タイトル:Saga―Thorマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/18 01:14

●オープニング本文


トール‥‥それは最高神『オーディン』の息子であり、嵐と暴風雨を支配した神でもあった。

顔中が赤ひげに覆われており、手には『雷』を象徴するミョルニルを持っているのだという。

※※※

「今回のキメラはムサい親父だわー‥‥」

女性能力者が「はぁ‥‥」とキメラの資料を見ながら呟く。

「どうしたんだよ、うわ――何だこれ、サンタクロース?」

男性能力者が資料を見て「げ」と言葉を付け足しながら呟く。

「馬鹿。何処にこんな不潔極まりないサンタクロースがいるのよ。こんなサンタからプレゼント貰ったら流し斬りをお返しにお見舞いするわ!」

そこまでしなくても、と男性能力者は心の中で呟き「えーと、これが今回のキメラ?」と問いかける。

「そうみたいね――『トール』って呼ばれているみたい」

女性能力者の言葉に「トールって?」と男性能力者が言葉を返す。

「北欧神話でオーディンっているでしょ、それの息子よ――ま、キメラだし実際に息子なわけはないだろうけど」

女性能力者はテーブルの上に資料を投げ出しながら「厄介なのはこれよ」と女性能力者は一枚の写真を取り出し、ムサいおっさんキメラ‥‥もとい『トール』が持つ槌を指差した。

「神話上と同じなら、これは『ミョルニル』と言って投げつけた後は自分の手元に戻ってくる――というものよ。このキメラが同じものを持っているかどうかなんてしらないけど――‥‥」

同じなら厄介だわね、と言葉を付け足す。

「手元に戻ってくる、かぁ‥‥確かに厄介だな」

男性能力者は呟いた後、再び資料に目を落としたのだった。

●参加者一覧

エクセレント秋那(ga0027
23歳・♀・GP
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
木花咲耶(ga5139
24歳・♀・FT
キムム君(gb0512
23歳・♂・FC
乾 才牙(gb1878
20歳・♂・DG
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
エルフリーデ・ローリー(gb3060
16歳・♀・FT
黒月 白夜(gb3118
20歳・♂・DF

●リプレイ本文

〜現れた雷神・トール〜

「トールだか徹だか知らないけど、いいんだね。ヤっちゃって!」
 エクセレント秋那(ga0027)が拳を鳴らしながら楽しげに呟く。
 今回は北欧神話に登場するトールを模倣したキメラで、八人の能力者達がトールの討伐に向かう事になった。
「確かトールは雷神でしたね。私の性も雷神を表す言葉ですし‥‥キメラにされるのは少々不快ですね」
 鳴神 伊織(ga0421)がやや不機嫌そうに「それに」と言葉を付け足しながら呟いた。
「神話を本当に再現しているなら、槌には気をつけないといけませんね」
 そう、トールが持つとされている槌『ミョルニル』は投げつけた後に自分の手元に戻るという武器で、その槌は『雷』を象徴するものなのだとか‥‥。
「神の名を語るモノはこの世から滅殺ですわ。槌の威力が如何ほどのものか見て差し上げましょう」
 静かに呟くのは木花咲耶(ga5139)だった。例え信じる神の国が違えども、彼女は神主の家系であり、神を冒涜する行いが許せないのだろう。
「ふふ、俺は神をも倒す!」
 北欧神話の本を片手に持ちながらキムム君(gb0512)がやや興奮気味に叫ぶ。彼はファンタジーマニアであり、北欧神話で最強とされる神・トールを模倣したキメラに興味を持ち、今回の任務に参加していた。
「さて‥‥どこまでやれるかな」
 呟くのは乾 才牙(gb1878)だった。彼は前回の任務の傷が残っており、重体のまま今回の任務に参加する事となった。
 しかし、乾は痛々しい程の傷を負っているにも関わらず、痛そうな表情は微塵も見せず、普段と変わらず仲間と接していた。
「此処に本部から借り受けてきた現場周辺の地図があります」
 シャーリィ・アッシュ(gb1884)が少し大きめの地図を広げながら呟く。
「下手に誘導すれば周辺への被害が広がってしまう‥‥ルート選択は慎重に行っていかないと‥‥」
 シャーリィは呟きながら戦闘に適した場所がないかと他の能力者と共に探し始めた。
 それを見ながらエルフリーデ・ローリー(gb3060)は少し怒りを感じさせる表情をしていた。それは能力者に対してではなく、神を模倣したキメラを作るバグアに対しての怒りだった。
「地球の伝説や神話を模した怪物を作り出すバグア‥‥わたくし達の文化を汚されているようで、怒りを禁じえませんわ‥‥偽のトール神にこそ、裁きの雷が下ることでしょう」
 エルフリーデは呟き、自分も戦闘に適した場所を探し始めた。
「トールか、一応‥‥因縁の相手になるのか?」
 黒月 白夜(gb3118)がクッと笑みを漏らしながら呟く。彼の覚醒変調はミズガルズ‥‥つまりトールを倒したヨルムンガンドの刻印が左腕を取り巻くというものだからだ。
「此処なら戦闘に適しているんじゃないかい?」
 エクセレントが地図上のある一点を指差しながら小さく呟く。彼女が指差したのは少し広めの公園であり、今回の能力者達が戦う為に必要としている『大勢で取り囲んで攻撃が出来て』尚且つ『遮蔽物やら身を隠すモノ』がある場所。公園ならばそれら全てに適している場所と言えるだろう。
「そして私たちがトールを公園に誘導してくる――で大丈夫ですね」
 シャーリィとエルフリーデが互いの顔を見合わせながら呟く。彼女たち二人が危険だが囮役となって、先に行動を開始するという作戦を立てていた。
「それじゃ、行こうか」
 キムム君が呟き、能力者達は『雷神・トール』を退治する為に目的の場所へと向かい始めたのだった。


〜到着・そして誘導開始〜

「此処がトールのいる町、か」
 エクセレントが呟き、町の中を見渡す。現在、住人は全員避難しており、町の中は不気味なほどに静かだった。住人がいないのだから静かなのも当たり前なのだが、それも全てキメラのせいかと思うと能力者達は怒りを感じずにはいられなかった。
「誘導する公園を先に見ておきましょう」
 木花が公園の場所を知らせる看板を指差しながら呟く。
「そうですね、ルートなども確認した方がいいですし」
 エルフリーデが呟き、能力者達は誘導地――つまり戦闘場所となる公園の確認へと向かう。
「なるべく被害は少ないようにしたいですね、町の人々もまだ住んでいる場所ですし‥‥」
 鳴神が今は住人のいない家屋を見ながら呟く。
 そして、公園へと到着して囮役の二人以外はそれぞれ公園の中に潜み、シャーリィとエルフリーデはトールが目撃された場所に向かい、誘導するために行動を開始したのだった。

「近づいて攻撃をするには危険そうな相手ですね」
 エルフリーデが呟くと「そうだね、攻撃よりも防御を重視した方がいいだろうね」とシャーリィは言葉を返した。
「確か‥‥トールはこの先の林でよく見かけられているみたいですね」
 エルフリーデが資料で見た事を思い出しながら呟く。住人や討伐に来た能力者などの話が纏められた資料を見る限り、トールは同じ場所で目撃されている為、いつも同じ場所にいると考えても良いだろう。
「この先――いた‥‥」
 シャーリィが声を潜めて呟き、エルフリーデに教えるようにトールがいる方向を指差す。彼女が指差した方向には大柄で顔中が赤髭で覆われた‥‥ムサいオッサンが手に槌を持っている。あれが『トール』で間違いないだろう。
「とりあえず‥‥公園まで誘導しなくちゃ」
 シャーリィは『バスタードソード』を構えながら小さく呟く。じゃり、と地面を踏む音がトールに聞こえたのだろう、ゆっくりとした動作でトールが二人を見る。
「神の名を語るキメラよ、真なるトールの雷の鉄槌を受けるがいいですわ!」
 エルフリーデがトールに向けて叫ぶと、トールは怒り狂ったように手に持った槌を投げつけてきた。エルフリーデは『エルガード』で槌の攻撃を受け止める。
 だが、予想以上にトールの力が強いのかエルフリーデの足が土の地面にめり込む。
「くっ! 偽者とはいえ、トールの名を冠するだけの事はありますわ‥‥一撃が重いっ‥‥」
 エルフリーデがトールの槌を耐えながら呟き、槌を弾き飛ばす。すると槌は器用にトールの元へと戻っていく。
「‥‥神話のように何処までも戻っていくみたいじゃないみたいね。簡単なブーメランのようなもの‥‥」
 シャーリィが今の一撃を見ながら冷静に分析を行っていく。
「こっちだ‥‥ついて来い! デカブツっ!」
 シャーリィがトールに一撃、攻撃を与えながら叫び、すぐにエルフリーデと共に後ろへと下がる。攻撃された事に対して腹を立てたのか、トールは怒ったように声を荒げてずしん、ずしんとゆっくりと二人を追いかけ始める。
 シャーリィとエルフリーデはトールが自分たちを見失わない程度のスピードで移動し、仲間の能力者達が潜む公園へと誘導を始めたのだった‥‥。

〜戦闘開始・雷神トール〜

「来ましたわ」
 木花が公園に戻ってきたシャーリィとエルフリーデの姿が見えた所で、他の能力者達に知らせる。彼女達の後ろからはゆっくりと歩いてくるトールの姿も見える。
「まずはあたしだぁぁっ!」
 エクセレントは『瞬天速』を使用して、トールまでの距離を詰めて『ロエティシア』で攻撃を行う。彼女の攻撃はトールに直撃したものの、持ち前の頑丈さがエクセレントの攻撃を耐えさせているのだろう。
 エクセレントが上半身に攻撃を与えた後、木花が下半身に名刀『国士無双』で攻撃を行う。最初にエクセレントが上半身に攻撃を仕掛け、トールの気を上半身にひきつける。そして下半身の防御が薄くなった所を木花が攻撃して、ダメージを与える――これが能力者達の考えた作戦だった。
 そして鳴神が『先手必勝』を使用して、トールの上半身に攻撃を行う。トールも反撃として槌を投げて攻撃を仕掛けてきたが、槌を投げる直前に乾の『スコーピオン』がトールの腕に攻撃を仕掛け、僅かだが槌の投げるタイミングをズラす事に成功した。
「そら、足元が留守だぞ」
 黒月が『スパイラルレイピア』でトールの足元をなぎ払うように攻撃を行う。元々、その体格のせいか素早さは低いらしく、黒月の攻撃でズシンと音を響かせながらその場に転んでしまう。
「ヨルムンガンドの毒を‥‥くれてやる」
 キムム君が『コンユンクシオ』を構えながら、立ち上がろうとしているトールに攻撃を仕掛ける。
 しかしトールも腕を振り上げ、キムム君に対して反撃を行おうとしたのだが、キムム君はそれを避ける。
「見えた‥‥豪破斬撃!」
 キムム君は『豪破斬撃』を使用しながらトールに攻撃を仕掛け、後ろへと下がる。そして鳴神が前に出て『月詠』を振り上げ『先手必勝』を使用した後に『紅蓮衝撃』と『ソニックブーム』を近距離で使用して攻撃を仕掛ける。
「手向けの一撃です‥‥これで逝きなさい」
 鳴神の攻撃は確かにトールに直撃したのだが、トールは「ぐふー、ぐふー」と気味が悪い息を漏らしながら立ち上がる。
 そして鳴神に向けて攻撃を行おうとした時、乾が『スコーピオン』で攻撃を仕掛け、トールの気を自分へと引き付ける。
 そして乾の目的どおり、トールは乾の方へと目掛けて歩き出す。それを見たシャーリィは『竜の爪』と『竜の角』を使用した後『バスタードソード』でトールの足を目掛けて攻撃を行う。
「やはりキメラ‥‥いくら真似ようとも、本物の神であるはずもないか‥‥」
 シャーリィはトールを見ながら呟いた。本物のトールであれば力帯『メギンギョルズ』と篭手『イルアン・グライベル』を装着しているはず。それによって『ミョルニル』を思うがままに操っているのだから‥‥。
「こういうパワータイプを相手にするには足殺しで踏ん張りを利かなくするのがセオリーさ」
 プロレスのだけどね、とエクセレントは呟きながらトールの足を重点的に攻撃を行う。
 トールが持っている槌もそれなりに重いもので、振り投げるには相応の踏ん張りが必要とされるはず、エクセレントはそう考えたのだ。
「私の攻撃は一味違いますわよ」
 木花が呟き『豪破斬撃』と『紅蓮衝撃』を使用しながら名刀『国士無双』で攻撃を行う。木花は膝の関節を折るように攻撃を仕掛けた為か、トールはその場に崩れ落ちる。
「何処を見ている?」
 木花に視線が集中しているトールを見て、キムム君が叫び『コンユンクシオ』でトールの腕を攻撃する。ぼき、という鈍い音とトールの叫ぶような悲鳴が静かな公園の中に響き渡る。
「まぁ、紛い物じゃこんなもんだろうな‥‥」
 黒月が低く呟くと『スパイラルレイピア』を振り上げて攻撃を行い、彼の攻撃に続いてエルフリーデが『ヴィア』で攻撃を行う。
「最強の戦神を模倣しただけあってしぶとい‥‥だが、真の神でないのならば必ず倒せる!」
 シャーリィが叫びながら攻撃を行い、他の能力者達も続くように総攻撃を行い、雷神・トールを模倣したキメラを無事に倒す事が出来たのだった‥‥。


〜平和の戻りし町〜

「キメラは倒しましたし、これからは人が戻ってきますわね」
 トールを倒した後、木花が穏やかに笑む。
「連中の技術でミョルニルが何処まで再現できているか楽しみだったんだけどな‥‥いい出来だったら持ち帰りたいと思っていたが、こんな玩具はいらないな」
 黒月が苦笑気味にトールの持っていた『ミョルニル』を見ながら呟いた。ミョルニルと響きはいいけれど、実際のトール型キメラが持っていたのはブーメランの性質に似た、ただの槌だった。
「神話が如何こうって話だけど、それを参考にしたら全く逆の能力でしたって事もありえるから、全部は鵜呑みにしない事だね」
 エクセレントが苦笑しながら呟くと「全くだ」と黒月が言葉を返す。
「前衛ばかりの小隊ですので、傷が心配でしたけど、そんなにダメージがないようで安心しましたわ――乾さんは大丈夫ですか?」
 唯一の重傷者である乾に木花が言葉をかけると「大丈夫だ、この戦いでダメージは受けていない」と言葉を返した。
「そういえば‥‥北欧神話の終末が世界破滅――バグアも‥‥」
 バグアの目的と北欧神話とは重なったのか、キムム君は身体を少しだけ震わせる。
「神々の運命の戦い、ラグナロク‥‥いや、破滅の運命などない。決して俺達の世界は破滅させない!」
 一度は決意したであろう事を、再確認するようにキムム君は呟き、己の心を奮い立たせた。
「そうだ、今回の依頼のお金はいただけません‥‥俺の分を皆で分けてください」
 乾がお金の報酬の辞退を申し出るが、今回の任務は『皆で成功させた』ものなのだからと他の能力者たちもいい、最初通りの報酬を皆で分け合う事になった。

 その後、能力者達は報告をする為に本部へと帰還していったのだった‥‥。


END