タイトル:週刊記者と墓あらしマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/04 01:33

●オープニング本文


絶対に許せない‥‥っ!

あの場所だけは‥‥あの場所だけは誰にも‥‥。

※※※

夏が終わり、本格的に秋の涼やかな風が頬を掠める頃に事件は起きた。

ここはクイーンズ編集室、記者達が日夜『能力者とキメラ』の事を記事にする為に頑張っている場所だ。

「お兄ちゃん、今日のお供え物はお兄ちゃんが大好きだった『もみじ饅頭』です」

仏壇にもみじ饅頭を供え、クイーンズ記者・土浦 真里はパンと音をたてながら手を合わせて呟く。

「でも私も大好きなので、早速頂きます」

供えた次の瞬間、マリは仏壇からもみじ饅頭を奪い取り、自分の口へと運んだ。

幽霊というものが本当に存在するならば、きっと今頃マリの兄・草太は涙目である。

「相変わらず罰当たりな事をしてるわねぇ‥‥供えて三十秒も経たないうちに取り上げるなんて――草太さんは今頃泣いてるわよ」

大した妹だわ、チホは言葉を付け足しながら苦笑する。

「だって、早く食べないと賞味期限が来ちゃうもの!」

「三十秒で賞味期限が来る食べ物なんて聞いた事がないわよ」

呆れたようにチホが言葉を返した時に「チホ、大変よ」と同じ記者の静流が部屋に入ってくる。

だが、マリの姿を見て静流は言いにくいのか、言葉を止める。

「何よ、どうしたの?」

マリが不思議そうな表情で問いかけるが静流は黙ったままで「何があったの?」とチホが言うように促すと「‥‥実は」と静流が口を開く。

「キメラが‥‥現れたんだって‥‥」

「え、何処!? 早速取材よ!」

ばたばたとマリがバッグを抱えて出て行こうとするが静流は場所を中々言わない。

「もう、何処に現れたの? 早く言ってよ――「北墓地」――え?」

マリが呟く途中で静流が場所を言い、場所を聞いたマリは表情をこわばらせる。

「‥‥‥‥マリ」

チホが心配そうにマリを呼びかけると「何で」とマリが震える声で言葉を返した。

「‥‥バグアやキメラは私からお兄ちゃんを奪った‥‥今度はお兄ちゃんが静かに眠る場所まで奪うって言うの?」

マリは携帯電話を取り出してメールを打ち、バッグを抱えてクイーンズ編集室を出て行った。

「ちょ、マリ! 能力者に連絡した方が――」

チホが走っていくマリに大きな声で問いかけるが「今メールした! お願いだから行かせて!」と言ってマリはチホや静流が止めるのも聞かずに『北墓地』へと向かいだ出したのだった。

「‥‥あの、北墓地って‥‥」

新人記者の室生 舞がチホに問いかけると「マリのお兄さんが眠る墓地よ」と短く言葉を返した。




『能力者の皆へ、今急いでるから簡潔にメールするね。お兄ちゃんのお墓にキメラが現れたの。私は今向かっているところ。出来れば来て欲しい。マリより』

●参加者一覧

神無月 翡翠(ga0238
25歳・♂・ST
ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
玖堂 鷹秀(ga5346
27歳・♂・ER
櫻杜・眞耶(ga8467
16歳・♀・DF
加賀 弓(ga8749
31歳・♀・AA
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA

●リプレイ本文

〜週刊記者が霊園へ向かう〜

 何で、どうして、そんな言葉ばかりがクイーンズ記者・土浦 真里(gz0004)の脳裏を掠めていく。
 今回はマリの兄・草太の眠る霊園にキメラが現れたのだと連絡が入ってきた。兄をキメラに殺され、尚且つ眠る場所すらも荒らすキメラにマリは大人しくしている事も出来ず、能力者に連絡を入れた後に霊園へと慌てて向かい始めたのだ。
「記者さん!」
 何とか無茶をする前に合流できた黒川丈一朗(ga0776)がマリに話しかける。彼はメールを見るや、所有している『ジーザリオ』で飛び出してきたのだ。
「ジョーさん‥‥」
「一人で無茶をするなと言っただろう‥‥」
 余程慌てて駆けつけてくれたのか、黒川は息を切らせながら呟く。
 そして黒川はマリと共に霊園へと向かい始めた。

 一方、マリが霊園に向かった事を聞いて集まった能力者が、それぞれが出発するのを待つだけとなっている。
「また飛び出して行ったのかよ? まぁ一応連絡来たから、良しとするが、万が一の事があったらどうするつもりだ」
 まったく、とため息と共に言葉を吐き出しているのは神無月 翡翠(ga0238)だった。
「無事でいてよ‥‥マリちゃん」
 ナレイン・フェルド(ga0506)が祈るように小さな声で呟く。今回は『マリが尊敬して止まない兄』絡みの事だから、彼女の行動を否定する事が出来ないのだ。
「流石に今回ばかりは真里はんを怒るわけにはいきませんが‥‥」
 櫻杜・眞耶(ga8467)も小さく呟く。
「‥‥まったく幾ら大切なお兄さんのお墓を護る為とはいえ、マリさんも無鉄砲ね。まぁ、マリさんらしいけどね‥‥ともかく、あたし達が行くまで待っていてよ、マリさん」
 小鳥遊神楽(ga3319)は苦笑しながら呟く。マリの無鉄砲ぶりを心配しているが、今回は他の能力者達と一緒で否定する事が出来ない。
 だけど、小鳥遊にとって戦う理由はそれだけじゃない。親友である彼女にとって、マリの心を護る事も大切な義務だと思っているからだ。
「お兄さんの眠る場所にキメラが‥‥それは心中穏やかでは無いでしょうね‥‥ですが、せめて今の悔しさだけでも晴らして見せましょう。恋人として、何より能力者としてのメンツに賭けても、ね」
 玖堂 鷹秀(ga5346)が拳を強く握り締めながら小さく呟いた。
「先人達の眠る地を荒らす事は許されません。一刻も早くキメラを退治しましょう」
 加賀 弓(ga8749)が小さく呟くと「そうだな、そろそろ出発しよう」と翡焔・東雲(gb2615)が呟き、能力者達は黒川とマリが先に向かっている霊園へと出発したのだった。


〜キメラに襲われた眠りの場所〜

「ちょっと騒々しくなるけど勘弁してくれよ」
 翡焔は霊園に入る前に軽く手を合わせながら呟く。霊園の入り口付近には黒川とマリが立っていて「マリちゃん! 怪我はない?」とナレインがギュッと抱きしめながら駆け寄る。
「う、うん‥‥大丈夫‥‥でも――」
 マリは霊園の奥の方を見ながら、今にも泣きそうな表情を見せた。霊園の奥には鳥型キメラが上空を舞っている。
 今回の能力者は霊園を破壊しないようにと班を三つに分けて行動を行う事に決めていて。
 A班・ナレイン、神無月、翡焔の三人で囮役はナレインとなっている。
 B班・黒川、小鳥遊、加賀の三人で囮役は黒川となっていた。
 そしてマリ護衛の班として玖堂と櫻杜の二人がマリ、そして霊園の管理人室で震えている中年男性(管理人)の警護に当たる事になっていた。
「待って、私も――」
 霊園の奥の方へ向かう能力者達に手を伸ばしながらマリが呟いたのを玖堂と櫻杜が制止する。
「駄目です、もし真里さんが傷つくような事になれば、それこそ草太さんに合わせる顔がなくなります。ですから暫くの間だけ我慢して、一緒にいてください」
「そうです、真里はんが怪我でもしたら、お兄さんが眠れないですよ?」
 櫻杜が呟き、マリは俯きながら管理人室へと入っていく。
 そして、A班とB班の能力者達は鳥型キメラを退治すべく、霊園の奥へと歩いていったのだった。


〜戦闘開始、霊園で眠る人々を守れ〜

 鳥型キメラは奥側にいるとは言っても、墓石が並ぶ場所を飛んでいるため、能力者達は攻撃に出る事が出来ない。
 だから囮役のナレインと黒川がそれぞれ行動を起こして、一番奥にあるゴミ捨て場へと誘導する事に決めていた。
「こんな所に現れるなんて‥‥常識知らず!」
 ナレインは上空を飛ぶキメラを見ながら忌々し気に呟いた。ナレインと黒川は堂々と目立つように歩き、他の能力者も囮役と離れすぎないようにゴミ捨て場を目指していく。
 鳥型キメラは下に対して注意をしていないのかナレインと黒川に気がつかない。なのでナレインが小銃『S−01』で自分に気づかせるように鳥型キメラに向けて発砲する。
 銃声を聞いて黒川もナレインと合流して、鳥型キメラを誘導するために迎え撃つ。ナレインが銃で攻撃を行い、黒川がゴミ捨て場に向かうように誘導を行っていく。
 それらの作業を繰り返して、鳥型キメラをゴミ捨て場まで誘導し、戦闘は本格的に始まったのだった。
「それでは‥‥戦闘は、お任せします。無理なさらないように‥‥援護しますので‥‥」
 神無月が呟きながら『練成弱体』で鳥型キメラの防御力を低下させ『練成強化』で能力者の武器を強化する。
「貴方に先人達の眠りを邪魔する資格はありません」
 加賀が呟きながら『ソニックブーム』で攻撃を仕掛ける。その際、避けられる事がないように神無月が『エネルギーガン』で鳥型キメラを攻撃する。
「ここは大切な人を偲ぶ所だ。心を持たないお前らがいていい場所じゃない!」
 翡焔は強い口調で叫びながら『スコーピオン』で鳥型キメラを狙い撃つ。しかしいくら銃で攻撃できる能力者がいるからと言っても、銃だけでは決定打にならない。
 鳥型キメラも羽攻撃を何度も繰り返してくるが、能力者達はそれを避け、お互いにダメージを受けない状態が暫くの間続いた。
「そんな所にいて、私達と勝負が出来るのかしらね〜、側に来なさい?」
 ナレインが挑発するように呟くと、先に攻撃を変えたのは鳥型キメラの方で、羽攻撃から鋭い爪攻撃へと切り替え、ナレインに向かって攻撃を仕掛ける。仕掛けられたナレインはぎりぎりまで攻撃を避ける事をせず、爪が食い込む寸前で『瞬即撃』を使用して爪を回避する。
「みんな! 今よ、確実に狙って!」
 ナレインの言葉を合図に地面に叩きつけられた鳥型キメラを全員で攻撃に廻る。
「霊園で眠る人々のためにも、さっさとやられてくれよ」
 翡焔は呟きながら『蛇剋』を構え『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用して鳥型キメラに攻撃を行う。
「死者の眠りを妨げようとしたこと、死んで地獄で償いなさい!」
 加賀は『両断剣』を使用しながら『鬼蛍』を振り上げて、鳥型キメラに攻撃を行う。鳥型キメラは上空へ逃げようと翼を動かすが『影撃ち』と『強弾撃』を使用しながら『スナイパーライフル』で攻撃を行う小鳥遊によって、上空に逃げる事は出来なかった。
「もうその顔も見飽きたわ。さっさとみんなの攻撃の餌食になって頂戴」
 小鳥遊の攻撃が終わると同時に黒川が鳥型キメラのところまで走り『メタルナックル』を振り上げて鳥型キメラに攻撃を行う。
「逃がしゃしねぇぞ、この野郎‥‥!」
 飛ばせないように翼を狙って攻撃を行いながら黒川が呟く。普段は冷静な黒川がここまで変わるとなると、霊園に攻撃を仕掛けてきたキメラに対する怒りなのだろうか。
「自由の翼は‥‥あなたが持つべきではなかったのよ」
 ナレインが悲しそうに呟き、鳥型キメラにかかと落としを仕掛け、動きを封じた後、再び能力者達の総攻撃を受けて、鳥型キメラは大きな物音と共に倒れたのだった‥‥。


〜鳥型キメラが倒され、静けさを取り戻した霊園〜

「まったく‥‥バグアときたら礼儀も何もあったもんじゃないね?」
 通信機にて『キメラを退治した』という知らせを受けた後、霊園の入り口にて待っていた櫻杜が小さく呟く。
 A班とB班の能力者達が入り口まで鳥型キメラが来ないように引き付けていてくれたおかげで、入り口までキメラが来る事はなく、管理人の中年男性とマリに被害が来る事はなかった。
「あ、帰ってきたみたいですね」
 玖堂が呟き、マリも俯いていた顔をあげると翡焔と目が合う。彼女は笑顔で右手の親指を立ててグッドサインを見せた。
「みんな‥‥ありがとう」
 マリは頭を深く下げて、霊園を守ってくれた能力者達に礼を言う。
「まったく‥‥理由が理由だから仕方ないけど‥‥一人で行っちゃうと怖いんだから」
 ナレインがマリに抱きつきながら呟き「んっ」と痛みに表情を歪めた。何事かとマリが腕を見ると、大きな傷ではないが血がぽたぽたと流れていた。
「ちょっと腕‥‥ドジっちゃったかな」
 苦笑しながら答えるナレインに「ごめんね、本当にごめん」とマリが申し訳なさそうに言葉を返してくる。
「あー‥‥すまないな、墓参りと考えていたんだが急ぎだったもんで何も‥‥」
 持ってきていない、と呟きかけて黒川は『ジーザリオ』の中に『ウォッカ』があったのを思い出す。
「‥‥兄さん、酒が飲める奴だったか?」
 黒川の問いにマリは首を縦に振りながら「うん、私と違ってお酒には強かったから」と言葉を返す。
「マリさん‥‥走り出す前に少しだけ考えてね。あたしはマリさんの為なら何を置いてもすぐに駆けつけるから、少しだけあたし達を待って頂戴」
 小鳥遊が少しだけ説教モードに入りながらマリに話しかけると「ごめん、なさい」とうな垂れながら言葉を返した。
「これでお兄はんも安心したでしょうし、そろそろ帰りましょうか? クイーンズの編集室に、おはぎを用意して置いてますし‥‥♪」
 櫻杜の言葉に「うん、お兄ちゃんのお墓参りが済んだら帰ろう」とマリは少しだけ笑って答えた。
「ほら、これやるから、早く済ませて来いよ?」
 神無月が小菊の花束をマリに渡しながら呟く。
「ゴッドは来ないの?」
 マリが首を傾げながら呟くと「あ〜、俺は遠慮しておくから、外で待ってる」と神無月は苦笑しながら答えた。
(「墓場‥‥昔のアレ=血まみれの死体の山を思い出して‥‥な」)
 神無月は心の中で呟きながら外の高速艇へと向かい始めた。
「私も席をはずしますね、土浦さんと付き合いのない私が同席するのは無粋でしょうから‥‥被害調査などをしておきますから、皆さんで行ってきてください」
 加賀も苦笑しながら能力者達に向かって呟き、能力者達はマリの兄・草太の墓へと向かい始めた。


〜彼が、死後も望むことは〜

「ここがお兄ちゃんのお墓」
 マリが冷たく聳える墓石を見つめながら寂しそうに呟く。黒川は持ってきた『ウォッカ』を備え、マリは神無月から受け取った花束を、そして玖堂も予め用意していた花束を供えて手を合わせる。
 そしてマリはちらりと玖堂を見て、腕を掴み「おにーちゃん、私に彼氏が出来ました」と笑顔で報告をする。
「そして、いっつも私の無茶に付き合ってくれる能力者の皆」
 紹介するようにマリが大きな声で叫ぶ。それはどこか無理をしているようにも見えて、能力者達は複雑な表情をしていた。
「お兄ちゃんが死んだ後、結構大変だったけどさ、クイーンズも知名度が上がってきたし、これは私の人徳かな。でもお兄ちゃんが目指したものはちゃ〜んと受け継いでいるから安心して天国か地獄か、何処にいるか分からないけど、ゆっくり寝てなさい」
 おしまい、マリは叫んで「えへへ」と能力者に涙混じりの笑顔を見せた。
「マリさんはあたし達でしっかりサポートしますから安心して休んでいてくださいね」
 小鳥遊も手を合わせながら小さく呟く。
「真里さんとお付き合いをさせて頂いている玖堂鷹秀と申します。妹さんが無茶な事をして心配してらっしゃるかもしれませんが恋人として支えに、能力者として盾に、出来る限りのお手伝いをして守り抜くつもりです」
 玖堂はマリの手を握り締めながら草太の墓前で挨拶をする。
「私のような者では心許ないかもしれませんが、出来れば見守ってくださいますようお願いします」
 玖堂は深々と頭を下げながら呟き、高速艇まで能力者全員で戻る。
「ああいう宣言をするんだったら、指輪でも渡した方が良かったでしょうか?」
 帰り道で呟く玖堂に「指輪? 何の?」とマリが首を傾げる。
「さぁ、何でしょうね」
 誤魔化すように笑みを浮かべながら呟く玖堂に余計『?』を頭の上にマリは浮かべる。
 そして霊園を後にする時、翡焔は来た時と同じように手を合わせてから高速艇へと乗り込む。マリも振り返りながら「またね」と呟き、能力者達は報告を行うために本部へと帰還していったのだった‥‥。


END