タイトル:遠い夢と私の思いマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/23 02:48

●オープニング本文


こんな時代じゃなければ‥‥。

私は‥‥自分の夢を叶えられただろうか‥‥。

※※※

「何でこんな時に生まれちゃったのかな‥‥ねぇ?」

私・サリナは自分の腕の中で安らかに眠る生まれて間もない赤子に話しかける。

いつ死んでしまうかも分からない今の時代に結婚をして、赤ちゃんを産むという事には抵抗があった。

しかも夫となった男性は能力者で、傭兵としてたびたびキメラ退治へ出かけては怪我をして帰って来る。

そんな中で私も夫も子供も幸せになれるのだろうか、何度も自分に問いかけては答えの出ない質問に私は疲れきっていた。

「‥‥あなたもバグアとかキメラとかいない時代に生まれていれば――幸せだったのにね」

すやすやと眠る赤子に呟き、遠い日に忘れたはずの夢が思い出される。

学生だった頃に憧れていた夢、いつか叶うと信じていた夢――‥‥。

「嫌だな、何か今日は嫌な感じ‥‥何でこんな事を思い出すんだろう‥‥」

赤子をベビーベッドに寝かせて、リビングでテレビでも見ようとリモコンに手を伸ばした時、電話が鳴り響く。

「何だろう‥‥母さんかな」

電話に出て「もしもし」と電話向こうの相手に言葉を投げかけると「大変よ、旦那さんが!」と夫の友人で彼を同じ能力者でもある女性能力者が慌てたように話しかけてきた。

「どうしたの? そんなに慌てて――――――え‥‥?」

彼女の言葉を聞いた瞬間、手から電話が滑り落ち、目の前が真っ白になった。


『大変よ、旦那さんが怪我をして行方不明に――』

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
木花咲耶(ga5139
24歳・♀・FT
佐竹 つばき(ga7830
20歳・♀・ER
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
鷹代 アヤ(gb3437
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

〜奥さんと子供のために‥‥〜

 今回の能力者達に課せられた任務は、キメラ退治の他に男性能力者を救助するというものも内容に入っていた。
「ともかく、一刻も早くその能力者を見つけて、保護しなくてはいかんな。子供が生まれたばかりという幸せな時間を長続きさせてやるのも、同じ傭兵仲間としては当然の為すべき事だしな」
 榊兵衛(ga0388)が真剣な面持ちで呟く。
「そうですわね。サリナさんの為にも、そして生まれたばかりの赤ちゃんの為にも必ず連れ帰って差し上げなくてはなりませんわね」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)が榊の言葉に応えるように呟く。愛する者を持つ一人の女性として、クラリッサは自分とサリナを重ねる部分があったのだろう。
「これからの家族を欠けさせないようにしないとね‥‥」
 緋室 神音(ga3576)が小さく呟く。
「そうですわ。一刻も早く男性を救出して奥様を安心させてあげたいですわ」
 それに、と木花咲耶(ga5139)が言葉を付け足しながら呟く。もしもサリナの夫である男性能力者に万が一の事があったら、サリナは状況の悪さ全てを傭兵に向けてくるかもしれない――と考えていた。
「あの‥‥どうか、宜しくお願いします」
 出発直前で能力者達の所へサリナが眠る子供を抱いてやってきて、丁寧に頭を下げてくる。
「こんにちはのふんどしーちょです!」
 鳳 つばき(ga7830)がにっこりと笑顔でサリナに挨拶をする――のだが『ふんどしーちょ』という言葉を知らないのかサリナは首を傾げながら珍しいものでも見るかのような視線を鳳に向けた。
「‥‥挨拶ですよ。ごく一部で流行してる」
 鳳の言葉に「はぁ、そうなんですか‥‥」とサリナは言葉を返す。結構ふざけているように見えるかもしれないが鳳は真面目にサリナの力になりたいと考えていた。何故なら鳳も女性で、サリナの悩みは将来の自分の悩みかもしれないと思っていたからだ。
「とにかく、必ず連れて戻ってきますからしばしお待ちを!」
 鳳が叫ぶようにサリナに向けて言葉を投げかけると「宜しくお願いします」とサリナは頭を深く下げて言葉を返した。
「あたしはこれが初任務、なのですが‥‥あまり時間も無い様子、急ぎましょう」
 田中 アヤ(gb3437)が呟き、能力者達は男性能力者を救出、そしてキメラを退治に本部から出発していったのだった。


〜能力者救助、そしてキメラ退治を行うために〜

「最初は全員で行動――で良かったんだよね?」
 アズメリア・カンス(ga8233)が確かめるように問いかけると漸 王零(ga2930)が「あぁ、ラジカセを設置した後に班行動だな」と言葉を返した。
 今回の能力者達は負傷した男性能力者を救出するために、森の中をある程度まで進んだら二つの班に分けて行動をする事に決めていた。
 A班・榊、アズメリア、クラリッサ、木花の四人。
 B班・漸、緋室、鳳、田中の四人。
 まず、班行動をする前に森の中にタイマー式ラジカセを設置しない事には作戦は次へと進まない。ラジカセを大音量で流す事によって、森の中に潜むキメラの意識を一時的にでも引き付けて、その後に班行動を行って男性能力者を探すというものだ。
 もし、全員で探している時に男性能力者を見つけられればよし、そうでなくても二班で行動すれば見つける確率は上がる事だろう。
「‥‥それにしても、能力者どころかキメラの気配すらも感じないわね」
 緋室が森の中を見渡しながら呟く。他の能力者も周りを見るが確かに気配は感じられない。
「ところで‥‥この臭いは何でしょう」
 木花が鼻を押さえながら呟く。彼女が言うのも無理はない。森の至る所から腐臭がして、鼻を押さえずにはいられないほどの臭いなのだから。
「‥‥コレ、だろうね。臭いの元は」
 アズメリアが少し先まで歩き、臭いの元となるものを知らせる。それは『何か』に食い散らかされたように無残な姿で倒れている動物だった。恐らくは森の中に住んでいる動物だったのだろうが『何か』――つまりキメラに見つかって食い散らされたのだ。
「‥‥酷い‥‥」
 田中は動物の無残な姿を見て、眉間に皺を寄せて辛そうな表情を見せながら小さく呟いた。
「早く男性を救助した後、森に平和を取り戻す為にもキメラを倒しましょう」
 クラリッサが呟くと「そうだな、そろそろラジカセを設置してもいいんじゃないか?」と榊がクラリッサに言葉を返した後に、ラジカセの事を持ち出す。
 すると鳳が予め用意してきた目覚まし機能のついた少し大きめのラジカセを袋の中から取り出す。そのラジカセの中には戦争映画などで使われていた砲撃や銃撃シーンが録音されたテープがセットされていた。
 そしてタイマーをセットして、能力者達は二つの班で行動を開始したのだった。

※A班※
「さて、一言に森を捜索とは言っても‥‥範囲が広すぎるな」
 榊が森の中を見渡しながら呟くと「大変でも‥‥探さないと‥‥」と木花が小さく呟く。
「時間をかけた分だけ危なくなっていくから、早めに救出したい所ね」
 アズメリアも小さく呟く。確かに彼女の言う通り、時間が過ぎれば過ぎていくほど男性能力者は危険な状態へと陥っていく事になる。軽症ならば心配が無いかもしれないが、残念ながら捜索の任務を行っている能力者達は、男性能力者が『どの程度の怪我』なのかを知る事が出来ない。
「ヒョウエ、急ぎましょう」
 クラリッサが呟いた時だった。狐型のキメラがA班の能力者たちを見ながら唸っている姿が視界に入ってきたのだ。
「くっ‥‥」
 狐型キメラは勢いよく能力者達に襲いかかるが、アズメリアが『月詠』で狐型キメラの爪を受け止めて、狐型キメラを弾き飛ばすようにアズメリアは『月詠』を振る。
「ラジカセ、効果はあったみたいですけど――そのままその場所に滞在はしてくれなかったようですね」
 木花も名刀『国士無双』を手に取りながら、小さく呟く。
「でも――キメラがこちらにいるのでしたら、B班は男性の捜索に集中できますわね」
 クラリッサも『エネルギーガン』を構えながら呟く。先ほど、狐型キメラがアズメリアに攻撃を仕掛けた時に木花はB班へ『トランシーバー』で連絡を入れていたため、B班は男性救助をメインに動く事になった。
「とりあえず、お前は俺たちと遊んでいてもらおうか」
 榊が『カデンサ』を構え、呟くと他の能力者と共に陽動攻撃を開始したのだった。

※B班※
「ふむ、向こうがキメラを引き付けてくれるから此方は救助に専念できそうだな」
 漸が呟くと「敵が複数の可能性もあるから、気は抜けないけれどね」と緋室が言葉を返す。もちろん漸も敵が複数いるかもしれないという事は頭の中にあった。
「あれ‥‥これ、もしかして血の跡じゃないですか?」
 鳳が指差したのは、誰かが落としたものであろう携帯電話。その携帯電話には赤黒く変色した血がべっとりと付着していた。
「これは‥‥確かに血の跡ですね。あと――‥‥バッグ、ですね」
 田中は携帯電話が落ちていた付近に無造作に投げられているバッグを見つけて、能力者達の所へと持っていく。中には『エマージェンシーキット』や『救急セット』などが入っており、予想だが行方不明になった男性能力者が所持していたバッグと伺える。恐らくこの場所でキメラに襲われたのだろう。逃げる時にでもバッグを投げつけたのか、中身が色々と近くに散乱していた。救急セットなどまで投げつけるとは、余程切羽詰った状況にあったのだろう。
 そして、それは同時に男性能力者が傷を治療するものを持っていない事を決定付かせた。
「急いで、探さないと重傷だったら――」
 鳳が呟くと同時に、何かに躓いてしまう。何だろうと鳳が足元に視線を置くと靴が片方泥まみれになって落ちている。
「‥‥片方?」
 もう片方は、と周りを見渡してみるが近くには見当たらない。そして‥‥「うぅ」と呻く人のような声に気づき、少し斜めになった地面の下を見る。
 すると、足を滑らせたのだろうか。下には探していた男性能力者が倒れていた。四人の能力者達は慌てて男性能力者へと駆け寄る。足と腹部に怪我をしていて、足の方は少し傷が深いが、腹部の方は大した傷でもなく、とりあえず命に別状が無いことを知ると能力者達は安堵のため息を漏らした。
「大丈夫ですか? これを飲んでください」
 鳳が『ミネラルウォーター』を男性能力者に差出し、彼が受け取ると『練成治療』で腹部の治療を行う。
「もう大丈夫! 助けに来ましたよ」
 田中が男性能力者に話しかけると「‥‥迷惑、かけたな。すまない」と弱々しい声で言葉を返してきた。
「さて、一つの任務は終わったわ。もう一つの任務を果たしに行きましょうか」
 緋室が呟き、B班はA班と合流するために動き出したのだった‥‥。


〜戦闘開始! 能力者VS狐型キメラ〜

 B班が男性能力者を救助して、狐型キメラを引き付けていたA班と合流をする。流石に麓まで男性能力者を送る時間がなく、戦闘場所へ連れてくる形になったのだが、攻撃を受けないようにそれなりに距離を置いている。前の方でキメラと派手に戦闘を行えば、後ろにいる男性能力者の所まで行く事はないだろう。
「闇よ。我が意に従い我が求める形を成せ‥‥形成『狂王の仮面』」
 漸が呟きながら覚醒を行う。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
 緋室は覚醒を行いながら『月詠』を構え「夢幻の如く、血桜と散れ――剣技・桜花幻影(ミラージュブレイド)」と呟きながら攻撃を行った。
「貴様をこれ以上野放しにしておくわけにはいかないのでな。ここで消えてもらう事にしようか」
 榊が『カデンサ』を振り上げながら呟き、狐型キメラに攻撃を仕掛ける。狐型キメラは狐火で反撃を仕掛けるが、榊はそれを難なく避ける。
「残されたサリナさんとお子さんの為にも、あの人は生きて帰る義務があるんです。それを――邪魔させるわけには行きません」
 クラリッサは『練成弱体』を狐型キメラに使用しながら呟く。その後に『エネルギーガン』で狐型キメラを攻撃する。クラリッサの攻撃によって、少しだけ怯んだ狐型キメラに榊が近寄り『流し斬り』で攻撃を行う。
 さらに緋室が狐型キメラとの距離を詰めて『紅蓮衝撃』と『二段撃』を使用して狐型キメラに攻撃を仕掛けた。
 狐型キメラも鋭い爪を持つ手を振り上げて緋室に攻撃を仕掛けようとしたのだが、木花が狐型キメラと緋室との間に割って入り『エアストバックラー』で爪を防御する。
「隙ありですわよ」
 木花が呟き『紅蓮衝撃』と『豪破斬撃』を使用して狐型キメラに攻撃を仕掛けた。
「私もマジカルフンドシーチョパワーで支援しま〜す☆」
 鳳が叫びながら『スパークマシンα』で狐型キメラに攻撃を行う。鳳の攻撃で僅かな隙が生じたところをアズメリアが見逃さず『ソニックブーム』で攻撃を仕掛けて『流し斬り』で狐型キメラに斬りかかる。
「これ以上好き勝手させはしないわよ」
 呟きながら、アズメリアは後ろへと下がっていく。
「援護します!」
 アズメリアの攻撃が終わると田中が『フォルトゥナ・マヨールー』で狐型キメラに攻撃を行い、接近能力者達の支援を行った。彼女の射撃の後にアズメリアが再び狐型キメラへと近寄って『流し斬り』で再び攻撃を行う。
 そしてアズメリアに続くように榊も『急所突き』で狐型キメラに攻撃を仕掛けた。敵は一匹、此方は八人――連携さえ上手く取れれば一匹のキメラに攻撃を受ける事も無いのだ。
「全て我が貰いうける」
 漸が短く呟き『ペイント弾』を狐型キメラの顔面へと撃ち込む。狐型キメラは『ペイント弾』を撃ち込まれたせいで視覚を奪われ、漸は『ショットガン20』を構え、ゼロ距離からの射撃を行い、続いて名刀『国士無双』に武器を持ち替え、田中が『フォルトゥナ・マヨールー』で攻撃を行った後に漸が刀を振り上げる。
「流派奥義『無明』‥‥我に断てぬモノなし!」
 漸が叫び、名刀『国士無双』を振り下ろしたところで狐型キメラを倒す事が出来たのだった。
「万魂浄葬刃軌導闇‥‥我に業を奪われし無垢なる魂よ‥‥その穢れた躯を捨て迷わず聖闇へと還れ‥‥」


〜任務成功、無事に救助された男性能力者〜

 能力者達は狐型キメラを退治した後、本部へと帰還した。本部には能力者を、そして自分の最愛の夫を待つサリナの姿があった。
「今回はありがとう‥‥本当に助かった‥‥」
 治療を受けたことで全快とまでは行かないものの、男性能力者は心からの礼をいいながら、頭を深く下げた。
「戦場に立つ以上、覚悟しなくてはいけないんだろうが、現実という奴は難しいな」
 榊の言葉に男性能力者は「全くだ」と言葉を返し「俺は死なない。こいつらを残して死ねない」と言葉を付けたしたのだった。
「ささやかな家族の幸せを守る為にも、もっとわたくし達も頑張らなくてはいけませんわね。ヒョウエ」
 クラリッサが榊に話しかけると「そうだな、もっと頑張らなくちゃいけないな」と言葉を返した。
「あなたも強く、優しく、ついでに褌の似合う子になってくださいね」
 鳳が赤ちゃんに呟くと「「それは嫌」」と両親から即答で言葉が返ってきた。
「あたしも初依頼が成功してよかったし、サリナさんも旦那さんが帰ってきて本当に良かったですね」
 田中がにこっと笑いながら話しかけ「‥‥本当にありがとう」とサリナは微笑しながら礼を言う。
「もう今の時代が、なんて言葉は言わない。今の時代だからこそ必死に生き抜いてみせる。この人と、この子と三人で‥‥」
 サリナは呟き、報告へと向かう能力者達を見送り、能力者達は任務を終えたのだった。


END