●リプレイ本文
―― 東を司りし龍神・青龍登場 ――
「とうとう青龍のお出ましね‥‥」
林・蘭華(
ga4703)がため息混じりに呟く。
「あぁ、青龍まで来たな‥‥俗に言う聖獣は、これで最後だな‥‥気を引き締めて行こう」
ヴェイン(
ga4470)が林に言葉を返す。この二人は聖獣と冠するキメラ、今回の青龍で四体目なのだが、過去の『聖獣』を全て撃退している。
「今回で一応は最後ですか、皆さん宜しくお願いします」
天狼 スザク(
ga9707)がぺこりと丁寧に頭を下げながら今回一緒に『青龍』を退治に向かう能力者達に挨拶を行う。
「宜しくっ、隠しボスで麒麟や黄龍でも出てこない限りはラストだね♪」
九条・護(
gb2093)が笑いながら言葉を返す。
「キメラは水攻撃を得意とするんだね‥‥一般人の事も考えるとやりにくい場所だ」
楓姫(
gb0349)が資料を見ながらため息混じりに呟く。今回の戦闘場所となるであろう所は山の中、しかも台風などが来れば必ずと言っていい程に土砂崩れが起きている地盤の脆い場所だ。戦闘の仕方によっては大惨事となるかもしれないと言う事が能力者達に僅かな緊迫感を与えていた。
「それに‥‥」
楓姫は『青龍』と名づけられたキメラの名前を冷たく、厳しい目で見る。
「青龍ねぇ、聖獣って普通人類の味方じゃね? ‥‥ん? どうした?」
風見トウマ(
gb0908)が資料を厳しい目で見る楓姫に問いかけると「‥‥いや、何でもない」と資料から目を逸らしながら彼女は言葉を返す。
「ん‥‥? 思えばまともな戦闘は初めてだ」
おお、と紅月・焔(
gb1386)は思い出したように呟く。しかし全く経験の無い素人と言う訳でもないので何とかなるだろう。
「高位に属する龍の中の龍‥‥腕がなるね」
翡焔・東雲(
gb2615)が「ぽき」と指を鳴らしながら呟く。
「先ずは住人達に避難勧告だな、急いで向かおう」
ヴェインが呟き、能力者達は本部から出発して『青龍』が暴れている山へと向かい始めたのだった。
―― 脆き山、唸る龍の咆哮 ――
「まずは避難勧告だね、前に青龍が暴れた時も土砂崩れが起きたみたいだから素直に避難してくれると思うけど‥‥」
翡焔が呟くと「そうだな、万が一の時も想定しておかないといけないしな」と風見が言葉を返す。
「何か青龍に関しての情報も教えてもらえればいいんだけどね〜」
九条が呟き、能力者達は情報収集と避難勧告の為に民家へと向かい始めたのだった。
「アンタ達があの化け物を退治に来てくれた人たちか、見れば若いのに感心だねぇ」
最初に向かった家では老人夫婦が二人で住んでおり、近所の住人らしき老人達が能力者達を見て頭を下げ、釣られるように能力者達も頭を下げた。
「これから退治に向かうんですけど、万が一の時を考えて住人の皆さんには避難していてもらいたいんです」
天狼が老人達に向けて言葉を投げかけると、老人達は互いの顔を見合わせて「うぅん、この場合は仕方ないねぇ」と老人達は立ち上がって簡単に荷物を纏めて避難を始める。
「あ、ちょっと待って」
九条が避難を始めた老人を止めて「青龍に関して何か情報ないかな? 出現範囲とか行動、能力とか分かるとありがたいんだけど」と話しかけると『自分達は分からない』と言う言葉が返って来た。
「そういや、隣のゲン君が見たとか言ってなかったかねぇ?」
一人の女性が呟き、能力者達はゲンという人物の所へと向かう事にした。ゲンという人物は能力者が来た事で避難を始めようと荷物を纏めている最中だった。
「貴方がキメラを見たと聞いてやってきたのですが‥‥」
楓姫がゲンに問いかけると「あぁ、散歩に行った時に見たな」と思い出したように言葉を返す。
「だったら何か情報を持ってないか? 些細な事でも構わないんだが‥‥」
ヴェインが問いかけると「空を飛んでる所を見ただけだから役には立てねぇよ」と申し訳なさそうに言葉を返してきた。
「そう、やっぱり実際に探して自分の目で見ないといけないわね」
林がため息混じりに呟くと「申し訳ねぇ、代わりと言っちゃなんだが避難の知らせは俺がしておくから山の方へ向かってくれよ」とゲンが提案してきた。
「ふむ、それは助かるな。だったら遠慮なく山の方へ向かわせてもらおうか?」
紅月が呟き、能力者達に意見を求めると「そうだね、こうしてる間も暴れる可能性があるからね」と翡焔が言葉を返し、能力者達は避難を任せて山に向かう事にした。
「‥‥よし、ここからは別行動だ」
山の入り口に近づくとヴェインが小さく呟き、予め立てていた作戦の班で行動を行う事にした。
A班・ヴェイン、林、天狼、楓姫の四人。
B班・風見、紅月、九条、翡焔の四人。
両方の班とも『青龍』を探す上で戦って土砂崩れの起きにくい場所を探しながら捜索を行う事になっていた。
「さぁて、青龍を見つけてさっさと退治しに行きますかね」
風見は伸びをしながら呟き、同じ班の仲間達と山の中へと入っていったのだった。
※A班※
「そういえば、二人が持ってるワイヤーって何ですか?」
天狼はヴェインと林の持っているワイヤーを指差しながら問いかける。
「確かに、少し気になっていた」
楓姫も二人の持つワイヤーを見ながらポツリと呟くとヴェインと林の二人は顔を見合わせて「青龍に遭遇した時に体に巻きつけて引っ張れればと思って」と林は苦笑しながら言葉を返す。
「実際に通用するかは分からんが、引きずり落とせればラッキーだと思ってな」
ヴェインが呟くと「何事もしないうちから出来ないと決め付けるのはいけないですからね」と天狼が言葉を返し、楓姫も首を縦に振る。
その時、楓姫が足を止めて「あそこ‥‥他の場所よりは地盤が強そう」と指差しながら呟く。三人が視線を向けると、確かに少しの衝撃では土砂崩れは起きそうにもない。よく見れば他の場所と違ってまだ土砂崩れが起きた形跡も感じられない。
「こちらA班、少し地盤が強そうな場所を見つけました、戦闘は此方で――」
楓姫の声が途絶え、何事だろうと三人が視線を移すと彼女の『トランシーバー』から武器がぶつかる音が響いてくる。
それと同時に少し離れた場所から照明銃の光が見える。
「戦闘中なんだわ‥‥」
林が少し焦りを見せた口調で呟き「場所の特徴を言って、こっちに移動してもらおう」とヴェインが呟き、楓姫は自分達がいる場所の特徴をB班へと伝えたのだった。
※B班※
時は少し遡り、B班はまだ青龍と遭遇する前だった。
「町の家屋配置情報と山とを比べれば、土砂崩れがあった場合は確実に大小の被害が出るね。何でああいう町の作りにしたんだろ、むしろ何であんな配置の許可をしたんだろ」
九条は青龍を捜索しながらぶつぶつと文句を言いながら山の中を歩いていく。
「もう少し高い所に行かないと、空全体を見渡せないかな‥‥」
翡焔は空を見上げながら呟く、確かにまだ下の方にいる為に空全体を見渡せない。もしかしたら崖などで隠れている部分に青龍が飛んでいる姿が見える場所があるかもしれないと思い、翡焔を含む能力者達は上へと目指していく。
「もし青龍を発見しても町の方向に行かせないようにする事を頭に入れておかなくては‥‥」
空を見上げながら紅月が呟き、能力者達がより周りを見渡せる場所へと到着した瞬間だった。
突然能力者達の周りに黒い影が生じ、それと同時に耳を劈くようなけたたましい音が響く。四人の能力者達は勢いよく上を見ると龍型のキメラが獲物を狙うような視線を向けている事が分かる。
「おやおや、これまたスゲーのが相手だこと。気分は某狩りゲームか? 猫連れて来りゃ良かったぜ」
風見は『コンユンクシオ』を構えながら青龍を見る。やはり崖が影となって青龍を発見する事が遅れてしまったのだろう。
「皆、分かってるよね? ここでは‥‥」
九条が引きつった笑みを浮かべながら問いかけると「あぁ、分かってる」と紅月が言葉を返す。能力者達が立っている場所、そこは何度か土砂崩れを起こした事があるのかきっちりと補強されている。
「補強されてるから問題ない、と思いたいけど――何度も補強した後があるから地盤そのものが弱いんだろうな」
風見が呟くと、青龍が町の方へと方向転換する動作を見せた。
「このままじゃ町の方に‥‥」
九条が呟いた時だった、A班の楓姫から「戦闘に適した場所を発見した」という連絡が入ったのは。
「お前の相手はこっちだろうが!」
紅月が少し声を荒げて『H−11照明銃』を青龍に向けて放つ、ダメージは与えなかったが、青龍の動きがぴたりと止まり、顔だけを能力者達に向ける。
「とりあえず、何としてでもA班との合流地点まで急ごう」
九条はくるりと背中を向けてA班が教えてくれた場所まで走る、攻撃された事により青龍の標的が完璧に能力者達に向いているのか走って逃げる能力者を追いかけて青龍も移動を始め、10数分後にA班と合流して青龍との本格的な戦闘が開始したのだった。
―― 最強の四神 VS 能力者達 ――
A班とB班が合流して戦闘を開始し、最初に攻撃を仕掛けたのはヴェインだった。
「本当は奇襲を仕掛けられたら最高だったんだがな‥‥っ!」
ヴェインは呟きながら小銃『S−01』で青龍に攻撃を仕掛ける、しかし鱗部分が固いのか大きな効果は望めなかった。
「やはり、そう簡単には堕ちてくれないか」
ちっ、と忌々しげに呟くと覚醒を行い『朱雀』へと変わった天狼が小銃『S−01』に装填した『貫通弾』で攻撃を仕掛ける。
いきなりの攻撃に青龍は奇声を上げ、その瞬間を狙ってヴェインと林はワイヤーを左右から投げつけて青龍の動きを封じる事を試みる。
「本物の青龍は‥‥一匹でいい‥‥」
楓姫は狙撃銃『狩姫』を構えながら低く呟く。彼女の師が『青龍』という名前で知られており、同じ名を持つキメラに嫌悪している自分がいた。
「伝承と同じなら‥‥角が力の源らしい、あなたはどうなんだろう」
楓姫は呟きながら青龍の額に鋭く光る角を狙って射撃を行う。ワイヤーで僅かながら動きを止められた青龍は楓姫の攻撃を直に受けるが、あまり大きなダメージは無い。
「危ない!」
風見が叫び、能力者達がハッとして青龍を見る。すると青龍は口から水を吐き出し、能力者達に攻撃を仕掛けてくる。
「土砂崩れが‥‥っ」
青龍の勢いある攻撃によって崖の土砂がズズズと音を立てて崩れ始める。
「きゃああああっ!」
誰が叫んだのか、能力者達は分かっていないだろう。突然の土砂崩れが自分達を襲い、死の危険に晒されていたのだから。
「‥‥ぶはっ!」
風見が土の中からぼこりと手を伸ばし、地上の酸素を吸いこむ。
「水ならともかく土石流は勘弁!」
げほ、と口の中に入った砂利を吐き出しながら呟く。
「‥‥まだ死んでないのに埋められるのはゴメンだ」
なぎ倒された木によって負傷したのか紅月がわき腹を押さえながら苦痛の表情を浮かべる。
「何とか、町の方までは被害はなさそうだね――次はもたないだろうけど」
勢いはあったが、小さな土砂崩れで済んだおかげで町の方への被害は無い。しかし九条が言う通り、次は恐らく大きな土砂崩れとなって町への被害が確実に出るだろう。
「次、同じ攻撃が来たらまずいって事か‥‥」
小さな土砂崩れだったお陰で能力者達は負傷したものの、動けない怪我ではなかった。
「面白い、あいつを倒して初めて『金色の朱雀』を名乗れそうだ」
天狼は口に入った砂利を吐き出し、攻撃態勢を取る。しかし青龍は空を飛んでおり、接近戦では確実に武器が届かない。
「数は少ないから限られるけど、コレを使って攻撃してみるわ。朱雀のように翼で飛んでいるわけじゃないから弾かれる事もないでしょう」
林は呟きながら『弾頭矢』を構える。それを見た紅月も『貫通弾』を装填した『クルメタルP−38』を構え、林が攻撃を仕掛けた少し後に発砲する。
最初に攻撃が当たり、続いて『貫通弾』で攻撃を受け、青龍はうめき声のようなものを発しながら苦しそうに体をくねらせる。
しかしまだ降りてくる気配は感じられず、紅月は『H−01煙幕銃』を使用して青龍の周りに煙を巻きたてる。
これは彼にとってカケだった、上手くいけば降りてくる、最悪の可能性になると更に上昇する。しかしこれ以上もう方法がなかった。
「きた!」
煙に耐えかねて青龍が下へと下降してくる、それを見て九条は『シルフィード』で攻撃を仕掛ける。
「はっはっは〜! 鰻のように蒲焼にしてやるよ!」
九条は攻撃を仕掛けながら叫ぶ、そして青龍に攻撃、更に空へ逃げるチャンスを与えてはならないと翡焔が『瑠璃瓶』と『スコーピオン』で尾の方から射撃を行う。そして弾数が切れると『蛇剋』へと装備を持ち替えて『豪破斬撃』と『急所突き』を使用して攻撃を仕掛けた。
「流石にここは弱いだろ、ドラゴン殺しは最高の名誉ってやつ? だから叩きのめす!」
風見は『紅蓮衝撃』と『流し斬り』を使用して青龍の腹部を狙って攻撃を行う、そこだけは鱗で覆われておらず皮膚が見えていた。だから攻撃が通用すると彼は考えたのだろう。
そして風見が攻撃を終えるとヴェインが『アーミーナイフ』で攻撃を仕掛け、林が『弾頭矢』を使用しながら攻撃を仕掛けた。
「これ以上、手間をかけさせないで」
楓姫は『血桜』へと武器を持ち替えながら攻撃を仕掛け、トドメに天狼が「逝っとけ、青蛇があっ!」と叫びながら全てのスキルを使用して攻撃を仕掛け、青龍を退治したのだった。
―― 最後はもう恒例でしょう ――
青龍退治をした後、町へ土砂崩れの被害がある事を報告しなくてはと能力者達は話していた。
「ほうほむ‥‥」
その中で紅月は何処か妖しげな呪文を唱えながら『活性化』を使用して回復を行っている。
「流石に‥‥今回はやめておいたか?」
ヴェインが苦笑気味に天狼に呟くと「‥‥此処まできたら青龍も料理しないと」と林が天狼を炊きつける。
「異議なし! めちゃくちゃ異議なし!」
まるでその言葉を待っていたかのように天狼が手を挙げて叫び、早速料理に取り掛かる。
「‥‥食べるのか?」
翡焔が引きつった表情で呟くが、既に天狼は嬉々として料理を行っており、もはや誰にも止める事は出来ない。
その後、出来上がった料理は見た目は恐ろしいほどに見栄えのするものだった。
「さぁ、食べよう、今すぐ食べよう」
天狼は湯気の立つ料理を満面の笑顔で食べ始める、そしてその笑顔のまま青ざめていく。まるで漫画のように。
「胃腸薬、準備してきて良かったわ‥‥」
好奇心に勝てず、林も食べたのだが予想通りの展開に少しだけ泣きたくなった。
「良かった‥‥最後にネタがあった‥‥っ」
何故か紅月だけは楽しそうに食べ、そして倒れる。能力者達に分かったこと、それは『聖獣は美味しくない』という事だった。
その後、能力者達は報告の為に本部へ帰還したのだった。
END