タイトル:生き物のココロマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/16 00:34

●オープニング本文


ボクはたまに思うんです。

キメラもバグアに作られる事なく、普通に生まれてきていたら――。

きっと人間達とも仲良くやっていけたのではないかと‥‥。

※※※

「キメラ出現‥‥警戒、かぁ‥‥」

クイーンズ新人記者・室生 舞はため息混じりに明日取材の為に赴く施設の写真を見ながら呟く。

「何を見ているの?」

同じく記者仲間である静流がコーヒーを飲みながら問いかけると「あ、これです」と写真と新聞紙を見せながら言葉を返した。

「明日取材に行く場所ね――ってキメラが現れたんだ」

静流の言葉に「はい」と苦笑しながら舞は言葉を返す。

「まぁ、現れようと現れまいと能力者に護衛は頼んでいるんでしょ? だったら安心じゃないの」

静流の言葉に「‥‥どうしてキメラは倒さなくちゃいけないんでしょうね」と舞が俯きながら小さく呟く。

何度か取材を行う内に『何でキメラだからという理由で倒されなければならないのだろう』という思いが舞の心の中に渦巻きだした。

「‥‥そうね、人に危害を加える生物でなければ退治される事もなかったキメラもいるでしょう」

だけどね、と静流は言葉を付け足して「残念ながらキメラが人を襲わない保障はないのよ」と突き放すように言葉を返した。

「可哀想――その思いは大事だと思うわ。だけどね優しいだけじゃ人に迷惑をかけるだけなのよ」

静流の言葉に先日のタヌキメラ退治時の出来事を思い出し、舞は俯く。

「とりあえず、能力者に迷惑はかけないようにね。能力者に迷惑をかける記者なんて一人で十分だから」

静流は呟き、自室へと帰っていったのだった。

「‥‥ボク、大丈夫かなぁ」

舞は呟き、明日の取材に不安を感じていた。

●参加者一覧

神無月 翡翠(ga0238
25歳・♂・ST
的場・彩音(ga1084
23歳・♀・SN
香倶夜(ga5126
18歳・♀・EL
火茄神・渉(ga8569
10歳・♂・HD
朔月(gb1440
13歳・♀・BM
リシェル・バンガード(gb1903
16歳・♂・DG
七海真(gb2668
15歳・♂・DG
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

〜見習い記者と能力者達〜

「あ、あの‥‥今回はどうぞ宜しくお願いします」
 ぺこりと丁寧に頭を下げながら能力者達に挨拶をするのはクイーンズ見習い記者の室生 舞(ga0140)だった。
「取材の為に護衛ねえ‥‥何処かの誰かとは、大違いだな」
 神無月 翡翠(ga0238)は苦笑しながら呟く、その時に彼の頭に過ぎった人物は人に迷惑ばかりをかけている高笑いをする突撃記者だった。
「あ、今回も宜しくお願――?」
 舞は神無月に挨拶をしようとしたが、いつもの彼と何か違和感を感じて首を傾げる。それを見た神無月は「ん?」と呟き、舞が首を傾げる理由に思い当たったのか「あぁ」と言葉を付け足す。
「はは、自己紹介忘れてたな‥‥神無月だ。たまに、依頼されて顔を出すのは、俺の兄貴だ。双子だからな‥‥よく似てるだろう?」
 神無月の言葉に舞は首を縦に振る。双子と言われなければきっと舞は別人だと気づく事はなかっただろう。
「舞さん、今回もあたし達があなたを守ってあげるから安心してちょうだい。取材はキメラ戦の後になるけれどいいかしら?」
 的場・彩音(ga1084)が問いかけると、舞は首を縦に振って「宜しくお願いします」と言葉を返した。的場は舞の記者としての成長振りが見たくて、護衛という形で取材に同行したのだと後に語る。
「でも‥‥キメラを倒すんですよね‥‥」
 舞は取材道具を入れたバッグを抱えながら小さく呟く。
「キメラという存在に、疑問をお持ちですか?」
 小さな舞の呟きに言葉を返したのはリシェル・バンガード(gb1903)だった。
「存在‥‥じゃなくて、戦う事に疑問を持ってます。戦わなくても何か方法はないのかなって‥‥思ったりします」
 舞の言葉を聞いたリシェルはため息混じりに「貴方の優しさはいいかもしれませんが‥‥」と舞に言葉を返す。
「キメラに肉親を奪われた者や、僕のようにキメラやバグアと戦う為の存在にとっては少しだけ、甘さのようなものに感じます」
 リシェルの言葉は尤もだと舞は心の中で呟く。舞自身も両親や友達をキメラに殺された過去がある為、キメラやバグアを憎む気持ちも分かる。
「‥‥ボクも奪われた者があるから、分かります」
 舞の言葉を聞いてクラリア・レスタント(gb4258)がメモを舞に差し出す。
「私には、舞さんの考えが少し分からないです」
 クラリアは非覚醒状態では全く喋る事が出来ない為、常に紙とペンを持ち歩き、それらで意思疎通を行っている。
「ですが、その考え方は美徳だと思います――少なくとも、その優しさは、私には眩しいです」
 クラリアは軽く頭を下げて舞から少し離れた。
「戦わずに済むなら其方がいい‥‥ボクの考えは間違っているんでしょうか‥‥」
 舞が呟くと「ん〜、一概に良いとは言えないね」と香倶夜(ga5126)が言葉を返してきた。
「確かに無害なキメラも存在するかもしれないね。だけど、一見無害そうだけれど、凶悪なキメラも存在するのは確かだよ」
 香倶夜を見上げながら舞は言葉を返す事なくジッと聞いている。
「だから、実際に戦ってみない限り、あたし達もそれがどういう存在か分からない。分かってからでは手遅れ――という場合もあるんだよ」
 香倶夜の言葉を舞は理解していた、戦う者が『もしかしたら無害かも‥‥』という意識を持って戦っていれば命に関わるという事も。戦場では僅かな油断が死を招くのだから。
「だから、悲しいけれど、キメラの存在を確認したら退治しなくちゃいけない。何よりも戦う事が出来ない、戦う術を知らない多くの人達を護る為にもね」
 舞ちゃんにもこの事だけは分かって欲しいかな、香倶夜は言葉を付け足して舞を見る。
「はい‥‥」
 舞がしゅんとしながら言葉を返すと「ほら、コレでも着てな」と朔月(gb1440)が『ピーコート』を舞に渡してきた。
「今回の目的地は山奥だろ? その格好じゃ寒いだろうからさ、結構暖かいからそれを着てな」
 それと、と朔月は『巨大ハエタタキ』を舞に渡す。朔月は以前『クイーンズ編集室』で舞が巨大ハエタタキを見たいと言っているのを聞いていたらしく、今回の取材時に持ってきたらしい。
「ま、そのハエタタキをどう使用するかは舞次第だけどな」
「舞お姉ちゃん、おいらが荷物を持ってやるよ」
 火茄神・渉(ga8569)が舞に手を差し出しながら話しかけてきた。
「え、でも渉君――怪我してるから悪いし‥‥」
 そう、火茄神は取材護衛任務の前に請けた任務で重傷を負っており、どう見ても舞の方が元気に見える。だから舞は遠慮がちに火茄神に言葉を返した。
「完治までもうすぐだし大丈夫だよ! おいらも舞お姉ちゃんが取材を頑張れるように応援したいんだよ、荷物持ちくらいさせておくれよ」
 火茄神の言葉に「ありがとう、じゃあこれを‥‥」と持っていたバッグを渡す。
「えへへ、おいらが確り舞お姉ちゃんも荷物も護ってやるよ」
 火茄神は子供特有の元気な笑みを浮かべて言葉を返し、舞の持つ荷物を背負ったのだった。
「あんたがどう思うかは自由だが、最悪の事態を想定して考えろよ? こんな事、言われまくってっかもしれねえが、大切なモン失ってからじゃおせぇんだ、本当にな」
 出発する間際、七海真(gb2668)が舞に話しかける。
「‥‥はい」
「取材、頑張れよ」
 七海はうな垂れる舞に言葉を投げかけ、能力者達は取材とキメラ退治の為に山奥へと向かい始めたのだった‥‥。


〜戦闘開始! 山中にて鳥型キメラ出現〜

 今回の能力者達は舞を護衛する為、そしてキメラを退治する為に班を二つに分けて行動する事にしていた。
 護衛班・的場、七海、クラリアの三人。
 戦闘班・神無月、香倶夜、火茄神、朔月、リシェルの五人。
 護衛班の人数が少ないかもしれないが、キメラそのものはそこまで危険視されているものではなく、戦闘班に五人いれば、ほとんど問題なく退治出来るだろう。
「取材をする施設は、ほとんど一本道ですので迷う事はなさそうです」
 舞は地図を見ながら能力者達に話しかけ、施設に向かう為に足を進める。
 一時間程が経過した頃、能力者達の表情が突然険しくなり「あの、どうかしましたか?」と舞が問いかけると、的場が舞を抱えてその場から離れる。
 それと同時に上空から鳥型キメラが現れ、能力者達は戦闘を開始した。

「鳥型ですか? やりづらいと思いますが、皆さん、無茶しないように‥‥援護はお任せ下さい」
 神無月は覚醒しながら呟き『練成強化』を香倶夜、火茄神、朔月、リシェルの四人に使用する。
 そして火茄神に『練成治療』を施し「あまり、無茶をしないように‥‥」と言葉を投げかけた。
 最初に攻撃を仕掛けたのは香倶夜だった。彼女は『アサルトライフル』で攻撃を仕掛けながら、舞と護衛班から少しずつ離れていく。そうする事で鳥型キメラの標的から舞を外す事を考えたのだ。
 そして火茄神は攻撃班・護衛班の中間くらいの位置で立ち止まり『ポリカーボネート』でガードを固めながら『番天印』で攻撃を仕掛ける。
「怪我で動けないなら動かない! それしかない!」
 火茄神、香倶夜の攻撃を受けて鳥型キメラは少し低空で苦しそうに悲鳴のようなものを上げていた。
「――っと。的ってのは近ければ近いほど、攻撃は撃ち易くなるんだよ!」
 朔月は木に登って、鳥型キメラ目掛けて攻撃を行い、鳥型キメラを足場にして地面に戻る。
「エミタリンク問題なし、リンドヴルム戦闘態勢に入ります」
 リシェルはAU−KVを装着して長弓『雨竜』で鳥型キメラを攻撃する。
「一般人を巻き込む事は許しません、僕がいる限りは」
 リシェルは舞に攻撃が行かぬように牽制攻撃を行いながら小さく呟く。
 その時だった、鳥型キメラが羽を鋭く尖らせてソレを勢いよく飛ばす――飛ばした方向は舞や護衛班がいる場所だった。
「危ない!」
 香倶夜が大きな声で叫び『どす』と鈍い音が聞こえ、能力者達は嫌な汗が流れるのを誰もが感じていた。
 しかし‥‥。
「あっぶねぇ‥‥大丈夫か?」
 舞の前に立ちふさがった七海がキメラの攻撃を受け、舞を庇っていた。
「大丈夫、です、か?」
 覚醒によって片言だけれど喋れるようになったクラリアが七海に問いかけると「問題ねぇ」と短く言葉を返す。
 七海はキメラの攻撃が直撃する前に『竜の鱗』を使用して防御力を強化していた。だから派手な音がした割には軽傷で済んでいた。
「あ、あの‥‥け、けが‥‥」
 舞がおろおろとしながら七海に問いかけると「平気だから下がってろ」と七海は『スパークマシンα』を構えて言葉を返す。
「舞、おまえは俺達が守る。それと‥‥俺の事、まだ怖いか?」
 的場は『ライフル』を構えながら舞に問いかけると、舞は首を横に振った。
「いいえ。的場さんはボクを守ってくれてますから――怖くないです」
 舞はにこっと笑いながら言葉を返し「そうか」と的場は答えて護衛に戻る。
「銃、にガて‥‥だけど」
 クラリアは小銃『フリージア』で鳥型キメラを狙い撃つ。彼女は自分の脆さを理解していたので回避に専念しようとしたのだが、鳥型キメラが飛んでいる内は銃で攻撃する以外に方法はなく、苦手ながらも銃で応戦していた。
「キメラ、おまえに舞の取材の邪魔はさせねぇ! 施設も破壊されてたまるか!」
 的場が叫びながら『ライフル』で攻撃を行う。現在の鳥型キメラは護衛班に近い場所を旋回しており、的場は攻撃を行っていた。
 しかし他の能力者達も鳥型キメラの翼を狙って攻撃していたせいか、徐々に地面へと降下を始めていた。
「ジャマ!」
 クラリアが叫び、小銃『フリージア』で攻撃を行い、それに合わせるように香倶夜も攻撃を行う。
「弾丸の餌食になって、さっさと落ちなさいよね!」
 香倶夜は『ファング・バックル』と『強弾撃』を使用しながら『アサルトライフル』で攻撃を行い、それが決定打となって鳥型キメラは地面へと堕ちたのだった。
 地面に落ちた鳥型キメラが動かぬように火茄神が『番天印』で攻撃を行い、その隙を突いて朔月が『ファング』で攻撃を行う。
 そしてリシェルも長弓『雨竜』から『バスタードソード』に武器を持ち替えて攻撃を行う。弱っていた鳥型キメラにリシェルの攻撃は致命傷だったらしく、けたたましい声をあげた後に地面へと沈んでいったのだった。


〜取材開始・親を失った子供達〜

「俺は、外で待ってるから、早く終わらせて来いよ」
 キメラ退治を終えた後、能力者達と舞は施設の中へと足を踏み入れたのだが、神無月だけはそれを断っていた。
「何でですか? 外は‥‥寒いですよ?」
 舞が問いかけると、神無月は苦笑しながら「ガキは、苦手なんだよな」と言葉を返す。その言葉を聞いた舞は「分かりました、なるべく早めに終わらせますね」と笑いながら施設の中へと入っていった。
 施設の中には沢山の子供達がいて、その全てがバグアやキメラとの戦いに巻き込まれて親を亡くした子供達だった。
「さて、子守でもしてやるか‥‥♪」
 朔月は施設に入る前に返り血のついた着物や防具、武器を外しており、子供達が遊ぶ為に置いてあるボールでジャグリングをして子供達の緊張を解していく。
 朔月のジャグリングは主に男の子に人気があり、女の子達はクラリアが教えている折鶴などに夢中のようだった。
「‥‥‥‥♪」
 クラリアは上機嫌で折鶴を折り、別の子供からは「お絵かきして」とスケッチブックを渡されていた。
「あら、このアイス美味しいのよね」
 ちょうどオヤツの時間だったせいか、数人の子供達はアイスクリームを食べていた。
「バニラとかチョコも美味しいけれど、抹茶も美味しいわよ?」
 的場は子供達に抹茶アイスを勧めたが「抹茶苦かったー」と一人の女の子が言葉を返す。
「ふふ、抹茶は大人の味――だからかな、もう少し大きくなったら美味しく感じるかもしれないわね」
 的場は苦笑しながら言葉を返すと、その隣では香倶夜や火茄神がボール遊びをしていた。そんな様子を写真に納め、舞は取材を続けていく。
「やっぱり、気になる? キメラの事」
 取材が終わり、帰り道の途中で香倶夜が問いかける。舞は言葉を返す事をせず、それは肯定の意味を表していた。
「罪がなくても犠牲にしなくてはいけないのは、家畜も同じ事だよ。食べる為、身を守る為の違いがあっても生きる為に他者の命を奪うという行為には違いないんだから」
 香倶夜の言葉にはっとしたように舞は俯いていた顔を上げる。
「‥‥確かにそうですね、食べる為、身を守る為に違いはあっても‥‥生きている以上は何かを犠牲にしなければならない‥‥」
「舞お姉ちゃんが何か困ってたらおいらが助けてあげるからな」
 俯いていた舞を見て、火茄神は何か困っている事があると感じたのだろう。舞の隣に立って言葉を投げかける。
「ほら、まずはお仕事よ。今回の記事も期待しているわよ? 室生舞記者さん」
 的場の言葉に「はい、頑張ります」と言葉を返し、舞は編集室まで送ってもらい、能力者達はそのまま本部へ報告に向かったのだった。


〜クイーンズ新刊発売〜

 こんにちは、クイーンズ新人記者の室生 舞です。
 今回はバグアやキメラによって親を亡くした子供達が暮らす施設へと取材に行ってきました。
 子供達の中には親を失って気力をなくしている子供、気丈に振舞う子供、様々でしたがその心に大きな傷を負っている事が見受けられました。
 ボク自身もキメラによって親と施設の友人を亡くしました。おかしいと思われるかもしれませんが、ボク自身『キメラ』という存在を憎みきることが出来ないというのが本音でした。能力者の皆さんにもそれを指摘され、ボク自身迷っている部分がありました。
 だけど今回の戦いを見て、施設の子供達を取材して分かったことがあります。
 あのまま鳥型キメラを放置していたら、施設の子供達が危険に晒されていたかもしれないという事です。
 作られた命で、勝手にやるべき事を決められる――キメラも犠牲者の一人なんじゃないかとボクは思います。
 だから能力者の皆さんにお願いです。
 罪のない人達の命が奪われないよう、可哀想な命が作り出される事がないように一刻も早く戦争を終わらせてください。
 それでは、また次回のクイーンズでお会い出来る事を祈っています。

 執筆者・室生 舞


END