タイトル:滅び―失われた光マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/12 01:19

●オープニング本文


きっと、謝っても償いなんて出来ない――‥‥


※※※

「出て行きなさい!」

病室の中、一人の女性が能力者・ケイを強く突き飛ばす。

「よさないか――‥‥」

女性の夫が諌めるように肩に手をかけながら呟く。

「アンタは能力者なんでしょう! 一般人を守るのがあんた達の仕事なんでしょう! 何で―――‥‥」

事の始まりは、ケイがキメラ退治の為に現場へ行ったときの話になる。

キメラを倒しと思い、彼も油断していたのだろう。

倒しきれてなかったキメラが背後から襲ってきているのに気がつかなかった。

「危ない!」

女性の声が聞こえたかと思うと、強く突き飛ばされ、ケイは地面に顔をぶつけてしまった。

「いって――‥‥な‥‥」

擦りむいた頬を手で押さえながら、何事かと思い、突き飛ばした女性を見る。

すると、そこには自分を庇って倒れている女性の姿が見えた。

「お、おい! 大丈夫か! お――‥‥」

女性を抱きかかえて安否を確認する、命に別状はなさそうだが―――‥‥キメラの爪が女性の目を赤く血に染めていた。

それから、キメラから逃げ、女性を病院に運んだのだが‥‥医者から告げられた言葉はとても残酷なものだった。

「残念ですが‥‥彼女の瞳に光が映ることはないでしょう」

「そんな――」

その時、彼女の両親がやってきて、話は冒頭に戻る。

「出て行って! あんたの顔なんて見たくもないわ!」

母親は、バッグをケイに投げつけ、病室から追い出した。

そして、ケイは自分が仕留め損ねたキメラを倒す為に再び現場へと向かっていった。

●参加者一覧

鷹見 仁(ga0232
17歳・♂・FT
出雲雷(ga0371
21歳・♂・GP
ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
橙識(ga1068
17歳・♂・SN
沢村 五郎(ga1749
27歳・♂・FT
近伊 蒔(ga3161
18歳・♀・FT
シエラ(ga3258
10歳・♀・PN

●リプレイ本文

「今の彼は、とても冷静だとは言えない‥‥一人で戦うなんて危険過ぎるわ」
 表情を重くして呟くのはナレイン・フェルド(ga0506)だった。
「そうですね――‥‥急ぎましょう、出来れば彼が敵と接触する前に合流したいです」
 ナレインの言葉に赤村 咲(ga1042)も首を縦に振りながら言葉を返した。
「はい――、此処で彼が死んでしまったら助けた彼女が何の為に失明したのか分からなくなります」
 シエラ(ga3258)が淡々とした口調で呟く。
「だよな、自分の不始末は自分でケツを拭く――そんな事は当然だろう? だが‥‥一人で格好つけて倒しに行くっていうのはちょっと違うような気もするぜ」
 出雲雷(ga0371)もケイの取った行動に納得がいかないのか、少しむすっとした表情で呟く。
「さて――‥‥現場だな‥‥ケイとやらが無茶をしてなきゃいいんだが」
 沢村 五郎(ga1749)が呟き、目的の場所に降り立ったのだった。
 今回の戦闘現場となる場所、それはかつては賑わっていたであろう、しかし今は瓦礫と化した建物が立ち並ぶ廃墟と化している場所だった。
「あれじゃないか?」
 鷹見 仁(ga0232)が指差す、その先には一人の青年がよろよろとした足取りで歩いている姿が見えた。
 恐らく彼がケイで、ふらふらとしているのはキメラとの戦闘で負った傷が治っていないからだろう。
 自分のせいで失明してしまった彼女への罪悪感から、傷もまともに治療してないのだろう。その証拠に彼が歩いた場所には僅かながら血が滴り落ちている。
「ちょっとあんた! 待ちなよ」
 近伊 蒔(ga3161)がケイに話しかける。呼ばれた事でケイは此方へと振り向き「誰だよ」と問いかけてくる。
「私達は貴方と一緒に行動するため仕事としてやってきた能力者です」
 シエラが簡単に言うと「用はないよ」とケイが答える。
「俺は頼んでない、謝っても償いきれないことをした‥‥俺は彼女のために――‥‥キメラを倒さなくちゃいけないんだ‥‥俺一人の力で」
 ケイは冷たく呟く。
「お前はバカか?」
 ケイの話を聞いて一言呟いたのは鷹見だった。
「謝っても償いきれない? じゃあ、お前は償いにならないから謝らないのか? ふざけるな! お前はただ逃げているだけじゃねえか!」
 鷹見の叫ぶ声に「お前に何が分かる!」とケイが反論してきた。
「逃げてる奴の事なんか分からないね! 分かりたくもない、償いたいって気持ちがあるなら一生かけてでもその方法を探す。それが償うって事だろ!」
 鷹見の正論にケイは言葉を失い、ただ黙っている。
「彼女に一生ものの傷を付けてしまったのは消しようのない事。その責任はとても重い‥‥でも、今一人でキメラに立ち向かうことは危険だと思わない? 此処で貴方が重症を負ってしまったら、彼女はどう思うかしら? 考えたことある? きっと自分のせいだって悩むわよ?」
 ナレインの言葉を聞いても、共闘という事を納得しないケイに赤村がため息を吐いて呟き始める。
「貴方はまだ彼女に一言も謝ってはいませんよね? まずはそれをするべきじゃないでしょうか?」
 赤村の言葉にケイはハッとしたような顔で俯いていた顔を上げる。
「貴方は償う為に一人で戦うと言います‥‥その慢心を捨てなければ、貴方は同じ過ちを再びしてしまいます。貴方は一人じゃない。傷つけることもある。悲しませることもある‥‥でも、だからこそ、苦しみを享受しなければならないのです」
 シエラは優しく諭すようにケイに話しかける。
「皆で力を合わせて‥‥キメラを倒して、彼女に謝りに行きましょう」
 赤村の言葉にケイは頷き、彼の持っていた救急セットで傷の手当てを受けたのだった。


「恐らくあの辺りがキメラの住処のようなものだと思う」
 ケイが指差したのは廃墟の一番奥にある屋敷のような大きな家だった。もちろん屋敷とは言っても崩れ落ちていて、原型を留めてはいなかったが‥‥。
「前に戦闘した場所もあそこだったし、彼女を連れて逃げる際に俺達に見切りをつけたのか、キメラは向こう側へ行ったのを見たから」
 ケイが説明すると「さて、キメラ退治だな」と出雲が呟く。
「――‥‥Einschalten」
 シエラは呟くと同時に覚醒し、攻撃態勢を取る。
「俺も行くぜ」
 鷹見は姿を見せたキメラに呟き、ファングを装備する。その時に出雲は疾風脚で能力を上昇させ、キメラに向かって走り出す。
「作戦はグラップラーで囲い込み‥‥だったわよね?」
 グラップラーは持ち味の速さを生かした足技で攻撃するというものだった。
 そして、敵の機動力を削ぐ為に赤村がアサルトライフルを使い鋭覚狙撃を発動して、敵の四肢を攻撃する。
「今度も死んだフリなんてするなよ?」
 沢村はグラップラーとスナイパーが敵の気を引いてくれている間にキメラへと近づき、近伊と一緒に攻撃を仕掛ける。
 近伊も赤村と同じく敵の四肢を狙いながら攻撃をする。
 そして、シエラは瞬天速を発動し、ファングで身体を回転させ、踊るようにキメラのアキレス腱部分を攻撃する。さらに地面を蹴り、流れるような回転を加えながら跳躍して、延髄を攻撃する。
 その後、キメラがシエラに対して反撃をしようとしたが、彼女はキメラの背中を蹴り、跳躍してキメラから離れる。
 シエラが離れると同時に、鷹見が動く。彼女が作った隙をついて鷹見は豪破斬撃をキメラに向けて使い、攻撃する。
「鷹見さん! 離れて!」
 出雲の声が聞こえると同時に鷹見はキメラから離れる。彼が何かしようとしているのはグラップラーたちも気づいたのか、彼らもキメラから離れる。
 それと同時に出雲は装備をファングからハンドガンに持ち替え、キメラに向けて発砲する。
 ハンドガンを使った攻撃のおかげで、キメラは一時足止めされ、その隙をファイター達が見逃す筈もない。
「ケイ! あんたは俺たちがキメラを弱らせた後、トドメを!」
 近伊が叫びながら豪破斬撃を使い、居合い斬りで腕を狙う。そしてそれにタイミングを合わせるように沢村も逆の腕を斬り落とす。
「いまだ!」
 沢村の叫びにケイが飛び出してきて、キメラの首をへし折った。


 そして、キメラを退治し終わり、能力者達はケイを庇った女性が入院している病院へとやってきた。
「どうでもいいが、詫びる時に何か気の利くような事は言っておくもんだぜ――俺が君の目の代わりになる、とかな」
 出雲が謝りに行くケイに話しかける。
 今回、能力者達も謝罪にスーツ、学生なら制服を着て病院にやってきていた。
 その中でナレインは女性用のスーツで来るか、男性用のスーツで来るべきか悩んでいたが、結局男性用のスーツを着用してやってきたのだ。
(「‥‥はぁ、髪も結ばなきゃいけないし‥‥やっぱり女性用にすればよかったかしら」)
 ナレインは心の中で呟き、足を動かそうとしないケイに話しかける。
「ケイちゃん‥‥あなたの誠心誠意の言葉を言えばいいのよ」
「俺達は能力者なんて煽てられているが下らない力だよな、出来るのは壊すだけの力で、失ったものはちっとも取り戻せやしねえ、償いきれなくても償わなきゃならないときだってあるんだ」
 沢村の言葉にケイは頷き、病室へと入っていった。その中で壁に寄りかかりながら会話を聞いていたのは近伊だった。
 ケイが病室に入っていって数分後、彼女の母親であろう女性の声が響き、ケイを病室の外へと追いやる。
「貴方達は――?」
 母親は能力者達の姿を見て、少し驚いたような目で見る。
「彼の同僚です。このたびは彼の不注意で娘様に取り返しのつかない傷を負わせてしまいました、申し訳ありませんでした」
 そう丁寧に頭を下げるのは沢村だった。
「彼が生きているのはお嬢様の勇気のおかげです、しかし――ケイも苦しんでいます」
「娘の所にいきなさい、最終的に許す、許さないを決めるのは私達じゃない、娘だから」
 叫ぶ母親を落ち着かせながら、父親がケイを病室へ行くようにと促す。その中、シエラもケイについていった。

「あの‥‥俺――」
 ケイが女性に話しかけると、目に巻かれた包帯が痛々しくてケイは目を背けてしまう。
「俺、恨まれているかもしれないけど――俺が君を生涯守るから‥‥無くした瞳の代わりとまではいかないけど――守るから」
 ケイの言葉に「ふふ」と女性が笑い出す。
「別に恨んでないです。それに私が勝手に突き飛ばしただけなんですから――でも、今の言葉が本当なら‥‥凄く嬉しいです」
 女性はにっこりと笑いながらケイに言葉を返した。その時、シエラが女性の前に立ち、ぽつぽつと呟き始める。
「私は目の前で両親を失い、視力を無くしました。何も出来ずにただ守られ、見ているだけしか出来なかった。私は貴方を羨ましく思います。貴方は人を救った――貴方が光を失わなければ‥‥もっと深い暗闇に囚われていたかもしれません」
 シエラは一度言葉を止め、ケイがいるであろう右側を向く。
「これから、貴方はこの方の為に頑張ってください」
 シエラは呟くと「もちろんだ」とケイが答え、不器用ながら少しだけシエラは微笑んだのだった。


END