●リプレイ本文
〜天使によって殺された少女を真なる天へ送る為に〜
「あたし‥‥絶対に、許せません‥‥お母さん、とっても、痛そう‥‥でした」
五十嵐 薙(
ga0322)が表情を歪めながら小さく呟く。彼女は天使型キメラによって殺された少女の母親の事を思いながら『許せない』と思っていた。母親自身は傷一つ負っていないのだが心が痛そう‥‥五十嵐が母親を見て最初に思った事だ。
五十嵐自身も愛する人が存在して、子供がいるから娘を失った母親の気持ちが痛いほどに分かったのだ。
「ふむ、天使型と戦うのはこれが初めてになるな」
ブレイズ・カーディナル(
ga1851)が事件の詳細が纏められた資料を見ながら小さく呟く。
「だが、いくら綺麗な姿をしていようが、子供の命を奪った事を許すわけにはいかない。会った事もない女の子だが‥‥仇、取らせてもらうぞ」
ブレイズは紙をぐしゃりと握り締めながら低い声で呟いたのだった。
そして、ブレイズの隣では高村・綺羅(
ga2052)がため息混じりにキメラ情報に目を落としていた。彼女は教会で暮らしていた過去があり、クリスチャンでもあった。
だから偽者とはいえ『天使』に武器を向ける事が嫌だと感じるのだろう。
「でも‥‥この天使は本物じゃない。天使の衣を借りる偽者」
貴方の罪は許さない、高村は事前準備の地図を見ながら小さく呟いた。
「天使型、ね。バグアも下手に外見が綺麗なキメラを作るから厄介ね」
緋室 神音(
ga3576)がため息混じりに呟く。大人ならばいきなり現れた『天使』に警戒もしただろう。だけど不運にも『天使』を見つけたのは子供、それも天使が大好きな子供だった。
まさか『天使』が自分を殺してしまうとは、犠牲になった少女・ルイは考えもしなかった事だろう。
「天使の皮を被ったキメラが子供を殺した‥‥と‥‥そのキメラ、今どこにいるんです?」
旭(
ga6764)が小さく呟くと「向かっている町の外れにいるみたいです‥‥」と五十嵐が言葉を返す。
今回は天使型キメラが潜んでいる場所が特定されているから、捜索の手間がない。ただ、開けた場所でお互いに戦いやすい場所なのが能力者達は気になっていた。
「子供を殺し、天使の姿を真似た醜悪なキメラに鉄槌を下さねばなりませんね」
旭は呟くと「ハッ、天使狩りか‥‥中々面白い仕事よね」とアーシュ・シュタース(
ga8745)が言葉を返した。
「所詮外見だけ似せただけの醜悪な存在だろうと天使と戦うというのは未来の魔王としては絵になりそうね」
アーシュがまだ見ぬ天使型キメラを嘲るように呟く、もちろん『魔王』というのは『自称』である。
「まぁ、殺された市松ルイという子の分まで苦しんでもらいましょうか」
アーシュは小さく呟き、不敵に笑む。
「大天使の次は力天使か‥‥笑えない冗談だ」
アセット・アナスタシア(
gb0694)は少し前に戦った天使型キメラの事を思い出してため息混じりに呟く。
「力には力をね‥‥単純だけど一番手っ取り早い」
アセットは言葉を付け足して呟く。一人で戦うならいざ知らず、仲間が七人もいるのだから必ず天使型キメラに隙を作る事は出来る、アセットはそう感じていた。
「信じるものは救われる‥‥筈なのだがな」
キリル・シューキン(
gb2765)がため息混じりに呟き「害にしかならぬならば排除するまでだ」と言葉を付け足した。
そして、能力者達は天使型キメラが現れた町近くに到着した事を知り、高速艇を降りてルイの仇を取る為に行動を開始し始めたのだった‥‥。
〜静かな町、少女がいなくなった町〜
高速艇から少し歩いた所に問題の町は存在した。能力者達は任務を迅速に行う為に三つの班で行動を行うように予め決めていた。
囮班・高村、アーシュの二人で味方が攻撃しやすい位置に誘導を行う班。
近接班・アセット、ブレイズ、五十嵐の三人で囮に食いついた天使型キメラに対して近接攻撃を仕掛ける班。
射撃班・キリル、旭、緋室の三人でそれぞれの遠距離武器で囮班や近接班が動きやすいように援護射撃を行う班。
「それじゃ‥‥綺羅達で引き付けるから‥‥」
高村が呟き、アーシュと共に天使型キメラを引き付ける為に行動を起こす。資料には『空き地』と書いてあったが、たまたま同じ場所にいただけかもしれない、今日は違う場所にいるかもしれないと考え、二人は迅速に行動を開始し、近接班、射撃班も空き地へと向かい始めたのだった。
※囮班※
二人は町から来たように空き地へと入り、天使型キメラが現れるかを少し待機しながら待つ。
今回、高村はシスター衣装を着て任務に当たっていた。これは武器を隠す為でもあったが、天使型キメラへの『制裁』の意味も込められていた。
「天使キメラは何処かしらね、危なくなったら悪いけど自分の身を優先させてもらうけどね」
アーシュの言葉が呟いた時、ゾッとするような冷たい視線を感じて二人は勢いよく視線の方向――後ろを振り向く。
すると、そこには白い衣装を身に纏い、背中から白い翼を広げている男性の天使型キメラが此方を見て涼やかに笑んでいる。
「少し拍子抜けね、天使――と言うくらいだから、てっきり空から来るものだと思っていたわ」
アーシュが呟きながら『ワイズマンクロック』を天使型キメラに向ける。
「天使を騙るキメラ。貴方を制裁します‥‥」
高村も少し瞳を伏せた後に呟いて『エネルギーガン』を構えた。
※射撃班※
「一つ聞いてもいいかしら」
囮班が天使型キメラと接触して、射撃班が援護を行うタイミングを計っている時に緋室がポツリと旭に問いかけた。
「その格好は‥‥何なのかしら? いえ、別に人の格好をどうこう言うつもりはないんだけど‥‥」
緋室が呟きながら旭を見る。旭の格好は鎧姿に『ヒーローマント』という西洋の騎士っぽい格好だった。
「あ、おかしいですか?」
旭が目を瞬かせながら呟くと「いえ、おかしいというより‥‥怖いわ」と緋室は言葉を返す。そんなやり取りを見てキリルもジッと旭を見て「確かに」と短く呟いた。
少しショックだったのだろう、旭は『キャンディー袋』から飴玉を一つ取り出して口に放り込み、落ち着きを取り戻そうとする。
「あ、お一つどうです?」
旭が『キャンディー袋』の口を二人に向けながら勧め、緋室とキリルは一つずつキャンディーを貰うことにした。
「そろそろいいかな‥‥」
キリルが呟くと『アサルトライフル』に『貫通弾』を装填して、囮班の二人が引き付けている天使型キメラの翼を狙う。まだ飛んだ姿を見せてはいないけれど、上空に逃げられると戦闘に支障が出ると考え、翼は早めに潰しておくのがいいとキリルは判断した。
「‥‥距離およそ‥‥メートル。風速は‥‥」
小さな声で呟き、囮役が天使型キメラの動きを封じるのを待つ。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
緋室も覚醒を行う。
そして‥‥『アサルトライフル』の射程に入ったのを確認すると『Огонь!』と呟いた後に射撃を行い、キリルが射撃を開始し始めたと同時に旭は小銃『S−01』で、緋室は『スコーピオン』で射撃を開始し始めたのだった‥‥。
※近接班※
囮班が天使型キメラを引き付け、射撃班の援護射撃で天使型キメラの動きが封じられると近接班は天使型キメラに攻撃すべく、潜んでいた場所から飛び出し、本格的に戦闘を開始し始める。
最初に五十嵐が『貫通弾』を装填していた小銃『S−01』を腰ベルトから取り出して天使型キメラの背後から残った翼を奪うために射撃を行う。
天使型キメラは五十嵐の攻撃を受けて、ガクリと膝をつく。両方の翼を奪われたのだから尋常でない痛みが天使型キメラを襲っているのだろう。
そしてブレイズは『ツヴァイハンダー』を構えて天使型キメラへと攻撃を行い、攻撃が終わると後ろへと下がる。そしてまた攻撃、とヒット&アウェイの方法で戦闘を行っていた。
緋室は、武器を『スコーピオン』から『月詠』へと持ち替えて攻撃を行う。
「夢幻の如く、血桜と散れ――剣技・桜花幻影(ミラージュ・ブレイド)」
キリルが『アサルトライフル』で援護射撃を行い、天使型キメラに僅かな隙が出来て、緋室は『紅蓮衝撃』と『二段撃』を使用して、天使型キメラに『急所突き』で攻撃を行う。
緋室の攻撃によって大ダメージを受けた天使型キメラは手をボキと鳴らしながら能力者達に攻撃を行う‥‥が、傷が深いせいか天使型キメラの攻撃は能力者に当たる事はなく、地面へと天使型キメラの拳が埋まる。天使型キメラの攻撃を受けた地面はひび割れて、天使型キメラの力の強さを伺わせた。
「子供を殺した貴方に、偽者だとしても『天使』を騙る事は許せない」
旭は武器を洋弓『ミストラル』に持ち替えて『急所突き』を使用して攻撃を行いながら呟く。
「この『ワイズマンクロック』の攻撃を受けてみなさい、あんたに殺された子供の分まで確りと苦しみぬいて‥‥終わりを迎えるといいわ」
アーシュは呟きながら『ワイズマンクロック』で天使型キメラへと攻撃を行う。そしてアーシュの攻撃で天使型キメラが怯んだのを見過ごさなかったアセットは『コンユンクシオ』を構えて「いくよ、コンユンクシオ‥‥偽りの天使に永遠の眠りを与えるために」と呟いた。
アセットは天使型キメラへと駆け出し『両断剣』を使用しながら攻撃を仕掛ける。
「10を数える幼子を手に掛けた時、貴方が何を思ったかなんて知りたくもないけど‥‥その子はきっと今でも泣いてる‥‥だから私に出来る事は!」
アセットは『コンユンクシオ』を振り上げて「コンユンクシオ、天使喰らいの剣となれ!」と叫びながら攻撃を行った。途中で天使型キメラがアセットを狙って攻撃を行ったが、キリルの『アサルトライフル』が天使型キメラの足を狙い撃ち、天使型キメラの攻撃はアセットに当たる前にアセットの攻撃が天使型キメラに直撃した。
その後、立ち上がろうとした天使型キメラを五十嵐が『ソニックブーム』で攻撃を行い『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用して攻撃を行い、ブレイズも『豪破斬撃』と『紅蓮衝撃』を使用して攻撃を仕掛ける。
「これが俺の全力の一撃だ‥‥これで燃え尽きろおおおっ!」
ブレイズが叫び、攻撃を受けて天使型キメラはトドメを刺されたのだった。
「‥‥あいにく私はアブラハムの宗教よりもマルクスの哲学書の方がよく読み解いていたのでな」
絶命した天使型キメラに近づき、キリルは小さく呟く。
「貴様を殺そうと、何の感慨も無い。しかしだ、信じていた少女の命を奪った事は死に値する事なのだよ――もう聞こえてはいないだろうけどな」
キリルは呟き、能力者達はキメラ退治を無事に終了させたのだった。
〜天使になった少女〜
「天国にいけたら‥‥本当の天使に会えるといいね‥‥いや‥‥きっと会える」
天使型キメラを退治した後、能力者達はルイが眠る墓前へと足を運び『キメラを退治した』という報告をルイ、そして母親に報告しに来ていた。
「助けてやれなくてごめんね‥‥貴方の将来を奪ったキメラはいなくなったよ。いつか本物の天使さんに会えるといいね‥‥」
ゆっくりとお休み、五十嵐は墓前で手を合わせながら呟く。
「ありがとうございます‥‥きっと、この子も安らかに眠れるでしょう」
ルイの母親はやつれた顔、涙で腫れた目で、能力者達に丁寧に頭を下げる。
「笑って‥‥くださいね。泣いてたら‥‥この子が心配‥‥しちゃいます、から」
五十嵐の言葉に母親はハッとしたように表情を変え「‥‥努力します、それがあの子の為になるのならば」と言葉を返した。
「キミの仇は取ったよ‥‥それにもうキミみたいな犠牲が出ないようにキメラも僕達が倒した‥‥」
旭が手を合わせながら呟く。
「そうだ、ルイの写真か何かはないか? 仇を取った子の顔も知らないというのはあんまりだと思ってな」
ブレイズの言葉に母親は長財布から一枚の写真を取り出し、能力者達に見せた。ツインテールにされた髪形が可愛らしく天使のような笑顔のルイが写真に写っていた。
「ふふ、この子は天使に会いに行ったんじゃない――天使になったのかもしれないな」
アーシュの言葉に能力者達は納得したように頷き、母親に挨拶を済ませると報告の為に本部へと帰還していったのだった‥‥。
別れる刹那、ルイの母親は小さく能力者達に呟いた。
『あの子は神に愛されて、天使となる為に死んだ――自分を慰める為かもしれないけれど、私はこう思うようにします』
END