●リプレイ本文
〜キメラを退治する為に集められた能力者達〜
「また、力無き人が犠牲になってるんだね‥‥」
いつも笑顔を絶やす事のない蒼河 拓人(
gb2873)が表情を翳らせて「よし!」と呟いた後に再び笑みを浮かべる。
「ほぅ‥‥アルラウネ型キメラだって? そいつは興味深いな」
アレックス(
gb3735)が呟く。彼はカンパネラ学園の掲示板にあった任務を見て興味を持ったらしく、今回のキメラ討伐に志願してきた。
「上半身が女性の裸体、ね。女性の姿で男を誘い出して喰らう。まさに魔性の女ね」
バグアも凝ったキメラを作るものだわ、と言葉を付け足しながら御神・夕姫(
gb3754)が呟く。
「遺体はミイラみたいに干からびているんだよね――獲物を集めて生き血を啜る花キメラか‥‥花粉か芳香かは分からないけど、誘惑する能力があるみたいだね」
それには気をつけないと、と高村・綺羅(
ga2052)が資料を見ながら呟いた。
「男をあの世へ連れ去る魅惑の毒花か、ゾッとするねぇ‥‥」
マートル・ヴァンテージ(
ga3812)も資料を見てため息混じりに呟き「遺体が干からびていたって事は、根っこか何処かから体液を吸い取ったのかね?」と思い出したように疑問を口にする。
「どうでしょうか‥‥その辺についての資料はないので何とも言えませんね‥‥」
マヘル・ハシバス(
gb3207)が首を傾げながら言葉を返す。資料に書いてある情報は森でキメラを見た女性の証言から作られている為、どのようにして人間をミイラにしたなどの記述は無い。
「気ぃつけようにも、どんな方法で来るか分からんから気ぃつけようがないなぁ」
鳳(
gb3210)が困ったように呟く。実際にこの問題だけは花キメラと対峙してからでないと分かる事はないだろう。
もちろん『分かる』という事は、住人がミイラにされた攻撃を受けるという事なのであんまり分かりたくもないのだけれど。
「綺麗な華だそうですが見惚れないように注意ですよ!」
月夜魅(
ga7375)が呟き、能力者達は目的の場所へと出発し始めたのだった。
〜森に怯える町〜
「犠牲者、ですか‥‥?」
本部を出発した能力者達は、そのままキメラが潜む森に行く事はせずに犠牲者の家族が住んでいる町へと向かった。
それは犠牲者‥‥行方不明になった人間の正確な数を知るためだ。
「帰って来ないのは‥‥全員で六人です。最後に行方不明になった男から一週間が過ぎているので生きている事など万が一にもないのでしょうけど――やっぱりこの目で見るまでは『死んだ』なんて信じたくないんです」
恐らくは行方不明になった男性の家族の一人なのだろう、話を聞いた女性はまだ若く、嗚咽を堪えながら泣いている。
「生きていたら絶対に連れ戻ってくる。もし‥‥駄目だとしても遺体だけでも連れて帰れるようにする。出来るだけの事はするよ」
だから待っててね? 蒼河は言葉を付け足しながら女性に話しかける。彼の言葉を聞いて女性は再び目に涙を浮かべて「お願いします」と頭を深く下げたのだった。
「でも‥‥完全に無傷で連れて戻るのは無理かもしれへん」
鳳が俯きながら呟くと「私はあの人が戻ってくるなら何でもいい‥‥例え遺体だとしても、帰ってきて欲しいんです」と女性は言葉を返してくる。
しかし『遺体を回収して戻る』という事にマヘルは反対の気持ちがあった。もちろん彼女も『家族のために』という気持ちが分からないというわけではない。
「本当に遺体を回収するおつもりなんですか?」
女性と別れて、森へと向かう途中でマヘルが他の仲間達に問いかける。
「そのつもりだけど、どうかした?」
高村が言葉を返すと「気持ちは分かるのですが、任務遂行の妨げにならないでしょうか?」とマヘルは答える。
「遺体を回収しようとしてケガしたなんて笑えませんよ」
マヘルの言葉に「それは分かってるよ。でも敵の攻撃を知る良い方法だと綺羅は思うけど」と高村は言葉を返す。
高村の考えは遺体を回収する、これに嘘偽りは無いけれど敵の攻撃方法の特定にも繋がるのではないかと考えていた。現段階では敵がどのようにして攻撃を行ってくるかわからない。
だからあえて危険な事をして敵の攻撃を誘うのだと高村は言う。
「もし危険な事になっても、これだけ仲間がいるんだから何とかなるんじゃないか?」
アレックスがマヘルに話しかけ「分かりました、それでは援護をさせていただきますね」とマヘルも言葉を返し、能力者達は花キメラが潜む森へと足を踏み入れたのだった。
〜花キメラとの戦闘・命無き戦闘者達〜
今回、花キメラを退治する為にやってきた能力者達は班を三つに分けて行動する事にしていた。
三つの班で行動とは言っても、キメラがいる場所までは全員で赴き、戦闘になったらそれぞれの班で行動するという意味だ。
前衛・月夜魅、鳳、御神、マートルの四人で回収班に攻撃が行かぬように派手に暴れるという役目を受けている。
後衛・蒼河、マヘルの二人で離れた場所からの援護射撃という役目を受けており、地面や落葉、それにキメラ自身に何か異変が無いかを確認するのも彼らである。
回収班・高村、アレックスの二人で資料にあったように『キメラの側に置かれているミイラとなった遺体』を戦闘によって破損しないように安全な場所へ移す役割を受けている。
「あれ、マートルさん、それは何ですか?」
月夜魅はマートルが抱えている布に包まれたものを指差しながら問いかけると「消火器さ」とマートルは短く言葉を返した。
「仲間が炎を伴う武器を持っていると聞いてね、火事になったらマズいし。備えあれば嬉しいなっとね」
マートルの言葉に「助かります」と蒼河が言葉を返した。彼は今回キメラとの戦闘で『弾頭矢』を使用する事を考えており、森林火災になったらどうしようと不安の気持ちが残っていた。
ちなみにマートルの言っている台詞は『備えあれば憂いなし』が正解である。
それから暫くの間、能力者達は森の中を歩き、最奥にその女性は――いや、その華は咲いていた。
地面から咲いているその華の中央には確かに女性が裸体でいる。その周りにも情報通りにミイラ化した遺体が幾つも投げ捨てるように無造作に置かれている。
「さて――キメラ退治も目的の一つですが、私個人の目的として『フレイムシュート』の試験運用も兼ねています。データだけでは頼りになりませんからね」
マヘルは呟きながら『フレイムシュート』を構え、能力者達と花キメラとの戦闘が開始したのだった。
「さぁ、とっとと除草と行こうか」
マートルは『パイルスピア』を構えながら呟き、花キメラへと走り出す。彼女が走り出すと同時に前衛に属する鳳、月夜魅、御神も走り出し、花キメラを囲むような陣形を取る。
その陣形は、花キメラの標的が回収班に行かぬように自分達に引き付けるためである。
「‥‥普通に戦ったら、あの遺体は巻き添えを食らう」
高村は置いてある遺体を素早く見つけ、自分達の戦いで傷つかぬように移動をする為に駆け寄り、遺体を抱える。
そして気づいた事は、遺体は必ず何処かに十円玉サイズの穴がある事。それは首筋だったり、手だったり、足だったりと様々だが、恐らくはこの穴がミイラと化す攻撃の一部なのだろう。
「ふぅ、俺は仲間を信じてる! だから今は迷わずに敵に背を向けられるぜ」
アレックスは呟きながら花キメラに背中を向けて遺体を回収するために『竜の翼』を使用して、素早く遺体に近寄る。
しかし、ここで能力者達の予期せぬ事が起きてしまう。花キメラの一部であろう蔓のようなものが地面からボコリと湧き出て、ミイラ化した遺体に絡み付いていく。
そしてミイラ化した遺体を操るかのように、能力者達に向けて攻撃を仕掛けさせた。
「な――遺体が‥‥」
ミイラの手は高村が動けないように固定して、ミイラに絡み付いている蔓が高村の首を絞めていく。
「ぐ‥‥」
高村が蔓攻撃を受けているのを見た月夜魅は、一度前衛から離れて『鬼蛍』で蔓を斬り落とす。
「まさか――‥‥遺体が敵になるなんて‥‥」
蒼河も洋弓『フェイルノート』を構えながら震える声で呟く。こうなれば遺体全てが敵になる可能性もあるために、出来るだけ遠くへ遺体を運ばなくてはならなくなった。
再び、別の遺体へ蔓が向かうのを見て蒼河は「邪魔はさせない。絶対にだ」と呟きながら蔓を狙って攻撃を行う。
「援護、頼むぞ!」
アレックスが叫びながら、まだ移動されていない遺体へと走り出す。彼には直接蔓が向かい、マヘルが小銃『S−01』で蔓を狙って攻撃を行い、アレックスは残された遺体を全て移動させる。
「回収班には手を出させないわ、遺体だったとしても待っている人がいるんだから」
御神が呟きながら忍刀『颯颯』で花キメラを攻撃する。
その後、回収班が遺体を全て移動させた事で、本格的に花キメラの戦闘へと入っていく。
「節度ってモンがないね、まったく!」
最初に攻撃を仕掛けたのはマートル、相手が植物系のキメラという事で注意すべき点が多い。枝や蔓を使った攻撃、溶解液の類、そしてマンドラゴラのように叫び声で攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
「無様に枯れて滅びなさい‥‥」
月夜魅はポツリと呟きながら『鬼蛍』と『月詠』を構えて『豪破斬撃』と『二段撃』を使用して攻撃を行った。
そして彼女の攻撃を受けた後、花キメラは歌声のようなものを歌い始め、男性能力者達は頭に痛みが走る。恐らくミイラ化の攻撃が来るのだろうと察知した蒼河は『弾頭矢』を使用して花キメラ――裸体の女性部分の喉を潰すように『鋭覚狙撃』を使用して攻撃を行う。弾頭矢には火薬が詰まっているために、火災の心配があったが、幸いにもキメラがいる場所は後ろが崖のようになっていて、注意さえすれば火災までに発展はしない。
「ふむ、これだけ開けていれば炎も使えそうですね」
マヘルは呟きながら『フレイムシュート』で攻撃を仕掛ける。花キメラはその場を動けない状況にあり、攻撃を避けることは不可能だった。
「移動出来ないという事は動く必要がないにも通じますからね――嫌な敵です。でもそれが致命的な結果を招くんです」
マヘルは攻撃が当たる瞬間に呟きながら「出力は十分だけど、使いどころを選びますね」と言葉を付け足した。
「ほら! あんたの相手はこの俺や! 間違えんといてな!」
鳳は自身が『朱雀』と呼んで愛用している『三節棍』で攻撃を仕掛けるが、蔓が巻きついてきたので、腰の所に下げていた『アーミーナイフ』で蔓を素早く切り払い、再び『三節棍』で攻撃を仕掛けた。
「消えなさい、この『抜刀牙』の一撃でね」
御神は『疾風脚』で急接近して『瞬即撃』を使用して攻撃を行う。彼女の攻撃を受け、花キメラに隙が出来て「その首もらったぁ!」とマートルが『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用しながら女性部分の首を狙って攻撃を行う。
「インテーク解放、ランス『エクスプロード』、イグニッション!」
マートルの攻撃に合わせてアレックスも『竜の爪』『竜の瞳』『竜の翼』を使用して、トドメの一撃を放つ。
「受けろ! 極炎の一撃(フレイム・ストライク)!」
能力者達による総攻撃を受け、花キメラは『ズズン』と大きな音をたてながら地面に倒れたのだった。
〜戦闘終えて、遺体を家族に〜
「終わった‥‥のかしら。念のために根っこまで掘り返して完全に駆逐しておきましょう」
御神が呟き、能力者達は巨大な花の根元を掘って僅かな可能性も無いようにする。
すると、確かに根っこ部分はまだ蠢いており『弾頭矢』を使用して蒼河が攻撃を行う。
「逃がしてやるわけにはいかない。ここで大人しく枯れ果てろ」
攻撃の際に『強弾撃』を使用しながら行い、蒼河の表情にいつもの優しい笑みはない。
「ふぅ、落ち葉を避けといて正解やったかな」
燃える花キメラを見て鳳が呟き、完全に花キメラが息絶えたであろうと確認した後にマートルの持参した消火器で火を消す。
そして蒼河が町から借りてきた布を遺体に被せて、町まで運ぶことになった。布を被せる時に高村は教会で覚えたお祈りをする。
「魂が安らかである事を‥‥アーメン」
その後、時間は掛かったが遺体を全て町まで運び、遺体に泣き縋る家族達を見て、能力者達は少し心が痛む。
(「行いは自分に返る、か。俺が死んだ時、誰か気にしてくれるヤツはいるのかね?」)
アレックスは心の中で自嘲気味に呟く。
「なんや、あんなん見てるとやっぱり‥‥いい気分にはなれへんな。キメラ退治できたんは嬉しいけどな‥‥」
遺体に泣き縋る家族の中には、最初に町で話した女性も混じっていた。そして能力者達に気がついたのだろう。女性は丁寧に頭を下げて「ありがとう」と能力者達に言葉を投げかけてきた。
「バグアやキメラ‥‥何処までも人を苦しめるのね。でも――私は負けないわ」
御神は拳を強く握り締めながら呟き、目の前で泣き喚く家族達の姿を目に焼き付けるようにしっかりと見ている。
その後、能力者達は本部に報告を行う為に高速艇に乗って帰還していったのだった‥‥。
END