タイトル:水底の騎士マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/19 01:07

●オープニング本文


がしゃん、がしゃんと騎士は現れる。

純白の鎧で身を護り、携えた剣には月の光に照らされて鈍い輝きを見せている。

月に照らされた夜、再び犠牲者が増える――‥‥。

※※※

月夜の晩には悲鳴が響き渡る。

そんな言葉がボク達の町では流れていた。

これは何かを予言する事ではなく、ボク達の町で実際に起きている事だった。

一週間前に現れたキメラが住人達を何人も殺していく――戦う術を持たないボク達は恐怖に震えるだけ。

「‥‥お兄ちゃん、あたし達‥‥生きてるのかな」

恐怖と緊張のせいで、自分達が生きているのか死んでいるのかも分からない状態だった。

「お父さん達、戻ってこないね」

「‥‥そうだね」

兄妹の両親は二人を地下室に隠した後、そのまま何処かへと行ってしまったのだ。

「‥‥食べ物ももう少しで無くなっちゃうね‥‥」

「俺はいいから、お前が食べとけ」

キメラに襲われた時の為に、町では地下室を作っている家が多い。二人の両親も地下室に子供を隠した後、入口を封鎖してキメラと戦うという無謀なことを行い、結果――勝てるはずもなく扉一枚を隔てた向こうで父親は事切れている。

しかしそんな事など夢にも思っていない二人は父親、そして母親が戻ってくることをひたすら待ったのだった。

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
沢辺 朋宏(ga4488
21歳・♂・GP
沢辺 麗奈(ga4489
21歳・♀・GP
高坂聖(ga4517
20歳・♂・ER
不二宮 トヲル(ga8050
15歳・♀・GP
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
浅川 聖次(gb4658
24歳・♂・DG

●リプレイ本文

―― キメラが闊歩する町 ――

 今回、能力者達が赴いたのは3体ものキメラが闊歩する町だった。住人の姿は町の中になく、道路や家屋の中には倒れて事切れている住人らしき人間の遺体も見えている。
「‥‥鎧を着込んだキメラ、か。こいつは骨が折れそうだな」
 九十九 嵐導(ga0051)が本部に申請して借りてきた町の地図を見ながらため息混じりに呟く。九十九は周りの暗さに対応する為にエマージェンシーキットの中に入っている懐中電灯をロープで右側頭部に固定して光源を確保していた。
「町の状況を見る限り、既に事態は深刻か‥‥急がねば」
 九条・命(ga0148)が町の様子を見ながら呟く。家屋も崩れている所が多く、道路もひび割れたり、標識などが倒れていたりなどして町に与えられた状況の悲惨さを物語っている。
「一般市民は無事だろうか‥‥ともあれ、宜しく頼む」
 沢辺 朋宏(ga4488)は双子の妹である沢辺 麗奈(ga4489)を見ながら「麗奈がいるから、連携面では安心だな」と言葉を付け足す。
「よろしゅうなんや〜♪ 今回は朋宏と一緒やし、何も気にせんとやれるな〜♪」
 麗奈が朋宏を見ながら呟くと「お互い頑張ろうな」と朋宏は言葉を返した。
(「ホワイトデーで8万Cも使ったから取り戻さないとなぁ‥‥」)
 高坂聖(ga4517)はため息混じりに任務を無事に成功させて報酬をもらう事を考えていた。
「この状況が一週間も続いているんだよね‥‥? 一週間も‥‥怖くて、不安だったよね」
 不二宮 トヲル(ga8050)が悲しそうな表情で呟く。しかしきっと能力者全員の頭にあった事だろう。
 この静かな町に果たして生存者がいるのか――という事を。
「此処まで町を攻撃する意味があるのか‥‥? 犠牲となった人間は、戦うすべすらなかっただろうに」
 アレックス(gb3735)が拳を強く固めながら低い声で呟く。彼自身、故郷をキメラに襲われ、家族を失ったという過去を持っており、町の悲惨さに過去と重なる部分があるのだろう。
「ドラグーンを舐めるなよ、鎧如きが‥‥っ!」
 アレックスが搾り出すような声で呟く姿を浅川 聖次(gb4658)がジッと見ていた。
(「‥‥昔の事を思い出しますね、とにかく――全力を尽くすとしましょう」)
 浅川は心の中で呟き、能力者達は現地に到着するまでに決めていた作戦、そして班で行動を行う事にしたのだった。
 今回の能力者達は迅速にキメラ退治、そして残っているならば生存者の保護を行う為に班を二つに分けて行動する事を決めていた。
 A班・九十九、アレックス、朋宏、麗奈。
 B班・高坂、浅川、九条、不二宮。
「お互い連絡を怠らないようにしよう」
 九条が呟き、能力者達は二つの班に分かれて行動を行い始めたのだった。

※A班※
「結構、道路や家屋の損壊が激しいな‥‥」
 九十九は懐中電灯で暗い道を照らしながら歩き、ため息混じりに呟く。町そのものは大して大きくないのだけれど、此処まで損壊が激しいと迂回して遠回りをしながら捜索せざるを得ない。
「三体のキメラにも注意が必要だけど、住人にも注意が必要だな」
 朋宏が呟くと「確かにそやね」と麗奈も言葉を返す。班で分かれて行動を始めてから暫く様子を見ていたのだが、明らかに遺体の位置がおかしいのが何人も存在する。
 道路で死んでいるもの、家の外で死んでいるもの、まるで家の中に『入れたくない理由』でもあるかのように男性などは家から少し離れた場所で事切れている姿が多く見られる。
「確かに妙だな、避難したという話は聞かないのに倒れているのはほとんどが男性ばかりだ」
 そう、アレックスも冷静に状況を分析していく。子供の遺体がほとんどと言って良いほど存在しない。
「もしかしたら何処かに隠れてる可能性もあるんじゃないか?」
 朋宏の言葉に「そうだな、だけどキメラが倒されていない現状では隠れている方が安全だろう」と九十九が言葉を返した――その時だった。
 獣の唸り声が聞こえ、4人の能力者達が勢いよく後ろを振り返ると獣型キメラが一匹、能力者達を威嚇するように見ている。その爪や牙からは真新しい血液がポタポタと落ちているのが分かる。
「此方A班、獣型キメラを発見した――戦闘に入る。場所は――」
 アレックスが照明銃を打って居場所を知らせようとしたが、B班が意外と自分達の近い位置にいる事を知る。
「向こうも獣型と交戦中みたいだ、しかも――結構近い場所にいる」
 アレックスの言葉に「何で分かるん?」と麗奈が問いかけると「公園が広いから、公園で迎撃しようという言葉が聞こえた」とアレックスが言葉を返す。
「公園‥‥まさか、その公園か?」
 九十九が地図を見ながら自分達の位置から見える場所にある公園へと視線を移す。そして九十九は地図を見て公園が他にもないかを調べるが、この町に公園は彼らの近くにあれる小さな公園ただ一つだった。
「つまり――向こうの班も此方へと来ているだろうから、俺達は目の前のアレを退治すればいいわけだな」
 朋宏は呟くと「麗奈‥‥フォロー頼む!」とだけ言葉を残してキメラへと踏み込んでいく。
「んあっ!? まぁったく‥‥こういう時はいつもうちより先に突っ込んで行くんやからな〜」
 ま、それも朋宏のエエトコやけど♪ 麗奈は言葉を付け足して『ロエティシア』を構えてキメラへ攻撃を行う。
 現在、A班がいる地点はそれなりに足場もよく、大きく開けた場所ではないけれど戦闘をするには十分な広さの場所だった。
「援護する」
 九十九は『鋭覚狙撃』を使用しながら『ライフル』でキメラに攻撃を仕掛け、その攻撃によって隙の生じたキメラは朋宏と麗奈の連携攻撃によって大きなダメージを受けてしまう。
「ランス『エクスプロード』イグニッション!」
 アレックスは大きな声で叫ぶとランスを構えて、キメラへと攻撃を仕掛ける。そしてインパクトの瞬間に爆発を見せて、キメラがその爆発に怯み、動く事が出来なかったのか九十九の援護射撃を受け、朋宏と麗奈の連携攻撃を受けて地面に落ちたのだった。

※B班※
「酷い、損壊だね」
 A班と分かれてから不二宮は壊れている建物、倒れている人、それらを見ながら悲しそうな表情で呟く。
(「あとで‥‥キメラを退治してからシーツを掛けてあげよう‥‥あのままじゃ可哀想だから」)
 不二宮は道路に転がるようにして事切れている遺体を見て、居た堪れなくなり視線を逸らしながらキメラ捜索を続ける。
「これが役に立てばいいんだけど」
 高坂は『ランタン』で暗い道を照らし、逆の手に持った『焼いた肉』を見ながら苦笑交じりに呟く。
 今回は獣型と鎧型という事で、獣型だけでも最初にひきつけられたら――という事で焼いた肉を持って捜索を行っていた。
「所詮は獣だからな、しかもキメラなんだ。大した知能はないだろうから食い物の匂いにつられてくる事もあるだろうな」
 九条が高坂に言葉を返すと「3体いますからね、全てが襲い掛かってきたら流石に厳しいでしょうね」と高坂も苦笑交じりに答える。
「鎧の騎士キメラだと言う話ですが、騎士は騎士でも残虐な方みたいですね、そういうのはお断りです」
 浅川が呟くと――獣型キメラが此方に向かって走ってくる姿が見え、それと同時にA班から通信が入る。どうやら獣型キメラと交戦中らしいが、此方もキメラと交戦中の為に普通に通信している暇がない。
「向こうに公園がある、公園の方が広いから公園で迎撃しよう」
 九条が呟き、親指で公園の方額を指しながら3人に向けて言う。
「此処は足場が悪いから‥‥牽制しながら向こうで、だね」
 不二宮が呟き『イアリス』を構え、靴には『刹那の爪』が装着されており、攻撃態勢は整っている。
「お世辞にも、あまり知能が高いキメラとは思えませんね」
 浅川が呟きながら『パイルスピア』を構える。B班の能力者達はまず公園の所までキメラを誘導して、開けた場所になると同時に一気に攻撃へと移る。
 初めに高坂が『超機械α』でキメラに牽制攻撃を行い、不二宮が『イアリス』を振り上げて接近攻撃を行う。
 そしてちょこまかと動き回る獣キメラを九条は小銃『M92F』で狙い撃ち、銃撃でキメラの足が止まった所を浅川が『パイルスピア』で攻撃を行い、獣型キメラを撃破したのだった――‥‥。


―― 獣を打ち倒し、騎士との戦闘 ――

 それぞれの班は獣型キメラを一匹ずつ退治して、公園で合流していた。
「3体――のうち2体を倒して、残りは問題の鎧キメラのみか――」
 どうしたものかな、九十九が呟くと『がしゃん、がしゃん』と金属同士がぶつかり合う音が能力者達の耳に響き渡る。
 あまりにも不釣合いなその音に、能力者達が視線を向けると――そこにいたのは町に潜む最後のキメラだと思われる騎士型キメラだった。
 先ほどの獣型キメラとは強さが非ではないだろうと能力者達は直感で分かる――が、能力者達にも今まで幾多のキメラを撃破してきた者がいる。鎧キメラと強さを比較すると先ほどの獣型と目の前の鎧キメラ以上の差があるのは間違いないだろう。
「まずは牽制! それから練成強化して、仕上げに練成弱体! 一気に決めて下さい!」
 高坂が能力者達全員に伝わるように大きな声で叫び『超機械α』で牽制攻撃を行う。
 そして九十九は『鋭覚狙撃』を使用しながら鎧キメラの死角から『ライフル』にて攻撃を行う。
「流石はそれだけ重そうな音を出す鎧で身を固めているだけある――動きが鈍い」
 九条は『キアルクロー』で攻撃を行いながら『瞬天速』で移動する、九条の素早さについていけていないのか、鎧キメラの剣は宙を舞うばかりだ。
「この町に殺されてもいい人なんて、いなかったはずなのに」
 不二宮は『疾風脚』を使用しながら『刹那の爪』で攻撃を行う。
「お前なんぞに奪われる気持ちは分からんだろうな、だったらせめて早く退場してくれ」
 アレックスがランス『エクスプロード』で攻撃を行い、それに合わせるように浅川も『パイルスピア』で攻撃を行う。
「練成強化、行きます!」
 高坂は『練成強化』を使用しながら大きく叫び、そして次の行動で『練成弱体』を鎧キメラに向けて使用する。
「流石に相手が悪かったんだろうなあ」
 九十九が呟きながら鎧キメラに『影撃ち』を使用して、攻撃を行う。そして次の瞬間に九条は行動を開始しており『急所突き』と『瞬即撃』を使用して鎧キメラにトドメを刺しにかかるがもう一歩と言う所でトドメを刺す事が出来ない状態だった。
「遅い、ね」
 不二宮は『瞬天速』を使用して鎧キメラの背後に立つと『イアリス』で強く斬り付ける。がきん、という音が響いたのだが鎧は既に他の能力者達の攻撃でひび割れ、あまり『鎧』と言う意味を成していなかった。
「そろそろ大人しくしてもらいましょうか」
 浅川は『竜の爪』を使用しながら『パイルスピア』で攻撃を行い、背後から朋宏と麗奈が『ロエティシア』を構えて駆け寄ってくる。
「お前の敗因は、俺達が此処に来た事だ! 抵抗できない一般市民を絶望に陥れた罪、今ここで償うがいい!」
 朋宏が叫んだ後、麗奈と朋宏は「「成敗!」」と声を合わせて鎧キメラに攻撃を仕掛け、町の中に潜む3体のキメラを見事撃破したのだった。


―― 救助者を探せ ――

 キメラを無事に退治した後、能力者達は二人一組になって生存者の捜索を始めていた。数軒だけ無事な家などがあり、その辺を重点的に捜索する事にしていた。
「外はそれなりに綺麗だったけど、中は結構荒れてるな‥‥」
 九十九が呟いた時、扉の前で倒れている男性を見つけ、その後ろには大きなポスターに隠された扉があった。
「これは‥‥隠し扉?」
 アレックスが呟きながら扉を開くと、幼い兄妹が此方を驚いたような目で見ており、特に少年の方は衰弱が激しいようで今にも意識を失いそうなほどだった。
「お父さんと‥‥お母さん‥‥」
 妹の方が倒れている父親を見て、わんわんと泣き始める。
「‥‥キミ達のお父さんは死んだ、だけど――強く生きていかなくちゃいけない。それが‥‥この扉を守るように息絶えたお父さんの願いなんだから」
 アレックスの言葉に「すぐに運ぼう、衰弱しきってる」と九十九が少年を抱き上げながら呟き、高速艇へと向かい始めたのだった。

 その頃、不二宮と組んでいた九条は‥‥生存者は発見できなかったものの道路で息絶えている者などにシーツを被せていた。
「ごめんね‥‥遅くなっちゃったね‥‥」
 白いシーツを遺体に被せながら不二宮が申し訳なさそうに呟く。
「もっと強く。もっと早く‥‥駆けつけたい」
 不二宮は胸元の石を握り締めながら呟くと「そうだな、もっと誰かを、何処かを守れるようにしなくちゃな、それが能力者に出来る事だから」と九条が言葉を返したのだった。

「飛ばしますのでしっかりと捕まっていて下さいね!」
 浅川はAU−KVをバイク形態にして、後ろに高坂を乗せて生存者がいないかを確認して回っていた。地下室のような場所に幼い子供達が隠れていたという情報を聞いて、家の中、庭に隠し扉のようなものがないかを二人はしっかりと確認する。
 そして数名の生存者を見つける事が出来て、二人は高速艇まで急いで戻る。

 その中、幼い兄妹が両親を失ったことを知り、とても弱々しく見えて浅川が近寄って視線を合わせるようにしゃがみ込む。
「私もかつて両親を失い、妹と私の二人だけになった身。兄と言うものは妹が、守る存在がいれば頑張れるものです。貴方も妹を守れるような男になってください。折角ご両親が助けてくれた命、無駄にしないで欲しいですから」
 浅川の言葉に「‥‥うん、おれも妹を守れる強い男になる」と少年は弱々しく笑い、妹はその言葉を聴いて再び泣き始める。

 その後、僅かに生き残った生存者達を病院へと連れて行き、能力者達は任務終了の報告をする為に本部へと向かったのだった‥‥。

END