●リプレイ本文
「叫び声につられて来てみたけど‥‥世の中変な人もいるもんだね‥‥」
アルカに最大級の哀れみ視線を送りながら呟くのはジーラ(
ga0077)だった。
「っつーか‥‥またお前かよ‥‥俺、お前に関わると毎回ロクな目に合わないんだけど」
げんなりとした表情でアルカに問いかけるのは毎回と言っていいほど志保からの被害にあっている社 槙斗(
ga3086)だった。彼も聞き覚えのある叫び声につられてやってきた一人だった。
「もう腹括るしかないと思うけど――‥‥って志保の親父かよ!? ついに親と対面! こりゃゴールインも――――‥‥スマン」
社はからかいながらアルカに話しかけるが、アルカは滝のような涙を流しながら、社を恨めしそうに見ている。
「あなたが‥‥アルカさん‥‥ですか? フフ、あれほど‥‥運のない奴も‥‥初めて見たと‥‥弟が言ってましたが‥‥」
神無月 紫翠(
ga0243)が楽しそうに呟くと、アルカは首を傾げる。
「‥‥弟? この前俺を逃がしてくれた奴とは‥‥別人?」
「‥‥前回ご一緒したのは‥‥自分の弟ですよ‥‥よく似ているでしょう? 双子ですから‥‥」
くすくす、と笑みながら神無月がアルカに言葉を返す。その言葉に対して「俺にも双子がいればなぁ‥‥」と遠くを見ながら呟いている。かなり重症のようだ。
「‥‥それでは、アルカさんを脱出させる為に‥‥作戦開始、でしょうか」
白い杖を持った少女・シエラ(
ga3258)が小さな声で呟く。
「そうだね、皆を護る為の力、そろそろ使いに行かないとね」
楽しげに呟くのは葵 コハル(
ga3897)、彼女もアルカの叫びを聞いてやってきたのだが、まだ実戦経験のない自分の訓練にうってつけ! と半分以上アルカのためではなく自分の為にゲンゴロウ対策に来たという感じだ。
「アルカさんの事は噂に聞いていましたが、流石に可哀想になってきましたねぇ‥‥」
哀れみ度ぶっちぎりの視線をアルカに送りながら夏影 優樹(
ga3767)が呟く。
‥‥と、此処で今回の作戦を言ってしまうと、ジーラ、神無月、夏影、の三人がアルカを脱出させる係として動くことになる。
そして、鷹見 仁(
ga0232)、社、シエラ、木場・純平(
ga3277)、葵の五人がゲンゴロウ足止めし隊! に任命された。
●とりあえず、止まれ! 破天荒親父!
「アルカあああっ! 何処に消えた! おんどりゃあ!」
ゲンゴロウのダミ声がUPC本部内に響き渡る。この本部の中にはそれなりに能力者がいるというのに、誰もゲンゴロウに注意しようという奴はいない。
きっと、何を言っても無駄と思っている人間か、触らぬゲンゴロウに巻き添えなしと考えている人間か、どちらかの考えを持っているのだろう。
「待て! 此処を通りたければ俺を倒してからだ!」
ゲンゴロウの目の前に立ちふさがったのは鷹見、その姿は何処ぞのヒーローのようで少しカッコイイものがあった。
「何だ、お前は――わしはアルカを探している! 探し人はお前ではない! 去れ!」
ゲンゴロウが叫ぶと「そうも行かないんだよ」と鷹見が不敵に笑う。
「アンタに恨みも、アイツに義理もないがな、すまんが相手をしてもらうぞ」
鷹見の言葉に「アイツ?」とゲンゴロウは眉を寄せる。ゲンゴロウの頭の中には『コイツはアルカの居場所を知っている』と考えたのだろう。サッと戦闘体勢を取った。
「年くってるとは言え、俺達とは圧倒的な経験の差があるからな‥‥」
「そうですね、此処は一つ、未熟者のあたし達に一手ご指導してもらいましょ」
葵、社、鷹見の三人は戦闘体勢を取る。最初に攻撃を仕掛けてきたのはゲンゴロウだったのだ。まだひよっこの彼らを強力な一撃で仕留めようとしているのか、剣を大きく振り被る。
そのパターンは足止め組が予想していたことだった。最初の一撃を何とか凌ぎ、三人はゲンゴロウに襲い掛かる。
その中、鷹見はゲンゴロウの防御法を一撃ごとに地道に削いでいく。社はその間に腕を攻撃しようとゲンゴロウに近寄る。
そして、葵は豪破斬撃を使おうとして、慌ててシエラに止められた。
「此処で能力を使って問題など起こしてタダで済むとは思えません‥‥派手な能力は使わない方がいいかと思います」
確かにシエラのいう事も一理ある。葵が考えていた必殺技は豪破斬撃を発動した後、出せる限りのスピードで一直線にダッシュをかけ、全体重とベクトルを一点に乗せる突きだった。これを実行すればUPC本部内が破壊されてしまう可能性もある。
「うおおおっ!」
その時、鷹見と社がゲンゴロウに吹き飛ばされる――正確には鷹見は投げ飛ばされ、社はヘッドロックされ「ギブギブ!」と叫んでいた。
「くそ〜〜‥‥アンタがあんな娘に育てたせいで俺らまで巻き添えが‥‥ぐぎゃおおぅ‥‥」
社が志保の悪口を言うと、首を絞めるゲンゴロウの力が強くなる。流石に軽くお花畑が見えてきたところで鷹見が口を開いた。
「あいつが向かったのはこの先だ――‥‥」
鷹見はそう言って、ある一点を指差した。実際彼はアルカ達が向かった方向など知らずに適当に答えた――のだが! 何とまあ勘の良い事、ばっちりアルカ達が向かった方向を指差していた。
「あっちかあああっ! アルカアアアッ!」
叫びながらゲンゴロウは走って鷹見が教えてくれた方向へと走り出す――が、それを阻止しようとしたシエラと派手にぶつかってしまう。
「す、すみません‥‥私‥‥目が、見えませんので‥‥その、怖くて、ごめんなさい」
怖くて、と言う部分は演技ではなく本気で怖がっている。
「此方こそすまぬ! 冷静さを欠いて盲目のお主にぶつかってしまうとは‥‥この風峰・ゲンゴロウ! 一生の不覚! この命で詫びを――」
そう言ってゲンゴロウは暑苦しく涙を流しながら自分の首に剣を向ける。
「ぬぅ! しかし! 今はアルカを見つけるが先ゆえ死ぬことはままならぬのだ! 勘弁いたせよ、娘」
「は、はあ‥‥」
シエラは落ち着きつつあるゲンゴロウに話を聞くと、娘・志保を弄んだアルカを成敗しに行くのだと誇らしげに言った。
「‥‥娘さん思いなのですね、ですが‥‥いきなり暴力で訴えようとしているのは感心できません。ここは仮にもUPC本部――問題を起こしてタダで済むと思っていますか?」
先ほど、葵にも言った言葉をシエラはゲンゴロウにも聞かせる。十歳の少女に説教される六十四歳ファイターの姿は傍から見たら不気味なものである。
「本当に娘さんを思うのであれば、冷静におなりなさい‥‥アルカさんという人も、きっと話せば分かる人ですよ――その大きな手を暴力で汚さないで。あなたの手は大好きな娘さんを抱きしめる為にあるのですから」
シエラが諭すように言うとゲンゴロウは「ぬぅ‥‥」と唸っている。正論をたたきつけられて困っているのだろう。
その時―――‥‥。
「うぉあっちいいいっ!」
ゲンゴロウの叫び声が響く。その原因は木場が偶然零したコーヒーがゲンゴロウの服の中へ入ってしまったからだ‥‥もちろん偶然ではなく、わざとである。
「すみません、前方不注意でコーヒーを‥‥クリーニングに出すので服を脱いでください」
木場が話しかけると「今は急いでいる、構わん」と短い言葉が返ってきた。
「いえ、此方が悪いのですから! 服を脱いで!」
執拗に服を脱げと迫る木場、傍から見れば妖しい関係に見える。
「ぬぅ、仕方ない!」
そう言ってゲンゴロウは服を全部脱ぎ、ふんどし一丁になる。
「服を返す時の住所を教えてください」
紙とペンをゲンゴロウに渡しつつ、時間稼ぎの為に木場は住所などを聞きだそうとする。
「本部に返してくれればよい」
そう言って立ち去ろうとするゲンゴロウを木場がレスリング技で組み敷き「そういうわけにもいきません!」と叫ぶ。
「ぬぉっ! な、何故攻撃してくる!」
ゲンゴロウは組み技を跳ね返し、コーヒーで少し濡れた名刺をぺいっと木場に投げ渡す。
「住所、電話番号も書かれている! わしに構うな!」
そう言ってゲンゴロウはアルカを探し出す為に走り出す――ふんどし一丁で。
●逃げろ逃げろ、親娘が追いかけてくる
アルカ脱出班がとった行動、それはアルカをダンボールに詰め込み、それを荷台で運び出すというシンプルな作戦だ。
「‥‥母さん、俺は人間すら捨てちまったよ‥‥へへ」
ダンボールに張られた『なま物注意』の張り紙を見て、アルカが自嘲気味に笑う。
「そういえば‥‥ジーラさんは‥‥何故、此方に?」
神無月がアルカ入りダンボールを運びながらジーラに問いかける。彼女は最初に班分けを行う際にアルカ脱出班に立候補してきたからだ。
「正直あの手の肉体派な人は苦手なんだよ、見る分にはいいけど」
ため息混じりにジーラが答えると、神無月は苦笑して「そうですか」と答えた。
「どうでもいいのですが‥‥気のせいかな、後ろからふんどし一丁の変態が追いかけてくるような気が‥‥」
夏影の言葉にジーラと神無月は後ろを見る、確かにふんどし一丁の親父が此方へと物凄い形相で追いかけてくるさまが見える。
「‥‥あれは‥‥ゲンゴロウさん‥‥ですね? なぜ‥‥服を脱いでいるのでしょう‥‥」
「‥‥仕方ない、やりたくなかったけどボクがゲンゴロウを引き付けるよ、その隙にアルカを持って逃げて」
連れて逃げて、ではなく、持って逃げて、というあたりが既にアルカは人間扱いされていないような気がする。
「分かりました。それでは――いきますよ」
そう言って神無月と夏影は荷台を物凄い速さで押しながらアルカと一緒に出口に向かう。
そしてジーラはゲンゴロウがある程度の所まできたら、夏影たちとは逆方向に逃げ出す。
案の定、ゲンゴロウは目の前を逃げていくジーラがアルカを匿っているのだと勘違いし、ジーラを追いかけていく。
「これが目的なんだけど、物凄くいやだなぁ‥‥」
ちらりと後ろを見れば、般若のようなひょっとこのような顔で追いかけてくるゲンゴロウ――そして、ジーラが向かおうとしている出口付近に大ボスが立っていた。
大ボス=志保である。
「あら、アルカ様を知りません?」
呑気にのほほんと問いかけてくる志保にジーラは良い作戦を思いついた。
「あのさ、キミの父親がキミとアルカを引き離そうとしてるよ」
もちろんデタラメであるが、その言葉に志保は「何ですって!」と怒りながら叫ぶ。
そしてタイミングよく後ろから現れる親父。
「お父様! どういう事ですの! 私とアルカ様を引き離そうだなんて!」
目の前に現れた志保にゲンゴロウは驚き、走る足を止める。
「し、志保! パパはお前の為に!」
「言い訳無用ですわ! アルカ様と引き離すってどういう事ですの?」
志保、親父がふんどし一丁なのはツッコミを入れない。
「‥‥今の隙に逃げれそうかな」
そう呟いてジーラは二人の横を通り過ぎ、神無月たちのところへと向かって行った。
「あ! 待て! アルカの――」
「お父様!」
志保の叫ぶ声と同時に聞こえたのは何か鈍い音だったが、ジーラは構うことなく逃げていった。
●今回も無事に終わったよ!
「‥‥何とかアルカさん‥‥無事に逃げましたね」
神無月が安堵のため息を漏らしながら呟く。
「ボク、こういう仕事もう嫌だよ‥‥」
心底疲れたかのようにジーラが呟くと「お疲れさまです」と夏影が苦笑してタオルを渡す。
現在の場所はスタート地点、足止め組の変わり果てた姿があちこちに倒れている。
「‥‥此処は天国? 美人のえんじぇるぅ――あいた!」
倒れている社を心配して駆け寄ったが、女と間違われ頬を思い切り抓る。
「‥‥天国では‥‥ないですが‥‥もう一度天国拝んで‥‥いえ、三途の川でも‥‥いいですが‥‥逝きたいですか?」
にっこり爽やか笑顔で神無月が問いかけ、社の悲痛な叫びがUPC本部内に響き渡ったのだった‥‥。
その後、慌てた夏影が一生懸命救急セットで治療している姿が見受けられた。
「‥‥彼に逃げ場なんてあるんでしょうか」
夏影の哀れみを込めた言葉はアルカには届いていなかったのだった‥‥。
END