●リプレイ本文
―― 沈黙の森へ向かう能力者達 ――
「絶望的とは言え‥‥助けたいわね」
本部から出る前に、行方不明となっている6名の身体的特徴を聞いており、それを纏めたメモを見ながらレヴィア ストレイカー(
ga5340)が呟いた。
今回、キメラが出現した場所が森と言う事もあって彼女は顔にカモフラージュのペイントを施していた。
「沈黙の森か‥‥その不吉な異名、今日を持って終わらせて見せる」
堺・清四郎(
gb3564)は『蛍火』をグッと強く握り締めながら呟く。
「或る日森の中で出会うのはクマさんが良いですね〜、ほのぼのとして。キメラだと殺し合いに発展しますから」
九条・嶺(
gb4288)が資料を見ながら、ため息を交えて呟く。森でいきなりクマに出会っても怖いものだけど、この場合は物の例え――という事なのだろう。
「今回のキメラの外見は人型‥‥もしかしたら、キメラ自体はもっと小型か、羽だけが本体で、行方不明の人を操っているだけかもしれないね‥‥」
琥金(
gb4314)は「どちらにしろ‥‥今回のキメラは食べられなさそう」と言葉を付け足しながら呟いた。
「あ、目的地に到着する前に渡しておきますね」
神撫(
gb0167)は小銃『S−01』をジュリアス・F・クリス(
gb4646)に渡しながら話しかける。
「ありがとう、助かるわ」
ジュリアスは小銃『S−01』を受け取りながら、にっこりと微笑んでお礼を言う。
「俺にとっては初めての任務だからね、最初は班の皆のサポートに専念するよ」
鉄 黒鋼(
gb5569)が『長弓』を持ちながら、今回一緒に任務を行う能力者達に挨拶をする。
『クラリア・レスタント(
gb4258)です、今回は宜しくお願いします』
クラリアは『【OR】メモ帳とペン』に言葉を書いて、能力者達に挨拶をする。言葉を失った彼女にとっては紙とペンが話す手段なのだ。
「そろそろ目的地が見えてくる頃ですね」
神撫が呟き、他の能力者達も外を見ると小さな町が見えて、その隣には町よりも小さな森が隣接していた。
(「可能性はゼロじゃない‥‥最後まで諦めずに探さないと‥‥」)
クラリアは心の中で呟き、高速艇が着陸すると能力者達はキメラが潜む森へと向かい始めたのだった。
―― 沈黙の森・潜む闇 ――
今回の能力者達は迅速に任務を遂行するため、そして行方不明者が生きているならば速やかに救助すべく班を二つに分けて行動する事に決めていた。
A班・レヴィア、堺、九条、鉄の四人。
B班・神撫、クラリア、琥金、ジュリアスの四人。
「『探査の目』を使って何か見つけたら『トランシーバー』で連絡するわね」
ジュリアスがA班のレヴィアに向けて話しかけると「分かったわ、此方も何か発見したら連絡をする」とレヴィアは言葉を返し、二つの班は『沈黙の森』と呼ばれる場所へと足を踏み入れたのだった。
※A班※
「静かね‥‥静か過ぎる‥‥何か居るのは確実ね」
A班とB班に別れ、キメラと行方不明者捜索を行っていると森の違和感に気がついたのかレヴィアがポツリと呟く。
「確かに‥‥鳥の声も何もしない、レヴィアの言う通り『何か』がいるのは間違いないだろう――‥‥無事、なんだろうか」
堺は拳を強く握り締めながら呟く。キメラの事はもちろんだが行方不明者の事も気になっているのだろう。絶望的な状況には違いないけれど、それだけで『死んでいる』と言う確証にはなりえないのだから。
「うぅん、確かに何かオカシイ感じはしますね〜‥‥と、お一人目ですかね」
九条がピタリと足を止め「どうかしましたか?」と鉄が九条に話しかける。
「どうかしたって言うか‥‥」
九条は言い難そうに『エマージェンシーキット』の中から取り出して使っていた懐中電灯を『それ』に向けて照らし出す。
「‥‥っ」
照らされたもの、それを見て九条以外の能力者達は言葉を失う。
何故なら、木に凭れるようにして人間が倒れていたからだ、大量に出血したらしく木にまで激しく飛び散っている。
「多分‥‥女性だったんだよね‥‥」
鉄が遺体を見ながら小さく呟く。人間の死体を見て『多分』と言う言葉をつけなければならない程に、体の損傷が激しかったのだ。
「酷い事を――‥‥」
堺は拳を強く固め、近くの木をガツンと強く殴る。
「此方‥‥A班、女性の遺体を発見したわ、血液が固まって変色しているから、死亡したのはここ数日じゃないと思う」
レヴィアは『トランシーバー』でB班に連絡を入れるのだが、その表情は何処かつらそうなものだった。
「‥‥こっちにも血痕が残ってる、此処で数名襲われたのは間違いなさそうだね」
九条が懐中電灯で地面を照らしながら呟く。照らされたそこには一人分以上の血痕、そして必死に逃げようとしているのが分かるほど、悲痛な足跡が残されていたのだから。
「ぅぁ‥‥」
誰かの声が聞こえ、能力者達は声が聞こえる方に駆け寄るとガリガリにやせ細った男性が木に隠れるようにして蹲っていた。足に視線を向けると骨が見えるほどに負傷しており、自力で逃げ出せなかったのは一目瞭然である。
「無事だったか‥‥良かった‥‥」
堺が男性に駆け寄ろうとしたが「‥‥はっきり言って疑問がありますけどね」と九条がポツリと呟き「貴方は‥‥いつから此処に?」と蹲る男性に話しかけるのだが‥‥。
「ぅぅ、あぁ‥‥」
このようにちゃんとした言葉を話さない為、会話が続かず能力者達は互いの顔を見合わせる。能力者達は『生存者』が必ずしも無事とは考えていなかった。
もしかしたら操られている可能性もあると考えており、迂闊に近づく事も出来ないのだ。
「‥‥ハル、が‥」
ポツリと男性が呟いた言葉に「え?」と鉄が言葉を返す。
「ハルが‥‥キメラに‥‥キメラが‥‥ハルに‥‥」
男性はうわ言のように呟き続け、レヴィアはあまり意味の分からないその言葉もB班に伝えて、動く事の出来ない男性に敵と区別する為の拘束を施すと、担いでそのまま捜索を続けたのだった。
※B班※
両班ともダイヤ型に陣形を組み、4方と上方に警戒を強める方針で捜索を行っていた。
「周囲警戒を密に。特に上方の枝葉の様子を注視して下さい」
神撫が呟きながら上方を見つつ、琥金、クラリア、ジュリアスの三人に話しかける。
(「空気が変。木々の鳴き声も少し違う‥‥異物が来てるの?」)
クラリアはざわめく木々の音を聴きながら心の中で呟く。彼女は過去の経験から森と自然に心身を置いており、それは極度の依存症とも呼べるほどだった。
(「‥‥大丈夫。ちゃんと『排除』するから」)
クラリアが上を向いたままでいると「どうかしたの?」と琥金が話しかけてくる、その言葉にクラリアは『何でもありません』と言う意味を込めて首を横に振った。
「レヴィアからの連絡によると生存者を一人と死体を発見したらしいね。此方には‥‥まだ何か居るような気配は感じられないけど」
ジュリアスがポツリと呟く。彼女は『探査の眼』を使用しており、何か異変があったならばすぐに感知できるようにしていた。
「嫌な空気。木々も何かに怯えているみたい――それに動物達の声が、聞こえない」
琥金は上を見上げながら眉を下げて呟く。
その時だった――ジュリアスが「人が倒れてる‥‥」と呟く。突っ伏して倒れている人物にクラリアが駆け寄ろうとしたのだが、それを琥金が制する。
「‥‥完全に『無事』と言い切れるわけじゃないから」
琥金はよろよろと立ち上がる男性に琥金は暫く様子を見ていたのだが、何処か様子がおかしいと考え、落ちていた石を手に持って軽く投げてFFの有無を確認すると、FFが無いのか石は普通に当たり、男性は苦痛に表情を歪める。
「普通の人、みたいですね」
琥金が呟くと男性に近寄って『救急セット』で簡単に治療を行う。受けている傷が大きすぎるので本当に簡単な処置しか出来なかったのだけど。
「キメラは何処にいるのかしらね――とは言っても一匹だけとは限らないんだから、しっかり守らないとな」
ジュリアスはちらりと男性を見ながら「でないと報酬に響き‥‥じゃなくって助けられるヤツも助けられなくなるからな」と言葉を付け足したのだった。
その時『ばさり』と羽音が聞こえ、能力者達はバッと上を見る。それと同時に木々の間をすり抜けるように翼を持った女性型キメラが能力者達を見据えていた。
しかし――‥‥。
「傷だらけ?」
神撫が首を傾げながら怪訝そうに呟く。神撫が疑問を持つのも無理は無い。女性型のそのキメラは既にぼろぼろの状態だったからだ。
「うわああああああっ」
キメラの姿を見ると同時に男性が叫び始め、がたがたと震え始める。彼はクラリアの腕に縋るように強い力で掴み、その強さに少しだけクラリアは痛みの表情を浮かべる。
そしてジュリアスは先ほどレヴィアから聞いた通信の事を思い出す。
「ハルがキメラに、キメラがハルに‥‥まさかあのキメラは既に殺された行方不明者の一人?」
ジュリアスの言葉に他の能力者達も驚愕に目を見開く。それは能力者達の頭にも入っていた事なのだが、実際にその事実を目の前に突きつけられては驚かずには居られない。
女性型キメラは手に持った剣を振り上げ、攻撃を仕掛けてくる。その際に耳に入ってくる音はほとんどと言っていいほど聞こえなかった。
その時、ひゅん、という矢の風を切る音が聞こえてキメラに攻撃が仕掛けられる。B班の能力者達が視線を音の方向に向けると、そこには別行動をしているA班の姿があった。
―― 戦闘開始・彼女の死を悼むもの ――
「キメラの姿を追いかけてきたんですけど、どうやら合流したみたいですね」
鉄は『長弓』を構えた状態のままB班に向けて話しかける。
「此処に居てくださいね、これから戦闘を開始しますので――‥‥」
レヴィアは担いでいた男性を木の下に凭れさせながら呟き『スナイパーライフル』を構えてキメラに照準を合わせる。
「やめろ‥‥あれは、ハルなんだ‥‥皆を殺してしまったけれど、ハルなんだ」
ぶつぶつとA班が担いできた男性が涙を流しながら呟く。
「寄生型のキメラ‥‥」
神撫は『壱式』を構えながら女性型キメラの状態を見る。常人ならば既に死んでいる程の傷を受けている、それでも立っているという事はキメラに寄生されているからなのだろう。
「なるほどね‥‥人に寄生して操るキメラか、でも既に助けられない状態まで来ているわ」
ジュリアスは神撫から借りた小銃『S−01』で攻撃を仕掛けながら呟く。
「迷いは、ない‥‥」
琥金は『グラーヴェ』で『円閃』を繰り出し、その攻撃で遠心力をつけて更に『二連撃』も繰り出す。既にぼろぼろの状態な筈なのに、キメラは構えた剣を振り上げて琥金に反撃を食らわす。
「音もなく攻撃‥‥あなたの専売特許じゃないわよ」
敵を捉えた『スナイパーライフル』で『鋭覚狙撃』と『狙撃眼』を発動させて攻撃を仕掛ける。その前に『隠密潜行』を使用して気配を隠していたので、キメラに彼女の姿は捉えられない。気配のない場所からの攻撃を受け、キメラは地面へと一時落ちる。
「射撃にて翼を狙ってください。落とせばどうにでもなります」
神撫はジュリアスに向けて呟くと「分かったわ」と彼女は言葉を返して、小銃『S−01』でキメラの翼を集中的に狙って攻撃を行う。
「さて、降りてきてくれないと俺の出番がないんだけどな」
鉄は第二の人格である『黒』に交代して、武器を『長弓』から『アルティメット包丁』へと変えて、上空を飛ぶキメラを見ながら呟く。
「貴方が与えた恐怖、今度は貴方が味わえばいい」
レヴィアは『スナイパーライフル』を使用して攻撃を行い、キメラの翼は完全に崩れてキメラ自身も地面へと落ちてくる。
だが、キメラ自身も落ちると同時に剣を振りかぶって能力者達に攻撃を仕掛けてくる。ジュリアスは攻撃がヒットする間際に『自身障壁』を使用してダメージを軽減する。
「どんだけ身を硬くしたって、痛い事には変わりないんだけどな‥‥!」
ジュリアスは至近距離から発砲してキメラのバランスを崩させる。
「この森は貴様らの縄張りじゃないのでね、返してもらう!」
堺はキメラがバランスを崩したところに『蛍火』を構えて『紅蓮衝撃』と『流し斬り』を使用して攻撃を行い、地面へとキメラを叩きつける。
「まだ倒れないだろう? 来い、貴様を沈黙させてやる」
挑発するように堺が呟き、よろよろとキメラは立ち上がり、再び剣を取る。
「私かラ森を奪うつモリか‥‥簒奪者メ、報いと裁きを享けロ!」
クラリアは森を汚したキメラに対して苛烈な口調になり『シルフィード』で『円閃』と『二連撃』そして『スマッシュ』を繰り出しながら攻撃を行う。
「せメて森の糧になレ!」
「そうそう、ヤられる前にヤれと言う言葉もあるしね――いくら一般人の身体を使っているからって私は容赦しない」
九条はキメラに接近して『二連撃』と『円閃』を叩き込み、生き残った男性に攻撃を仕掛けようとキメラが走り出すが、鉄によってそれは遮られ『アルティメット包丁』で攻撃を行い、キメラは地面へと転がる。
そして既に立ち上がる力のないキメラではあったが、害を成す以上『退治』しなければならないので、能力者達は生存者の二人に目を閉じるように指示をするとそのままキメラにトドメを刺したのだった。
トドメを刺すと女性の背中に付いていた赤い宝石のような物体がバリンと割れると中からドロリとしたものが溢れ、鬼気染みていた女性の表情は苦しげなものへと変わっていった。
―― 生存者を本部へ、そして報告 ――
あれから能力者達は森の中を歩き回ったが、男性2人以外の人間は全て森の中で遺体となって発見された。
「取りあえず、お二人にはULTで一度精密検査を受けて頂いた方が‥‥」
神撫は他の能力者、そして生き残った二人に対して話しかける。今回のキメラは寄生型という事もあり、万が一の事を心配しての提案なのだろう。
「そうだな、そっちの方が互いに安心だろう」
堺が呟くと、少しだけ落ち着きを取り戻した生存者達は首を縦に振る。
「その前に‥‥まずは遺族へ知らせないとですね‥‥」
琥金が遺体を見ながら呟くと「そうですね、遺族も結果を待っているでしょうし」と九条が言葉を返す。
「‥‥初めての任務が寄生型との戦闘、後味悪いな‥‥」
ポツリと鉄が呟く。いくら助けられない状況だったとしても彼にはまだ抵抗があったのだろう。
(「もう大丈夫。安らかに」)
森の方を向き直り、クラリアが心の中で呟く。その隣では琥金が殺された一般人が安らかに眠れるように冥福を祈っていた。
そして能力者達は遺族に知らせた後、報告と検査を受けさせる為に本部へと帰還して行ったのだった。
余談だが、本部に帰還した後「う〜‥‥カモフラのペイントは落ち難い」と一生懸命顔を洗うレヴィアの姿が見かけられたとか‥‥。
END