タイトル:【CAR】 始まりの日マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/23 01:07

●オープニング本文


CENTRAL ANATOLIA REGION――‥‥中央アナトリア。

アンカラ、ヤズルカヤ、ハットゥシャ、サフランボル、コンヤ――‥‥。

様々な重要遺跡や博物館などが並ぶ場所。

此処に一人の男が降り立った、それらを無に帰す為に。

※※※

「――哀れなものですね」

彼が見下ろすのは紀元前1800年頃にアナトリアを支配したヒッタイト帝国の首都だった場所。

そこは天候神テシュプと配偶神であるヘパトに捧げられた神殿で、かつてはもっと立派な建物だった筈なのに、帝国の衰退と時の流れによって、今では土台しか残っておらず、瓦礫の山にしか見えない。

「初めて製鉄技術を持ち、鉄器を使ったとされる帝国――その強さは当時では半端なかっただろうに、こうして滅びている――‥‥」

男は手に持っているフルートを手にして葬送曲を奏でる。青い空の下、彼が奏でる曲はよく響き渡っていた。

「形ある物が最大限に美を発揮する時、それは破壊の瞬間。壊れて尚も美を残すこれらを壊したら――どんな美しさを見せてくれるのでしょうね」

男は笑みを浮かべながら楽しそうに呟き、再びフルートを奏でる。

「それに遺跡など古来から残る場所とは人の拠り所となる場所とも聞き及んでいます、それらを失った人間の顔は、きっと醜く歪みながらも美しいのでしょうね」

男の呟きとともに二体のキメラが現れ、ズシンと地震のように地面が揺れる。

「それでは――破壊の美を始めましょう」

金色の髪を風に靡かせ、男――ハリー・ジョルジオは呟いた。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
比留間・トナリノ(ga1355
17歳・♀・SN
斑鳩・眩(ga1433
30歳・♀・PN
シェリー・ローズ(ga3501
21歳・♀・HA
Mk(ga8785
21歳・♂・DF
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
原田 憲太(gb3450
16歳・♂・DF
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

〜トルコに降り立つ能力者達〜

「今は廃墟になっているとは言え、風情の在る所で無粋な真似をしてくれるヤツラが居るものだ――誰かの差し金か、ただの本能かは知らんが潰させてもらう」
 九条・命(ga0148)は目的地に向かう高速艇の中で小さく、そして低い声で呟いた。現在、能力者達が向かっている場所はトルコ、ヒッタイト帝国の都跡とされている『ハットゥシャ』にキメラが現れたという報告があり、能力者達は慌てて向かう事となった。
「文化遺産を攻撃するだなんて、バグアにとって、あまり意味のある行為とは思えませんが‥‥ちょっと不可解な行動ですね。背後に何者かが暗躍しているという事でしょうか?」
 もちろん気のせいなら良いのですが‥‥うっうー、と比留間・トナリノ(ga1355)は言葉を付け足しながら九条に言葉を返す。
「何を考えてこんな所に出て来たんですかねー、バグアの考える事は良く分からないですよ」
 原田 憲太(gb3450)は高速艇の中からトルコを見下ろしながら呟く。でも彼の言う通り不明な点が多すぎるのだ。首都のアンカラ、最大都市であるイスタンブールならともかくハットゥシャは少し離れた場所にボアズカレという村がある程度で襲ってもメリットがあるとは思えにくいのだ。
「まあ、人類の貴重な遺産である遺跡を頭の悪い輩のせいで壊されでもしたら目も当てられないんで何としても倒さないといけませんね」
 原田はため息混じりに呟き、ボアズカレに着陸した高速艇から降りてトルコの地に足を踏み入れた。
「神聖なる大地に、醜悪なる怪物は似合わない。早々に退場していただこう」
 サンディ(gb4343)は呟き、己の武器である『レイピア』を持った。
「とりあえず今回の目的はキメラ退治と遺跡を壊させない――文化を守る為の任務‥‥ま、気にせずいきまっしょい」
 斑鳩・眩(ga1433)は手を腰に当てながら呟くと「遺跡と言っても広いのよねぇ」とシェリー・ローズ(ga3501)がため息混じりに言葉を返した。
 そこへボアズカレでペンションを営む男性が現れ「アンタ達が事件を解決してくれる人達かい?」と話しかけてきた。
「あぁ、何処で何があったか知ってるなら教えて欲しいんだが‥‥」
 翡焔・東雲(gb2615)が男性に話しかけると「大神殿に向かった観光客が慌てて帰ってきてね」と男性は状況を話し始めた。
 何でも遺跡を見に来ていた若い男女が数名、遺跡入り口にある『大神殿』へと向かったらしいのだが、行ってすぐに帰ってきたのだと言う。男性は何があったのかを聞くと「バケモノが二匹いた」と男女達は口を揃えて言ったのだとか。
「なるほど‥‥それで本部に能力者要請をして、俺達が派遣されたわけだね」
 Mk(ga8785)が納得したように呟く。
「大神殿まで行くなら車をチャーターしてあげよう、此方としても早々に解決して欲しいからね」
 男性はそう呟くと、車を探してきてくれて能力者達を目的地である『大神殿』まで運んでくれたのだった。
 しかし、大神殿を見て能力者達は困った事が起きた。
「‥‥これじゃあ、ひきつけは難しそうだな‥‥」
 九条は大神殿を見て、ため息混じりに呟いた。遺跡を傷つけぬように遺跡からキメラを離れさせてから殲滅する予定だったのだが、大神殿はハットゥシャ最大の遺跡であり、入り口付近にキメラがいてくれるならまだしも、ある程度まで進まれている今の状況では遺跡を無傷のまま任務を終わらせるという事が限りなくゼロに近い確率になってしまっている。
「うっうー、見える範囲にはいないですね‥‥見える範囲にいてくれたら可能性あったかもしれないのですが‥‥」
 比留間は眉を下げ、困ったような表情を見せながら小さな声で呟く。
「とりあえず、キメラを探そう。後の事はそれからだよ」
 斑鳩が呟き、能力者達はキメラ捜索に向かう。先ほどの男性の話を聞いた限り、キメラの大きさは普通の人間より大きいという話で、なだらかな丘に遺構の土台だけが残るこの遺跡では捜索がしやすい。
「全く、何処にいるのかしら? あんまり手間をかけさせないで欲しいわ」
 シェリーは大きなため息と共に言葉を吐き出し、キメラ捜索を行う。
「‥‥‥‥仕事の時間だ、ね」
 Mkは覚醒を行い、紫色の気を纏いながら呟く。
「‥‥? どうかした?」
 立ち止まっている翡焔を見て、Mkは首を傾げながら問いかけると「いや‥‥」と彼女は短く言葉を返した。
(「なんて光景だよ‥‥大地と風と時間が融けあって‥‥涙が出そう」)
 翡焔はぶるりと身体が震えるのを自分でも感じていた。彼女は遺構を見て鳥肌が立つほどの感動を受けていた。
「‥‥絶対に壊させない」
 翡焔はポツリと呟き、キメラ捜索を続ける。
「それにしても、キメラは遺跡に到着していたんですね‥‥これは割と大変な事になりそうです」
 原田は『双眼鏡』を使い、キメラ捜索を行いながら呟く。
「待てっ! あれを‥‥」
 サンディが呟き、能力者達は彼女が指す方向を見ると二匹のキメラが移動している最中だった。
「いくら瓦礫の山と言えど、キメラなんぞにむざむざ壊されるワケには行かない」
 九条は呟きながら牛頭のキメラへと走り出す。牛頭キメラは斧を振り上げており、遺跡を壊そうと振り下ろしたのだが、九条の持つ『プロテクトシールド』で斧を受け止め、遺跡への攻撃を防いだ。
「ふん‥‥醜いバケモノ‥‥美しいこの私がすぐに息の根を止めて差し上げるわねぇ」
 シェリーは小銃『S−01』を構えながら小さく呟く。
「あの足の速そうなのはアタシが相手をするわ! アンタ達は角付きを狙いなさい」
 シェリーがMkや比留間、原田に向けて叫びながら馬頭キメラへと攻撃を仕掛けた。
 この時点でそれぞれのキメラを担当する能力者が決まり、能力者達は相手をするキメラへの近くへと赴く者、遠くから狙撃を狙う者に分かれたのだった。

※牛頭キメラ:九条、比留間、原田、Mk※
「場所が悪いな‥‥、気にせず戦える場所があればよかったのだが」
 九条は『キアルクロー』を装備した方の手で牛頭キメラへと攻撃を仕掛ける、その際に彼は小細工ナシで正面から殴りに行く。
 そして少しでも遺跡に被害が及ばぬように土台が少ない場所までじりじりと誘導を行う。
「牛と馬の頭をつけたキメラか‥‥牛頭馬頭って奴だな。本当にバグアってーのは神話とかからモデルを持ってくるのが好きみたいだな」
 原田は呆れたように呟き大鎌『ノトス』を構え、牛頭キメラの死角へと足を進める。
「まぁいいか。相手が神話キメラだろうがなんだろうが。かかってきな、牛頭。ボコボコにしてやるよ」
 原田は牛頭に攻撃を仕掛け、攻撃された牛頭は振り向きながら原田をジロリと見る。生きているだけという目が何とも気持ち悪く、とても不快なものに見えた。
「余所見とは‥‥良い度胸だね。もしかして余裕のつもりなのかな」
 Mkは『カデンサ』で攻撃を仕掛けながら呟く。彼の覚醒状態は性格がランダムで変わるというものであり、今回は少し嫌味な性格になってしまっているようだ。
 そして前衛が牛頭をひきつけている間に、比留間は『隠密潜行』で瓦礫の影に隠れ『アンチマテリアルライフル』を構えて、狙撃するタイミングを見計らっている。彼女は銃器を扱う為に狙撃をミスってしまえば、遺跡に被害が出るという事を分かっている。
 その時、牛頭が持っていた斧を投げて九条は『瞬天速』を使用して斧より先に走り『プロテクトシールド』で斧を受け止め、勢いがなくなった所を九条は手に取って遺跡を気遣いながら斧を置く。
「武器を手放すなんて馬鹿だな、所詮はキメラって事か」
 原田は呟き大鎌『ノトス』を、Mkは『カデンサ』を振り上げて、二人とも『両断剣』と『流し斬り』で攻撃を行い、攻撃が終わって二人が離れた所を比留間が『強弾撃』を使用して『アンチマテリアルライフル』で攻撃を行ったのだった。
「ヘッドショットまではいかなくても‥‥十分すぎるくらいの反動と殺傷能力ですよ、うっうー!」
 攻撃をマトモに受けた牛頭キメラはズシンと地面に沈んだ――と思われたのだが。
「きゃあっ!」
 地面に倒れ、比留間が仲間達の所へと近寄った時に、倒したと思われた牛頭キメラが比留間の足を掴み勢いよく立ち上がったのだった。
「倒したと思ったのに‥‥」
 原田が驚きの表情で牛頭キメラを見て、ハッと我に返ったように大鎌『ノトス』を振り上げて攻撃を行う。
 それと同時に九条とMkも攻撃を行っており、比留間は多少の怪我をする程度で済んだのだった。
「‥‥まさか起き上がるとは」
 Mkが完全に絶命した牛頭キメラを見ながら呟くと「起きたというより、起こされた感じがしたな」と九条が言葉を返したのだった。

※馬頭:シェリー、翡焔、斑鳩、サンディ※
「主よ。この手に剣を取り、この手を歪に染めん事を許したまえ」
 サンディは『レイピア』の柄頭に取り付けた十字架に軽くキスをしながら呟き、覚醒を行う。
「先ずは奴の動きを封じるわよ!」
 シェリーは馬頭を自由に動かせない為に四人の能力者で包囲する事を提案して、それに従うように能力者達は馬頭を包囲する。
「何でこんな誰もいない所を目標に‥‥これまでのキメラらしくない」
 翡焔は腑に落ちない点を口に呟きながらニ刀小太刀『疾風迅雷』を構え『流し斬り』を使用して馬頭キメラの足を狙って攻撃を行う。
 斑鳩は『瞬天速』を使用して『メタルナックル』を装備した手で馬頭キメラに二回打ち込み攻撃を行う。馬頭の剣が振りあがり斑鳩を狙って振り下ろされるが、斑鳩は側面へと移動して攻撃を避ける。
 だが‥‥突然馬頭の手がありえない動きをして側面にいた斑鳩は剣の切っ先によって腕を裂かれる。
「な――っ」
 無理な動きをしたせいで馬頭の剣を持っていた腕は攻撃を振るった際にゴキと鈍い音が響き、馬頭の腕は使い物にならなくなっていた。
「何て奴だ‥‥自分の腕まで犠牲にして」
 サンディは少し驚いた表情を見せながら馬頭を見ている、馬頭は「ふーふー」と口から涎のようなものを落としながら能力者たちを見ている。
「‥‥‥‥音?」
 斑鳩は遠くから聞こえる音色に気づき、後ろを振り向く。しかし誰もいない。
「気のせい、か?」
 とりあえず血止めを行い、再び戦線へと復帰する。
「貴方の全てが私の虜♪ 私に恋する哀れな道化♪」
 シェリーは歌い、仲間の志気向上を図る。
「ふふ、歌に気を取られるのは分かるけれど――注意力が足りないんじゃない?」
 シェリーは呟きながら小銃『S−01』で馬頭キメラに攻撃を行う。
 そして彼女の歌に気を取られているのは馬頭キメラだけではなく、サンディも同じだった。彼女は歌そのものに今まで接点がなかった為か、興味があるようだ。
「ダメだダメだ、今はそんな場合ではない、集中しろ私」
 歌への集中を振り払うようにサンディは頭を振り『レイピア』で馬頭キメラに攻撃を行った。
「グアアァァァッ‥‥」
 馬頭キメラが翡焔に攻撃を行い、翡焔は回避しようとしたが回避すれば遺跡が傷つく事を考え、あえて回避せず二刀小太刀『疾風迅雷』を分割して二刀で受け止める。
「くっ‥‥力馬鹿め」
 剣と小太刀とがぶつかりあいカチカチと震えた音を奏でる。
「今だ、行けぇ!」
 自分が馬頭キメラをひきつけていれば、他の能力者達が攻撃を行い馬頭キメラを倒せる――翡焔は咄嗟に思いつき大きな声で叫ぶ。
 翡焔の言葉を聞き、シェリーは小銃『S−01』で、斑鳩は『メタルナックル』で、サンディは『レイピア』で攻撃を行う。
 その際にサンディは『スマッシュ』で攻撃を行う、実は先ほども『スマッシュ』で攻撃を行っていたのだが、馬頭キメラには避けられてしまったのだ。
「いい加減、腕が痛いから大人しく寝てて欲しいよね」
 斑鳩は呟き、攻撃の際に『急所突き』を使用して、馬頭キメラを退治したのだった。


〜二匹のキメラを退治した――けれど‥‥? 〜

「流石に無傷というわけには行かなかったな‥‥」
 戦闘が終わった後、九条は遺跡を見ながらため息混じりに呟いた。確かに遺跡は酷くはないけれど、少し被害が出てしまった。
 しかし、あれだけの戦いでこれだけの被害で済んだのは奇跡なのだろう。
「他にもキメラがいないか警戒するのですよ、うっうー!」
 比留間も周囲を警戒しながら遺跡を見渡す。
「そういえばフルートみたいな音が聞こえたなぁ、戦闘中に。聞き間違いかもしれないんだけどね」
 斑鳩が思い出したように呟くと「アタシも聞こえたわ」とシェリーが言葉を返す。
「俺は聞こえなかったですね、初めての実戦でそんな余裕がなかっただけかもしれないですけど」
 Mkは呟くと「でも遺跡を守れた事には変わりありませんし、良かったですね」と原田が言葉を返した。
 その時だった、酷く落ち着いたような、でも何処か冷たい声が響き渡ったのは。
「あぁ、やはり倒されてしまいましたか‥‥反応がなくなったのでもしかしたらとは思ったのですが‥‥」
 白いスーツに身を包んだ金髪の男――ハリー・ジョルジオ(gz0170)が能力者達の前に姿を現した。
「お前は‥‥?」
 九条が呟くと「ハリー・ジョルジオ、先ほどまでの奏者ですよ」とハリーは言葉を返した。ハリーが言い終わると同時に翡焔は殴りかかろうとするが、それをハリーは避ける。
「先に言っておきます、私はそんなに優しくないんですよ。攻撃されればし返すし、卑怯な手も使います」
 ハリーの言葉に「卑怯な手‥‥?」と原田が聞き返すように呟く。
「例えば連れてきているキメラを遺跡中に解放するとか、ね。もちろん貴方達の能力で倒せるでしょうけど、きっとこの遺跡は吹き飛びますね――此方としてはそれでもいいんですけど」
 半ば脅しのような言葉に能力者達は眉間に皺を寄せる。
「動けば、解放します。動かなければキメラは連れて帰って次の武器にします」
 にっこりと笑みながらハリーは呟き、踵を返す。
「待ちなさい」
 それをシェリーが止めて「何でしょう?」とハリーは言葉を返す。
「アタシはシェリー、薄汚いバケモノどもを許さない戦場の歌姫‥‥そして美しき桃薔薇の夜叉姫よ、覚えておきなさい」
 シェリーがハリーに言葉を投げかける。艶っぽい笑顔で挨拶する彼女だが、その瞳には怒りの炎が渦巻いているのが分かる。
「次に会う時はアンタの鎮魂歌を唄わせていただくわね」
 その言葉にハリーは笑みを残すだけで言葉を返す事なく、そのまま消えていった。そして彼の言葉通り、キメラは解放される事なく能力者達は任務を遂行したのだった。
 その後、能力者達は遺跡を暫く眺めた後、本部に今回のキメラ騒動を解決した事と目的のハッキリしない男――ハリー・ジョルジオが動き出した事を報告したのだった。


END