッコよく『トドメ』を刺せるんですよ?」
玖堂の言葉に「しゅやく? まり?」と表情を明るくしながら言葉を返して「しゅやくーー♪」と叫び始めた。
その声に犬キメラが気づき、マリの元へと走り出した。
「そっちに行きますから逃がさないで下さい!」
佐渡川が護衛班に向かっていく犬キメラに気づいて叫び、護衛班は武器を構える。
「まりちゃんには絶対に傷一つつけさせない」
雪待月が『蛍火』と『バックラー』を構えながら、向かってくる犬キメラとマリ・玖堂の間に割って入る。
「貴方はそっちに行くべきじゃないでしょう?」
クレイフェルが『瞬天速』を使用して犬キメラに近づいて『ルベウス』で攻撃を仕掛け、護衛班とは逆方向の木に叩きつける。
「うふふ、子供を狙うなんて悪いキメラね――‥‥あはは」
神代は笑いながら『薙刀』を振り下ろして攻撃を仕掛け、芝樋ノ爪は『超機械剣』を構えて攻撃を仕掛け、犬キメラを動けない程度に痛めつけた。
「マリちゃん、頑張ってください」
芝樋ノ爪の言葉に「え?」とマリは首を傾げると、玖堂が『エネルギーガン』をマリに握らせて、二人羽織の要領で後ろからマリの手を握って、照準をキメラに合わせて、弱った犬キメラを撃ち抜いてトドメを刺したのだった――‥‥。
―― キメラ退治を終えて ――
「ようできたな、マリ」
クレイフェルがマリの頭を撫でながら話しかけると「うん、うれしいからこれあげるね」とチューインガムをクレイフェルに差し出す。
「お、一個もらおかな?」
そう言って彼が指を近づけた瞬間――バチンと爪部分に衝撃が走る。俗に言う人を騙す玩具の一つである。
「‥‥それにしてもマリちゃんが大人になったらどんな無茶をしでかすのか、それを考えると今から頭が痛いわね」
小鳥遊はずきずきと痛む頭を押さえながら頭痛薬を取り出して二粒飲み込んだ。
「将来はきっとお転婆なお嬢さんになりそうですね‥‥‥‥恋人が出来たら苦労するでしょう」
苦笑しながら玖堂が呟くと「確かに」と誰もが首を縦に振っていた。
「焔さん、大丈夫ですか? あまり心配させないで下さい、手当てしますから、傷を見せてください」
芝樋ノ爪が少し傷ついている紅月を見て『救急セット』で治療を開始する。
「‥‥心配したのはコッチも‥‥や、何でもない‥‥」
紅月はポツリと呟いたが、芝樋ノ爪には聞こえなかったらしく首を傾げて不思議そうな表情をしていた。
「そういえばマリちゃんのバッグの中身って何が入ってたの?」
佐渡川が呟きながらマリのバッグを覗き込むと――『兄☆秘伝・滅殺アイテム』と書かれた白い袋が入っており、その袋の中身を見るとカッターや爆竹、痴漢撃退スプレーなど物騒なものが所狭しと入っている。
「‥‥マリちゃんはこの袋に気づいてなかったみたいだけど、うん、気づかなくてよかったね」
佐渡川は引きつった笑みを見せながら呟く。
「でもマリちゃんは(それなりに)良い子にしてたから、お兄さんに『とっても良い子にしてたよ』って伝えてあげたいな」
雪待月がマリを見ながら穏やかな笑みを浮かべて呟くと「まりはいつもいいこだよ」と頬を膨らませながら言葉を返してきた。
(「とりあえず、あのお兄さんを何とかしないと、この子の性格もどんどん崩れて行っちゃうんじゃないでしょうか‥‥」)
神代はマリの今後の事を考えると少し居た堪れない気持ちになったのだとか‥‥。
その後、マリを本部まで連れ帰ると「洋服が汚れている!」と草太がくわっと表情を変えながら能力者に詰め寄って、原稿用紙に何かを書き出そうとした時、玖堂が数枚の原稿用紙を草太に差し出した。
その中には普通の人間ならば世に出ては恥ずかしいシスコンぶりが書かれていた。この記事を読めば草太も捏造記事は止めてくれるだろうと玖堂は考えていたのだが――少し甘かったようである。
「僕とマリの日常をこんな的確に書いてくれてありがとうございます。これは記念に持ち帰らせていただきますね。駄目ですよ、脅すなら最初にコピーを取っておかないと。ちなみに僕はこの記事についてやましい事はないので、世に出しても構わないんですけどね」
何故か満足そうに原稿用紙を見る草太に玖堂はため息をついたのだった。
その後、マリは能力者の皆に駆け寄って「ありがとうございましたっ」とお礼を言って、ばいばいと手を振って草太と一緒に帰っていったのだった。
END