●リプレイ本文
―― 新春☆乾布摩擦に集う能力者達――
「ふ――んどしぃ―――ちょぉぉぉぉぉっ!」
乾布摩擦のイベントの為に住人達が準備を始めている中、大石・圭吾(gz0158)はまるで鶏の『コケコッコー』のように大きな声で叫んだ。
しかし、その行動に意味はなく「どうかしたかね」と老人の問いかけに対して「叫びたかったからさ!」と意味不明な言葉を返していた。
「ふんどしーちょ! 何かもう定番だな、この挨拶」
西陣織風の昇り龍が描かれたきらびやかな褌を身に纏いながらやってきたのは、大石の友人でもある天道・大河(
ga9197)だった。
「おおっ、あけましておめでとうだぜ!」
きらん、と無駄に輝く大石の白い歯を見て「おう、おめでとう!」と天道も言葉を返す。
「兄ちゃん、今は褌一丁の姿が流行っているのかね」
最初、住人達は『大石の褌一丁がおかしい』と考えていたのだが、二人目が現れては流石に今の流行なのかと問いかけたくなったようだ。
「ははは、そうとも! 今年を現す言葉は『褌』なんだぜ! なぁ!」
「そうとも!」
褌一丁の二人が腰に手を当てて高笑いをしていると「ふんどしーちょなのですよー」と鳳 つばき(
ga7830)も笑顔で手を振って公園へとやってきた。
「なんと、女子までそんな格好をしているのか!」
住人達は女性である鳳も褌一丁でやってきた事に対して余計に驚きで目を見開く。
「新年一発目の褌初め、心身を清めるべくやってきました」
鳳の言葉を聞いて、若い男性住人が「主旨変わっとるがな」とビシッとツッコミを入れてくる。
「今回は乾布摩擦だけじゃなく、餅つきや相撲、寒中水泳も考えてるんだ」
大石が公園の中央にある池を指差しながらビシッと親指を立てる。完璧に主旨がどんどんと違う方向へ向かい始めている事に住人達は僅かばかりの不安が過ぎっていた。
「寒中水泳に乾布摩擦‥‥なんとなく日本人の好みが見えてきた」
ふむ、と納得するように呟くのはミオ・リトマイネン(
ga4310)だった。彼女は今回のイベントを盛り上げる為、そして日本文化をより理解したい為に参加したのだと語った。
しかし、そこで誰もミオに教える者はいない。
明らかに日本文化の何たるかが間違っていると言うことに‥‥。
「しかしアイドルさんみたいな子でも、あんな格好するんだねぇ」
中年女性がミオを見ながら呟く。ミオの姿、それは褌での参加だった。
「日本の伝統行事だと聞いたから‥‥褌は伝統衣装なんでしょう?」
白く引き締まったお尻にキュッと褌を食い込ませ、サラシで形よく強調されているのは豊かな胸。勿論、彼女はお色気を狙ってしているのではなく無意識なのだ。
そして‥‥そんなミオの胸を凝視する人物――鳳がいた。背後に暗雲を立ち込めさせ「くぅっ!」と呟きながら「どりゃあああ」と走り始めた。
「何なんだろう‥‥」
首を傾げながら鳳の行動を見ていたが、さっぱり意味が分からずに彼女自身もお汁粉の用意を始めたのだった。
「ここが会場ですね――僕こそ乾布摩擦の元締めです。元祖なのです」
古井安男(
ga0587)が『乾布摩擦会場』と手書きの看板が立てかけられた公園の前に立つ。彼は一年前の名古屋防衛戦の時に本部の前にて乾布摩擦大会を催した人物だった。
「乾布摩擦のこんなイベントがあるなんて‥‥」
古井は感動に浸りながら公園へと足を踏み入れたのだった。
「おお、キミも乾布摩擦に参加かね! さぁさ褌に着替えたまえ」
きらんと白い歯を輝かせながら大石が褌を古井に渡すと「いや、僕は‥‥」と拒否の色を見せる。
「色んな意味で貧弱なので、褌は勘弁してもらいたいです」
古井が苦笑しながら呟くと「そうか‥‥それは残念だな」と大石がしょんぼりとした表情を見せる。
「今回は間に合いましたかね」
宗太郎=シルエイト(
ga4261)が公園に足を踏み入れながら呟くと「参加者大歓迎!」と抱きつきながら歓迎の意を示す。
はっきり言って、新年早々から褌一丁の男に抱きつかれて彼にとってこれ以上の不幸は訪れないような気もする。
「‥‥苦しい、むさい‥‥」
むぎゅううう、と抱きつかれて宗太郎は小さく呟く。ある意味、昇天しそうな勢いだ。
「おお、これは失敬! おや? 褌にはならないのか?」
大石が問いかけると「急いで来たもので、今から着替えます」と宗太郎は言葉を返す。
「そうかそうか、さぁ褌になりたまえ!」
大石が大きな声で「どうぞ!」と叫び、住人、そして集まった能力者達の視線が一斉に注がれる。
「‥‥‥‥‥‥向こうで着替えます」
流石に全ての人間に見つめられる中で服を脱ぐ気にはならなかったらしく、宗太郎は男性用のトイレへと入っていった。
「宗太郎はシャイボーイなんだな。それでは褌戦士の名が泣くぞ」
うんうん、と首を縦に振る大石だったが、そもそも宗太郎が『褌戦士』として名が知れ渡っているわけではないし、宗太郎自身もそんな呼び名など付けられていない。
「ふんど師匠! 皆さん、あけましておめでとうございます」
千祭・刃(
gb1900)がぺこりと大石、そして住人や能力者達に頭を下げながら新年の挨拶を行う。
「新年早々、素晴らしい企画ですね。ふんど師匠! さぁ乾布摩擦をしましょう!」
千祭はバッと服を脱ぎ、白地に日の丸の褌姿になる。
「おお! やる気満々だな、ふんど弟子。しかし乾布摩擦までは少し早いぞ、まだ集まっていないからな」
はははは、と豪快に笑いながら千祭に言葉を返すと「そ、そうでしたか」と千祭は苦笑しながら言葉を返す。
「お久しぶりです、大石さん」
気品たっぷりにやってきたのは美環 響(
gb2863)だった。
「おお! 久しぶりだな!」
大石が美環の背中を叩きながら言葉を返すと「本当にずっと褌姿なんですね」と美環が言葉を投げかけてくる。
「大石さん、褌姿はいいですけど体調管理には気をつけてくださいね」
美環が話しかけると「ふふん」と大石が得意気に「俺は生まれてこの方病気になったことがない!」ときっぱりと断言した。
つまり、生まれつきのBAKAなのだろう。
「とりあえず手伝う事はありますか?」
美環が問いかけると「あぁ、相撲会場とかの設営を手伝ってくれると嬉しいな」と大石は言葉を返す。
「分かりました、このイベント楽しいものにしましょうね」
美環はにっこりと微笑んで会場設営へと向かったのだった。
「乾布摩擦会場はこの公園でいいのか?」
美環が設営へと向かった後、風閂(
ga8357)が大石に話しかけてきた。
「おおっ、ここで間違ってないぞ」
大石が言葉を返し「ところで、乾布摩擦は褌姿でやるのか?」と風閂が言葉を返してくる。
「当たり前じゃないか! ささ、風閂も褌に!」
大石が言うが、風閂は場所が公園と言うことに多少の抵抗を覚えているようだ。
「公衆の面前でそのような格好は‥‥」
一般人に見られるのが恥ずかしいのか、風閂は顔を逸らしながら呟く。
「馬鹿者! 人に見られるから何だって言うんだ! 褌は見られて恥ずかしいモンじゃないぞ!」
どどんと言い切る大石を見て住人達は「おお」とざわめく。そのざわめきは大石を尊敬してなのか、それとも呆れてなのかが分からないけれど。
「そういえば遅いなぁ」
もう一人、UNKNOWN(
ga4276)がやってくる筈なのだが、まだ彼が来る様子はない。
「仕方ない、これより乾布摩擦を始めるぜーっ!」
大石の声が公園の中に響き渡り、能力者と住人達の乾布摩擦イベントが始まったのだった。
―― まずは乾布摩擦で新年の抱負を ――
「まずは新年の抱負を言いながら乾布摩擦をするぞぉぉぉっ!」
大石が叫び、能力者達は乾布摩擦をする為のタオルを手に持ち始めた。
「それでは皆さん、気合を入れて擦りましょう」
古井が呟きながらごしごしと背中を擦り始める。
「今年こそは報酬貯めて新しい機体を買うぞーっ、そーれゴッシゴシー、貧弱の名を返上するぞーゴッシゴシー」
古井は今年の抱負を呟きながら背中を擦っている。
その隣では宗太郎も褌姿になって乾布摩擦を行っている。
「空戦用の! KVが! 欲しいです! ‥‥‥‥お金、貯めます」
ごしごしと背中を擦りながら宗太郎は遠い目をしている。
「‥‥と、とりあえずどんまい」
哀愁漂う宗太郎に大石も言葉をかけずにはいられなかった。
「今年の抱負‥‥脱お色気路線‥‥かな」
ミオが抱負を呟きながら背中を擦っているが‥‥乾布摩擦をするポーズはどう見てもお色気路線まっしぐらにしか見えない。
「ふふふふ‥‥私の今年の抱負は――」
鳳は仁王立ちという勇ましい姿でタオルをビシッと構え「せいやっせいやっ」と掛け声を上げながら乾布摩擦を始めた。
「せいやっ、せいやっ、ふんどしーちょ! 今年こそはっ、彼との仲を進展させるぞっ、ふんどしーちょ! お金も貯めるぞ! ふんどしーちょっ」
「女子ながら勇ましいな‥‥」
掛け声をかけながら乾布摩擦を行う鳳を見て、風閂も「俺も」と負けじと「健康第一! 健康第一!」と大きな声で掛け声をかけながら乾布摩擦を行った。
「俺に言わせれば、まだまだ皆――生温いな。この俺が真の乾布摩擦というものを見せてやる!!」
はぁぁぁぁ、とタオルを構えながらゴシゴシゴシゴシと勢いよく背中を擦る。
「さぁ、今年も褌全開でがんばるぞーーっ」
天道は抱負を言いながら背中を擦るが――あまりにも強く擦りすぎて背中が真っ赤になってしまった。
「さぁ、ふんど弟子! 俺達も乾布摩擦をするぞぉぉぉぉ!」
「はいっ、ふんど師匠!」
大石が千祭に話しかけると、それぞれタオルを構えて一気に擦りだす。
「今年こそ、褌が世界を支配するのだああああぁぁぁっ!」
「はいっ、今年こそ褌で世界平和になるのですっ!」
大石と千祭が乾布摩擦する姿を見て、住人達はもちろん能力者達も唖然とした表情で見ている。
「さすがは大石さんですね」
美環が苦笑交じりに二人の姿を見てタオルをはらりと取り出す。何気ない動作なのだが何処か色気を感じさせ、住人女性をどきりとさせていた。
「今年の抱負は全力全開でイベントを楽しむ事――ですね」
美環が抱負を言い終わると、鳳の携帯電話に着信が入る。どうやらUNKNOWNのようだ。
「どうやらもうすぐ到着のようですよー」
鳳が大石に知らせると「そっか、入り口で待っとこう」と大石は公園の入り口へと向かっていった。
その頃のUNKNOWNは‥‥。
「今回の乾布摩擦には大石が参加しているようだな」
車の運転をしながらUNKNOWNが呟く。
「大石か‥‥この前、怪我させたしな。ま、このイベントを機に仲直りするか」
呟きながらUNKNOWNは公園への道を進んでいく。
しかし、肝心の公園は少し分かりにくい場所にある為に彼は公園を見つけることができない。
仕方ない、UNKNOWNは呟きながら再び携帯電話で鳳に電話をする。
「‥‥近くに来たと思うのだが、皆はどこだね?」
UNKNOWNは携帯電話片手に運転をしていた為、少しだけ余所見をしてしまっていた。
まさか彼も思うまい、余所見をした隙に満面の笑みを浮かべた褌男・大石が道に飛び出してきたことに。
(注意・良い子の皆様は携帯電話片手に運転やよそ見運転をしては駄目ですよ)
「あ、あれかね? この前、大石には悪い事をしたからな、侘びを兼ねて私も褌で‥‥」
――どんっ
入り口に来た鳳が手を挙げている姿を見て、UNKNOWNも軽く手を挙げた所で車が何かにぶつかる音がして、彼は車を停めた。
そして倒れている大石に気づき、彼は慌てて車から降りて大石に駆け寄る。
「――大石が襲われたようだ」
UNKNOWNは電話の向こうにいる鳳に言葉を残して、電話を切る。
「くっ、バグアめ。また酷い事を‥‥」
UNKNOWNは倒れる大石に目を向けながら心の底から悔しそうな表情で呟く。
ちなみに大石が倒れている理由――それはUNKNOWNが車で撥ねたからだ。酷いというなら、彼は自分自身の事を言っているのだが、まさか自分が車で怪我を負わせたなどと夢にも思っていない。
(「またお前かああああっ、俺の褌を狙っての事か! そうなのか! そうなんだな!?」)
大石は心の中で叫びながら、ふるふると拳を震わせている。
「悔しいのか、私もだ。そう、犯人はバグアだ、バグアに間違いない」
(「お・ま・え・だ・よおおおおっ!」)
心の中で言葉を返す大石だが、生憎UNKNOWNにテレパシー能力は無いために大石の身を切り裂くほどの心の言葉は通じない。
「私はこれからバグアを追う。乾布摩擦はできないが皆で楽しんでくれ」
UNKNOWNはそれだけ言葉を残すと、そのまま車で走り去っていった。
もしかしたら彼は自分で撥ねた事に気づいていて、そのまま逃げた――のかもしれない。
―― 気を取り直して 相撲大会 ――
「うぅ‥‥酷い目に遭った‥‥」
大石はUNKNOWNに跳ねられた後、軽い怪我で済みその後のイベントを続行する事になった。
(「何であの吹っ飛びっぷりで軽傷なんだろう」)
誰もが心の中で呟いたが、きっと大石に言っても「ふんどしパワーだ!」という言葉しか返って来ない気がしたので、口に出して聞く事はなかった。
ちなみに勿論『ふんどし』にダメージ軽減能力などは存在しない。
「次は相撲ですね、まずは大石さん――お相手願います」
古井が呟き、大石が「ふふふ、俺に勝てると思うかね」と自信たっぷりに呟き、構えを取る。
はっきり言って大石には弱点塗れだ。褌を取られればイヤンな状態になるのだから。
「どぉりゃあああああっ」
すぽーんっと古井は大石に投げられるが、彼は何度も立ち上がり何度も何度も大石に向かっていく。
「はぁ‥‥結局勝てなかったですね」
苦笑しながら古井は「ありがとうございました」と頭を下げて、次に行う餅つきの準備を始めた。
「次の組、土俵に上がってください」
宗太郎は塩を巻きながら次の組に向かって呼びかける――が。
「うおおおおっ、塩が、塩が目にぃぃぃ」
ごろごろと土俵内を転がりまわりながら天道が叫ぶ。
「ふふふ、対する相手は私ですよ――褌伝道女神が!」
鳳がドドンと仁王立ちで土俵にあがり、スタートの合図と共に猫だましで相手を怯ませようとする――のだが、既に天道は塩によって怯んでいる。
「くぅ、中々やるなっ!」
鳳が天道に向かって叫ぶが、天道は何もしていない。むしろ彼はやられた方だと言う事を鳳は気づいていない。
「ふふふ、この隙に‥‥」
鳳が呟くが、天道はまだ何もしていない。鳳はごろごろ転がる天道の周りをぐるぐると惑わすように走り出す。
「俺を舐めるなぁぁぁぁっ」
くわっと天道は目を見開く。
今回の相撲大会では褌一丁同士が相撲を取るとポロリでイヤンな状況になる可能性が高いと言われていた。
しかし天道は自分がポロリする分には全く気にしない方向で、むしろ女性参加者のポロリ状況に期待するという邪心と煩悩に満ちた考えを持っていた。
「かつてこれほどまでに‥‥一瞬たりとも眼の離せない相撲があっただろうかっ!」
天道の煩悩に満ちたピンクオーラが眼に見えるようで、鳳が僅かだが怯む。その隙に天道が鳳へと向かって走り出す――がっっ!
「お、俺の褌が‥‥っ!」
「うわきゃあああああっ!」
『現在 放送事故により 復旧作業を行っています』
結局、天道がポロリでイヤンな状況になってしまった為に自動的に鳳の勝ちと言う事で試合は終わった。
「次は俺だな」
風閂が土俵に上がる、乾布摩擦では上半身だけ裸と言う彼だったが相撲の時は褌一丁という格好をしていた。
「お相手は僕ですね、褌がずり落ちない程度に頑張ります」
千祭が土俵に上がりながら、両者共に構えを取る。
「相手が男性と言う事で手加減はしないぞ」
風閂が呟くと「僕だってふんど師匠以外にやりにくさは感じませんから」と千祭も言葉を返す。
「いきますっ!」
最初に仕掛けたのは千祭だったが、力の差が出たのか千祭が押されている。
「頑張るんだ! ふんど弟子―――っ!」
大石の応援で「師匠!」と千祭が言葉を返したのだが、叫んだ瞬間に力が僅かに抜けて風閂に負けてしまった。
「あぁぁ‥‥ふんど弟子――負けたか‥‥」
大石が残念そうな表情をしていると『半分以上あんたのせいだよ』と住人達や能力者達の心の中でツッコミが入る。
「次は僕ですけど‥‥大石さん、お相手願えますか?」
美環が大石に話しかけると「もちろんさっ!」と言葉を返しながら土俵に上がる。
「UNKNOWNさんが参加されたら、彼の驚く姿も見てみたかったのですが――参加されなかった事が残念ですね」
美環が土俵に上がりながら呟くと「俺を倒してから行ってもらおうか」と大石も自信満々で言葉を返す。
「行きます」
美環が最初に動き、大石を土俵から下ろそうと試みる、しかし大石はびくともしない。
「流石に‥‥素直には勝たせてもらえませんか」
ふぅ、と美環が呟き――再び大石に向かって走り出す――が、ここで再び悪夢が起こる。
「きゃあああああっ!」
住人の声なのか、それとも能力者の声なのか判別はつきにくかったが女性の甲高い声が公園に響き渡る。
『本日 二度目の 放送事故です 現在復旧作業中です ご迷惑をおかけします』
「おおおお、お前も俺の褌を狙う輩だったのか! なんと言う事だ。神聖な乾布摩擦がこんなイロモノに変化してしまうとはああああっ」
大石は混乱しながら褌を締めながら、今にも泣きそうである。普段からあんな格好をしている癖にポロリ☆イヤンは嫌なようだ。
結局、大石は褌を締めるために土俵から降りてしまい、美環の勝利で終わり、破廉恥相撲大会は終わったのだった。
―― 運動したら腹減ったからお食事タイム ――
「何か‥‥色々と騒々しかったようですけど」
ミオはお汁粉の用意をしながら餅つきをする為にやってきた能力者達に話しかける。
「乙女の純情が‥‥」
鳳は先ほどのショックが抜けないのか、口から魂が抜けた状態でぼそりと呟く。
「餅つきの準備が出来ましたから、餅つきを始めましょう」
古井が相撲を終えてやってきた能力者達に話しかけると「此方ではお汁粉を作ってます」とミオが大鍋に視線を移しながら呟く。
ずっと準備をしていたようなので、餅つきが終わる頃にはお汁粉も準備が終わるだろう。
「餅をつくのは任せてくれ、力には自信がある」
風閂が褌一丁の姿から青いジャンパーを羽織り『なんくるないさ』のTシャツという格好に着替えて杵を持つ。
「杵と臼で餅つき、これこそ日本の正月だ。まさか日本文化を楽しめるとは思わなかったぞ」
何処か感激した様子で杵を振り上げて餅をつく。
「ふむ、ただ食うだけじゃ飽きるからな」
餅つきをしている隣のテントで持参したトッピングを使用して餅を調理していく。彼が作っているのは、あんこ、ずんだ、きなこ、すり潰した胡麻や胡桃、納豆、そしてみたらしなど様々なバリエーションである。
「へぇ‥‥こんな風に餅つきってするんですね、勉強になります」
風閂が餅つきをしている隣で千祭がメモを取りながら呟く。
「とーちゃんもこういう事、してたのかな?」
千祭が付け足すように呟き、視線を天道に向ける。
「わぁ、美味しそうですね。あんこときなこをたっぷりつけて食べようかな」
「僕も甘党なので、餡子ばかり食べてしまいそうです」
千祭の隣に美環が立ち、天道が作る様を見ながら苦笑気味に呟く。
「ふんど師匠は何がお好みですか?」
「そのまま」
短く言葉を返した大石に美環と千祭は驚いたような表情を見せる。
「醤油も何も付けずに、ですか?」
美環が問いかけると「男ならそのままだっ!」と腕組をしながら言葉を返す。果たして『男なら』と言う言葉に意味があるのかも不明だが、突っ込むのも何なので二人は放っておくことにした。
そして餅つきが終わり、それぞれ能力者達は自分達の好みに合わせてつきたての餅を食べ始めた。
「どうぞ、お汁粉です。熱いから気をつけてくださいね」
ミオがお椀にお汁粉を入れて住人達、能力者達に渡していく。
「あれ、餅は何処かな‥‥」
ミオは呟きながら大鍋の中を覗きこむが、お尻を突き出したり、胸を強調するポーズを取ったりなどで、男性諸君は別の意味でドキドキである。
もちろん、本人は『脱お色気路線』を行っているため、無意識のうちの行動なのだけれど。
「こっちはまだ食べてないっ」
鳳は色々な餅を食べる為にうろうろとあちらこちらを行き来している。
「美味し――ぐぅっ!」
勢いよく食べていたせいか、鳳は餅を喉に詰まらせてしまいごろごろと地面を転がりまわっている。
「そんなに慌てなくても、まだ餅は沢山ありますし‥‥」
古井が飲み物を渡しながら鳳に話しかける。
「あれ? 宗太郎は何をしてるんだ?」
ドラム缶を抱えながら行き来する宗太郎に気がつき「餅は食べないのか?」と大石が問いかける。
「後で食べます。寒中水泳用のお風呂を沸かそうかと‥‥」
宗太郎はガコンとドラム缶二つを置いて、焚き火を起こして風呂を沸かし始める。
「ドラム缶の数が二つじゃ‥‥足りなくないですか?」
美環が問いかけると宗太郎はドラム缶へと視線を移して「‥‥一つに二人くらいは入れるでしょう」と言葉を返して解決する。
「そうだ、後でお金を払うからな」
住人の一人がミオに話しかける、彼女は自腹でお汁粉の用意をしてきていた。
「え、いいですよ。折角のイベントですし‥‥」
ミオが断るが「手伝いに来てもらって金まで出させちゃ、こっちの気がすまないんだよ」と住人が言葉を返してくる。彼女は何度も断ったが、結局住人が折れる事はなかった。
「‥‥美味しい」
ミオは自分で作ったお汁粉を食べながら呟く。彼女自身、結構乗り気だったようで作り方など調べてきていて本格的なお汁粉が完成している。
「醤油はあるが大根おろしはないか? 俺は甘いものがあまり好かんのでな」
風閂が呟くと、住人の一人が大根おろしと醤油を入れた小皿を持ってくる。
「甘いものが苦手なんですか? 美味しいのに‥‥」
風祭は呟くと餡子ときなこがたっぷりついた餅を口へと運ぶ。甘いものがあまり好きではない風閂はそれを見ただけで少し胸焼けを起こしそうな感覚になったのだとか。
「このあんこ、美味しいですね」
美環もあんこたっぷりの餅を口へと運ぶ。
そして、宗太郎が「お風呂の準備できましたよ」と呟き、能力者達は池での寒中水泳を行う事となったのだった。
―― 寒中水泳 IN 池 ――
「あんた達、止めた方が良くないかね? 今日はまだ暖かい方だとは言っても冬なんだから風邪をひいちまうよ」
これから寒中水泳を行おうとした時に、老人が心配そうに問いかけてくる。
「大丈夫ですよ、皆さん能力者ですし――僕は遠慮しますけど」
古井が苦笑交じりに言葉を返しながら、今にも池の中に飛び込もうとする能力者達に視線を向けた。
「そ、それじゃ――先に三周泳いだ方が勝ちとする、でいいんかね」
老人は「よーい‥‥スタート!」と言葉を付け足して能力者達は次々に池へと飛び込んでいく。
しかし――ここでも問題が起きた。池は湖ではないし、ましてや海でもない。沢山の能力者達が飛び込んだら池の中で頭をぶつける者などが多数出るのが当たり前だ。
「いてぇっ!」
「きゃあっ、何処触ってるんですか!」
「俺の褌を引っ張らないでくれぇぇぇ」
などなど次々に声が聞こえ始め、寒中水泳が終わる頃に池が無事なのかという心配が住人達の頭に過ぎる。
その中で一人だけ被害を被っていない能力者がいた、宗太郎だ。彼は地の底を這うように素潜りしていき、ゆっくりと三周を泳ぎ切り、ドラム缶風呂に入る。
し・か・し。
「寒いですっ」
千祭がドラム缶に飛び込んできて、その次に大石も飛び込んでくる。流石にドラム缶と言えども三人の男が入るには小さすぎる。むしろ入るのはいいが、ぎゅうぎゅうになってしまい出る事が困難になっている。
「ははははっ、私の泳ぎを見よーっ! ふんどしグネグネ泳ぎ!」
次々に池から能力者達が出て行き、ゆっくりと泳げるようになった鳳は『ふんどしグネグネ泳ぎ』で池の中を泳ぐ。
ちなみにグネグネしているのは鳳であって、ふんどしは彼女の動きにつられているだけである。
「‥‥寒そうだなー」
風閂は餅を食べながらドラム缶風呂で暖まる能力者達を見て、小さく呟く。
「右に同じくだな
天道も餅を食べながらジーッと見ている。
「あれ、参加しなかったんですか?」
ドラム缶風呂で暖まり、此方へとやってくるのは美環だった。中性的な容姿の為か男女問わず視線を集めている。
普通の女性より綺麗な彼を見て、もしかしたら道を違える者もいるかもしれない。
「ぎゃああ、熱いいいいっ」
三人の男が入っている事で出られなくなった三人は逆に暖まりすぎて今度は熱いと訴え始め、寒中水泳が終わり――最後の羽根つきが始まるのだった。
―― 羽根つきを甘く見たら 痛いんだぜ ――
「負けた奴はこれで落書きされる、でルールはいいよな」
大石が筆と墨を指差しながら呟くと「勿論」と言いたげに能力者達は首を縦に振る。
「それじゃあ対戦相手を発表するぜ! あみだくじで選んだからまさにランダーム」
大石がバッと紙を広げてそれぞれの対戦相手を発表したのだった。
◎第一組・古井 VS 鳳
◎第二組・宗太郎 VS 天道
◎第三組・ミオ VS 大石
◎第四組・風閂 VS 美環
◎第五組・千祭 VS 大石
「僕の対戦相手は女性ですか、宜しくお願いします」
古井はぺこりと頭を下げながら鳳との羽根つきを始めたのだった。
「先手必勝! どりゃーっ、ふんどしーちょダイビングレシーブッ!」
鳳が先手で古井に攻撃を仕掛ける。ちなみにふんどしはダイビングしないしレシーブもしない。
「わ、わ‥‥」
勢いのある攻撃に古井もやや驚き、攻撃をし返したのだが、鳳もすぐに打ち返してくる。暫くどちらも譲らず、打ち返していたのだが――相手を疲れさせる為に動いていた鳳に振り回されて古井は負けてしまった。
「フフフ、それでは書かせていただきます」
鳳は筆を持ち、古井の額に『ふんどし』と書く。
「負けたらあれを書かれるんですか‥‥」
古井の額を見ながら宗太郎が「負けられない」と拳を強く握り締める。
「誰が呼んだか羽根つきマスター! 天道・大河現る!」
天道が呟き、二人の戦いが始まる。
「褌ぃぃぃアターーーック!」
スパーンと打ち、宗太郎に攻撃を仕掛けるが、宗太郎は素早く打ち返す。
「ぬぬぬぬ‥‥あそこに空飛ぶ褌が!」
天道が遠くを指差して、宗太郎は「え?」と振り向く。
「それはおらの褌だあ!」
何故か住人の一人が褌を干しており、それが風を受けてひらひらと舞う。そしてその隙を突かれて宗太郎は負けてしまい、その場に崩れ落ちた。
「‥‥よぅし、これでOK!」
古井と同じく『ふんどし』と額にかかれ、宗太郎は軽くショックを受けたらしい。
「次は俺だな」
大石が指を鳴らしながら前へと出る、対戦相手は無意識お色気のミオだった。
「な、何か着た方がいいっ!」
ミオを見るや否や大石は顔を逸らしながらミオに話しかける。
「む、胸が強調されてうら若き乙女がする格好じゃないぞ!」
大石がミオに向けて叫んだ言葉に対して「‥‥あれ?」と鳳が妙な疑問を持つ。
(「‥‥私も『乙女』なんだけど‥‥言われた事ない」)
その事実に妙な怒りがこみ上げてきて「今のうちにやっちゃえ!」と鳳がミオに向けて声援を送る。
「え‥‥じゃあ‥‥」
ミオは遠慮なく顔を逸らしている大石に向けて攻撃を仕掛け、大石は色気と言う名の敵に負けてしまった。
「それじゃあ‥‥落書きを」
ミオが筆を手に取り「フソドシ」と書く。カタカナで書かれている為に『ン』が『ソ』に見えて『フソドシ』となっている。
「色気にやられるとは‥‥大石殿も情けないな」
風閂がため息混じりに呟く。
「対戦相手は僕ですね」
美環が風閂の前に立ち、それぞれ戦いを始める。最初に仕掛けたのは風閂で、彼にしてみれば大した力は込めていないのだが、元々の力が強いゆえかスマッシュ並みの威力になっていた。
「ぁ」
美環は遠くに飛んでいった羽根と風閂とを交互に見る。
結局、風閂の負けとなりあまり力を出せなかった美環は相手に精神的ダメージを与える為に全身に『褌』の文字を書きなぐっていた。
きっと洗うのが大変だろう。
最後は褌の師弟対決となり、負けた大石と千祭が互いを見る。
「相手がふんど師匠であっても、全力で行きますよ」
千祭が呟くと「流石に弟子に負けるわけにはいかん!」と大石も妙な気合を見せる。
そして戦いが始まると、両者は一歩も引けを取らない戦いを見せていた。力で押す大石と技術で魅せる千祭、どっちが勝ってもおかしくない状況だったのだが‥‥。
僅かに見せた隙によって大石が千祭の顔面に羽根を叩きつけたのだった。
「あいあーむ、ふんどしウィナーっ!」
大石が嬉しそうに叫ぶが「反則じゃ」と老人から言われて動きを止める。
「掠り傷じゃが、ちぃーっと血が出ておる。じゃからお主の反則負けじゃ」
老人の言葉に大きなショックを受けた大石は『褌男』と何故か老人から書かれてしまい、羽根つきの競技が終わったのだった。
―― 新春・乾布摩擦 閉幕 ――
「楽しかったな」
「あぁ、いつもと違う乾布摩擦だったけど笑えたよな」
住人達の言葉に能力者達は何処かほっとしたようなため息を漏らす。全てが終わった能力者達は公園の片付けなどを行っている最中だった。
「すまんな、片付けまでしてもらって」
老人が申し訳なさそうに話しかけてくると「気にしないで下さい。礼儀ですから」と千祭は言葉を返した。
「そうだ、ベストふんどしとしてこれを差し上げますよ」
宗太郎は天道に『キャンプ用テント』を渡した。
そして片付けを終えた能力者達は、そのまま帰路につくもの、本部へ向かうものなど様々な別れをして、乾布摩擦を終えたのだった。
余談だが風閂を含む数名の能力者達は後日、風邪を引いて寝込んでしまい、大石はUNKNOWNの姿を見つけて再びラストホープ中を追い回したのだとか‥‥。
END