タイトル:variant―鬼面の女マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/27 04:23

●オープニング本文


女は狂気に走る。

まるで彼氏に裏切られた女のように、狂気だけが彼女を突き動かす全て‥‥。

※※※

それは夜に一人で歩いていると現れるという、まるで怪談話のようなキメラだった。

腰までに伸びた長い黒髪、手には出刃包丁のようなものを持って道行く人を襲うのだという。

「死人こそ出ていないけど、重軽傷者が8名で――いずれも男性みたいね」

女性能力者はため息混じりに資料を見ながら呟く。

「は――男に恨みでもあるキメラだっての? 意味わかんねぇ」

男性能力者が苦笑しながら呟くと「さぁ、そういうのは作ったバグアに言いなさい」と女性能力者は言葉を返した。

「でも侮れないかもしれないわ」

女性能力者は資料のある文に目を留めて小さく呟き、男性能力者は下を向いていた視線を女性能力者に向ける。

「その女性型キメラの武器は包丁だけではなく、髪も触手のようにして攻撃を仕掛けてくるらしいの。メインは包丁みたいだから、髪の殺傷能力自体は低いものなんでしょうけど」

女性能力者は呟くと「ふぅん、誰が倒すんだろうな」と男性能力者は言葉を返したのだった。

●参加者一覧

高村・綺羅(ga2052
18歳・♀・GP
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
神無月 るな(ga9580
16歳・♀・SN
桐生 水面(gb0679
16歳・♀・AA
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA

●リプレイ本文

〜男に恨みを持つ? キメラを倒す能力者達〜

「‥‥今度の敵は普通にいそうなキメラなんだけど。情報源はオカルト雑誌かな? それとも都市伝説?」
 高村・綺羅(ga2052)が資料に目を通しながら小さく呟く。もし情報源がオカルト雑誌ならば『オカルト雑誌を読むバグア』――思わず笑いが出そうな感じだ。
「バグアの考える事って分からないね」
 本当にバグアって不思議‥‥と言葉を付け足しながら高村が呟くと「やれやれ」と飯島 修司(ga7951)が小さく独り言のように呟く。
「バグアにも男女の機微‥‥もとい、痴情のもつれという概念が存在するんですかね? 興味深いところではありますが‥‥」
 そんなこんなは人間同士だけで結構ですよ、と飯島は言葉を付け足した。
「それにしても、バグアというのは悪趣味な事が好きなんですね」
 神無月 るな(ga9580)がため息混じりに呟く。
「ふむ、今回も鬼女ですか‥‥」
 神無月は資料を見ながら呟く。
「バグアは地球人の負の感情がお好きな様ですね‥‥」
 神無月が呟くと「どんなキメラが出てきても全部倒せばええんや」と桐生 水面(gb0679)が言葉を返す。
「しっかし、何の恨みがあって男ばっかり襲うんやろね?」
 桐生の言葉に「確かに‥‥襲われているのは男性ばかりですね」とシン・ブラウ・シュッツ(gb2155)が資料を見ながら言葉を返した。
 今回の鬼女キメラに襲われたのは八名で、いずれもが男性である。まるで鬼女キメラが『男に恨み』でも持つかのように。
「女の辻斬り‥‥しかも鬼面か。ゾッとしねぇ話だが、見過ごすわけにはいかないな」
 ディッツァー・ライ(gb2224)が呟くと「ディッツ」とシンがディッツァーを呼ぶ。
「何だ?」
「もしこの任務で死んだら故郷には『女に刺されて死んだ』と伝えますからね」
 シンは穏やかな笑顔で呟く。確かに女性型キメラなのだから間違いではないだろうが、事情を知らない人が聞けば、ディッツァーはどんな酷いことをした男なんだ‥‥と軽く誤解されそうな言い方である。
 シンの言葉を聞いて『ぜってぇ、俺死なねぇ』とディッツァーは硬く心に誓った。
「死者はいないけれど、重軽傷者が八名も出ていますから気をつけないといけないですね」
 白雪(gb2228)が呟く。襲われたのはいずれも一般人だが、だからと言って能力者達が油断していいという事にはならない。人を傷つけている以上、凶悪なキメラには違いないのだから。
「ふむ、湿気は嫌いだが、雨に濡れるのもたまにはいいもんだな」
 雨具をしないで外に出ていたせいか、翡焔・東雲(gb2615)が濡れた髪をかきあげながら呟く。
 その後、能力者達は作戦の確認を行った後、女性型キメラが現れる場所へと向かい始めたのだった‥‥。


〜雨の中、嘆き悲しむは鬼面キメラ〜

 ざぁざぁと降り続ける雨に能力者たちはため息を漏らした。
 今回の能力者達は迅速に任務を行うために班を二つに分けて行動するという作戦を立てていた。
 A班・ディッツァー、神無月、桐生、白雪の四人。
 B班・飯島、シン、翡焔、高村の四人。
 そして両班共に囮役を一人出している。A班ではディッツァー、B班では飯島で、鬼面キメラから襲われる為に一般人の振りをして行動をする事になる。
「一応、囮の時には帰路を急ぐオッサンを演じます。演じなくてもオッサンだろというツッコミは無しの方向で‥‥」
 誰かからツッコミを受ける前に飯島が先に言う。恐らく言わなければ誰も思わない事だろうに、言ってしまったから気になり始める。
 飯島はトレンチコートを着て、傘を差し、大きめのナップザックを用意している。コートで防具を、傘でヘルムを、ナップザックで『ロエティシア』を隠している。雨の中で視界が悪いために多少隠せば鬼面キメラに気づかれる事はないだろう。
「‥‥どうだ、俺なりに女に恨まれそうな男を演出してみた」
 ディッツァーが呟き、能力者達が彼を見る。そしてぎょっとする。女に恨まれる男=チャラ男という方程式が出来ているのだろうが、ディッツァーはジャラジャラとアクセサリーをつけている。
「‥‥ディッツ、それはちょっと‥‥」
 シンが苦笑しながら呟くと「何処か可笑しいか?」とディッツァーは言葉を返す。何処が――というよりディッツァーが基本的に誤解している所から話し始めないといけないのでシンは放っておくことにした。
「それじゃ、早くキメラを倒せるように頑張ろう」
 高村が呟き、能力者達は鬼面キメラを倒すために行動を開始し始めたのだった‥‥。

※A班※
「雨‥‥ね。雨の日は嫌い‥‥嫌な事を思い出すから‥‥」
 雨の中、手のひらを空にかざしながら白雪が小さく呟いた。正確には白雪ではなく、覚醒を行っている為に現れた白雪の姉の人格なのだが‥‥。
「それじゃあ、囮に行ってくるぜ」
 ディッツァーが呟き、鬼面キメラをおびき出すために一人で歩いていこうとする。それを白雪が「ちょっと待って」と呼び止めた。
「安心しなさい。私達が必ず守ってあげるから」
 白雪が微笑みながら呟くと「頼りにしてるぜ」とディッツァーが言葉を返し、囮に向かったのだった。
 ざぁざぁと降る雨が寒さを呼び、ディッツァーは少し体を震わせた。雨のせいで視界も悪い。おまけに雨の音で鬼面キメラが何か物音をたてても気づかないかもしれない。
 いざという時は桐生が使用している『探査の眼』で見つけられるだろうが、ディッツァーも気を抜ける状況ではない。
「さて――現れたか」
 ディッツァーは小さく前を見て呟く。般若のような顔をした女性がこつ、こつとパンプスの音をたてて此方へ向かってくる。雨の音で聞こえないはずなのに、何故かパンプスの音はよく聞こえていた。
 最初に鬼面キメラが仕掛けてきたのは手に持った包丁での攻撃だった。ディッツァーは「‥‥俺は爺さんに柔道も習ったんだ!」と言って背負い投げで鬼面キメラを投げ飛ばした。
「だが、一ヶ月で挫折した!」
 ディッツァーは大きな声で主張する。ちなみに言わなければもっとカッコイイシーンだったに違いない。神無月が戦闘開始の場面を見て『ショットガン20』を構えて攻撃を仕掛けようとしたのだが、鬼面キメラは集まった三人の能力者を見て、逃げる為に包丁を投げつけてくる。
 ちなみに鬼面キメラの包丁は予備があったらしく、着ていたコートの中から同じものを取り出し、A班の前から逃げ出したのだった‥‥。
「なんや、けったいなキメラやなぁ‥‥って感心しとる場合とちゃうわ。急いで追いかけないと」
 桐生がハッと我に返ったように叫び、鬼面キメラが逃げた方向へとA班は向かう。そして向かう途中で神無月が『トランシーバー』でB班へと連絡を入れたのだった。

※B班※
「A班は鬼面キメラと遭遇したみたいですが、逃走されてしまったみたいですね。さしずめディッツは女に逃げられたという所でしょうか」
 シンが苦笑しながら呟く。
「それじゃあ、私の出番だな。上手くおびき出されてくれるといいのだが‥‥」
 飯島は呟くと『雨の中、帰路を急ぐオッサン』を演じ始めたのだった。幸いにも彼が覚醒しても目立つような特徴はない。
 だから鬼面キメラに『能力者』だと悟られる事もないのだ。
(「襲われた時はどうしますかね、隠し持った『ゲイルナイフ』で攻撃してみますか‥‥」)
 飯島は鬼面キメラに襲われた時の事を考えながら少し足早に歩く。暫く歩き続けていると、前方から息を切らした長い髪の女性が歩いてくるのが見える。髪を振り乱し、飯島を見つけるとニタリと気味の悪い笑みを浮かべて、髪の毛で攻撃を行ってくる。
 流石に髪の毛で動きを止められたら、持っている包丁でぶすりと来るだろうと予想した飯島は『ゲイルナイフ』で髪の毛を切りながら後ろへと下がる。
 そして鬼面キメラが食いついてきた事を知ったB班の能力者達は、A班へと連絡を入れた後に戦闘を開始し始めた。


〜戦闘開始、鬼面キメラの嘆きを解き放て〜

 A班がB班のいる地点までやってきた時には、既に激しい戦闘が行われていた。鬼面キメラを取り囲むようにB班は陣形を作り、鬼面キメラの髪の毛攻撃が翡焔へ向かっていったが、彼女は『刀』で髪の毛を受け止めて『蛇剋』で『流し斬り』を使用して髪の毛を切り落とした。
「バグアの野郎‥‥どういうつもりでこんなキメラを作ったのか知らないが、人の想いを弄ぶなんて許せない。それが哀しみだろうと憎悪だろうと‥‥その想いごと昇華させてやらぁっ!」
 翡焔は叫びながら『蛇剋』で『急所突き』を使用しながら鬼面キメラへと攻撃を行った。
 しかし、鬼面キメラも怯まず合流したA班の能力者、白雪に向けて髪の毛攻撃を行う。しかし白雪は『流し斬り』を使用して鬼面キメラの側面を攻撃するという動作を三回ほど繰り返した。
「さぁ、反撃の時間だ」
 シンが短く呟き『エネルギーガン』を構えて『二連射』を連続で使用する。しかし途中で髪の毛攻撃がシンへと向かうが、彼のフォローを行う役目を受けていた高村が『エネルギーガン』で髪の毛を落とす。
 囲まれて、自分が不利という状況を把握したのだろう、鬼面キメラは逃げる為に一歩だけ後退するが『瞬天速』を使用して高村が距離を詰めて『アーミーナイフ』で攻撃を行う。攻撃を行った後は射撃の邪魔にならないように再び後ろへと下がる。
 鬼面キメラが勢いをつけて髪の毛攻撃を行うために重心を後ろへと向けた時、飯島が『先手必勝』と『疾風脚』を使用して鬼面キメラの背後へと廻って、重心を崩して転ばせる。雨のせいで滑りやすくなっていたのか、鬼面キメラは派手に転んで見せた。
「そのような偽者の狂気では、何者にも届きますまい」
 飯島が呟いた後で『ロエティシア』で攻撃を行う。
「あははっ、油断大敵ですわ!」
 神無月がけたたましく笑い、鬼面キメラの至近距離から包丁を持つ手を『影撃ち』を使用して攻撃する。鬼面キメラが痛みに叫びだした時にもう一度『影撃ち』を使用して一気に追い込む。
 そして、一歩だけ後ろに下がって『ショットガン20』を構えて『強弾撃』を使用しながら攻撃を行った。
「髪を伸ばして襲ったり、包丁持って襲ったり‥‥本当にホラーやね」
 桐生はため息を漏らしながら『拳銃』で一発撃ちぬいた後に『イアリス』で攻撃を行う。
「何の恨みか知らないが、お門違いだ、斬られる痛みを精々味わえ!」
 ディッツァーが攻撃を行う前にシンが『エネルギーガン』にて攻撃を行い、鬼面キメラに一瞬の隙を作る。ディッツァーはその隙を見逃さずに『先手必勝』と『流し斬り』を使用して鬼面キメラの腹を攻撃する。
「その隙、もらったぁっ! 胴ォォォッ!」
 ディッツァーの攻撃を受けて、地面に転んだ鬼面キメラを見て白雪が冷たく「惨めね」と呟く。
「何よりも惨めな貴方は、無様に骸を散らしなさい」
 白雪が冷たく呟き『流し斬り』と『両断剣』を使用して鬼面キメラの胴体を斬り落とした。
「八葉流七の型‥‥六花血招」
 胴体を斬られた鬼面キメラは能力者達に手を伸ばしながら苦しげに息をつき、悲惨な姿になっても能力者達に髪の毛で攻撃を仕掛けた‥‥が高村によって髪は切り落とされ、鬼面キメラはそのまま絶命していったのだった‥‥。


〜鬼面キメラを倒した能力者達〜

「無事に済んでよかったわね」
 鬼面キメラを倒した後、白雪がディッツァーに話しかける。
「まぁ、精々どこかの幼馴染に刺されないように気をつけなさいよ」
 白雪が言葉を付け足して不敵に笑って呟く。
「‥‥気をつけるよ。とりあえず決着が着いてよかった‥‥しかし、何故男ばかり狙ったんだろうな?」
 ディッツァーは首を傾げながら呟くが、鬼面キメラが倒された今となっては答えの分からない問いだった。もしかしたら『男ばかりを狙った』のではなく『たまたま男しか通りかからなかった』という事もあるかもしれない。
「‥‥このキメラには何か恨みでもあったのでしょうか? いや、このキメラを作ったバグアには、でしょうか?」
 シンが呟く。もし彼の言う通りで『バグアに恨みがあった』のならばなんと言うはた迷惑な事なのだろうか。
「とりあえず、皆冷えてしもたやろ? 水筒に暖かいお茶を入れて持ってきてるから、冷えたと思う人は飲んでや」
 桐生が『水筒』を取り出しながら、今回の任務を行った能力者達に話しかける。雨の中の任務で身体が冷えたという人は多く、彼女が持ってきた『水筒』の中身はすぐになくなってしまった。
「バグア‥‥人の想いを踏み躙るだなんて許せません!」
 神無月が物言わぬ遺体となった鬼面キメラを見ながら呟く。
「‥‥任務完了」
 高村が小さく呟き、能力者達は本部に向かい始める。雨に濡れた姿のままでは風邪を引くだろうと能力者達は考え、髪の毛などを乾かしてから報告の為に本部へと赴いたのだった‥‥。

 もう、雨の中を彷徨う哀しき狂気のキメラは存在しない。
 能力者達の手によって、解放されたのだから‥‥。


END