●リプレイ本文
―― 少女の希望と能力者達 ――
「久々の仕事か‥‥ともあれ宜しく頼む」
沢辺 朋宏(
ga4488)が今回一緒にキメラ退治に赴く能力者達に軽く挨拶をする。彼の言葉に他の能力者達も「宜しく」と言葉を返すのだが、中には『少女の望み』を聞いて少しだけ浮かない顔をする者もいた。
「残虐を‥‥ですか」
夜坂桜(
ga7674)が唯一の生き残りであった少女の言葉を思い出しながらため息混じりに呟く。
「中々過激な要求をする子だったわね。まあ、私はいつも通りやるだけだけどね」
エリス・リード(
gb3471)が苦笑しながら夜坂に言葉を返すと大きなため息を吐くフローネ・バルクホルン(
gb4744)が「まったく」と呟いている姿が視界に入る。
「厄介なことだ、私達は復讐の道具ではないと言うのに‥‥」
フローネが呟くと「でも――復讐したくても出来ない人が大勢いるから仕方ないわ」とルーシィがポツリと呟く。
「私は能力者だけど、何かを憎んでいるわけじゃない。むしろ――憎しみを持っている人が羨ましいとすら感じるわ」
ルーシィは何処か寂しそうな表情で呟くと「復讐ですか‥‥」とイーリス(
ga8252)が何かを考えているかのように言葉を返してくる。
「感情に整理をつけるやり方としては妥当ですね」
イーリスが言葉を付け足しながら呟くと、蓮角(
ga9810)が悲しそうな表情でルーシィを見ていた。
「居てしまうんですね、自分と似た境遇の人が」
蓮角は悲しげに呟くと「似た境遇?」とルーシィが首を傾げながら問いかけてくる。
「俺もバグアの侵攻で故郷を破壊されたんですよ」
蓮角の言葉に「‥‥貴方も唯一の生き残り‥‥」とルーシィは俯きながら悲しそうに呟く。
「でも‥‥幼い頃の話で両親の記憶も無いぐらいですし、ずっと良いんでしょうね。あの娘や‥‥あなたよりも」
蓮角の言葉にルーシィは「そんな事ない」と首を横に振りながら言葉を返す。
「たとえ覚えていなくても、故郷を失う悲しみは変わらないんだから」
蓮角の無理に笑顔を作ったような表情を見ながらルーシィが言葉を返した。
「私は‥‥行き場のない憎しみや怒りをキメラやバグアに向けているだけ、此処にいる他の皆のようにご大層なお題目なんてない」
「私にもご大層なお題目があるわけじゃないのよ? いいえ、貴方より酷いかもしれないわ」
意味深に言葉を返すエリスに「どういう事‥‥?」と言葉を返すと「自分の為だもの」とエリスは答えてくる。
「私も今の所キメラが憎いから戦っているわけじゃないのよね、のさばられると困るから駆除しているだけだもの、だから言ってしまえば自分の為ね」
だから貴方だけじゃないのよ、エリスは言葉を付け足してルーシィに向けて話す。
(「‥‥大層なお題目がないと駄目なら俺なんてどうなる事やら‥‥」)
夜坂は心の中で呟き、自嘲気味に笑んでいる。彼は当初こそ『ある誓い』の為だけに用兵になり精進の為にとキメラ達と戦っていたが、ある強化人間と出会った事により、半分はそれと戦闘を楽しむ為になりつつあった。
「とりあえず聞いておこう、少女の願いを如何様に考えている?」
出発する前にフローネが能力者達全員に問いかける。
「正直、私は賛同しかねる」
軽く手を上げながらシルヴァ・E・ルイス(
gb4503)がポツリと呟く。別に悪い意味で彼女は反対しているわけじゃなかった。
「生きる理由は必要、と復讐を求める心情は察するが、それが少女の望みを叶える理由にはならない」
シルヴァが呟くと「私も普段通り、一気に息の根を仕留める戦法を取らせて頂きます、もちろん少女への報告に嘘偽りで塗り固める事なく、ありのままをお話します」と夜坂も言葉を返す。
「同感ね、わざわざ手間を掛けて此方の身を危険に晒す意味はないもの」
「手負いの獣からは思わぬ反撃があるので無理に戦闘を長引かせるつもりはありませんえ」
不知火 チコ(
gb4476)が呟く。ほとんどの能力者達が『普段通り』という中でルーシィだけが口を開く事がなかった為、沢辺が「あんたはどう考えているんだ?」とルーシィに問いかけた。
「私はあの子の願いを聞いてあげるべきだと思う。あの子以外の人は死んじゃったのよ? キメラにもそれ相応の苦しみを与えるべきだわ」
「不用意に戦闘を長引かせるな、他に敵がいないとも限らん。復讐を代行するのは結構だが、おぬし一人で戦っているのではないし、敵も一体ではない」
ルーシィの言葉にフローネがぴしゃりと言い放つ。確かに一人が独走すれば一緒に任務に行う能力者達に多大な迷惑を掛ける事になり、万が一最悪の場合になった時は取り返しがつかなくなる。
「まぁ、とりあえず出発しましょう。このまま話し込んでいても日が暮れてしまいます」
イーリスが呟き、能力者たちは今回の任務地へと出発していったのだった。
―― 壊滅した町、残ったキメラ ――
今回の能力者達は迅速に任務を行う為に班を二つに分けて行動するように決めていた。
A班・夜坂、イーリス、エリス、不知火。
B班・沢辺、蓮角、フローネ、シルヴァ、そしてルーシィ。
「それじゃ、キメラを見つけてさっさと倒しちまおう」
沢辺が呟き、二つの班はそれぞれで行動を開始し始めたのだった。
※A班※
「私の故郷は誰かに伝えたいと思えるものではないですから、正直――羨ましいですね」
夜坂が故郷を思う少女とルーシィの事を考えながらポツリと呟く。
「そうなんですか?」
イーリスが少し意外そうに問いかけると「えぇ、少々やんちゃだったので」と夜坂は苦笑しながら言葉を返す。
「理由なんて私は要らないと思うけどね、ルーシィさんは考えすぎだと思うわ」
エリスがため息混じりに呟く。
「うちも出来た人間やないから、うまい事言えませんけど、誰かを護る為やったら喜んで闘いますえ――でも、いたぶるつもりはありませんえ」
不知火が少しのんびりした口調で――だけど、しっかりと聞き取れる声で呟く。
「いたぶるんやったら、苦しめているキメラ達と何ら変わりありまへん」
不知火の言葉に「確かにね、奴らと同類になっちゃうわ」とエリスもため息を吐きながら言葉を返した。
「それにしても‥‥被害が凄まじいですね‥‥こんな瓦礫の山になる程の中であの子はどれだけの悲しみに心を痛めつけられたのでしょうね」
イーリスが町の悲惨さに目を伏せながら呟く。
「ですが、此方側にはいないみたいですね‥‥キメラが暴れた跡は残されていますが、肝心のキメラがいないです‥‥B班側が探している方にいるんでしょうか」
夜坂が呟いた瞬間に『トランシーバー』へと通信が入ってくる。
その内容は『キメラを発見して交戦中』というものだった。
※B班※
少し時が遡り、まだB班がキメラを発見していない頃へと戻る。
(「‥‥思いつめた顔、してんなぁ」)
沢辺はルーシィの表情を見ながらため息を吐く。
(「復讐だけで生きるのはその後が続かないので、出来れば避けた方がいいんだけどな‥‥」)
沢辺は心の中で呟くが、結局決めるのは自分自身なのだとあえてルーシィに告げる事はなかった。
そして沢辺が彼女の事を考えているように、蓮角もルーシィや被害者の少女と自分が似た境遇である事を考えていた。
(「似たような境遇だけど‥‥俺には故郷や両親の記憶がない――だからルーシィや少女の気持ちが分かりそうで分からない」)
蓮角は胸に渦巻く違和感に歯がゆさを覚えていた。
「‥‥まだ少女の願いを叶えようなどと考えておるのか?」
浮かない表情のまま、キメラを捜索するルーシィを見てため息混じりに問いかけるが、ルーシィは無言で言葉を返してくる様子はない。
つまり、それは肯定と取っていいのだろう。
「おぬしも傭兵ならば任務のことを考えよ。鼠を取れない猫同様、キメラを狩れない傭兵に何の価値がある?」
フローネの言葉にルーシィは相変わらず何も言葉を返さない。
「‥‥っ」
その時、シルヴァが『蛍火』を構えて表情を険しくする。
「‥‥あれ、ですね」
人型と獣型のキメラを発見して、蓮角が静かな声で、だけど怒りに満ちた声で呟き、それと同時にキメラが二匹襲い掛かってくる。
「その命、絶たせて貰う‥‥」
シルヴァが『蛍火』を構えながら低く呟き、B班はA班に『トランシーバー』で連絡を行った後、合流するまでに二匹のキメラを相手にする事になったのだった。
―― 戦闘開始・二匹のキメラを倒せ ――
B班から連絡を受けて、A班が合流したのは10数分後の事だった。人型キメラが獣方キメラを操るような戦い方をしており、A班が獣型を、B班が人型キメラを担当して戦う事になった。
※A班※
「‥‥まずは、その機動力を削がせて頂きます」
夜坂は『疾風脚』を使用して足の筋力を強化した後、獣型キメラの足を狙って『エクリュの爪』で攻撃を仕掛ける。
そして夜坂の攻撃の後、獣型キメラが反撃に出る前、イーリスが『サベイジクロー』で殴り倒すように攻撃を仕掛ける。元々、イーリスは拳闘をベースにした格闘術を取得している為、インファイトでの戦いは彼女の得意分野なのだろう。
「さぁ、刈り取ってあげる」
エリスは大鎌『ノトス』を振り上げながら、夜坂と同じように獣型キメラの足を狙って攻撃を行う。
「迷わないように冥土に送ってあげる」
エリスは『豪破斬撃』を使用しながら獣型キメラの足に攻撃を仕掛け、片足を潰す。
「ほらほら、何処を見てるんです? こっちですえ?」
不知火は『瞬天速』を使用して、獣型キメラを撹乱すると同時に『ゼロ』で攻撃も仕掛ける。
「さすがにこれだけ離れていれば、連携を行う事も出来ないでしょう?」
夜坂は『疾風脚』と『瞬即撃』を使用しながら攻撃を行い、それに合わせてエリスが『急所突き』を使用して攻撃を行う。
「そっちに行ったらあきまへんえ」
足を引きずりながら逃げようとしている獣型キメラに気づき『ゼロ』で攻撃を仕掛けながら獣型キメラの退路を塞ぐ。
そしてイーリスが攻撃を仕掛け、A班は見事獣型キメラを撃破したのだった。
※B班※
A班が獣型キメラと戦闘を行っている頃、B班は人型キメラとの戦闘を行っていた。
「とりあえず、合計で二体だけみたいだね――まだ油断は出来ないけど」
沢辺は『瞬天速』を使用して、人型キメラとの距離を詰めると『ロエティシア』で攻撃を仕掛ける。
「さて、俺もやるか」
蓮角は覚醒を行いながら呟き『蛍火』と黒刀『炎舞』を構えて人型キメラの右腕を突き刺し、もう片方の武器で弾き飛ばすように人型キメラの右腕を斬り落とす。
「てめぇらキメラは苦しみなんて知らねぇだろ? なら‥‥教えてやるよ!」
蓮角は呟きながら攻撃を続ける。しかしそれをみたフローネはため息混じりに「あまり出過ぎて連携を崩すな」と注意を投げかける。
「おぬしもだ、同士討ちなどしたら目も当てられぬわ」
前に出ようとしていたルーシィを見てフローネが話しかける。その際に彼女は言いながら『練成強化』を能力者達に使用して、武器の強化を行っていた。
「無駄な痛めつけで想定外の事が起きるやもしれん、倒せる時にさっさと倒してしまおう」
シルヴァは『円閃』を使用して人型キメラに攻撃を仕掛ける。キメラ自体に能力者達は苦労する事はなかった、普通に戦っていれば苦労する事なく倒せるだろう。
シルヴァが『円閃』で攻撃をした後、沢辺が『瞬天速』を使用して人型キメラの後ろへと回り込み『急所突き』を使用して攻撃を行う。
そしてシルヴァ、蓮角が攻撃を行い、フローネが補助をしたおかげで人型キメラを無事に倒す事が出来た。
最後、蓮角は僅かでも少女の願いを叶えたかったのだろう、トドメは首を刎ねるというやり方で終わった。
「これがあの娘の望んだこと‥‥そして多分、俺の‥‥」
蓮角は小さく呟いたが、その呟きが他の能力者達に届く事はなかった。
―― 復讐という名の逃げ ――
「‥‥ふむ、見つからないか」
キメラを退治した後、フローネは瓦礫の山と化している町の中を歩き回っていた。もしかしたら少女の家で写真でも見つけられれば、と考えていたのだがすでにぐちゃぐちゃになっている為、遺品を捜す事は困難だった。
その後、能力者達は帰還したのだが、本部に向かう前に少女が保護されている病院へと赴いていた。
「ぐちゃぐちゃにして殺してくれたの?」
汚れた格好の能力者達を見ながら少女が短く言葉を投げかけてくる。
「あれをそうしてくれないと、私は生きていけないよ」
少女の言葉に蓮角は視線を絡めるようにしゃがみ込んで「生きてください、強く生きて、幸せを掴んでください」と言葉を返す。
「家族、友達すべてを奪われて悲しいんは分かります。だけど‥‥生き残った貴方は死んでしまった人の分まで生きる義務がありますんや」
不知火が少女に言葉を掛けると「だから殺してっていったじゃない! ぐちゃぐちゃにして殺して! 私の気を晴らさせてよ!」と少女は声を荒げながら叫ぶ。
「たとえ我らの全員が、お主の望みをその通りに叶えたとしても。自らが成した訳ではない、他人から伝え、聞いた言葉に‥‥お主は本当に満足出来るのか?」
シルヴァは呟きながら「満足なんか出来ないはずだ」と言葉を付け足す。
「キメラを滅する‥‥あるいは、それを他人に依頼する事ではない‥‥他の、お主自身に為しうる事は何か。生き延びて‥‥考える事だよ」
シルヴァが呟くと「それでももし満足出来ないのなら」とフローネが言葉を挟む。
「能力者になるなり、研究者として軍に協力するなりやりようはいくらでもあるだろう。私のように10年以上、奴らを憎み続けるのはなかなか骨が折れる事だがな」
それだけ言葉を残してフローネは病室から出て行く。
少女は何も言わず、ただ俯いたままで能力者達は諦めたように病室から出て行く。だけどきっと届いた事だろう。
病室を出る間際、本当に小さく呟かれた少女の言葉――ありがとう、という言葉が。
「俺の成すべき事‥‥分かったような気がする。護る為に破壊する‥‥俺の闘いはこれからだ」
蓮角は決意したように拳を強く握り締める。
「‥‥理由なんかなくても戦えるんだね、私もこれからはちゃんと自棄になって戦うんじゃなく、自分の戦う事を考えてみる」
ルーシィが呟くと「そうですね。よろしければこの後、お茶でもいかがですか?」と夜坂が彼女を誘う。
「いいわね、ご一緒させていただくわ。故郷の話、家族の話、誰かに聞いて欲しい気分だから」
END