タイトル:月下天女マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/25 02:23

●オープニング本文


月明かりの中、羽衣を纏いながら微笑む姿はまさに天女だった。

だけど――その天女は人々に安らぎを与える天女ではなく

絶望と死を運ぶ死天女だった。

※※※

「凄い美人――みたいよ? あたしはこういう清純ぶったオンナは嫌いだけど」

ばさ、と今回のキメラが写っている写真をバサリと男性能力者に投げ渡しながら女性能力者が呟く。

「‥‥何か自分にはないものを僻んでいるぶへぁ――っ」

男性能力者が笑いながら言葉を返すと、女性能力者から怒りと言う名前の鉄拳が飛んできた。

「誰が僻んでるって? どんなにイイコちゃんに見えても所詮はキメラでしょ! その自慢の顔をぐっちゃぐちゃにしてやればいいと思うわ!」

「いや、主旨変わってるがな」

男性能力者がツッコミを入れるが女性能力者はそれを軽くスルーする。

「そういえば、この羽衣を自在に操って攻撃してくるらしいわね」

そう、問題の天女は体に巻いている羽衣を使用して攻撃を仕掛けてくるという情報がある。

「羽衣を燃やしてしまえばいいでしょうけど‥‥そう簡単に行くのかしらね」

女性能力者は小さく呟き、再び資料に目を通し始めたのだった。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
篠崎 宗也(gb3875
20歳・♂・AA
加賀 円(gb5429
21歳・♀・DG

●リプレイ本文

―― 天女の待つ場所へ ――

「これが初の実戦ですけど、皆様どうぞ宜しくお願いしますね」
 おっとりとした表情で微笑みながら加賀 円(gb5429)が今回一緒に任務を行う能力者達へと挨拶を行う。
「あんまり緊張しなくても大丈夫だと思いますよ、此方こそ宜しくお願いします」
 ラルス・フェルセン(ga5133)が加賀に話しかけるが、軽度とはいえ男性恐怖症の加賀はビクリとしながら「は、はい」と言葉を返した。
「天使や戦乙女、その他諸々が確認されてきたが‥‥天女か、手当たり次第も何処までエスカレートするのやら」
 九条・命(ga0148)が資料を見ながらため息混じりに呟く。
「天使型といい天女型といい、本当にバグアは【天】絡みのものが好きだな」
 御山・アキラ(ga0532)が呟くと「天を使うだけで人を支配出来ると考えている馬鹿ばかりなのさ」と九条が言葉を返してくる。
「‥‥何処までも人をコケにしてくれるものだ」
 九条の言葉に「今回は‥‥天女型ですか?」と神無月 紫翠(ga0243)が資料を覗き込みながら問いかけてきた。
「そうみたいね、噂によれば凄い美人みたいだけど」
 小鳥遊神楽(ga3319)が神無月に資料を見せながら言葉を返す。
「天使型‥‥飛行系は‥‥やりづらいんですよね‥‥今回は‥‥空を‥‥飛ぶという情報は‥‥ありませんけど」
 神無月は資料を見ながら呟くと「羽衣を纏った天女、か」とディッツァー・ライ(gb2224)がポツリと独り言のように呟いた。
「どうか‥‥しましたか?」
 神無月が問いかけると「いや、倒したら罰が当たったりしないだろうな‥‥と思って」と彼は言葉を返してくる。
「その辺は大丈夫なんじゃないですか? いくら天女と言えどキメラなんですから」
 ラルスが言葉を返すと「天女で美人‥‥でもキメラなんだよな、その辺は割り切らないとな‥‥」と篠崎 宗也(gb3875)が俯きながら呟く。
 いくらキメラとは言え『人の形をしたモノ』を戦う事に多少の抵抗があるのだろう。
「‥‥そろそろ‥‥出発しましょうか‥‥住人が避難済みとはいえ‥‥家屋などが、あるんですから‥‥」
 神無月が呟き、能力者達は本部から出て高速艇に乗り込み、天女が待つ町へと向かい始めたのだった。


―― 夜闇、羽衣舞う中で ――

 今回の能力者達は、特に班分けなどは行わずに集団行動で天女キメラを捜索する作戦を行っていた。
「‥‥意外と暗いな」
 九条は『エマージェンシーキット』の中から懐中電灯を取り出して道を照らす。その他にも彼は腰からランタンとぶら下げており、歩くたびに光がゆらゆらと照らされる。
「流石に暗いと‥‥戦いにくいですし‥‥電灯の下へ‥‥誘導でしょうか? 月の光も‥‥ありますが、あまりアテにはならないかも‥‥」
 神無月が空を見上げながら呟く。確かに月は出ているが、雲に隠れる事が多く戦闘時に影響がないとも言えない為、確実に光源のある電灯の下へ誘導する事に能力者達は決めた。
「住人が居ない町、不気味だな――生活感があるのに、人だけがいない」
 御山は『ランタン』で道を照らしながらキメラを探し、静か過ぎる町の中でポツリと小さく呟いた。
「それにしても羽衣を武器に使うみたいだけど、どれくらいの強度なのかしらね。すぐに燃やしたり出来るのかしら? それとも‥‥簡単には燃えてくれないのかしら」
 小鳥遊は九条と同じく懐中電灯を使って光源を確保し、周りを警戒しながら呟く。
「どうなんでしょうね‥‥その辺の情報は皆無でしたから、実際に自分の目で見るしかないでしょうね」
 ラルスが言葉を返す。
「む――‥‥」
 ディッツァーが呟き、持っていた『ランタン』を少し遠くに向ける。
「どうかしたのか?」
 篠崎が問いかけると「いや、何か見られているような‥‥」とディッツァーは言葉を返す。彼の言葉に能力者達は周りの気配に集中すると、確かに何処からか誰かが見ているような感覚が能力者達を襲う。
「何か‥‥此方を窺うような感じですね」
 加賀が視線だけを動かしながらポツリと呟く。視線の主は能力者達の様子を窺っているだけなのか、攻撃を仕掛けてくる様子はない。
 しかし――‥‥その次の瞬間、ひらひらとした何かが能力者達の方へと向かってくる。それが羽衣だと気づいたのは篠崎が羽衣に絡め取られてからだった。
「ぐ――っ」
 能力者達が持っている懐中電灯やランタン以外に光源のない場所、しかも闇の中では見えにくい黒い羽衣のせいで篠崎は羽衣に捕まり、苦しげな表情を浮かべ、前を見ると黒い髪を靡かせた美女が此方を見て妖艶な笑みを浮かべているのが視界に入ってきた。
 だが、突然天女キメラは羽衣を緩め、自分の手元へと戻すと少し後ろまで下がって能力者達との距離を取る。
 その理由、それは小鳥遊が『ドローム製SMG』で発砲したからだ、羽衣を傷つけられる前に、そして自分が傷つく前に天女キメラは篠崎を解放して後ろへ下がったのだろう。
「‥‥なるほど、確かに美人ね。頭の軽い男ならこの外見に引っ掛かるかも」
 小鳥遊は再び『ドローム製SMG』を構えながら「でもね」と言葉を続ける。
「あたしにとってはただのキメラ。倒すのに何の躊躇いも遠慮もないわね」
 小鳥遊は呟きながら『強弾撃』を使用しながら攻撃を仕掛けた。
「此処じゃ戦いにくい、もう少し明るい場所まで誘導しよう」
 ディッツァーが能力者達に向けて話しかけると、他の能力者達も考えていたのか首を縦に振って賛同の意を示す。
 そしてラルス、小鳥遊、神無月、御山が牽制攻撃を行い、天女キメラを電灯のある場所へと誘導する為に動き出したのだった。


―― 戦闘開始・天女の羽衣と能力者 ――

 誘導を始めて十数分が経過した頃、少し明るい場所へと出た。その場所は公園であり、幾つもの電灯が地面を照らし、広さも明るさも戦うには申し分ないものだ。
「この辺で大丈夫か‥‥」
 九条は呟きながら『キアルクロー』を構えて天女キメラへと向き直る。
「見た目美しくてもな? それに騙された奴の恨み、晴らさせてもらうぜ?」
 神無月は長弓『黒蝶』を構え『ひゅん』と音を鳴らしながら矢を放つ。天女型キメラはそれを軽く避けたのだが、御山が『ドローム製SMG』でタイミングを合わせて攻撃を行い、ちょうど天女キメラが避ける動作を行った時に彼女が攻撃を行ったので天女キメラは御山の攻撃を避ける事が出来ずに腕と足に傷を負う。
 そこへ追撃するようにラルスが『蛍火』を構えて『ファング・バックル』と『流し斬り』を使用して天女キメラに攻撃を仕掛ける。
「キメラが天女を名乗るなんて‥‥おこがましいよ」
 ラルスは天女キメラに攻撃を仕掛けながら少しだけ冷めた目で見ながら呟く。
 さらにディッツァーが攻撃を仕掛けようとすると、天女キメラは羽衣をディッツァーの武器に絡ませ、攻撃を出来ないようにする。
「む‥‥」
 くん、と羽衣が絡まっているせいで武器をうまく振るえずディッツァーは眉間に皺を寄せた――が「望む所だ」と短く呟く。
「力比べなら負けるつもりは無いッ! ‥‥何か、時代劇で見たような構図だな、これ」
 ディッツァーは『豪力発現』を使用して、天女キメラとの『力』勝負を真っ向から受けて立つ。女性型――というわけではないだろうが、流石に力では適わない事を知ると、天女キメラは羽衣を武器から解いて、そのままディッツァーの首へと向けて動かす。
「さっきはよくもやってくれたな! お返しにその綺麗な顔を台無しにさせてやるぜ!」
 篠崎が天女キメラの正面から『両断剣』と『流し斬り』を使用して天女キメラの顔面を狙って攻撃を行うが、羽衣によって軌道を変えられてしまい、天女型キメラの肩をざっくりと斬る形になった。
「ふふ、まさに天女と言うべき美人ですわね。血に塗れても『綺麗』だと思いますもの、ですけど所詮貴女には過ぎた姿ですよ」
 あざ笑うように加賀が天女キメラに向けて言い放つと『ランタン』を矢につけて天女キメラに向けて打ち放つ。その際に命中力を高める為に『竜の瞳』を使用する事を忘れない。
 天女キメラは加賀の攻撃を避ける。だが彼女の狙いは天女キメラ本体に攻撃ではなく、天女キメラが先ほどから拘束や攻撃などに使っている羽衣にあった。天女キメラが加賀の攻撃を避けた事により、羽衣がふわりと宙を舞い、矢が羽衣を巻き込んで燃え上がる。他のものを巻き込んで危ないかとの懸念もあったが、燃え上がった場所が砂場と言う事もあり、他の遊具などを巻き込む事はなかった。
 突然の出来事に天女キメラも驚きで羽衣をバサリと落とす。
「くすっ、その顔は苦痛で歪みますか? それとも仮面のように微笑んだままですか?」
 加賀が洋弓『アルファル』を構えたまま天女キメラに向けて言い放つ。
「あら、斬られた肩でも痛みますか? 結構苦しそうですね。それなら、さっさとこれ以上苦しまないように早く逝った方がいいですよ」
 再び洋弓『アルファル』を構えて攻撃を行いながら加賀が呟くが、身体に僅かに残っていた羽衣を使って矢を落とす。
「ふっ――!」
 天女キメラが加賀の攻撃をいなしている間に、九条は公園にあったジャングルジムを駆け上り、頂上から天女キメラへと向かって飛び降りて勢いをつけて攻撃を行う。
 しかし先に天女キメラの方が気づき、九条の攻撃を避けるが、彼は『瞬天速』を使用して天女キメラの背後を取り『急所突き』で攻撃を行った。
「が――っ‥‥」
 背中からマトモに攻撃を受けた天女キメラは口から血を吐き出し、がくりと膝を折る。
「そろそろ‥‥天へ強制送還の時間だ‥‥援護してやるから、止めは、任せる」
 神無月は長弓『黒蝶』で攻撃を行い、御山もそれに合わせて攻撃を行う。前衛と後衛がうまく立ち回っており、前衛を避ければ後衛から攻撃が来て、後衛に注意を向ければ前衛がいつの間にか前に立ちはだかる――完全に天女キメラは対処しきれなくなっていた。
「お前のような『天女』など、誰も望んではいない――お前に望む事、それは『いなくなる』事だ」
 御山は呟きながら『ドローム製SMG』で前衛が攻撃しやすいように攻撃を行う。
「そろそろご退場願いましょうか、いい加減貴女の顔を見飽きたわ」
 小鳥遊は呟くと『強弾撃』と『影撃ち』を使用して天女キメラに攻撃を仕掛ける。
「残念ですね、貴女が『猫』だったら私も多少手加減が出来たかもしれませんが」
 ラルスは残念そうに呟き『ファング・バックル』と『急所突き』を使用して天女キメラに攻撃を行い、倒れそうになった天女キメラに追い討ちを掛けるように加賀が洋弓『アルファル』で攻撃を行う。
「今度こそ、その綺麗な顔を台無しにしてやるよ」
 篠崎は『両断剣』と『流し斬り』を使用して、天女キメラの顔面に叩きつけると、天女キメラは耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げながら地面へと倒れる。
「ここが勝機、抜き胴一閃ッ!」
 ディッツァーは『先手必勝』を使用した後に『紅蓮衝撃』を使って天女キメラに攻撃を仕掛け、能力者達は美人と名高い天女キメラを撃破したのだった‥‥。


―― 天女去り、平穏を取り戻した町 ――

「ふぅ‥‥何とか大した被害も無く退治できたな」
 九条が肩をまわしながら呟くと「そうですね‥‥皆さん、お疲れ様でした‥‥」と神無月も言葉を返し、他の能力者達を労うように言葉を掛けた。
「‥‥しかし女の人は‥‥恐ろしいですから‥‥注意した方が‥‥良いですね‥‥色々と」
 神無月が倒れている天女キメラに視線を落としながら苦笑気味に呟く。
「先人曰く、悪魔は神の遣いを騙って現れる‥‥良く言ったものだ」
 御山もため息混じりに呟き、天女キメラを見る。神聖なものを真似して襲えば人の戦意がなくなるとでも思っているのだろうか。
「‥‥全く」
 御山は再びため息を吐いて「負傷した者は救急セットで治療しよう」と『救急セット』を取り出しながら他の能力者達に話しかける。
「あたしは大丈夫ね、負傷した仲間もいるけれど軽傷と呼べるものばかりじゃない?」
 小鳥遊が能力者達を見ながら言葉を返す。確かに彼女の言う通り、大きな傷を負った能力者はいない。
「篠崎さんは大丈夫? 最初に羽衣に巻きつかれていたけど‥‥」
 小鳥遊が話しかけるが、篠崎は言葉を返す事なく天女キメラを見つめたままだった。
「やっぱりキメラと割り切っても罪悪感沸くな」
 ポツリと篠崎が呟き「何処か痛むの?」と小鳥遊が顔を覗きこみながら問いかける。
「え? あ、ごめん。ちょっと考え事してたから――えーと、傷? 別に俺は平気だよ」
 篠崎が慌てて言葉を返し「そう? それならいいけど」と小鳥遊は言葉を返した。
「‥‥やってしまいました‥‥はぁ」
 加賀は座り込み、自己嫌悪に陥っていた。普段はおっとりとした性格なのに覚醒を行うとまるで豹変してしまう自分、その事に対して自己嫌悪に陥っているのだ。
「‥‥それにしても」
 ディッツァーが天女キメラの持つ、羽衣――と呼ぶには少し不恰好になりすぎたのだが、それを拾い上げて「これって身に着けたら飛べるのか?」と首を傾げながら呟く。
「うーん、どうだろ。戦っている最中に飛んでたっけ?」
 篠崎が疑問に疑問で言葉を返すが「飛んでませんでしたよ‥‥」と神無月が口を挟んで言葉を返す。
「飛べたら便利なんだけどなぁ」
 羽衣の残骸を纏いながら残念そうに呟くディッツァー。
「‥‥‥‥‥‥」
 何故か微妙に羽衣が似合っている、その言葉を誰もが思ったが決して口にする事はなかった。

 その後、能力者達は本部に帰還して『天女キメラ』の退治を行ったという事を報告したのだった。


END