タイトル:彼方に散る思い、その心マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/16 01:09

●オープニング本文


誰かの死に、こんなに胸が痛くなるなんて――知らなかった。

私なんかの為に死んでいい人じゃなかった。

何で私は生きているんだろう、何で死ぬのが私じゃなかったんだろう。

※※※

私には過去の全てが無い。

私は山の中で倒れている所を発見されて、病院まで運ばれた――らしい。

『らしい』と言うのは自分の目で確かめていないから、はっきりと言えないのだ。

おまけに――私の頭の中から記憶の全てが消去されていた。

『KASANE・M』

救助された時に持っていたバッグに付けられていたキーホルダーに掘られていた文字、だから私の名前はきっと『かさね』と言うんだろう。

苗字は分からないけれど。

『可愛い名前じゃないか』

私を病院まで運んでくれた男の能力者が言ってくれた言葉。

彼は私の記憶がない事を知ると、励ます為か暇がある時は毎日見舞いに来てくれていた。

『あの辺に倒れていたって事は、家があの近くなのかもしれねーからな。調べてみるよ』

だから安心しな、その能力者はにかっと笑って私の頭を撫でてきた。

だけど、私は特に心配もしていなければ不安にもなっていない。

病院に入院してもうすぐで一ヶ月、その間に彼以外の見舞いはなかった。

元々家族なんていなかったのか、それとも私が記憶を失う原因となった時に死んでしまったのか、真相は分からないけれど――今、この世にはいない、そんな気がしていた。

「そういえば、最近あの能力者の人が来ないわね」

看護師の女性が思い出したように呟きながら朝の検温を済ましていく。

そういえば、彼が最後に見舞いに来たのは一週間前。前は二日か三日に一度は必ず来ていたのに、もう一週間も来ない。

「かさねちゃんも寂しいんじゃない?」

「‥‥別に。元々、私とは関係ない人なんだから――見舞いに来る義務なんて、無いんだし‥‥」

自分でも声が震えているのが分かる。

そしてその時だった。

「貴方が――かさねちゃん?」

一人の女性能力者が病室に入ってきた。任務から帰ってきたばかりなのか、その姿は泥だらけで、お世辞にも清潔そうには見えなかった。

「あの、困ります‥‥ここは病室ですしそんな姿で入ってこられても」

看護師の女性が遠慮がちに呟くと「すぐに終わるから」と言葉を返してベッドへと近寄ってきて、一枚の写真と紙を渡してきた。

「汀が死んだわ」

汀? と私が首を傾げながら呟くと「此処に来ていた男の能力者がいたでしょ」と女性能力者は言葉を返してくる。

それと同時に私の頭の中は真っ白になった。

「コレを貴方に渡してくれ、それと『ごめんな』を伝えてくれと言われたわ」

私は渡されたものに目を向けると、写真の中には笑顔でピースをする私の両脇に両親と思われる中年の男女が映っていた。

そして、紙には‥‥。

『ゴメンな。
 本当は俺、お前が誰なのか分かっていた。
 お前は俺が請け負ったキメラ退治の被害者だ。
 だけど俺や仲間の力不足で、お前の両親を死なせてしまった。
 そして‥‥キメラが襲撃した場所からお前を連れて逃げるのが精一杯だった。
 お前が目覚めた時、過去を失っている事を聞いて――俺は何処か安心した気持ちがあった。
 両親が死んでしまった事を責められずに済んだと、心のどこかで安心していたんだ。
 自分でも最低だと思う。
 だから、罪滅ぼしにお前の両親を死なせたキメラを倒そうと思った。
 だけど――俺の力じゃ無理だった。 
 流石に今回は生きて戻れそうにないから、仲間にコレを預けておく。
 お前の名前は『御影・傘音(みかげ・かさね)だ。
 写真は何とか持ってこれた家族写真だ。
 最後に――本当にすまないと思っている。ゴメン』

恐らく、事切れる間際に書いた手紙なのだろう。最後の文字はよく見ないと判別できない程だった。

「‥‥許してあげて、とは言わないけれど――汀の死を悼んであげて」

女性能力者はそれだけ言葉を残すと、病室から出て行った。

「かさねちゃん‥‥」

看護師も言葉を返さない私に複雑そうな表情を見せて、そのまま病室を出て行く。

「‥‥なんでだろう」

ポツリと静かな病室に私の呟きが妙に響く。

両親が死んでいると言う事よりも、あの能力者が死んだという事実の方が悲しいと感じてしまう。

自然を涙が零れ、手紙の上に小さな染みを作っていく。

そして、そのまま窓から外へと出て『私が住んでいた家』へと向かう。

だけどそれは、両親が死んだ場所、だから行くのではない。

あの人が、私の為に戦ってくれた、あの人が死んだ場所に行くのだ。


それから数時間後、再び彼女の病室にやってきた看護師が傘音がいない事に気づき、能力者達へと連絡をしたのだった。

『少し出かけてきます。すぐに帰るから心配しないで下さい』

傘音はそんな書置きを残して出て行っていた‥‥。

●参加者一覧

五十嵐 薙(ga0322
20歳・♀・FT
ティルヒローゼ(ga8256
25歳・♀・DF
フィリス・シンクレア(ga8716
12歳・♀・DF
銀龍(ga9950
20歳・♀・DF
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD

●リプレイ本文

―― 消えた少女を探しに ――

「一人で‥‥現場に行くなんて、早く‥‥傘音さんに‥‥会わなきゃ‥‥」
 五十嵐 薙(ga0322)は看護師の女性と一緒に写った傘音の写真を見ながら、ポツリ、ポツリとゆっくりとした口調で呟く。
(「傘音さんが‥‥此処で怪我でもしちゃったら‥‥彼も、悲しみますよね‥‥」)
 必ず彼女を無事に連れ帰らないと、五十嵐は言葉を付け足して心の中で呟く。
「ふむ、中々深い事態だな。彼女に何かが在れば彼も浮かばれまい」
 ティルヒローゼ(ga8256)が髪をかきあげながらため息混じりに呟く。
 今回の能力者達の使命は病院から消えた少女・傘音の捜索及び彼女が向かったとされる場所に潜んでいるキメラの退治だった。
「さて〜傘音ちゃんが向かったのは‥‥自分の家でしょうか? それとも汀さんの所? 何かを思い出す為でしょうか? それとも掛け替えのない人の為?」
 フィリス・シンクレア(ga8716)は自問自答を繰り返すが、肝心の傘音がいない為に答えが出ない。
「ん〜‥‥本人から直接、詞を聞くとしましょう」
 フィリスの言葉に銀龍(ga9950)も「銀龍も聞きたい事がある」と短く呟く。彼女は傘音が『何の理由で出て行ったのか』を聞きたいらしい。
「そうですね、その為にはまず人命が優先です」
 シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)が呟くと「それと‥‥」とディッツァー・ライ(gb2224)がポツリと言葉を返す。
「志半ばで散った汀の遺志、必ず果たすぞ」
 ディッツァーは拳を強く握り締め、低い声で呟く。そんな彼の姿を見て白雪(gb2228)は「‥‥慣れないよね。戦う以上はいつか死ぬ時があるって分かっていても‥‥」と小さな声で呟いた。
 他から見たら白雪の独り言のようにしか聞こえないだろうが、白雪の頭の中にははっきりと言葉が返ってきているのが分かる。
(「‥‥感傷と分かっていても悲しいわね」)
 白雪に言葉を返すのは、彼女の姉である真白。
「この花‥‥汀さんは気に入ってくれるかな」
 白雪は本部に来る途中で買ってきた仏花を見て小さく呟く。
「きっと気に入ってもらえますよ――きっと」
 水無月 春奈(gb4000)が言葉を返す。
「それと、これを‥‥今から向かう場所に潜むキメラによって犠牲になった人達の顔写真です」
 水無月は本部に申請して取り寄せた犠牲者達の顔写真を能力者達に見せる。
 もしかしたらキメラは『犠牲者の顔』をしているかも知れないと考えたのだろう。
「それじゃ出発しましょうか。傘音さんが無茶をしていなければ良いのですけど‥‥」
 シンは呟き、傘音の自宅がある場所まで向かい始めたのだった。


―― キメラと傘音を探せ ――

 今回の能力者達は二人一組のペアになり、A班とB班に別れて行動する事に決めていた。
 A班はフィリス&五十嵐、銀龍&水無月の四人。
 B班はティルヒローゼ&白雪、シン&ディッツァーの四人。
 A班はそのまま急いで傘音の自宅まで赴き、B班は隈なく傘音を捜索しながら自宅へと向かうように決めていた。
 この方法を取る事で、傘音やキメラ、そして汀の遺体などを見逃さないようにと考えていた。
「何かありましたら『トランシーバー』で連絡を取ることにしましょう」
 水無月が『トランシーバー』を見せながら呟き、能力者達はそれぞれ傘音の自宅へと向かって行動を開始したのだった。

※A班※
「銀龍達、先に行く」
 水無月のAU−KVの後ろに銀龍が乗り、二人はそのまま傘音の自宅へと向かっていく。
「あたし達も‥‥行きましょうか‥‥」
 五十嵐がフィリスに話しかけると、彼女は携帯電話で話をしている最中だった。
「分かりました♪ ありがとうございます」
 フィリスはにっこりと笑顔で電話の向こうの相手へと礼を言って電話を切る。
「本部を出る前に当依頼関係者の電話番号を聞いていたんです。何か情報がないかと思いまして♪」
「何か‥‥分かりましたか?」
 五十嵐がフィリスに言葉を返すと「キメラは若い男性の外見を持っているようですね」と呟き、電話の内容をメモした紙を見ながら「えぇと」と言葉を続ける。
「同じ服を着ていれば黒い服だったとか。これはもしかしたらキメラが着替えている可能性もありますから、アテにはなりませんね。あと――前に任務を受けた汀さん達、傭兵になってそんなに日数が経っていなかったみたいですね」
 フィリスの言葉に「‥‥そう、なんですか‥‥」と五十嵐は表情を曇らせながら言葉を返した。
「急ぎましょう‥‥傘音さんに‥‥何かあっては、汀さんが‥‥悲しみます」
 五十嵐は呟き、先を行く銀龍と水無月を追って小走りで駆け出した。

 その頃、銀龍と水無月の二人は傘音の自宅へと到着しており、その家の姿に言葉を失っていた。壁には穴が開けられ、地面は割れている。彼女の家だけではない、隣数件の家が同じように荒らされていた。
「‥‥あれは‥‥」
 水無月が何かを見つけたように、小走りで傘音の自宅の中へとかけていく。
「どうした。何か見つけた?」
 銀龍が問いかけると「えぇ」と水無月は短く言葉を返す。そして、彼女が見つけたもの、それは。
「これ、汀?」
 家の外壁に凭れ掛かるように座る男性、既に息はなく、顔を見ると『汀』と呼ばれた能力者である事が判明した。
「汀さんの遺体を発見しました。外傷は軽い切り傷と恐らく――内臓破裂か何かだと‥‥」
 水無月は『トランシーバー』で他の能力者達に、汀の遺体を見つけた事を知らせる。
「‥‥キメラ、怪力使う間違いない。でもキメラどこ?」
 銀龍が首を傾げながら呟く。確かに周りを見渡してもキメラらしき気配は感じられない。
「まだキメラや傘音さんは発見できていません。注意して探して下さい」
 水無月はそれだけ言うと通信を切り、自宅周辺の捜索に取り掛かったのだった。

※B班※
「まだキメラと傘音さんは見つかっていないんですよね‥‥急いで見つけましょう」
 此方はじっくりと捜索を続けるB班、白雪とティルヒローゼのペア。ティルヒローゼ達は茂みや物陰も見逃さないように確りと捜索を続けていた。
 そこへ二人の人間が近づいてくる。
「止まれ」
 ティルヒローゼは『ペイント弾』を装填した銃を向け、近づいてくる人間達に向けて短く告げる。
 しかし二人は聞こえていないのか、それとも無視しているのか、ティルヒローゼの警告を聞く事なく足を進めている。
「ティルヒローゼさん‥‥」
 白雪が困ったように視線をティルヒローゼに移すと、彼女もため息混じりに銃のトリガーを引く。
 勿論、銃の中は実弾ではなく『ペイント弾』なのでキメラでなかった場合も被害は服だけだろう。
「「あああああっ! 何すんだよっ!」」
 二人は自分の服に『ペイント弾』が当たり、汚れたのを見て耳を塞いでいたイヤホンを取る。どうやら音楽を聴きながら歩いていたらしく、ティルヒローゼの警告も耳に入らなかったようだ。
「‥‥すまない、まさか音楽を聴いているとは思わなかった。警告はしたんだが‥‥」
 ティルヒローゼが申し訳なさそうに謝罪すると「でもこの辺はキメラがいるから危ないですよ?」と白雪が二人に話しかける。
「え、キメラって退治されてないの? この間能力者が来てたから退治されたんだとばかり‥‥」
 二人はそれだけ呟くと怖くなったのか、急ぎ足で帰り始めた。

 そしてもう一つのペア、シンとディッツァーは森の中を捜索していた。
「キメラが現れたらディッツが前衛で壁役兼足止め、僕が後ろから援護、牽制、情報収集、作戦立案‥‥いつもと同じ流れですね」
 シンが呟き、森の中を歩く。
 その時だった、少し離れた所から男性が歩いて来る姿が二人の視界に入ってきた。その男性は何処か様子がおかしく、不審に思ったシンが『ペイント弾』を装填した銃を構える。
「キメラなら撃つ。違うなら違うと言ってくれ」
 シンが男性に向けて低く呟くが、返答は返ってこない。その時、日が差して薄暗かった森の中が少しだけ明るくなる。
「「!!」」
 その時に漸く分かった、男性の顔や手に血がついている事を。
「おい、あれ‥‥」
 ディッツァーが呟き、シンが男性より少し後ろを見る。するとそこには病院服のような白い洋服を着た女性が倒れている。
「間違いない、あれが傘音さんだ」
 シンが呟き『トランシーバー』で傘音とキメラらしき男性を発見したと連絡を行う。
「一か八か‥‥飛び込む!」
 ディッツァーの言葉とほぼ同時に散っていた能力者達が集まってくる。ディッツァーは『先手必勝』を使用して、男性の後ろへと向かう。途中で男性が邪魔をしようと手を振り上げたが、シンの小銃『グラディヴァ』に装填された『ペイント弾』が男性の顔へとヒットする。それと同時に現れるFFに、能力者達は男性がキメラだと言う確信を得たのだった。


―― キメラ VS 能力者 ――

 ディッツァーは傘音を助けた後、後衛陣に傘音を預け、自らは前衛で戦う為にキメラへと向かっていく。
「わ、私は‥‥」
 人の話し声のおかげで失っていた意識が浮上したのか、傘音が「だ、誰?」と能力者達の顔を見比べながら呟く。
「話は‥‥後です‥‥今は‥‥ここを動かないで‥‥下さい‥‥危ないですから」
 五十嵐は傘音に『ダウンジャケット』をかけ、五十嵐も武器を構える。
「あの‥‥「話は後、先ずはアイツを何とかしないとな」」
 傘音の言葉を遮り、ティルヒローゼも『デヴァステイター』を構えながら呟く。
「お話するには貴方が邪魔なんです、お引取り願えますか?」
 フィリスは『デヴァステイター』でキメラに攻撃を仕掛けながら、にっこりと笑顔で話しかける。
「待って‥‥私は」
 前へと出ようとする傘音を「傘音が危ないのはダメ」と銀龍が傘音の行動を制止する。
「傘音を大事に思っている人が悲し‥‥ん、悲しむ。だからキメラ退治してから」
 銀龍の言葉に「‥‥分かりました」と傘音は『ダウンジャケット』をギュッと掴みながら戦闘が終わるのをひたすら待つ。
「ディッツ! 右に気をつけて!」
 シンの言葉にディッツァーが右を見ると、キメラが少し大きめの岩を投げつけてこようとしている姿が見受けられる。
「甘いっ! この程度で俺が止まると思うな!」
 ディッツァーは『豪力発現』を使用して、岩を投げつけようとしているキメラに組み付く。
「此処から動かないで下さいね」
 水無月は呟き天剣『ラジエル』と『シールド』を構え、キメラが近くに来たら応戦できるように構える。
「私なんかより、仲間のために戦ってください‥‥」
 傘音が弱々しく呟くと「私の役割は貴方を守る事です、傘音さんには指一本触れさせません」と水無月が顔を向ける事なく言葉を返す。
 その言葉は傘音、キメラ両方に言っているようにも聞こえた。
「尊い命を奪った貴方を、許す訳には‥‥決して許さない!」
 ぎり、と奥歯をかみ締めながら五十嵐は『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用して攻撃を仕掛ける。
 確かに情報通りでキメラの怪力そのものは脅威となる。しかし、勢いよく腕を振り回しているだけあって、行動は読みやすく、岩や木などを使われないように次々に攻撃を仕掛けていけば容易に攻略できる相手だった。
「人の命を奪ったあんたに、命を惜しむ理由はないよ――アンタは人の命を奪っているだから」
 ティルヒローゼは冷たい表情で呟くと『デヴァステイター』で攻撃を仕掛ける。先ほどまでは『ペイント弾』が装填されていたのだが、前衛達が攻撃を仕掛けている間に弾丸を装填し直したのだ。
「貴方には悲しむ人が居ないのでしょう? いないから誰かの大切な人も殺してしまえるんです」
 フィリスも『デヴァステイター』で後衛から攻撃を行う、能力者達の言葉を聞いて、傘音は俯き、声を殺しながら泣いていた。
「お前、傘音の大事な人奪った。それで傘音が苦しんでる、お前分からない?」
 銀龍も『蛍火』を構えて『両断剣』と『流し斬り』を使用しながら攻撃を仕掛ける。
「そろそろ退場の時間だ」
 シンは『番天印』で攻撃を仕掛け、ディッツァーが攻撃出来るように隙を作る。そして視線で合図を送り、ディッツァーは攻撃に向けて走り出す。
「噛み砕け獅子の牙! ――――面ッ!」
 ディッツァーは『紅蓮衝撃』を使用して攻撃を仕掛ける。だけど僅かに急所を避けたせいかとどめを刺すには至らなかった。
「その身に刻め」
 冷たく白雪――真白が呟き『両断剣』と『二段撃』を四回連続で使用して攻撃を仕掛ける。煉力の消耗も激しいが、その甲斐もあってキメラがガクリと膝をつく。
「今まで貴方が奪った命、到底相殺出来るものではありませんけど――償いなさい」
 水無月がキメラの前に立ち、その額に天剣『ラジエル』を突きたてて、汀、傘音の両親を殺したキメラを葬ったのだった。


―― これから ――

 キメラを退治した後、能力者達と傘音は彼女の自宅へと向かっていた。そこで傘音は物言わぬ遺体となった汀と対面して、大きな声で泣き始めた。
「‥‥今は好きなだけ泣いたらいい‥‥」
 ティルヒローゼは目を伏せながら呟く。
「貴方は何の為に此処に来たのですか?」
 フィリスが傘音に問いかけると「‥‥この人の所に、来たかった」と小さな声で言葉を返してきた。
「記憶のない私には大事な人はこの人しか居なかった。私なんかがいたから、私が死ねばよかった」
 傘音の言葉に「それ違う」と銀龍が言葉を返す。
「銀龍も記憶がない、大事な人、誰も覚えてない。でも、銀龍は今、大事な友達いる。大事な人いなくなるのは嫌‥‥ん、嫌。傘音も違う?」
 銀龍の言葉を聞いて傘音は俯く、そしてシンが肩を軽く叩きながら「貴方がいなくなったら彼の死は無駄になります」と言葉をかけた。
「亡くなった方は戻らないけど‥‥どうか悼んであげて。そしてどうか‥‥後悔ではなく、感謝で汀さんを弔ってあげて。彼の死が無駄にならないように」
 白雪が優しく話しかけると「‥‥はい」と傘音は目に沢山の涙を浮かべながら首を縦に振る。
「このまま‥‥汀さんを‥‥連れ帰りましょう。静かに‥‥眠って、居られる場所へ‥‥」
 五十嵐が呟くと「そうですね」と白雪が言葉を返してハンカチで顔の汚れなどをふき取る。
「こんな所で一人寂しくいるより、傘音に近い方がゆっくり眠れるだろうさ」
 ティルヒローゼが眠る汀を見ながら苦笑して呟く。

 その後、能力者達は報告と汀の遺体を葬る為に本部へと帰還する。本部に戻り、汀の遺体を渡した後、ディッツァーが汀に向けて小さく呟く。
「‥‥お前の心残りは、これから時間をかけて解決へと向かうだろう。後は安らかに眠れ」
 そんな彼の呟きを聞き「悲しむのは、そこに幸せがあったから」とフィリスが呟く。
「溢れる 貴方と過ごした日々 頬を伝う涙とともに」
 歌の詩でも書くようにフィリスが小さく呟いたのだった。


END