タイトル:朱の更紗・閉マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/08 03:00

●オープニング本文


ここから出して。

どんなに叫ぼうともボクの声は届かなかった‥‥。

※※

周りを見ればボクより経験の多い人は当たり前だった。

「何でもっと支援できないの?」

「アンタなんていてもいなくても良かったわ。むしろいない方が足手まといにならずにすんだかもね」

昨日の任務で同行した能力者達に言われた言葉。

「‥‥ボクだって、足手まといになっているのは分かってるけど‥‥」

頑張ってるつもりなんだけどなぁ、更紗は「はぁ」とため息を吐きながら心の中で呟く。

そして今日は迷子探しの任務だったから、一人で来る事にした。

昨日の能力者達が「アンタはそれくらいの仕事がお似合いかもね」と嘲るように笑って呟いてきた。

「ツインテールの子供、あれ――あの子かな」

森の奥深くで泣き喚いている一人の少女を見つけ「キミが梨乃ちゃん?」とボクが問いかける。

「お、お母さんと‥‥はぐれちゃって‥‥ひっく‥‥」

梨乃という少女は母親と森に来ていたらしいが、母親とはぐれ、この辺をうろうろとしていたらしい。

「帰ろう、お姉ちゃんはお母さんに頼まれて梨乃ちゃんを探しに来たんだから」

母親の方は先に森を抜けたようで「娘を探して」と慌てたように本部へと依頼にやってきたのだ。

「ホント? お母さんは無事なの?」

梨乃は涙で濡れた目でボクに問いかけてきて、ボクは優しく首を縦に振った。

「さぁ、帰ろ――――‥‥」

そう呟いた時だった。

背後から耳が劈くような奇声を上げながらボクと梨乃を見て、どこか笑ったように見えた。

その時、足場が崩れてボクと梨乃は下の方に落ちて行く。落ちるとは言っても山の崖から落ちたわけではないので、死ぬ事はなかったがボクは足を挫いて、長く歩ける様子ではなかった。

ましてやキメラとの戦闘なんてもってのほかだ。

『迷子探しもまともに出来ないのね』

昨日の任務で一緒になった女性能力者の声が頭を掠め、ボクは本部に応援を要請したのだった。

ボクはどうなってもいいから、せめてこの子だけでも‥‥。

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
レィアンス(ga2662
17歳・♂・FT
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
ナナヤ・オスター(ga8771
20歳・♂・JG
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD
マヘル・ハシバス(gb3207
26歳・♀・ER

●リプレイ本文

〜更紗と梨乃を救出する為に〜

 今回は更紗が迷子探しの任務に赴き、その場でキメラに襲われた事が始まりだった。二人を救出する為に八人の能力者が集まり、出発前に作戦の最後の確認を行っている最中だった。
「俺も任務を受けるようになってから日が浅いから‥‥更紗に何か近いものを感じるな」
 九十九 嵐導(ga0051)が更紗に関する資料を見ながら呟く。
「更紗さん‥‥頑張っていると‥‥思ったら‥‥怪我して動けない‥‥これは‥‥早めに‥‥現場に行った方が‥‥いいかもしれません‥‥」
 神無月 紫翠(ga0243)も神妙な顔で呟く。
「そうだな‥‥」
 レィアンス(ga2662)が呟くと「貴方達があの足手まといの手伝いに行くの? 大変ねぇ」と女性能力者が話しかけてきた。集まった能力者達は『知り合い?』と言った表情で互いの顔を見るが、どうやら集まった能力者の知り合いではなく『更紗』の知り合いのようだ。
「どうせ新人なんだし、放っておけば良いんじゃないの? 甘やかすのは駄目よ〜?」
 けらけらと笑いながら女性能力者は能力者達に話しかける。そんな女性能力者を見て、不愉快にならない能力者はいなかった。
「経験があるくせに、非難するだけでアドバイスも出来ないなら、そんな口は一生閉じておけ」
 レィアンスは低い声で女性能力者に言葉を返す。
「まったく、後輩は褒めて少しでも自信を付けさせて育てるべきなのに‥‥困った人達って居るもんなんですね」
 ふぅ、と女性能力者に聞こえるように乾 幸香(ga8460)がポツリと呟く。彼女は傭兵になる以前は剣をまともに握った事すらもなく、周りの仲間に育ててもらったという意識があった。それ故に更紗の置かれた状況が他人事とは思えないのだ。
「な、何よ‥‥足手まといにはきっちりと教えてあげるのも優しさでしょう。やる気だけじゃ傭兵は務まらないのよ」
 女性能力者がムッとした表情で能力者達に少し口調を強くして言葉を返す。あくまでも自分のしている事に間違いがあるとは思っていないようだ。
「‥‥更紗さん達を助けに行きませんと、ね」
 ナナヤ・オスター(ga8771)はにっこりと笑顔で女性能力者の言葉をさらりとかわして能力者達に向けて話しかける。表情こそ笑顔だが、その心の中は渦巻く炎を背景にした般若の顔がある。
 これは女性能力者に対して怒っている、というものではなく不機嫌になっただけ‥‥らしいのだが、笑顔なだけに余計に怖いものがある。
「そうですねー、一人で行くなんて危ないのですー! 無事に連れ帰って遊び倒してやるのですっ!」
 ヨグ=ニグラス(gb1949)がむんと拳を作りながら叫ぶ。
「‥‥そっか、更紗って俺の知ってる更紗じゃないんだな」
 嵐 一人(gb1968)がポツリと呟く。嵐は自分の友人が危ない目に合っているかと思い、任務に参加したのだが『更紗違い』だと言うことに多少安堵のため息を漏らした。
「それでは、出発しましょうか」
 マヘル・ハシバス(gb3207)が呟き、能力者達は更紗と梨乃がいる森へと出発していったのだ。
「何よ! 私が悪者!? 駄目な奴に駄目って言って何が悪いのよ!」
 後ろで女性能力者の金切り声が聞こえたが、能力者達はそれに耳を貸す事はしなかった。


〜森の中、更紗と梨乃を探すために〜

 能力者達は、任務を迅速に遂行する為に出発する前に本部にて更紗からの救助要請時の周波数を確認しておき、念の為に更紗が向かった任務についても調べていた。
 すると更紗が迷子探しの任務を請けた後に、キメラ出現の報告が本部へと来ていた事が分かった。
 そして念の為に通信機で更紗と話が出来ないかと通信を試みたが、ツーツーという音しか聞こえず、更紗と通信を行うのは難しいようだ。
「それでは‥‥予定通り二班に分かれて行動して、二人を探しましょうか」
 乾が呟き、他の能力者達も首を縦に振る。
 A班には九十九、嵐、ナナヤ、ヨグの四人。
 B班には神無月、レィアンス、乾、マヘルの四人。
「それでは、急ぎましょう」
 マヘルが呟き、能力者達はそれぞれの班で行動を開始し始めたのだった‥‥。

※A班※
「‥‥全く、渡る世間にデーモンばかりと承知してはいますが‥‥心無い人というものがこうも身近にいるとは‥‥更紗さんには少し同情しますね」
 ナナヤが更紗・梨乃を捜索中にため息混じりに呟いた。かの女性能力者は更紗を『足手まとい』『駄目な奴』と連呼していた。
 それを聞いてからナナヤの心の中には『自分が足手まといになった事はないと言える立場にあるのでしょうか?』という言葉がぐるぐると渦巻いていた。
「更紗さん、早く見つけて連れて帰るです。兵舎にお持ち帰りするですよ、一人兄様!」
 ヨグが嵐に向けて少し大きな声で叫ぶ。ヨグと嵐は同じ部活という事もあって顔馴染みだった。
「そうだな、恐らく更紗は少女の母親とはぐれた場所から探しているはずだ、まずはその辺を調べてみるか」
 嵐は地図を見ながら呟く。更紗達を捜索する上で、それぞれが工夫をして任務に当たっていた。
 九十九は10分置きに『方位磁石』で位置を確認しながら、携帯している『アーミーナイフ』で木に×印をつけて自分たちが迷わないようにしていた。
 そしてナナヤは何も見落としがないように『双眼鏡』で辺りをくまなく捜索している。
「何かトラブルがあれば、何らかの痕跡がある筈だ。それを見落とさないようにしよう」
 嵐が呟き、他の能力者達も首を縦に振って、更紗・梨乃捜索を続ける。
 しかし、森の中で簡単に手がかりなど見つかるはずもなく、四人の能力者達にも疲れの色が見え始める。
「あ、これ――」
 呟いたのはヨグ、彼が見つけたのは戦闘の痕跡で木に刺さった矢や地面に靴跡などが残されており、確かに更紗がここにいたのは間違いないらしい。
「‥‥これ、血痕じゃないですか?」
 ナナヤが地面にべっとりと残された赤黒いものに触れながら呟く。多少渇いているものの、それは確かに血の跡だった。
「ここで足跡が途絶えてるな――あ‥‥」
 軽い斜面になっている場所で足跡が途切れていて、嵐は斜面下を見る。すると小さな女の子を抱きかかえた少女が血まみれで倒れていた。
「お、おい!」
 嵐は慌てて斜面を滑り降り、少女へと駆け寄る。そして他の能力者達も少女・更紗に駆け寄った。
「‥‥怪我はしてるけど、幸いにも致命傷はないみたいだ」
 九十九が怪我している足や手を見ながら他の能力者に言葉を投げかける。
「お姉ちゃん‥‥梨乃を庇って怪我しちゃったの、大きな鳥さんが‥‥ひっく‥‥」
 ぐすぐす、と泣き始める梨乃にヨグが水筒に入れて持ってきた水を優しく渡す。極度の緊張状態が続いていた為か、梨乃は渡された水をごくごくと飲み「ありがとう」とコップを返してきた。
 そしてヨグは更紗の方に向き直り「この! この! ‥‥ふぅ‥‥ふぅ‥‥」と言いながら更紗にグイグイと乱暴に水を飲ませる。
「一人で行くのは辞めるです! 次行ったら追っかけてフルボッコですからね!」
 ちなみに今もフルボッコ状態なのだけれど、と更紗は言葉を返したかったが怪我の痛みでツッコミを入れる所ではなかった。

 それからすぐの事だった、B班のレィアンスが『照明弾』を打ち上げたのは‥‥。

※B班※
 時は少し遡り、班行動を開始した頃に戻る。
 B班はA班が向かった方向とは逆の方向に進み、更紗達の捜索、そしてキメラの捜索を行っていた。
「更紗さん達は――」
 乾が呟いた時だった、鳥型キメラの奇怪な声が響き、能力者達は勢いよく上を見た。
 すると、上空には少し大きめの鳥型キメラが飛び回っていた。幸いにもまだ能力者達には気づいていないようだ。
「ん‥‥こっちが先か」
 レィアンスが鳥型キメラを見ながら小さく呟くと同時に『照明銃』を取り出して、鳥型キメラの気を引くように打ち上げた。幸いにもこの近辺はB班の能力者四人で捜索は終わっているため、更紗や梨乃が鳥型キメラとの戦闘に巻き込まれる心配は無い。
 鳥型キメラの翼を何とかすれば制空権は奪えるが、四人の状態で高望みはしないようにしよう、レィアンスは心の中で呟きながら武器を構える。
「まったく、また鳥か? 空中だと、当てづらいが、たまには地面と‥‥キスでもしてろ!」
 神無月が少し大きな声で叫びながら長弓『黒蝶』で鳥型キメラに攻撃を仕掛ける。神無月の放った矢は鳥型キメラの体に刺さったが、鳥型キメラが地面まで落ちてくる事はなかった。
「援護します」
 マヘルが呟き『スパークマシンβ』で鳥型キメラに攻撃を仕掛ける。電圧攻撃のせいで、マヘルの攻撃が命中すると、鳥型キメラは地面近くまで降下を始めた。身体が痺れて飛んでいる状態を維持できなかったのだろう。
「高望みはしない、だが――確実に、だな」
 レィアンスは『蛍火』を振り上げて、地面すれすれまで降下してきた鳥型キメラに攻撃を仕掛ける。
「守りが――甘いぞっ!」
 レィアンスが二回目の攻撃を行い、後ろへ下がり、入れ替わりで乾が『バスタードソード』を振り上げて『流し斬り』を使用しながら攻撃を行う。
 ‥‥と、そこにA班が合流して戦闘が本格的に始まったのだった。


〜鳥型キメラとの戦闘開始〜

 戦闘が開始すると同時に九十九が『狙撃眼』を使用しながら『スコーピオン』で弾幕を張り、前衛へのバックアップを行った。
「頑張っている人を、邪魔するなんて、無粋な真似は‥‥やめろ」
 神無月が長弓『黒蝶』で攻撃を仕掛けながら、低い声で呟く。神無月の攻撃に合わせるようにナナヤも『ライフル』を構えて『影撃ち』を使用して攻撃を仕掛ける。
「‥‥いけませんね、今日に限ってどうも銃の使い方が荒くなってしまいます」
 ナナヤは呟きながら『強弾撃』と『急所突き』を使用する。
「ボクも行くですよ!」
 ヨグが呟き『竜の爪』と『竜の鱗』を使用する。射撃班や援護してくれる能力者達のおかげで鳥型キメラも随分地上付近まで落ちてきて、攻撃が届かない範囲ではなかった。
 ヨグは『イアリス』で攻撃を行い、鳥型キメラからの攻撃は『エンジェルシールド』で防ぎながらヒット&アウェイを繰り返していた。
 能力者達の攻撃を受けて、だいぶ動きが弱まってきたのを確認すると嵐は『竜の翼』と『竜の爪』を使用して『試作型機械剣』を構えて「行くぜ! ヨグ!」と合図をするかのように叫ぶ。
「うおおおっ!」
 嵐はヨグとの連携攻撃を行い、鳥型キメラを地面へとひれ伏せさせた。そして再び上空へと逃げようとする鳥型キメラを見てマヘルが『スパークマシンβ』で攻撃を行い、一時的に動きを止める。動きが止まった所を九十九は『スコーピオン』で翼を狙い、上空へ逃げる事が出来ないように試みた。
 その後、レィアンスの『蛍火』、乾の『バスタードソード』と『両断剣』で鳥型キメラを攻撃し、見事に鳥型キメラを倒して見せたのだった‥‥。
「ふぅ‥‥どうやら少し気が晴れたようです」
 撃破された鳥型キメラを見ながらナナヤが小さく呟いた。


〜更紗と梨乃の救出、自信を持てない更紗は‥‥? 〜

「あ、あの‥‥今回はどうもありがとうございました」
 マヘルから『練成治療』を受け、傷を治療してもらったあとに梨乃を自宅まで送り、更紗は能力者達に頭を深く下げる。
「久しぶりだな‥‥元気、ではなさそうだが」
 レィアンスの言葉に更紗は少しだけ表情を曇らせて「‥‥やっぱりボクなんかは傭兵やっていけないのかも‥‥」と小さく言葉を返した。
 そんな更紗にレィアンスはデコピンを一発お見舞いした後に「誰だって、出発点は同じだ」と短く言葉を返す。
「そこから先は、お前次第‥‥で、お前はどうしたい?」
 レィアンスの言葉に「‥‥ボクはボクのために傭兵を続けたい」と震える声で更紗が言葉を返した。
「‥‥まぁ、焦らずじっくりやっていけば、そのうち実力もついてくる‥‥と、依頼を受け始めて日の浅い俺が言うのも変な話だけどな?」
 九十九が苦笑しながら更紗に話しかけた。
「でも‥‥ボクは実際に足手まといにしかならなくて‥‥先輩達にも‥‥」
「他人に‥‥何を言われても‥‥気にしない事です‥‥頑張っているんですから‥‥いつか努力は‥‥報われます」
 更紗の言葉を遮るように神無月が優しく言葉を投げかけた。
「更紗さんはきちんと自分が出来る事、梨乃ちゃんを守るという大切な仕事をしたんです。だから胸を張ってもいいんですよ。今回の事は教訓として次に生かせばいいのですから」
 乾が更紗に笑顔で話しかける。
「少しは自信持ってもいいと思うけどな。あの迷子、助けたのは間違いなくオマエだぜ?」
 嵐が更紗の肩をポンと叩きながら話しかける。
「でも――きっとボクはまた迷惑を‥‥」
「常にどうすればいいかを考える事です。失敗したら何がいけなかったのか、次からはどうするべきなのか、それと同じ失敗を三回以上しないこと、これが大切だと思います」
 マヘルの言葉に更紗は涙が零れそうになる目を擦りながら首を縦に振る。
「常に最悪を想定し、その上で最高を目指せ」
 レィアンスのぶっきらぼうなアドバイスを受け「ありがとう」と更紗は言葉を返し、報告のために本部へと帰還していった。

 しかし‥‥報告が終わった後にヨグによって本屋へと連行されて、どんな任務でも一人で赴く事がどんなに危険なのかを更紗に教えていた。
 その手には確りと一人で特攻するのが当たり前として知られている記者が書いた雑誌を持って。
「分かるですねっ! んと、これが反面記しゃ‥‥教師ですよ?」
 ヨグのお説教はそれから一時間以上も続き、更紗はもちろん本屋の店員さんも少しだけ迷惑だと思ったとか、思わなかったとか‥‥。


END