タイトル:破壊の女神・カーリーマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/12 04:34

●オープニング本文


インド神話に登場するシヴァの配偶神・ドゥルガーより生まれし存在‥‥

それが破壊と殺戮の女神・カーリーだった。

※※※

「‥‥ぐ」

一人の女性能力者が吐き気を堪えるように口を手で覆っている。

「どうかしたのか?」

顔馴染みの女性能力者が具合悪そうにしている事を見かけ、男性能力者が話しかけると、女性能力者は無言で一枚の写真を見せてきた。

「げ‥‥なんだよ、これ‥‥」

男性能力者が写真を見ると女性能力者の顔色が悪い事にも納得が行く。

その写真にはキメラであろう女性が写っており、四本の腕が存在している。

そして‥‥具合が悪くなるモノは女性型キメラの左腕に持たれているものだった。そのキメラの手に持たれているモノ――それは人の首だった。

恐らくは襲った人間の首なのだろう、口からは狂気的に伸びた舌が不気味さを増していた。

「‥‥これ、現場に落ちていたカメラを現像したものらしいわ」

女性能力者が小さな声で呟く。

彼女が言うには、惨殺された遺体が発見されて本部に傭兵の要請があり事件調査中に発見されたのが、この写真が収められたカメラなのだったとか。

「近くには血溜まりもあったらしいから、このカメラの持ち主も殺されているでしょうね」

「まるで、カーリーだな」

男性能力者がポツリと呟く。

カーリー、それはインド神話に登場する破壊と殺戮の女神と謳われている女神の事だ。

「手が四本あるし、何かそれっぽいね‥‥それにしても首切るなんて」

うぷ、と女性能力者は再び口に手を置きながら呟く。

「森の中に逃げていくのを他の住人が目撃してるみたいなんだけど‥‥それなりに広いんだよな」


●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
櫻杜・眞耶(ga8467
16歳・♀・DF
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
耀(gb2990
13歳・♀・GP
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
御神・夕姫(gb3754
20歳・♀・GP
トクム・カーン(gb4270
18歳・♂・FC

●リプレイ本文

―― 破壊と殺戮の女神を討つ者達 ――

「神の似姿を模すとはバグアは冒涜が過ぎるな、偽の神はさっさと始末する事にしよう」
 榊兵衛(ga0388)が資料を見ながら呟く。
 今回、能力者達が相手をするのはインド神話などで知られているカーリーと言う女神の模倣キメラだった。神話上でも破壊と殺戮の女神として名を轟かせており、模倣されたキメラもその名に恥じない程の残虐ぶりを見せていた。
「カーリーか、破壊と殺戮の女神と言うだけあってなかなか手強そうだね。この四本の腕をどう攻略するかが鍵かな?」
 鳳覚羅(gb3095)も手を口元に当て、考え込むような仕草を見せながら呟く。
「それにしてもこの写真は残虐極まりないわね。首を狩るなんて、自分の戦功のつもりなのかしら? キメラに品を求めるわけじゃないけど、そんな奴は許せないわね」
 御神・夕姫(gb3754)がため息混じりに、写真の中のカーリーを見て呟く。
「歪めた命で命を奪う‥‥」
 守原有希(ga8582)が拳を強く握り締める、その拳は怒りに震えていた。
「日が落ちる前に終わらせないと‥‥ですね」
 耀(gb2990)がポツリと呟く。
 今回の戦闘場所となるのは森の中、しかもそれなりに広い森らしく日が落ちた後に戦闘を行うのは能力者達の不利になると考えたのだろう。
「森の中に逃げたと言う情報がありますから、現場はまた違う場所なんですよね?」
 櫻杜・眞耶(ga8467)が呟くと「町外れが現場みたいですね」と霞澄 セラフィエル(ga0495)が言葉を返した。
「一応、撒き餌として黒ソーセージ用の血を入手しておきました。さすがはラストホープ、何でも手に入りますね」
 守原が苦笑気味に呟く。何故そのような物を調達したのかというと「カーリー』をおびき寄せる為なのだと言う。資料に残された殺害状況、そして現場に落ちていたカメラから現像された写真を見る限り、カーリーが血を好む性質を持っているのは明らかであり何らかの効果があるだろうと考えての事だ。
「キメラが逃げ込んだ森の地図だ」
 榊がバサッと広げたのはカーリーが逃げた森の地図だった、情報通りそれなりの広さがあり、これらを全て調べていたら日が落ちるのは早そうだった。
 そんな中、トクム・カーン(gb4270)は榊を見て少し感動している雰囲気があった。
「噂の槍の兵衛との出陣かぁ。ミカガミを超える機動性を誇る雷電パイロットにして槍使いとしても有名。早く私もそれぐらい強くなりたいですね」
 トクムは感心するように呟き、作戦へと参加する。
「この赤い印は何ですか?」
 トクムが榊に問いかけると「戦闘が出来そうな広い場所だ、幾つかピックアップしておいた」と彼は言葉を返してくる。確かに地図上には幾つか赤い丸で囲まれた場所がある。
「カーリーの潜伏場所は明確ではないんですよね?」
 霞澄が問いかけると「えぇ、森に逃げた――としか」と櫻杜が言葉を返してくる。
「情報が明確ではないので二班があまり離れず行動した方が良さそうですね」
 霞澄の言葉に「そうですね」と守原も言葉を返す。
「それでは、そろそろ出発した方が良さそうですね。あまり話し込んでいると日が落ちる前に終わらせる事が難しくなりそうですし」
 鳳が外を見ながら呟き、能力者達はカーリーが潜む森へと移動したのだった。


―― 魔の森に潜む血の女神 ――

 情報が明確でないので、能力者達は班を二つに分けて、近すぎず離れすぎずの距離を保ちながら森の中を散策する事にしていた。
 A班・榊、耀、鳳、トクムの四人。
 B班・霞澄、櫻杜、守原、御神の四人。
 能力者達は、まず森の中に行く事より現場となった場所を見る事から始めた。そうは言っても森の入り口からそんなに離れているわけではないのだけれど。
「う‥‥」
 現場は悲惨なものだった、木や地面に血が飛び散っており時間が経ったせいか赤黒く変色している。
「血溜まりと言う言葉に間違いはなさそうね‥‥」
 御神が小さな声で呟く。彼女は呟きながらも周りの警戒を弱める事はしない。
(「戦意は旺盛そうだし、此方を見つけたら真っ先に向かってきそうだものね」)
「あれは‥‥」
 耀が指差したのは血痕、上から落ちたような丸い血痕から、血の上を歩いたかのように足跡のようになっているものもあり、それらは森へと続いている。
「恐らく、カーリーの残した血痕なのだろうな‥‥丸い方は――持っている首から落ちた血痕、足跡は血溜まりの上を歩いたカーリーのもの」
 榊が呟きながら足跡を追うように、視線を森へと向ける。
「とにかく急ぎましょうか、また誰かが被害にあう前に倒してしまわないと」
 鳳が呟き、能力者達は森の中へと足を踏み入れたのだった。


 A班とB班は常に『トランシーバー』で連絡を取り合っていた。万が一の時には『呼笛』で合図を行う事も霞澄は考えていたが、幸いにも『トランシーバー』の通信が途切れる事はない。
「手はず通りに行くと良いのですけど‥‥」
 B班の霞澄が呟くと「大丈夫‥‥と言いたいけどね」と御神が意味深に呟く。
「何か分かったんですか?」
 櫻杜が問いかけると「いえね」と御神が言葉を紡ぎ始める。
「情報には森に逃げたとあるけど、森に逃げたと言うよりは、自分が襲う為の狩場に誘い込む意味の方が強いんじゃないかしら」
 御神は周りを見渡しながら言葉を続ける。
「カーリーに姿が似ているだけとの事だけど、やっぱり戦意は旺盛みたいだし」
「そう、でしょうか‥‥」
 何処か緊張した面持ちの守原が小さく呟く、彼は同輩の女性が苦手と言う事で特に緊張しているのろう。
 先ほどは全員で居た為、それとカーリーに対する怒りがそれを上回っていたのかもしれないけれど‥‥。
「ある意味、一度動くと女神被害が多い神様ですよね? カーリーは」
 櫻杜が警戒を行いながら呟く。
「この辺、戦闘に適した場所ですよね、撒き餌の血を撒いておきましょうか」
 守原が呟き、持ってきた黒ソーセージの血を撒き散らして、B班はA班に『トランシーバー』で連絡を入れたのだった。

 その頃、先を行くA班はカーリーが残した血痕などがないかを探しながらカーリー捜索を行っていた。
 なるべく自分達から攻撃を仕掛けたいと考えているので、極力物音を立てることや目立つ行動を控えていた。
「まるで撃破数を誇るが為に首を切り取っている感じですね。かつて日本も首塚や耳塚が多く作られ、今もあるらしいけど、せめて供養してあげたいね」
 カーリー捜索中にトクムが小さく呟く。
「まさかキメラにもそんな感情や行動があるとは思えないけど‥‥バグアの考える事は分からないね」
 鳳がため息混じりに呟く。
「理解できない事をするから敵なんだろうな」
 鳳の言葉に榊が短く言葉を返す、その時――「‥‥あ」と耀が何かを見つけたかのように小さく呟く。
「何か見つけたんですか?」
 トクムが耀に問いかけると「これ、血痕じゃないですか?」と耀が木に付着しているものを指差しながら言葉を返した。
 その時だった、撒き餌を撒いた場所にけたたましい笑い声と物音を聞いたとB班から連絡が入ったのは‥‥。


―― カーリー VS 能力者 ――

 B班からの連絡を受け、A班が撒き餌の地点へと赴く。場所としては少し開けた空間で戦闘に適した状況だった。
「物音がしたのは――」
 榊が呟いた瞬間、木の上からA班の能力者達に向かって何者かが飛び降りてくる気配を感じてその場から離れる。
「これが、カーリー‥‥」
 ずしん、と能力者達が立っていた場所は四本の腕で攻撃したのか、べっこりと地面が沈んでいた。
「我はカーン一族が一人、トクム・カーンである。破壊神カーリーよ、いざ尋常に勝負だ!」
 トクムがカーリーに向けて叫ぶが、カーリーは不気味な笑みを浮かべているだけで言葉を返すことはしない。
 カーリーの舌先は気味が悪いほどに伸び、四本の腕はそれぞれに剣を持ち、その中でも左腕は住人、もしくは能力者だろうか、人の首が持たれている。
「不気味な‥‥」
 榊は『先手必勝』を使用し、カーリーの右腕に向けて『風天の槍』で攻撃を行う。榊と僅かに遅れてトクムも右腕に向けて『クロックギアソード』で攻撃を仕掛ける。
 そして鳳は機械剣『莫邪宝剣』で攻撃を仕掛け『蛍火』で追撃、耀は『蛇剋』の柄を握ってから覚醒を行い、鳳と同じように『ベルセルク』で左側の腕へと攻撃を仕掛ける。四本の腕は四人の能力者に対応して、それぞれ攻撃を仕掛けるが、能力者達も武器を使用して攻撃を受け流す。
「異教の神を模した紛い物‥‥地に還りなさい!」
 四本の腕をA班が押さえている時、霞澄が洋弓『アルファル』を構え『急所突き』と『影撃ち』を併用して攻撃を行う。
 カーリーは右腕で防御しようとしたが、榊とトクムが抑え、霞澄の攻撃は頭部に直撃した――と思われたが僅かに逸れて右耳と頭にダメージを与えたのだった。
「殺戮の女神を模しているつもりだろうが、所詮はキメラ、役者不足も甚だしいな。さっさとあるべき場所に戻ってもらうぞ」
 榊は呟きながら『流し斬り』で攻撃を仕掛ける。
 流石に能力者達に固められたままでは状況が不利だと思ったのか、カーリーは能力者達のバランスを崩すように少し後ろへと下がる。そのせいでA班の能力者たちに僅かな隙が生じて、その隙を見逃さずカーリーが攻撃を仕掛けた。
「あんたも女神はんなら、亭主相手にぐらい少しは可愛げを見せたらどうなんだい?」
 呟きながら櫻杜が『ショットガン20』で攻撃を仕掛ける。なるべく頭部や喉元などを狙い撃つが、カーリーに避けられる。
 しかし守原が追撃するように『急所突き』『スマッシュ』『流し斬り』を併用して突撃を行う。
「命ば尊い、人の繋がりば砕いた報い、余さず残さず喰ろうてけ!!」
 守原が攻撃を仕掛け、カーリーが逆の腕でカウンターのように攻撃を仕掛けようとするが、耀が『瞬天速』を使用して、カーリーとの距離を詰める。
そして『ベルセルク』と『ソードブレイカー』で二つの腕を防御して、守原が攻撃する間際に手を離して後ろへと避けた。
「注意散漫は――死に繋がるよ?」
 守原が攻撃を終えた後、カーリーにすかさず鳳が近づき『両断剣』と『二段撃』を使用して攻撃を仕掛ける為にカーリーに向かって走り出す。
 カーリーは攻撃を防ごうと腕を防御するが、鳳がカーリーに近づく間際『瞬天速』を使用して御神がカーリーへと近づき「そんなに腕はいらないでしょ? 落としてあげるわ、この『抜刀牙』の一閃で」と言葉を投げかける。
「首を狩られる側の気分を存分に味わいなさい」
 御神は静かに見据えながら呟き『瞬即撃』を使用してカーリーの腕を二本落とす。
「こっちも不要だよね」
 トクムが呟きながら『円閃』『スマッシュ』を使用しながら攻撃を仕掛けて、残る腕も落とそうとしたが力が足りず、榊の援助を受けて残る腕を落としたのだった。
「地獄の業火に思う存分焼かれるのが、貴様には似合いだ」
 榊が『風天の槍』で攻撃を仕掛け、霞澄が喉を貫く。ぐは、と呻く声がしたもののまだ死に至る様子ではない。
 しかし、なおも攻撃を仕掛ける為に能力者達へと向かってくる。
 そこで鳳の攻撃がカーリーへと直撃して地面へと倒れこむ、しかしまだ息はあるようだ。
「物理知覚の連続攻撃を受けた気分はどうだい?」
 鳳が微笑しながら問いかけるが、カーリーは言葉を発さずに鳳の足にがぶりと噛み付いてくる。
「随分諦めの悪い女神はんやなぁ‥‥っ!?」
 櫻杜が呟いた瞬間、カーリーの舌が鋭く伸びて櫻杜に攻撃を仕掛けてきた。腕を失っても戦う術はあると言う事なのだろう。
「命の玩弄者、ん達の所業、直ぐその身に刻んでやる‥‥」
 耀は『瞬天速』を使用してカーリーの背後に回って『急所突き』で背後から一刺しにする。
「人型だからと言って、情をかけたり、心を割く必要はない‥‥だってキメラだから」
 耀は呟きながら『ベルセルク』をカーリーから引き抜く。
「貴方が天国に行けるとは到底思えないけれど、自分で命を奪った相手に懺悔するのね」
 御神が忍刀『颯颯』で攻撃を仕掛けながらカーリーに言葉を投げかける。
 そして再び舌による攻撃を仕掛けようとカーリーが動いたが、トクムが『クロックギアソード』で舌を地面に縫い付ける。
「まだまだ弱いフェンサーだからって嫌がらせは出来るんだ」
 その後、能力者達は再び総攻撃を仕掛け、苦戦しながらもカーリーの首を落としたのだった。


―― 破壊の女神が堕ちた時 ――

「大丈夫ですか?」
 霞澄が『救急セット』を取り出しながら呟く。流石に全員が無傷と言う状況にはならず、全員が怪我を負ってしまった。
「やれやれ、中々手強かったですね」
 鳳も『救急セット』で傷の治療をしながら呟く。
「そうね、やっぱり手数が多い相手って厄介だったわね。阿修羅なら6本だったわけだし」
 御神が呟くと「そのうち現れそうで嫌ですね」とトクムが言葉を返す。
「でも日が落ちる前に終わらせる事が出来てよかったです」
 耀が空を見上げながら呟く、今は少し夕方に差し掛かった頃でもう少し時間が経過していたら森の中も暗くなって戦いも上手くいかなかったかもしれない。
「前回の能力者達の遺品を探して回収したいのですが、いいでしょうか?」
 治療が終わり、帰ろうとしていると櫻杜から提案される。
「もちろんです」
 耀も少し笑みを浮かべて言葉を返し、能力者達は帰還する前に遺品を捜す事にした。
 恐らく能力者達も倒されてしまった事で一般人が近寄る事もなかったのだろう、現場から少し離れた場所に能力者達の武器や道具などが落ちていた。
「帰りたかった、だろうね」
 遺品を回収しながらトクムが呟く。そして目を伏せて手を合わせる。
「散っていった英霊よ。御霊、安らかに眠りたまえ。無駄とは言われそうですが仇は取りました」
「犠牲になった方々に安らぎを‥‥」
 トクムが隣を見ると、霞澄も手を合わせてカーリーに命を奪われてしまった人の為に祈りを捧げていた。
 その後、能力者達は遺品を回収した後に報告の為に本部へと帰還して行ったのだった。


END