タイトル:碧王公主マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/18 23:49

●オープニング本文


彼女は笑う。

碧色の中華服を身に纏い、天女の羽衣のようにひらひらと布を靡かせながら。

※※※

『それ』は突然やってきた。

何故『此処』なのか、何故『自分達』なのか何度も心の中で叫んだけど生き残るのは無理らしい。

生きたい、死にたくない、せめて子供達だけでも助けたい。

変わらぬ結果ならば、せめて俺を最初に殺してくれればよかった。

最愛の妻、掛け替えのない子供達の死に様を俺に見せてくれるな。

だれかこれをみているならば、どうか俺たちの無念を晴らしてくれ。

お願いだから。


「これが現場近くに落ちていたノートの内容ね――ノートには血がべっとりで悲惨さを物語っていたそうよ」

女性能力者が表情を曇らせながら小さく呟く。

これは数日前、とあるキャンプ場で起きた事件だ。

その時には一つの家族がキャンプ場を利用しており、その家族全てが犠牲となった。

残されたノートは恐らく父親が書いた物なのだろう。

「‥‥そのノートにはキメラの特徴などが書かれていたわ、事切れる間際に書いたんでしょうね、最後の文字は読み取るのが精一杯だったわ」

女性能力者は俯きながら呟く、恐らく家族に対してやりきれない感情が胸に渦巻いているのだろう。

「この家族の無念、晴らしてやれるといいな‥‥」

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
レヴィア ストレイカー(ga5340
18歳・♀・JG
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
ドニー・レイド(gb4089
22歳・♂・JG
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

―― 無念に散った者達を弔う為に ――

「こんな‥‥キャンプ場を‥‥。家族を襲う事に‥‥何の意味がある‥‥?」
 幡多野 克(ga0444)が呟きながら、遺品となった血塗れのノートに視線を落とす。恐らくは子供の日記か何かになる筈だったノートなのだろう。最初には子供特有の元気な字で『今日からキャンプ!』と書かれていた。
「無念‥‥だったんだろう‥‥な。このノート‥‥無駄にはしないよ‥‥」
 幡多野が呟くと「キメラどもめ!」とレヴィア ストレイカー(ga5340)が少し声を荒げながら呟く。
「‥‥必ず‥‥!」
 退治してやる、恐らくはそんな言葉が後に続くのだろう。今回の事件では幼い子供も犠牲になっており、両親をバグアに殺された自分の過去と重なって見えるのだろう。
 激しい怒りが沸き起こっている筈なのだがスナイパーとしての理性で冷静さを保っていた。感情に身を任せていたら肝心の戦いの時に実力を発揮出来ないと考えているのだろう。
「‥‥子供、か。誰が犠牲になるのも嫌だけど、子供が犠牲になる話を聞くのはもっと嫌ね」
 アズメリア・カンス(ga8233)も小さく呟きながら、今回の作戦の確認を行い始める。
「‥‥ノート、見せて貰っていいでしょうか?」
 水無月 春奈(gb4000)が幡多野に話しかけると「どうぞ‥‥」とノートを水無月に渡す。
「‥‥この記録があればこそ‥‥有利に事を進める事が出来ますね」
 水無月が呟くと「そうだね、それに敵が中華風の外見を持つ事が気に食わなくてね」とドニー・レイド(gb4089)が言葉を返す。
「俺も中国人だから、それに目標の所業は許しがたいからね」
 何としても討伐しなければ、ドニーは言葉を付け足しながら呟く。その瞳には強い意志が揺らめいていた。
(「相手も二刀流――ボクの二刀流は、本来は人を殺める為の暗殺剣。一歩間違えれば、このキメラと同じように人を殺める事に使っていた筈」)
 ティリア=シルフィード(gb4903)は俯きながら心の中で自分とキメラの違いを探していた。
(「そんなボクが、被害者の方達の仇討ちを、なんて考えるのはおこがましいかもしれない」)
 そこで『何を馬鹿な事を考えているんだ』と言わんばかりに勢いよく頭を振る。
「どうかした?」
 少し様子のおかしいティリアを見て、シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)が話しかける。
「あ、べ、別に。実戦でキメラと戦うのは初めてだから、緊張してるのかも」
 苦笑しながらティリアが言葉を返すと「他の皆もいるんだし、もう少しリラックスして大丈夫だよ」とシンは緊張を解すかのように優しい言葉をかける。
「うん、ありがとう」
 ティリアが礼を言った時「これは愛好家への挑戦だねっ!」とMAKOTO(ga4693)が拳を震わせながら「何でチャイナ殺人鬼なのっ!」と大きな声で叫んでいた。
「二ヶ月連続で13日の金曜が訪れると言うのに、キャンプ場の殺人鬼はホッケーマスクが王道だと言うのに、いや、ホッケーだったら許されるって訳じゃないんだけどね!」
 余程興奮しているのか、普段の彼女より口調が強く感じられる。
「チャイナ服‥‥という事は、やはり獲物は青龍刀でしょうか?」
 シンが苦笑しながら呟き、能力者達はキメラを退治する為、そして罪もなく殺された一家の仇を討つ為にキャンプ場へと出発したのだった。


―― 荒れた場所、楽しく過ごす筈だった彼らの為に ――

 能力者達が高速艇を降りたのは、キャンプ場から少し離れた広い場所だった。流石に一家殺人事件が起きた場所、しかもまだキメラが退治されていない場所と言う事で人の気配は全く感じられなかった。
「此処から‥‥真っ直ぐ進めば‥‥事件のあったキャンプ場‥‥なんだな」
 今にも倒れそうな程に古くなっている看板を見ながら幡多野が呟く。
「行きましょう、この先のキャンプ場が事件現場なんでしょう‥‥?」
 レヴィアが呟くと「すぐにキメラが見つかれば探す手間が省ける訳だけど」とアズメリアが周囲を警戒しながら言葉を返した。
「‥‥っ‥‥」
 何処か緊張した面持ちのティリアを見て「大丈夫よ」とレヴィアが声を掛ける。
「一人で戦うんじゃなく、皆で戦うんだから」
 そんなに緊張しなくても大丈夫、レヴィアの言葉が嬉しかったのか「ありがとうございます」と不器用に笑って言葉を返した。
「どうやらこの辺からキャンプ場みたいだけど――キメラらしきものはいないね」
 シンが周りを見渡しながら呟き「それじゃ予定通り二手に分かれて捜索、ですね」と水無月が言葉を返し、能力者達は作戦上で決めていた班へと分かれる。
 キャンプ場に到着してもキメラが姿を現さない場合は二つの班に分かれて捜索を行う事にしていた。
 α班・幡多野、MAKOTO、レヴィア、ティリアの四人。
 β班・アズメリア、シン、水無月、ドニーの四人。
「何処から来るか分からないから、お互いに気をつけようね」
 MAKOTOが呟き、能力者達は首を縦に振った後、別行動を開始したのだった。

※α班※
「意味はないけど、テントを張っておこう! 意味はないけど!」
 MAKOTOが『キャンプ用テント』を張り始める。本人も言っている通り、深い意味はないのだろう。
「そこ、破片があるから‥‥こっちの方がいいんじゃないかな‥‥元は綺麗にしてあった場所‥‥だと思うんだけど‥‥荒れてるね」
 幡多野はキャンプ場を見渡しながら呟くと「うん、かなり壊されてる部分が目立つよ」とレヴィアもキャンプ場の荒れ果てた様子に表情を歪めながら言葉を返した。
「あれ‥‥? でもこの辺は入り口付近と比べて酷く荒らされているわけじゃないみたい」
 ティリアが呟くと「本当だ、こっちはほぼ無傷っぽく見えるね」とMAKOTOも荒らされた場所と荒らされていない場所を見比べながら呟く。
「こっち側には‥‥来ていないという事‥‥かな?」
 幡多野が呟くと「そうみたいだね、一応こっちも調べて、向こうを重点的に探した方がいいのかな」とレヴィアが呟き、β班に自分たちが捜索している場所の状況を伝えたのだった。

※β班※
「結構、荒れてるね‥‥想像していたよりも酷い」
 ドニーが建物の破片を避けながら歩き、表情を曇らせながら呟く。この事実は後から知る事になるのだが、β班が捜索している付近が一番被害が大きい場所だった。
「あそこが――現場みたいだね」
 アズメリアが呟き、指差した方向、そこには乾いてこそいるが大量の血痕があった事が分かる。遺体は既に別の能力者達によって運ばれているが、血痕を見る限り惨劇だっただろうと能力者達は心の中で呟く。
「そういえば、最初に中国人だから相手が気に入らないって言ってましたけど‥‥何か理由があるんですか?」
 水無月がドニーに問いかけると「俺の国では家族の繋がりを大事にする」と言葉を返し、空を仰ぎながら彼は言葉を続ける。
「‥‥故に一家惨殺なんて所業を許すわけには行かない」
 ドニーの言葉に「どれだけの罪のない人々が命を奪われたんだろう‥‥」とシンもポツリと呟く。
 その時だった、一家惨殺があった少し離れた場所で両手にそれぞれ刀のような武器を持っている女性が妖しげな笑みを浮かべてる事に気がついたのは。


―― 戦闘開始・心無き所業を行った、心無き存在との戦い ――

 最初にキメラを発見したβ班はα班に『トランシーバー』で連絡を行い、それぞれ戦闘を開始したのだった。
「キメラ発見、これより攻撃します」
 水無月は『トランシーバー』を切って『シールド』と天剣『ラジエル』を構える。最初は何故か『巨大ハリセン』を構えていて、キメラが攻撃してくる前に彼女は武器を装備しなおしたのだ。
「確かに綺麗な姿をしてるけどね、眼を奪われる程ではないさ」
 ドニーは呟き『疾風脚』を使用して『ゼロ』でキメラに攻撃を行う。
「今度は此方が翻弄する番だ、覚悟しろ」
 しかしキメラはニィと不気味な笑みを浮かべると左手に持った剣で攻撃を仕掛けようとフェイントを掛けてくる。そしてドニーが避けた所を右手に持った剣で攻撃を仕掛けたのだが「させん!」とシンが叫び『エネルギーガン』で攻撃を行って、キメラの攻撃を阻止した。
「未だこの地に留まっていたのが失敗だったわね」
 アズメリアは呟きながら『月詠』を振り上げて『流し斬り』で攻撃を行い、キメラへと短く告げる。
 そして、その時α班が合流して本格的に戦闘が開始されたのだった。

 今回の能力者達が取った作戦、それはキメラを囲むように展開して逃げる隙間を与えないと言うものだった。
「素早い動きでも、行動を読めば当てられる!」
 レヴィアは呟き『鋭覚狙撃』と『狙撃眼』を使用して小銃『シエラクライン』で攻撃を仕掛ける。
 それと同時にシンも『Seele』と名をつけて愛用している『エネルギーガン』を構えて『影撃ち』を使用しながらキメラに攻撃を仕掛ける。
「前衛がして欲しい事をするのが、後衛の役目だからな」
 シンが不敵に笑みながら呟き、天剣『ラジエル』を構えながら水無月がキメラへと接近する。
「‥‥二刀は手数に優れますが‥‥一撃が軽いですよ」
 キメラの攻撃を受けながら水無月が呟き、剣を振り下ろして攻撃を行う。
「‥‥ボクはお前とは違う」
 ティリアが呟きながら『円閃』を使用しながら攻撃を行う。初めての実戦という事でキメラからの反撃を受けていたりした彼女だが、仲間たちのフォローがあり、大事な傷には至らない。
「自分がした事の意味、身を持って分からせてあげるよ」
 MAKOTOが『フロスティア』を構えて幡多野が『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用しながら攻撃を行い、キメラがよろけた所をティリアが『円閃』を使用して隙を突く。
「これでも立っていられるか!?」
 幡多野が叫ぶとキメラがガクリとよろける。
「いくよっ」
 レヴィア、シンが援護射撃を行いながらMAKOTOがキメラへと近寄り『先手必勝』を使用して、槍の穂先と石突を利用してキメラが両手に持つ剣へと引っ掛けた後『獣突』を使用して剣を弾き飛ばす試みを実行した。
 両手の剣が離れれば幸い、片手だけでもキメラのリズムを狂わせる事が出来ると考えていた彼女の攻撃はキメラから両方の剣を奪う。
「舞うようになんて攻撃させない、そんなに舞いたければ冥土で舞え!」
 MAKOTOが『フロスティ』を摩り下ろして攻撃を行い、キメラに致命的なダメージを与える。
 武器を奪われ、自分も瀕死に近い状況――本能的にキメラは自分の状況がヤバいという事に気づいたのか、ジリジリと一歩ずつ下がって逃走を試みる。
「苦手な距離といえど、戦えないわけじゃない」
 下がった先は援護射撃などを行っていたレヴィアの近く。レヴィアは『レイシールド』を構えて、牽制攻撃を行いながら距離を取る。もちろん発砲は少なめの行動だ。
「距離を詰められたら、その分あければいいだけだから」
 レヴィアが呟くと同時に「逃げられると思っているの?」とアズメリアが『月詠』を構えながら攻撃を仕掛ける。
「逃がすわけには‥‥これ以上、犠牲者を増やさない為に――それに、ここで亡くなった人を慰める為、あなたには死んで頂きます」
 水無月は『竜の翼』を使用して、キメラの先回りをして攻撃を仕掛ける。だが、キメラは横に動いて逃げようとした――けれど。
「その動きは見逃さないな、行かせないよ?」
 ドニーが軽い口調で話しかけながら攻撃を仕掛ける。
「‥‥笑うな‥‥」
 死の淵に立たされているというのに、キメラは何故か笑みを浮かべたまま。それがティリアの気に入らなかったのだろう。
 他の能力者にとっては、何でもない事でもティリアにとっては『お前も同じだ』と言われたような気分に陥ったのだろう。
「笑うな‥‥‥‥! ボクは、お前とは違うんだ!!」
 大きな声でティリアが叫んだ後、幡多野が『ソニックブーム』を使用して足止めをした後にティリアが『円閃』と『スマッシュ』の複合技を使用してキメラにトドメを刺したのだった‥‥。
「是結束、祈願冥福」
 ドニーがキメラを見ながら呟く。この言葉の意味は『終わりだ、そのまま静かに眠るといい』と言うのだと後から彼によって聞かされる。


―― 癒される魂、報われぬ魂 ――

 キメラを退治した後、能力者達は帰還の前に犠牲となった家族に祈りを捧げる事にした。
「楽しいキャンプに‥‥なるはずだったんだよ‥‥ね‥‥」
 幡多野が花を一輪置きながら、ぽつり、ぽつりと呟く。
「仇は‥‥取ったから‥‥。どうか‥‥安らかに‥‥眠って‥‥」
 現場で手を合わせながら幡多野が呟くと、その隣にレヴィアも座って手を合わせながら目を閉じる。
「仇は討ちました‥‥どうか安らかに眠ってください」
 そして水無月も花束を置いて手を合わせて「‥‥どうか、安らかにお眠りください」と少しだけ震える声で呟いた。
「それじゃ、本部に報告しなくちゃいけないし、そろそろ帰ろう」
 MAKOTOが立ち上がりながら空を仰ぐ。
「‥‥きっと、今頃家族みんなで‥‥空の上で楽しくしてます‥‥よね‥‥」
 幡多野が呟き「‥‥そうであると信じたいです」とレヴィアが言葉を返して、MAKOTOと同じように空を仰ぐ。

 その後、能力者達は報告の為に本部へと帰還していったのだった‥‥。


END