●リプレイ本文
―― 混乱の街、逃げ惑う人々 ――
今回、能力者達は熊のような獣型キメラが現れたという街に来ていた。本部に依頼が来た時点で住人達は避難を開始しており、街中には大きな荷物を持った住人、何も持たずに逃げる住人と様々な人間達が能力者達の視界に入ってくる。
「夜の捜索か‥‥見易い相手というのが幸いか」
ティルヒローゼ(
ga8256)がため息混じりに呟く。住人達からの通報で熊のような外見を持つ獣型キメラだという情報は能力者達にも入っていた。
だから人型でない分、分かりやすいという点だけを見ればまだマシな方なのだろうと彼女は考えていたのだ。
「それにしてもまだ逃げられていない人が多数残っているみたいですね」
白雪(
gb2228)が街の様子を見ながら少し困ったような表情で呟く。まだ街の奥の方からは人の声が聞こえる所を見ると、白雪の言う通り、街の入り口にさえも到着できていない一般人達が多数存在するという事になる。
「キメラ捜索を行いながら、住人達の避難経路の確保も行わないと‥‥もし逃げている途中でキメラと遭遇してしまったら大変ですもの」
白雪が呟くと、浮かない表情をしたままクラリア・レスタント(
gb4258)がため息を吐いていた。
(「また街中にキメラ‥‥こうして私と同じような人が増えていく。何て嫌な連鎖なんだろう‥‥」)
人々が逃げ惑う姿に、クラリアはかつての自分の姿を思い出しているのだろうか。少しだけ震えているようにも見えた。
「大丈夫‥‥ですか?」
浅川 聖次(
gb4658)がクラリアに言葉を掛けると、彼女は首を縦に振って『ありがとう』と『【OR】メモ帳&ペン』に書いて言葉を返した。
「それならいいですけど‥‥少し顔色が悪かったものですから」
浅川にはクラリアより少し年上だけど妹がいる、だから似た年代の少女が浮かない表情をしていると心配してしまうのだろう。
「こんな状況だしね、キメラが街中にいて、戦えない一般人もいる。私達が確りしないと犠牲者が出るかもって考えたら、ね」
神城 姫奈(
gb4662)が苦笑混じりに呟く。
「でも、街中にキメラ‥‥か。情報が少なすぎるぜ。もう少し何かあったら迅速に動けそうなんだけどな」「
ため息混じりに呟くのはヤナギ・エリューナク(
gb5107)だった。確かにキメラの外見などは伝えられているものの『何処に潜んでいる』などが分かれば、もっと能力者達は事件解決の為に素早く動けたに違いないだろう。
「いや、でも四の五の言ってないでとっとと片付ける‥‥か」
ないもの強請りをしていても何も始まらない、そう考えてヤナギは「避難してくる奴らから何か聞けないかね」と逃げ惑う一般人達に視線を向けたのだった。
「被害が出る前に見つかるといいのですが‥‥」
秋津玲司(
gb5395)が呟くと「いや、違う」と堺・清四郎(
gb3564)がポツリと呟く。
「え?」
「見つかるんじゃなく、早く見つけなければいけないんだ」
堺は鞘から抜いていない『蛍火』を強く握り締めながら呟く。
「そう、ですね。早くキメラを見つけて、退治して――住人達を安心させてあげましょう」
秋津の言葉に能力者達は首を縦に振り、行動を開始しようとしたのだが――明らかに他の住人達と違う行動を取る男性を見かけて「‥‥?」と堺は首を傾げた。
「どうかしましたか?」
秋津が問いかけると「他の住人達は逃げてきているのに、逆走している男がいる」と堺は指差しながら言葉を返した。
彼の言葉に、他の能力者達が視線を其方に向けると確かに不自然な行動を取る人物がいた。
「何だろうな‥‥まぁ、とりあえずここからは別行動だよな、何かあったら分かるモンでの連絡!」
ヤナギが呟くとクラリアがメモ帳を見せてくる。
『急ぎましょう。時が経つだけ悲しみが増えてしまいます』
クラリアのメモ‥‥言葉と同時に能力者達は別行動で一般人の避難誘導、そしてキメラ捜索を開始し始めたのだった。
今回の能力者達は状況的に班を二つに分断するよりも、二人一組になって様々な場所を探す事に決めていた。
白雪と秋津、堺と浅川、クラリアと神城、ティルヒローゼとヤナギ、こうして四つの班を作り、未だ一般人達が逃げ惑う街の中へと踏み込んだのだった。
※白雪&秋津
「秋津さん、この度はどうぞよろしくお願いします」
別行動を開始して、白雪が秋津に丁寧に頭を下げながら挨拶をする。
「いいえ、此方こそよろしくお願いします」
お互いに深く頭を下げあって、キメラ捜索を行い始める。
「‥‥いい月ね。肌を刺すような冷気が心地いい」
白雪は『【OR】氷刀 Februa』を抜きながら月を見つめ、静かに呟く。
「あ、迷子でしょうか‥‥」
秋津が座り込んでいる少女を見つけて駆け寄ると、母親と逸れたらしく「お母さん」と何度も繰り返しながら泣き喚いている。
「ほら、泣かないの。泣いてても仕方ないでしょ?」
白雪――いや、覚醒状態にある為に真白の人格になっている彼女が少女をあやすように話しかけていると、少し後ろから女の子の名前を呼びながら懸命に走ってくる女性が現れた。
「‥‥あの人が母親でしょうか‥‥」
女性は此方へと向かってきており、秋津の予想通り蹲っていた少女の母親だった。
「すみません!」
母親に抱きつきながら「お母さんっ」と泣く少女を見て「ここをまっすぐ行けば何もいない筈よ」と真白が話しかけ、女性は少女を抱きかかえながら何度も頭を下げて避難していった。
「この辺はいないみたいですね」
秋津も周辺を隈なく捜索してみたのだが、避難する人々の姿はあっても肝心のキメラの姿が感じられなかった。
「他の班はどうなっているんでしょうか」
※堺&浅川
「くそっ、早く見つけなければっ‥‥」
焦る気持ちを抑えきれないのか、堺が少しだけ苛立ちを見せながら呟く。
「‥‥焦っても何もならないのは分かりますけど、他の班からも連絡がありませんし‥‥焦るなという方が難しいですね」
浅川がキメラ捜索を行いながらため息混じりに呟く。
「まだ見つからないですけど、明らかにこの辺にいたという形跡は残されてますね」
浅川が壁や地面に残された爪痕のようなものを指差しながら呟く。熊のような外見というキメラだったが、それに相応しい威力があるらしく地面はひび割れていたり、抉れていたりなどして状況の悲惨さを物語っていた。
「まともに食らえば‥‥それなりのダメージを覚悟しなきゃならんだろうな」
堺が地面の傷を見るように座り込みながら呟く。
「あのぅ、キメラを退治に来られた方ですか?」
一人の中年男性が堺と浅川に話しかけてくる。その問いに「そうだが?」と堺が言葉の先を促すように答えると「向こうの空き地でキメラを見たという人がいるんですけど‥‥」とキメラの位置を教えてくれた。
「‥‥向こうの空き地――ってこっちからじゃ行けないんですね」
現在二人がいる場所から空き地まで行くには来た道を戻らねば行く事が出来ない。
「とりあえず、空き地でキメラが確認されたという情報を他の班にも伝えておこう」
堺は『トランシーバー』を取り出して、他の班に空き地の事を教えたのだった。
※クラリア&神城
「キメラは今マで、どうやって潜んでいタんでしょう?」
クラリアは覚醒を行った事でぎこちなくだが喋れるようになり、神城に問いかけた。
「どうだろ‥‥バグアとかキメラの考える事は全く分からないからなぁ‥‥」
神城が苦笑して言葉を返すと「何ノ為に、幸せを奪うんデでしょうね」とクラリアが寂しそうに俯きながら呟く。
「‥‥っと、話しながら探してたせいか少し街から離れちゃったね――あそこは空き地かな?」
神城が人気のなくなった空き地近くまで来た時、堺からの通信が入り『空き地でキメラが確認された』という事を伝えてきた。
「あレ‥‥女ノ人がいマす」
クラリアが呟き、神城も視線を向けるとまさに今、女性が背後からキメラに襲われそうになっている瞬間だった。
「後ろォォォッ!」
神城が大きな声で叫んだ後、持って来ていた『呼笛』を鳴らしてキメラの注意を引く、そしてクラリアがキメラと女性――夏澄との間に割って入り『カイキアスの盾』を構えながら夏澄を庇う。
「‥‥! ダメ!」
それと同時にクラリアが『照明銃』を撃ち、他の班にキメラと接触した事を知らせたのだった。
※ティルヒローゼ&ヤナギ
「目標がそれなりのサイズという事もあるので、余程の事がない限りは見落とす事はないだろう」
ティルヒローゼは街の中を歩きながら目視はそこそこにして、周囲の音に警戒を強めていた。
そしてヤナギは避難してくる一般人達を呼び止めてキメラの情報を持っていないかを聞いていた。
「あれ‥‥さっきの‥‥」
狭い路地から出てきたのは先ほど見かけた逆走していた男性、一般人とは逆走――つまり能力者である自分達と同じような行動を取っているのだ。
「おい、お前は?」
ヤナギがその男性を呼び止めると「‥‥能力者か?」と男性が怪訝そうな表情で言葉を返してきた後、思い出したように「こんな女を見なかったか?」と一枚の写真を見せてきた。
その写真には男性と一緒に楽しそうに笑う女性が写っており、男性はその女性を探しているとの事だった。
だがティルヒローゼとヤナギはその女性に見覚えがなく「いや、分からない」と首を横に振りながら言葉を返す。
その時『照明銃』が打ち上げられ、それと同時にキメラに襲われていた『夏澄』という女性を保護したという通信も入った。
「夏澄!」
「‥‥とりあえず、目的が一緒なら一時的にタッグ組まねー?」
ヤナギの言葉に男性は首を縦に振り「決まりだな」とティルヒローゼが呟き、キメラがいる空き地へと向かっていったのだった。
―― 戦闘・彼が隠した真実 ――
「おっとぉ‥‥これは当たったら痛そうだわ」
夏澄の保護を優先して動きながら神城が苦笑して呟く。程なくして他の班の能力者達と見慣れない男性が空き地へとやってきて戦闘が開始された。
最初にティルヒローゼがキメラの背後に回り『流し斬り』『両断剣』『スマッシュ』を使用しながら膝の裏側に攻撃を叩き込む。元々が大きな体の為にバランスを崩した時、派手に転んでしまう。
「‥‥熊か、獣如きが煩わしい」
真白は冷ややかな瞳でキメラを見ると「八葉四の型‥‥凍え跳蔓草『重』」と叫びながら『ソニックブーム』を四回連続で使用してキメラに攻撃を行う。
「確かに一撃は重そうだな――当てる事が出来れば」
ティルヒローゼは武器を『デヴァステイター』へと持ち替えてキメラから少し距離をとって攻撃を行う。一人の攻撃が終わったら隙を与える事なく別の者が動く、このような作戦で行っている為か、キメラは能力者達に対してほとんど攻撃を与えられない状況だった。
「邪魔だ!」
堺は覚醒を行った後に大きな声で叫び『蛍火』を構えて『紅蓮衝撃』を使用しながらキメラに攻撃を行う。
「これ以上ハさせナイ!」
クラリアは武器を大鎌『サリエル』に持ち帰ると『円閃』と『二連撃』を使用してキメラの体を切り裂く。
「どうやらあの二人は訳ありのようですからね、貴方にはさっさとご退場願いましょう」
浅川は『竜の爪』を使用しながら『パイルスピア』で攻撃を行い「私の一撃じゃ決め手には欠けるかもしれないけど‥‥それでも!」と神城が『円閃』を使用しながら攻撃を繰り出す。
「はいはい、こっちの注意が欠けてるぜ? 鬼さん、此方‥‥ってな♪」
ヤナギは背後から『イアリス』を振り上げながら『円閃』を使用して攻撃を仕掛ける。今までは前面からの攻撃だった事に対してヤナギは背後からの攻撃、キメラの低い知能では対処しきれない部分もあるのだろう。
「離れて下さい!」
秋津が叫び『アサルトライフル』での攻撃に仲間を巻き込まないように攻撃を行っていく。
「まだ死なないの? ‥‥なら、死ぬ間で切り刻んであげるだけね」
真白が呟き『二段撃』を四回連続で使用してキメラに攻撃を仕掛ける、流石にこの攻撃には耐え切れなかったのか「グォゥ」という低い呻き声と共にキメラは地面へと沈んでいったのだった。
キメラ退治が終わった後、夏澄と男性の間に気まずい沈黙が続いていた。何でこんな事になっているのか分からない能力者の一人が「どうしたんだ」と呟くと、男性が事情を説明し始める。
「受け入れても、良いんじゃありませんか」
浅川がポツリと呟く。人間はそんなに強くないのだから、例え誰であろうと自分の心を許せる人になら甘えても構わない――そう言っているのだ。
「私にも妹がいます、あの子の為なら死んでも良いくらい大切な妹が。だから妹を失った気持ちは分からずとも、どれだけ大切なのかは分かります」
浅川と夏澄が話している間、神城は男性の方と話をしており「何でそれを先に言わないの?」という言葉が聞こえてきた。
「‥‥その事を言えば夏澄さんはあんなに苦しまなくても‥‥」
同じく話を聞いていた秋津が小さな声で言葉を投げかける。
「‥‥でも」
男性の言葉に「でも、だけど、それは? そんな言葉が人に届くのか!」と堺が大きな声で男性に言葉を投げかける。
「本当に悪いと思っているなら、何で向き合おうとしない? 微温湯のような関係のまま、そんな覚悟のまま向き合おうとしていたのか!」
堺の言葉に男性は決心したように夏澄へと近寄り、彼女の妹が死んだ日の真実を話し始める。
「‥‥間に合わなかったんだ、夏澄の妹が殺された瞬間――俺はあの場に到着したんだ、だけど何を言っても言い訳にしかならなかった」
「だから、罪悪感から私と付き合おうとしたの?」
「最初はそうだったけど、今は本当に夏澄の事が好きなんだよ」
男性の言葉に夏澄は涙をぼろぼろと零しながら俯く。
『貴方達は生きてるじゃないですか、意思を交わす事が出来るじゃないですか、悲しいすれ違いのままは誰も喜びません』
クラリアがメモを見せる、その瞳には涙がうっすらと滲んでいる。
「妹がめぐり合わせてくれた縁だと思えばいいんじゃないか、私の勝手な個人意見だけどな」
ティルヒローゼが二人に向けて言葉を投げかける。
「私達に出来るのはここまで。後は二人の問題なんだからね」
神城が二人の背中を軽く叩きながら言葉を掛ける。その言葉と同時にヤナギは『【OR】ブルースハープ』で静かな曲を奏で始める。
(「失くしたモンは取り戻せねェ、今を大切にして欲しい――」)
まるでそんな言葉を投げかけるかのようにヤナギは静かに奏でる。
能力者達が帰る間際「まだ気持ちの整理がついていないけど、ありがとう」と夏澄が頭を下げてきた。その姿を見た事で能力者達は彼らの今後は大丈夫そうだと思うのだった。
その後、能力者達は本部に報告を行うためにLHへと帰還していったのだった。
END