●リプレイ本文
―― いい加減、自分の褌の価値に気づいてください ――
「俺の褌が‥‥バグアに盗まれたんだ」
くっ、と心から悔しそうな表情の大石・圭吾(gz0158)が低い声で呟く。
「うわぁ‥‥」
神城 姫奈(
gb4662)が冷めた目(しかもジト目)で見つめる――というか睨んでいる。
(「そういえば‥‥父さんも褌を使ってたっけ‥‥」)
大石(の褌)に父親の面影を見たのか実家の家族に思いを馳せる。
「みんな、元気かなぁ‥‥って来て早々ホームシックだなんて、私らしくもない!」
よ〜し、頑張るぞ、と言葉を付け足して神城は仕事に専念するように首を振る。そんな彼女を見て御崎緋音(
ga8646)が少しだけ複雑そうな表情を見せていた。
(「まさか姫奈さんまで能力者になっちゃうだなんて‥‥でも久しぶりに会えて嬉しかったなぁ」)
確りサポートしてあげなくちゃ、心の中で呟き任務を遂行しようと決めたのだった。
「しっかしまた褌盗られるなんて‥‥奇特な人がいるもんだよねー‥‥いや、いないのかな」
苦笑しながら呟くのは香坂・光(
ga8414)だった。本当に今回の褌紛失事件に犯人が居るのならば彼女の言う通り『奇特な人』で現在『危篤状態』かもしれない。
何故なら洗濯前の褌なのだから。洗濯前に褌なのだから。大事な事なので二度言っておく。
「洗濯前の褌‥‥そういうのがあちこちに散らばってしまったのですか‥‥早く回収しましょう」
僕も協力します、と大石唯一の弟子である千祭・刃(
gb1900)がぐっと拳を握り締めながら呟く。
「そうですね、和装する時に褌は欠かせないアイテムなので此方に来てから幾つか買い求めましたが‥‥ばら撒く程は持っていませんね‥‥」
辰巳 空(
ga4698)が引きつった表情で呟く。彼の言葉に「違う! 盗まれたんだ!」とあくまで自分の褌価値を上昇させる大石。何処まで自信過剰なのだろうか、この男は。
「そういえば褌を探す為に猟犬っぽい犬、賢そうな犬を借りる事は出来ませんか? 匂いを覚えて貰えば褌捜索も少しは楽になるかと思いまして」
鳳 つばき(
ga7830)が大石に問いかけると「おお、借りておいたぞ」と本部の外を指差す。どうやら此処まで連れてきているらしい。
「まったく‥‥大石の奴、何をしてるかと思えば」
CM撮影に向かう途中、大石と限りなく似ている少年――天道・大河(
ga9197)が呆れたように呟く。
「ともあれ、褌を探すんですね? 了解です」
アリエーニ(
gb4654)が金色の髪をかきあげながら呟く。しかしその心の内は‥‥。
(「褌なんか、誰が盗むんですか‥‥しかも使用済み洗濯前の褌を‥‥」)
アリエーニが心の中で愚痴っていると「宜しく頼むな、皆! 俺の褌の為に」と大石が抱きついてくる、ぶっちゃけなくても暑苦しい。
「何をするんですか―――っ!」
どか、ばき、ばきゃ? と鈍い効果音が響き大石が本部の冷たい床に沈む。
「それでは、いきましょう」
アリエーニは倒れる大石をそのままにさっさと任務を終わらせる為にLHの中に散らばる褌を探しに出かけたのだった。
―― 褌を求めて‥‥ ――
能力者達は大石の褌を回収する為に個人で動く者、何人かで組んで動くものと様々だった。
「お洗濯前の物、と言う事で臭いにやられないように‥‥どうぞ」
御崎は大きめのビニール袋とマスクを差し出しながら呟くが「俺のは臭くないいいっっ」と暑苦しい顔を接近させながら大石は暑苦しく泣き始める。
「きゃあ、暑苦しいっ‥‥」
思わず御崎は拒否してしまい、大石の心はバキバキとひび割れしていた。
※辰巳※
大石の褌が盗まれた発言は置いといて、散らばった褌は余程の事がない限り遠くへ行く事はないだろう。
「先ずは現場周辺から回収に入り、更なる飛散を防止する事が優先ですね」
辰巳は呟き、大石の同級生である女性が褌を散らばらせた場所から回収に入る。その際にビニール袋とマスク、そして木の棒を持参していた。
「先ずは一枚‥‥」
現場周辺の看板に引っかかってひらひらと風に靡く褌を見つけ、辰巳は『合金軍手』で手をガードして、尚且つ木の棒で絡めるようにしてビニール袋に入れていく。
「これは、分の悪い時間勝負ですね」
一枚が見つかり、周りを見渡すが近くに褌がある気配はない。
「風向きを聞くまで迂闊に動けませんね」
辰巳は呟き、気象庁に問いかわせている鳳からの連絡を待つ事にしたのだった。
※鳳※
「分かりました、ありがとうございます」
鳳は電話を切り『トランシーバー』を使用して気象庁から得た風向きの情報を能力者達に知らせる。
「さて、あたしも探しに行かなくちゃ。頼みます、名犬ラッキー殿」
大石が借りてきた犬、確か鳳は『賢そうな犬』を注文したのだが何処からどう見ても馬鹿犬にしか見えない。しかも名前は『ベン』であり、決してラッキーではないのだが鳳は『ベン』を無視してラッキーと呼んでいた。
「‥‥ぶふぇっ」
大石の褌(一応洗濯済み)の匂いを嗅がせたのだが、ラッキーは物凄く顔をしわくちゃにしそっぽを向いた。
「えええ‥‥ラッキー殿、終わったら美味しいものを(大石さんが)ご馳走するから頑張ってください」
ご馳走という言葉に反応したのか、ラッキーはキランと目を輝かせていきなり走り始める。走るラッキーを追いかけながら鳳は電柱や屋根に引っかかっていないかを確認する。
そして十分程度走ってたどり着いたのは公園だった、ラッキーは「我やったり」的な表情で地面に座って寝ようとしている。
仕方ない、と鳳は聞き込みをして褌を見なかったか探す事にしたのだった。
「すみません。えーと、風に舞った下着みたいな布が飛んで行きませんでしたか?」
あまり警戒を与えないようにフレンドリーな態度で聞き込みを行い、変な先入観を防ぐ為に褌という言葉は使わなかった。
「下着みたいな布? さぁ‥‥俺は見なかったけど、何か見た?」
男性は連れていた彼女に問いかけると「探してるのかは分からないけどあっちに白いのが木に引っかかってたよ」と少し向こうを指差しながら言葉を返してきた。
「ありがとうございます」
鳳はそのまま女性が指差した木の元へと向かうと確かに白い褌がひらひらと靡いている。
「褌は慣れてますが‥‥他人の使用済みに触るのは少し抵抗が‥‥」
じゃきん、と『合金手袋』を装着して、まるで汚いものでも触るかのように(実際に汚いのだが)摘んでビニール袋に入れる。
「ふぅ‥‥ある意味キメラですね」
鳳は呟き、視線を移すと数枚の褌が視界に入り、そのまま回収に向かったのだった。
※香坂&千祭※
「刃さんよろしくね〜。大石さんの褌、さっさと見つけちゃおう☆」
香坂と千祭は遠距離捜索担当で千祭のAU−KVに香坂が乗る事になっていた。運転は千祭が行うが、ナビ&能力者達の連絡などは香坂が行う事になっている。
「では、ふんど師匠の褌回収に向かいましょう」
ぶぉん、とバイクをふかして褌回収に向かう。ちなみに走っている間、そこら中から注目を浴びているのは香坂が褌にサラシという格好をしているからかもしれない。
「そういえば何で褌姿なんですかー?」
走りながら千祭が問いかけると「褌の気持ちを知る為にはまず褌と仲良くならないとね! 褌は友達!」
(注意・褌をつけると褌の気持ちが分かるという効果はありません)
「褌をつけていればきっと褌の方から寄ってきてくれるのさ♪」
(注意・褌に誘導効果はありません)
暫く走り続けた所で「止めて!」と香坂が叫び、千祭はAU−KVを止める。そこは何かの工場でトラックの上に数枚の褌が靡いているのが見える。
「砂利を積んでいるトラックかぁ‥‥途中で落ちなかったのが幸いだね☆」
香坂は呟きながらひょいっと褌をビニール袋に入れて回収していく、しかし千祭はぷるぷると震えながら褌に手をかざしているだけだった。
「見つけた‥‥けど‥‥」
(「臭い‥‥キツそうです‥‥でも師匠のだからなぁ‥‥」)
彼の中では悪魔と天使が現在奮闘中である。
(「悪・うっわ、臭っ。止めとけって! こんなん触って手が腐ったらどうすんだよ」)
(「天・いけません、これは師匠の褌なんですよ? 貴方には師匠を思う気持ちがないのですか?」)
ぶるぶると震える中、妙な汗が千祭を襲う。意を決して拾おうとした時「何してんの?」と香坂がひょいと褌を摘んでビニールへと回収する。
「ふんど師匠! 褌を見つけましたよ」
先ほどまでの動揺を隠す為か声を大きくしながら叫び、連絡を行ったのだった。
※御崎&神城※
「風向きからすると、飛んでいってもこっちだから‥‥あっちを探してみようかな」
神城が地図を開きながら呟き、通りかかる人達に話を聞いていく。
「すみません。この辺で褌を見ませんでしたか?」
神城が男性に話しかけ、御崎は女性へと話しかける。流石に直ぐに見かけたという人物に遭遇する事は出来ず、5人目に話を聞いてソレらしいものを見つけたという事を聞き出す事が出来た。
「褌かは分からないけど、白いのなら見かけたよ――って言うか能力者って下着探しもするんだな‥‥何か意外だよ」
男性は御崎と神城を見ながら苦笑しながら話しかけると「え、えぇ‥‥まぁ」と二人は苦笑しながら言葉を返したのだった。
「あ、あった」
男性に聞いた場所へと向かい、褌を見つけた二人だったが――‥‥。
「ぼ、墓地‥‥しかも墓石の上に乗っかってる‥‥何て言う罰当たりな‥‥」
神城が怒りから手をふるふると震わせながら呟く。
「う〜‥‥汚いなぁ‥‥でも回収しないと‥‥」
神城がかなり嫌そうな表情をしながら摘んで回収する、その際に絶対に素手で触らないようにする。
「やっ、何か臭うっ!? ‥‥も〜、いや〜〜っ」
瞳に涙を一杯溜めながら文句を言うが「確かにコレは‥‥でもお仕事ですから、ね?」と神城を宥めながら話しかける。
「もういやだ〜〜〜〜っ、何でこんなの落とすの〜〜、何でこんなの仕事でさせるの〜〜〜」
しくしく、と泣きながら神城はその場にあった褌3枚を回収して他の能力者達に連絡を行ったのだった。
※アリエーニ&大石※
「あたしが運転するから、大石さんはバッグ持って後ろに乗ってください」
アリエーニはバッグを大石に渡しながらAU−KVに乗る。
「偉い大荷物だけど何が入ってるんだ?」
大石が問いかけると「トング、ロープ、クーラーボックス、マスク、消臭スプレーです」と簡単に言葉を返した。
ちなみに大石は「ふぅん」と聞いていたが、それら全てが大石の褌に対する防御策だと言う事には気がついていない。今更ではあるがBAKAなのである。
(「あ〜‥‥後ろが暑苦しいけど我慢‥‥お仕事ですからね」)
運転しながらアリエーニは心の中で呟き、住宅街へと足を運ぶ。木の上や公園、トラックの上の褌は既に回収したと連絡があったので住宅街にもないだろうかと考えたのだ。
「この辺のマンションとか、飛ばされてきている可能性があるかもしれませんね」
少し走った所にある住宅街でAU−KVを止めて、マンションの前で井戸端会議をしているおばちゃん達に目をつける。
「すみません、この辺で褌を見ませんでしたか?」
アリエーニが問いかけると「そこにあるわよ」と大石を指差す。
「いえ、こんな変態的なものではなくて普通の(使用済み)褌です」
何故かポーズを取る、大石をロープで拘束して「そういえば田中さんの家のベランダに引っかかってなかったかしらね」と一人のおばちゃんが呟く。
「そういえば、確かに! あそこのご主人は褌じゃないのにねぇ」
何で人様の家の下着事情まで知っているのかとアリエーニは心の中でツッコミを入れたが、まずは褌情報を入手するのが先だと思い、口にする事はなかった。
「分かりました、行ってみます。ありとうございました」
丁寧に頭を下げた後、ロープで拘束した大石を引きずりながら『田中さん』の家を目指したのだった。
「あら、貴方達これの持ち主だったの」
田中さんの家に行くと褌をビニール袋に入れて持ってきてくれた。どうやら田中さんも困っていたらしい。
「ちなみに隣と一部屋飛ばしてその次の部屋にも紛れ込んでいるみたいだから引取りに行ったらどうかしら」
田中さんの言葉に礼を言って、アリエーニは褌が紛れた場所へと向かい始めたのだった。
※天道※
「いくらなんでも数キロに渡って全部の褌が万遍なく散らばっているとも考え難い‥‥意図的にばら撒いたんじゃなければ、な」
天道は苦笑しながら褌をばら撒く大石の姿を思い浮かべる。
「条件が同じなら、気流やら建造物やらの関係で褌の集まりやすい場所、引っかかりやすい場所というものが当然ある」
地図に赤ペンで褌が見つかった場所に印をつけながら呟き、一般人に聞き込みを行う事にした。
「きゃああああああっ」
「ちょっと待てぇーっ! 聞きたい事があるーっ! 大石の褌は何処だぁーっ!」
誰か変質者よーっ、という叫びが響き「俺は変質者じゃない!」と言葉を返しながら逃げ惑う一般人を追いかける。実際は変質者じゃないのだが、行動は立派な変質者に近いものがある。
「こ、ここらで野ざらしになっている褌を見なかったか?」
走ったせいで息を荒くする天道に一般人の恐怖はより駆り立てられる。
「おい! お前! 一体何をしている!」
男性が女性を助けようと話に入ってくるが「UPCの傭兵だ! 決して怪しい者じゃない」と天道が言葉を返す。
「‥‥‥‥嘘だ!」
男性は天道を見ながらツッコミを入れる。確かに傭兵には見えないのだろう。
「俺は野ざらしになっている褌を探しているだけだ! 何処にあるのか知らないのか」
天道も少し自棄になったように叫ぶと「噴水に落ちているのを見たけど‥‥」と男性も天道の迫力に押されて答えてしまう。
「よし、噴水だな!」
天道は噴水まで走り、ぷかぷかと浮いている褌を回収したのだった‥‥。
―― お疲れ様でした ――
「29枚、確かに全て集まりましたね」
辰巳がビニール袋に入れられている褌を見て、大石へと返す。
「おおおっ、ありがとう! 本当にありがとう!」
大石は感激したように叫び、褌に頬ずりをする(汚いから真似しないで下さい)
「ふんど師匠、それは僕が洗います」
千祭が洗濯を申し出て「任せたぞ、弟子よ」とビニール袋をズイッと渡す。しかし千祭はゴム手袋、マスクと完全防御で洗濯を始めるようだ。
「し、失礼だぞ! 弟子よ!」
「ち、違います。洗剤かぶれと洗剤の匂いがキツいからですよ」
慌てて千祭はフォローするが、やはり大石は馬鹿なので納得して「そうか」と言葉を返した。
「大石さん、褌の事で困った事があったらいつでも呼んでくれ!」
きらんと歯を輝かせながら鳳が叫び、大石に握手を求める。
その後、能力者達は報告を終えた後、消毒の為に一斉に風呂へと向かいだしたのだった。
END