タイトル:朱の更紗・夕闇マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/26 02:23

●オープニング本文


痛い、そう思えるのはボクがまだ生きているから。

隣に倒れている人は、もう――痛いと泣き喚く事も出来ないのだから。

だから、泣くにはまだ早い。

※※※

スナイパーの荻城・更紗が傷だらけになって本部に帰ってきたのは一時間ほど前の事だった。

何でも建設中のビルの所で戦闘になってしまい、キメラは倒したけれど鉄骨などが落ちてきて怪我をしたのだと彼女は答えた。

「あんた一人だけ? 他にも3人ほど能力者が同行してたわよね」

女性能力者が呟くと「‥‥鉄骨で」と呟きながら更紗は俯いた。

更紗の表情を見る限り、3人の能力者が生きているとは思えず「‥‥そう」と女性能力者は小さく言葉を返した。

「あの、ボクは直ぐに動けますか?」

更紗が医師に問いかけると「二週間は安静にしておいた方がいいんだが、何故だ?」と男性医師はじろりと更紗を見ながら呟く。

「実は‥‥もう一つ仕事を受けてて――」

そう、更紗はもう一つ仕事を請け負っていた。

だから、行かねばならないと真っ直ぐ医師を見ながら話す。

「残念だが、その仕事は諦めた方がいい。無理をすれば体に負担がかかり、より長い安静期間が必要になる。
それに――その体で行ってもまともな仕事は出来まい」

医師の言葉に更紗は再び俯く、彼の言うとおりだからだ。

足手まといになるような事だけは控えたくて「‥‥分かりました」と呟き、一緒に同行するはずだった能力者達に連絡を入れたのだった。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
ナナヤ・オスター(ga8771
20歳・♂・JG
九条・護(gb2093
15歳・♀・HD
水無月 湧輝(gb4056
23歳・♂・HA
黒羽 空(gb4248
13歳・♀・FC
シルヴァ・E・ルイス(gb4503
22歳・♀・PN
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD

●リプレイ本文

―― 動けぬ更紗の代わりに ――

「‥‥ボクって何処までも駄目だなぁ‥‥」
 医師から最低二週間の安静を言い渡された更紗はベッドシーツを強く握り締めながら呟く。
「何だろう‥‥外が騒がしい?」
 病室の外から聞こえてくる少し騒がしい声に更紗が顔を向けた瞬間、病室のドアは勢いよく開かれ、更紗は少しだけ戸惑う。
「じゃじゃんっ! お見舞いに来たよ〜」
 勢いよく開かれたドアから最初に現れたのは九条・護(gb2093)だった。その手にはフルーツ盛り合わせが持たれている。
「傷の具合はどうですか?」
 続いてナナヤ・オスター(ga8771)もドアから顔を覗かせながら病室へと入ってくる。
「今回は大変でしたね。でも更紗さんだけでも生き残って良かったです」
 乾 幸香(ga8460)が少し不安げな表情で更紗に話しかける。生き残った、と言う言葉に更紗の表情が曇り「あ」と乾は手を口に置く。
「ボク‥‥だけが生き残った‥‥」
 ぎゅう、と手が真っ白のなる程にシーツを強く握り締めながら呟く。
「‥‥あまり、考え込まない方がいい。治るものも治らなくなる」
 俯く更紗にシルヴァ・E・ルイス(gb4503)がポツリと呟く。彼女は壁に背を凭れて様子を見ていたが、自分を責める更紗に思わず口が出てしまった。
「そうです。亡くなった傭兵の皆の分まで更紗さんには生き残って戦う責任が生まれたんですから、焦らなくても良いですからきちんと体を治して、次の仕事に向かうようにして下さいね」
 乾が更紗の肩を軽く叩きながら話しかけると「‥‥うん」と言葉を返す。
「そうそう、とりあえず最低5日は養生に専念ね。能力者特有のお便利能力のお陰で5日あれば大抵の怪我はどうにかなるし、万全の状態を整えるのも仕事のうち、傷が塞がるまではこれでも食べてご自愛を〜」
 九条は持参してきたフルーツ盛り合わせを渡しながら更紗の胸をもぎゅと掴む。
「‥‥っ!?」
 更紗を含め、その場にいた能力者が驚きで目を見開く。
「ボクよりかなり小さいね、駄目だよ。ちゃんと食べなくちゃ育つモンも育たなくなるよ」
 ある意味、精神的ダメージを与えている事に九条は恐らく気がついていない。
「九条さんが育ちすぎなんです‥‥ふふ」
 少し笑みを見せた更紗に「ん、更紗おおけが‥‥しんぱい」と舞 冥華(gb4521)が小さな声で呟く。
「だから、安心出来るように依頼成功にがんばる」
 舞が更紗の前に立って穏やかな笑みを浮かべて話しかける。
「いやいや‥‥キメラ戦も一ヶ月ぶりですか‥‥新年キメラ染め、代役でどうかと思いますが、頑張っていこうと‥‥」
 辰巳 空(ga4698)が「確り養生してください、これは医者としての言葉です」と辰巳が更紗に話しかける。彼は強さを極める中で医術さえも修めていた。
「今回は俺達で十分だろう。ゆっくり寝ておけ」
 水無月 湧輝(gb4056)がぽんと更紗の頭を軽く撫でて病室から出る。
「そうそう、後は俺達に任せて、ゆっくり休んどけよ? 無理したっていい事ないからさ」
 黒羽 空(gb4248)が病室を出る前にビシッと指差して更紗に念を押す。
「さて、お見舞いも終わりましたし任務へと向かいましょう」
 ナナヤが呟き、能力者達は『馬型キメラ』が潜む町へと出発したのだった。


―― 能力者 VS 炎の馬 ――

 今回は馬型キメラを町の中央にある噴水公園におびき寄せてから戦闘を行う作戦を立てていた。
 その為に能力者達は班を三つに分けて、それぞれの役割で行動を開始し始める。
 町の偵察にはナナヤ。
 公園への誘導は九条、舞の二人。
 そして公園にて待機するのは黒羽、乾、辰巳、水無月、シルヴァの5名。その中でも水無月は公園から近い建物の上に陣取って長弓『桜花』で攻撃を仕掛けるらしい。
「それでは偵察に行ってきますね」
 最初にナナヤが先行して町へと進む、情報にあった通り町の規模は小さく、キメラを見つける事自体は容易に出来るだろう。
「さて、更紗さんに心配をかけさせない為にも、張り切ってお仕事と参りましょうか」
 ナナヤは瞳を伏せ『ライフル』を手に持ちながら呟き、町の探索を始める。その少し離れた後ろには九条と舞がナナヤの後ろからついていく。
 その際に誘導を行う囮役の二人は地図を見ながら公園へのルートを頭の中に叩き込む。いくらキメラを見つけても、そこから公園へと誘導出来なくては作戦の意味がないのだから。
「‥‥被害に遭っている場所があるんですね」
 商店街を抜けようとした時、店のシャッターが焦げ付いていたり、木などが燃えた跡が至る所に見受けられた。
「えぇと、此処は調べた、次は‥‥こっち」
 ナナヤは渡された地図に赤ペンで捜索した場所にはバツ印をつけていく。
 その時、商店街の出口付近で燃える『何か』を見つける。
「炎の馬、確かに情報通りですね」
 ナナヤが呟き、後ろから九条と舞が飛び出してくる。それと同時にナナヤは後ろへと下がり『トランシーバー』で「キメラを見つけました、これより誘導開始します」と公園で待機する能力者達に連絡を行ったのだった。
「りんどヴるむのばいく形態でゆうどう‥‥ばいくで馬より走れると思うから、がんばってゆうどうする」
 舞と九条、二人ともAU−KVをバイク形態にして馬型キメラの前に立ち、公園まで誘導を行う為に走り出す。
 馬型キメラが自分達の後ろを確実に着いてくるように九条は小銃『ブラッディローズ』で撃ってから公園への誘導を開始する。
「冥華の後ろ、ちゃんとついてくるんだよ」
 舞は馬型キメラを見ながら呟き、バイクで公園へと向かう。途中何度か馬型キメラが公園へのルートから外れようとしたが、ナナヤの援護射撃により無事に公園へと向かう。
「つ、疲れた‥‥公園が意外と近かったから助かったけど‥‥公園が遠かったらワタシ軽く倒れてます‥‥」
 ナナヤは肩で息をしながら呟き、公園へと到着して本格的に戦闘を開始したのだった。
「爆殺開始!」
 九条は大きな声で叫び『シルフィード』を構えたのだった。

「はぁっ!」
 最初に攻撃を仕掛けたのは辰巳、彼は噴水に身を隠しておき、馬型キメラが公園へと飛び込んできたら脚の動きを見て、前脚のキックが打ちにくいタイミングを狙い『先手必勝』と『瞬速縮地』を使用して初撃を受け止めて馬型キメラの動きを止める。
 そして馬型キメラの背面から『流し斬り』を使用して馬型キメラに攻撃を仕掛ける。同時に黒羽も『蛍火』を構えて『円閃』を使用しながら攻撃を仕掛けた――のだが、後ろ脚で攻撃を仕掛けてきて、黒羽は慌ててそれを避ける。
「うわ、危なっ! このじゃじゃ馬め、おとなしくしてろ!」
 黒羽は『蛍火』を馬型キメラに突き刺しながら忌々しそうに呟く。
 そしてシルヴァは黒羽とは逆側から接近して『蛍火』を振り上げ『円閃』を使用して攻撃を仕掛ける。
「‥‥迅速に、狩る」
 馬型キメラに接近して二撃目を行う前にシルヴァは呟き、脚を狙って攻撃を行う。
「ん、壱式は火属性‥‥尻尾とたてがみ以外に冥華は攻撃すればいいのかな」
 舞は呟き『壱式』で攻撃を仕掛けようとしたのだが、キメラとの距離が多少ある為に『拳銃』を取り出して『竜の息』を使用しながら前衛能力者の援護射撃を行う。
 舞の援護射撃のおかげで馬型キメラの動きが少しだけ止まり、九条は側面へと回って『シルフィード』で攻撃を行う。
 能力者達に囲まれ、馬型キメラが能力者達を振り切って動こうとした時に『隠密潜行』を使用して隠れていた水無月が『鋭覚狙撃』を使用して長弓『桜花』にて馬型キメラを狙って討つ。
 水無月の放った矢は馬型キメラの目を射抜き、馬型キメラはけたたましい声と共に暴れる。
「お前の立ち位置はそこだぜ――それにお前如きが突破できる奴等じゃない」
 水無月は続いて「ひゅん」と鋭い音を響かせて二撃目を討つ。
「‥‥くっ‥‥」
 脚での攻撃をシルヴァは『バックラー』で防ぎながら小さく呻く。ダメージはほとんどないが、暴れ続けて守りに入ればそれだけ長期戦になる。
「っつーか、いい加減倒れてくれないと疲れるんだけど!」
 黒羽は斬りつけながら叫ぶ。
「これで‥‥どうだ!」
 辰巳は『ショットガン20』を構え、ゼロ距離で射撃する。頭部を狙って攻撃していたが、馬型キメラが暴れる為に頭部に直撃することはなく、体に当たっている。
「あまり強い相手ではなかったですけど、油断はしません。油断は己の死を意味しますから」
 乾は『両断剣』を使用しながら『バスタードソード』で攻撃を行う。
「おお、流石、元は馬だけあって足は早いようですね‥‥しかし、銃弾のそれには到底適いますまい」
 能力者達を振りほどき、逃げようと脚を引きずりながら走る姿を見てナナヤが小さく呟き、そして『ライフル』で攻撃を仕掛ける。銃弾は全て馬型キメラへと当たり、悲鳴のような声が響き、地面へと倒れこむ。
「待つだけという存外暇な事までしていたんだ、さっさと倒れてもらうぞ」
 水無月は再び長弓『桜花』を構えて放つ。
「これに耐えられるか、試してやるよっ!」
 黒羽は『円閃』と『スマッシュ』を使用しながら倒れている馬型キメラへと攻撃を仕掛ける。
「‥‥‥‥っ!」
 シルヴァも『蛍火』を構え『円閃』で攻撃を仕掛ける。
「さよなら。うまさん」
 舞も『壱式』を構えて尾とたてがみ以外である体を攻撃する。その攻撃で馬型キメラは「ぎゃぁぁ」と叫びながら絶命していったのだった。


―― 炎の馬が去りし、平和の戻った町 ――

 能力者達が馬型キメラを倒したと言う事を知ると、何処からともなく住人達が姿を現す。中には馬型キメラに怪我をさせられたであろう住人達もいた。
「とりあえず町の医療支援に回りますね。戦闘で結構無理をしているのであまり役には立てないかもしれませんが」
 辰巳は苦笑しながら怪我人の所へと向かう。
「冥華もいりょうかつどうの手伝いする。ん、救急せっともあるから冥華もかんごふの見習いぐらいは出来ると思う」
 舞の言葉に「そうですか、それではお手伝いを宜しくお願いします」と辰巳もにっこりと笑って一緒に住人達の所へと向かって行った。
「戦闘でけっこうあちこち壊れちゃいましたから、少しでも綺麗にしておいた方がいいですね」
 乾も噴水公園を見渡しながら苦笑気味に呟く。馬型キメラを退治する為とはいえ、噴水公園は少しばかり壊れている所が目立つ。
「商店街の方も少し荒らされている場所があるんですよね。其方も出来れば直したい所です」
 ナナヤが商店街の方を指差しながら呟くと「公園を直したらそっちもしましょう」と乾が言葉を返した。
「片付けとか終わったら更紗さんの所へ行こうよ。仕事の詳細とか報告したいし」
 九条が板切れを拾いながら呟くと「それはいいですね、心配しているでしょうし」とナナヤが言葉を返した。
「‥‥すまないな、もう少し早く来ていればこのような苦労をさせずにすんだのに‥‥」
 水無月が怪我人に向けて呟くと「いいえ、貴方達は十分助けてくれました」と中年女性が言葉を返してくる。
「えーと‥‥俺は公園の掃除でもしようかな。おばさん、箒とか貸してくれる?」
 黒羽が問いかけると「あぁ、公園近くのプレハブに掃除道具が入ってるよ」とプレハブ小屋を指差しながら言葉を返した。
「さんきゅ! 道具借りるからな!」
 軽く手を挙げて黒羽は駈けていき、プレハブ小屋へと向かっていく。
「あれ、あんたも道具を借りに来てたのか」
 黒羽がプレハブ小屋に入ると先にシルヴァが箒と塵取りを手にして小屋から出る所と遭遇する。
「‥‥そこに箒がある」
 シルヴァは指差しながら呟き、掃除をする為に散らかった場所へと歩いていく。

 それから一時間後、全てが元通りと言うわけには行かなかったがある程度まで片付ける事が出来て、後は住人達に任せて帰還する事にした。
「まず更紗さんの所に行きましょうか」
 ナナヤが呟き、能力者達はラストホープに到着すると更紗が入院している病院に赴く事にした。
「任務完了〜〜! 簡単爆殺だったよ!」
 最初に更紗の病室を訪れた時と同じように九条が勢いよくドアを開ける。
「良かった‥‥無事だったんだ。任務完了お疲れ様でした」
 ぺこりと丁寧に頭を下げる更紗に「いいから寝てろって」と黒羽がベッドへと舞い戻す。
「そうそう、ちゃんと寝てないとまた『せくはら』しちゃうよ」
 その言葉にびくっとしながら更紗は大人しくベッドに横になる。
「あまり気にしないで寝ていてください。また一緒に任務に行ける日を楽しみにしてますよ」
 乾が呟くと能力者達はそのまま報告を行う為に本部へと向かう事にしたのだった。


END