●リプレイ本文
〜不思議な国へキメラ退治に向かう能力者達〜
「キメラの姿形は無関係とは言え、少々心が痛いですね‥‥いや、誤解しないで下さいね」
シュヴァルト・フランツ(
ga3833)がアリスと呼ばれる少女型キメラの資料を見た後、いつも身につけている黒十字を額に当てて祈るような仕草を見せながら呟いた。
彼が『心が痛い』という理由は恐らく『人型のキメラ』だからという事なのだろう。
「一度、この悪趣味なキメラばかりを作るバグアと腰を据えて話がしてみたいものですね」
櫻杜・眞耶(
ga8467)は資料にある『ウサギキメラ』の写真を見ながらため息混じりに呟いた。
「それでも、アリスとウサギだけのようなので安心しましたよ。グリフォンやトランプの兵隊達がいたら厄介な事この上ありませんから」
シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)が資料を見ながら呟く。確かに資料には『アリス』と『ウサギ』しか書かれておらず、彼の言うようにグリフォンや兵隊については触れられていない。
それは目撃した者がいないという事になり、同時にそれらは存在しないと考えたのだろう。
(「‥‥う〜ん。あの話は結構好きだったんだけど、ちょっと嫌いになりそう」)
白雪(
gb2228)が手を口元に置きながら、心の中で呟く。相手はキメラなのだから気にする必要はないのだけれど、やはり模倣されると話そのものを汚されている気がするのだろう。
そして彼女と同じ思いを抱える能力者はもう一人存在した。
「‥‥不愉快、ですね」
美環 響(
gb2863)が不愉快そうに資料に目を落としながら呟く。彼は『不思議の国のアリス』の物語は大好きであり、それゆえに大好きな話を元に作られた二体のキメラに対して強い嫌悪感を抱いていた。
「ウサギ‥‥そういえばウサギの肉って美味いらしいなぁ」
立浪 光佑(
gb2422)がポツリと呟く。その言葉に「そうらしいね、でもこんなウサギの肉を食べれる?」と鳳覚羅(
gb3095)が苦笑してウサギ型キメラの写真を立浪に見せながら呟くと「う〜ん、顔さえ見なければ食べれる‥‥かなぁ?」と立浪は唸りながら言葉を返した。
「アリス、ですか‥‥少なくとも可愛らしい少女ではありませんね」
エリス・リード(
gb3471)が呟く。外見が例え可愛らしい姿をしていても、人の命を奪うようなモノが『可愛い』筈が無いのだから。
「それでは、キメラを退治に出発しましょうか」
シュヴァルトが呟き、能力者達はアリスとウサギの外見をしたキメラを退治する為に、本部を後にしたのだった。
〜森の中でけたたましく響く笑う声と獣の唸り声〜
「薄暗い森だね‥‥」
ランタンで視界の悪さをカバーしながら鳳が小さく呟く。
「昼間、この森を少し散策してみましたけど、爪跡や何かで殴ったような跡が木や地面に残されていました」
能力者達は昼間のうちに現場へと来ていて、対策などを話し合っていた。その中で櫻杜はなるべく深入りしない程度に森の中に入り、何かキメラが残した痕跡が無いかを調べていたのだ。
「最初にウサギで、その後にアリス――でしたよね」
確認するようにシンが他の能力者達に問いかける。
今回の能力者達は班を二つに分けて、それぞれのキメラを相手にする事に決めていた。それぞれの、とは言うけれど最初にウサギ型キメラを倒し、その後能力者全員でアリスを退治するという事なのだけれど。
だがウサギ型キメラを退治する時にアリスを放っておけず、ウサギ型キメラが退治されるまでアリスを引き付けておく必要があるのだ。その為の班分けと言って良いだろう。
シンと白雪、そして美環がアリス対応班として動き、他の能力者達はウサギ型キメラの殲滅を迅速に行うことになる。
「それにしても視界が悪いですね、懐中電灯があってよかった‥‥」
櫻杜は真っ暗な森の中を『エマージェンシーキット』に入っていた懐中電灯で照らしながら呟く。
「あら、シン君は『暗視スコープ』を持ってきているのね」
白雪がシンに問いかけると「万全とまでは行きませんが‥‥出来る限りの事をしたいですからね」と言葉を返して『【OR】多機能デジタルカメラ』を赤外モードにして温度感知でも敵を捜索できるようにする。
「これだけ照らしてれば、キメラもこっちに気づくかもね」
立浪が『ランタン』で辺りを照らし、警戒を強めながら呟く。
「アリス型のキメラ‥‥どんなものなんでしょうね」
美環が『ランタン』を手に持ちながら小さく呟く。好きな物語のキメラという事で確かに嫌悪感が彼の中にはあるが、それと同じくらいにアリス型キメラがどんなものなのかという強い興味も彼の心にあった。
「でも本当にバグアの思考回路はどうなっているんでしょうね」
苦笑しながら鳳も『ランタン』で辺りを照らしながら呟く。
「‥‥何とか大鎌が使えそうな場所ね」
エリスは『ランタン』で辺りを照らしながら、自分の武器である大鎌『ノトス』が使用出来るかを確認する。
もし大鎌が使いにくいほどに木が密集している森ならば武器を『アーミーナイフ』に変更する事も彼女は考えていた。
そして、能力者達が警戒しながら森の中を進んでいくとけたけたと楽しげに笑う少女の声と獣の唸り声のようなものが能力者達の耳に入ってくる。
それは森の中を進んでいくにつれて大きくなっていき、その先にアリスとウサギ型キメラがいるという事なのだろう。
「‥‥あれが、アリスとウサギ型キメラ‥‥」
シュヴァルトが前を見ながら呟く。
「あのウサギ、全然可愛くないわね」
エリスは眼鏡を外し、戦闘モードに切り替わるとウサギ型キメラを冷笑しながら見る。
「ここまで兎をおぞましく思うとは‥‥っ」
シュヴァルトはウサギ型キメラを見ながらため息混じりに呟く。形状としては確かに兎なのだが、大きさも顔つきも普通の兎とは比べ物にならない。
「本当に‥‥悪趣味だこと」
櫻杜はため息を吐き『バトルモップ』を構える。
「‥‥バトルモップ!? あれ? お、大鎌は――な、ない‥‥」
慌てたように櫻杜は荷物を調べるが、彼女の武器である大鎌はどこにもない。どうやら忘れてきてしまっているようだ。
「大鎌がない――バトルモップで戦えと‥‥」
確かに『バトルモップ』は『ハンドガン』並みの攻撃力を持つが、接近戦をするには少し厳しい。
「そ、それじゃ、僕達がアリスを引き付けておくので――ウサギはお任せしましたよ」
シンは呟きながら『エネルギーガン』をアリスに向けて発砲して、それぞれの戦闘に入ったのだった。
※アリス引き付け班※
「あれが今回のキメラね。シン君、援護をお願いね」
白雪は呟き、瞳を伏せて覚醒を行う。それと同時に隠れていた彼女の姉人格が目覚め『月詠』を構えて、敵であるアリスを見据える。
「‥‥少女と兎って童話の話みたいね。今回は随分と夢がなさそうだけど」
呟き終わると白雪――いや、真白はアリス型キメラへと駆け寄る。アリス型キメラは鋭い爪で真白に攻撃を行おうとするが、シンの『エネルギーガン』がアリス型キメラの攻撃を邪魔して、初撃は真白だった。
「八葉流参の型‥‥乱夏草」
真白は『流し斬り』を三回使用して、舞うようにアリス型キメラの腕を斬りつけて、これからの行動でアリス型キメラが行動しにくくしようと試みる。
しかし、彼女の攻撃は全てが当たる事はなく、カウンターのようにアリス型キメラは近くに隠していたのだろう、大きな懐中時計を取り出す。
「‥‥まさか、鈍器って‥‥」
美環が驚いたような表情でアリス型キメラと、その手に持たれている巨大な懐中時計を見て呟く。
じゃら、と音がしたかと思うとアリス型キメラは懐中時計を振り回して能力者達に攻撃を仕掛けてきた。簡単に言えば鎖鎌の鈍器バージョンのようなものに能力者達はぞっとする事を感じずにはいられなかった。
「こんな大きなものを、あんな勢いよく振り回されちゃ――‥‥一般人の首なんてへし折れちゃうわよね」
真白は冷や汗のようなものを流し、再び牽制に取り掛かった。
※ウサギ型キメラ退治班※
「そんな凶悪な顔のウサギだなんて‥‥子供の夢を壊す気ですか」
シュヴァルトは『ハンドガン』でウサギ型キメラに対して牽制攻撃を行い、攻撃を避け、もしくは受けながらも直進してきたウサギ型キメラを『ソード』で受け流すように攻撃を行う。
「ほら、物語の女王様も言ってるだろ‥‥『煩い生意気な首は切りとっておしまい』ってね♪」
櫻杜は呟きながら武器を振るうが、彼女は今回、大鎌を持ってきていない。だから『バトルモップ』で殴り、僅かな隙が出来た所を立浪が『ソニックブーム』を使用して攻撃を行う。
その後、立浪はすぐに『両断剣』を使用して『壱式』を構えて前へと出て、ウサギ型キメラに攻撃を行う。
「悪いけどさ、あんまり美味しそうに見えないんだよね」
立浪は呟くと攻撃を行い、後ろへと下がる。
「君たちの命、この大鎌で刈り取ってあげるよ」
微笑しながら鳳が呟き『両断剣』と『流し斬り』を使用しながら攻撃を行う。
「ウサギ君、死神の鎌の味はどうだい?」
ウサギ型キメラの足を斬り落としながら、鳳は先ほどのように微笑しながら問いかける。しかし相手は獣、しかもキメラという事で言葉が通じるはずも無い。
だからウサギ型キメラからの返事はもちろんなかった。
「所詮は獣――知能はそれほどでもないでしょう? そんな間抜けな顔をしているんだから」
エリスは呟くと大鎌『ノトス』を振り上げて『流し斬り』を使用して攻撃を行う。攻撃を受けた後にウサギ型キメラが後ろに仰け反り、その隙を突いてシュヴァルトは『貫通弾』を装填した『ハンドガン』で攻撃を行い、立浪と鳳はウサギ型キメラの首を狙って攻撃を行い、見事ウサギ型キメラを退治したのだった。
「さて――残るはアリスだけだね」
エリスは呟き、ウサギ型キメラを退治した能力者達はアリス型キメラを引き付けてくれている能力者達の所へと急いだのだった。
〜アリスとの戦闘開始〜
「まさか‥‥懐中時計で攻撃してくるとは‥‥」
櫻杜はアリス型キメラを見て、少し驚いたような表情で呟く。
「気をつけてください、あの懐中時計――見た目はアレでも結構威力は大きいみたいですから」
美環は少し後ろの地面を指差しながら、ウサギ型キメラ退治を終えてきた能力者達に話す。美環が指差した方向は地面が窪んでおり、近くにあった木がなぎ倒されている。
「あの大きな懐中時計を自在に操る怪力――でも関係ない。次はアリス君‥‥速やかにキミの命を刈り取ってあげるよ」
鳳は大鎌を構えながら不敵に笑みながら呟く。
「ウサギも退治したし――さぁアリス、貴女の物語は終わりよ」
エリスも呟きながら大鎌を構えながら、アリス型キメラへと向かって走り出し、援護をするように美環が小銃『フリージア』で射撃を行う。
そしてシュヴァルトも『ハンドガン』で援護射撃を行おうとしたのだが、アリス――人型という外見に躊躇してしまう。
「‥‥外見で躊躇するとは私もまだ未熟ですね‥‥」
シュヴァルトは呟きながら『ハンドガン』を構え、アリスを狙って再び攻撃を試みる。しかし彼の攻撃は大きな懐中時計に阻まれ、アリス本体に攻撃が届くことはなかった。
「う〜‥‥大鎌さえ持ってきていれば私も戦闘に参加できるのに‥‥」
櫻杜がため息混じりに呟くと「大丈夫です、他の皆さんもいるから」とシンが櫻杜を慰めるように話しかける。話した後でシンは険しい表情になり「三時の方向から接近中」と能力者達にアリス型キメラが操る懐中時計の位置を知らせた。
そして至近距離で戦う能力者達を援護するように『エネルギーガン』で射撃を行う。
「‥‥そろそろ、物語もおしまいよ」
真白が呟くと、シンが援護射撃を行い、射撃によってアリス型キメラが怯んでいる隙に『二段撃』を使用して攻撃を行う。
「おっと」
立浪はアリス型キメラが使用する懐中時計の攻撃を、森の木々を使用して回避する。
「これで僕を倒そうと言うのですか? 甘いですよ、全力で来てください」
挑発するように美環がアリス型キメラに話しかける、言葉が通じるか分からなかったが、自分を嘲る雰囲気は理解したのだろう。アリス型キメラは懐中時計を美環目掛けて投げつけてくる。
「リトルレディ、君の行動は全て見切った。これから僕と死へのダンスを踊ってくれませんか?」
美環は不敵に笑みながらアリス型キメラに話しかける。怒りに任せて攻撃を行ったアリス型キメラの攻撃を美環は容易く避けてアリス型キメラに近寄る。
何故避ける事が出来たのか、それは怒りに任せた攻撃ほど単純なものはないからだ。そして美環は『イアリス』で攻撃を行い、すぐに後ろへと下がる。
「俺達とのダンスも疲れただろう? そろそろ眠ってもいいんだよ」
鳳は呟きながら『両断剣』と『流し斬り』を使用してアリス型キメラに攻撃を仕掛けた。
「私の予想では小型の鈍器だと思ったのだけれどね。まさか木には目もくれずに攻撃を行うなんて思って無かったわ」
エリスは呟き、大鎌『ノトス』で攻撃を仕掛け、アリス型キメラを無事に退治する事に成功したのだった。
地に伏せるアリス型キメラを見て、美環は「汝の魂に幸あれ」と短く呟いたのだった。
〜戦闘終了、お疲れ様でした〜
「お疲れ様、お陰で助かったわ」
真白はシンにお礼を言った後「‥‥童話は暫くは読みたくないわね」と言葉を付け足して、覚醒を解いて白雪へと戻った。
「大怪我ではないですけど、皆さん怪我をしましたね。応急処置をしておきましょう」
シュヴァルトは『救急セット』を取り出しながら、負傷した能力者達に応急処置を施す。かくいう彼も無傷ではないのだが、他者を優先するのは彼の性格なのだろう。
「まったく‥‥子供の外見をさせてくるなんて、人の弱みに付け込む悪趣味極まりないキメラでしたね――と、その前に今回はお役に立てなくて本当にすみません」
櫻杜は呟きながら能力者達に頭を下げる。
「気にしなくてもいいですよ。何はともあれキメラは無事に倒せたんですから」
シンが言葉を返すと、他の能力者も「そうだよ」と続いて言葉を投げかけてくる。
「うん、とりあえずあのウサギの肉は止めておこう。食中毒を起こしそうな顔してるし」
立浪は倒したウサギ型キメラの顔を覗きこみながら首を縦に振り、立ち上がる。
「それにしても、キメラは何でもありなんですね。あんな大きなものを森の中で振るうなんて‥‥」
エリスがなぎ倒された木を見ながらため息混じりに呟く。確かに人の命すら簡単に奪うキメラなのだから、森林破壊などを気にするような輩ではないと頭の中で分かっていた。
だけど自身の攻撃の邪魔になるだろうと考えて、エリスは『小型の鈍器』と予想していたのだ。
「さて、帰りましょう」
エリスは呟き、任務完了の報告を行う為に能力者達は本部へと帰還していったのだった。
END