タイトル:腐敗する世界マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/24 05:28

●オープニング本文


この世界に住むどれだけの人が、今の時代から抜け出したいと考えているのだろう。

この世界に住むどれだけの人が、腐った心を持っているのだろう。

きっと、俺も『腐った心を持つ』一人だ。

能力者全て、一般人全てから非難されても仕方の無い事を常に思っている。

俺は――戦争が終わるのを望んでいない。

※※※

「戦争が終わったら能力者ってどうなるんだろう」

本部で男性能力者がポツリと呟いていると「どうしたのよ」と女性能力者が言葉を返した。

「思った事はないか? バグアを撃退して、世界が前みたいに戻ったら――俺達能力者達はどうなるんだろうって」

男性能力者があまりにも真面目に呟いているので、女性能力者は冗談で答えてはいけないと思い「そうねぇ」と言葉を返す。

「軍属になるとか? エミタ外されて一般人に戻るとか、そんなんじゃないの?」

実際はどうなるか知らないけど、と女性能力者は言葉を付け足しながら男性能力者の問いかけに答えた。

「俺は、怖い。戦争が終わった後、能力者は殺されるんじゃないかって気がするから」

男性能力者の言葉に「何それー、そんなのあるワケないじゃない」とけらけらと笑って言葉を返した。

「バグアがいなくなって一番脅威となるのは誰になる? バグアやキメラと戦い続けた能力者じゃないか‥‥殺されない保障なんて何処にもない」

だから、と男性能力者はカタカタと手を震わせて言葉を続ける。

「俺はキメラが現れるのが嬉しいとさえ感じる。まだ俺達が存在する意味があるから――」

その言葉に女性能力者はばちんと男性能力者の頬を叩く。

「キメラが一匹、バグアが一人‥‥居るだけでどれだけの被害が出ると思っているの? あたしは家族を殺されて能力者になった。だからそんな事を言うあんたは許せない」

キメラ退治は別の人と行くわ、女性能力者は言葉を返して本部から出て行った。

「‥‥俺は、最低だ。他人の命が踏み躙られると分かっていても、キメラたちが居なくなる事を喜べない」

ポツリと呟いた時、負傷した能力者が本部へとやってきた。

慌てて能力者達が駆け寄るが、傷は深いものの命に別状はなさそうだった。

話を聞けば、能力者になりたての5人でキメラ退治に向かい、勝てなかったそうだ。残りの能力者達は病院へと赴き、彼だけが病院を後回しにして本部への報告を優先したのだと言う。

「何処だ?」

男性能力者が何気なく場所などが明記された紙を覗き、顔が青ざめる。

彼らが負傷して帰ってきた原因のキメラ、それが居る地点が先ほど彼女が向かった場所だったからだ。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
天羽・夕貴(gb4285
22歳・♀・FC
刻環 久遠(gb4307
14歳・♀・FC
ソルナ.B.R(gb4449
22歳・♀・AA
天宮(gb4665
22歳・♂・HD

●リプレイ本文

―― キメラ退治へと赴く能力者達 ――

「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェスト(ga0241)だ〜」
 独特な笑い声と共にドクターが今回一緒に任務を行う能力者達に挨拶を行う。彼は私設研究グループ・ウェスト研究所の所長と言う立場もあった。
「さて、早々に片付けようか」
 ベーオウルフ(ga3640)が呟くと「‥‥間に合ってくれよ‥‥」と堺・清四郎(gb3564)が低い声で、そして拳を強く握り締めながら答えるように呟く。
「あ、あの‥‥俺も一緒に連れて行ってくれ。足手纏いにはならないようにするから」
 恐らくは出発した能力者の中に知り合いでもいるのだろう、一人の男性能力者が懸命な表情で能力者達に訴えかけてくる。
「どうする? 俺は別にどっちでもいいけど」
 紅月・焔(gb1386)が振り向き、他の能力者達に問いかける。
「僕もどっちでもいいよ、むしろ人数が多い方がいいんじゃない?」
 天羽・夕貴(gb4285)が「ねぇ?」と同意を求めるように呟くと「うん‥‥私も異論はないよ‥‥」と刻環 久遠(gb4307)も首を縦に振りながら言葉を返してきた。
「でも大丈夫なの? 震えてるけど」
 ソルナ.B.R(gb4449)が男性能力者に問いかける。確かに彼女の言う通り、男性能力者の手は小刻みに震えている。
「大丈夫、キメラやバグアが現れる事――それはまだ俺達が必要とされているって実感できるから‥‥」
 男性能力者の言葉に何処か違和感を感じながらも「ふぅん」とソルナは言葉を返した。
「それでは行きましょう、うまく出来れば良いのですが‥‥」
 天宮(gb4665)が呟き、能力者は猪型キメラが潜む場所へと出発していったのだった。


―― 小さな森に潜む狂気 ――

「そういえば‥‥さっきの言葉はどういう意味かしら?」
 目的地へ向かう高速艇の中、ソルナが本部で違和感を感じた言葉について男性能力者に問いかける。
「そのままの意味だよ、キメラやバグアがいるだけで俺たち能力者にはまだ道がある。生きていける道が‥‥」
 そして男性能力者は自分が思っている事を能力者達に告げた。戦争が終わったら能力者がどうなるのかが怖いという事を。
 それを聞いてソルナは心の中で男性能力者の不安は最大の命題であるだろうと心の中で呟く。
(「私達は人であって、人では無いのだから」)
「ふぅむ。今は、まだバグア・キメラを打ち倒す為の道具――能力者を揃えておかねばならないがね」
 ドクターは呟き、キメラ・バグアを追い出した後、自分を含めて不要となった能力者を処分しようと考えている事を告げる。
「‥‥俺が言うのもなんだけど、あんたに処分する権利があるのか?」
 男性能力者が問いかけるが、ドクターは薄く笑みを浮かべるだけで言葉を返す事はない。
「まぁ、まずはキメラ退治だろ。能力者が負傷していたら救助もだけどな」
 ベーオウルフが呟くと「そうね、急ぎましょう」と天羽が言葉を返した。
 そしてそのまま高速艇は現場から少し離れた場所に着陸して、能力者達は急ぎ足で森の方へと向かい始めた。

「情報通りに小さな森ね、これなら能力者もキメラも苦労なく見つける事が出来そう」
 天羽が森の入り口付近で立ち止まり、町の方向を見る。少しの油断で町への侵入を許してしまう程の距離だった。
「行くぞ」
 堺が低く呟き『蛍火』を構えながら森の中を疾走する、広さもさほど感じられない森なので走り回れば何処かでキメラと能力者、どちらかに当たるだろうから。
「‥‥銃声‥‥?」
 刻環がぴたりと足を止めて、森の中をきょろきょろと見渡す。その行動に他の能力者達も足を止めて「どうかした?」と彼女に問いかけた。
「銃声‥‥遠くはないと思うけど‥‥」
 刻環の言葉に能力者達も耳を澄ますと、確かに遠くない距離から銃声が聞こえる。
「交戦中なんですね‥‥急がないと」
 天宮が呟き、能力者達は走りながら近くなる銃声と共に迫る緊張に各々が武器を構えた。
「あれじゃないかね〜」
 ドクターが指差した方向には三名の能力者が猪型キメラと戦闘をしている最中だった。
「きゃああっ!」
 女性の甲高い声が聞こえ、猪型キメラに突進されて攻撃をされ、女性能力者が木へとぶつかる。
「ドクター、刻環、ソルナ、そっちを頼む」
 ベーオウルフが『蛍火』を構え、猪型キメラの方へと走っていく。
 今回の能力者達はドクター、刻環、ソルナが先行した能力者達の所へと向かい、他の能力者達は猪型キメラの方へと走っていく。
 その際にドクターが前衛の能力者達に『練成強化』を使用する。
「傷はどうかね〜? ふむ、大した事はないようだ」
 ドクターが能力者三人の傷を見ながら「あの攻撃でこれだけで済んだとは運がいいね〜」と言葉を付け足した。
「仲間が‥‥引き付けている間に、安全な場所へ‥‥」
 刻環が能力者三人に言葉を投げかけると「まだ戦える!」と三人のうち、女性能力者が言葉を返してきた。
「動けるなら自力で動くんだね。そうすれば私もこの手でアイツを始末出来る」
 ソルナがじろりと能力者三人を睨むような鋭い視線を向けながら呟く。勿論半分は本音、もう半分は気合を入れる為にわざと冷たく言い放った。
「これくらいの傷、大丈夫よ」
 女性能力者が立ち上がろうとしたが、男性能力者がそれを静止する。
「無理をして死んだらどうするんだよ、ここは彼らに任せて置けよ‥‥俺がこいつらの面倒を見るから、あんた達は戦いに集中してくれ」
「此処まで来れば‥‥滅多な事が無い限り巻き込まれる事はないはず‥‥」
 刻環の言葉に「そうだねぇ、それじゃあ任せるよ」とドクターも猪型キメラがいる方へと向き直る。
「敵が一体と決まったわけじゃないから、十分に警戒していてね」
 ソルナも言葉を残し、猪型キメラへと向かって走り出す。
 そして、能力者達が集まり、本格的に戦闘が始まったのだった。


―― 戦闘開始・能力者 VS 猪型キメラ ――

 ドクター、ソルナ、刻環の三人が合流した時、既に負傷している能力者がいた。負傷とは言っても大きな傷を受けた能力者はいない。
「容赦はしない!」
 天宮が叫び『ライフル』で牽制攻撃を仕掛け、ベーオウルフが『瞬天速』を使用して『蛍火』を振り上げながら攻撃を仕掛ける。
 続いて紅月が『アサルトクロー』で猪型キメラに攻撃を仕掛ける。二人の攻撃を受けて突進攻撃を行おうとしていた猪型キメラは足に傷を負い、出鼻を挫かれてしまう。
「‥‥久しぶりだな‥‥遠距離以外は‥‥」
 紅月は『アサルトクロー』を見ながら薄く笑みながら呟く。そしてキッと鋭い視線を向けて紅月は大きな声で叫ぶ。
「‥‥貴様が現れたおかげで、おちおち女性陣も見れないじゃないかヨ! このやろう!」
 ‥‥大きな声で叫んでいるが、任務参加動機が不純極まりない。
「危ない!」
 紅月は叫びながら天羽への攻撃から身を挺して庇う。彼女の後ろに居た堺はそのまま猪型キメラの攻撃を受けてしまう。
 味方を攻撃から庇う順番も女性優先という辺り、彼も腐敗しているのかもしれない。
「くそぅ、牡丹鍋にしてやる」
 堺は小さく忌々しそうに呟き『蛍火』を構える。
「庇ってくれてありがと、大丈夫?」
 天羽は紅月に話しかけ、そのまま猪型キメラへと向かう。
 天宮が『竜の瞳』を使用しながら牽制攻撃を仕掛け、ベーオウルフが引き付けるように『プロテクトシールド』で猪型キメラを押さえる。その隙に天羽は側面へと廻って『円閃』を使用して猪型キメラの足を狙って攻撃を仕掛ける。攻撃を仕掛けた後、尻尾からの攻撃が天羽を狙うが紅月の攻撃によってそれは天羽へと当たる事はなかった。
「脚さえ何とかすれば‥‥突進攻撃の脅威も薄れますし、町へ逃げ込む可能性も減ります‥‥何としても潰してみせる」
 天羽は呟き、再び『円閃』で脚を狙って攻撃を仕掛ける。
「‥‥っ‥‥」
 他の仲間達が戦う中、刻環は唇をかみ締めながら「――Atziluth」と呟いて覚醒を行う。煉力の消費を押さえる為、という理由で覚醒を控えていたが仲間達を見る限りそうも行かない。
(「‥‥覚醒‥‥」)
 しかし本当の理由は、彼女自身が覚醒する事を心のどこかで拒んでいるから‥‥。
「ふふ、楽しませて頂戴ね?」
 ぞくり、と寒気を覚えるほど笑みを浮かべながら刻環は呟いて『【OR】天魔無影の太刀』で攻撃を仕掛ける。
 その際に『円閃』と『二連撃』を使用しながら攻撃を仕掛けた、強力な一撃は猪型キメラの尾を叩き斬り、体にもダメージを与える。
「人を舐めるんじゃない‥‥私に勝てないようじゃ、本物の能力者連中の練習台にされるのが落ちさ」
 ソルナは呟き『円閃』と『二連撃』を併用した攻撃を仕掛けながら感情を感じさせない表情で呟く。
「その通りだ、我が輩は誰よりも強くならねばならない、誰よりもな!」
 ドクターは『電波増幅』を使用して『エネルギーガン』で攻撃を仕掛ける。猪型キメラの尾からはぼたぼたと血が流れ落ち、脚は砕かれ、既にまともに戦える状態ではなかった。
「お前のせいで怪我をしたり、悲しむ人間が居る。それだけでお前が死ぬには十分な理由だ」
 堺は『蛍火』を構え「ひゅ」と音を立てながら猪型キメラに攻撃を仕掛ける。その後に『機械剣』でドクターが攻撃を行い、天羽が攻撃を仕掛ける。
 猪型キメラは「ぎゃぁぁ‥‥」と悲鳴のような声をあげながら地面にズズンと倒れ、そのままパタリと絶命したのだった。
「もう終わり? ‥‥つまんないの」
 がっかりしたような表情で刻環が呟き、武器の血払いをしたのだった。


―― 自分達のいる意味、そして未来 ――

「ごめんなさい、結局あたし達は足手纏いにしかならなかったわね」
 戦いが終わり、女性能力者がうな垂れながら能力者達に謝罪する。
「生き残った、それだけでも十分な成果だ」
 堺が能力者三人を慰めるように言葉を返すと「ありがとう」と女性能力者が小さな声で呟いた。
「‥‥俺はこんな考えのまま戦っていていいのかな‥‥いつか誰かを犠牲にしてしまいそうで怖い」
 男性能力者が呟くと「今、俺達は彼女を救えた。こんな光景の為に戦っていたのではないか?」と堺が言葉を返す。
「俺はお前の言い分も分かる。人は基本的に自分と違うものは認められないからね」
 ベーオウルフがため息混じりに呟き「だけど」と言葉を続ける。
「だからと言ってバグアの存在を認めるわけにはいかない」
 確りと男性能力者の目を見据えてベーオウルフははっきりと呟く。
「未来なんぞ誰にも分からん。だからこそ良くしていけるはずだ。勝手に未来に絶望して今を捨てるというのはみっともないぜ?」
 堺が男性能力者の肩をぽんと叩きながら呟くと「‥‥そう、だな」と男性能力者が聞き取れないほどの小さな声で言葉を返してくる。
「確かに僕も貴方の気持ちは分かるなぁ‥‥僕たち能力者にとってバグア軍を追い払う事は唯一無二の最終目的なわけだから、その目的を達成してしまうと何も残らないもの」
 天羽はわざとらしく肩を竦めて「でも」と堺と同じように男性能力者を真っ直ぐ見つめながら言葉を続ける。
「だからと言って悪い扱いを受けたら、なんて憂鬱になる事もないでしょう。それに、この戦いが終わっても長い長い地球の復興という戦いが待っているんですもの」
 立ち止まってなんかいられないでしょ? と天羽はウインクをしながら男性能力者が少しでも悪い考えから立ち上がるようにと言葉を返す。
「戦争が終わったらなんて考えるだけムダよ‥‥だって、戦争は終わらないもの。 ‥‥終わらせたり、しないもの‥‥」
 バグアとの戦争が長く続くという意味なのか、それともバグアとの戦争が終わったら今度は人間同士の戦争が始まるという事なのか、どちらにも取れる言葉を刻環が呟いた。
「私は貴方が羨ましいよ、私にはまだそんな先を考える余裕がないからね‥‥今日も必死さ、走り回って、慣れない剣を振り回してね」
 ソルナは『ファルシオン』を見ながら自嘲気味に呟く。
「確かに人ではなくなってる我が身の未来に不安は感じる事はある。でもさ、戦いの後がどうなろうと『奴等』をこの手で始末したい、その信念があったからこそ能力者になったんじゃないかねぇ‥‥」
 ソルナの呟きの後「確かに後の事を考えて行動はしてられませんね」と天宮も言葉を返す。
「我々は自ら人類から零れ落ちた。自分自身を怪物と理解して制していかねばならないはずなのだ。しかし今の人類と能力者に神の声は聞こえないようだ」
 ドクターは研究の為のサンプルを回収しながらポツリと呟く。
 何がいいのか、どうすればいいのか、結局男性能力者の中で心は決まらなかった。それぞれが未来に対して思う事があると分かったから。
「まぁ‥‥難しい事は考えないで女性陣でも見てろ‥‥きっと幸せになれる」
 うんうん、と紅月は首を縦に振りながら呟き、負傷した能力者を抱え、能力者達は報告のために本部へと帰還していったのだった‥‥。


END