●リプレイ本文
〜庭園を救う為に集まった能力者達〜
「憩いの場、庭園を汚すなんて許せない‥‥」
事件を知ったナレイン・フェルド(
ga0506)が資料の他に、もう一枚の紙を見ながら小さく呟く。ナレインが持っている紙、それは庭園の広告であり、広告に載っている庭園には色とりどりの花が咲き誇っていた。
「まったく‥‥連中は何がしたいのであろうな?」
赫月(
ga3917)が怒り半分、呆れ半分の口調で小さくため息混じりに呟いた。
「ホントだよ、数少ないであろう癒しの場を奪うなんて‥‥絶対に許せないよね」
近伊 蒔(
ga3161)がやや怒りの混じった表情で呟く。
「はい‥‥皆の心の安らぎを壊す‥‥そンなの許せない‥‥」
聖・綾乃(
ga7770)が拳を強く握り締めながら近伊に言葉を返した。
「えと‥‥出来るだけ庭園を荒らさないように、キメラを退治しなくてはいけませんね」
アンジュ・アルベール(
ga8834)が呟くと「庭園を汚すキメラ‥‥一刻も早く倒しましょう」とキド・レンカ(
ga8863)が言葉を返すように呟く。
「今回は花、全部無くなる前に間に合う?」
銀龍(
ga9950)が小さく呟く。彼女は以前の仕事で花園に行った経験があり、彼女たち能力者が到着した時には既に花園が荒らされた後――という事があったのだ。その時の記憶がある為に口から出た言葉なのだろう。
「綺麗なお花畑ですね。今度は、お仕事以外で行きたいです」
ティル・エーメスト(
gb0476)がナレインの持つ広告を見ながら微笑みながら呟く。
「それでは、庭園を守る為にも急ぎましょうか」
ナレインが呟き、能力者達はキメラが暴れまわっているであろう庭園へと急いで向かい始めたのだった‥‥。
〜荒らされた庭園・でも‥‥まだ手遅れじゃない〜
「‥‥酷い、この場所好きだったのに‥‥」
目的の庭園へと到着すると、避難している女性が瞳に涙を浮かべながら呟いている姿が能力者達の視界に入った。よく見れば、他にも家族連れのような人やカップルで来ているような人達がちらほらと見える。
「酷いわ‥‥花が与える癒しを求めて来ている人に、あんな表情をさせるなんて‥‥」
ナレインが居た堪れない表情を浮かべながら呟く。
「そういえば庭園の見取り図とかは無いのでしょうか? 庭園を守る為にも広い場所で戦わなければなりませんし」
アンジュが呟くと「能力者の方達ですか?」と庭園のスタッフらしき男性が話しかけてきた。
「銀龍たち、キメラ倒しに来た」
銀龍が応えると「やっぱり、どうかお願いです。早くキメラを倒してください」と男性は困ったような表情を見せながら能力者達に懇願する。
「あぁ、なるべく花に被害を及ぼさないように広い場所、もしくは小道などがあるかを確認したいから見取り図を見せてくれ」
赫月が男性に向けて話しかけると「見取り図は此方です」と正面入り口近くに置かれた大きな看板を指差した。その看板にはどの花が何処にあるのかなど、庭園の中の事が全て描かれていた。
「戦いに向いた広い場所はあるけど‥‥何処も花が近くにあるから戦えないね‥‥」
聖が看板を見ながら「うぅん、どうしよう」と言葉を付け足して呟く。
「広い場所が駄目となると‥‥この周りにある小道で戦うしかない、みたいですね」
キドがしどろもどろに呟くと「やっぱりそうなりますね」とティルが言葉を返す。庭園の中には円を描くように二重に道が作ってあり、外側の小道で戦えば、多少なりとも花への被害を防げるだろうと能力者達は考えていた。
そして、能力者達は『牽制班』と『攻撃班』の二つに班を分けて行動する事にしていた。
牽制班としてはティルとナレインの二人が動き『探査の眼』を使用出来るティルが牽制班に在籍する事でキメラをより早く見つける事が出来て、尚且つ不意打ちなどを警戒する事も出来るのだ。
それと攻撃班としては近伊、赫月、聖、銀龍、キド、アンジュの六名がおり、牽制班、攻撃班、共にすぐに合流できる位置を保ちながら行動を開始する事になる。
「キメラは先ほどまであっちの方で暴れていました‥‥どうか、宜しくお願いします」
男性は少し先を指差しながら呟き、丁寧に頭を下げて戦いに赴く能力者達を見送ったのだった。
入り口から庭園内に入ると、中はさまざまな花が咲き乱れていたが、キメラが暴れたのだろう、一部の花はぐしゃぐしゃに踏み潰されて哀れな姿をしていた。
「花‥‥ぐしゃぐしゃ‥‥」
銀龍が少しだけ残念そうな表情を見せながら小さく呟く。
「で、でも‥‥まだ全てが終わりではありません‥‥まだ無事な花も沢山あります‥‥頑張りましょう‥‥」
キドが呟くと「そうですね」とアンジュが言葉を返し、それぞれの班で行動を開始したのだった。
〜庭園を荒らす犬型キメラVS庭園を守る為に戦う能力者達〜
「えと‥‥くれぐれも気をつけてくださいね? 危ない事をしては駄目ですよ?」
班で行動を開始した時にティルはアンジュに呼び止められて言葉を受ける。
「アンジュ姉様‥‥はい、アンジュ姉様もお気をつけて」
ティルは呟くと『探査の眼』を使用して周りを警戒する。
「どうしてこんな所に現れるの? 現れなければ‥‥」
踏み荒らされた花壇の前にしゃがみこんでナレインが悲しそうに呟く。例えキメラであろうと生物には違いない。その命を奪わねばならない事がナレインの心に陰りを落としているのだろう。
「‥‥それでも、私は戦わなくちゃいけない。害を成すキメラに容赦は出来ない」
それはまるで自分に言い聞かせる言葉のように、ナレインは瞳を伏せながら呟く。
「ナレイン様、どうやらキメラは二匹存在していて、共に行動しているみたいです」
ティルが『探査の眼』を使用した事によって知りえた情報をナレインに向けて呟き、その後『トランシーバー』で戦闘班の能力者にも同じことを知らせた。
この庭園に来る前に立てた作戦は、キメラが複数存在して、尚且つそれらが一緒に行動をしていた場合は牽制班が一匹をひきつけ、戦闘班が残りの一匹を先に倒す――というものだった。
「オッケー、それで行きましょう」
ナレインが首を縦に振り、二つの班はそれぞれ標的の犬型キメラへと走り出した。
※牽制班※
「せぇーのっ!」
犬型キメラの一匹にティルが抱きつくように押さえ込む。その際に犬型キメラはティルに噛み付こうとしたのだが『メタルガントレット』を装備している場所に噛み付き、ガキンと金属音が響き渡る。
ティルが犬型キメラの動きを止めた事でナレインは『瞬天速』を使用して犬型キメラとの距離を詰めて『瞬即撃』を使用して犬型キメラの後ろ足を蹴撃する。ナレインの攻撃が犬型キメラにヒットする瞬間にティルは後ろへと下がったために彼に影響は無い。
「ほら、こっちよ! あなたの相手は私!」
ナレインが犬型キメラの気をひきつける為に叫ぶ。ティルも『ゼルク』を構えながら犬型キメラの牽制に当たる。その際に犬型キメラの爪がティルを襲うが『ゼルク』を盾代わりにして、犬型キメラの足を弾く。弾いた所をナレインが『刹那の爪』を装着した靴で攻撃を行い、後ろへと下がる。
戦闘班がもう一匹の犬型キメラを倒すまではヒット&アウェイ方式で戦い、彼らが此方に来るのを待つしかない。
※戦闘班※
牽制班がもう一匹の犬型キメラをひきつけている間、戦闘班は二匹目の犬型キメラとの戦闘を開始していた。花を荒らさないように、戦っても花を踏み散らす事が無いように気をつけながら戦闘班は犬型キメラに攻撃を行う。
「絶景かな‥‥! 狗如きに荒らされたくはないものだ‥‥」
赫月が呟き『ドローム製SMG』で犬型キメラに攻撃を仕掛けた。まずは機動力を削ぐ為に彼女は足を狙って攻撃を行う。
赫月の攻撃を受けて、犬型キメラが少し怯んだ隙に聖が犬型キメラの後ろに回って『氷雨』で攻撃を仕掛け、一歩退いた後に『砂錐の爪』で足払いをするように攻撃を仕掛ける。
「この花達も‥‥お前などに踏み躙らせる程‥‥安い『命』ではない」
慈悲など一切見えない瞳で聖が呟く。
「お前達に相応しいのは‥‥茨に囲まれた‥‥這い上がる事の出来ない闇だ」
聖は足払いの時の回転を維持したまま、逆手に持った『氷雨』で脚部に追い打ちの一撃を与える。
「ここは、皆様の憩いの場、キメラの方はお引取りくださいませ」
アンジュは『二段撃』を使用しながら犬型キメラに向けて話しかける。所詮はキメラ、しかも人間の言葉など通じるはずもない犬型なのでアンジュの言葉を犬型キメラが理解しているなどは誰も思っていない。
そしてキドも攻撃を仕掛ける為に長弓『燈火』を構えるのだが、がたがたと震えてしまい狙いが定まらない。
「あ、あの‥‥ごめんなさい‥‥」
この場所に来るまで確かに持っていた『キメラを倒さなくては』という気持ちも、いざキメラを目の前にしてみると恐怖が先立つのかキドは泣きべそをかいてしまう。
そんなキドを見て、犬型キメラは彼女に襲い掛かろうとする。しかし銀龍が『呼笛』を使用して犬型キメラの気を引き『両断剣』と『流し斬り』を使用して犬型キメラに攻撃を行う。
「今回のキメラもあんまり可愛くない」
残念と呟きながら銀龍は血払いをして後ろへと下がる。
「何のために戦うか、考える」
怯えるキドに銀龍が話しかけ、キドは武器を握り締め、震える身体を押さえて立ち上がる。
「あのっ‥‥お願いです‥‥避けないで‥‥く、ください‥‥」
震える声でキドが長弓『燈火』の矢を放ち、その矢は犬型キメラの目を貫く。キドの攻撃で犬型キメラが怯んだ瞬間、近伊が犬型キメラへと向かって走りだす。
「『破壊娘』蒔ちゃん、必殺の‥‥一撃ぃーーっ!」
近伊は『蛍火』を大きく振り上げて『紅蓮衝撃』を使用しながら、大ダメージを狙って振り下ろす。彼女の狙い通りに犬型キメラへと大きなダメージを与え、六人の能力者達は犬型キメラに総攻撃を仕掛けて、一匹目のキメラを撃破したのだった。
戦闘班が一匹目のキメラを倒し、牽制班に合流して合計八名の能力者で残る犬型キメラの退治に取り掛かる。
「ほら、こっちよ!」
ナレインが犬型キメラに向けて叫び『刹那の爪』で足を攻撃して、犬型キメラの動きを一時止める。
そして近伊が『蛍火』を振り上げて攻撃を行い、赫月は花壇に銃弾が行くかもしれないと思い、武器を『ドローム製SMG』から『刀』へと変えて攻撃を行う。
「さて‥‥山篭りの成果‥‥存分に揮わせてもらう!」
赫月は『刀』を構え「使うのはもったいないが、試し斬りだ‥‥」と言葉を付け足した。
「虚弦月影流、秘奥ノ陽『咆月』――」
呟いた後に赫月は『刀』を振るって攻撃を仕掛けた。
「数少ない癒し‥‥お前達に奪う権利はない」
聖は『氷雨』を振るいながら攻撃を行い、冷たく呟く。
「そういう事ですので、どうぞお引取りを」
アンジュもにっこりと笑顔で呟き『二段撃』を使用して攻撃を行う。
そしてキドが長弓『燈火』で攻撃を行い、犬型キメラの動きが怯んだ隙に銀龍が『二段撃』を使用して攻撃を行う。
しかし、手負いの獣というものほど怖いものはなく、犬型キメラはティルへと攻撃を仕掛ける――しかしそれはアンジュの『二段撃』によって阻まれる。
「大丈夫ですか?」
アンジュが優しく問いかけると「はい」とティルも驚きに満ちた表情を笑顔に変えて言葉を返した。
結局、アンジュの『二段撃』がトドメとなり、能力者達は無事に二匹の犬型キメラを倒す事に成功したのだった。
〜守られた庭園でお茶会を〜
二匹の犬型キメラを倒したものの、庭園全てが無事というわけにはいかなかった。能力者達が少し落ち込んだ表情をしているとスタッフの男性が「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げてきた。
「でも‥‥庭園全てが守られたわけじゃないし」
近伊が呟くと「確かに散った花も幾つもありますが‥‥」と男性が呟き、俯いていた顔をあげて能力者たちを見る。
「あなたたちがいなかったら庭園全てが滅茶苦茶になっていたでしょう。だから‥‥不幸中の幸いだと思って、また花を育てなおします。花は意外と生命力があるんですから」
男性が笑顔で呟く。その後、能力者達は庭園内の直せる部分を直した後、庭園の一角を借りてお茶会をする事にした。
能力者達が持ち寄った飲みものやお菓子などを食べながら無事だった花を見て心を癒す。
「柿ピーチョコ、美味しいから食べてみてね」
ナレインおすすめの『柿ピーチョコ』を他の能力者達に笑顔で渡していく。
「無事に終えられて良かったわ」
ナレインの言葉に「本当だよ」と近伊が『紅茶』を上品に飲みながら言葉を返す――が、すぐにいつも通りに戻ってしまい、紅茶を一気に飲み干す。
「‥‥壊すのは容易いのだが‥‥直すとなると難しかったな」
赫月が直したフェンスなどを見ながら苦笑交じりに呟く。そして彼女はお茶会の茶請けとして栗きんとんを持参してきていた。
「茶会と聞いたのでな‥‥この時節にはやはり茶請けはこれに限る‥‥」
他の能力者達にも栗きんとんを勧めながら自分も食べる。
「戦っている時には気づかなかったけど‥‥とっても良い匂いぃ〜」
鼻孔を擽る花の香りに聖はうっとりとしながら呟く。
「なんか‥‥心が洗われるみたい‥‥ですぅ〜」
「これもお茶請けになるかと思い、持ってきました。皆で食べましょう」
アンジュがクッキーを差し出しながら呟く。そして最初の牽制で傷を負ったティルを見て、泣きそうな表情で「大丈夫ですか?」とティルに問いかけた。
「大丈夫ですよ、アンジュ姉様こそ大丈夫ですか?」
この戦いは庭園を気遣いながら戦った事から、能力者達が無傷で戦いを終えるという事はなかった。
だけど作戦を確りと立てていたおかげか、大ダメージを受けている能力者はいない。
そして、能力者達がお茶会を楽しんでいる中、銀龍は無事だった花壇へと足を運んでいた。
「可愛‥‥ん、可愛い。触ったら壊れそう。大丈夫?」
呟きながら銀龍は恐る恐ると誇らしげに咲く花に触れる。
「花も頑張って戦った。だから喉渇いてる? ‥‥水、美味しい?」
銀龍は持っていた『ミネラルウォーター』を花たちにあげて呟く。表情にこそ出さないけれど、無事な花を見て銀龍は何処か機嫌が良さそうに見える。
お茶会が終わると、能力者達はキメラ退治の報告を行うために本部へと帰還していったのだった‥‥。
だが、庭園を出る前にナレインが街から出た広野に犬型キメラを埋葬したいと申し出てきたため、埋葬してから能力者達は帰還した。
END