タイトル:【CAR】 暗躍する影マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/08 22:01

●オープニング本文


周囲を奇岩に囲まれた小さな村・ギョレメ。

ギョレメを囲むキノコ岩はカッパドキアの雰囲気を充分に味わえる。

のどかで誰が見ても事件とは無関係な場所に見えるのだが――‥‥。

此処より、全ては大きく動き出す事件へと発展していく事となる。

※※※

「‥‥住人全てが、消えた‥‥?」

本部の待合室にて男性能力者が、意味が分からないと言った表情で告げてきた女性能力者に言葉を返す。

「どういう意味だよ‥‥消えたって」

男性能力者が戸惑いながら呟くと「言葉の通り、誰もいないのよ」と女性能力者が俯きながら言葉を返してくる。

「村の中心にあるオトガル付近には大量の血痕が残されていたけれど、住人全ての血痕にしては少なすぎる
 何があったか分からないけれど‥‥あの村には――誰もいない」

女性能力者はギョレメに知り合いが住んでいると言葉を付け足して、唇を強くかみ締める。

「何があったのかは調査隊が派遣されるらしいけど‥‥住人が全て無事とは思えない」

女性能力者は泣きそうな顔を隠すかのように両手で顔を覆ったのだった。

※※

「ねぇ、この二人を私に頂戴よ♪ 面白い事を思いついちゃった☆」

不敵な笑みを浮かべながらビスタが少年型のキメラを指差しながらハリーに言葉をかける。

「‥‥? 戦闘力も並以下、連れて行っても能力者達に瞬殺されるのがオチですよ?」

ハリーが首を傾げながら言葉を返す。

確かに彼が不思議に思うのも無理はない。ビスタが連れて行こうとしているキメラは子供型で、お世辞にも彼らにとって都合の良いキメラとは言えず、能力は並以下なのだから。

「子供型でどんな行動に出るかを見るのが楽しみなのよ〜♪ 普段は正義をかざしている能力者達がどんな表情を見せてくれるのか――をね」

そう言ってビスタは『仕返し』と言う名の計画をハリーにこっそりと教える。

「‥‥なるほど、確かにそれは面白そうですね。私も同行させて貰いますよ――‥‥キメラを操れる私が居た方が楽しみは増すでしょう」

呟くと「でもアッチの方はどうするのよ」とビスタが不満そうに呟く。

「アッチは貴女の仕事でしょう」

「えぇぇぇっ! あたしが考えたのにイイ所取りをするわけ!?」

ビスタが文句を言うと「頼んだ事を後回しにして人質取って暴れた貴女のせいでしょう、自業自得です」とにっこりと笑顔で言葉を返した。

「分かったならヤズルカヤに向かって準備を始めてくださいね、失敗したら――全てが水の泡です」



※※

「今回集まって頂いたのはトルコ・ギョレメで起きた事件に関する情報を集めて貰いたいからです」

女性オペレーターは能力者達に資料を渡しながら話を続ける。

「まさか住人全員で旅行に出かけたという事はないでしょうし、何かが起きたのは間違いないと思います。端から端までが1キロ程の小さな村ですので、調査に時間は掛からないかと‥‥ですが‥‥」

資料の一部分を見てオペレーターは表情を曇らせる。

「中心部にあるオトガル(長距離バスターミナル)の付近には大量の血痕が残されているそうです‥‥住人全ての血痕にしては少なすぎるし、かと言って1人や2人の血痕ではありません‥‥」

つまり、何かが襲い掛かってきたのだろう。

キメラのような知能の低い存在が、こんな回りくどいやり方をするとは到底考えられない。

つまり――‥‥。

「この付近で行動を起こしているハリー・ジョルジオ、ビスタ・ボルニカの両名が関与している可能性が高いと思います」

女性オペレーターの言葉に能力者達は表情を険しくする。

「直ぐに出発ですよね、十分お気をつけて」


●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
斑鳩・眩(ga1433
30歳・♀・PN
シェリー・ローズ(ga3501
21歳・♀・HA
ヴァイオン(ga4174
13歳・♂・PN
天狼 スザク(ga9707
22歳・♂・FT
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
春野・若葉(gb4558
18歳・♀・FC

●リプレイ本文

―― ギョレメに赴く能力者達 ――

「今度はギョレメ、居なくなった住人と大量の血痕――ハリー‥‥あんた何しようとして‥‥」
 現在の状況を聞かされた春野・若葉(gb4558)がポツリと呟く、全住人が行方不明となった状況に最後の言葉は聞き取る事が出来ない程だった。
「全員が行方不明、と言う事は全員死亡とも取れるが、あの二人が関与している可能性があるだけに‥‥厄介だな」
 九条・命(ga0148)がため息混じりに呟くと「全く何を考えているのかさっぱり分からないね」と斑鳩・眩(ga1433)が言葉を返した。
「今回も笛吹き坊やとジプシー女の仕業なのかしらねぇ、場所が場所だけに無関係とは言えないでしょうけど」
 シェリー・ローズ(ga3501)が呟く。
「誰もいない、か‥‥ハーメルンじゃあるまいし」
 はぁ、とヴァイオン(ga4174)が資料を見ながら「一応、UPCに確認は取ってみたんだけど」と春野が言葉を挟んでくる。
「地元の警察が確認に行ったみたいなんだけどどの家にも人がいなかったみたい。ただ――観光客までは把握出来ていないみたいなんだけどね」
「つまり‥‥観光客は生存している‥‥可能性が‥‥あるかもしれないんですね‥‥」
 限りなく低い確率でしょうが、神無月 紫翠(ga0243)が言葉を付け足しながら答えた。
「あたしは‥‥今回の住人失踪事件も気になるけど、ハリーが言っていた『メリット』もずっと引っかかっているんだ」
 翡焔・東雲(gb2615)がポツリと呟く。

『あんな惨殺体にしてどんなメリットがあるかを考えて見なさい』

 これは赤い谷にてハリー・ジョルジオ(gz0170)が残した言葉、それが翡焔の頭に残っているらしい。
「とりあえずは現地で調査をするしかないな、もし奴らが関与しているなら姿を現すだろうからな」
 九条が呟き、能力者達は高速艇に乗り込んで問題のギョレメへと移動したのだった。


―― 主の居ない村 ――

「人がいないと‥‥やけに静かですね‥‥嵐の前の‥‥静けさで‥‥不気味とも‥‥言いますが‥‥」
 ギョレメに到着して、高速艇を降りた所で神無月が呟く。
 確かに村の中には生活感など感じられるのに『人だけ』が足りない。そのギャップに能力者達は何処か不気味さを感じずにはいられなかった。
 そして町の中に入ると同時に決めていた3班で行動を開始する事にした。
 A・九条、春野、神無月。
 B・斑鳩、翡焔。
 C・シェリー、ヴァイオン。
「一応、村の閉鎖を要請してたんだけど――流石に住人失踪事件の後だから封鎖はされてるね」
 春野が封鎖された村を見ながら苦笑する。
「それじゃ、お互い無理はしないように適度に頑張ろう」
 斑鳩が呟き、能力者達はギョレメの調査を開始した。

※A班※
「本当に誰も残っていないのかな? だとしたら、もしも村の中に残っている人がいたら外部の人? 観光客とか」
 春野が「んー」と手を口元に当てながら呟くと「地元の人間かは服装や様子で区別出来るんじゃないか?」と九条が言葉を返す。
「確かに‥‥でも‥‥現地の人間を装ったキメラも‥‥考えられますし‥‥不意打ちの可能性もあると思うので‥‥気をつけましょう」
 神無月が呟き「そうだね」と春野が言葉を返し、A班の三人はオトガルへと到着し、その現状に言葉を失った。
 オトガルに来るまではのどかな村、そんな雰囲気を持っていたのにこの付近だけ血痕が飛び散り、決して少なくない数の人間が犠牲になった事が窺える。
「嫌な予感、当たってないといいけど‥‥」
 春野は調べて来たもう一つの事を思い出しながら小さく呟くが、九条と神無月にその呟きが届く事はなかった。

※B班※
「‥‥この血を流した人だって、一つの大事な命なのに」
 翡焔は渇ききった血に触れ、苦しそうに表情を歪めながら震える声で呟く。
「確かに残念だけど、あまり気持ちを揺るがさない方がいい。相手はあの変態ナルシストなんだから。付け入られる隙を見せちゃ駄目」
 斑鳩が翡焔に向けて呟くと「ん、肝に銘じとく」と彼女は短く言葉を返した。
「‥‥あれ、これ――‥‥」
 翡焔が見つけたのは見覚えのある髪飾りだった、トルコ石で飾られたそれはきっとこの地では珍しくも無い物。だけどデザインに翡焔、そして斑鳩も見覚えがあった。
「これ、ビスタが髪を括る物に使っていた物――だよね」
 斑鳩がそれを拾い上げ「‥‥何かあの女の高笑いが頭の中に響いた気がした」と斑鳩は髪飾りをぐ、と強く握り締めそうになる。
「ちょっと待って、あそこ――人が倒れてる!」
 翡焔が少し離れた場所を指差すと黒髪の男性が倒れている姿が二人の視界に入り、警戒をしながらも男性へと近寄った。

※C班※
「もし本当に此処に笛吹き坊やかジプシー女が居るとしたら、きっと笛吹き坊やね」
 調査をしながらシェリーがポツリと呟く。
「え? 何か根拠があるんですか?」
 ヴァイオンが首を傾げながら言葉を返すと、シェリーはぴたりと止まりながら「静かすぎるのよ」と答える。
「今回の状況、どちらかと言えばきっと笛吹き坊やの好みっぽいもの。あの女が此処に居るのならば、こんなに静かなんてあり得ないと思うしね」
 シェリーがキィキィと扉が軋む音に気がつき、家の中を覗くと――血塗れの刃物を持った子供が二人、生気の感じられない目でシェリーとヴァイオンを見ていた。


―― 戦い、『遊び』の犠牲になった子供達 ――

 別行動を開始してから一時間程が経過した頃、A班とB班の能力者達は大量血痕の発見されたオトガルへと集合していた。
「大丈夫?」
 翡焔が『ロッタ特製ホットドリンク』を生存者の男性に渡して問いかける。その男性は帽子を目深に被っており、恐怖の為からか小刻みに体を震わせていた。翡焔は男性の傷などを調べてみたが、ナイフのような物で傷つけられた細かい傷が目立ち、命に別状はなさそうだった。
「えーと、とりあえずさっきの話をもう一度してくれる?」
 斑鳩が男性に問いかけると「こ、子供に襲われたんです」と俯きながら男性は震える声で言葉を返してきた。
「友達と観光に来ていたんですけど、村に戻ってきたら誰もいなくて‥‥オトガルには大量の血があって、ぼ、僕も二人の子供に襲われたんです」
「子供、か。キメラか? 今回は奴らと関係なかったんだろうか」
 九条が呟くと「まだ‥‥決めるのは‥‥早いかと‥‥」と神無月も周りを見渡しながら言葉を返す。
「あのさ、今こんな事言うのもどうかなって思ったんだけど、人間が元になってるキメラ――判明している事例があるんだよね。まさか居なくなった人、全員が‥‥」
 春野が体を震わせながら呟いた時だった、ヴァイオンとシェリーが此方に向かって走ってきており、その後方からは男性の証言通りナイフを持った子供が二人程のろのろと走ってきていた。
「――行くよ、相棒。頼りにしてる」
 春野は先ほどまでの嫌な予感を振り払うかのように頭を振って愛用の大剣『【OR】タッキ・ラージャ』を構えて戦闘態勢に入る。
「人間に擬態したキメラか、それとも厄介な処置を施された人間か――奴らの姿が見えれば奏者に退場してもらおうと考えていたが‥‥」
 九条は『瞬天速』を使用して、子供の背後に移動をして腕を掠める程度の攻撃を行う――がFFに弾かれ、子供達がキメラだと言う事が判明する。
「‥‥判別‥‥つきませんね‥‥ですがFFに弾かれた以上‥‥キメラ、なんでしょう」
 神無月が『魔創の弓』にて子供の腕を掠める程度の攻撃を行う。子供キメラは大した能力も無い――むしろ一般人に毛が生えた程度の強さで、今回来ている能力者達に勝てる可能性はゼロ%だった。
「もしかしたら子供の親を人質に取ってる〜‥‥とか考えたケド、そういうのじゃなさそうね、明らかに普通の人間の目じゃないでしょ、あれは」
 斑鳩が呟き、子供キメラに攻撃を仕掛け、その後に翡焔が攻撃を仕掛ける。
「子供ね‥‥アタシはねぇ、生半可な覚悟で畜生道の夜叉にまで堕ちた訳じゃないんだよ」
 子供の形をしたキメラで動揺するほど柔な覚悟は持ってない、シェリーは言葉を付け足して『豪破斬撃』と『急所突き』を使用して子供キメラを一体退治する。
「非道と罵られても‥‥これがアタシの選んだ道だもの」
 シェリーが一体退治し終えた所でヴァイオンが『アーミーナイフ』を子供キメラに投げつけて動きを止め『【OR】特殊剣 ブレイド』で攻撃を仕掛けた。
「‥‥子供? はぁ、だから何?」
 ヴァイオンは良くも悪くも、人も動物もバグアもキメラも『同じ命』として認識している為、平等に扱う事が出来て――それと同時に平等に奪える少年なのだ。
「‥‥子供、躊躇いはあるけれど――だからと言って戦いを止める事は出来ない」
 翡焔が一瞬だけ悲しそうな表情を見せた後、二刀小太刀『疾風迅雷』で子供キメラに攻撃を行う。
「ふぅ、あたしの出番なく戦いは終わったか」
 あはは、と春野が呟いた瞬間、彼女の横を黒い何かが通り抜ける。
 そして、それと同時に響く『ざしゅ』という気持ちの良い音とはお世辞にも言えない音が能力者達の耳に入ってくる。
「先ほどはドリンクをありがとうございました、こえはお礼ですよ」
 ぐ、と翡焔の腹部に刺した剣を更に奥へと押し込む。痛みに翡焔は目の前がグラつきそうになるが、下唇を強く噛んで意識を保つ。
「やはり――現れたか。まさか生存者に変装してくるとはな、考えもしなかった」
 九条が目の前に立つ黒い髪の男性・ハリーを見ながら『キアルクロー』を構える。
「誰も『変装しない』とは言ってませんよ、それに意外と似合うと思いませんか?」
 帽子を取ると、目深に被られて隠された瞳は緑色でその嫌味な笑みがハリーだと窺わせる。
「あろーあろー猟奇的な紳士さん。今日もまた嫌な策略でくるんでしょーよー」
 斑鳩が茶化すように話しかけると「えぇ、そのつもりですよ」とこれ以上にないほど笑みを浮かべて言葉を返した。
「例えば、先ほどのコレ」
 ハリーは先ほど能力者達が退治したキメラを足蹴にしながら「何だと思います?」と質問を投げかけてくる。
「さぁ‥‥赤い谷では残虐を尽くしたみたいだけど、フランケンモンスターでも作るつもり?」
 ヴァイオンが覚醒状態を維持しながら言葉をかけると「それは良いアイデアですね、今後の参考にさせていただきます」とハリーはにっこりと笑顔で言葉を返す。
「まさか‥‥人間――?」
 春野が思いついたようにポツリと呟くと「正解です」と懐から数枚の写真を能力者達に向けて投げつける。その写真の中には先ほどの子供達が泣き喚く姿が映されており『彼らが生きていた』と言う事実を知るには十分すぎるものだった。
「確か‥‥最後の言葉は――助けて、お母さん――でしたかね」
 その言葉を聞いた瞬間、春野がハリーに向かって走り出す。
「――ハリー‥‥あんたはもう、人じゃない‥‥っ!」
 愛用の剣を振り上げて『円閃』を使用しながら攻撃をすると、もう片方の手に持っていた剣でそれを防ぐ。
「だから何だと言うんですか?」
 呟くと同時にハリーが横薙ぎにして春野に攻撃を仕掛ける、その背後からは九条が『瞬天速』を使用して移動してきて、ハリーに攻撃を仕掛けようとしたが突然フルートの音色が響き、倒れていた子供が九条とハリーとの間に割って入る。
「実はこれ、改良型なんですよ。手足を無くしても使えるようにね」
 ハリーは厭らしい笑みを浮かべると子供ごと九条を突き刺す。
「悪いが‥‥演奏会は他所でしてくれ‥‥うざいんだ」
 神無月が『鋭覚狙撃』と『影撃ち』を使用しながら呟くが、攻撃はハリーの手を貫き、剣を落とさせる。
「人を舐めすぎじゃないかい、あんた。そろそろキレた、ああキレた。ちーっと優しくしてたらつけあがりやがって。三枚におろされてぇか?」
 あぁん? と斑鳩が『疾風脚』を使用しながらハリーに話しかけると「その台詞、そのままお返しします――よ!」と持っていたフルートで斑鳩の腹部を攻撃しながら後ろへと下がる。
「今回は変装、いつも隠れて‥‥照れ屋なのね。でもアタシに惚れたら火傷じゃ済まないよ!」
 シェリーは『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用しながら攻撃を行い、ハリーの服を掠めビリビリと音をたてながらソレは破れていく。
「申し訳ありませんが、爆弾娘はビスタだけで結構です――っ!」
 言葉を返している間に「油断しすぎだよ」とヴァイオンが『瞬天速』を使用して距離を詰めて来ており『限界突破』を使用しながらハリーの持つフルートを破壊する。
「さっき、フランケン作るって言ってたけど――だったら、アンタがまずその犠牲になればいい」
 ヴァイオンが攻撃を終えると斑鳩が再び前に出て『疾風脚』を使用しながらハリーを撹乱する。
「いい加減、そのナルシー振りは見飽きたね」
 斑鳩が『二連撃』を使用してハリーに攻撃を仕掛けるが、それをハリーは避けて右に移動する――しかしその行動を読んでいた翡焔が『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用しながらハリーの右肩に攻撃を仕掛けた。
「笛もなくなって万事休すかしらねぇ?」
 シェリーが呟くと「‥‥一つ忘れてませんか?」とハリーは袖を震わせ、ストンともう一つのフルートを取り出す。
「これを狙ってくるのは分かっているのに、予備を持ち歩かないバカが居ると思いますか? まさかそんな馬鹿に思われてるんですか?」
 はぁ、とハリーは悲しそうに呟く振りをしながら後ろに剣を投げる。その先にいるのはヴァイオンで避けたのだが腹部を掠める事になってしまった。
 そして次の瞬間、バチンと渇いた音が響く。
「命は玩具じゃないんだよ‥‥?」
 翡焔が悲しそうな表情でハリーの頬を殴った手を見つめる。
「詭弁ですね、貴女も牛や豚、鳥を食べるでしょう? アレも命ですよ? 私達が貴女達にしている事と貴女達が動植物にしている事、何処がどう違うんですか?」
 ハリーはやや面白くなさそうな表情で翡焔を蹴り飛ばし「やや興ざめですね」とため息混じりに呟く。
「もう少し後になりますが、貴方達を私の『お城』へご招待しましょう。その間にも会うかもしれませんけど」
 そう言ってハリーは踵を返す。
「決着をつけないまま、逃げるつもりか」
 九条が話しかけると「どうとでも」と笑って言葉を返す。
「一応日暮れまでに帰らないとビスタが住人を皆殺しにしそうなんでね、私にとって利用価値はありますから殺されても困るんです」
 ハリーはそう呟き、そのまま能力者達の前から姿を消した。能力者達は追う事も出来たが『住人の命』と言う言葉を出されては追うに追えなくなってしまったのだ。

 その後、数名の能力者達はオトガルで犠牲になった住人、そして子供達が安らかに眠れるように冥福を祈った。
「はぁ‥‥物凄く決着‥‥長引く感じがします‥‥」
 本部に帰還する高速艇の中で神無月がポツリと呟いたのだった。


END